特許第6372977号(P6372977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6372977
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】伝熱板、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28F 3/12 20060101AFI20180806BHJP
   B23K 20/12 20060101ALI20180806BHJP
   F28F 19/06 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   F28F3/12 D
   B23K20/12 310
   B23K20/12 360
   F28F19/06 A
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-122391(P2013-122391)
(22)【出願日】2013年6月11日
(65)【公開番号】特開2014-240706(P2014-240706A)
(43)【公開日】2014年12月25日
【審査請求日】2016年4月27日
【審判番号】不服2017-5445(P2017-5445/J1)
【審判請求日】2017年4月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506263882
【氏名又は名称】京浜ラムテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117514
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敦朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一平
(72)【発明者】
【氏名】小倉 博之
【合議体】
【審判長】 田村 嘉章
【審判官】 槙原 進
【審判官】 井上 哲男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−257490(JP,A)
【文献】 特開2003−230969(JP,A)
【文献】 特開2009−82990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
F28F 3/12
F28F 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の断面形状をなした蓋溝が形成されるとともに、当該蓋溝の底面に凹溝が設けられ、全面に被膜が形成された伝熱板本体と、
前記蓋溝と断面形状が同一であり、全面に被膜が形成された蓋板と
を備え、
前記蓋溝に前記蓋板が嵌合され、当該蓋溝及び当該蓋板の突き合わせ面に沿って摩擦撹拌接合されることにより、前記凹溝及び前記蓋板に囲まれた内部空間が形成され、前記内部空間は、前記凹溝及び前記蓋板に形成された前記被膜により覆われ、
前記摩擦撹拌接合により、前記蓋溝及び前記蓋板の突き合わせ面である接合面に形成された撹拌接合部の内部に、前記伝熱板本体又は前記蓋板の材質と、前記被膜の材質とが混ざり合った混合部が形成され、
前記混合部として、前記伝熱板本体及び前記蓋板の表面付近において前記表面に沿って形成された水平方向混合部と、前記伝熱板本体及び前記蓋板の表面付近から前記撹拌接合部の深さ方向にわたって形成された垂直方向混合部とを有し、
前記水平方向混合部に連続するように垂直方向混合部が形成され、前記垂直方向混合部の前記水平方向混合部と繋がった部分は、前記接合面から一定の距離だけ離れた箇所に位置し、前記垂直方向混合部が、深さ方向へ行くに従い前記接合面に接近して行き、前記撹拌接合部の下端では、前記接合面に収束する形状となっている
ことを特徴とする伝熱板。
【請求項2】
前記伝熱板本体及び前記蓋板の表面において、前記撹拌接合部に対応した箇所に形成された凹部である押込凹部を有することを特徴とする請求項に記載の伝熱板。
【請求項3】
前記押込凹部は、前記伝熱板本体及び前記蓋板の表面における前記撹拌接合部に対応した箇所形成されることを特徴とする請求項2に記載の伝熱板。
【請求項4】
前記押込凹部は、ショルダー部と、当該ショルダー部の回転軸上に突出されたプローブとを有する摩擦撹拌用治具を用いて形成され、前記押込凹部の深さは、前記プローブの突出長の0%以上5%未満であることを特徴とする請求項2又は3に記載の伝熱板。
【請求項5】
前記押込凹部は、ショルダー部と、当該ショルダー部の回転軸上に突出されたプローブとを有する摩擦撹拌用治具を用いて形成され、前記押込凹部の深さは、前記プローブの突出長の5%以上30%未満であり、前記混合部は前記垂直方向混合部のみからなることを特徴とする請求項2又は3に記載の伝熱板。
【請求項6】
所定の断面形状をなした蓋溝が形成されるとともに、当該蓋溝の底面に凹溝が設けられた伝熱板本体と、
前記蓋溝と断面形状が同一である蓋板と
を備えた伝熱板の製造方法であって、
前記伝熱板本体の全面に被膜を形成するとともに、前記蓋板の全面に被膜を形成する被膜形成処理と、
前記蓋溝に前記蓋板を嵌合し、当該蓋溝及び当該蓋板の突き合わせ面に沿って摩擦撹拌接合する接合処理と
を有し、
前記接合処理では、
前記摩擦撹拌接合により、前記蓋溝及び前記蓋板の突き合わせ面である接合面に形成された撹拌接合部の内部に、前記伝熱板本体又は前記蓋板の材質と、前記被膜の材質とが混ざり合った混合部を形成し、
前記混合部は、
前記伝熱板本体及び前記蓋板の表面付近において前記表面に沿って水平方向混合部が形成されるとともに、前記伝熱板本体及び前記蓋板の表面付近から前記撹拌接合部の深さ方向にわたって垂直方向混合部が形成され、
前記水平方向混合部に連続するように垂直方向混合部が形成され、前記垂直方向混合部の前記水平方向混合部と繋がった部分は、前記接合面から一定の距離だけ離れた箇所に位置し、前記垂直方向混合部が、深さ方向へ行くに従い前記接合面に接近して行き前記撹拌接合部の下端において前記接合面に収束する形状となっている
ことを特徴とする伝熱板の製造方法。
【請求項7】
前記接合処理では、前記伝熱板本体及び前記蓋板の表面における前記撹拌接合部に対応した箇所に、凹部である押込凹部を形成することを特徴とする請求項6に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項8】
前記接合処理では、
前記伝熱板本体及び前記蓋板の表面における前記撹拌接合部に対応した箇所押込凹部を形成し、
前記押込凹部を形成する際には、前記押圧する力を調節することにより、前記水平方向混合部の形成量を調節する
ことを特徴とする請求項6に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項9】
前記接合処理における前記摩擦撹拌接合では、ショルダー部と、当該ショルダー部の回転軸上に突出されたプローブとを有する摩擦撹拌用治具を用い、前記押込凹部の深さは、前記プローブの突出長の0%以上5%未満であることを特徴とする請求項7又は8に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項10】
前記接合処理における前記摩擦撹拌接合では、ショルダー部と、当該ショルダー部の回転軸上に突出されたプローブとを有する摩擦撹拌用治具を用い、前記押込凹部の深さ前記プローブの突出長の5%以上30%未満とすることによって垂直方向混合部のみからなる混合部が形成される
ことを特徴とする請求項7又は8に記載の伝熱板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレート状の金属板に内部空間が形成された伝熱板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換、加熱、あるいは冷却すべき対象物に接触、または近接して配置される伝熱板は、例えば、伝熱板本体に凹溝を設けるとともに、その凹溝を上部から蓋板で覆い、凹溝周辺の伝熱板本体と蓋溝とを接合させることで、凹溝と前記蓋板との空間を熱媒体の流路としている。そして、例えば、対象物から熱を逃がす場合は、当該空間に熱媒体を流し、対象物から伝熱板本体、空間内を流れる媒体へと熱を伝達させることで対象物の熱を逃がしている。
【0003】
このような伝熱板の各部材は、TIG溶接、MIG溶接等のアーク溶接法や、電子ビーム溶接法などのレーザー溶接法等によって接合される(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示された技術では、タングステン電極を使って母材との間にアークを発生させ、その熱で母材を溶かして接合するTIG溶接に関する技術である。
【0004】
ところで、伝熱板の各部材は、熱伝達性が高い、例えばアルミニウムまたはその合金等で形成されるため、腐食が発生し易いという問題がある。ここで、金属部材の腐食を防止するために、金属部材の表面に陽極酸化被膜を形成させるアルマイト処理という技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−314966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、陽極酸化被膜が形成された伝熱板に対して、特許文献1に開示された技術で被接合材同士を溶融溶接すると、溶接部分に不純物が混入されてしまい、当該溶接部分の接合強度及び耐食性が低くなるという問題がある。
【0007】
一方、溶接工法にて接合後した後、アルマイト処理を行う場合には、伝熱板の内部空間に処理液を浸透させることができないため、流路表面の隅々まで陽極酸化被膜を形成させることがでず、その結果、内部空間が腐食してしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、このような従来の上記問題点に鑑みてなされたもので、熱媒体の流路としての内部空間全体に被膜を形成させて高い耐食性を有するとともに、十分な接合強度を有する伝熱板、及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、所定の断面形状をなした蓋溝が形成されるとともに、当該蓋溝の底面に凹溝が設けられ、全面に被膜が形成された伝熱板本体と、蓋溝と断面形状が同一であり、全面に被膜が形成された蓋板とを備え、蓋溝に蓋板が嵌合され、当該蓋溝及び当該蓋板の突き合わせ面に沿って摩擦撹拌接合されることにより、凹溝及び蓋板に囲まれた内部空間が形成され、内部空間は、凹溝及び蓋板に形成された被膜により覆われ、前記摩擦撹拌接合により、前記蓋溝及び前記蓋板の突き合わせ面である接合面に形成された撹拌接合部の内部に、前記伝熱板本体又は前記蓋板の材質と、前記被膜の材質とが混ざり合った混合部が形成され、前記混合部として、前記伝熱板本体及び前記蓋板の表面付近において前記表面に沿って形成された水平方向混合部と、前記伝熱板本体及び前記蓋板の表面付近から前記撹拌接合部の深さ方向にわたって形成された垂直方向混合部とを有し、前記水平方向混合部に連続するように垂直方向混合部が形成され、前記垂直方向混合部の前記水平方向混合部と繋がった部分は、前記接合面から一定の距離だけ離れた箇所に位置し、前記垂直方向混合部が、深さ方向へ行くに従い前記接合面に接近して行き、前記撹拌接合部の下端では、前記接合面に収束する形状となっていることを特徴とする。
【0010】
また、他の発明は、所定の断面形状をなした蓋溝が形成されるとともに、当該蓋溝の底面に凹溝が設けられた伝熱板本体と、蓋溝と断面形状が同一である蓋板とを備えた伝熱板の製造方法であって、
(1)伝熱板本体の全面に被膜を形成するとともに、蓋板の全面に被膜を形成する被膜形成処理と
(2)蓋溝に蓋板を嵌合し、当該蓋溝及び当該蓋板の突き合わせ面に沿って摩擦撹拌接合する接合処理と
を有し、
前記接合処理では、前記摩擦撹拌接合により、前記蓋溝及び前記蓋板の突き合わせ面である接合面に形成された撹拌接合部の内部に、前記伝熱板本体又は前記蓋板の材質と、前記被膜の材質とが混ざり合った混合部を形成し、前記混合部は、前記伝熱板本体及び前記蓋板の表面付近において前記表面に沿って水平方向混合部が形成されるとともに、前記伝熱板本体及び前記蓋板の表面付近から前記撹拌接合部の深さ方向にわたって垂直方向混合部が形成され、前記水平方向混合部に連続するように垂直方向混合部が形成され、前記垂直方向混合部の前記水平方向混合部と繋がった部分は、前記接合面から一定の距離だけ離れた箇所に位置し、前記垂直方向混合部が、深さ方向へ行くに従い前記接合面に接近して行き前記撹拌接合部の下端において前記接合面に収束する形状となっていることを特徴とする。
【0011】
これらのような本発明によれば、伝熱板本体には少なくとも凹溝内面の全部に被膜が形成され、蓋板には少なくとも凹溝に臨む面の全部に被膜が形成されているので、伝熱板の蓋溝に蓋板を嵌合させて接合し、熱媒体の流路としての内部空間を形成させると、内部空間は、凹溝及び蓋板に形成された被膜により覆われることとなる。そのため、耐食性の高い内部空間を備える伝熱板を簡易に生成することができる。また、被膜が形成された伝熱板本体と蓋板とを摩擦撹拌によって接合するため、接合部分に異物が混入することを防止することができる。
【0012】
上記発明において、摩擦撹拌接合により、蓋溝及び蓋板の突き合わせ面に形成された撹拌接合部の内部に、伝熱板本体又は蓋板の材質と、被膜の材質とが混ざり合った混合部が形成されていることが好ましい。ここで、混合部としては、例えば、伝熱板本体及び蓋板の表面付近に、表面に沿って形成された水平方向混合部や、伝熱板本体及び蓋板の表面付近から、撹拌接合部の深さ方向にわたって形成された垂直方向混合部のほか、水平方向混合部と垂直方向混合部とが連結された形状のものも含まれる。
【0013】
この場合には、撹拌接合部の内部に、伝熱板本体又は蓋板の材質と、被膜の材質とが撹拌されて混ざり合った混合部が形成されるため、被膜の影響を伝熱板本体の素材中に分散させることができ、耐食性を高めつつ、被膜処理によって接合強度が低下するのを抑制することができる。
【0014】
上記発明において、伝熱板本体及び蓋板の表面において、撹拌接合部に対応した箇所に形成された凹部である押込凹部を有することが好ましい。この場合には、伝熱板本体及び蓋板の表面に窪んだ押込凹部を形成することによって、伝熱板本体及び蓋板の表面に形成される被膜の材質を含んだ素材を削除することができるため、より伝熱板の接合強度の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように、この発明によれば、予め被膜で被覆した各部材を摩擦撹拌接合により接合することで、熱媒体の流路としての内部空間全体の隅々にわたって被膜を形成させることができ、内部空間部分であっても高い耐食性を得られるとともに、各部材を接合する際に異物が混入することを回避し、十分な接合強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は、実施形態に係る伝熱板と摩擦撹拌用治具とを示す斜視図であり、同図(b)は、同図(a)のA−A’断面図である。
図2】(a)は、実施形態に係る蓋板を示す斜視図であり、同図(b)は、実施形態に係る伝熱板本体を示す斜視図である。
図3】実施形態に係る伝熱板本体を示す模式断面図である。
図4】実施形態に係る蓋板及び伝熱板本体に形成された陽極酸化被膜を示す模式断面図である。
図5】(a)は、実施形態に係る摩擦撹拌用治具を示す側面図であり、同図(b)は、プローブ溝の大きさと、蓋溝の側面から凹溝の側面までの間隔との関係を示す側面図である。
図6】実施形態に係る伝熱板が製造される過程の各状態を示す要部断面図である。
図7】(a)は、本実施形態に係る摩擦撹拌用装置が蓋溝及び蓋板に埋入された状態を示す要部側面図であり、同図(b)は、摩擦撹拌接合により形成された接合部の状態を示す断面図である。
図8】(a)は、本実施形態に係る摩擦撹拌用装置5が蓋溝12及び蓋板2に埋入された状態を示す要部側面図であり、同図(b)は、摩擦撹拌接合により形成された接合部の状態を示す断面図である。
図9】変形例に係る摩擦撹拌用装置が蓋溝及び蓋板に埋入された状態を示す要部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る伝熱板、及びその製造方法の実施形態を詳細に説明する。図1(a)は、本実施形態に係る伝熱板と摩擦撹拌用治具とを示す斜視図であり、同図(b)は、同図(a)のA−A’断面図である。図2(a)は、本実施形態に係る蓋板を示す斜視図であり、同図(b)は、実施形態に係る伝熱板本体を示す斜視図である。また、図3は、本実施形態に係る伝熱板本体を示す模式断面図であり、図4は、本実施形態に係る蓋板及び伝熱板本体に形成された陽極酸化被膜を示す模式断面図である。
【0018】
(伝熱板の全体構成)
図1(a)及び(b)に示すように、プレート状の伝熱板10は、伝熱板本体1に蓋板2を嵌合させた状態で、摩擦撹拌用装置5を伝熱板10の表面に沿って所定の回転数および移動速度で相対的に移動させることで、伝熱板10の素材を流動させて形成された撹拌接合部3と、伝熱板10の内部において、略U字状の内部空間4とを形成させるものである。
【0019】
伝熱板本体1は、胴、アルミニウムや、これらの合金等、熱伝達性の高い金属材料から形成されている。この伝熱板10は、摩擦撹拌の摩擦熱によって軟化され、材料が塑性流動することができる部材であれば特に制限されない。この伝熱板本体1は、図2(b)に示すように、一方の面に開口する、長手方向に略U字状の蓋溝12が形成されており、この蓋溝12部分に蓋板2が嵌合されるようになっている。この蓋溝12は、図3に示すように、両側面12a,12aと底面12bとによって形成され、断面形状が略矩形をなしている。また、この蓋溝12の底面2bの略中央には、凹溝11が設けられている。具体的に、凹溝11は、所定の深さを有する両側面11a,11a及び底面11bによって形成され、断面形状が略矩形をなしている。
【0020】
蓋板2は、伝熱板本体1と同様、胴、アルミニウムや、これらの合金等、熱伝達性の高い金属材料から形成されている。この蓋板2は、蓋溝12と同一形状である略U字状をなし、また、断面形状についても蓋溝12と同一に形成されている。この蓋板2は、図1(b)に示すように、蓋板2の両側面2a,2aと、蓋溝12の両側面12a,12aとが突き合わされ、また、蓋板2の底面2bと、蓋溝12の底面12bとが突き合わされて、蓋溝12に嵌合される。
【0021】
そして、伝熱板本体1の蓋溝12の両側面12a,12aと、蓋溝12に嵌合した蓋板2の両側面2a,2aとの突き合わせ面に沿って、摩擦攪拌接合による撹拌接合部3が個別に形成されている。係る撹拌接合部3は、伝熱板本体1および蓋板2の金属材料を、後述する摩擦撹拌用装置5を用いて摩擦熱により固相状態で流動化しつつ攪拌して一体化させたものである。このように、凹溝11が蓋板2で覆われた状態で摩擦撹拌用装置5によって、突き合わせ面に沿って摩擦撹拌接合されることにより、凹溝11及び蓋板2に囲まれた部分が熱媒体の流路としての内部空間4として形成される。
【0022】
また、伝熱板本体1と蓋板2とは、図4に示すように、全面に陽極酸化被膜15が形成されており、内部空間4についても、凹溝11及び蓋板2に形成された陽極酸化被膜15により覆われている。この陽極酸化被膜15は、アルマイト処理によって形成される。なお、本実施形態においては、伝熱板本体1及び蓋板2の全面に陽極酸化被膜15を形成させたが、本発明はこれに限定するものではなく、伝熱板本体1では、少なくとも凹溝11内面の全部に陽極酸化被膜15が形成され、蓋板2では、少なくとも凹溝11に臨む面の全部に陽極酸化被膜15が形成されていればよいものとする。
【0023】
摩擦撹拌用装置5は、耐熱、耐摩耗性が高い部材で形成され、図2に示すように、円柱状の基台51と、基台51の回転軸CLと同軸上に突出されたプローブ52とを備えている。本実施形態では、プローブ52の径は、基台51の径より小さく、大径の基台51の先端に小径のプローブ52を同軸CL上に設けた段付き形状となっており、基台51のプローブ側は、伝熱板10の表面を押えるショルダー部51aとなっている。
【0024】
プローブ52は、全体が伝熱板10に埋入した状態で、先端が伝熱板10の底を突き抜けないような長さに設定され、先端側の径と基台側の径とが等しく略円柱状となっている。
【0025】
そして、このプローブ52には、外周面において螺旋状のねじ溝52aが設けられている。本実施形態において、このねじ溝52aの螺旋は、図2に示すように、側面から見た状態で、ねじ溝52aが右上から左下に向かうような右巻き(右ねじ)に形成されている。
【0026】
本実施形態では、図5(a)及び(b)に示すように、蓋溝12を形成する側面12aと凹溝11を形成する側面11aとの間隔d1は、プローブ52のねじ溝52aを形成する一対の凸部52b.52bの間隔d2の1.1倍乃至3倍の範囲になるように設定されている。なお、摩擦撹拌用装置5には、図示していないが、基台51及びプローブ52を駆動させる駆動手段を備えている。この駆動手段は、基台51及びプローブ52を昇降移動させたり、基台51及びプローブ52を回転させつつ、伝熱板10の面上に沿って平行移動させたりするようなっている。
【0027】
そして、この摩擦撹拌用装置5によって、蓋溝12及び蓋板2の突き合わせ面を摩擦撹拌接合することにより、この突き合わせ面に形成された撹拌接合部3の内部に、伝熱板本体1又は蓋板2の材質と、陽極酸化被膜15の材質とが混ざり合った混合部30(30a又は30b)を形成させる。図7(a)は、本実施形態に係る摩擦撹拌用装置5が蓋溝12及び蓋板2に埋入された状態を示す要部側面図であり、同図(b)は、摩擦撹拌接合により形成された撹拌接合部3の状態を示す断面図である。図8(a)は、本実施形態に係る摩擦撹拌用装置5が蓋溝12及び蓋板2に埋入された状態を示す要部側面図であり、同図(b)は、摩擦撹拌接合により形成された撹拌接合部3の状態を示す断面図である。
【0028】
本実施形態において、撹拌接合部3の内部に形成される混合部30は、伝熱板本体1及び蓋板2に対するショルダー部51aの押込量によって、異なる形状に形成される。本実施形態では、プローブ52の長さに対するショルダー部51aの押込量の割合で示すものとする。この押込量の割合R(%)は、プローブ52の長さをDとし、伝熱板本体1及び蓋板2内部に押し込まれたショルダー部51aの深さ(陽極酸化被膜15の厚みを含むものとする)をΔdとすると、
R(%)=Δd/D×100
で表される。
【0029】
この際、押込量の割合Rが0%以上〜5%未満の範囲内となるように、ショルダー部51aを伝熱板本体1及び蓋板2に浅く押し込んで摩擦撹拌接合させると、図7(b)に示すような混合部30aが形成される。この混合部30aは、伝熱板本体1及び蓋板2の表面付近に、表面に沿って形成された水平方向混合部31と、伝熱板本体1及び蓋板2の表面付近から、撹拌接合部3の深さ方向にわたって形成された垂直方向混合部32とが連続して形成されたものである。
【0030】
詳述すると、図7(b)に示す混合部30aは、蓋溝12の側面と、蓋板2の側面とが付き合わされた接合面CSの全長にわたって形成され、接合面CSに垂直な断面の何れにおいてもほぼ同じ形状で現れる。そして、混合部30aは、本実施形態では、水平方向混合部32が、蓋板2側から伝熱板本体1側に延びるように形成され、この水平方向混合部32に連続するように、伝熱板本体1側に垂直方向混合部32が形成されている。垂直方向混合部32は、水平方向混合部32と繋がった部分では、接合面CSから一定の距離だけ離れた箇所に位置し、深さ方向へ行くに従い、接合面CSに接近して行き、撹拌接合部3の下端では、接合面CSに収束する様な形状となっている。
【0031】
そして、本実施形態では、押込凹部を形成する際に、ショルダー部51aの押圧する力を調節し、その押込量を増減させることにより、水平方向混合部31の形成量を調節する。なお、押込量の割合Rは、伝熱板本体1及び蓋板2の厚さや材質、内部空間4の大きさに応じて種々変更可能である。また、押込量は、伝熱板本体1や蓋板2の凹凸に追従させて加減することが好ましく、その押込量は、ショルダー部51aの回転速度や、回転トルク、水平移動速度を変化させることによって調整することができる。
【0032】
すなわち、図8(a)に示すように、押込量の割合Rが5%以上〜30%未満の範囲内となるように、ショルダー部51aを伝熱板本体1及び蓋板2に押し込むことで、押込凹部3aの形成量を加減する。例えば、押込量の割合Rを30%に近づけるように、ショルダー部51aを深く押し込んで摩擦撹拌接合させることにより、水平方向混合部31の形成量を0%に近づけることができ、図8(b)に示すような混合部30bを形成する。この混合部30bは、伝熱板本体1及び蓋板2の表面付近から、撹拌接合部3の深さ方向にわたって形成された垂直方向混合部32のみで形成されている。
【0033】
この場合には、伝熱板本体1及び蓋板2の表面において、撹拌接合部3に対応した箇所、すなわち、ショルダー部51aが押し込まれた部分に凹状の押込凹部3aが形成されることとなる。また、押込凹部3aの両端には、押込凹部3aが形成されることによって、押込凹部3a部分の素材が外部に押し出されてバリ33が形成される。このバリ33には、水平方向混合部31の材質が含まれる。なお、上述した押込凹部3aやバリ33は、被膜15とともに切削や研磨することで伝熱板の表面を平坦化することで無くすることができる。
【0034】
(伝熱板の製造方法)
次いで、上述した伝熱板10の製造方法について説明する。図6は、本実施形態に係る伝熱板10が形成される状態を示す要部断面図である。
【0035】
先ず、伝熱板本体1と蓋板2との外面に、それぞれ、陽極酸化被膜15を形成させる陽極酸化形成処理を行う。この際、伝熱板本体1の少なくとも凹溝11内面の全部に被膜を形成するとともに、蓋板2の少なくとも凹溝11に臨む面の全部に被膜を形成する。
【0036】
この陽極酸化被膜形成処理としては、アルマイト処理装置を用いて処理される。アルマイト処理装置としては、例えば、内部に希硫酸からなる電解液が収容されたFRP製の処理槽を用いる。このアルマイト処理装置には、アルミニウム板からなる陰極が電解液に浸漬されている。そして、伝熱板本体1又は蓋板2を、処理槽内部の陽極兼用のサポート部材によって支持した状態で、電解液内に浸し、電解液に電流を流すと、陽極に支持された伝熱板本体1又は蓋板2が電気分解を受け、それによる酸化の結果として伝熱板本体1又は蓋板2の表面に薄い陽極酸化被膜(アルマイト被膜)が生成される。アルマイト被膜は、バリヤー層と無数の微細な細孔とからなる多孔質の被膜である。
【0037】
次いで、図6(a)に示すように、蓋溝12に蓋板2を嵌合を行う。具体的には、蓋板2の両側面2a,2aと、蓋溝12の両側面12a,12aとを突き合わし、また、蓋板2の底面2bと、蓋溝12の底面12bとを突き合わす。
【0038】
その後、伝熱板10を適宜のクランプ手段により固定し、摩擦撹拌用装置5を伝熱板10の所定の端部に位置決めする。そして、駆動手段によって、プローブ52を駆動させて接合処理を行う。具体的には、図6(b)に示すように、プローブ52を回転させながら、伝熱板10に埋入させて、蓋溝12と蓋板2との突き合わせ面に沿って伝熱板10の面上を移動させて、摩擦撹拌接合する。
【0039】
本実実施形態において、摩擦撹拌用装置5を伝熱板10に埋入させる際、ショルダー部51aの一部を塑性流動した伝熱板10の内部に押し込むように設定する。本実施形態では、ショルダー部51aの伝熱板10に対する押込量を、プローブ52の長さDに対して5%以上から30%未満の割合Rとなるように設定する。なお、この際、本実施形態において、プローブ52は、突き合わせ面を2度走行させて摩擦撹拌を行ったり、摩擦撹拌用装置5の回転速度を従来より20%早くしてもよい。
【0040】
このプローブ52の回転により、プローブ52と伝熱板10との摩擦熱で伝熱板10が軟化して塑性流動が生じ、伝熱板本体1と蓋板2とが接合された撹拌接合部3が形成される。この際、撹拌接合部3の内部に垂直方向混合部32が形成されるとともに、伝熱板本体1及び蓋板2の表面における撹拌接合部3の上部には押込凹部3aが形成される。また、押込凹部3aの両端には、バリ33が形成される。すべての突き合わせ面に摩擦撹拌接合処理がされると、図6(c)に示すように、凹溝11に熱媒体の流路としての内部空間4が形成される。その後、バリ33を削除するとともに、押込凹部3aの表面に合わせるように、伝熱板10の表面は平坦処理される。
【0041】
なお、上述した実施形態では、押込量の割合Rを5%以上から30%未満としたが、押込量の割合Rを0%以上から5%未満と設定してもよい。この場合には、撹拌接合部3内部には、水平方向混合部31と垂直方向混合部32とが連続した混合部30aが形成されることとなる。
【0042】
(作用・効果)
このような本実施形態によれば、陽極酸化被膜15が形成された伝熱板本体1と蓋板2とを摩擦撹拌によって接合するため、熱媒体の流路としての内部空間4全体に陽極酸化被膜15を形成させることができるとともに、伝熱板本体1と蓋溝12との接合を摩擦撹拌接合するため、接合部分に異物が混入することを防止できるため、耐食性の高い伝熱板10を簡易に生成することができる。
【0043】
また、本実施形態では、蓋溝12を形成する側面12aと凹溝11を形成する側面11aとの間隔は、プローブ52のねじ溝52aを形成する一対の凸部52b,52bの間隔の1.1倍乃至3倍の範囲とし、摩擦撹拌接合される範囲に対して、素材を摩擦撹拌する凸部52b,52bの割合を大きくし、撹拌力を増大させたので、伝熱板本体1と蓋板2との接合強度を増大させることができる。
【0044】
また、本実施形態では、摩擦撹拌接合により、蓋溝12及び蓋板2の突き合わせ面に形成された撹拌接合部3の内部に、伝熱板本体1又は蓋板2の材質と、被膜の材質とが混ざり合った混合部30a,30bを形成させるため、撹拌接合部3の外部は、伝熱板本体1又は蓋板2の材質のみで形成させることができ、接合強度及び耐食性を高めることができる。
【0045】
特に、本実施形態では、摩擦撹拌接合を行う際、プローブ52の長さDに対するショルダー部51aの押込量の割合Rを調整することにより、異なる形状の混合部30を形成させている。具体的には、押込量の割合Rを0%以上から5%未満に設定して、図7(b)に示すように、垂直方向混合部32と水平方向混合部31とが連続してなる混合部30aを形成させている。一方、押込量の割合Rを5%以上から30%未満と設定して、図8(b)に示すように、垂直方向混合部32のみからなる混合部30bを形成させている。
【0046】
このように押込量の割合Rを調整することで、所定の形状を有する混合部30を形成させることができるため、伝熱板本体1及び蓋板2の厚さや材質、内部空間4の大きさに対応して適切な接合強度及び耐食性を有する伝熱板10を製造することができる。
例えば、伝熱板本体1及び蓋板2の厚みを有する場合には、押込量の割合Rを30%近くに設定することで、水平方向混合部31の材質をバリ33として削除することができるため、撹拌接合部3内における混合部30の含量を少なくすることができ、接合強度及び耐食性をより高めることができる。
【0047】
一方、伝熱板本体1及び蓋板2の厚みが薄い場合には、押込量の割合Rを0%以上から5%未満に設定することで、伝熱板本体1及び蓋板2にかかる圧力を軽減させて、撹拌接合部3が内部空間4に流れ込んだり、伝熱板本体1及び蓋板2を突き抜けたりすることを防止することができる。
【0048】
(変形例)
上述した実施形態においては、摩擦撹拌用装置5を伝熱板本体1及び蓋板2の表面に対して垂直方向に埋入させた状態で摩擦撹拌を行ったが、本発明は、これに限定するものはなく、例えば、図9に示すように、摩擦撹拌用装置5を伝熱板本体1及び蓋板2の表面に対して所定角度傾かせた状態で摩擦撹拌を行ってもよい。この場合、摩擦撹拌用装置5は、一方のショルダー部51aが伝熱板本体1及び蓋板2の内部に埋入され、他方のショルダー部51aが伝熱板本体1及び蓋板2と接しないように配置される。
【0049】
この状態で、摩擦撹拌用装置5を突き合わせ面に沿って浮いたショルダー部51aを先頭として移動させると(図中のP1方向)、摩擦撹拌用装置5は、伝熱板本体1及び蓋板2の表面に対して所定角度傾いた状態となっているので、伝熱板本体1及び蓋板2に対して圧力をかけすぎず、深さの浅い撹拌接合部3を形成させることができるため、厚みの薄い伝熱板本体1又は蓋板2に対しても適切に耐食性の高い内部空間を備える伝熱板を形成させることができる。
【0050】
なお、このような場合であっても、伝熱板本体1及び蓋板2の内部に埋入された一方のショルダー部51aによって、撹拌接合部3の内部に混合部を形成させることができる。
【符号の説明】
【0051】
1…伝熱板本体
2…蓋板
3…撹拌接合部
3a…押込凹部
4…内部空間
5…摩擦撹拌用装置
10…伝熱板
11…凹溝
12…蓋溝
15…陽極酸化被膜
30(30a,30b)…混合部
31…水平方向混合部
32…垂直方向混合部
33…バリ
51…基台
51a…ショルダー部
52…プローブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9