【文献】
The Journal of Organic Chemistry,1991年,Vol. 56,pp. 5049-5051
【文献】
Canadian Journal of Physics,1975年,Vol. 53, No. 19,pp. 1869-1901
【文献】
MOLECULAR PHYSICS,1994年,Vol. 81, No. 5,pp. 1177-1185
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自然界には、
16Oが99.759%(原子%、以下同様)、
17Oが0.037%、
18Oが0.204%の割合で酸素同位体が存在している。これらの酸素同位体のうち、同位体重成分である
18Oにより重酸素化された同位体標識化合物は、医薬、農薬、生化学等の分野において、質量分析法により定量分析する際の内部標準物質として有用である。また、同じく
17Oにより重酸素化された同位体標識化合物は、核磁気モーメントをもつことから核磁気共鳴(NMR)による構造解析研究等に用いられている。
【0003】
ところで、化合物を構成する特定又は全ての酸素原子が、酸素同位体
18O及び/または
17Oからなる割合(原子%)を、「酸素同位体(
18O+
17O)濃縮度」ということがあり、化合物を構成する特定又は全ての酸素原子が、酸素同位体(
18O)からなる割合(原子% )を、「酸素同位体(
18O)濃縮度」又は単に「酸素同位体濃縮度」ということがある。なお、同意語として、「酸素同位体化率」や「酸素同位体濃度」などと表現する場合もある。
【0004】
重酸素化された酸素同位体標識化合物は、例えば、酸素18(
18O)であれば1標識あたりの質量数の増加として2個分を得られることや、炭素の同位体である炭素13(
13C)や窒素の同位体である窒素15(
15N)に比べて安価であること等、多くのメリットを有している。
【0005】
しかしながら、重酸素化された酸素同位体標識化合物は、重水素標識化合物、炭素同位体標識化合物及び窒素同位体標識化合物と比べて、市販されている種類は多くはないのが実情である。このため、重酸素化された酸素同位体標識化合物を用いて分析を実施しようとする者は、例えば、各自で目的の酸素同位体標識化合物を合成しなければならないこともあった。
【0006】
一般的に、重酸素化された酸素同位体標識化合物を得る方法としては、「H
217O」又は「H
218O」(以下、「酸素同位体標識水」ということがある)を酸素同位体の供給源として、酸素同位体
17O又は
18Oを目的化合物に転移する方法が挙げられる。具体的には、例えば、特許文献1には、脱水素触媒の存在下、酸素同位体標識水とアミン系化合物とを反応させ、酸素同位体標識有機カルボニル化合物を合成する方法が開示されている。また、特許文献2には、酸素同位体標識水とアミノ酸等のカルボキシル基含有化合物とを活性剤の存在下で反応させ、カルボキシル基の酸素が酸素同位体
17O又は
18Oである標識カルボキシル基含有化合物を得る方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2に開示された従来の方法では、酸素同位体標識水とカルボキシル基含有化合物とをモル比1:1で反応させた場合、反応が進行しにくいという問題があった。また、特許文献1及び2に開示された方法では、大気中の軽水(H
216O)が混入するおそれがあり、酸素同位体濃縮度の低下を引き起こすおそれがあった。ここで、酸素同位体濃縮度の低下を防ぐには、不活性ガスで置換した装置中での合成反応を行えばよいが、装置が大掛かりになる、操作が煩雑になる等の別の問題を生じてしまう。さらに、得られる酸素同位体標識化合物の種類が限定される、原料である酸素同位体標識水が大量に必要でありコスト増につながる等の問題があった。
【0009】
このように、既存の酸素供給源である酸素同位体標識水を利用した酸素同位体標識化合物の合成方法では上述したような問題があるため、効率的且つ簡便に目的の化合物を得ることが可能な新規化合物が望まれているのが実情であった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、酸素同位体の供給源として有用な、新規な酸素同位体標識化合物を提供することを課題とする。
【0011】
また、本発明は、酸素同位体の供給源として有用な安定同位体標識アシル化試薬、これを用いた酸素同位体標識アセチル基含有化合物の製造方法、その際に生成される酸素同位体標識中間体化合物を提供することを課題とする。
【0012】
さらに、本発明は、酸素同位体の供給源として有用な安定同位体標識カルバモイル化試薬、これを用いた酸素同位体標識カルバモイル基含有化合物の製造方法、その際に生成される酸素同位体標識イソシアネート化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩であることを特徴とする酸素同位体標識化合物である。
【化1】
ここで、上記一般式(1)中、
Dは、
重水素原子である。
【0015】
請求項
2に係る発明は、酸素同位体濃縮度が、90原子%以上であることを特徴とする請求項
1に記載の酸素同位体標識化合物である。
【0016】
請求項
3に係る発明は、請求項1
又は2に記載の酸素同位体標識化合物であることを特徴とする安定同位体標識アシル化試薬である。
【0018】
請求項
4に係る発明は、下記一般式(
2)で表される化合物であることを特徴とする酸素同位体標識中間体化合物である。
【化2】
ここで、上記一般式(
2)中、Xは、
17O又は
18Oである。
また、上記一般式(
2)中、R
1は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数2〜4のアルキニル基、又はアリール基である。なお、R
1を構成する炭素原子は
13Cであってもよく、水素原子は重水素原子であってもよい。また、R
1上の水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の酸素同位体標識化合物は、酸素同位体の供給源として有用な、新規な化合物である。本発明の酸素同位体標識化合物を酸素同位体の供給源として用いることで、目的の酸素同位体標識化合物を、効率的且つ簡便に得ることが可能となる。
また、本発明の酸素同位体標識化合物は、安定同位体標識アシル化試薬および安定同位体標識カルバモイル化試薬として用いることができる。
【0023】
本発明の安定同位体標識アシル化試薬は、上述の酸素同位体標識化合物であるため、酸素同位体標識アセチル基含有化合物を合成する際、酸素同位体の供給源として有用である。
また、本発明の酸素同位体標識アセチル基含有化合物の製造方法によれば、上述の安定同位体標識アシル化試薬を用いてアシル化させるため、等モル反応が可能である。これにより、酸素同位体を効率良く且つ高い濃縮度を維持しつつ、アセチル基含有化合物に導入することができる。
さらに、本発明の酸素同位体標識中間体化合物は、上述の酸素同位体標識アセチル基含有化合物の製造方法の際に生成される、新規な化合物である。
【0024】
本発明の安定同位体標識カルバモイル化試薬は、上述の酸素同位体標識化合物であるため、酸素同位体標識カルバモイル基含有化合物を合成する際、酸素同位体の供給源として有用である。
また、本発明の酸素同位体標識カルバモイル基含有化合物の製造方法によれば、上述の安定同位体標識カルバモイル化試薬を用いてカルバモイル化させるため、等モル反応が可能である。これにより、酸素同位体を効率良く且つ高い濃縮度を維持しつつ、カルバモイル基含有化合物に導入することができる。
さらに、本発明の酸素同位体標識イソシアネート化合物は、上述の酸素同位体標識カルバモイル基含有化合物の製造方法の際に生成される、新規な化合物である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を適用した一実施形態である酸素同位体標識化合物、酸素同位体標識アセチル基含有化合物の製造方法、酸素同位体標識カルバモイル基含有化合物の製造方法について、安定同位体標識アシル化試薬、酸素同位体標識中間体化合物、安定同位体標識カルバモイル化試薬、酸素同位体標識イソシアネート化合物とあわせて、詳細に説明する。
【0026】
<酸素同位体標識化合物>
先ず、本発明を適用した一実施形態である酸素同位体標識化合物について説明する。
本実施形態の酸素同位体標識化合物は、下記一般式(11)で表される化合物又はその塩である。
【0028】
上記一般式(11)中、Xは、酸素17(
17O)又は酸素18(
18O)である。
また、上記一般式(11)中、R
1は、水素原子(H)、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数2〜4のアルキニル基、又はアリール基である。なお、R
1を構成する炭素原子は炭素13(
13C)であってもよく、水素原子は重水素原子(D)であってもよい。また、R
1上の水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0029】
ここで、炭素数1〜5のアルキル基としては、特に限定されるものではなく、直鎖状のアルキル基であってもよいし、分岐鎖状のアルキル基であっても良い。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基が挙げられる。
これらの中でも、炭素数が1〜3であるものが好ましく、メチル基がより好ましく、「
13CD
3」が特に好ましい。
【0030】
炭素数3〜8のシクロアルキル基としては、具体的には、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数が5〜7であるものがより好ましい。
【0031】
炭素数2〜4のアルケニル基としては、具体的には、例えば、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、ブタジエニル基等が挙げられる。
また、炭素数2〜4のアルキニル基としては、具体的には、例えば、エチニル基、プロパルギル基、2−ブチニル基等が挙げられる。
【0032】
上記式(11)中のR
1としてのアリール基としては、単環式及び多環式のいずれであっても良いが、単環式のものが好ましく、フェニル基又はトリル基が特に好ましい。
また、上記式(11)中のR
1を構成する水素原子は、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)又はヨウ素原子(I)等のハロゲン原子で置換されていることが好ましい。
【0033】
本実施形態の酸素同位体標識化合物は、上記一般式(11)で表される化合物の塩であってもよい。具体的には、例えば、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素塩、酢酸塩等が挙げられる。
【0034】
ところで、本実施形態の酸素同位体標識化合物とは、上記式(11)中にXで表される部位の酸素原子における酸素同位体(
17O又は
18O)の存在比が、天然存在比を超えているものをいう。なお、自然界における酸素同位体「
17O」及び「
18O」の存在比はそれぞれ、0.037%(原子%、以下同様)、0.204%である。
【0035】
ここで、本実施形態の酸素同位体標識化合物では、酸素同位体濃縮度が90原子%以上であることが好ましく、95原子%以上であることがより好ましく、98原子%以上であることがさらに好ましい。酸素同位体濃縮度が90原子%以上の酸素同位体標識化合物を酸素同位体の供給源として用いることにより、目的化合物を高度に標識化することができる。
【0036】
具体的には、本実施形態の酸素同位体標識化合物は、後述するように、所要の化合物の安定同位体標識アシル化に用いることができる。すなわち、本実施形態の酸素同位体標識化合物は、安定同位体標識アシル化試薬として用いることができる。
また、本実施形態の酸素同位体標識化合物は、後述するように、所要の化合物の安定同位体標識カルバモイル化に用いることができる。すなわち、本実施形態の酸素同位体標識化合物は、安定同位体標識カルバモイル化試薬として用いることができる。
【0037】
次に、本実施形態の酸素同位体標識化合物の合成方法(製造方法)について説明する。
上記一般式(11)で表される化合物は、化学式(R
1COOR
4)で表される化合物と、ヒドラジン水和物(H
2NN
2H・H
2O)とを、酢酸エチルや酢酸メチル等の有機溶媒中で、反応温度0〜100℃、反応時間30〜360分で反応させ、反応終了後、有機溶媒を留去することにより得ることができる。
【0038】
ここで、化学式(R
1COOR
4)において、R
4は有機基を表しており、特に限定されるものではない。上記R
4としては、具体的には、例えば、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数2〜4のアルキニル基、又はアリール基等が挙げられる。また、上記R
4を構成する水素原子は、ハロゲン原子で置換されていても構わない。
【0039】
なお、本実施形態の酸素同位体標識化合物は、下記一般式(12)で表される化合物又はその塩であることが好ましい。
【化12】
【0040】
以下の説明において、酸素同位体が酸素18(
18O)である場合を例示することがあるが、酸素17(
17O)を用いたものでも同様であるので、特に断りのない限りその記載を省略するものとする。
【0041】
<酸素同位体標識アセチル基含有化合物の製造方法>
次に、本発明を適用した一実施形態である酸素同位体標識アセチル基含有化合物の製造方法について説明する。
本実施形態の酸素同位体標識アセチル基含有化合物の製造方法は、安定同位体標識アシル化試薬として、上述した酸素同位体標識化合物(すなわち、上記式(11)に記載の化合物又はその塩)を用いるものであり、この安定同位体標識アシル化試薬を酸化させて下記一般式(13)で表される中間体化合物を生成した後、この中間体化合物と下記一般式(14)で表される化合物とを反応させる。これにより、下記一般式(15)で表される酸素同位体標識アセチル基含有化合物が得られる。
【0042】
なお、安定同位体標識アシル化試薬の酸化には、亜硝酸化合物を用いることができる。亜硝酸化合物としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸バリウム等の亜硝酸塩、亜硝酸等を用いることができる。
【0046】
ここで、上記一般式(13)及び(15)中、Xは、
17O又は
18Oである。
また、上記一般式(13)及び(15)中、R
1は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数2〜4のアルキニル基、又はアリール基である。なお、R
1を構成する炭素原子は
13Cであってもよく、水素原子は重水素原子であってもよい。また、R
1上の水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
また、上記一般式(14)及び(15)中、R
2およびR
3は、独立して、水素原子、メチル基若しくはメトキシ基、又は分子内で結合したピペリジル基若しくはモルホリル基からなる環状構造等が例示される。
【0047】
より具体的には、先ず、溶媒に上記一般式(11)の化合物を溶解させ、反応温度−10〜10℃、反応時間30〜90分で、例えば亜硝酸ナトリウムと反応させて酸化する。これにより、中間体として、上記一般式(13)で表される中間体化合物が生成する。
【0048】
なお、上記溶媒としては、反応が進行すれば特に限定されない。具体的には、例えば、トルエン等の芳香族炭化水素、エタノール等のアルコール、テトラヒドロフラン等のエーテル、水、これらの混合溶媒を用いることができ、塩酸等の無機酸や酢酸等の有機酸を混合してもよい。
【0049】
次に、生成した上記一般式(13)で表される中間体化合物に、上記一般式(14)であらわされる化合物を添加し、反応温度10〜50℃、反応時間30〜360分で反応させる。この際、必要に応じて、トリエチルアミン等の塩基を添加することもできる。
【0050】
以上の反応により、上記一般式(14)で表される化合物を酸素18(
18O)で標識した、上記一般式(15)で表される酸素同位体標識アセチル基含有化合物を得ることができる。
【0051】
ところで、上述の合成(製造)の過程で得られる中間体である、上記一般式(13)で表される化合物は、適切な条件で溶液に溶解した状態で、酸素同位体標識中間体化合物として単離することができる。
この酸素同位体標識化合物は、酸素18(
18O)で標識された新規な化合物である。
【0052】
酸素同位体標識中間体化合物の単離操作としては、例えば、エーテル、ベンゼン、トルエン等の有機溶媒で反応液から抽出し、硫酸マグネシウム等で乾燥する方法が挙げられる。
【0053】
<酸素同位体標識カルバモイル基含有化合物の製造方法>
次に、本発明を適用した一実施形態である酸素同位体標識カルバモイル基含有化合物の製造方法について説明する。
本実施形態の酸素同位体標識カルバモイル基含有化合物の製造方法は、安定同位体標識カルバモイル化試薬として、上述した酸素同位体標識化合物(すなわち、上記式(11)に記載の化合物又はその塩)を用いるものであり、この安定同位体標識カルバモイル化試薬を加熱して、下記一般式(16)で表されるイソシアネート化合物を生成(Curtius転移反応)した後、このイソシアネート化合物と下記一般式(17)で表される化合物とを反応させる。これにより、下記一般式(18)で表される酸素同位体標識カルバモイル基含有化合物が得られる。
【0057】
ここで、上記一般式(16)及び(18)中、Xは、
17O又は
18Oである。
また、上記一般式(16)及び(18)中、R
1は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数2〜4のアルキニル基、又はアリール基である。なお、R
1を構成する炭素原子は
13Cであってもよく、水素原子は重水素原子であってもよい。また、R
1上の水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
また、上記一般式(17)及び(18)中、R
2およびR
3は、独立して、水素原子、メチル基若しくはメトキシ基、又は分子内で結合したピペリジル基若しくはモルホリル基からなる環状構造等が例示される。
【0058】
上記Curtius転移反応により、上記一般式(16)で表されるイソシアネート化合物を得るには、先ず、溶媒に上記一般式(11)で表される化合物を溶解させ、反応温度−10〜10℃、反応時間30〜90分で、亜硝酸化合物と反応させる。ここで、上記溶媒としては特に限定されないが、塩酸や硫酸等の無機酸と水との混合溶媒、この混合溶媒にトルエン、ベンゼン、ジフェニルエーテル等の有機溶媒を添加した溶媒等を用いることができる。亜硝酸化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸バリウム等の亜硝酸塩、亜硝酸等を用いることができる。次いで、得られた反応溶液を加熱する。その際の温度条件は、Curtius転移が起きれば任意に設定できるが、例えば、50〜100℃に加熱することができる。また、事前の混合溶媒に有機溶媒が含まれていない場合、例えば、トルエン、ベンゼン、ジフェニルエーテル等の有機溶媒を当該混合溶媒に添加してもよい。
これにより、中間体として、上記一般式(16)で表されるイソシアネート化合物が生成する。
【0059】
次に、生成した上記一般式(16)で表されるイソシアネート化合物に、上記一般式(17)であらわされる化合物を添加し、反応温度10〜50℃、反応時間30〜360分で反応させる。
【0060】
以上の反応により、上記一般式(17)で表される化合物を酸素18(
18O)標識カルバモイル化した、上記一般式(18)で表される酸素同位体標識カルバモイル基含有化合物を得ることができる。
【0061】
ところで、上述の合成(製造)の過程で得られる中間体である、上記一般式(16)で表される化合物は、適切な条件で溶液に溶解した状態で、酸素同位体標識イソシアネート化合物として単離することができる。
この酸素同位体標識イソシアネート化合物は、酸素18(
18O)で標識された新規な化合物である。
【0062】
酸素同位体標識イソシアネート化合物の単離操作としては、例えば、エーテル、ベンゼン、トルエン等の有機溶媒による抽出や蒸留等が挙げられる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態の酸素同位体標識化合物は、酸素同位体の供給源として有用な、新規な化合物である。本実施形態の酸素同位体標識化合物を酸素同位体の供給源として用いることで、目的の酸素同位体標識化合物を、効率的且つ簡便に得ることが可能となる。
また、本実施形態の酸素同位体標識化合物は、安定同位体標識アシル化試薬および安定同位体標識カルバモイル化試薬として用いることができる。
【0064】
本実施形態の酸素同位体標識アセチル基含有化合物の製造方法によれば、上述の安定同位体標識アシル化試薬を用いてアシル化させるため、等モル反応が可能である。これにより、酸素同位体を効率良く且つ高い濃縮度を維持しつつ、アセチル基含有化合物に導入することができる。
また、本実施形態の酸素同位体標識アセチル基含有化合物の製造方法の際に得られる酸素同位体標識中間体化合物は、酸素同位体で標識された新規な化合物である。
【0065】
本実施形態の酸素同位体標識カルバモイル基含有化合物の製造方法によれば、上述の安定同位体標識カルバモイル化試薬を用いてカルバモイル化させるため、等モル反応が可能である。これにより、酸素同位体を効率良く且つ高い濃縮度を維持しつつ、カルバモイル基含有化合物に導入することができる。
また、本実施形態の酸素同位体標識カルバモイル基含有化合物の製造方法の際に得られる酸素同位体標識イソシアネート化合物は、酸素同位体で標識された新規な化合物である。
【0066】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0067】
以下に、具体的な実施例を示す。
(実施例1)
下記式(19)に示す反応により、アセチルヒドラジン塩酸塩−
18Oを合成した。
具体的には、先ず、100mlナスフラスコに酢酸エチル−
18O(97.1atom%
18O)9.0g(0.1mol)、エタノール、ヒドラジン一水和物5g(0.1mol)を入れた。次いで、反応液を50℃で加温し、反応を終了した。反応後、溶媒を留去し、塩酸を8.3ml(0.1mol)添加し、白色固体(アセチルヒドラジン塩酸塩−
18O)を得た(収量:711mg、収率:9.3%、酸素同位体濃縮度:95.9atom%
18O)。
【0069】
(実施例2)
下記式(20)に示す反応により、アセチルヒドラジン塩酸塩−
13C,d
3,
18Oを合成した。
具体的には、先ず、100mlナスフラスコに酢酸エチル−
13C,d
3,
18O(同位体濃縮度:99atom%
13C、99.5atom%D、97.1atom%
18O)950mg(10mmol)、エタノール、ヒドラジン一水和物500mg(10mmol)を入れた。次いで、反応液を50℃で加温し、反応を終了した。反応後、溶媒を留去し、塩酸を0.83ml(10mmol)添加し、白色固体(アセチルヒドラジン塩酸塩−
13C,d
3,
18O)を得た(収量:80mg、収率:6.8%、同位体濃縮度:99atom%
13C、99.5atom%D、95.9atom%
18O)。
【0071】
(実施例3)
下記式(21)に示す反応により、ベンゾイルヒドラジン−
18Oを合成した。
具体的には、先ず、50mlナスフラスコに安息香酸メチル−
18O(酸素同位体濃縮度:99.2atom%
18O)1.38g(10mmol)、エタノール10ml、ヒドラジン一水和物を入れ、60℃で撹拌反応させた。反応終了後、エバポレータで濃縮乾固し、白色固体を得た。さらに、結晶をエタノールで再結晶させることで、針状結晶(ベンゾイルヒドラジン−
18O)を得た(収量:0.90g、収率:65.3%、酸素同位体濃縮度:99.0atom%
18O)。
【0073】
(実施例4)
下記式(22)に示す反応により、ホルミルヒドラジン−
18Oを合成した。
具体的には、先ず、100mlナスフラスコにギ酸メチル−
18O(酸素同位体濃縮度:99.0atom%
18O)6.2g(0.1mol)、エタノール、ヒドラジン一水和物5g(0.1mol)を入れた。次いで、反応液を室温撹拌し、反応を終了した。反応後、溶媒を留去し、赤褐色固体(ホルミルヒドラジン−
18O)を得た(収量:3.1g、収率:50.0%、酸素同位体濃縮度:98.6atom%
18O)。
【0075】
(実施例5)
下記反応式(23)に示すように、実施例2の合成法で得られるアセチルヒドラジン−
13C,d
3,
18Oを用いて、アニリンのアセチル化を行った。
具体的には、先ず、50mlナスフラスコにアセチルヒドラジン塩酸塩−
13C,d
3,
18O(同位体濃縮度:99atom%
13C、99.5atom%D、95.9atom%
18O)583mg(5mmol)、水2.5ml、トルエン5mlを入れて溶解させた。次いで、氷冷下で撹拌中、亜硝酸ナトリウム345mg(5mmol)を添加した。その後、分液を行い、トルエン相を分取し、硫酸マグネシウムで脱水後にろ過した。次に、得られたろ液に、アニリン465mg(5mmol)とトリエチルアミン505mg(5mmol)を添加した。反応終了後、トルエンと水で分液し、トルエン相を留去し透明液体(アセチルアニリン-
13C,d
3,
18O)を得た(収量:76mg、収率:11%、同位体濃縮度:99.0atom%
13C、99.5atom%D、95.8atom%
18O)。
【0077】
(実施例6)
下記反応式(24)に示すように、実施例3の合成法で得られるベンゾイルヒドラジン−
18Oを用いて、モルホリンのベンゾイル化を行った。
具体的には、先ず、10mlナスフラスコにベンゾイルヒドラジン−
18O(酸素同位体濃縮度:99atom%
18O)138mg(1mmol)、1Nの塩酸1.2ml、トルエン3mlを混合し溶解させた。次いで、氷冷下で撹拌中、亜硝酸ナトリウム70mgを添加した。次に、反応液を氷冷しながら、モルホリン174mg(2mmol)を添加した。反応終了後、酢酸エチルと水で分液し、酢酸エチル相を留去し透明液体(ベンゾイルモルホリン−
18O)を得た(収量:135mg、収率:70%、酸素同位体濃縮度:98.1atom%
18O)。
【0079】
(実施例7)
下記反応式(25)に示すように、実施例4の合成法で得られるホルミルヒドラジン−
18Oを用いて、アニリンのホルミル化を行った。
具体的には、先ず、10mlナスフラスコにホルミルヒドラジン−
18O(酸素同位体濃縮度:98.5atom%
18O)62mg(1mmol)、1Nの塩酸1.2ml、トルエン3mlを混合し溶解させた。次いで、氷冷下で撹拌中、亜硝酸ナトリウム70mgを添加した。次に、反応液を氷冷しながら、アニリン186mg(2mmol)を添加した。反応終了後、酢酸エチルと水で分液し、酢酸エチル相を留去し透明液体(N−ホルミルアニリン−
18O)を得た(収量:92mg、収率:75.0%、酸素同位体濃縮度:98.1atom%O)。
【0081】
(実施例8)
下記反応式(26)に示すように、実施例2の合成法で得られるアセチルヒドラジン塩酸塩−
18Oを用いて、アニリンのカルバモイル化を行った。
具体的には、先ず、50mlナスフラスコにアセチルヒドラジン塩酸塩−
18O(同位体濃縮度:95.9atom%
18O)583mg(5mmol)、水2.5ml、トルエン5mlを混合し溶解させた。次いで、氷冷下で撹拌中、亜硝酸ナトリウム345mg(5mmol)を添加した。その後、分液を行い、トルエン相を分取し、硫酸マグネシウムで脱水後ろ過した。次に、得られたろ液を100℃で加温することで、メチルイソシアネート−
18Oを合成し、冷却後、アニリン465mg(5mmol)を添加し、50℃で反応させた。反応終了後、トルエンと水で分液し、トルエン相を留去し透明液体(1−メチル−3−尿素フェニル−
18O)を得た(収量:236mg、収率:30.2%、酸素同位体濃縮度:95.8atom%
18O)。
【0083】
(実施例9)
下記反応式(27)に示すように、実施例3の合成法で得られるベンゾイルヒドラジン−
18Oを用いて、アンモニアをカルバモイル化し、(1−フェニル尿素−
18O)を合成した。
具体的には、先ず、10mlナスフラスコにベンゾイルヒドラジン−
18O(酸素同位体濃縮度:99.0atom%
18O)138mg(1mmol)、1Nの塩酸1.2ml、トルエン3mlを混合し溶解させた。次いで、氷冷下で撹拌中、亜硝酸ナトリウム70mgを添加した。反応終了後、トルエン相を分取し、硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過した。次に、得られたろ液を100℃で加温することで、ベンゾイソシアネート−
18Oを合成し、冷却後、アンモニア水0.5mlを添加した。反応終了後、溶液を留去し白色結晶(1−フェニル尿素−
18O)を得た(収量:71.1mg、収率:51.5%、酸素同位体濃縮度:97.5atom%
18O)。