(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372875
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】摩擦リング、同期装置、及び車両用のギア変速機
(51)【国際特許分類】
F16D 23/06 20060101AFI20180806BHJP
【FI】
F16D23/06 C
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-116790(P2013-116790)
(22)【出願日】2013年6月3日
(65)【公開番号】特開2014-1850(P2014-1850A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2016年5月12日
(31)【優先権主張番号】12172322.5
(32)【優先日】2012年6月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509170017
【氏名又は名称】エリコン フリクション システムズ(ジャーマニー) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゲイリー アイ.スキッパー
(72)【発明者】
【氏名】マルクス スプレッケルス
(72)【発明者】
【氏名】ウルフ クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】セバスティアーン アオガスティン
【審査官】
中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許出願公開第01312823(EP,A1)
【文献】
米国特許第07121393(US,B1)
【文献】
特開2009−052739(JP,A)
【文献】
特開平11−223225(JP,A)
【文献】
特開2011−033134(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102008061967(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00−23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギア変速機の同期装置(2)用の摩擦リングであり、該摩擦リングは、内側摩擦面(301)及び外側取付面(302)を有する円錐摩擦リング体(3)を含み、前記内側摩擦面(301)及び前記外側取付面(302)は、軸線方向摩擦リング軸線(4)に対して垂直に延びる径円周方向(U)において、前記摩擦リング体(3)の境界を定め、前記内側摩擦面(301)は、所定の摩擦角(α1)で、摩擦リング軸線(4)に沿って円錐状に延びており、前記外側取付面(302)も、所定の取付角(α2)で、前記摩擦リング軸線(4)に沿って円錐状に延びており、前記取付角(α2)は、前記摩擦角(α1)より大きく、回り止め(5)が、同期リングに対する前記摩擦リング体の回転を防止するように、前記摩擦リング体(3)に設けられていることを特徴とする摩擦リング。
【請求項2】
摩擦リング体(3)は、複数の別個の摩擦リング・セグメント(31、32、33、34)を含んだセグメント化された摩擦リング体(3)であり、前記セグメントは、前記摩擦リング体(3)をリング状に形成し、組み立てられた状態にて、前記摩擦リング体(3)は、拡張された第1の配置で第1の半径(R1)を有し、縮小された第2の配置で第2の半径(R2)を有する、請求項1に記載の摩擦リング。
【請求項3】
前記回り止め(5)は、前記摩擦リング軸線(4)に沿って延びる、及び/又は、前記摩擦リング軸線(4)に対して垂直に延びる、請求項1又は2に記載の摩擦リング。
【請求項4】
摩擦コーティングが、前記内側摩擦面(301)及び/又は前記外側取付面(302)に設けられ、摩擦コーティングは、炭素摩擦ライニングの形態をとる、請求項1から3までのいずれか一項に記載の摩擦リング。
【請求項5】
前記摩擦リングは、プレス鋼製部品又は成形板金製部品である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の摩擦リング。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一項に記載の摩擦リング(1)を備えた同期装置。
【請求項7】
スライドカラー(6)と、同期リング(7)と、歯車(8)とをさらに含み、動作状態にて、前記同期リング(7)が、前記摩擦リング(1)とともに、摩擦リング軸線(4)に沿って前記スライドカラー(6)を通って、前記歯車(8)に向かう方向に移動可能となり、前記摩擦リング体(3)の前記内側摩擦面(301)が、前記歯車(8)と係合可能となるように、前記歯車(8)は、前記摩擦リング軸線(4)と同軸に配列される、請求項6に記載の同期装置。
【請求項8】
車両用、乗用車、輸送車又は商用車用のギア変速機であって、請求項1から7までのいずれか一項に記載の摩擦リング(1)又は同期装置(2)を含む、車両用のギア変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速可能なギア変速機の同期装置用の摩擦リング、同期装置、及び、独立請求項のプリアンブルによる車両用のギア変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的に変速可能なギア変速機において、例えば、車両用変速機において、同期リングは、変速時に生じる歯車と伝動軸との間の相対速度を相互に一致させるように働く。このような観点において、同期は、対応する摩擦部品間の摩擦力によって得られている。このような伝達及び一連の同期過程における動作形態は、本質的に既知であり、このような文脈においては、当業者に対する詳細な説明はこれ以上不要である。
【0003】
通例、同期リングは、例えば真鍮又は鋼鉄等の金属又は合金製であり、摩擦面が設けられている。早期に摩耗することを防止し、及び/又は、摩擦特性を向上させるために、同期リングに摩擦層を設けることが知られている。ここで、例えば、モリブデン溶射層、炭素摩擦層、その他の材料から作製された摩擦層等、様々な種類の摩擦層が、利用されている。
【0004】
ギア変速機用の同期装置、又は同期装置の個々の部材については、従来技術において様々に且つ詳細に説明されている。
【0005】
このように、例えば、マニュアル変速機及びデュアル・クラッチ変速機は、小型及び中型車部門において現在の様々な用途に関し、主流の変速機である。とりわけ、フロント横置き駆動方式において主流となっている。この種の変速機の変速特性は、本質的には、同期装置により決定される。その基本原理は、従来と同様に現在も、いわゆるボルグ・ワーナー方式に基づく。本方式は、EP1507091B1において初めて詳述されたものである。システム同期装置について、ますます重要になっている要件は、小さな変速操作力で短い変速時間を実現する高効率性、及び高度に快適な変速操作である。
【0006】
これに関連して、効率性及び変速操作の快適性につき、従来のボルグ・ワーナー式同期装置の幾何学的設計は、目的の競合(conflict)を通じて定まるものであった。摩擦ペアリングの円錐角が小さいと、高効率となる。また、円錐の補強効果により、小さな操作力にもかかわらず大きな同調トルクが生じる。この自己ロック効果の反面、これは、摩擦面の離脱を妨げ、運転者による変速操作の快適性に対して、実質的且つ顕著な影響を及ぼす。これにより、円錐角の最小化について、固有の下限が設定される。このように、同期装置の最適化は、常に、変速操作の効率性と快適性との間の妥協を伴う。
【0007】
変速機に用いられる主流の同期装置については、当業者に周知であり、例えば、マニュアル、セミオートマチック、及びデュアル・クラッチ変速機が、EP1507091B1に対応した従来のボルグ・ワーナー式の設計に適用されている。より良い変速性能及びより高いトルクが、常に要求されているため、それに基づき、2重、3重の摩擦面を有する高度な多円錐システム同期装置が開発され、ある種のニッチ用途には、4重の摩擦面を有するものさえ開発されてきた。このように高度に発展した同期モジュールは、複数の摩擦面及び高度な摩擦材料特性により、性能が向上するとともにトルク容量が増大している。しかしながら、これにより複雑さ、コスト、さらに、対応する変速機の重量も増加する。
【0008】
この種の同期装置は、製造過程及び性能の点で、継続的に最適化されてきたが、現在に至るまで、依然として設計は競合している。
【0009】
すなわち、同期装置の構造において最も重大な特徴の1つは、複雑な円錐摩擦面の角度設計である。この重要な特徴により、2つの主要な機能が規定される。
【0010】
まず1つは、同期装置の性能である。すなわち、円錐の直径、及び、歯車と同期リングの円錐表面と間の摩擦係数と併せて、円錐角が、摩擦トルクを決定するのに最も重要な要因の1つである。円錐角が減少すると、トルクが増加する。それによって、変速操作力が減少し、同期時間の短縮が実現する。
【0011】
しかし、もう一方で、同期の最後に摩擦円錐を解放することに関しての、変速品質も同様に重要な要因の1つである。円錐角は、運転者にとっての変速操作の感覚の特性を決めることについて、重大な影響を及ぼす。角度が小さすぎると、例えばブロッキングや第2圧力点等、望ましくない効果が生じることがある。
【0012】
最大の変速性能を得るためには、円錐角を小さくする必要がある。しかしながら、変速品質の点で、設計を最適化するには、円錐角を大きくする必要がある。このように、従来の同期装置により、設計についての非両立性がもたらされる。
【0013】
こうした理由から、これらの要件に従い、従来技術には、それぞれの変速機の種類に応じた設計上の違いがある。例えば、デュアル・クラッチ変速機については、変速品質よりも同期装置の性能が注目される。これに対し、マニュアル変速機では、性能と変速品質との均衡が求められる。
【0014】
その関係で、変速操作力を小さくするとともに変速時間を短縮することに関して、同期装置の性能を向上させるためには、既述のように、トルク容量を増やさなければならない。しかしながら、あらゆる同期装置は、直径、摩擦係数又は最小円錐角等、設計及び用途により、得られる具体的性能が限られている。
【0015】
一般に、設計技師は、従来、性能を向上させたりトルク容量を増やすために、摩擦面を追加することができるだけであった。すなわち、これは、単一の円錐から多円錐への変更を意味する。摩擦面を追加したとしても、トルク容量には、円錐角による機能的限界がある。
【0016】
実際の同期の際には、作用する力(F)によって、反作用力F
ax及びF
radが生じる同期装置を制御する。これは、座標系を用いて、F
R(摩擦)とF
N(垂直抗力)とに分解される。ここで、角度ρはρ=tan
−1μであり、αは円錐角である。システムが平衡になるには、材料の接線方向の力である力F
Uが、ラジアル方向の力F
radを抑制しなければならない。
【0017】
解放時には、リングを歯車の円錐部分から分離するために、力F
Uに対して、さらに力が追加される必要がある。同期過程の際、摩擦力F
Rは、ここで逆方向を向き、α<tan
−1μ(μは、静止摩擦係数)である。この効果は、自己ロックと称し、変速品質に悪影響を与える。全ての同期装置の機能的制約は、α>tan
−1μとなる。
【0018】
システムにおいて円錐角がさらに減少し、トルク容量が増大すると、自己ロックによって第2圧力点のレベルも高くなる。それによって、シフト操作が不快なものとなる。極端な場合には、システムが完全にブロックされるような結果ともなり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】EP1507091B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
そこで、本発明は、導入部分において説明した現状技術から既知の欠点を回避できるように、改良された同期機構及び同期機構に必要な部材を提供することを目的とする。とりわけ、変速操作の効率性と快適性についての非両立性は、本発明により解決する。一方では、このことは、高効率の摩擦ペアリングが得られることを意味するものである。すなわち、小さな操作力であっても円錐部分が大きな同調トルクを発生するように、補強効果が得られる。他方では、摩擦面の解放を妨げるか或いは抑えることで、運転者による変速操作の快適性に対して実質的且つ顕著な効果を与える自己ロック効果が、可能であれば回避され、或いは、許容可能な程度まで減少する。したがって、本発明は、現状技術において必要とされている、変速操作の効率性と快適性との間の妥協によるのではなく、同期装置の最適化を目的としている。
【0021】
これらの目的を達成する本発明の主題は、独立請求項の特徴によって特徴づけられている。
【0022】
独立請求項は、本発明のとりわけ有利な実施例に関する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
そこで、本発明は、ギア変速機の同期装置用の摩擦リングに関し、摩擦リングは、内側摩擦面及び外側取付面を有する円錐摩擦リング体を含む。外側取付面は、他の摩擦面として構成されていることが好ましい。内側摩擦面及び外側取付面は、軸線方向摩擦リング軸線に対して垂直に延びる径円周方向において、摩擦リング体として境界を定める。内側摩擦面は、所定の摩擦角で、摩擦リング軸線に沿って円錐状に延びている。外側取付面も、所定の取付角で、摩擦リング軸線に沿って円錐状に延びている。本発明では、摩擦角は、取付角とは異なる。
【0024】
摩擦リングは摩擦角が取付角とは異なるように構成されていることが、本発明にとって本質的である。それによって、現状技術において長らく存在していた、変速操作の効率性と快適性との間の非両立性が、初めて解決した。一方では、このことは、本発明により、高効率の摩擦ペアリングが得られることを意味するものである。したがって、小さな操作力であっても円錐部分が大きな同調トルクを発生可能な補強効果が得られる。他方では、本発明により、摩擦面の解放を妨げるか或いは少なくとも抑えることで、運転者による変速操作の快適性に対して実質的且つ顕著な効果を与える自己ロック効果が、同時且つ実際に完全に回避される。このように、現状技術において必要とされてきた、変速操作の効率性と快適性との間の妥協を、もはや受け入れる必要はなくなった。これは、本発明により初めて可能となったものである。
【0025】
この非両立性を解消するための本発明による新規の手法は、「摩擦ペアリングを解放」する機能から、「同期トルクを発生する」機能を、物理的に分離することである。これらの機能は、これまで1つに統合され、同一の摩擦ペアリングとなっていた。内側と外側の直径において異なる円錐角を有する摩擦リングにより、分離が実現する。このリングは、セグメント化されていることが好ましいが、それに限定されるものではない。一方の直径において圧接することにより、同期トルクが発生する。他方の直径により、圧接を確実に解消することができる。このように、本発明により、特定の要件に関して、両機能を独立して最適化することになる。本発明により、同期装置の性能(変速操作力を小さく変速時間を短くする)の機能を、変速品質(第2圧力点及び自己ロック効果)から物理的に分離することにより、既知の非両立性を解消することができるようになった。これは、初めてのことである。現状技術において既知の従来設計では、両機能は、円錐角を通じて互いに直接的に関係している。円錐角は、従来から特定され例証されてきた、回避し得ない最適化問題につながる。
【0026】
これに関連して、他の本質的な要件も、本発明により満たされる。この要件は、ある場合において、求められた結果を得るために本質的なものである。
【0027】
本発明による、摩擦角とは異なる取付角を有する設計は、現在の従来型同期装置が課題としていた、トルク容量及び変速操作の快適性についての要件の全ての範囲に対応している。本発明による同期装置の部材は、利用可能な取付空間に嵌合する。また、本発明による部材の製造には、プレス鋼を用いることもできる。これにより、簡単且つ高コスト効率での製造が可能となる。本発明による同期装置の部材、とりわけ摩擦リングは、現行の技術及び方法に適用及びコーティングするのに適している。また、入手可能な摩擦材料に適している。ここで、同時に、製造コスト及び装置コストは、現在知られているいくつもの同期装置と少なくとも同じであり、又は実際にはそれよりも低くなることが多い。
【0028】
本発明による革新的な解決策、すなわち、同期及び解放という2つの機能を物理的に分離することは、円錐摩擦面に小さな角度をとることにより、実際に達成される。この小さな角度により、性能が向上したり、トルク容量が増加する。そして、システムを解放するための角度を大きくとることにより、劣悪な変速操作感をもたらす自己ロック効果の悪影響が、解消される。
【0029】
本発明のとりわけ好ましい実施例において、さらに決定的な要因について説明されている。これは、摩擦リング内の周方向(F
U)の力である。すなわち、用途及び実施例に応じ、小さな角度によってギアの円錐部分に自己ロックが生じることがある。この危険性を排除するために、摩擦リングがセグメント化されてもよい。
【0030】
本質的に既知のとおりに、同期の際、外力Fが同期リングにかかる。これにより、ラジアル方向の外力が、F
rad部分にかかる。摩擦面における反作用力F
ax及びF
radは平衡しており、従来の同期装置で知られている力と同じである。同期後に、スライドカラーの歯列がいったん同期リングの歯列から外れると、外力は解消される。α
2<tan
−1μ
2の範囲の大きな角により、またそれにより、各セグメントにかかるF
radがなくなるため、さらに、固定リングではない摩擦要素によって各セグメント内に材料の応力がないため、小さな角により分離される。これは、この小さな角に内力又は外力が作用しないためである。
【0031】
さらに、本発明は、車両用、とりわけ、乗用車、輸送車又は商用車用の変速機に関する。この変速機は、既述の特許請求の範囲のいずれか一項による同期リングを備えている。
【0032】
以下、模式的な図面により、本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1a】本発明による拡張配置にあるセグメント化された摩擦リング体の図である。
【
図1b】縮小配置にある
図1aの摩擦リングの図である。
【
図1c】
図1aの断面線I−Iに沿った断面図である。
【
図2a】ラジアル方向の回り止めを具備した本発明によるセグメント化された摩擦リングの第2実施例の図である。
【
図3】本発明による同期装置の簡潔な実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1a、
図1b、
図1c及び
図1bは、単一且つ同一の非常に簡潔な、本発明による摩擦リングの実施例の模式図である。この摩擦リングは、セグメント化された摩擦リング体を備えている。以下、この摩擦リングを、一般に参照番号1で示す。
【0035】
これに関連して、
図1aは、拡張配置にある摩擦リング1を示す。
図1bは、縮小配置にある同摩擦リングを示す。
図1cは、
図1aの断面線I−Iに沿った摩擦リング1の断面図を、よりわかりやすくなるように示す。
図1dは、摩擦リング1の摩擦リング軸線4に沿って延びた回り止め5がよくわかるように、
図1a又は
図1bの摩擦リング1の一部を斜視図として示す。
【0036】
本発明の
図1aから
図1dによる摩擦リング1は、ギア変速機の同期装置2における用途に役立つものである。とりわけ、車両用のギア変速機、とりわけ、乗用車、輸送車又は商用車における用途に役立つ。摩擦リング1は、内側摩擦面301及び外側取付面302を有する、円錐摩擦リング体3を含む。この外側取付面302は、さらに摩擦面として構成されることが好ましい。内側摩擦面301及び外側取付面302は、軸線方向摩擦リング軸線4に対して垂直な径円周方向Uにおいて、それぞれ摩擦リング体3の境界を定めている。これに関連して、内側摩擦面301は、所定の摩擦角α
1で、摩擦リング軸線4に沿って円錐状に延びている。外側取付面302は、所定の取付角α
2で、摩擦リング軸線4に沿って円錐状に延びる。ここで、本発明において、摩擦角α
1は、取付角α
2とは異なる。
【0037】
明瞭に示されているように、とりわけ、
図1cでは、取付角α
2が摩擦角α
1よりも大きいことが好ましい。ただし、原理的には、摩擦角α
1を取付角α
2より大きくしてもよい。
【0038】
図1a及び
図1bにより明らかなように、この特定の実施例において、摩擦リング体3は、セグメント化されたリング体3であり、複数の別個の摩擦リング・セグメント31、32、33を含む。このように、特定の実施例における3つの摩擦リング・セグメント31、32、33は、摩擦リング体3を形成し、取付状態において、摩擦リング体3は、
図1aに対応した第1拡張配置では、第1の半径R
1を有し、第2縮小配置では、
図1bに対応した第2の半径R
2となるようになっている。これに関連して、本発明による摩擦リング1は、他の個数の摩擦リング・セグメント31、32、33、34から構成されていてもよい。例えば
図2a及び
図2bを参照して例示するように、4つの摩擦リング・セグメント31、32、33、34から構成されていてもよく、例えば、2つのみの摩擦リング・セグメントから構成されていてもよく、或いは、4つの摩擦リング・セグメント31、32、33、34よりも多数のセグメントから構成されていてもよい。
【0039】
この構成において、とりわけ、少なくとも1つの回り止め5が、摩擦リング体3に設けられていることが好ましい。この回り止め5は、とりわけ
図1dから明らかなように、摩擦リング軸線4に沿って延びていることが好ましい。
【0040】
これに関連して、
図2a及び
図2bに、既に説明した本発明の摩擦リング1の他の実施例を示す。ここで、回り止め5は、摩擦リング軸線4に対して実質的に垂直に延びている。
【0041】
これに関連して、図示された特定の実施例とは別に、実施例に応じて回り止め5の数は異なっていてもよく、任意の数の回り止め5を設ければよいことが、本来的に理解されよう。特別な場合においては、摩擦リング1に回り止め5を設けないことも可能であり、及び/又は、例えば、動作状態にある摩擦リング1の捻れを防止する他の手段が、設けられてもよい。
【0042】
摩擦コーティング、とりわけ、炭素摩擦ライニングの形態での摩擦コーティングを、摩擦面301及び/又は取付面302に設けるとよい。この摩擦コーティングは、他のものよりも、結果として生じる摩擦ペアリングの機械的負荷及び/又は熱的負荷の少なくとも一部を補償するように機能する。ただし、これは、簡潔に説明するために、図には明示されていない。
【0043】
これに関連して、摩擦リング1をプレス鋼製部品又は成形板金製部品とすると、とりわけ、工業的大量生産をさらに簡略化したり、コスト効果を高くすることができて、とりわけ有利である。
【0044】
さらに、本発明は、
図3に模式的に例示する摩擦リング1を備えた同期装置2に関する。
【0045】
図3に対応する同期装置2は、本発明による摩擦リング1の他に、本質的に既知であるように、スライドカラー6、同期リング7、及び歯車8を含む。これらの部材は、摩擦リング軸線4と同軸に、動作状態においては、同期リング7が、スライドカラー6によって摩擦リング1とともに、摩擦軸線4に沿って歯車8の方向へ動作可能であり、さらに、内側摩擦面301が歯車8と係合可能となるように、配置されている。
【0046】
これに関連して、
図3の同期リング7は、従来の設計ではプレス鋼により製造される。同期リング7の円錐部分は、同じく大きな角度α
2となっている。これは、摩擦リング1の取付角α
2と同一であることを意味する。同期リング7には、セグメント化された摩擦リング1用の連結凹部が設けられている。この連結凹部は、本質的に既知であるため詳述しない。
図3によるセグメント化された摩擦リング1は、寸法の等しい3つの摩擦リング・セグメント31、32、33として構成されている。ただし、説明を簡潔にするため、
図3において詳細には示されていない。本発明によると、摩擦リング1には、取付角α
2で取付面302が設けられている。ここで、取付面302は、分離平面として用いられている。摩擦リング1の内側円錐部分は、摩擦角α
1の摩擦面301により形成されている。ここで、α
1<α
2である。この内側円錐部分の表面、すなわち摩擦面301は、同期に用いられる。
【0047】
動作状態において、同期リング7は、歯車8の方向に軸線方向に動作する。この歯車8は、歯合可能なギアとして構成され、ここに、摩擦リング1の摩擦リング・セグメント31、32、33が、同様に角度α
2で組み込まれる。そして、同期リング7及びセグメント化された摩擦リング1は、ともに同時に、歯車8に接して動作し、内側円錐部分を介して係合する。すなわち、摩擦面301は、歯車8と摩擦角α
1をなす。歯車にも、同様に、対応する嵌合雌型円錐部分が設けられ、円錐角α
1を有する。そして、同期リング7は、従来の同期リングのように、制御および割り出し(index)される。スライドカラー6は、同期リング7と歯合して、速度の差から、セグメント化された摩擦リング1と歯車8との間にトルクが発生する。
【0048】
同期の後で、速度差が0となったとき、スライドカラー6は軸線方向へ動いて、同期リングの歯列を通過させ、スライドカラー6は、歯車8側面の歯列と歯合することができる。このように歯合すると、同期リング7には、軸線方向の力がかからなくなる。角度α
2が大きいと、システムは分離することになる(角度>tan
−1μ)。これは、セグメント化された摩擦リング1の周方向の力を排除したことによる。この時点で、同期リング7及びセグメント化された摩擦リング1は、歯車8から離れる。その後、スライドカラー6が、歯車8を通る。そして、ギアシフト装置が完全に係合される。
【0049】
これに関連して、具体的には、少なくとも2つの選択肢1及び2があり得る。選択肢1としては、摩擦面、すなわち、トルクが発生するセグメントの内側円錐部分は、同じ角度α
1をとる。大きな分離角α
2は、セグメントの外側円錐表面である。
【0050】
選択肢2としては、摩擦面は、セグメントの外側円錐部分で、小さな角度α
1になっている。大きな分離角α
2は、セグメントの内側円錐面である。実際には、選択肢1が好ましい概念である。
【0051】
最後に、本発明は、さらに、車両用のギア変速機、とりわけ、乗用車、輸送車又は商用車用のギア変速機に関する。このギア変速機は、既に詳述した摩擦リング1又は同期装置2を備えている。
【0052】
本願において明示的に開示した全ての実施例は、本発明の実例としてのみ理解されるべきであり、本発明は、とりわけ、特定用途に有利に用いられることが可能な全ての適切な組合せを含み、さらに、当業者に明らかな他の実施例をも含むものであると理解されよう。
【符号の説明】
【0053】
1 摩擦リング
2 同期装置
3 摩擦リング体
4 摩擦リング軸線
31、32、33、34 別個の摩擦リング・セグメント
301 内側摩擦面
302 外側取付面
5 回り止め
6 スライドカラー
7 同期リング
8 歯車