【文献】
Florian Martin et al,Assessment of network perturbation amplitudes by applying high-throughput data to causal biological networks,BMC Systems Biology (2012) 6: 54,BioMed Central,2012年 5月31日,pp.1-18,ISSN:1752-0509, DOI:10.1186/1752-0509-6-54
【文献】
David J. Aldous,The Random Walk Construction of Uniform Spanning Trees and Uniform Labelled Trees,SIAM Journal on Discrete Mathematics Volume 3 Issue 4,米国,1990年11月 1日,ISSN:0895-4801, DOI:10.1137/0403039
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書で使用する以下の用語は、以下の定義を有する。
「知識ベース」は、有向ネットワークであり、生物学的実体及びプロセス間に実験で観察された因果関係のネットワークであることが好ましい。
「ノード」は、測定可能な実体又はプロセスである。
「測定ノード」は、測定された実体又はプロセスである。
「参照ノード」は、ノードに対する潜在的攪乱を表す。
「シグネチャ」は、測定可能なノードの実体と、参照ノードに対するそれらの変化の予想方向との集まりである。
「差次的データセット」は、第1の状態に関連するデータ、及び第1の状態とは別個の第2の状態に関連するデータを有するデータセットである。
「倍率変化」は、初期値から最終値まで量が変化する程度を述べる数字であり、詳細には、最終値を初期値で割って算出する。
「符号付きグラフ」(すなわち、符号付きエッジがあるグラフ)は、本開示の状況で、系の生物学的性質における調整及びシグナル伝達に関する情報を提供する代表的構造であり、符号付きグラフでは、正の有向エッジ
【数3】
は2つの実体間の活性化関係(例えば、タンパク質活性)を捕捉し、負の有向エッジ
【数4】
は阻害関係を捕捉する。
【0018】
「因果的に一貫したネットワーク」は、均衡しているグラフであり、「因果的に一貫していないネットワーク」は、不均衡なグラフである。機能的定義として、及び因果的に一貫したネットワークの場合、任意の所与のノード対間の全経路は同じ正味符号を有し、因果的に一貫していないネットワークの場合、任意の2つのノードに、正の正味符号を有する少なくとも1つの経路、さらに負の正味符号を有する少なくとも1つの経路がある。正味符号は、経路に沿って偶数の「阻害」又は「減少」のエッジがある場合は正であり、経路に沿って奇数の「阻害」又は「減少」のエッジがある場合、正味符号は負である。
【0019】
「ネットワークモデル」は、最上位ネットワークが組織化されて1つ又は複数のサブネットワークになる相互接続階層であり、各サブネットワーク内のシグナル伝達事象は、一般的に一次文献で報告された実験の証拠に基づき、生物学的実体(ノード)間の符号付きで有向性の原因と結果の関係(エッジ)を表す因果関係として捕捉される。タンパク質及び相互作用は複数の応答の調節に関与することが多いので、多くのノード及びエッジを複数のサブネットワーク間で共有し、したがってサブネットワーク間の相互作用が明示的に提示される。ネットワークモデル階層の基部には、個々の分子機構について述べ、所与の知識ベース内で、ノードの直接の実験的攪乱に基づき観察されている遺伝子発現の増加又は減少を表す遺伝子セットの因果的上流とすることができるノードがある。これらのノードは、それらの下流の遺伝子発現関係とともにHYPと呼ばれる。
【0020】
「HYP」は、1つの「ソース」ノードが因果的エッジを介して測定可能な下流ノードのセットと接続される特定タイプのネットワークである。通常、HYPは、特定の生物学的活性(例えば、特定のキナーゼの活性化の発生量の増加、又は成長因子信号伝達経路を述べるさらに複雑なネットワークモデル)を表すノードを、それによって正又は負に調節される測定可能な下流の実体(例えば、遺伝子発現値)に接続する因果関係のセットで構成された特定タイプのネットワークモデルである。HYPは、仮説サブネットワークと見なすこともできる。
【0021】
ネットワーク、サブネットワーク及びHYPは、所与の実験内で評価することができる生物学的応答の範囲を演繹的に画定する。
【0022】
ネットワーク攪乱振幅(NPA)は、トランスクリプトームデータから生物学的実体において曝露により誘発された攪乱の程度を評価する既知の方法である。NPAのスコア化は、HYP内の関係を用い、HYP内の下流ノードの変化の大きさ及び方向に基づいて、個別的又は集合した実体に対応する発生量又は活性の変化を表すスコアを生成する。NPA方法を拡大して、活性ネットワークの変化に関するスコアを生成することができる。
【0023】
特に、この方法は、評価すべきコントラストのセット(例えば、処理済み対コントロールの比較)、及び実験で捕捉した可能応答の整合のとれた演繹的記述を提供するネットワークモデルについて得られた差次的測定値(例えば、差次的遺伝子発現測定値)を入力として取得する。次に、この方法は差次的測定値をネットワークモデルと統合して、各コントラストのスコアを生成する。
【0024】
したがって、NPAスコア化は通常、ネットワークの各ノードの寄与率を合計することにあり、グラフのエッジによって決定されるようなネットワーク内の残りのノードに対するそれらの相対的符号によって調整される。このようなアプローチは、ネットワークが因果的に一貫している(又はグラフ理論の言語で「均衡している」)場合に使用される。
【0025】
HYPスコア化の別の既知の技術はGPI(幾何学的攪乱指数)であり、これはHYPに含まれる遺伝子の処理により誘発される平均差次的発現を算出する。GPIを計算する式が、PCT/EP/2012/061035号明細書に記載されている。
【0026】
図1は、生物学的実体、プロセス又は他のネットワークを表すノード(A、B、C、D、E及びF)間の因果的接続で構成されたネットワーク100を表す。このネットワーク100で、矢印は因果増大関係(例えば、ノードAがノードBを増加させる、ノードBがノードCを増加させる、及びノードCがノードDを増加させる)を表す。円で終了するエッジは、因果減少関係(例えば、ノードAがノードEを減少させる、及びノードEがノードC及びFを減少させる)を表す。
【0027】
図2はHYP102を示す。上述したように、HYP102は、1つの「ソース」ノード(本図ではノードE)が因果エッジを介して測定可能な下流ノード(本図ではノードM、N、O、P及びQ)のセットに接続する特定タイプのネットワークである。測定可能なノードは斜線ハッシュ表示によって表される。
【0028】
図3は、
図1に描いたものと同じネットワーク100を示すが、そのノードを参照ノードに接続するのが、これらのノードを接続する任意の経路を介した偶数(「+」)の因果接続か、奇数(「−」)の因果接続かに基づいて、各ノードが、参照ノード(本図ではノードB)との正又は負の正味因果関係を示す「+」又は「−」の符号付きで表される。
【0029】
図4は、HYP様構造に変換された後の
図3のネットワークを示し、これを本明細書では「メタHYP」104と呼ぶ。メタHYPは、全ネットワークを表すノードを、そのノードが参照ノードに対して(それぞれ)正味の正の関係を有するか、又は正味の負の関係を有するかに応じて、因果的に増加又は因果的に減少したネットワーク内の各ノードに接続することによって生成される。メタHYPの測定可能なノードは、斜線のハッシュ表示によって表される。
【0030】
図5はメタHYP106を示し、ノードの幾つかは測定可能ではなく、代わりにHYPによって表され(この例ではノードB及びE)、次にこれが測定可能な下流ノード(例えば、ノードGからQ)を有する。測定可能なノードは、斜線のハッシュ表示によって表される。ノードBのHYP及びノードEのHYPは両方とも、測定可能な下流ノードM及びNを共有していることに留意されたい。
【0031】
図6は、メタHYPからの測定可能な実体及び下流HYPがすべて、1セットのHYP下流測定可能実体に組み合わせられたHYPへと変換された後の
図5のメタHYP106を示す。各測定可能実体には、HYP構築プロセス中に重み付け係数(図示せず)を割り当てることが好ましい。
【0032】
因果的に一貫したネットワークのネットワークスコア化
ネットワークの構造は、ノードの測定値及び/又はノードHYPスコアを、ネットワークによって記述されるプロセスの変化を表すネットワークスコアへと集約するよう案内する。詳細には、さらに本開示の第1の態様によれば、特定の実施形態では、最初にネットワークをHYP様構造に変換し、次に(前述したように、以下に記載するような幾つかの変更を加えて)HYPスコア化方法を適用することによって、ネットワークをスコア化する。ネットワーク内のノードを単一のHYP様構造に集約するプロセスでは、ネットワークが因果的に一貫している必要がある(グラフ理論で「均衡したグラフ」と呼ぶ)、すなわち、ネットワーク内の任意の2つのノード間の正味因果関係が、ノード間を横断する経路に依存していない。このアプローチによると、ネットワーク内の単一のノードを、最初に「参照ノード」として選択し、ネットワーク内の他の各ノードの因果関係を評価するために照らし合わせる基準点を提供する。ネットワークの各ノードについて、そのノードと参照ノードの間の経路を最初に選択する(これら2つのノード間の任意の経路は、因果的に一貫したネットワークで同一の結果を生成する)。経路は、その経路に沿ったエッジの方向に関係なく選択することができる(すなわち、経路は、因果接続の方向で(「下流」)、又は逆方向で(「上流」)横断するか、上流又は下流エッジの任意の組み合わせで横断することができる)。経路に沿った因果減少エッジの数を数え、これが奇数である場合は開始ノードが参照ノードと正味減少関係(すなわち、正味で負の因果関係)を有し、これが偶数である場合は開始ノードが参照ノードと正味増加関係(すなわち、正味で正の因果関係)を有する。このプロセスを
図3に示す。次に、HYP様構造を、HYPの上流ノード(「ソース」)として働くネットワークを表すノードで構築し、この上流ノードの下流にあるネットワーク内の各ノードは、参照ノードとの正味関係に応じて因果増大又は減少エッジによって接続される。これを
図4に示す。参照ノードは、常に因果増大エッジを介してソースノードに接続される。
【0033】
慣例により、結果として生じるHYP様構造内のノードの幾つかが直接測定されず、代わりにHYPスコア化方法(例えば、NPA又はGPIアルゴリズム)によってスコア化することができるHYPである場合、このHYP様構造をメタHYPと呼ぶ(複数のHYPのうちの1つのHYPであるからである)。この概念を
図5に示す。しかしながら、ネットワーク内のノードの測定値のみを考慮に入れる(しかし、いずれのHYPスコアも考慮しない)場合、このHYP様構造を単にHYPと呼ぶ。機能的には、メタHYPとHYPの間に違いはないが、慣例により、そのスコアが他のHYPのスコアから導出されることを明確にするために、メタHYPと別個に命名する。ここで、簡潔さを期して、メタHYPはいかなる測定可能なノードも含まず、スコア化及び測定の両方が実行されたノードで構成されたメタHYPも、本明細書に記載する枠組み内で同様に考察することができる。
【0034】
特定の実施形態では、HYPスコア化アルゴリズムを直接使用して、ネットワークの集約の結果であるHYPをスコア化することができる。HYPスコア化アルゴリズムは、自身がHYPである下流ノードの差次的測定値の代わりにスコアを置換することによって、メタHYPのスコア化にも使用することができる。例えば、強度式を適用してメタHYPをスコア化する場合、式は以下のようになる。
【数5】
ここで、β
iは下流HYPiのスコア又はノードiの測定値のログ倍率変化であり、
【数6】
はメタHYP内のノードiの予測された調節(増大又は減少)に関連する方向であり、Nは関連付けられたスコア又は測定値を有するメタHYP内の下流ノードの数である。
【0035】
因果的に一貫していないネットワークのネットワークスコア化
因果的に一貫していないモデルの場合、任意の2つのノード間の正味因果関係は、どちらの経路を選択するかに依存する(すなわち、奇数の因果減少エッジを有する経路があれば、同じ2つのノード間で偶数の因果減少エッジを有する経路もある)。したがって、以上で概略した単純明快なメタHYP構築プロセスは可能ではない。
【0036】
最短経路
別の実施形態によれば、因果的に一貫していないネットワークからメタHYPを構築する1つの方法は、各ノードと参照ノード間に正味の正の因果関係を有する最短経路、及び各ノードと参照ノード間に正味の負の因果関係を有する最短経路を特定することである。ノード毎に、正の最短経路が負の最短経路より短い場合、そのノードはメタHYPの因果増大に割り当てられ、正の最短経路が負の最短経路より長い場合、そのノードはメタHYPの因果減少に割り当てられる。正の最短経路と負の最短経路が同じ長さであるノードは、メタHYPから削除される。2つのノード間の経路の長さを算出する場合、各エッジは同じ「長さ」を有することができ、その結果、長さは経路にあるエッジの数を表す。あるいは、ネットワーク内に複数のタイプの増大エッジ及び減少エッジがある場合、異なるタイプのエッジは、全体的な経路長に対して異なる「長さ」寄与率を有することができる。例えば、直接の因果増大又は減少エッジは、直接的関係と明示的に表されていない因果増大又は減少エッジより短い長さを有することができる。この方法は、因果的に一貫していないネットワークを解明し、メタHYPを生成する「最短経路」方法と呼ばれる。
【0037】
因果的に一貫していないネットワークからメタHYPを構築する別の実施形態は、増大又は減少を絶対的に決定するのではなく、参照ノードに対して各ノードが有する増大又は減少の相対的な程度を推定することを含む。このような方法は、下流ノードに接続する各因果エッジが、そのエッジの増大又は減少の程度について述べる0〜1の重み付け係数s
iが追加的に関連付けられているメタHYPを生成する。これらの重み付け係数は、メタHYP内の各エッジに関連付けられた符号(増大又は減少)に関係するので、符号重みと呼ばれる。
【0038】
ランダムウォーク
ある実施形態によれば、符号重みを算出する1つの方法は、ネットワークで反復ランダムウォークを実行することを含み、各ランダムウォーカは「+」又は「−」の内部状態を有し、さらにその現在状態を各ノードに、そのノードに最初に訪れた時に割り当てる。ネットワークを横断中に、アルゴリズムの各ウォーカは有効なスパニングツリーを生成することもでき、全ウォーカからのスパニングツリーのセットは、符号付きグラフのスパニングツリー全部のうち代表的サンプルを生成することが知られている。この実施形態では、方法はスパニングツリーを組み合わせてネットワークの単一のメタHYPを生成し、したがってこの方法はサンプル値スパニングツリー(SST)方法と呼ばれる。以下のセクションでは、このアプローチに関してさらなる詳細を提供する。
【0039】
SST方法
均衡した符号付きグラフG=(ノード,エッジ)及びその全ノード上で画定された量X
n(例えば、遺伝子の差次的発現、又は推定攪乱振幅[3]など)があると仮定すると、G上でのX
nの集約は下式のように定義される。
【数7】
ここで、
【数8】
は、nと1つの参照ノードREFとを関連させるGの任意の経路にわたるエッジ符号の積によって与えられるノードの符号である。Gは均衡したグラフであるので、
【数9】
は選択された経路に依存せず、したがって全ノードnで明白に定義される(
【数10】
は、「ネットワーク内の残りのノードに対する相対的符号」である)。有向符号付きグラフにおけるエッジ方向は、この状況に関係ないことに留意されたい。
【0040】
SST方法は、スパニングツリーの概念に基づく。すなわち、tがツリーであり、Gの全ノードを接続するGのサブグラフである場合、5はGのスパニングツリーである。スパニングツリーの1つの有用な特性は、式(1)で導出された集約量X
Gを、任意のtに関して下式のように同様の意味で書き換えることができるという事実に由来する。
【数11】
ここで、
【数12】
はノードnと参照ノードREFの間で
【数13】
の1つの単独経路にわたって計算されている。Gのすべてのスパニングツリーt
1...t
N(G)を列挙できるとすると、X
Gは同様の意味で下式のように書き換えることができる。
【数14】
SST方法の重要な利点は、Gが不均衡なグラフである場合でも、式(3)が明確な輪郭を有することである。この特性は、スパニングツリーの列挙がエッジ符号(すなわち、
【数15】
又は
【数16】
)に依存せず、所与のスパニングツリーtについて
【数17】
が明確に画定されるという事実に由来する。式(3)のスパニングツリーt及びノードnについて和を入れ替えると、最終式になる。
【数18】
ここで、下式の通りである。
【数19】
式(4)は、均衡したグラフィでのみ有効であるX
Gの最初の定義を拡張する。これは、不均衡なグラフの場合、離散型ノード符号
【数20】
を連続する有効なノード重み
【数21】
で置換する。これは、G上でのX
nの明確な集約を計算することができるすべての可能なスパニングツリーの「位相平均」を表す。ノードの有効重み
【数22】
は、本明細書の特定の集約方法(式(1))の一般化も行い、不均衡なグラフの2つのノード(nとREF)間で一般的に適用可能な「位相平均化した」符号付き関係を表す。
【0041】
実際、すべてのスパニングツリーの明示的列挙は、大きい不均衡なグラフでは非現実的になる。したがって、SST方法の別の態様は、式(5)のすべてのスパニングツリーt
1...t
N(G)の網羅的な合計を、スパニングツリーT(G)の算出可能な代表的サブセットを含む近似で置換することが好ましい。これに対する1つの算出のアプローチは、オルダス方法を適用することであり、これはグラフ上でランダムウォークを使用し、スパニングツリーの適切な均一のサンプルを生成する。特に、この算出方法は、「符号付き」ウォーカをグラフに沿って移動させることを含み、その軌跡及び符号
【数23】
は、以下のローカルルールのセットによって決定される(Gが接続されているものと仮定する)。
1.各ウォーカは、参照ノードREFにて正の符号「+1」で始まる。
2.ウォーカは、現在のノードに接続された横断すべきエッジをランダムに選択する。エッジの選択は、エッジの符号又は方向の無関係である。
3.ウォーカの符号は、「増大」エッジ(
【数24】
)を横断する場合は保持され、「減少」エッジ(
【数25】
)を横断する場合は反転する。
4.次のノードをそのウォーカが既に訪れていない場合、ウォーカは次のノードを訪問済みとマークし、その符号をそのノードに割り当てる。
5.次のノードをそのウォーカが既に訪れている場合は、ウォーカはそのノードからの符号を採用する。
6.グラフの全ノードを訪れるまで継続する。
【0042】
以上で説明したオルダス方法の枠組みで、式(5)は下式に置換することができる。
【数26】
ここで、N
±(n,G)は、ノードnを訪れたランダムウォーカの数を正/負の符号とともに記録する。N
+(n,G)+N
−(n,G)は、T(G)のサンプリングされたスパニングツリーの総数であり、これは
【数27】
の近似の収束を確実に行うように選択される。サンプリングされたスパニングツリー
【数28】
は、式(6)の
【数29】
を算出するために明示的に必要とされないことに留意されたい。しかしながら、所与のウォーカについては、ステップ4中に横断したすべてのエッジを収集することによって、これを再構築することができる。
【0043】
SST方法の検証
例示の目的で、SST方法を最初に、
図7に示す整合のとれないフィードフォワードループ(IFFL)に適用する。この例示的なネットワークでは、ノードA及びBに関連する2つの経路
【数30】
及び
【数31】
が、それらの連結エッジの符号の積によって定義されるように、同じ符号を有していない。同じことがノード対(A,C)にも当てはまり、ネットワークの残りのノードB及びCに対するノードAの相対的符号が曖昧であることを示す。これらの観察結果は、因果的に一貫していないネットワーク又は「不均衡な」グラフのケースに対応し、これらについて集約手順を明確に実行することができない。
図8は、
図7のネットワークのスパニングツリーを示す。対応するグラフに適合可能な3つのスパニングツリー{t
1,t
2,t
3}が容易に構築されるので、SST方法のサンプリング部分が(この例では)不要である。これで、式(5)は以下の集約重み:
【数32】
を直接生成する。ここで、通常は遺伝子の差次的発現に対応する以下のノード値X
A=X
B=X
C=1であると仮定すると、式(4)から集約値X
IFFL=1.667が得られる。この結果は、個別の値の合計より小さく、これらのノード値X
nがグラフのエッジ
【数33】
と一致していないことを反映している。スパニングツリーに関して、式(3)により(X(t
1),X(t
2),X(t
3))=(3,1,1)が生成される。この結果は、スパニングツリーt
1がX
IFFLに対する最高の寄与値を提供することを示し、これは不調和エッジ
【数34】
を含んでいないからである。他のノード値X
nを使用することにより、同様の配慮をすることができる。この簡単な例から、スパニングツリーに基づく集約により量的に一貫した結果が得られ、ノードに基づく表現とスパニングツリーに基づく表現との両方を有意義に使用し、その結果を解釈できるという結論を下すことができる。
【0044】
アプローチをさらに検証するために、SST方法を、肺の現実の生物学的プロセスを誠実に記述するように構築され、したがって負のフィードバック及び矛盾した調節関係を含む複雑で因果的に一貫していないネットワークに適用した。これらのネットワークの多くで、少数のエッジを除去して、因果的に一貫していないネットワークを、所望の因果的に一貫していないネットワークに生物学的に最も近く、因果的に一貫しているネットワークへと還元した。エッジを除去する決断は、各ノードと参照ノード間の予想/所望の因果関係に基づいて下した。例えば、負の調節因子を、それらの転写調節を通してネットワークに正で関連させるのではなく、それらの阻害因子の活性を通してネットワークに負で関連させるように、フィードバックループを編集した。そうすることにより、因果的に一貫していないネットワークに基づいて計算したSSTの結果を、これに対応するプルーニングされて因果的に一貫したネットワークのバージョンで得た集約結果と比較することが可能であった。これにより、算出と生物学の両方の視点からSSTアルゴリズムを試験する機会が提供される。
【0045】
これらのネットワークモデルをコードするために使用される言語の特定のセマンティクスにより、上述したランダムウォークのルールのステップ2を変更して、ネットワークの余分な粒状性を考慮した。タンパク質及びその活性に関連する分子内エッジは、適合率がより高く、したがって2つの因果的に連結しているが、直接相互作用することが知られている異なるタンパク質の活性に関連する直接的な分子間エッジよりも、スパニングツリー内に保持される可能性が高くなる。直接相互作用することが知られていない2つの因果的に連結したタンパク質の活性に関連する間接的な分子間エッジは、重みが最低である。その結果、以下のステップ2にわずかに適応させたルールとなる。
2.モード毎に、ウォーカは各エッジの確率にしたがって、横断すべきエッジをランダムに選択する。相対的確率は以下の通りである。
a.分子内エッジ(分子とそれらの活性との関係):1
b.直接的な分子間エッジ(直接結合し、増大/減少する):1/2
c.間接的な分子間エッジ(増大/減少):1/3
d.発現エッジ(RNA発生量の変化につながる関係):1/4
【0046】
この方法で適応させたSST方法を、次に144のノード及び241のエッジを含む「低酸素ストレス」ネットワークで実行した。1,000のスパニングツリーを使用すると、20,000のスパニングツリー(最大差0.05未満)を使用したノード重みからの中央値の差が0.01未満の(式(6)で得られた)ノード重み
【数35】
を生成するのに十分であった。並行して、手作業で生物学的調査を実行し、4つのエッジを除去することによって、生物学的完全性を保持しているネットワークのプルーニングされた因果的に一貫したバージョンを生成した。SSTの有効ノード重み
【数36】
と明確なノード符号
【数37】
との比較で、符号レベルで異なる単一のノードでのみ特定された。SSTの結果をさらに詳細に検査すると、
図9を拡大したネットワークの領域に興味深い構成が明らかになった。すなわち、HIF1A(低酸素症誘発因子1−アルファ)の転写、TXNIP(チオレドキシン相互作用タンパク質)RNAの発生量、及びTXNIPタンパク質の発生量の間に、因果的な一貫性のなさが存在する。この因果的な一貫性のなさは2つの経路、すなわち、
【数38】
及び
【数39】
で示され、これは符号が反対である。SSTの結果は、最初の経路が好ましいことを示す。すなわち、それらを接続する「減少」エッジ(
【数40】
)に合致して、TXNIPタンパク質が負の符号を有し、HIF1Aが正の符号を有する。さらに、TXNIPのRNA発生量に関するSSTの有効重みが、ゼロに非常に近く、それはこのノードの符号がほぼ不明瞭で、したがって集約に対するこのノードの寄与率が小さいことを意味する。生物学的視点から、TXNIP RNAノードをタンパク質ノードに接続するエッジを、除去すべく選択した。何故なら、タンパク質発生量及びTXNIPの活性は、経路の負の調節因子であり、したがって集約したネットワークのスコアに対して負の寄与率を有していなければならないからである。これらの考慮事項はSSTの結果と適合する。この特定のケースは、SST方法がさらに複雑なネットワークへと拡大可能であり、その結果がネットワークの生物学的内容を反映することを示す。
【0047】
以上で検討した低酸素ストレスネットワークと同様に、因果的に一貫するよう手作業でプルーニングしたグラフのセットに照らし合わせてその性能をベンチマーキングすることにより、SST方法をさらに検証した。様々な細胞増殖、細胞ストレス、DACS、及び肺炎症の出版物に含まれる81(=15+7+32+23)のネットワークのセットで、26(=7+5+2+12)は因果的に一貫せず、19(=4+2+2+11)は上述したものと同じ要件を使用して、因果的に一貫したネットワークに手作業で変換することができた。SST方法を使用して、有効ノード重み
【数41】
を算出し、次にこれを、手作業で分解した対応するネットワークで定義されたノード符号
【数42】
と比較した。
【数43】
から予測値が得られ、
【数44】
から実際値が得られる分類の問題という見地から、SST方法は高い正確さを示すことが判明し、ラベリング誤り方向は4.4%の割合であった(
【数45】
についてはゼロ閾値を使用し、全ネットワークにわたって平均する;個別のネットワークについては、ラベリング誤りの割合は0%〜19%の範囲であった)。
図10に示すように、SST方法で測定した全体的AUROC(ROC曲線下面積)は0.992(個別のネットワークについては0.90〜1.0の範囲)であり、ラベリング誤り事象の大部分はゼロに近い有効ノード重みで発生した。これらの結果は、低酸素ストレスネットワークのケースでSST方法に引き出された結論を他のネットワークに拡張できることを示し、これはアプローチの信頼性を確実に裏付ける。
【0048】
最後に、SST方法は、ノード値集約にも使用され、特に遺伝子発現データを含むネットワーク攪乱振幅(NPA)及び生物学的影響因子(BIF)のスコア化計算を適用した。SST方法はデータ駆動型ではないので、遺伝子発現データはその結果の内容を変化させず、むしろ以上で提示した
【数46】
と
【数47】
との比較に関して異なる視点を提供する。この目的で、公衆データセットを使用し、このデータセットは、正常なヒト気管支上皮(NHBE)細胞のTNF治療の効果について述べている(Array Express識別子E−MTAB−1027)。19の生物学的ネットワーク(Hedgehog、Notch、Nuclear Receptors、PGE2、Hypoxic Stress、Osmotic Stress、DNA Damage−Components affecting TP63 Activity、Replicative Sensecence、Dendritic Cell Activation、Macrophage Activation、Macrophage Differentiation、Mast Cell Activation、Megakaryoctye Differentiation、NK Cell Activation、Neutrophil Chemotaxis、Neutrophil Response、T
C Response、Th1 Differentiation、及びTh17 Differentiation)のうち、8つのネットワークの組織文脈がNHBE細胞と整合した。これらの8つのネットワークのNPA GPIスコアを、それらの因果的に一貫していないバージョンについてはSSTの有効ノード重み
【数48】
を、プルーニングされた因果的に一貫しているバージョンについてはノード符号
【数49】
を使用して算出した。ネットワーク毎に、16の可能なコントラスト(4つの治療用量及び4つの時間点)にわたって対の値を比較した。8つのネットワークのうち6つが約0.9の相関を示した。Notchは低い相関(0.540)を示し、Replicative Senescence(−0.081)も同様で、後者は、
【数50】
及び
【数51】
に異なる符号を有するノード全部が、複製老化がMARKシグナル伝達に与える影響を関係づけるネットワークの単一の因果的に一貫していない領域に存在するという事実に由来する。後者の例は、SST方法が予想と概ね整合するノード方向を生成することができるが、実験から引き出され、ネットワークで記述された特定の生物学的性質の観点で、結果となる知見を調査することも望ましいことを指摘している。以上の例で、TNFが仲介したMARKの活性は、ネットワークの単一領域にある少数のネットワークノードを通して、Replicative Senescence(複製老化)ネットワークに大きな影響を与えることになった。この領域が、SST方法によって分解された因果的一貫性のなさを含んでいたという事実から、知見を調査して、これが生物学的に関連があることを確認することにさらに焦点を当てることができる。
【0049】
以下では、上述したSST技術を一般化する。そのために、また限定する意図ではなく、ウォーカの横断ルールを以下に述べる。
1.各ウォーカは、参照ノードにて「+」の初期内部状態で始まる。
2.各相互作用で、ランダムウォーカは、現在のノードに接続された横断すべき因果エッジをランダムに選択する。
・異なるタイプのエッジは、ランダムウォークにバイアス付与する異なる相対的確率を有することができる。例えば、ランダムウォーカにバイアス付与して、直接的関係と明示的に示されていない因果的増大又は減少エッジと比較して、直接的な因果的増大又は減少エッジを横断する可能性が2倍になるように選択することができる。
3.ウォーカの内部状態は、「増大」エッジを横断する場合は保持され、「減少」エッジを横断する場合は反転する。
4.次のノードをそのウォーカが既に訪れていない場合、ウォーカはそのノードに現在の内部状態のマークを付ける。
5.次のノードをそのウォーカが既に訪れている場合、ウォーカはそのノードからの符号を採用する。
6.そのウォーカがサブネットワークのすべての因果的に接続されたノードを訪れるまで、ステップ2〜5を繰り返す。
7.多数(例えば、1000)のウォーカに対して、この手順を繰り返す。
【0050】
全ウォーカがネットワークの横断を終了すると、一実施形態により、下式を用いて各ノードiの符号重みs
iを算出する。
【数52】
ここで、
【数53】
及び
【数54】
は、それぞれノードiを「+」及び「−」の符号でマークしたウォーカの数を示す。
【数55】
が
【数56】
より大きい場合は、負の符号よりも正の符号を有して参照ノードからノードiに到達するランダムウォーカが多く、したがってノードiは、因果増大エッジでメタHYPのソースノードに接続する。
【数57】
が
【数58】
より小さい場合は、正の符号よりも負の符号を有して参照ノードからノードiに到達するランダムウォーカが多く、したがってノードiは、因果減少エッジでメタHYPのソースノードに接続する。各エッジには追加的に、そのノードがソースノードと正又は負で関係する程度を示す符号重みs
iで注釈が付けられる。
【数59】
が
【数60】
と等しい場合、同じ数のランダムウォーカが、正と負の符号を有するノードiに到達した。このシナリオでは、ノードをメタHYPから削除する(あるいは、符号重みs
i=0との増大関係を割り当てる)ことができる。
【0051】
SST方法によって決定された符号重みがあれば、各ノードに関連付けられた重みを組み込むよう多少修正したHYPスコア化アルゴリズムを使用して、メタHYPスコアを算出することができる。例えば、強度式を適用して、符号重みでメタHYPをスコア化する場合、強度式は下式のようになる。
【数61】
ここで、β
iは下流HYPiのスコア、又はノードiの測定値のログ倍率変化であり、
【数62】
はメタHYP内のノードiの予測された調節(増大又は減少)に関連付けられた方向であり、s
iは符号重みであり、W
iは各ノードに関連付けられた正味重みである。ここで、正味重みは符号重みにのみ依存するが、正味重みを有するこの公式は、追加の重みを各ノードに導入する方法でメタHYPを変更する追加の方法を考慮する場合に重要になる(以下のHYPオーバラップの説明を参照されたい)。
【0052】
因果的に一貫していないネットワークのメタHYPを生成する代替方法も、SST方法で使用したものと同じランダムウォーク手順の結果を活用する。この方法は、各ウォーかの結果を組み合わせて、ネットワーク内の各ノードに関連付けられた単一の符号重みにするのではなく、個々の各ランダムウォーカから各ノードに割り当てられた符号のセットを使用して、ランダムウォーカ毎に異なるメタHYPを生成する。各メタHYPのスコアを、データセットの各コントラストについて算出し、各コントラストの最大絶対スコアを有するメタHYPを特定し、そのコントラストに対して選択する。スコアの大きさが最高のメタHYPは、根底にあるスコア及び/又は差次的測定値に最も整合するメタHYPである。あるいは、方法は、全コントラストにわたって最高の絶対平均スコアを有するメタHYPを選択することができる。これを考慮して、方法は、スコアの大きさが最高のメタHYP及び関連付けられたスパニングツリーを特定し、したがって方法は最大スコアスパニングツリー(MSST)と呼ばれる。
【0053】
要約すると、以上のセクションでは、SST方法で不均衡なグラフのノード間の符号付き関係を定義するための解決法について述べている。既に述べたように、この方法は最小構造としてスパニングツリーの概念を用い、ノード対の間の明確な関係を可能にする。これで、符号付きグラフ上でランダムウォークを用いて構築したスパニングツリーの代表的サンプルを平均することによって、2つのノード間の関係の連続的尺度が画定される。その観点から、不均衡なグラフを「過度に豊かな」符号付きグラフと見なすことができ、そこでは対毎のノードの関係、したがって元の集約手順を明確に画定することができない。グラフに適合するスパニングツリーの代表的サンプルを要約することにより、拡張した集約手順中に廃棄される情報はなく、したがってネットワークの生物学的内容が維持される。
【0054】
SST方法は、ランダムウォークを使用して、大きい「因果的に一貫していない」ネットワークを含む恣意的な符号付きグラフのノード値を集約する。このアプローチは、グラフのすべてのスパニングツリーから代表的サンプリングを行い、サンプリングしたすべてのスパニングツリーの平均値としてノードの有効重みを近似する。SST方法は、符号付きグラフでノード値(例えば、遺伝子の差次的発現、ノードNPAスコアなど)を集約する必要がある様々な状況に適用可能であり、恣意的なグラフのサイズに拡張可能である。
【0055】
HYPオーバラップの説明
多くのHYPはオーバラップする測定値のセットで支援することができ(
図5参照)、これによってそれらのスコアが相互依存し、これらのHYP内で特に攪乱された生物学的性質を捕捉するこれらスコアの能力が低下して、最終的に特定の機構的洞察を導出する能力を妨害する。このようなオーバラップの効果を低下させるために、メタHYPスコア化プロセスを変更し、HYPがメタHYP内の他のHYPとオーバラップする程度に基づいて、メタHYPスコアに対する各HYPiの寄与率w
iを調整する。このプロセスは、一意のサブネットワークへの重みを最高にし、他のサブネットワークと類似したサブネットワークへの重みを低下させた。
【0056】
メタHYP内の下流HYP間に存在するオーバラップの量を定量化するために、HYPスコア間に予想される相関を、以下のように計算することができる。N個の測定値(値は、HYP内にない遺伝子では0、因果減少関係で接続される遺伝子では−1、因果増大関係で接続される遺伝子では+1)を有する2つのHYP(2つの定数項ベクトル)e
1及びe
2と、HYP内の測定値に関する差次的測定値ベクトルX(N個の独立成分を有し、必ずしもガウスではなく、同じ標準偏差σを有するランダムベクトル)とについて考察する。ベクトルe
1とe
2の間のコサインは、これらHYPを支援する測定値の類似性の尺度を提供する。さらに、強度スコア化方法の場合、e
1とe
2の間のコサインが、任意の測定値のセットについて、これら2つのHYPのスコア間に予想される相関であることを示すのは単純明快である。
【数63】
【0057】
一実施形態では、次に予想される相関マトリクスを使用し、対応する列の逆絶対列合計を使用して、オーバラップの重みw
iを計算する。一般的に、絶対列合計が大きいほど、他と相関するサブネットワークの対応が高くなる。特に、オーバラップの重みは下式のように算出することができる。
【数64】
【0058】
強度式を適用して、このような重み付け係数でメタHYPをスコア化する場合、式は以下のようになる。
【数65】
ここで、β
iは下流HYPiのスコア又はノードiの測定値のログ倍率変化であり、
【数66】
はメタHYP内のノードiの予測された調節(増大又は減少)に関連付けられた方向であり、w
iは以上で定義したようなノードiのオーバラップの重みである。
【0059】
一般的に、重みを掛け合わせて、積の全ノードにわたる合計によって各ノードの重みを正規化することにより、HYP内の下流ノードに関連付けられた複数の重みを組み合わせ、単一の重みW
iにすることができる。例えば、オーバラップの重み及び符号の重みを組み合わせて、メタHYPのノード毎に単一の重みにするには、下式になる。
【数67】
【0060】
メタHYPのHYPへの変換
根底となるスコア又は差次的測定値の一次結合としてスコアを算出するNPA方法を使用して、メタHYPをスコア化する場合、下流HYPの根底となる差次的データの一次関数として、メタHYPを再公式化することが可能である。以下ではこのアプローチについて述べる。この変換は、直接構築されたHYP及びネットワークから構築されたHYPを同等に処理できるようにするという点で有用である。
【0061】
メタHYPからHYPを構築するには、一実施形態によれば、最初に(例えば、強度式を使用して)根底となるHYPスコアの関数としてメタHYPのスコアを公式化する。次に、各HYPスコアの公式をメタHYPスコアの等式に代入する。メタHYPとHYPのスコア化関数が、根底となる成分(メタHYPの場合はHYPスコア、HYPの場合は測定可能値)の一次結合である限り、この公式は、メタHYP内のHYPの根底をなす測定可能値の一次結合を表す。各HYPの寄与率を合計することにより、複数のHYPの下流にある測定可能値の寄与率を集合させ、測定可能値毎に単一の項にすることができる。これで、メタHYPスコアの解析公式(各下流HYPの測定可能値の解析関数として表される)に基づき、メタHYPのHYPを構築する。特に、各測定可能値はHYPの下流として現れ、ネットワークのソースノードを各測定可能値に関連させるエッジの符号は、スコアに対するそのノードの寄与率の符号に基づく。正の寄与率を有する測定可能値は、因果増大関係を介して接続され、負の寄与率を有する測定可能値は因果減少関係を介して接続される。さらに、寄与率の絶対値に等しい重み付け係数(メタHYPの公式で測定可能値の前にある係数)は、各下流測定可能値に割り当てられる。したがって、メタHYPは、各下流測定可能値からの重み付けされた寄与率を有するHYPで表される。HYPがこの方法でメタHYPから構築される場合は、重み付け係数が合計1になるという要件がない。
【0062】
メタHYPの以下の強度式について考察する。
【数68】
ここで、β
iは下流HYPiのスコア又はノードiの測定値のログ倍率変化を表す。これら2つのケースを別個に考察すると、AはHYPスコアによって表されるメタHYPのノードのセットであり、Bは測定値によって表されるメタHYPのノードのセットである。
【数69】
ここで、
【数70】
はノード
【数71】
の測定値のログ倍率変化を表し、
【数72】
は下流
【数73】
のスコアを表す。各kのHYPスコアを一次HYPスコア化方法によって算出する場合、各
【数74】
の式を包括的に下式のように表すことができる。
【数75】
ここで、
【数76】
はHYPk内の下流ノードのセットA
kにあるノードlの測定値のログ倍率変化を表し、ここで、項α
lは任意の重み付け係数(例えば、W
k)、換算係数(例えば、GPI HYPスコア化方法では1−pval
l)、及び方向d
lを含む。メタHYP内の各HYPkがこのようにスコア表示されていると、メタHYPスコアを下式のように公式化することができる。
【数77】
【0063】
この式は、測定値のログ倍率変化の重み付けした合計にすぎないので、複数の項で生じる(すなわち、メタHYP内の複数のHYPで下流測定値として現れる)各測定値の重みを合計することができる。したがって、メタHYPの強度は下式のように表すことができる。
【数78】
ここで、
【数79】
はメタHYP内の任意のHYPで下流として現れるノードmの測定値のログ倍率変化を表し、項α
mは測定したノードmに関連付けられた正味重み付け係数である。この形態で、メタHYPのスコアを計算して、測定値のログ倍率変化の一次関数にしている。したがって、メタHYPをHYPと交換することができ、ここで(ネットワークを表す)ソースコードを下流ノードmに接続するエッジの符号が、符号(α
m)によって与えられ(負は因果減少エッジ、正は因果増大エッジである)、各ノードに関連付けられた重み付け係数が
【数80】
によって与えられる。メタHYPをHYPに変換する能力があるので、この枠組みを追加的に任意のHYP様構造に拡張することができ、ここで下流ノードは他のメタHYP又はHYPによって表される。
【0064】
可能化テクノロジー
本明細書に記載する技術は、同一所有の同時係属出願の米国特許出願公開第US2005/00038608号明細書、第2005/0165594号明細書、第2005/0154535号明細書、及び第2007/0225956号明細書に記載されているようなコンピュータに実施された可能化テクノロジーを使用して実施される。参照により本明細書に組み込まれ開示を含むこれらの特許出願は、因果に基づく系の生物学的モデリングツール及び方法論について述べている。一般的に、このアプローチは、生物系の生物学的関係に関する仮説をたてるために、生物学的要素を表す複数のノードを含むデータベース、及びノード間の関係を述べる関係記述子を使用するソフトウェアで実施する方法を提供し、データベースのノード及び関係記述子は、生物学的表明の集合を含み、そこから1つ又は複数の候補生物学的表明が選択される。調査するためにデータベース内の標的ノードを選択した後、標的ノードの攪乱を規定する。それに応答して、標的ノードに影響する可能性があるか、標的ノードの影響を受けるデータベースの所与のノード及び関係記述子を横断する。横断ステップ中に生成されたデータに応答して、さらに解析するために候補の生物学的表明を特定することができる。これらの生物学的表明、及び本明細書に記載するノードは、標的ノードにとって重要なシグネチャ(すなわち、シグネチャの参照ノード)を含む。
【0065】
本開示の態様は、1つ又は複数の機械又はコンピュータデバイス上で通常はソフトウェアで実践することができる。一般化すると、機械又はコンピュータデバイス(「コンピュータ実体」)は通常、コモディティであるハードウェア及びソフトウェアと、記憶装置(ディスク、ディスクアレイなど)と、メモリ(RAM、ROMなど)とを備える。システムに使用される特定のコンピュータ実体は、開示された主題を制限するものではない。所与の機械は、通常の方法で機械をネットワークに接続するネットワークインタフェース及びソフトウェアを含む。主題又はその特徴は、独立したプログラムとして、又は1つ又は複数のネットワークに接続された、又は接続可能な機械のセットを使用する管理されたサービスとして実施することができる。さらに一般的には、一緒になって上述した本発明の機能を促進又は提供する1つ又は複数のコンピュータ関連の実体(システム、機械、プロセス、プログラム、ライブラリー、機能など)のセットを使用する製品又はサービスが提供される。典型的な実装では、サービスは1つ又は複数のコンピュータのセットを含む。代表的な機械は、コモディティである(例えば、Pentiumクラスの)ハードウェアを実行するネットワークベースのサーバ、オペレーティングシステム(例えば、Linux、Windows、OS−Xなど)、アプリケーション実行時環境(例えば、Java、.ASP)、及び所与のシステム又はサブシステムの機能を提供するアプリケーション又はプロセッサ(例えば、プラットフォームに応じてAJAXテクノロジー、Javaアプレット又はサーブレット、リンク可能なライブラリー、ネイティブコードなど)のセットである。ディスプレイを使用して出力を提供することができる。既述したように、製品又はサービス(又はその任意の機能)は、独立したサーバに、又は分散した機械のセットにわたって、又は任意のタブレット又はハンドヘルド式コンピュータデバイスに実装することができる。通常、サーバ又はコンピュータデバイスは、所望の実装環境に応じて公的に経路指示可能なインターネット、イントラネット、プライベートネットワーク、又はその任意の組み合わせに接続する。
【0066】
別の態様によれば、コンピュータ可読命令を含むコンピュータプログラム製品が提供される。コンピュータ可読命令は、コンピュータシステムにロードされ、実行されると、上述した様々な算出方法に従ってコンピュータシステムに演算させる。
【0067】
さらに一般的には、本明細書に記載する技術は、一緒になって上述した機能を促進又は提供する1つ又は複数のコンピュータ関連実体(システム、機械、プロセス、プログラム、ライブラリー、機能など)のセットを使用して提供される。典型的な実装では、ソフトウェアを実行する根底となる代表的な機械は、コモディティであるハードウェア、オペレーティングシステム、アプリケーション実行時環境、及びアプリケーション又はプロセス及び関連するデータのセットを含み、これは所与のシステム又はサブシステムの機能を提供する。記載のように、機能は独立した機械で、又は分散した機械のセットにわたって実施することができる。
【0068】
本開示の態様を実践することができるコンピュータプラットフォームは、同じ場所に設置されたハードウェア及びソフトウェアの資源、又は物理的、論理的、仮想的及び/又は地理的に別個の資源を含む。プラットフォームとの間で通信するのに使用される通信ネットワークは、バケットベース、非パケットベース、及び秘密又は非秘密、又はそれらの何らかの組み合わせとすることができる。
【0069】
このようなテクノロジープラットフォームの1つ又は複数の機能は、クラウド系のアーキテクチャで実装することができる。周知のように、クラウドコンピューティングは、構成可能なコンピュータ資源(例えば、ネットワーク、ネットワーク帯域幅、サーバ、処理、メモリ、記憶装置、アプリケーション、仮想機械、及びサービス)の共用プールに対するオンデマンドのネットワークアクセスを可能にするためのサービスデリバリのモデルであり、これは最小限の管理努力又はサービスのプロバイダとの対話で迅速に提供及び解除することができる。全体的又は部分的に活用することができる入手可能なサービスモデルには、Software as a Service(SaaS)(クラウドのインフラストラクチャでプロバイダのアプリケーションが実行される)、Platform as a Service(PaaS)(顧客がプロバイダのツールを使用して生成することができるアプリケーションをクラウドのインフラストラクチャ上に配備する)、Infrastructure as a Service(IaaS)(顧客が自身の処理、記憶装置、ネットワーク及び他のコンピュータ資源をプロビジョニングし、オペレーティングシステム及びアプリケーションを配備・実行することができる)が含まれる。
【0070】
コンピュータ実体又はシステムの所与の構成要素について別個に述べてきたが、機能の幾つかは所与の命令、プログラムシーケンス、コード部分などで組み合わせるか、共用できることが当業者には認識される。
【0071】
上述した数学的導出は代表的であり、限定するものではない。技術は特に、作用物質の生物学的影響の評価を定量化する、生物学的ネットワークの応答を特徴付ける、in vivo系の複雑な攪乱の生物学的影響を機構的に評価することなどに使用することができる。本明細書のアプローチは、個々の分子機構から系レベルのプロセスまで、生物学的実体をスコア化する統一され整合性のある枠組み、さらに各レベルのスコアを計算する方法を促進する。記載されるように、スコアは、活性の既知の効果に基づくその活性の程度、例えば、遺伝子の差次的発現、他の生物学的分子(例えば、タンパク質)の差次的レベル又は活性などの客観的評価を表す。本明細書に記載する定量方法は、トランスクリプトミクスによって測定した曝露に対する生物学的応答に対して、包括的な推定機構を提供する。この方法に可能な1つの使用法は、ある範囲の生物学的プロセス(治療に関係ある、及び関係ないプロセスを含む)に対する様々な治療薬の相対的効果を理解するために、その生物学的影響の比較評価を提供することである。さらに、消費者製品の環境曝露の生物学的影響を、系毒物学の新規のアプローチとして評価することができた。
【0072】
したがって、例えば、上述したネットワークスコア化方法の1つの用途は、環境毒素に対する曝露で起こりえる効果を測定することである。このようなシナリオでは、生物学的ネットワークは、酸化ストレス応答、DNA損傷応答、及びアポトーシスシグナル伝達経路のような細胞ストレスを感知し、反応する様々な経路を表す。細胞系統又は動物モデルを問題の毒素に曝露する実験から、トランスクリプトミクスのデータを収集し、このトランスクリプトミクスのデータからネットワークスコアを算出する。次に、特定のネットワークスコアを使用して、どの生物学的経路が毒素の影響を受けるか評価する。また、様々な毒素にまたがってネットワークスコアを比較し、様々な経路に対する毒素の相対的効果を算出及び/又はランク付けすることができる。例えば、酸化ストレス経路に対して毒素を最高スコアから最低スコアまでランク付けし、どの毒素が潜在的により強力な酸化ストレスの誘発因子であるか決定することができる。ある範囲の生物学的ネットワークにまたがって、このようなアプローチは様々な経路に対する様々な毒素の相対的影響を評価し、毒素の毒性プロファイルを比較する手段を提供し、そのネットワーク及びサブネットワークスコアを、既知の露光効果及び毒性限界を有する別の毒素のスコアと比較することによって、1つの毒素の曝露限界を算出する。
【0073】
別の例示的用途は、治療薬又は処置の効果の測定にある。適切な実験系(例えば、細胞系統又は動物モデル)を薬物で処置し、トランスクリプトミクスのデータを収集する。薬物の1つ又は複数の標的経路を表すネットワークをスコア化して、薬物の影響を評価し、関連するシグナル伝達経路を表すネットワークをスコア化して、薬物の潜在的な標的外の効果を検査する。さらに、様々なストレス及び毒素経路を表すネットワークをスコア化して、薬物の潜在的な毒性効果を評価しえる。最後に、単一の薬物の様々な用量、又は同じ経路(又は複数の経路)を標的とする様々な薬物を、標的経路におけるそれらの効果、関連する経路、及び毒性経路について比較し、所望の効果を有する用量又は薬物を特定する。
【0074】
これらは代表的な使用ケースにすぎない。
【0075】
本発明について説明してきたが、以下で請求の範囲を示す。