(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を参照して、本発明の実施形態によるリニアモータ100を備えるアクチュエーションシステム1について説明する。
【0012】
アクチュエーションシステム1は、筒状のヨーク10及びロッド20を有するリニアモータ100と、リニアモータ100を載置するための載置部2と、載置部2に立設されロッド20の両端を支持する支持部3と、載置部2上に配置されるレール4と、ヨーク10が固定されるとともにレール4に沿って移動するキャリア5と、を備えている。リニアモータ100が駆動されると、ヨーク10がキャリア5とともにレール4に沿って移動する。アクチュエーションシステム1では、ヨーク10に部品等の駆動対象を設置することで、当該駆動対象を直線的に移動させることができる。
【0013】
なお、アクチュエーションシステム1は、駆動対象を駆動する駆動アクチュエーションシステムとして構成されているが、このような構成に限られるものではない。リニアモータ100のヨーク10を相対変位する2つの部材の一方の部材に取り付け、リニアモータ100のロッド20を他方の部材に取り付けることで、これら部材の相対変位を抑制する制振用のアクチュエーションシステム1としてもよい。
【0014】
次に、
図2を参照して、アクチュエーションシステム1の駆動源であるリニアモータ100の構成について説明する。
【0015】
リニアモータ100は、筒体として形成されるヨーク10と、ヨーク10の内部をヨーク軸方向に挿通するロッド20と、ヨーク10に設けられる複数のコイル30と、ロッド20に保持される複数の永久磁石21と、を備える。リニアモータ100では、交流電流をコイル30に通電した時に当該コイル30の周囲に生じる移動磁界を利用して、ロッド20に保持された永久磁石21を吸引することで、ヨーク10とロッド20を軸方向に相対変位させる推力が発生する。
【0016】
ヨーク10は、磁性体(例えば軟鉄)によって形成された円筒状部材である。ヨーク10には、内周面11からヨーク中心に向かって突出するティース12が形成される。
【0017】
ティース12は、内周面11から立設するとともにヨーク10の内周方向に延設される立設部12Aと、立設部12Aの先端に設けられる先端部12Bと、を備える。ティース12の先端部12Bの端面は、ロッド20の外周面に対向するように構成されている。先端部12Bの幅(ヨーク軸方向の厚さ)は、立設部12Aの幅(ヨーク軸方向の厚さ)よりも大きく設定されている。また、先端部12Bの幅は、ヨーク中心に向かって徐々に大きくなるように形成されている。
【0018】
なお、ヨーク10の両端に位置するティース12の立設部12A及び先端部12Bの幅は、その他のティース12の立設部12A及び先端部12Bの幅の半分に設定されている。
【0019】
ヨーク10には、上記のように構成されるティース12が軸方向に沿って13個並設されている。隣接するティース12,12の間の空間はスロット13となる。これらティース12は、各スロット13の幅W
SLが一定となるように等しい間隔をあけて配置される。
【0020】
スロット13は、コイル30を配置するための環状溝である。リニアモータ100ではティース12が13個設けられるため、スロット13の数は12個となる。
【0021】
一般的にリニアモータでは、ヨークに形成されるスロットの数は、コイルに通電される交流電流の相数に応じて定められる。コイルに通電される電流が三相交流である場合には、ヨークの基準数は6となり、ヨークには6n
1個(n
1:正の整数)のスロットが設けられる。本実施形態のリニアモータ100では、基準数を2倍にした12個のスロット13がヨーク10に形成されている。このようにヨーク10は、基準数(6個)のスロットが2度繰り返して配置される、つまり基準数の2倍のスロットが形成される12スロット型ヨークとして構成されている。
【0022】
これらスロット13の内部には、コイル30が1つずつ配置される。コイル30の数はスロット13の総数に対応して12個となっており、12個のコイル30は4個のU相コイル31と、4個のV相コイル32と、4個のW相コイル33により構成されている。U相コイル31には、三相交流電流のU相電流が通電される。また、V相コイル32には三相交流電流のV相電流が通電され、W相コイル33には三相交流電流のW相電流が通電される。
【0023】
U相コイル31、V相コイル32、及びW相コイル33は、絶縁被覆された巻線30Aがロッド20の軸周りに巻き回されてリング状に形成されている。なお、
図2では、V相コイル32の巻線30Aの一部を図示し、その他を省略している。
【0024】
また、U相コイル31、V相コイル32、及びW相コイル33は、左端側のスロット13から右端側のスロット13に、V相、U相、W相の順番で一相ずつ交互に配置されている。
【0025】
ヨーク10と同軸に配置されるロッド20は、非磁性体(例えばステンレス鋼)によって形成された円筒状部材である。ロッド20は、軸方向に貫通する貫通孔20Aを有している。
図1に示すように、ロッド20の両端は、載置部2に設けられた支持部3に固定されている。
【0026】
図2に示すように、ロッド20の貫通孔20Aには、複数の永久磁石21がティース12の先端部12Bと対向するように軸方向に並んで保持される。永久磁石21は、円柱状に形成されており、軸方向にN極とS極が現れるように着磁されている。これら永久磁石21は等間隔に設けられており、隣り合う永久磁石21は同極同士が対向するように配置されている。また、隣り合う永久磁石21の間には、磁性体(軟鉄等)により形成された円柱状継鉄22が設けられている。
【0027】
一般的にリニアモータではスロットの基準数に応じて永久磁石及び円柱状継鉄の基準数が定められ、リニアモータ100のようにスロット13の基準数が6個である場合には、永久磁石21及び円柱状継鉄22の基準数は2n
2個(n
2:正の整数)に設定される。本実施形態によるリニアモータ100では、永久磁石21及び円柱状継鉄22の基準数はそれぞれ2個に設定されている。したがって、基準数を2倍した数のスロット13を有するリニアモータ100では、ヨーク10内に位置する永久磁石21及び円柱状継鉄22の数はそれぞれ4個となっている。このように、リニアモータ100は、ヨーク10内に位置する永久磁石の数が4個、ヨーク10に形成されたスロット13の数が12個の4極12スロット型リニアモータとして構成されている。
【0028】
なお、リニアモータ100では、円柱状継鉄22は必ずしも設ける必要はなく、各永久磁石21を直接隣接させてもよい。このように構成する場合であっても、リニアモータ100における永久磁石21の基準数に変更はない。
【0029】
図3に示すように、リニアモータ100では、4個のU相コイル31は直列に接続されており、4個のV相コイル32及び4個のW相コイル33も同相コイル同士が直列に接続されている。
【0030】
先端側のU相コイル31、V相コイル32、及びW相コイル33の端部はドライバ40に接続されており、後端側のU相コイル31、V相コイル32、及びW相コイル33の端部はY結線されている。なお、先端側から1番目と3番目のU相コイル31、及び先端側から2番目と4番目のV相コイル32,W相コイル33の巻線30Aは、ロッド20の軸周りの一方向に巻き回されている。それ以外のU相コイル31、V相コイル32、及びW相コイル33の巻線30Aは、ロッド20の軸周りの他方向(一方向とは逆向き)に巻き回されている。
【0031】
ドライバ40は、U相コイル31、V相コイル32、及びW相コイル33への交流電流の供給を制御する制御装置である。ドライバ40は、図示しない位置センサにより検出されるヨーク10とロッド20との相対位置情報に基づいて、交流電流の周波数や通電タイミング等を制御する。これにより、リニアモータ100における推力や推力発生方向が調整され、その推力によってヨーク10とロッド20とが直線的に相対移動する。
【0032】
ところで、前述した特許文献1に記載されたリニアモータでは、ヨークは6個(基準数)のスロットが繰り返して配置される12スロット型として構成されており、ヨークに形成される複数のティースはスロット幅が一定となるよう等間隔に配置されている。このようなリニアモータでは、ヨーク左半分に位置する基準数のスロットを含む左側領域及びヨーク右半分に位置する基準数のスロットを含む右側領域のディテント力の変動周期が互いに同位相となる。そのため、両領域のディテント力が強め合い、リニアモータで発生するディテント力の総和が大きくなる。
【0033】
本実施形態によるリニアモータ100では、
図2に示すように、ヨーク左半分に位置する基準数のスロット13を含む左側領域Lと、ヨーク右半分に位置する基準数のスロット13を含む右側領域Rとの境界に位置するティース12にスリット12C(幅調整部)を設けることで、ディテント力の総和の低減を図っている。
【0034】
スリット12Cは、ヨーク10の左端又は右端から下記(1)式で定められるN番目のティース12に形成される。
【0035】
【数1】
S:スロットの基準数
n
3:スロットの総数をSで割った値よりも小さい正の整数
【0036】
つまり、リニアモータ100では、スロット13の基準数Sは6個で、スロット13の総数は12個であるから、スロット総数をスロット基準数で割った値よりも小さい正の整数n
3は1となる。したがって、N=6×1+1=7となり、ヨーク端から7番目のティース12にスリット12Cが形成されることとなる。
【0037】
スリット12Cは、7番目のティース12の幅方向の中央位置に設けられるとともに、ロッド20の軸周りに沿って設けられる環状溝として形成される。このようにスリット12Cが形成されることにより、ヨーク端から7番目に配置されるティース12の幅は、スリット12Cのヨーク軸方向の幅Wsだけ、他のティース12の幅よりも大きくなる。言い換えれば、7番目のティース12を挟んで隣り合うスロット13,13の間隔が、その他のティース12を挟んで隣り合うスロット13,13の間隔よりも大きくなる。
【0038】
また、スリット12Cのヨーク径方向の深さDsは、スロット13のヨーク径方向深さと同一に設定されている。
【0039】
次に、
図4を参照して、本実施形態のリニアモータ100によるディテント力の低減効果について説明する。
図4は、ロッド20が左方向にヨーク10が右方向に相対移動する場合を例示した図である。
図4下部のディテント力の波形図において、横軸はリニアモーア100の軸方向位置を示し、縦軸はディテント力の大きさを示す。
【0040】
図4に示すように、リニアモータ100が駆動されてロッド20及びヨーク10が相対移動すると、右側領域Rにおけるディテント力は、円柱状継鉄22の中央位置P1が、ティース12の中央位置P2とスロット13の中央位置P3との間の中間位置Pcに一致する時に最も大きくなる。左側領域Lにおいても同様に、ディテント力は、円柱状継鉄22の中央位置P1が、ティース12の中央位置P2とスロット13の中央位置P3との間の中間位置Pcに一致する時に最も大きくなる。
【0041】
仮にリニアモータ100において右側領域Rと左側領域Lの間に位置する7番目のティース12にスリット12Cが形成されてない場合には、右側領域R及び左側領域Lにおけるディテント力の変動周期は同位相となってしまう。しかしながら、リニアモータ100では、ヨーク端から7番目のティース12にはティース幅が大きくなるようにスリット12Cが形成されているため、右側領域R及び左側領域Lにおけるディテント力の変動周期の位相をずらすことができる。
【0042】
図4では、右側領域Rのディテント力を変動周期を変えずに左側領域Lまで延長した延長線(破線)を記載している。この延長線の変動周期と左側領域Lのディテント力の変動周期とを比較しても分るように、リニアモータ100では右側領域Rのディテント力のピーク位置と左側領域Lのディテント力のピーク位置はヨーク軸方向にスリット幅W
S分だけずれている。各領域R,Lにおけるディテント力の変動周期の位相差は、30°から60°の範囲で設定することが望ましい。
【0043】
上記した本実施形態のリニアモータ100によれば、以下に示す効果を奏する。
【0044】
リニアモータ100では、ヨーク端から数式1で定められるN番目のティース12にスリット12Cが形成されるので、基準数のスロットを含む各領域R,Lにおけるディテント力の変動周期の位相をスリット幅W
S分だけずらすことができる。これにより、各領域R,Lにおけるディテント力のピーク位置同士をずらすことができ、リニアモータ100で発生するディテント力の総和を低減することが可能となる。その結果、リニアモータ100の制御性を改善することができる。各領域R,Lにおけるディテント力のピーク位置同士をずらすためには、スリット12Cのヨーク径方向の深さDsをある程度深く設定する必要があり、例えばスロット13のヨーク径方向深さと同一に設定することが望ましい。
【0045】
なお、(1)式で定められるN番目のティース12に形成されるスリット12Cの幅は、リニアモータ100で発生するディテント力の総和を低減できる範囲で設定される。本願発明者らの知見によれば、リニアモータ100では、スリット12Cの幅は下記(2)式に基づいて設定されることが望ましい。
【0046】
【数2】
W
S:スリットの幅
S:スロットの基準数
P:スロットの基準数に応じて定まる永久磁石の基準数
W
P:基準数(P個)の永久磁石の配置間隔
【0047】
リニアモータ100では、スロット13の基準数Sは6個であり、永久磁石21の基準数Pは2個であり、永久磁石21の配置間隔W
Pは
図2に示すように2個分の永久磁石21及び2個分の円柱状継鉄22のヨーク軸方向長さ(ピッチ間隔)である。リニアモータ100のようにロッド20に円柱状継鉄22が配置される場合には、W
Pには永久磁石21だけでなく円柱状継鉄22の配置間隔も含まれる。
【0048】
(2)式に基づいてティース12のスリット12Cの幅W
Sを設定すれば、左側領域L及び右側領域Rのディテント力の変動周期の位相を逆位相とすることができ、リニアモータ100で発生するディテント力の総和を最小にすることが可能となる。
【0049】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなし得ることは明白である。
【0050】
本実施形態によるリニアモータ100では、スリット12C内に強化プラスチック等の樹脂を充填してもよい。このようにティース12のスリット12C内に非磁性体を配設する場合には、ディテント力の総和を低減できるだけでなく、スリット12Cが設けられるティース12の剛性を高めることができる。したがって、スリット12Cを形成した場合でも、ヨーク10の強度を維持することが可能となる。
【0051】
本実施形態によるリニアモータ100では、ヨーク10を右側領域Rを構成する右ヨークと左側領域Lを構成する左ヨークとからなる分割構造とし、これら右ヨークと左ヨークの間にスリット12Cと同幅の非磁性体のスペーサ(幅調整部)を介在させるようにしてもよい。スペーサは、右ヨークと左ヨークの連結端に形成されている右ヨーク側及び左ヨーク側のティースの幅を調整する。
【0052】
本実施形態によるリニアモータ100は、スロット13の基準数を6個、永久磁石21の基準数を2個とする4極12スロット型のリニアモータとした。しかしながら、リニアモータ100は、スロット13の基準数を6個、永久磁石21の基準数を4個とする8極12スロット型や、スロット13の基準数が6個、永久磁石21の基準数が2個の6極18スロット型等のリニアモータとしてもよい。このようにリニアモータ100は、スロット基準数を整数倍した数のスロット13及び磁石基準数を整数倍した数の永久磁石21を備えるリニアモータとして構成される。
【0053】
リニアモータ100が上記した8極12スロット型である場合には、(1)式に基づいてヨーク端から7番目のティース12にスリット12Cが形成される。また、リニアモータ100が上記した6極18スロット型である場合には、(1)式に基づいてヨーク端から7番目と13番目の2つのティース12にスリット12Cが形成される。
【0054】
また、本実施形態によるリニアモータ100では、ロッド20の貫通孔20A内に複数の永久磁石21を軸方向に並べて固定したが、永久磁石21の配置はこれに限られるものではない。例えば、リング状に形成した永久磁石21をロッド20の外周に外嵌めし、複数の永久磁石21をティース12の先端と対向するように軸方向に並べて配置してもよい。