特許第6372910号(P6372910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372910
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】生花の流通・販売方法、及び生花製品
(51)【国際特許分類】
   A01G 5/06 20060101AFI20180806BHJP
   A47G 7/00 20060101ALI20180806BHJP
   B65D 85/50 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   A01G5/06
   A47G7/00 Z
   B65D85/50 200
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-23298(P2014-23298)
(22)【出願日】2014年2月10日
(65)【公開番号】特開2015-149895(P2015-149895A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】594002842
【氏名又は名称】株式会社シモジマ
(74)【代理人】
【識別番号】100087550
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 莞爾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元一
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−162782(JP,A)
【文献】 特開2005−307060(JP,A)
【文献】 特開平8−19332(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0227454(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 5/00 − 5/06
B65D 85/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収穫した生花の鮮度を維持して流通・販売する方法であって、
アクリルポリマーを主成分として含む被覆処理液で生花の表面をコーティングした後、
柔軟な袋体の中に前記生花を収容して、当該袋体の収容口を密閉し、
次いで、前記袋体内にエアを充填して当該袋体を膨化させ、
その後、膨化した前記袋体内に収容したままの前記生花を搬送し、
さらに、前記生花に直接手を触れることなく前記袋体内に収容したまま前記生花を展示する、
これら一連の工程において、少なくとも袋体内にエアを充填して当該袋体を膨化させる工程以降を、もしくは全工程を、生花の生育は抑制するが障害は起こさない所定の低温度の環境下で行うことを特徴とする生花の流通・販売方法。
【請求項2】
前記生花の表面を被覆処理液でコーティングする前に、硫酸アルミニウムを主成分として含む水揚げ処理液の中に前記生花の根もと側を浸漬しておく前処理工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の生花の流通・販売方法。
【請求項3】
前記袋体の収容口を密閉する際に、当該袋体内にエチレンガス吸収剤を配置することを特徴とする請求項1又は2に記載の生花の流通・販売方法。
【請求項4】
前記被覆処理液のコーティングは、当該被覆処理液の中に生花全体を浸漬することにより行うことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の生花の流通・販売方法。
【請求項5】
前記展示は、冷蔵ショーケースにおいて実施されることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の生花の流通・販売方法。
【請求項6】
前記袋体は、透明であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の生花の流通・販売方法。
【請求項7】
前記袋体は、提手部を備え、
前記展示は、前記冷蔵ショーケース内において前記提手部を係止し、前記袋体内に収容した生花の根もとが下方を向いた起立状態を保持するように行うことを特徴とする請求項6に記載の生花の流通・販売方法。
【請求項8】
表面がアクリルポリマーを主成分として含む被覆処理液でコーティングされた生花と、
前記生花を収容する柔軟な袋体と、
から構成され、
前記袋体は、前記生花の収容口が密閉され、内部に充填されたエアによって膨化していると共に、前記生花の周囲に生花の生育は抑制するが障害は起こさない所定の低温度に冷やされた前記エアが存在している、
ことを特徴とする生花製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、生花の流通・販売方法と、その方法により流通・販売される生花製品に係り、詳しくは、栽培地で収穫した生花(花卉)が、流通段階や展示段階で萎れたり傷ついたりすることを抑制し、鮮度を維持して販売することができるようにした技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海外から日本への生花の輸入量が増加している。たとえば、バラはインドから、カーネーションはコロンビアから、スプレーマムはマレーシアから、輪ギクは中国からの輸入がそれぞれ多い。
【0003】
ところが、生花は通常の青果物よりも商品としての持続期間が短いため、流通段階において、萎れたり、傷んだり、カビたり、腐ったりし易いものである。しかも、上述のように海外から船舶で生花を輸入する場合、収穫から販売店で展示されるまでに数週間から一カ月近い長期間を要することとなるため、流通段階において生花が受けるダメージは一層顕著である。また、花束や花篭等の装飾を施した生花製品の展示段階においても、同様の問題がある。
【0004】
そのため、生花が受けるダメージを少なくして新鮮な状態を長く維持する手段として、低温による保存方法が一般的に知られている。つまり、生花の老化の進行は、生花の呼吸速度と密接に関係し、この呼吸は温度依存性が極めて高いといわれている。また、収穫直後の生花の呼吸速度は、保存温度の増加に対して指数関数的に増加し、この呼吸により生花の老化を招くとともに、呼吸熱による蒸れが発生し、微生物の繁殖を招くことになる。ゆえに、生花を冷蔵して低温で保存するものとしている。
【0005】
しかしながら、生花を低温で保存する手段の場合、ある程度の期間は萎れや腐敗を阻止することができるものの、それだけでは海外から生花を輸入する場合などの長期間にわたって鮮度を保持することができない。
また、流通において生花は、段ボール箱やバケツ等に入れられた状態であるため、衝撃等から生花を保護することができない。しかも、生花は農薬や虫、雑菌等が付着しているおそれのあるため、特に飲食品など他の商品と一緒に流通・展示することが制限されるものである。
【0006】
そこで、生花の鮮度を長期間にわたって保持することを目的として、生花の表面を樹脂でコーティングし、この皮膜によって生花の呼吸を適度に抑えると共に、生花中の水分の蒸散を抑制するようにした手段も提案されている(たとえば、特許文献1、2を参照)。
また、流通段階における衝撃等から生花を保護することを目的として、包材フィルムよりなる包装体で生花を包装した後、この包装体の内部にエアを充填し、エアによって包装体が容易に潰れることなく生花の圧潰を防止するようにした手段も提案されている(たとえば、特許文献3を参照)。
さらに、生花の鮮度を保持すると共に、食品と隣接して陳列可能することを目的として、生花をポリエチレンテレフタレート製二軸延伸ブロー成形容器(以下、「PET缶」という。)に生け、水のない状態で密封包装し、0.1〜0.5kg/cm
の圧力に加圧した後、これを低温で保存または流通するようにした手段も提案されている(たとえば、特許文献4を参照)。
【0007】
しかしながら、生花の表面を樹脂でコーティングする手段の場合、生花の鮮度を長期間にわたって保持することはできるものの、流通段階において衝撃等から生花を保護することができない。また、農薬や虫、雑菌等の問題が解消されず、飲食品など他の商品と一緒に流通・展示することができない。
【0008】
また、生花を包装した包装体の内部にエアを充填する手段の場合、エアの存在によって流通段階において衝撃等から生花を保護すると共に、包装体の開口部を密封シールすることで生花に付着しているおそれのある農薬や虫、雑菌等の問題を解消することはできるものの、生花の鮮度維持に最も影響を及ぼす温度(気温)について何ら考慮されていない。ゆえに、数週間から一カ月近い長期間や、気温の高い夏場において、生花の鮮度を保持することはできないものといえる。しかも、包装体に熱収縮性のフィルムを用いて、植物を収納した包装体の開口部を密封シールした後に、包装体を加熱して熱収縮させるものとしていることから、生花が熱に対する影響を必要以上に受け、適切に鮮度を保持することはできないものと判断される。
【0009】
また、生花をPET缶に生け、これを低温で保存または流通する手段の場合、適度な酸素透過性を有する特別な成形容器を必要とするため、花束のような生花製品ごとに特別な成形容器へ入れて流通・展示するのはコストが掛かり経済的ではない。また、PET缶を密封包装するために、容器本体の口部と蓋材とを巻き締め等しなければならず、生花の包装体内への密閉作業に手間が掛かると共に、その作業が非常に煩わしいものである。さらに、上述のような構造のPET缶では、包材フィルムよりなる柔軟な袋状の包装体に比して開封作業が煩わしく、容易に開封することができない。しかも、開封作業中に生花を傷めてしまうおそれがある。
【0010】
さらに、柔軟な袋状の包装体の中に生花を収納し、その開口部を密封シールした後、包装体ごと冷却して生花を低温で保存するという、従来技術を適宜組み合わせた手段も考えられる。ところがこの手段の場合、生花の冷却に伴って密封された包装体内のエアが冷やされるため、包装体内部の圧が低下して包装体は萎んだようになり、流通段階において衝撃等から生花を保護する機能が低下したものとなってしまう。しかも、包装体が萎むことで、その表面に皺や弛み等が発生して見栄えの悪いものとなり、そのまま展示・販売するには商品価値が著しく低下したものとなってしまう。
【0011】
このように従来技術は、収穫後の生花の加工から流通、展示、販売までを一連に考慮したものではなく、どれも一長一短であると言わざる得ないものであり、生花が流通過程で萎れたり傷ついたりせずに長期間にわたって鮮度を維持すると共に、飲食品など他の商品と一緒に流通・展示することができるようにした手段は、出願人が知る限りこれまで提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実開昭62−60201号公報
【特許文献2】特開2005−307060号公報
【特許文献3】実開平2−8776号公報
【特許文献4】特許第2957338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みて成されたものであり、生花が流通過程で萎れたり傷ついたりせずに長期間にわたって鮮度を維持し、消費者に新鮮な状態の生花を持続的に提供できると共に、飲食品など他の商品と一緒に生花を流通・展示することができるようにした技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明における第一の生花の流通・販売方法は、収穫した生花の鮮度を維持して流通・販売する方法であって、アクリルポリマーを主成分として含む被覆処理液で生花の表面をコーティングした後、柔軟な袋体の中に前記生花を収容して、当該袋体の収容口を密閉し、次いで、前記袋体内にエアを充填して当該袋体を膨化させ、その後、膨化した前記袋体内に収容したままの前記生花を搬送し、さらに、前記生花に直接手を触れることなく前記袋体内に収容したまま前記生花を展示する、これら一連の工程において、少なくとも袋体内にエアを充填して当該袋体を膨化させる工程以降を、もしくは全工程を、生花の生育は抑制するが障害は起こさない所定の低温度の環境下で行うことを特徴とする。
【0015】
また、本発明における第二の生花の流通・販売方法は、上記第一の生花の流通・販売方法において、前記生花の表面を被覆処理液でコーティングする前に、硫酸アルミニウムを主成分として含む水揚げ処理液の中に前記生花の根もと側を浸漬しておく前処理工程をさらに含むことを特徴とする。
すなわち、本発明における第二の生花の流通・販売方法は、硫酸アルミニウムを主成分として含む水揚げ処理液の中に前記生花の根もと側を所定時間浸漬した後、上記第一又は第二の生花の流通・販売方法を実施するものである。
【0016】
また、本発明における第三の生花の流通・販売方法は、上記第一又は第二の生花の流通・販売方法において、前記袋体の収容口を密閉する際に、当該袋体内にエチレンガス吸収剤を配置することを特徴とする。
【0017】
また、本発明における第四の生花の流通・販売方法は、上記第一乃至第三の何れか一の生花の流通・販売方法において、前記被覆処理液のコーティングは、当該被覆処理液の中に生花全体を浸漬することにより行うことを特徴とする。
【0018】
また、本発明における第五の生花の流通・販売方法は、上記第一乃至第四の何れか一の生花の流通・販売方法において、前記展示は、冷蔵ショーケースにおいて実施されることを特徴とする。
【0019】
また、本発明における第六の生花の流通・販売方法は、上記第一乃至五第の何れか一の生花の流通・販売方法において、前記袋体は、透明であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明における第七の生花の流通・販売方法は、上記第六の生花の流通・販売方法において、前記袋体は、提手部を備え、前記展示は、前記冷蔵ショーケース内において前記提手部を係止し、前記袋体内に収容した生花の根もとが下方を向いた起立状態を保持するように行うことを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明の生花製品は、上記第一乃至第七の何れか一の生花の流通・販売方法の何れかを用いて流通・販売されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の生花の流通・販売方法は、アクリルポリマーを主成分として含む被覆処理液で生花の表面をコーティングするものとしている。ゆえに、生花の表面に被覆処理液による皮膜を形成し、生花の呼吸を適度に抑えると共に、生花中の水分の蒸散を抑制して、生花が萎れずに長期間にわたって鮮度を維持させるものとすることができる。
【0023】
また、本発明では、被覆処理液で表面をコーティングした生花を柔軟な袋体の中に収容し、その収容口を密閉した後、さらに当該袋体の中にエアを充填して当該袋体を膨化させ、膨化した袋体内に生花を収容したまま搬送し、その後、生花に直接手を触れることなく袋体内に収容したまま展示するものとしている。ゆえに、生花の周囲にエアによる緩衝領域を形成し、外部から受ける衝撃等を抑え、流通過程で生花が傷つかないように保護することができる。
【0024】
また、本発明では、生花は袋体内に密閉されたものとしている。ゆえに、農薬や虫、雑菌等が周囲に飛散するおそれが解消され、飲食品など他の商品と一緒に流通・展示することができるものとなる。しかも、生花を収容する柔軟な袋体は、周知で安価な包装材によって構成され、この袋体の密封作業も周知で簡易な手段で行えるので、非常に経済的に密封作業を行うことができる。さらに、この袋体は手で破くことができるので、簡易に開封することができ、開封作業中に生花を傷めてしまうおそれもない。
【0025】
また、本発明では、これら一連の工程において、少なくとも袋体内にエアを充填して当該袋体を膨化させる工程以降を、もしくは全工程を、生花の生育は抑制するが障害は起こさない所定の低温度の環境下で行うものとしている。ゆえに、温度(気温)に対する影響を少なくして生花に与えるストレスを軽減し、数週間から一カ月近い長期間、生花の鮮度を保持することができる。しかも、気温の高い夏場においても、生花の鮮度を保持することができる。
【0026】
さらに、本発明では、袋体内にエアを充填して当該袋体を膨化させる工程を、所定の低温度の環境下で行い、その後の工程も同じ環境状態を維持して行うものとするので、生花を収容して密閉した袋体内にエアを充填して当該袋体を膨化させる工程までは室温で行い、その後の流通・販売工程だけを低温環境下で行うものとする場合のように、包装体が萎んで表面に皺や弛み等が発生し、見栄えが悪いものとなって商品価値を落としてしまうおそれもない。
【0027】
したがって、本発明は、収穫後の生花の加工から流通、展示、販売までを一連に考慮したものであり、生花が短期間で萎れてしまったり、傷んでしまったりすることを抑制し、長期間にわたって生花の鮮度を維持することができるので、消費者に対して新鮮な状態の生花(花卉)を持続的に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る生花の流通・販売方法を説明する工程図である。
図2】本発明に係る他の生花の流通・販売方法を説明する工程図である。
図3】本発明に係る他の生花の流通・販売方法を説明する工程図である。
図4】本発明に係る他の生花の流通・販売方法を説明する工程図である。
図5】本発明に係る生花の流通・販売方法において生花を収容するために用いる袋体を示す正面図である。
図6】本発明に係る生花の流通・販売方法を用いて流通・販売する生花製品を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明における実施の形態の一例について、図面を参照して説明する。
なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるため技術的に種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0030】
<第1の実施の形態>
図1に示すように、本発明における生花の流通・販売方法は、まず、収穫した生花の表面を、アクリルポリマー(アクリル共重合体)を主成分として含む被覆処理液でコーティングする(第一工程)。
【0031】
被覆処理液は、たとえば、イスラエル国のグリーノイ(Greenoy)社が製造・販売する生体コーティング剤である商品名:ディップノイ(Dipnoy)を用いることができる。
このディップノイは、生花より水分や栄養素等の蒸散を防ぐために、生花の花冠・蕾ならず、葉、茎を含めた全体をコーティングする処理剤である。ディップノイは、アクリル系樹脂がベースとなっており、プロクロラズや水のほか、第四級アンモニウム化合物、亜硫酸水素ナトリウム、イソプロピルアルコールが配合され、色やにおい等は生花側に影響しないものとなっている。
【0032】
また、生花は、蕾が開花したものでも良いが、長期間流通過程に置かれることを考慮して、開花前に収穫した切り花を用いると望ましい。具体的には、若干の蕾が開き、おおよその蕾が未だ閉じている段階を示す、いわゆるカットステージがステージ2の状態で収穫した生花が望ましい。
【0033】
生花への被覆処理液のコーティングは、生花の周囲に被覆処理液が万遍なく塗布されていれば良く、その方法は特に限定されない。本実施の形態では、収穫した生花全体を被覆処理液の中へ浸漬することで、生花の表面に被覆処理液をきれいに万遍なくコーティングさせるものとする。この被覆処理液のコーティングは、被覆処理液の中に生花全体を数秒から数十秒間浸漬することにより行うことができる。
【0034】
次いで、被覆処理液の中から生花を取り出し、余分な被覆処理液が落ち切るまで静置した後、この生花を、柔軟な袋体の中に収容し、その袋体の収容口を密閉する(第二工程)。
この袋体は、生花を収容することができる大きさ、形状をし、生花を収容した後に、その収容口が密閉でき、かつ、後述するように内部へエアを充填することで風船のように膨らむことができる柔軟なものであれば、材質は特に限定されない。
【0035】
本実施の形態において、袋体は、たとえば、図5に示すことができる。
図5において、袋体10は、下方へ向かうにしたがって徐々に幅が小さくなる下向きの略三角形状をした縦長の収容部11を有し、上方に生花を収容するための収容口12を備えるものとして示されている。
【0036】
ゆえに、袋体10の収容口12より収用部1の中へ生花を根もと側から挿入すると、収容部11における幅狭の下方部分で、生花の根もと側のぶれを抑制して起立状態を保持するように、また、複数本の生花が挿入された場合に根もと側が収用部11の底部でばらけることのないように保持しつつ、幅広の上方部分で生花の花冠部分を保護するものとすることができる。
【0037】
また、袋体10の収容口の封止は、密閉することができるのであれば、接着剤を用いても、熱溶着でも良く、特に限定はされないが、接着剤成分の生花への影響や、密閉作業のし易さを考慮すると、熱溶着が望ましい。具体的には、たとえば熱溶着が可能なポリエチレン等の合成樹脂フィルムよりなる包装体を用いることが望ましい。
【0038】
この袋体10は、後述する展示において効果的であるように、内部に収容された生花を外部から視認可能な透明であると望ましい。ここで、透明とは、袋体を介して内部に収容された生花を外部から視認することができるものであることをいう。ゆえに、袋体10の中に収容された生花を外部から確認することができるのであれば、色彩や模様等が加えられた部分的に不透明な領域があっても差し支えない。
【0039】
袋体10に施す色彩や模様等は、袋体10の表面に直接施すものとしても良いし、予め色彩や模様等が施されたシールを袋体10の表面に貼着したり、予め色彩や模様等が施されたシート等で生花を包み、生花と一緒に袋体10の内部に挿入したりするものとしても良い。また、袋体10に加える模様等としては、たとえば、「お誕生日おめでとう!」といった誕生日プレゼント向けの文字や、「お母さん、いつもありがとう。」といった母の日プレゼント向けの文字等であっても良い。
【0040】
また、図5において、袋体10は、収容部11の中へエアを充填することができるエア充填口13を備えるものとして示されている。
このエア充填口13は、後述する工程(第三工程)において、収容部11の中へ充填したエアが逆流して漏れない構造の逆止弁となっている。ゆえに、エアの充填によって膨らんだ袋体10は無闇に萎まずに、このエアによって衝撃等から生花を保護することができるものとなっている。
【0041】
さらに、図5において、袋体10の上方には、その周胴部において互いに対抗する位置(すなわち、正面側と背面側)に手提部14,14がそれぞれ備えられたものとして示されている。
この手提部14は、後述する工程(第四工程)において、フック等に係止したり、生花製品の購入後において、生花が収容されて膨らんだ袋体10を片手でぶら提げるように把持して持ち帰ることができるので非常に便利である。
【0042】
また、本発明では、袋体の収容口12を密閉する際に、この袋体10の中にエチレンガス吸収剤(図示せず)を配置するものとしても良い。すなわち、エチレンは農産物の熟成を促すものとして知られており、袋体の中にエチレンガス吸収剤を配置することで、密閉した袋体の中のエチレンガスを吸着させて、生花の熟成を抑制することができるものとなる。なお、このエチレンガス吸収剤は、特別なものである必要はなく、たとえば炭(竹炭等)や、多孔質の鉱物(ゼオライト等)といった周知のものを用いることができる。
【0043】
引き続き、作業を実施する周囲の雰囲気を、生花の生育(開花)は抑制するが障害は起こさない所定の低温度とし、この環境下で、収容口12を密閉した袋体10内に充填口13を介してエアを充填して当該袋体10を膨化させ、生花製品とする(第三工程)。
ここで、所定の低温度とは、生花の生理活性を最も抑制する温度をいい、具体的には、2〜7℃が良く、望ましくは2〜4℃とする。
【0044】
本実施の形態において、生花製品は、たとえば、図6に示すことができる。
図6において、生花製品20は、袋体10の収容部11内に生花Fが収容され、この収容部11の収容口12が熱溶着によって封止された密閉部15を有し、充填口13より充填されたエアAで収容部11が膨化したものとして示されている。
【0045】
そして、生花製品20は、上述した所定の低温度を維持したまま、飛行機や船舶、鉄道、トラック、等によって店舗等へ搬送し、店舗等において生花製品20を展示・販売する(第四工程)。
生花製品20の展示においては、たとえばコンビニエンスストアやドラッグストア、スーパーマーケット、ディスカウントストア、ホームセンター等の店舗や、自動販売機において行うことができる。
【0046】
また、本発明における生花製品20は、生花Fが袋体10内に密閉されているので、農薬や虫、雑菌等が飛散するおそれが解消されたものとなっており、飲食品など他の商品と一緒に流通・展示することができるものとなる。ゆえに、食品等と冷蔵ショーケースを共用して展示することもできる。
【0047】
また、生花製品20の展示においては、手提部14,14を用いて冷蔵ショーケース内に吊下げることで、袋体10内に収容した生花Fの根もと側が下方を向いた、見栄えの良い起立状態を保持して展示を行うことができる。
【0048】
このように本発明は、収穫後の生花の加工から流通、展示、販売までを一連に考慮したものであり、流通・販売過程において長期間にわたって生花の鮮度を維持させることができるだけではなく、飲食品など他の商品と一緒に生花を流通・展示することができるので、生花専門店に限らず、新たな販売先の拡大(開拓)や、これに伴った生花の販売機会の増加が見込まれるものとなる。ゆえに、本発明による生花の損失の軽減と需要の拡大によって、生産者(生花農家)の収益が増加し、生花の品質と生産技術が向上することも期待できる。
【0049】
また、本発明は、顧客が購入して家へ持ち帰る際に生花が受けるダメージを著しく低下させることができる。
すなわち、これまで生花製品は、顧客が購入して家へ持ち帰る際、生花Fの根もと側部分を保持することで手の温もりを生花Fに伝えてしまったり、低温雰囲気中に置かれて(展示されて)いた生花をいきなり外気温に晒してしまったりすることから、生花は大きなダメージを受けるものとなっていた。特に、夏場など外気温が高いときは、温度による大きなストレスを受けるものとなっていた。
しかしながら、本発明における生花製品20の場合、生花Fに直接手を触れることなく手提部14,14を用いて生花製品20を手に提げて持ち帰ることができるので、手の温もりを生花Fに伝えることなく、生花Fの鮮度を維持することができる。
【0050】
また、本発明における生花製品20は、袋体10の中に収容した生花の周囲に所定の低温度に冷やされたエアAが存在しているので、顧客が生花製品20を購入して家へ持ち帰る際、収用部11の中に充填されたエアAを介して徐々に外気温に晒されることになる。ゆえに、生花が受けるストレスを緩慢化して、生花の鮮度を維持することができるものとなる。
しかも、本発明における生花製品20では、生花Fの周囲が袋体10で覆われているので、顧客が購入して家へ持ち帰る際に強い風が吹いているときであっても、花冠が風によるストレスに晒されることなく確実に保護されるものとなる。
【0051】
そして、本発明における生花製品20は、流通・販売後において、顧客が生花の鮮度を維持したまま適切に、効率良く、かつ、安全に家へ持ち帰ることができ、その後は、袋体10を破くことで簡単に生花Fを取り出して、所望の場所に飾ることができる。
【0052】
<第2の実施の形態>
また、本発明は、上述した第1の実施の形態における一連の工程を全て、所定の低温度を維持した環境下で行うものとすることもできる。すなわち、上述した第1の実施の形態とは、第一工程から所定の低温度を維持した環境下で行うものとする点で異なる。
なお、以下に述べる他の実施の形態では、上述した第1の実施の形態と異なる部分を中心に説明する。したがって、第1の実施の形態と同様の構成部分の説明は省略し、特に説明しない限り同じであるものとする。
【0053】
図2に示すように、本実施の形態における生花の流通・販売方法は、まず、作業を実施する周囲の雰囲気を、生花の生育は抑制するが障害は起こさない所定の低温度とし、この環境下で、アクリルポリマーを主成分として含む被覆処理液の中へ収穫した生花全体を浸漬させることで、生花の表面に被覆処理液をコーティングする(第一工程)。
被覆処理液は、第1の実施の形態と同様に、グリーノイ社のディップノイを用いることができる。
【0054】
次いで、被覆処理液の中から生花を取り出し、余分な被覆処理液が落ち切るまで静置した後、この生花を柔軟な袋体10の中に収容し、その袋体10の収容口12を密閉する(第二工程)。
引き続き、収容口12を密閉した袋体10内にエア充填口13を介してエアを充填して当該袋体10を膨化させ、生花製品20とする(第三工程)。
その後、上記所定の低温度を維持したまま、生花製品20を搬送し、この生花製品20に直接手を触れることなく、袋体10内に収容したままの生花製品20を店舗等において展示する(第四工程)。
【0055】
以上のように本発明は、生花の流通・販売方法における一連の工程を全て、所定の低温度を維持した環境下で行うものとしているので、生花Fに対して温度差によるストレスをできるだけ与えずに、収穫した後の生花の鮮度をより長く維持し、長期間に及ぶ流通・販売工程に耐え得るものとすることができる。
【0056】
<第3の実施の形態>
また、本発明は、上述した第1の実施の形態における一連の工程前に、所定の前処理を施すものとすることもできる。すなわち、上述した第1の実施の形態とは、生花の表面を被覆処理液でコーティングする第一工程の前に所定の前処理を行うものとする点で異なる。
【0057】
図3に示すように、本実施の形態における生花の流通・販売方法は、まず、硫酸アルミニウムを主成分として含む水揚げ処理液の中に、収穫した生花の根もと側を所定時間浸漬しておく(前処理工程)。
生花は、収穫後2〜4時間以内に水揚げ処理液に浸漬することが望ましく、浸漬しておく時間は、少なくとも一夜、望ましくは18〜24時間とする。
【0058】
水揚げ処理液は、たとえば、イスラエル国のグリーノイ社が製造・販売する前処理材である商品名:プリノイ(Prenoy)を用いることができる。
このプリノイは、生花の導管を開いて水揚げを良くする処理剤である。プリノイは、硫酸アルミニウムがベースとなっており、水のほか、第四級アンモニウム化合物、陰イオン界面活性剤が配合されたものとなっている。
【0059】
次いで、水揚げ処理液から生花を取り出し、アクリルポリマーを主成分として含む被覆処理液の中へ収穫した生花全体を浸漬させることで、生花の表面に被覆処理液をコーティングする(第一工程)。被覆処理液は、第1の実施の形態と同様に、グリーノイ社のディップノイを用いることができる。
【0060】
引き続き、被覆処理液の中から生花を取り出し、余分な被覆処理液が落ち切るまで静置した後、この生花を柔軟な袋体10の中に収容し、その袋体10の収容口12を密閉する(第二工程)。
さらに、作業を実施する周囲の雰囲気を、生花の生育(開花)は抑制するが障害は起こさない所定の低温度とし、この環境下で、収容口12を密閉した袋体10内にエア充填口13を介してエアを充填して当該袋体10を膨化させ、生花製品とする(第三工程)。
その後、上記所定の低温度を維持したまま、生花製品20を搬送し、この生花製品20に直接手を触れることなく、袋体10内に収容したままの生花製品20を店舗等において展示する(第四工程)。
【0061】
以上のように本発明は、生花Fの表面を被覆処理液でコーティングする第一工程の前に、生花Fの導管を開いて水揚げを良くする処理を行うものとしているので、収穫した後の生花Fの鮮度がより一層維持され、長期間に及ぶ流通・販売工程に耐え得るものとすることができる。
【0062】
<第4の実施の形態>
また、本発明は、上述した第3の実施の形態における一連の工程を全て、所定の低温度を維持した環境下で行うものとすることもできる。すなわち、上述した第3の実施の形態とは、前処理工程から所定の低温度を維持した環境下で行うものとする点で異なり、上述した第1の実施の形態とは、生花の表面を被覆処理液でコーティングする第一工程の前に所定の前処理を行うと共に、前処理工程から所定の低温度を維持した環境下で行うものとする点で異なる。
【0063】
図4に示すように、本実施の形態における生花の流通・販売方法は、作業を実施する周囲の雰囲気を、生花の生育(開花)は抑制するが障害は起こさない所定の低温度とし、この環境下で、硫酸アルミニウムを主成分として含む水揚げ処理液の中に、収穫した生花の根もと側を所定時間浸漬しておく(前処理工程)。
水揚げ処理液は、第3の実施の形態と同様に、グリーノイ社のプリノイを用いることができる。
【0064】
次いで、水揚げ処理液から生花を取り出し、アクリルポリマーを主成分として含む被覆処理液の中へ収穫した生花全体を浸漬させることで、生花の表面に被覆処理液をコーティングする(第一工程)。被覆処理液は、第1の実施の形態と同様に、グリーノイ社のディップノイを用いることができる。
【0065】
引き続き、被覆処理液の中から生花を取り出し、余分な被覆処理液が落ち切るまで静置した後、この生花を柔軟な袋体10の中に収容し、その袋体10の収容口12を密閉する(第二工程)。
さらに、収容口12を密閉した袋体10内にエア充填口13を介してエアを充填して当該袋体10を膨化させ、生花製品とする(第三工程)。
その後、上記所定の低温度を維持したまま、生花製品20を搬送し、この生花製品20に直接手を触れることなく、袋体10内に収容したままの生花製品20を店舗等において展示する(第四工程)。
【0066】
以上のように本発明は、生花の流通・販売方法における一連の工程を全て、所定の低温度を維持した環境下で行うと共に、生花Fの表面を被覆処理液でコーティングする第一工程の前に、生花F導管を開いて水揚げを良くする処理を行うものとしているので、生花Fに温度差によるストレスを与えず、かつ、収穫した後の生花Fの鮮度がより一層維持されるものとし、長期間に及ぶ流通・販売工程に耐え得るものとすることができる。
【0067】
なお、本発明においては、少なくとも袋体10内にエアを充填して当該袋体10を膨化させる工程以降が、生花の生育は抑制するが障害は起こさない所定の低温度の環境下で行われれば良いので、上述した第1乃至第4の実施の形態に限らず、生花を柔軟な袋体10の中に収容し、その袋体10の収容口12を密閉する工程(第二工程)から所定の低温度の環境下で行うものとしても良い。
【符号の説明】
【0068】
A エア、F 生花、10 袋体、11 収容部、12収容口、13 エア充填口(逆止弁)、14 提手部、15 密閉部、20 生花製品。
図1
図2
図3
図4
図5
図6