(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372916
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】脂肪診断用付属装置および脂肪診断システム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20180806BHJP
【FI】
A61B8/14
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-135344(P2014-135344)
(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公開番号】特開2016-13177(P2016-13177A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】堀中 博道
(72)【発明者】
【氏名】森川 浩安
【審査官】
冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−070704(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/067304(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 − 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多チャンネルの主プローブを用いて測定部位からエコー信号を取得し、当該エコー信号により形成された超音波画像で画像診断を行う超音波診断装置に付設され、加温前後の測定部位のエコー信号から超音波速度変化を算出して脂肪診断を行うための脂肪診断用付属装置であって、
前記脂肪診断用付属装置は、光照射を行う副プローブと、
前記副プローブを介して測定部位に光照射することにより加温制御を行う加温制御部と、
前記主プローブおよび前記超音波診断装置を用いて測定された加温前後のエコー信号を当該超音波診断装置から取得して伝送する制御を行うエコー信号伝送制御部と、
前記伝送された加温前後のエコー信号から超音波速度変化を含む脂肪情報を算出する脂肪情報算出部と、
前記主プローブと前記副プローブとが装着されるとともに、主プローブから照射される超音波の軸線と、副プローブから照射される光の軸線とが一致するように、前記超音波と前記光とのいずれか一方を透過させるとともに、他方を反射させることにより、両者の軸線を重ね合わせて共通の出射口から軸線を一致させて出射させる結合部材を内蔵するプローブホルダとを備えたことを特徴とする脂肪診断用付属装置。
【請求項2】
前記プローブホルダは、主プローブの振動子および副プローブの光照射面に接するように流動性の超音波伝播媒体を充填した共通のスタンドオフが形成される請求項1に記載の脂肪診断用付属装置。
【請求項3】
前記脂肪診断用付属装置は、表示装置を有し計算処理が可能な外部コンピュータ装置が接続され、
前記脂肪情報算出部は前記外部コンピュータ装置に設けられる請求項1または請求項2のいずれかに記載の脂肪診断用付属装置。
【請求項4】
多チャンネルの主プローブを用いて測定部位からエコー信号を取得し、当該エコー信号により形成された超音波画像で画像診断を行う超音波診断装置と、当該超音波診断装置に付設され、加温前後の測定部位のエコー信号から超音波速度変化を算出して脂肪診断を行うための脂肪診断用付属装置とからなる脂肪診断システムであって、
前記脂肪診断用付属装置は、光照射を行う副プローブと、
前記副プローブを介して測定部位に光照射することにより加温制御を行う加温制御部と、
前記主プローブおよび前記超音波診断装置を用いて測定された加温前後のエコー信号を当該超音波診断装置から取得して伝送する制御を行うエコー信号伝送制御部と、
前記伝送された加温前後のエコー信号から超音波速度変化を含む脂肪情報を算出する脂肪情報算出部と、
前記主プローブと前記副プローブとが装着されるとともに、主プローブから照射される超音波の軸線と、副プローブから照射される光の軸線とが一致するように、前記超音波と前記光とのいずれか一方を透過させるとともに、他方を反射させることにより、両者の軸線を重ね合わせて共通の出射口から軸線を一致させて出射させる結合部材を内蔵するプローブホルダとを備えることを特徴とする脂肪診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像診断が可能な市販の超音波診断装置に、後付け機能あるいはオプション機能として、超音波速度変化による脂肪診断を行うために付設する脂肪診断用付属装置およびその脂肪診断用付属装置を用いた脂肪診断システムに関する。本発明は、例えば腹部等の内臓脂肪の診断、頸動脈等の血管内プラークの性質(繊維性あるいは脂質性)の診断等で利用される。
【背景技術】
【0002】
加温前後の超音波速度変化を利用した新しい画像診断手法として、生活習慣病の危険因子の1つである内臓脂肪を診断するために、関心領域に対して光照射による加温を行い、加温前後の超音波速度変化を計測して、超音波速度が温度変化に対し負の変化をする部位を脂肪組織として検出し、脂肪分布を診断する脂肪組織の検出方法および検出装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された脂肪診断装置(脂肪組織検出装置)について説明する。この装置はBモード断層画像を取得可能な反射型の超音波診断装置を元に、超音波速度変化画像を取得するために必要な制御部を追加搭載した装置本体と、被検体の体表に直接当接させて超音波照射や加温を行うプローブとを備えている。ここで使用されるプローブには、被検体の測定領域に対し画像診断用の超音波照射を行うアレイ型の多チャンネルプローブ(リニアアレイ探触子)と、当該多チャンネルプローブの隣には、被検体の測定領域を加温するために近赤外光の照射を行う赤外線レーザ光源とを並べて配置した専用のプローブが用いられている。
【0004】
多チャンネルプローブは、直線状に配列された圧電素子からなる多数の振動子を有しており、各振動子は、制御部からの駆動信号によりパルス波が励振されて超音波信号を送波し、この超音波信号に対する被検体内からの超音波エコー信号を受波する。そして制御信号により送受波を行う振動子を順に切り換えて走査するようにしてある。また、赤外線レーザ光源は多チャンネルプローブの横から700nm〜1000nmの近赤外光を照射するようにしてある。
【0005】
次に、この装置で超音波速度変化を測定し脂肪測定を行う動作について説明する。予め、上記多チャンネルプローブを駆動して取得したBモード画像による画像診断で被検体における測定領域を特定する。そして特定した測定領域に対し、赤外線レーザ光源から近赤外光を照射して加温し、所定の加温時間経過後に、リニアアレイ探触子を駆動し、パルス状の超音波信号を順次走査するようにして送波するとともに、被検体からの受信信号である超音波エコー信号を順次受波する。そして、光照射状態で取得した超音波エコー信号(受信信号)の波形を、光照射後超音波エコー信号として記憶する。
光照射後超音波エコー信号の受信波形の記憶が終わると光照射を停止する。この照射停止から所定時間経過し、被検体の温度が十分に低下したところで、再びリニアアレイ探触子を駆動し、超音波信号を送波するとともに、被検体から超音波エコー信号を受波する。そして、光照射停止状態で取得した超音波エコー信号(受信信号)の波形を非照射時超音波エコー信号として記憶する。なお、記憶された超音波エコー信号はその振幅を輝度表示することでBモード断層画像として表示される。
続いて、光照射後と非照射時の超音波エコー信号に基づいて、以下に示す関係から超音波速度変化を求める。
【0006】
図8はある部分区間の非照射時(加温前)超音波エコー信号と光照射後(加温後)超音波エコー信号とを示す模式図である。非照射時の超音波速度をV、光照射後の超音波速度をV’とする。また、非照射時にある境界間を超音波信号が伝播するときに生じるパルス間隔をτとし、同じ境界間(距離一定)を光照射後に超音波信号が伝播するときに生じるパルス間隔をτ−Δτとする。すなわち、温度変化によりΔτだけパルス間隔が短くなるようにシフトしたとする。
このとき、
V・τ = V’・(τ−Δτ) ・・・(1)
の関係が成立し、したがって、2つのエコー信号におけるパルス間隔の時間変化から超音波速度変化データが次式(2)で算出できる。
V’/V = τ/(τ−Δτ) ・・・(2)
したがって、測定した2つのエコー信号から関心領域におけるパルス間隔(τ)、波形シフト量(Δτ)を算出し、式(2)に基づいて各部位での超音波速度の変化(超音波速度変化比(V’/V))を算出する。
【0007】
続いて、算出された各部位の超音波速度変化比(V’/V)に基づいて、この値が1より小さい部位(加温に対する超音波速度変化が負の領域)を脂肪領域と判定する。
すなわち、水中および脂肪中を伝播する超音波速度は37℃のとき水中音速が1524m/秒、脂肪中音速が1412m/秒であるが、温度変化に対する超音波速度変化を比較すると、以下の通りである。
水: +2 m/秒・℃
脂肪: −4 m/秒・℃
よって、水分が多く含まれる筋肉や内臓(肝臓等)は温度が上がると超音波速度が増加するのに対し、脂肪部分では超音波速度が減少することになり、超音波速度変化の極性が反転する。
そこで、測定領域を温度変化させたときに超音波速度変化が負となる領域を特定すれば脂肪領域の検出を行うことができる。
【0008】
そして、多チャンネルであるアレイ型探触子を走査して取得した多数本の超音波エコー信号による超音波速度変化の解析結果から、超音波速度変化の二次元分布を画像化して表示装置に表示することにより、脂肪領域が他の部位と明確に分けて画像表示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−005271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載された脂肪診断装置では、市販の超音波診断装置に、脂肪診断に必要な操作や演算処理を実行するための制御系を追加した装置本体に改造するだけでなく、アレイ型の多チャンネルプローブの隣に加温用の赤外線レーザ光源を横に並べて配置した一体構造の専用プローブを用意する必要がある。そのため、既に市販の超音波診断装置を所有しているユーザが、新たに超音波速度変化による脂肪診断を行うためには、装置本体の操作部や制御部の変更だけでなく、プローブについてもこれまでの画像診断用の市販の多チャンネルプローブの他に、新たに赤外線レーザ光源が多チャンネルプローブの横に設けられた専用プローブが必要になる。
【0011】
また、上記の専用プローブを用いることにより、体表上から赤外線レーザ光で加温して脂肪診断を行うことができることになるが、この専用プローブは多チャンネルプローブとレーザ光源とが横に並べて配置されている構造であるため、多チャンネルプローブからの超音波の照射位置と、加温用のレーザ光の照射位置とは少し離れている。そのため、多チャンネルプローブを用いた画像診断で求めた測定部位と、加温位置とを正確に一致させることが難しく、多チャンネルプローブによる画像診断によって定めた測定位置と、レーザ光により加温される位置のずれが生じやすい。このような位置ずれは体表からの深度が比較的浅い位置で顕著になる。
【0012】
さらに、骨組織の近隣において上記の専用プローブを用いた診断を行う場合、超音波の照射位置とレーザ光の照射位置との位置ずれが生じることによって測定ができないという問題も生じる。すなわち、肋骨間の間隙や骨組織のすぐ隣に多チャンネルプローブを当接して超音波照射を行う場合には、レーザ光源直下に骨組織が存在することがあり、その場合には骨組織に遮られてレーザ光による加温ができず、脂肪診断ができない場合もある。
【0013】
以上のことから、本発明は、市販の画像診断用超音波診断装置に対し、大きな改造を行うことなく追加設備を後付け、あるいは、オプションとして付設することにより、市販の画像診断用超音波診断装置および画像診断用のアレイ型の多チャンネルプローブをそのまま用いて、これまでと同様の画像診断を行うことができ、その上で、生体の加温前後の超音波速度変化測定による脂肪診断を可能にする脂肪診断用付属装置を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、画像診断用の超音波の照射位置および照射方向と、加温用の照射光の照射位置および照射方向とを一致させるようにして、画像診断で定めた測定位置に対して正確に同じ測定位置での加温および脂肪診断を行うことができる脂肪診断用付属装置を提供することを目的とする。
【0015】
さらに、本発明は、上記の脂肪診断用付属装置を用いた脂肪診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
すなわち、上記課題を解決するためになされた本発明の脂肪診断用付属装置は、多チャンネルの主プローブを用いて測定部位からエコー信号を取得し、当該エコー信号により形成された超音波画像で画像診断を行う超音波診断装置に付設され、加温前後の測定部位のエコー信号から超音波速度変化を算出して脂肪診断を行うための脂肪診断用付属装置であって、前記脂肪診断用付属装置は、赤外光の光照射を行う副プローブと、前記副プローブを介して測定部位に光照射することにより加温制御を行う加温制御部と、前記主プローブおよび前記超音波診断装置を用いて測定された加温前後のエコー信号を当該超音波診断装置から取得して伝送する制御を行うエコー信号伝送制御部と、前記伝送された加温前後のエコー信号から超音波速度変化を含む脂肪情報を算出する脂肪情報算出部と、前記主プローブと前記副プローブとが装着されるとともに、主プローブから照射される超音波の
軸線と、副プローブから照射される光の
軸線とが一致するように、
前記超音波と
前記光と
のいずれか一方を透過させるとともに、他方を反射させることにより、両者の軸線を重ね合わせて共通の出射口から
軸線を一致させて出射させる結合部材を内蔵するプローブホルダとを備えるようにしている。
【0017】
また、別の観点からなされた本発明の脂肪診断システムは、多チャンネルの主プローブを用いて測定部位からエコー信号を取得し、当該エコー信号により形成された超音波画像で画像診断を行う超音波診断装置と、当該超音波診断装置に付設され、加温前後の測定部位のエコー信号から超音波速度変化を算出して脂肪診断を行うための脂肪診断用付属装置とからなる脂肪診断システムであって、前記脂肪診断用付属装置は、赤外光の光照射を行う副プローブと、前記副プローブを介して測定部位に光照射することにより加温制御を行う加温制御部と、前記主プローブおよび前記超音波診断装置を用いて測定された加温前後のエコー信号を当該超音波診断装置から取得して伝送する制御を行うエコー信号伝送制御部と、前記伝送された加温前後のエコー信号から超音波速度変化を含む脂肪情報を算出する脂肪情報算出部と、前記主プローブと前記副プローブとが装着されるとともに、主プローブから照射される超音波の軸線と、副プローブから照射される光の軸線とが一致するように、
前記超音波と
前記光と
のいずれか一方を透過させるとともに、他方を反射させることにより、両者の軸線を重ね合わせて共通の出射口から
軸線を一致させて出射させる結合部材を内蔵するプローブホルダとを備えるようにしている。
【0018】
本発明の脂肪診断用付属装置、および、脂肪診断システムによれば、画像診断用の主プローブと加温用の副プローブとがプローブホルダに装着され、このプローブホルダを用いて位置決めした体表上の位置から共通する軸線に沿って超音波と赤外光とが照射されるようにしてある。すなわち、プローブホルダには共通の出射口が設けられており、プローブホルダ内に設けた結合部材により、主プローブから照射される超音波の進行方向を屈曲、あるいは、副プローブから照射される赤外光の進行方向を屈曲させ、超音波の軸線(の一部)と赤外光の軸線とが重ね合わさるようにして超音波と赤外光とが同じ軸線に沿って進むようにしてある。これにより超音波照射によって画像診断が行われる部位と光加温が行われる部位とを完全に一致させることができ、画像診断で定めた位置と同じ位置を正確に加温することができるようになる。そして加温前後において、超音波診断装置と主プローブとによる超音波照射により測定位置からのエコー信号を取得すると、そのエコー信号を脂肪診断用付属装置に伝送して超音波速度変化を算出することにより、超音波速度変化画像や脂肪分布画像を得る。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、既存の主プローブおよび超音波診断装置をそのまま用いて行う画像診断によって測定位置を定めた後に、加温制御については脂肪診断用付属装置側の副プローブを用いて行い、脂肪診断については主プローブおよび超音波診断装置をそのまま用いて取得したエコー信号を、脂肪診断用付属装置側に伝送することにより演算を行うので、単に脂肪診断用付属装置を後付けするだけで、主プローブ(アレイ型の多チャンネルプローブ)および超音波診断装置については大きな改造を行う必要がなく、ほとんどそのまま使用することができる。
【0020】
また、プローブホルダに内蔵された結合部材によって、超音波の軸線と赤外光の軸線とが重ね合わさるようにしてあるので、超音波画像で加温位置を画像診断で定めた測定位置に、赤外光照射による加温位置を正確に合わせることができ、測定位置と加温位置との位置ずれの影響をなくして正確な脂肪診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態である脂肪診断用付属装置および脂肪診断システムの構成を示す外観図。
【
図2】
図1における脂肪診断システムの構成を示すブロック図。
【
図3】
図1における脂肪診断用付属装置のプローブホルダを側面視した断面図。
【
図4】本発明の脂肪診断システムによる測定動作手順を示すフローチャート。
【
図5】本発明の他の一実施形態である脂肪診断用付属装置および脂肪診断システムの構成を示す外観図。
【
図6】
図5における脂肪診断システムの構成を示すブロック図。
【
図7】
図5における脂肪診断用付属装置のプローブホルダを側面視した断面図。
【
図8】非照射時(加温前)と光照射後(加温後)のエコー信号を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実施形態1)
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
図1は本発明の一実施形態である脂肪診断用付属装置10が、市販の超音波診断装置1に後付けで付設された脂肪診断システムAを示す外観図である。また、
図2は脂肪診断システムAの構成を説明するためのブロック図である。
【0023】
この脂肪診断システムAは、超音波診断装置1と、画像診断用の主プローブ2と、制御ボックス(専用ボード)3と、加温用に用いる副プローブ4と、主プローブ2および副プローブ4を固定保持するプローブホルダ5と、外部コンピュータ装置6と、超音波診断装置1からエコー信号が伝送される伝送線7により構成される。
本実施形態においては、制御ボックス3と、副プローブ4と、プローブホルダ5と、外部コンピュータ装置6と、伝送線7によって脂肪診断用付属装置10が構成される。
【0024】
超音波診断装置1には、後述する主プローブ2を介して取得した生のエコー信号(RF信号)を、外部に取り出すことができる外部出力端子を備えたものが用いられる。なお市販の超音波診断装置の一部にはそのような外部出力端子を備えていないものがあるので、その場合は外部出力端子増設用の増設カードを取り付ける等の簡単な作業により外部出力端子を増設しておく。
【0025】
主プローブ2には、多チャンネル(例えば128個の振動子)のアレイ型プローブ(市販品)が使用され、各チャンネルからパルス波超音波信号を走査しながら送波して生体からのエコー信号を受波するようにしてある。そしてチャンネル数と同じ本数のエコー信号が超音波診断装置1に送られるとBモード画像等の超音波画像が形成され、超音波診断装置1の表示画面に表示される。
【0026】
このように、超音波診断装置1と主プローブ2とは本来の機能である超音波画像による関心部位の探索や画像診断のために用いられるが、これに加えて、取得したエコー信号を超音波診断装置1の外部出力端子から伝送線7を介して、脂肪診断用付属装置10側へ伝送するようにしてある。
【0027】
制御ボックス3は、後述する副プローブ4の半導体レーザ4aを発光させるための電源31、伝送線7を介して超音波診断装置1の外部出力端子から送られてくるエコー信号を受波するレシーバ回路33、受波したエコー信号をデジタル信号化するA/D変換器34、外部コンピュータ装置6へエコー信号を送り出す伝送速度の調整処理を行うバッファメモリ35を備え、さらに、副プローブ4からのレーザ照射のON・OFF操作、レシーバ回路33によるエコー信号の受波の開始および停止の操作、バッファメモリ35によるエコー信号の伝送制御を行うコントローラ36を備えている。
【0028】
したがって制御ボックス3は、副プローブ4を介して光照射することにより、測定部位を加温する制御を行う加温制御部41として機能する部分とともに、超音波診断装置1で取得する画像形成可能な多数本のエコー信号を外部コンピュータ装置6に伝送する制御を行うエコー信号伝送制御部42として機能する部分とを備えている。
【0029】
副プローブ4は、その先端に半導体レーザ4aが取り付けてあり、波長が930nm〜940nmの近赤外光が加温時に光照射されるようにしてある。なお、700nm〜1300nm程度の加温可能な光を照射する半導体レーザであれば使用可能である。
【0030】
プローブホルダ5は、主プローブ2と副プローブ4とを同時に固定保持する。
図3はプローブホルダ5を側方から見た構造を示す断面図である。プローブホルダ5は四方が側壁5bで囲まれた方形体からなり、上面は水平断面が方形の主プローブ2が挿入される開口5cにしてある。また、側壁5bの一面には開口5eが形成してあり、ここに円筒状の副プローブ4が半導体レーザ4aの光照射面をケース内に向けて取り付けてある。下面は超音波および近赤外光を出射するための開口(出射口)5dとしてあり、超音波および近赤外光が通過可能なシリコンゴム等のシート5fを窓材として開口5dを塞ぐようにしてある。このシート5fは、超音波を伝播させるスタンドオフとして機能する流動性の超音波伝播体Lをプローブホルダ5内に充填するために設けられている。
【0031】
プローブホルダ5内には、主プローブ2から照射される超音波を下方に透過し、副プローブ4から照射される近赤外光を下方に反射し、超音波と近赤外光とが進行する軸線方向を一致させて開口5dから出射させるための光学ミラーとして機能する結合部材5aが設けられている。この結合部材5aは超音波が透過可能な薄膜に近赤外光を反射するアルミ等の金属薄膜を蒸着等で形成してあり、これを超音波の軸線方向および近赤外光の反射前の軸線方向に対して斜め45度の角度になるように配置してある。この薄膜には無機薄膜(例えば板厚が0.05mm以下のガラス)や有機薄膜(例えば包装用のラップフィルム)を使用することができる。
そしてプローブホルダ5内には、結合部材5aを浸漬するとともに、主プローブの各振動子2aおよび副プローブ4の光照射面と接するように超音波伝播体Lが充填してある。
超音波伝播体Lは、具体的には、超音波や近赤外光の吸収が少ない水が適している。また、水に代えて、屈折率を結合部材5aの素材(ガラス、アクリル等)の屈折率に合わせたマッチング液を超音波伝播体Lに使用し、超音波伝播体Lと結合部材5aとの境界面での近赤外光の反射ロスを抑えるようにしてもよい。
【0032】
外部コンピュータ装置6は、CPU、メモリ、入力装置(キーボード等)、表示装置(液晶パネル)を備えた汎用のパーソナルコンピュータ装置(例えばノート型パソコン)が用いられる。そして、超音波診断装置1と多チャンネルの主プローブ2とによって測定され、伝送線7、制御ボックス3(エコー信号伝送制御部42)を介して伝送される、Bモード画像の形成が可能な本数のエコー信号を受け取る。エコー信号の本数は主プローブ2で走査されるチャンネル数に依存し、例えば一画像あたり128本のエコー信号を受け取ることになる。このエコー信号は、主プローブ2を動かさずに加温前と加温後との合計2回測定されるので、それぞれを「加温前エコー信号」と「加温後エコー信号」として、同じ本数のエコー信号のデータが記憶される。
【0033】
そして加温前エコー信号と加温後エコー信号に、既述の(2)式による計算を行い、超音波速度変化(ここでは超音波速度比)を算出し、さらに脂肪診断に必要な演算処理を行う。
すなわち、
図8で説明した従来例と同様の原理・方法で、加温後に受波したエコー信号と、加温前に受波したエコー信号とに基づいて、加温前後のエコー信号の波形シフト量(Δτ)の計算を行い、また、測定領域内の組織の境界間のパルス間隔(τ)を算出する処理を行う。そして式(2)に基づいて、各部分区間の超音波速度比(V’/V)を算出する処理を行う。
このようにして、外部コンピュータ装置6は、伝送された加温前後のエコー信号から超音波速度変化を含む脂肪情報を算出する脂肪情報算出部43として機能するようにしてある。
【0034】
外部コンピュータ装置6(脂肪情報算出部43)では、多チャンネルである主プローブ2にて取得した多数本のエコー信号データを演算処理するため、算出結果は、超音波速度変化画像や脂肪分布画像の形成が可能な量のデータとなっている。したがって伝送されるエコー信号データにより、外部コンピュータ装置6の表示画面に、超音波速度変化画像、さらには脂肪分布画像の画像表示を行うことができる。
また、表示した画面上で特定の測定ポイントを指定すれば、当該測定ポイントに対応するエコー信号に基づいて、超音波速度比の値や脂肪情報(脂肪判定、脂肪割合)の演算結果を表示装置に数値表現することもできるようにしてある。
【0035】
ここで「加温前エコー信号」と「加温後エコー信号」の好ましい測定順について説明しておく。超音波速度変化による脂肪測定では、測定位置を加温することで温度変化を生じさせ、温度変化前と温度変化後との2つの異なる温度下でのエコー信号、すなわち低温側の「加温前エコー信号」と、高温側の「加温後エコー信号」とを測定する。測定順序についてはいずれを先に測定しても測定は可能である。しかし実際の測定では、先に加温し、所定温度昇温された状態で「加温後エコー信号」を測定し、その後、所定時間(例えば10秒〜20秒)経過して降温させた後に「加温前エコー信号」を測定するようにしている。
これは以下の理由による。生体の一部を加温すると、加温された部位は平温状態に戻そうとする生理作用で血流が増加するようになり、強い冷却作用が働く。したがって先に加温を行い、血流が増加した状態でエコー信号を測定すると、加温停止直後に「加温後エコー信号」を測定した後は、増加した血流による強い冷却作用によって短時間のうちに急激に降温され、その結果、急峻な温度変化で平温状態に戻ったときの「加温前エコー信号」を測定することができるようになる。
【0036】
次に、上記の脂肪診断システムA(脂肪診断用付属装置10を含む)による測定手順について
図4のフローチャートを用いて説明する。
まず、超音波診断装置1による画像診断により、脂肪測定位置を探索して決定する(S101)。すなわち、超音波診断装置1を操作して主プローブ2でパルス波の送波とエコー信号の受波とを行うことによりBモード画像を撮像し、これを超音波診断装置1で画面表示して、脂肪診断やプラーク診断に適した測定位置を探索し決定する。
【0037】
次に、決定された測定位置に対し、制御ボックス3(加温制御部41)による加温制御を行う(S102)。すなわち、制御ボックス3のコントローラ36を操作して電源31をONにし、副プローブ4から近赤外のレーザ光を照射する。そして光照射された領域が0.5℃〜2℃程度上昇して安定状態になるまで加温し続ける。およそ加温時間が30秒くらいで安定するようになる。
【0038】
次に、レーザ照射による加温を維持しながら、主プローブ2によりパルス波を送波し、生体からのエコー信号(RF信号)を受波することにより、加温後のエコー信号を取得し、これを超音波診断装置1のレシーバ回路(不図示)で受波するとともに、伝送線7を介して制御ボード3のレシーバ回路33で受波する(S103)。
すなわち、コントローラ36を操作して、レシーバ回路33をONにし、画像形成に必要な本数のエコー信号を待ち受けて受波する。受波されたエコー信号はA/D変換器34によりデジタル化され、「加温後エコー信号」としてバッファメモリ35に記憶するとともに、外部コンピュータ装置6(脂肪情報算出部43)にも処理速度に合わせて順次転送される。
【0039】
「加温後エコー信号」の測定終了後、加温を停止し、予め設定した10秒〜20秒程度の温度降下時間を待つ(S104)。すなわち、制御ボックス3のコントローラ36を操作して電源31をOFFにし、副プローブ4から近赤外のレーザ光を停止する。そして光照射された領域が加温前の温度でほぼ安定するまで待つ。
【0040】
次に、平温に戻った後に、再び主プローブ2によりエコー信号を取得し、制御ボックス3のレシーバ回路33で受波する(S105)。このとき加温前と同じ平温状態のエコー信号に戻っているので「加温前エコー信号」としてバッファメモリ35に記憶するとともに、外部コンピュータ装置6に順次転送される。
【0041】
次に、外部コンピュータ装置6(脂肪情報算出部43)により、超音波速度変化および脂肪情報の算出を行う(S106)。すなわち、制御ボックス3から「加温後エコー信号」と「加温前エコー信号」が送られてくると、既述の(2)式に基づいて超音波速度比(V’/V)を算出する。この演算は、画像形成に必要な本数のエコー信号に対して行う。そして演算結果に基づいて、超音波速度変化画像を外部コンピュータ装置6の画面に表示したり、さらには超音波速度変化が負の領域を抽出して脂肪分布画像として表示したりする。また、表示された超音波速度変化画像や脂肪分布画像上の特定ポイントを選択することにより、その特定ポイントでの超音波速度変化比を算出したり、予め求めた基準データとの比較から脂肪割合を算出したりして、超音波速度変化比や脂肪割合を表示するようにしてもよい。
以上の測定手順により、超音波速度変化による脂肪診断を行うことができる。
【0042】
なお、上記の脂肪診断システムAでは、外部コンピュータ装置6(汎用コンピュータ装置)を用いたが、これと同様のCPU、メモリ、入力装置、表示装置のハード構成を制御ボックス3に組み込むことにより、(2)式による計算処理機能および計算結果の画像表示機能を制御ボックス3で実現できるようにすることで、外部コンピュータ装置6に代替させてもよい。その場合は、脂肪情報算出部43は制御ボックス3によって構成されることになる。
【0043】
(実施形態2)
図5は本発明の他の一実施形態である脂肪診断システムBの外観図であり、
図6はその脂肪診断用付属装置10aの構成部分を示す図であり、
図7はそのプローブホルダ8を側方から見た断面図である。なお
図1〜
図3と同じ構成部分については同符号を付すことにより説明の一部を省略する。
この実施形態では、プローブホルダ5に代えて、副プローブ4を上面に保持し、主プローブ2を側面に保持するプローブホルダ8を使用している。プローブホルダ8以外については実施形態1とほぼ同じ構造である。
【0044】
プローブホルダ8は方形体からなり、側壁8bの1つに主プローブ2を取り付ける開口8cが設けられている。また、上壁8dには開口8eが形成してあり、ここに円筒状の副プローブ4が半導体レーザ4aの光照射面をケース内に向けて取り付けてある。下面は超音波および近赤外光を出射するための開口(出射口)8fとしてあり、超音波および近赤外光が通過可能なシリコンゴム等のシート8gを窓材として開口8fを塞ぐようにしてある。このシート8gは、超音波を伝播させるスタンドオフとして機能する流動性の超音波伝播体Lをプローブホルダ8内に充填するために設けられている。
【0045】
プローブホルダ8内には、主プローブ2から照射される超音波を下方に反射し、副プローブ4から照射される近赤外光を下方に透過し、超音波と近赤外光とが進行する軸線方向を一致させて開口8fから出射させるための音響ミラーとして機能する結合部材8aが設けられている。この結合部材8aには近赤外光が透過可能で、かつ、超音波が反射可能な材料としてガラス板やアクリル板等が用いられ、これを超音波の反射前の軸線方向および近赤外光の軸線方向に対して斜め45度の角度になるように配置してある。
そしてプローブホルダ8内には、結合部材8aを浸漬するとともに、主プローブ2の各振動子2aおよび副プローブ4の光照射面と接するように、超音波伝播体Lが充填してある。この超音波伝播体Lには、実施形態1と同様の水やマッチング液が使用される。
【0046】
そして、脂肪診断システムBについても
図4で説明した脂肪診断システムAと基本的に同じ測定手順で測定を行うことにより、超音波速度変化による脂肪診断を行うことができる。
【0047】
(変形実施形態)
本発明は上記実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、様々に変形実施することができる。
例えば、上記実施形態では先に加温後エコー信号を測定し、後から加温前エコー信号を測定したが、測定順序を逆にしても測定は可能である。
また、上記実施形態では、制御ボックス3を1つにしてあるが、加温制御用とエコー信号伝送制御用との2つの制御ボックスに分けてもよい。その場合、コントローラ36は各制御ボックスに設けられることになる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は超音波診断装置に付設して脂肪診断を行う脂肪診断用付属装置および脂肪診断システムとして利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 超音波診断装置
2 主プローブ(多チャンネル超音波プローブ)
2a 振動子
3 制御ボックス
4 副プローブ(光照射プローブ)
4a 半導体レーザ
5 プローブホルダ
5a 結合部材
6 外部コンピュータ装置
7 伝送線
8 プローブホルダ
8a 結合部材
8b 側壁
8c 開口
8d 上壁
8e 開口
8f 開口(出射口)
8g シート
10、10a 脂肪診断用付属装置
31 電源
33 レシーバ回路
34 A/D変換器
35 バッファメモリ
36 コントローラ
41 加温制御部
42 エコー信号伝送制御部
43 脂肪情報算出部