(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372882
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】下着
(51)【国際特許分類】
A41B 9/02 20060101AFI20180806BHJP
A41B 9/04 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
A41B9/02 G
A41B9/02 P
A41B9/04 A
A41B9/04 D
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-183734(P2014-183734)
(22)【出願日】2014年9月9日
(65)【公開番号】特開2016-56476(P2016-56476A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】小池 祐士
(72)【発明者】
【氏名】對馬 均
【審査官】
米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−088537(JP,A)
【文献】
特開2001−271209(JP,A)
【文献】
実公昭37−017377(JP,Y1)
【文献】
特開2001−017464(JP,A)
【文献】
実公昭02−001612(JP,Y1)
【文献】
実開昭55−151804(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3104149(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B 9/02−9/04
A41D 13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴回り開口部、および該胴回り開口部に設けられた左右の衣体とからなる下着であって、各衣体は股割れ構造を形成するよう内側方に開放部を備えており、
各衣体は、これを該開放部において、後ろ側にてまくり上げるための紐を備えており、
該紐の一方端部は該衣体に固定され、他方端部は該衣体の前面にて操作し得る端部(以下、「操作用端部」という。)であることを特徴とする、下着。
【請求項2】
前記操作用端部は片手で操作可能であることを特徴とする、請求項1に記載の下着。
【請求項3】
前記紐は、前記衣体のおもて面に設けられたガイドを通されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の下着。
【請求項4】
前記ガイドは、前記衣体の側部または前面部に設けられていることを特徴とする、請求項3に記載の下着。
【請求項5】
前記紐の固定は、前記衣体のうら面においてなされていることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の下着。
【請求項6】
前記衣体のうら面には前記紐を覆う被覆部が設けられていることを特徴とする、請求項5に記載の下着。
【請求項7】
前記紐の固定は、前記衣体のおもて面においてなされていることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の下着。
【請求項8】
前記各衣体によって股の重なり構造が形成されていることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれかに記載の下着。
【請求項9】
前記衣体は、前記操作用端部を引くことによって前記開放部においてまくり上げられ、放すことによって下がることを特徴とする、請求項1ないし8のいずれかに記載の下着。
【請求項10】
前記衣体の足回り開口部には伸縮可能な弾性体が設けられていることを特徴とする、請求項1ないし9のいずれかに記載の下着。
【請求項11】
前記両紐は、前記衣体の前面部において少なくとも一部がまとめられていることを特徴とする、請求項1ないし10のいずれかに記載の下着。
【請求項12】
前記各操作用端部が一体化されていることを特徴とする、請求項11に記載の下着。
【請求項13】
座位姿勢にて、前記衣体の前記開放部におけるまくり上げが可能であることを特徴とする、請求項1ないし12のいずれかに記載の下着。
【請求項14】
片麻痺者用であることを特徴とする、請求項1ないし13のいずれかに記載の下着。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は下着に係り、特に、脳卒中片麻痺者のように片手しか使えないものでも容易に座った姿勢のままで用便(排泄)することができる下着に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排泄の際に行うズボンやパンツの上げ下げ(以下、「下衣操作」)は、一般的には立位で行われる。しかし、欧米諸国に比べて我が国で発症率の高い脳卒中を発症した患者は、立位保持が困難となり、下衣操作の自立が困難となる場合が少なくない。そのような患者が下衣操作を自立するための方法として、現在、“股割れパンツ”(後掲非特許文献1)が市販されている。
【0003】
この“股割れパンツ”は、履いたままで用便が簡単にできる衣料として、市販されている。立位保持能力が低い脳卒中患者にとって、パンツを脱ぐ必要がなくなるということは、排泄動作を他人に介助されずに、自力でできる可能性が高くなるという点で、好ましい。
【0004】
しかし、この“股割れパンツ”は臨床場面においてあまり使われておらず、報告も乏しいのが実状である。実際に履いて検証したところ、割れるべき股の部分を十分に開くことができず、また、陰部・肛門部の露出も不十分のため、このまま排泄を行うことは不可能であった。さらにフィット感もなく、健常者が履くパンツと同様の快適さを感じることができなかった。 “股割れパンツ”にはこのような種々の問題点があり、実用性に欠けていることが、臨床場面での実績の乏しい理由であると考えられる。
【0005】
かかる状況を踏まえ本願発明者は、より実用性の高いパンツの提供を目的として研究を行った。すなわち、座ったままで股が開けるパンツを試作し、股の開口部の開き具合や、陰部・肛門部の露出の程度を検証し、その有効性を試験した。その結果、試作した改良型股割れパンツは、市販の股割れ短パンツと比べて股の開口部の開きが十分かつ効果的であり、また陰部・肛門部全体が露出可能であり、実用性が高いことが明らかとなった(平成25年10月24日 第72回日本公衆衛生学会総会にて「脳卒中患者の排泄を助けるための下着の改良―座ったままで股が開けるパンツの試作―」と題して発表)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「テイコブ股割れ短パン」〔http://www.hwc.or.jp/kensyuu/old/tenji-hall/yougu/90324-90339/90324-1.html〕(平成26(2014)年9月1日アクセス時のURL)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし上記改良型股割れパンツは、両手を使用できる者を対象として試作したものであった。つまり、左右それぞれの開口部を開くためには左右それぞれの手による操作が必要な構成であったため、たとえば脳卒中片麻痺者のように片手しか使用できない者が使用することは全く不可能だった。
【0008】
そこで本発明が解決しようとする課題は、さらにこの点を改良し、たとえば脳卒中片麻痺者のように片手しか使用できない者であっても座ったままで容易に使用することのできる、より実用性の高い下着を提供することである。また本発明の課題は、両手を使用できる者であるか否かに関わらず、陰部・肛門部の露出を十分に行うことができて用便に便利であり、かつ用便時における汚れ付着をより高度に防止することができる、実用性の高い下着を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は上記課題について検討した結果、日本古来のももひきの構造を参考にした陰部・肛門部を露出させやすい股割れ構造と、これらを隠すことが可能な重なり構造と、および引っ張ることで股が開き、座ったままでの下着操作を可能とする殿部装着の紐とを備えた下着という構成を基本とし、さらに当該紐を着用時の前面において操作し得るようにすることで課題解決できることを見出し、これに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0010】
〔1〕 回り開口部、および該胴回り開口部に設けられた左右の衣体とからなる下着であって、各衣体は股割れ構造を形成するよう内側方に開放部を備えており、各衣体は、
これを該開放部
において、後ろ側
にてまくり上げるための紐を備えており、該紐の一方端部は該衣体に固定され、他方端部は該衣体の前面にて操作し得る端部(以下、「操作用端部」という。)であることを特徴とする、下着。
〔2〕 前記操作用端部は片手で操作可能であることを特徴とする、〔1〕に記載の下着。
〔3〕 前記紐は、前記衣体のおもて面に設けられたガイドを通されていることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の下着。
〔4〕 前記ガイドは、前記衣体の側部または前面部に設けられていることを特徴とする、〔3〕に記載の下着。
【0011】
〔5〕 前記紐の固定は、前記衣体のうら面においてなされていることを特徴とする、〔1〕ないし〔4〕のいずれかに記載の下着。
〔6〕 前記衣体のうら面には前記紐を覆う被覆部が設けられていることを特徴とする、〔5〕に記載の下着。
〔7〕 前記紐の固定は、前記衣体のおもて面においてなされていることを特徴とする、〔1〕ないし〔4〕のいずれかに記載の下着。
〔8〕 前記各衣体によって股の重なり構造が形成されていることを特徴とする、〔1〕ないし〔7〕のいずれかに記載の下着。
〔9〕 前記
衣体は、前記操作用端部を引くことによって前記開放部においてまくり上げられ、放すことによって下がることを特徴とする、〔1〕ないし〔8〕のいずれかに記載の下着。
【0012】
〔10〕 前記衣体の足回り開口部には伸縮可能な弾性体が設けられていることを特徴とする、〔1〕ないし〔9〕のいずれかに記載の下着。
〔11〕 前記両紐は、前記衣体の前面部において少なくとも一部がまとめられていることを特徴とする、〔1〕ないし〔10〕のいずれかに記載の下着。
〔12〕 前記各操作用端部が一体化されていることを特徴とする、〔11〕に記載の下着。
〔13〕 座位姿勢にて
、前記衣体の前記開放部におけるまくり上げが可能であることを特徴とする、〔1〕ないし〔12〕のいずれかに記載の下着。
〔14〕 片麻痺者用であることを特徴とする、〔1〕ないし〔13〕のいずれかに記載の下着。
【発明の効果】
【0013】
本発明の下着は上述のように構成されるため、これによれば、たとえば脳卒中片麻痺者のように片手しか使用できない者であっても座ったままで容易に用便(排泄)することができる。また、両手を使用できる者であるか否かに関わらず、上記他者従来技術との比較ではもちろんのこと、本願発明者による先行発明と比較しても陰部・肛門部の露出をより十分に行うことができて、より用便に便利であり、かつ用便時における汚れ付着をより高度に防止することができる。このように優れた性能を有しており、実用性が高い。さらに本発明によれば、着用時におけるフィット感も良好な下着とすることができる。
【0014】
また、紐の固定を衣体のうら面においてなし、下着の内側からガイドを通して外側へと渡す構成の本発明下着では、いわば動滑車的な作用によって、着用者による紐を引く動作はより大きな力として伝えられるため、股部の開口をよりおおきく、容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明下着の基本構成を概念的に示す説明図である。
【
図2A】
図1に示す下着を上方から示す説明図であり、左右衣体を分離した状態を示す(足回り開口部は除く)。
【
図2B】
図1に示す下着を上方から示す説明図であり、左右衣体を合わせた状態を示す(足回り開口部は除く)。
【
図3-1】股割れ構造を主として本発明下着の基本構成例を三方向から示す説明図である。
【
図3-2】重なり構造を主として本発明下着の基本構成例を三方向から示す説明図である。
【
図3-3】使用方法を主として本発明下着の基本構成例を三方向から示す説明図である。
【
図4】別の紐固定方式による本発明下着の後面構成を示す説明図である。
【
図5】本発明第一実施例の後面構成を示す写真図である。
【
図5-2】第一実施例の使用方法を示す写真図である。
【
図6】本発明第二実施例の後面構成を示す写真図である。
【
図6A】第二実施例の前面構成を示す説明図である。
【
図6B】第二実施例の後面構成を示す説明図である。
【
図6-2】第二実施例の股部を開いた場合の後面構成を示す説明図である。
【
図7】紐がまとめられた構成の本発明下着の前面構成を示す説明図である。
【
図8】操作用端部が一体化された本発明下着の別の前面構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明下着の基本構成を概念的に示す説明図である。また、
図2A、2Bは
図1に示す下着を上方から示す説明図であり、前者は左右衣体を分離した状態(足回り開口部は除く)、後者は左右衣体を合わせた状態を示す(足回り開口部は除く)。これらに示すように本発明下着10は、胴回り開口部1、および胴回り開口部1に設けられた左右の衣体2L、2Rとからなり、各衣体2L、2Rは股割れ構造を形成するよう内側方に開放部3L、3Rを備えており、各衣体2L、2Rは、開放部3L、3Rを後ろ側においてまくり上げるための紐4L、4Rを備えており、紐4L、4Rの一方端部5L、5Rはそれぞれ衣体2L、2Rに固定され、他方端部6L、6Rは衣体2L、2Rの前面にて操作し得る端部(操作用端部)であることを、主たる構成とする。
【0017】
かかる構成により本発明下着10は、これが着用者によって胴回り開口部1から左右の衣体2L、2Rそれぞれに左右脚部を通して下半身用下着として着用されると、各衣体2L、2Rの開放部3L、3Rによって、着用者の左股部、右股部の内側がそれぞれ右方、左方に向けて開放される「股割れ構造」が形成される。また、各衣体2L、2Rによって、前面、後面のいずれにおいても、陰部、肛門部を被覆する重なり構造、すなわち股の「重なり構造」が形成される。
【0018】
そして、衣体2L、2Rの前面にて操作し得るようにされた紐4L、4Rの他方端部(操作用端部)6L、6Rを手前側に引くと、紐4L、4Rの一方端部5L、5Rはそれぞれ衣体2L、2Rに固定されているため、各衣体2L、
2Rはその開放部3L、3Rにおいて後ろ側においてまくり上げられる。したがって着用者は、用便の際、肛門部や陰部を露出させるために着用した下着10を下ろすことなく、ただ紐4L等の操作用端部6L等を自身の前面にて引くだけで、本下着10の股割れ構造を開くことができ、肛門部や陰部を露出させることができる。
【0019】
操作用端部6L、6Rは、着用者が自身の前面にて、片手のみで操作することが可能である。したがって、たとえば脳卒中片麻痺者のように片手しか使用できない者であっても、座ったままで容易に陰部・肛門部の露出を十分に行うことができるため、用便に便利である。また、用便時における汚れ付着を高度に防止することができる。
【0020】
図示するように紐4L、4Rは、衣体2L、2Rのおもて面に設けられたガイド7L、7Rを通されて設けられることとする。これにより、紐4L等の操作用端部6L等を衣体2L等の前面にて操作しやすくなるように位置づけることができる。かかる目的のためガイド7L等は、衣体2L等の側部または前面部に設けるようにすればよい。図では、左右それぞれ側部に1つずつ設けた構成である。なお、設けるガイド7L等の数は限定されず、左右の一方または両方において複数個を設けてもよい。
【0021】
なお本発明下着10およびこれを構成する各要素は、材質、サイズ、具体的形状に特に限定されず、適宜設計することができる。また紐4L、4Rは、着用者が前面にて引く操作を円滑に行えるものであればよく、ある程度の幅をもつ帯状の形態のものも含むこととする。
【0022】
図3−1は、股割れ構造を主として本発明下着の基本構成例を三方向から示す説明図である。また、
図3−2は重なり構造を主として本発明下着の基本構成例を三方向から示す説明図、
図3−3は使用方法を主として本発明下着の基本構成例を三方向から示す説明図である。いずれの図も、左から順に、前面、左側面、後面を示す。また
図3−1は、図中の楕円で囲んだ股割れ構造を明示するために、左右衣体を分離した状態で示す。
図3−2中の楕円で囲んだ部分は、重なり構造を示す。
図3−3中の矢印は、動作や作用を示す。
【0023】
これらに示すように本発明下着310は、股割れ構造が形成されていることによって、日本古来のももひきのように陰部・肛門部を露出させやすく、また、重なり構造が形成されていることによって、陰部・肛門部を隠すことができる。そして、殿部装着の紐34L、34Rの操作用端部36L、36Rを前面において手前に引っ張ることで股部が開き、座ったままでの下着操作が可能である。
【0024】
図3−1等各図に示すように、本発明下着310における紐34L、34Rの固定は、衣体32L、32Rのうら面においてなされた構成とすることができる。つまり、
紐34L等の一方端部(操作用端部とは反対側の端部)を衣体32L等のうら面に固定する構成であり、換言すれば、紐34L等を衣体32L等のうら面(内側)から衣体32L等の縁を回っておもて面(外側)へと渡し設ける構成である。
【0025】
かかる構成をとることで、紐の一方端部ををおもて面(外側)に固定する場合と比べて、操作用端部36L等を引くことによって伝わる力の大きさがより大きくなり、股部をより容易に開口することができる。いわば滑車の原理によってより小さな力で衣体32L等の縁部を引っ張り上げることができ、股部を開くことができる。または、同じ力で引っ張った場合にはより強い力で引っ張った状態になるため、より強力に、容易に衣体32L等の縁部を引っ張り上げることができ、股部を開くことができる。かかる構成によって、股部を開口する機能がより高まり、一層実用性を高めることができる。
【0026】
なお、
図4は別の紐固定方式による本発明下着例の背面構成を示す説明図であるが、ここに示すように紐44L等の一方端部45L等の固定を衣体42L等のおもて面において行う構成であっても、上記
図3−1等に示す構成例のような効果は得られないが、本発明の範囲内であることに変わりはない。
【0027】
図3−1等に示した紐をうら面に固定する構成においては、衣体32L等のうら面に紐34Lを覆う被覆部(図示せず)を設けた構成とすることができる。つまり、衣体32L等には一方端部において固定されるのみであってその他の部位が離れている紐34L等を、着用者の肌面に対して露出させずに覆うカバーである。かかる構成により、着用者の着用感を向上させ、また紐34L等の不用意な破損を防ぐことができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
<第一実施例>
図5は、本発明第一実施例の背面構成を示す写真図である。また、
図5−2は、第一実施例の使用方法を示す写真図である。本例下着510は、胴回り開口部を形成する胴回り縁部59とこれに設けられた左右の衣体52L、52Rとからなる基本構成の上に、各衣体52L等は、股割れ構造を形成するよう内側方に開放部53L等を備えるとともに開放部53L等を後ろ側においてまくり上げるための紐54L等を備えており、また各衣体52L等によって股の重なり構造が形成されており、紐54L等の一方端部は衣体53L等のうら側に固定され、他方端部は衣体52L等の前面にて操作し得る操作用端部56L等であることを、主たる構成とする。
【0029】
また本下着510は、紐54L等は衣体52L等のおもて面の側部に設けられたガイド57L等を通されて前面に位置させることが可能なよう形成されている。開放部53L、53Rを形成する衣体52L、52Rの縁部は、前面で操作用端部56L、56Rを引くことによってそれぞれまくり上げることができ、これによって股部が開放され、陰部・肛門部を十分に露出させることができる。また、操作用端部56L等を放すことによって衣体52L等の縁部を下げ、股部を再び重ならせて、陰部・肛門部を隠す状態とすることができる。
【0030】
図5−2に示すように本下着510は、着用者が座位姿勢にて前記開放部のまくり上げを行うことが可能である。すなわち、まず、座位姿勢のまま左殿部を座面から浮かし上げ、その状態で左側の操作用端部56Lを引くことによって左側衣体52Lの開放部53Lをまくり上げる(図中(a)〜(c)の手順)。これによって左側の股部は開口するが、上げていた左殿部を開口後に座面に下ろすことによって、下着510の開放部が臀部と便座との間に挟まった状態になるため、開口状態、つまりまくり上げ状態を確実に維持することができる。
【0031】
ついで、座位姿勢のまま右殿部を座面から浮かし上げ、その状態で右側の操作用端部56Rを引くことによって右側衣体52Rの開放部53Rをまくり上げる(図中(d)〜(f)の手順)。これによって右側の股部は開口するが、上げていた右殿部を開口後に座面に下ろすことによって、下着510の開放部が臀部と便座との間に挟まった状態になるため、開口状態、つまりまくり上げ状態を確実に維持することができる。このようにして、用便に十分な股部の開口動作を、座位姿勢のまま容易かつ確実に行うことができる。
【0032】
なお図では、左右それぞれの操作用端部56L、56Rの操作には左右各方の手をそれぞれ用いる例を示しているが、両操作用端部56L、56Rはいずれか一方の片手で操作可能に構成することもできる。したがって、片麻痺者であっても問題なく使用することができる。また、立位保持能力が低い脳卒中患者でも、座ったままで下着の股を開くことが可能となり、自立的な排泄が可能となる。実際に本下着510を脳卒中片麻痺者に着用させ、動作を行ってもらう非公開試験を行った結果、十分に股部を開口することができ、実用性の高さが確証された。
【0033】
<第二実施例>
図6は、本発明第二実施例の後面構成を示す写真図である。また、
図6Aはその前面構成、
図6Bは後面構成、
図6−2は股部を開いた場合の後面構成を示す説明図である。本実施例も基本的には第一実施例と同様の構成であるが、ガイド部を左右各2個(左:67La、67Lb、右:67Ra、67Rb)設けることによって、股部開口の際の作用方向(まくりあげ方向)の一定性をより高め、衣類としての体裁も改善でき、着用者の着用に対する抵抗感をやわらげ、着用感もより高めることができた。
【0034】
また本例では、衣体62L、62Rの足回り開口部68L、68Rを形成する足回り縁部60L、60Rに、伸縮可能な弾性体を設けた構成とした。これにより、足回り開口部68L等は着用者の足周りに密着固定されるため、着用時の安心感、着用感をより高めることができた。
【0035】
<その他>
図7は、紐がまとめられた構成の本発明下着の前面構成を示す説明図である。図示するように本下着710は、その両紐74L、74Rが衣体72L等の前面部において少なくとも一部がまとめ部700によってまとめられている構成を特徴とする。まとめ部700は紐74L、74Rを内部に通して下方に垂れさせる構造を有し、各操作用端部76L、76Rはそれぞれ別個に操作することができる。
【0036】
図示するようにまとめ部700を前面中央部に設けると、これを通された各紐74L、74Rの各操作用端部76L、76Rは前面中央部に位置して垂れ下げられる。したがって着用者が操作するのに便利である。また、片手で操作することも極めて容易に行うことができる。
【0037】
図8は、操作用端部が一体化された構成の本発明下着の別の例についてその前面構成を示す説明図である。図示するように本例の下着810は、各紐84L、84Rの操作用端部が一体化された操作用端部86Cとなっていることを、特徴的な構成とする。
【0038】
本下着810では、左右双方の開放部をまくり上げて開口すること、または下げることが、単一の操作用端部86Cを引くこと、または放すことによって、同時になされる。したがって、
図5−2に示したような座位姿勢での使用には不向きであるが、着用者が立位や中腰姿勢で操作を行える場合には、左右の股部開放を一度に行うことができ、便利である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の下着によれば、脳卒中片麻痺者のように片手しか使用できない者であっても座ったままで容易に用便(排泄)することができ、また、両手を使用できる者であるか否かに関わらず、陰部・肛門部の露出をより十分に行うことができて、より用便に便利であり、かつ用便時における汚れ付着をより高度に防止することができ、実用性が高い。したがって、衣料・健康・福祉・医療・介護分野および関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0040】
1、41、61、71…胴回り開口部
2L、32L、42L、52L、62L、72L、82L…衣体(左)
2R、32R、42R、52R、62R、72R、82R…衣体(右)
3L、53L、63L、73L…開放部(左)
3R、53R、63R、73R…開放部(右)
4L、34L、44L、54L、64L、74L、84L…紐(左)
4R、34R、44R、54R、64R、74R、84R…紐(右)
5L、45L…紐の一方端部(左)
5R、45R…紐の一方端部(右)
6L、36L、46L、56L、66L、76L…紐の他方端部、操作用端部(左)
6R、36R、46R、56R、66R、76R…紐の他方端部、操作用端部(右)
7L、37L、47L、57L、67La、67Lb…ガイド(左)
7R、37R、47R、57R、67Ra、67Rb…ガイド(右)
8L、68L…足回り開口部(左)
8R、68R…足回り開口部(右)
9、49、59、69、89…胴回り縁部
10、310、410、510、610、710、810…下着
60L…足回り縁部(左)
60R…足回り縁部(右)
700…まとめ部
84C…まとめ部
86C…操作用端部