_以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
蛍光酸素消費計測システムは、蛍光酸素濃度センサ1、励起光源2、蛍光強度取得装置3、マイクロ流体チップ5、制御部11、を備えている。
蛍光酸素濃度センサ1は励起光を照射することで酸素濃度に応じた強度の蛍光を発するものである。具体的には、酸素感受性の蛍光物質を内部に固定して成形したものである。
励起光源2は、蛍光酸素濃度センサ1に固定した蛍光物質を励起して蛍光を発するために用いられるものである。具体的には、水銀ランプやレーザ、LEDを用いる。
蛍光強度取得装置3は励起光源2からの光で励起された蛍光酸素濃度センサ1からの酸素濃度に応じた強度の蛍光を受け取るものである。具体的には冷却CCD等を用いる。
マイクロ流体チップ5は蛍光酸素濃度センサ1が組み込まれており、細胞を計測中に保持するものであり、酸素の拡散係数が培地6と同程度の材料で作製されているものである。具体的には、材料としてポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いる。
制御部11は蛍光強度取得装置3で得た蛍光画像を受け取り、蛍光強度情報を酸素濃度較正直線と比較し酸素濃度プロファイルを算出、及び酸素消費速度を算出して出力するものである。具体的にはCPU、ROM、RAM及びI/Oを備えたものである。
「制御部における処理の説明」
図15のフローチャートより、蛍光酸素消費計測システムにおいて、制御部11で実行される蛍光強度分布情報から酸素消費速度情報への変換処理について説明する。制御部11はS101ステップにおいて、細胞及び細胞集合体12が存在しない状態で蛍光強度取得装置3で得られた画像情報を受け取りリファレンス画像とする。S102ステップにおいて、制御部11は細胞及び細胞集合体12が存在する状態で蛍光強度取得装置3で得られた画像情報を受け取り、リファレンス画像の各ピクセルの蛍光強度との比を計算し、蛍光強度比の二次元分布画像を得る。S103ステップにおいて、得られた蛍光強度比の二次元分布情報を制御部内に保存された温度較正直線と比較し、酸素濃度情報を計算し酸素濃度分布の二次元データを得る。S104ステップにおいて、任意の方向の酸素濃度プロファイルと式1から細胞及び細胞集合体12の任意の方向の酸素消費速度を算出し、データをファイルに保存しもしくは外部に出力する。
[第1実施形態]
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1は第1実施形態の蛍光強度情報による細胞酸素消費計測の模式図を示している。
蛍光酸素濃度センサ1は、ポリエチレングリコールを主成分とする光硬化性樹脂中にルテニウム錯体を封入したものであり、マイクロ流体チップ5の内部に固定されている。また固定する対象は、マイクロ流体チップ5等の表面等でもよい。
マイクロ流体チップ5は顕微鏡ステージ13上に設置されており、顕微鏡は対物レンズ4、励起用の光源2、蛍光強度取得装置3を備えている。蛍光強度取得装置3は制御部11に接続されている。
励起光源2としては波長561nmのレーザを用い、ダイクロイックミラー9、対物レンズ4を通して蛍光酸素濃度センサ1に照射し、蛍光酸素濃度センサ1からの蛍光を蛍光強度取得装置3で取り込み蛍光画像を得る。励起光源2としては水銀ランプやLEDを用いてもよい。
図2は蛍光酸素濃度センサ1を組み込んだマイクロ流体チップ5のセンサ部の拡大図である。本実施形態では、蛍光酸素濃度センサ1は縞状に配置した。
本発明では、細胞及び細胞集合体12近傍の酸素濃度分布が定常状態にあることを仮定して、球面拡散理論から細胞及び細胞集合体12の酸素消費速度を算出する。時間における濃度変化がない場合、Fickの第一法則より細胞及び細胞集合体12の表面での酸素流速fs[mol/m2・s]は式2として表される。
D[m
2/s]は拡散係数、C[mol/m
3]は酸素濃度、r[m]は細胞及び細胞集合体12の中心からの距離(r>rs)、rs[m]は細胞及び細胞集合体12の半径、S[m
2]は細胞及び細胞集合体12の表面積である。また、rは細胞及び細胞集合体12表面と蛍光酸素濃度センサ1間のPDMSの厚さをt[m]、細胞及び細胞集合体12と蛍光酸素濃度センサ1間の取得画像における距離をx[m]として式3として表される。
細胞及び細胞集合体12の形状を球としているため酸素消費速度は式1で表される。式1において細胞及び細胞集合体12における酸素濃度勾配は、蛍光画像における細胞及び細胞集合体12中心からの酸素濃度分布を最小二乗法でフィッティングしたプロファイルの細胞及び細胞集合体12表面での傾きとする。
マイクロ流体チップ5の設計に必要な蛍光酸素濃度センサ1の形状及びレイアウトは有限要素解析法等の解析結果に基づき行う。
図3〜6では直径を75μmの細胞近傍の酸素濃度分布の解析結果を示す。酸素消費速度は、1fmol/sに設定した。また蛍光酸素濃度センサ1における酸素の拡散係数は光硬化性樹脂のポリエチレングリコールジアクリレート(PEG−DA)の値3.4×10
−11m
2/sを用いた。また、細胞及び細胞集合体12と蛍光酸素濃度センサ1間のPDMSの厚さは10μmとした。
細胞及び細胞集合体12周辺の酸素濃度が球状に拡散するために必要な蛍光酸素濃度センサ1下部のPDMSの厚みを解析した結果を
図3及び
図4に示す。センサの下部は顕微鏡ステージ13に固定するためガラスが存在するが、ガラスは酸素を透過しないため、蛍光酸素濃度センサ1とガラスの距離を適切に設計する必要がある。距離が50μmの場合は酸素の拡散が不均一になるが、200μm以上では均一な拡散となる結果が得られた。
蛍光酸素濃度センサ1の配置の検討として、平面状に配置した場合と縞上に配置した場合の酸素濃度分布を比較した結果を
図5及び
図6に示す。平面状に蛍光酸素濃度センサ1を配置した場合、蛍光酸素濃度センサ1の酸素拡散係数が小さいため酸素濃度分布が不均一になったが、縞状(センサ幅:5μm、センサ間距離:5μm)に配置した場合球状に酸素濃度分布が形成できることを確認した。
以上の解析結果より、蛍光酸素濃度センサ1下部のPDMSの厚みを1mm、蛍光酸素濃度センサ1の配置は幅5μm、間隔5μmとすることで卵子近傍の酸素濃度分布が球面拡散理論を成立させ、式1を用いて酸素消費速度を算出する。
蛍光酸素濃度センサ1を組み込んだマイクロ流体チップ5の酸素濃度を変化させ、それぞれの酸素濃度での蛍光画像を取得し、蛍光酸素濃度センサの蛍光強度を取得したところ、
図7となり較正直線が得られた。
図8〜11にマウス卵子の酸素消費速度を計測した結果を示す。
図8は明視野でのマウス卵子画像、
図9はマウス卵子が無い状態での蛍光酸素濃度センサの蛍光画像、
図10はマウス卵子が存在する状態での蛍光画像、
図11は
図10の各ピクセルの蛍光強度を
図9の対応するピクセルの蛍光強度で除算した画像である。実験は、励起光源2として561nmのレーザを用い、蛍光強度取得装置3は冷却CCDを用いた。マウス卵子半径は33μmである。
図11において
図7で得られた較正直線から酸素濃度を算出し、A、B、C、Dの各方向においてマウス卵子中心からの酸素濃度プロファイルをプロットしたものが
図12である。
図12のデータを用い、マウス卵子表面での酸素濃度の傾きから酸素消費速度を求めた結果が
図13である。2つのマウス卵子の計測結果から、任意の方向のマウス卵子の酸素消費速度を非接触に計測することができる。
[第2実施形態]
次に、
図14に基づき第2実施形態について説明する。
図11は第2実施形態の蛍光強度情報による酸素消費速度計測の模式図を示している。蛍光酸素濃度センサ1はレーザ14によってマイクロ流体チップ5中でトラップされ細胞及び細胞集合体12近傍に多数任意の距離に配置することで細胞及び細胞集合体12近傍の酸素濃度プロファイルを取得できる。蛍光酸素濃度センサ1の操作に用いるレーザ14は蛍光温度センサ1の励起波長を含んでいないことが望ましい。また、蛍光酸素濃度センサ1の操作手段としては、レーザ14の他に、電場、磁場、超音波、流体力を用いてもよい。
蛍光酸素濃度センサ1をレーザ14によりトラップ若しくは任意の計測点まで搬送後に励起光源2から励起光7を蛍光酸素濃度センサ1に照射し、第1の実施形態と同様の手順で酸素消費速度計測を行う。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
例えば、第1実施形態〜第2実施形態では、酸素濃度計測に蛍光物質のみを用いているとしたが、蛍光物質に加えて呈色性の酸素濃度指示薬を用いて計測の補正を行うとしてもよい。
加えて、励起光や蛍光の干渉がなければ、酸素濃度計測以外に用いられる蛍光物質や呈色性の指示薬を同時に用いて複数の環境の同時計測を行ってもよい。
また、第1実施形態〜第3実施形態において、制御部において加算平均等、従来の計測器で用いられている信号処理手法を適用することで、ノイズ除去等を行い感度及び精度の向上が可能である。