(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373006
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】体外式除細動器
(51)【国際特許分類】
A61N 1/39 20060101AFI20180806BHJP
【FI】
A61N1/39
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-540383(P2013-540383)
(86)(22)【出願日】2011年11月25日
(65)【公表番号】特表2013-543781(P2013-543781A)
(43)【公表日】2013年12月9日
(86)【国際出願番号】EP2011071069
(87)【国際公開番号】WO2012072518
(87)【国際公開日】20120607
【審査請求日】2014年11月19日
【審判番号】不服2017-4633(P2017-4633/J1)
【審判請求日】2017年4月3日
(31)【優先権主張番号】S2010/0746
(32)【優先日】2010年11月29日
(33)【優先権主張国】IE
(73)【特許権者】
【識別番号】503338457
【氏名又は名称】ハートサイン テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】シーザー オスワルド ナヴァロ パレデス
(72)【発明者】
【氏名】ジョン マッキューン アンダーソン
【合議体】
【審判長】
長屋 陽二郎
【審判官】
内藤 真徳
【審判官】
関谷 一夫
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2006/0025825(US,A1)
【文献】
特開平5−253307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心電図(ECG)を取得し患者にショックを与える患者電極と、患者の心臓が除細動可能リズムにあるか否かを検出する診断アルゴリズムを用いて前記患者のECGを解析する回路手段と、除細動可能リズムが前記診断アルゴリズムによって検出されるとイネーブルされるショック送達回路とを含む体外式除細動器であって、前記患者電極は、前記患者の胸郭インピーダンスの測度である信号(Z)の取得も可能にし、前記回路手段は、Zに応答して、前記診断アルゴリズムに除細動可能リズムの誤検出を発生させる可能性の高い干渉状態を検出し、該検出が行われた場合、少なくとも一定期間にわたり前記診断アルゴリズムによる除細動可能リズムの検出を阻止することにより、前記ショック送達回路がZに基づきECGとは独立して、前記少なくとも一定期間にわたりショックを送達することを阻止し、
前記回路手段は、該回路手段のマイクロプロセッサによりZをアナログ−デジタル変換し、Zの一連のデジタル値に関して、Zの一次微分(dZ/dt)を形成し、dZ/dtのエネルギーに関連する量を導出し、且つ該エネルギー関連量が特定の閾値レベルを超えているか否かを判定し、前記エネルギー関連量が前記特定の閾値レベルを超えている場合、フラグの値を1に設定し、そうでない場合は前記フラグの値を0に設定し、移動時間窓内で前記フラグの値の平均値を算出し、前記フラグの値の平均値がさらに別の閾値レベルを超える場合に前記干渉状態と検出することによって、前記干渉状態を検出する体外式除細動器。
【請求項2】
請求項1に記載の除細動器において、前記エネルギー関連量はdZ/dtの振幅である除細動器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の除細動器において、前記特定の閾値レベルは、干渉状態が検出された患者データから経験的に得られたものである除細動器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の除細動器において、前記移動時間窓内の、前記フラグの値の平均値は、直近のフラグの値を二進列に供給し、最古値を最新値に置き換え、フラグの値を合算し、前記二進列のフラグの値の総数により除算することにより求める除細動器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の除細動器において、前記別の閾値レベルは0.5である除細動器。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の除細動器において、前記患者電極は、前記患者のECG及び胸郭インピーダンスの両方を取得する単一対の電極を含む除細動器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外式除細動器に関する。
【背景技術】
【0002】
自動体外式除細動器は、通常は2つの電極を介して患者に接続される。除細動可能(shockable)リズム、例えば心室細動(VF)を検出するために、心電図(ECG)及び患者の胸郭インピーダンス(ICG)を除細動器によって連続的に記録し、診断アルゴリズムを用いて解析する。そのようなリズムが見付かった場合、除細動器は、除細動器を起動して患者に灌流リズムを回復させることができる治療ショックを送達するようオペレータ(救助者)に可聴/可視メッセージを示す。
【0003】
除細動器の使用は、患者が迅速且つ十分な治療を要するというオペレータにとってストレスの多い時間を伴う。CPRの準備又はバイタルサインの確認等の間に患者を動かす場合や、電極を患者に取り付けた後及びECGの解析中に電極に不用意に接触する場合がある。これらの行為のいずれも、取り付けた電極を通して除細動器が取得しているECG及びICG信号にノイズを導入し得る。この信号ノイズは、診断アルゴリズムを誤らせて、除細動可能リズムの誤判定を発生させ得る。これは、除細動不可能(non-shockable)リズムが除細動可能リズムとして誤って分類された場合に患者にとって危険となり、患者の操作中にショックが送達された場合にオペレータにとって危険となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、パブリックアクセス除細動器を用いた素人の応答者により確実でより安全なデバイスを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、請求項1に記載の体外式除細動器を提供する。
【0006】
本発明によれば、患者の心電図(ECG)を取得し患者にショックを与える患者電極と、患者の心臓が除細動可能リズムにあるか否かを検出する診断アルゴリズムを用いて患者のECGを解析する回路手段と、除細動可能リズムが診断アルゴリズムによって検出されるとイネーブルされるショック送達回路とを含む体外式除細動器であって、患者電極は、患者の胸郭インピーダンスの測度である信号(Z)の取得も可能にし、回路手段は、Zに応答して、診断アルゴリズムに除細動可能リズムの誤検出を発生させる可能性の高い干渉状態を検出し、当該検出が行われた場合、少なくとも一定期間にわたり診断アルゴリズムによる除細動可能リズムの検出を阻止する、体外式除細動器を提供する。
【0007】
好適な実施形態では、回路手段は、Zの一次微分dZ/dtを形成し、移動時間窓でdZ/dtのエネルギーに関連する量を導出し、且つ上記エネルギー関連量が特定の閾値レベルを超えているか否かを判定することによって、上記状態を検出する。
【0008】
本発明は、患者の胸郭インピーダンスを用いて分類不良が生じる可能性が高いことを検出するが、これは、このインピーダンス信号が、患者の動き及びオペレータによる電極への接触等の干渉に対してECGよりも高感度だからである。患者のインピーダンスにおいて観察された劇的変化は、上述のもの等の干渉が行われていることを強く示すものである。
【0009】
次に、例として添付図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明を具現した自動体外式除細動器のブロック図である。
【
図2】無干渉期間中及び干渉期間中それぞれのインピーダンス信号Zの一次微分dZ/dtを示すインピーダンス波形である。
【
図3】診断アルゴリズムに除細動可能リズムの誤検出を発生させる可能性の高い状態を検出するアルゴリズムの流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を参照すると、自動体外式除細動器は、3つの主要セクション10、12、及び14を備える。
【0012】
セクション10は、主高電圧ショック回路であり、充電回路18によって高電圧に充電されるコンデンサ16のバンクを備え、電荷は、ブリッジ回路22によって一対の患者電極20を通して二相性の高電圧ショックとして放出される。コンデンサ16の充電と二相性ショック波形の形状及び持続時間とは、マイクロプロセッサ24によって制御され、実際のショックは、患者のECGを入力として有する診断アルゴリズムによって判定されるように患者の状態が「除細動可能」とみなされる場合に、ユーザがボタン(図示せず)を押すことによって与えられる。ECGは、図示しない既知の方法で患者電極20から導出される。このプロセスは、視覚/聴覚インジケータ38に出力された音声メッセージ及び/又は視覚的プロンプトによって指示される(インジケータは、図示の簡単のためにセクション12に示す)。視覚/聴覚出力インジケータ38は、拡声器及び/又はLED(単数又は複数)を備え得る。
【0013】
セクション12は、ショックを与えるために用いるのと同じ電極20を用いて患者の胸郭インピーダンスを測定する。発生器26が、30キロヘルツの正弦波形を100マイクロアンペアの定電流で発生させる。この信号は、電極20間に印加される。電極を患者に取り付けると、30kHzの正弦波に重畳する電圧が電極間に発生する。この電圧は、患者の胸郭インピーダンスの直接測定値である。正弦波に応答して発生する電圧は、差動増幅器28に印加され、差動増幅器28は、それを差動信号から接地電位を基準とした単一信号に変換する。得られた波形は、ローパスフィルタ30に通され、ローパスフィルタ30は、患者インピーダンスに正比例する信号Zo(静インピーダンス)を残して元の30kHz信号を除去する。インピーダンス信号Zoは、正確な全エネルギー(通常は150ジュール)が患者へ確実に送達されるよう二相性パルスの振幅及び幅を設定するためにマイクロプロセッサ24によって用いられる。
【0014】
AEDのセクション10及び12の構成及び動作は既知であり、さらなる詳細は不要と考えられる。
【0015】
セクション14の目的は、主診断アルゴリズムに除細動可能リズムの誤検出を発生させる可能性の高い状況を検出するアルゴリズムへの入力として、インピーダンス信号Zoのさらなる調整を行うことである。セクション14は、セクション12における患者インピーダンスの導出用の既存の回路に付加される。
【0016】
除細動器のセクション14では、ローパスフィルタ30から出力されたインピーダンス信号Zoをハイパスフィルタ32に通し、ハイパスフィルタ32がdcオフセットを除去した後に、ローパスフィルタ34でより高い周波数ノイズが除去される。最後に、デジタルゲイン制御を組み込んだ増幅器36において、マイクロプロセッサ24によるアナログ−デジタル変換に適したレベルに信号をスケーリングする。こうして得られたフィルタリング及び増幅した信号Zをデジタル変換する。この実施形態では、アナログ−デジタルサンプルレートは170.66サンプル/秒である。しかしながら、異なるサンプルレートに適合するよう閾値の調整が可能であるので、これは干渉の検出に対する制限とはならない。インピーダンス信号Zを微分し、得られたdZ/dtを、診断アルゴリズムに除細動可能リズムの誤検出を発生させる可能性の高い干渉状態を検出する
図3のアルゴリズムで用いる。
【0017】
しかしながら、最初に、無干渉期間中及び干渉期間中それぞれの通常のdZ/dt波形を示す
図2を参照する。左側では、信号は、患者及び電極が妨害されていない期間に対応して相対的に低いエネルギーを有する。しかしながら、右側では、信号は、患者及び/又は電極が診断アルゴリズムに除細動可能リズムの誤検出を発生させるか又はその可能性の高いほどの妨害を受けている期間に対応して、相対的にはるかにより高エネルギーとなる。したがって、
図3のアルゴリズムは、dZ/dtのエネルギーが誤検出を引き起こす可能性の高い閾値レベルを上回る期間を検出するよう設計される。特に、好適な実施形態では、このアルゴリズムは、Zの一次微分(dZ/dt)を形成し、移動時間窓でdZ/dtのエネルギーに関連する信号を導出し、且つエネルギー信号が特定の(実験的に決まった)閾値レベルを超えているか否かを判定することによって、診断アルゴリズムに除細動可能リズムの誤検出を発生させる可能性の高い妨害を検出する。
【0018】
次に
図3を参照すると、スケーリング増幅器36からマイクロプロセッサ24に入力されたZの一連の(好ましくは連続した)デジタル値に関して、アルゴリズムは、かかる値それぞれについて以下のステップを行う。
a.ステップ100において、信号Zをマイクロプロセッサ24のソフトウェアによって微分し、その一次微分dZ/dtを取得する。
b.次に、ステップ110において、dZ/dtの振幅を計算する。
c.次に、ステップ120において、信号dZ/dtの振幅が特定の閾値よりも大きい場合にはステップ130においてフラグを1に設定し、そうでない場合にはステップ140においてフラグを0に設定する。
d.ステップ150において、フラグ値(0又は1)を最後の0.75秒にわたり平均する。これは、128要素の二進列(170.66のサンプルレートを用いた0.75秒に相当する)を供給することによって行う。列中の最古値を最新値で置き換え、二進列の要素を合計して128で割る。
e.ステップ160において、この平均が0.5よりも大きい場合、これはその時間のほとんどでdZ/dtが閾値よりも大きかったことを意味し、アルゴリズムは、診断アルゴリズムに除細動可能リズムの誤検出を発生させる可能性の高い干渉又は妨害を検出したというフラグを立てる(ステップ170)。ステップ180において、その他の場合は干渉も妨害も検出されない。
f.ステップ170において干渉が判明した場合、除細動器の診断アルゴリズムは、この実施形態では4秒間にわたり除細動可能リズムの検出を阻止される(ステップ190)。
【0019】
Z値がそれ以上入力されなくなる、すなわちZ信号がなくなるまで、プロセスは続く(ステップ200)。
【0020】
この実施形態のステップ120において用いる閾値は、干渉が報告された場合に大量の患者データを解析することによって経験的に得たものである。さらに、閾値は、A−Dサンプルレート、増幅器36からのゲイン、Zの分解能、移動時間窓の長さ、dZ/dtの計算に用いる技法等に応じて変わる。
【0021】
この実施形態では、ステップ150において計算した平均が前の0.75秒窓にわたるdZ/dt信号のエネルギーの測度であることが明らかであろう。すなわち、dZ/dtの振幅が移動窓で閾値を超える頻度が高いほど、信号のエネルギーが大きい。
【0022】
しかしながら、移動時間窓で信号のエネルギーを測定する他の方法を本発明の他の実施形態で用いてもよい。例えば、信号のRMS値又はピークピーク値を計算することができる。
【0023】
本発明は、本明細書に記載の実施形態に限定されるものではなく、実施形態は本発明の範囲から逸脱せずに修正又は変更することができる。