(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記無機材料が、Al2O3、MgO、TiO2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とする被膜を表面に備える無機材料である請求項6に記載の樹脂膜形成方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シランカップリング剤により、樹脂と無機材料とを密着させた、無機材料表面に形成された樹脂膜は、使用目的によっては、その密着性及び耐久性が十分な場合もある。しかし、無機材料表面に形成された樹脂膜を、例えば電子材料あるいは光学材料として用いる場合に、樹脂と無機材料とをシランカップリング剤によって単純に密着させるのみでは、熱的な負荷がかかる条件下において長期耐久性などの特性を十分に満たさない場合もある。また、シランカップリング剤による、樹脂と無機材料との密着効果をより向上させることができれば、広い用途に用いることができると期待される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
無機材料の表面には通常水酸基が存在しており、その水酸基とシランカップリング剤が反応し、結合する。しかし、本発明者らの検討により、無機材料の表面水酸基を、カルボキシル基で置換することによって、あるいは、アミノ基で置換することによって、あるいは、無機材料の表面水酸基密度を4〜8個/nm
2に調整することによって、シランカップリング剤との反応性を向上させ、無機材料とシランカップリング剤の密着性を向上することを見出した。
【0006】
本発明は、無機材料と樹脂の結合を容易にし、樹脂と無機材料の密着性を向上させ、長期信頼性を確保することを目的とする。
【0007】
すなわち、本発明は、樹脂膜形成方法であって、無機材料表面
の水酸基をカルボキシル基
に置換する工程と、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂を含んでなる樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、前記カルボキシル基を導入した無機材料上に形成する工程とを含む。
【0008】
本発明において、無機材料とは、金属酸化物あるいは金属窒化物を主成分とする材料をいう。無機材料は、例えば、板状、棒状、粒子状あるいはブロック状の材料であってもよいが、その形状、寸法、厚みは特に限定されるものではない。
【0009】
前記樹脂膜形成方法において、前記樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、
前記水酸基を前記カルボキシル基
に置換した無機材料上に形成する工程が、
前記水酸基を前記カルボキシル基
に置換した無機材料上に、シランカップリング剤を含んでなるシランカップリング剤層を形成する工程と、前記シランカップリング剤層上に、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂を含んでなる樹脂膜を形成する工程とを含むことが好ましい。
【0010】
あるいは、前記樹脂膜形成方法において、前記樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、
前記水酸基を前記カルボキシル基
に置換した無機材料上に形成する工程が、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂とシランカップリング剤を混合して樹脂組成物を調製する工程と、前記樹脂組成物を、
前記水酸基を前記カルボキシル基
に置換した無機材料上に塗布し、樹脂膜を形成する工程とを含むことが好ましい。
【0011】
ある実施形態においては、前記樹脂膜形成方法において、前記無機材料が、SiO
2またはZnOまたはZrO
2から選択される一以上を主成分とすることが好ましい。
【0012】
別の実施形態においては、前記樹脂膜形成方法において、前記無機材料が、SiO
2またはZnOまたはZrO
2から選択される一以上を主成分とする被膜を表面に備える無機材料であることが好ましい。
【0013】
本発明はまた、別の態様によれば、樹脂膜形成方法であって、無機材料表面
の水酸基をアミノ基
に置換する工程と、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂を含んでなる樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、
前記水酸基を前記アミノ基
に置換した無機材料上に形成する工程とを含む。
【0014】
前記樹脂膜形成方法において、前記樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、
前記水酸基を前記アミノ基
に置換した無機材料上に形成する工程が、
前記水酸基を前記アミノ基
に置換した無機材料上に、シランカップリング剤を含んでなるシランカップリング剤層を形成する工程と、前記シランカップリング剤層上に、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂を含んでなる樹脂膜を形成する工程とを含むことが好ましい。
【0015】
あるいは、前記樹脂膜形成方法において、前記樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、
前記水酸基を前記アミノ基
に置換した無機材料上に形成する工程が、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂とシランカップリング剤を混合して樹脂組成物を調製する工程と、前記樹脂組成物を、
前記水酸基を前記アミノ基
に置換した無機材料上に塗布して、樹脂膜を形成する工程とを含むことが好ましい。
【0016】
本発明はまた、別の態様によれば、樹脂膜形成法であって、無機材料表面の水酸基密度を4〜8個/nm
2に調整する工程と、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂を含んでなる樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、前記水酸基密度を調整した無機材料上に形成する工程とを含む。
【0017】
前記樹脂膜形成方法において、前記樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、前記水酸基密度を調整した無機材料上に形成する工程が、前記水酸基密度を調整した無機材料上に、シランカップリング剤を含んでなるシランカップリング剤層を形成する工程と、前記シランカップリング剤層上に、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂を含んでなる樹脂膜を形成する工程とを含むことが好ましい。
【0018】
あるいは、前記樹脂膜形成方法において、前記樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、前記水酸基密度を調整した無機材料上に形成する工程が、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂とシランカップリング剤を混合して樹脂組成物を調製する工程と、前記樹脂組成物を、前記水酸基密度を調整した無機材料上に塗布して、樹脂膜を形成する工程とを含むことが好ましい。
【0019】
ある実施形態においては、前記無機材料が、Al
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とすることが好ましい。
【0020】
別の実施形態においては、前記無機材料が、Al
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とする被膜を表面に備える無機材料であることが好ましい。
【0021】
さらには、前記樹脂膜形成方法において、前記無機材料が、基板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の樹脂膜形成方法によれば、無機材料上に、高い密着性を有する樹脂膜を形成することができる。従来、無機材料にシランカップリング剤を適用するのみでは、耐熱性までを有する信頼性の高い樹脂膜の形成が困難であったところ、本発明によれば、簡便かつ経済的な方法で、高い密着性を有する樹脂膜を形成することができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0024】
[第1実施形態]
本発明は、第1の実施形態によれば、樹脂膜形成方法であって、無機材料表面にカルボキシル基を導入する工程と、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂を含んでなる樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、前記カルボキシル基を導入した無機材料上に形成する工程とを含み、無機材料が、SiO
2またはZnOまたはZrO
2から選択される一以上を主成分とする材料である。
【0025】
第1の実施形態においては、無機材料が、SiO
2またはZnOまたはZrO
2から選択される一以上を主成分とする材料であることを特徴とする。これらの酸化物は、カルボキシ基の導入による効果が大きいからである。SiO
2またはZnOまたはZrO
2から選択される一以上を主成分とする無機材料は、例えば、板状、棒状、粒子状あるいはブロック状の材料であってよく、その寸法や厚みは、特に限定されるものではない。より好ましくは、無機材料としては、基板が挙げられる。例えば、ウエハなどの電子材料の基板、光学材料の基板、セラミックス基板、シリコンなどの半導体基板にこれらの無機材料膜を形成した基板を例示することができるが、これらには限定されない。ウエハなどの電子材料の基板を本実施形態の無機材料として用いる場合には、パターニングが施されていないものが好ましい。
【0026】
本発明において、無機材料表面とは、無機材料の少なくとも一部の表面であって、後に詳述する樹脂膜を付着させる対象面を言うものとする。したがって、無機材料の表面全体である場合もあり、無機材料の表面の一部の場合もある。また、無機材料が、複数の面から構成されている場合には、ある一面のみ、あるいは、2以上の所望の面であってもよい。また、後述する第2及び第4及び第6の実施形態では、無機材料は被膜を備える無機材料であるが、ここでの無機材料表面とは、被膜の少なくとも一部の表面を言うものとする。
【0027】
本実施形態による樹脂膜形成方法は、無機材料表面にカルボキシル基を導入する第1の工程と、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂を含んでなる樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、前記カルボキシル基を導入した無機材料上に形成する第2の工程とを含む。
【0028】
まず、無機材料表面にカルボキシル基を導入する第1の工程について説明する。無機材料表面にカルボキシル基を導入する第1の工程は、好ましくは、無機材料表面を熱処理する工程と、熱処理した無機材料をカルボン酸雰囲気下で静置する工程とを備える。
【0029】
無機材料表面を熱処理する工程は、無機材料を1000℃〜1200℃で加熱する工程である。かかる工程により、無機材料表面の水酸基が除去され、カルボキシル基の導入が容易になる。加熱時間は、通常、10分から120分程度である。無機材料表面を熱処理する工程は、また、レーザー光の照射によっても実施することができる。レーザー光の照射による熱処理は、特には、無機材料の樹脂膜を付着させる対象面が局部的な場合などに好ましく用いることができる。ただし、ここで示した加熱温度や時間、方法に限定するものではなく、無機材料の組成や材質によって適宜決定することができる。
【0030】
上記熱処理する工程の後、カルボキシル基の導入温度に設定した別の加熱炉に投入して、所望の温度になってからカルボキシル基の導入処理を行うことが好ましい。上記熱処理工程後に水酸基の再結合が生じないようにするためである。カルボキシル基への導入処理温度は、例えば、約100〜300℃であり、好ましくは、約200〜260℃であるが、この温度範囲には限定されない。ただし、カルボキシル基への置換処理方法や温度についてはこれに限定されるものではなく、使用する試薬によって適宜決定することができる。
【0031】
無機材料を、カルボキシル基の導入のための所望の温度とした後、熱処理した無機材料をカルボン酸雰囲気下で静置する工程を行う。かかる工程は、無機材料表面の水酸基が極力低減される条件下、すなわち、高温かつ無水条件下、例えば乾燥雰囲気にしたグローブボックス等で実施することが好ましい。具体的には、酢酸などのカルボン酸の雰囲気下に、例えば、約100〜150℃、好ましくは、約110〜130℃で、無機材料を、例えば、約10〜120分、好ましくは、約30〜120分にわたって曝露する。酸の雰囲気下とは、これらの酸の蒸気圧(分圧)が、0.5〜1.0気圧であることをいう。ただし、これらの条件に限定されるものではない。カルボン酸の雰囲気下であれば、上記の特定のカルボン酸に限定されることはない。
【0032】
上記カルボン酸雰囲気下で静置する工程の後、無機材料表面に、カルボキシル基が導入されていることは、例えば、赤外分光法や飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-S
IMS)等によって確認することができる。このように処理して得られたカルボキシル基を導入した無機材料は、処理後直ちに樹脂膜を塗布することが好ましいが、直ぐに処理しない場合は窒素雰囲気のデシケータに保管しておいても良い。
【0033】
次に、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂を含んでなる樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、前記カルボキシル基を導入した無機材料上に形成する第2の工程について説明する。ここで、「シランカップリング剤を介して」とは、樹脂膜を構成する樹脂組成物自体にシランカップリング剤が混合されていてもよく、シランカップリング剤からなる層を、樹脂膜とは別個に無機材料上に設け、シランカップリング剤層上に樹脂膜を形成してもよいことをいう。あるいは、シランカップリング剤からなる層を無機材料上に設け、シランカップリング剤層上に、さらにシランカップリング剤を含んでなる樹脂膜を形成してもよい。
【0034】
無機材料上に塗布する樹脂膜を構成する樹脂成分は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれであってもよく、これらの混合物であっても良い。
【0035】
熱硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂を挙げることができるが、これらには限定されない。樹脂成分が熱硬化性樹脂であるときは、樹脂成分は、熱硬化性樹脂主剤と、硬化剤と、必要に応じて硬化促進剤とを含む。硬化促進剤は、硬化反応を制御するために有効に用いることができる。
【0036】
好ましい熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂の主剤としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等の2官能エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等の多官能型エポキシ樹脂を単独で又は複数組み合わせて使用することができる。
【0037】
熱硬化性樹脂の硬化剤は、熱硬化性樹脂主剤との関係で選択することができる。例えば、熱硬化性樹脂主剤として、エポキシ樹脂主剤を用いる場合には、エポキシ樹脂の硬化剤として一般に使用されているものを用いることができる。特には、硬化剤としては、アミン硬化剤、脂肪族ポリアミン、芳香族アミン、酸無水物系、フェノールノボラック型、フェノールアラルキル、トリフェノールメタン型フェノール樹脂を用いることができるが、これらには限定されない。
【0038】
なお、エポキシ樹脂の硬化剤として、さらには、分子構造中に−NH
3、−NH
2、−NH、のいずれか一種、または複数の官能基が含まれる分子、または酸無水物を特に好適に使用することができる。具体的には、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンのような芳香族アミン、脂肪族アミン、イミダゾール誘導体、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジンなどのグアニジン系硬化剤、チオ尿素付加アミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ドデカン酸ジヒドラジドなどのジヒドラジド系硬化剤、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール系硬化剤、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物系硬化剤およびそれらの異性体、変成体を用いることができる。また、硬化剤は、これらのうち1種のものを単独で用いることができ、あるいは、2種以上のものを混合して用いることができる。
【0039】
硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、ベンジルジメチルアミン等の3級アミン類、トリフェニルフォスフィン等の芳香族フォスフィン類、三フッ化ホウ素モノエチルアミン等のルイス酸、ホウ酸エステル等を用いることができるが、これらには限定されない。
【0040】
硬化剤の配合割合は、エポキシ樹脂主剤のエポキシ当量及び硬化剤のアミン当量もしくは酸無水物当量から決定することができる。エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂主剤を用いる場合にも、同様に、各樹脂主剤の反応当量、硬化剤の反応当量に基づき、配合割合を決定することができる。また、硬化促進剤を用いる場合には、硬化促進剤の配合割合は、エポキシ樹脂主剤の重量を100%としたときに、0.1〜5重量%とすることが好ましい。
【0041】
樹脂成分が熱可塑性樹脂であるとき、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂を使用することができるが、これらには限定されない。
【0042】
本実施形態において、樹脂膜の構成成分は上記記載以外の成分を含まないものであってもよい。あるいは、さらなる任意成分として、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維等の強化繊維を含んでいてもよい。その他、本発明の目的の範囲内で樹脂と無機材料の密着性を損なわない限り、その他の添加物を含んでいても良い。樹脂膜の構成成分にシランカップリング剤を含む場合には、無機材料の表面積に合わせてその添加量を適宜決めることが出来る。例えば、無機材料の単位面積当たりの、シランカップリング剤の量が、0.1〜10mg/m
2となるように添加量を決定することができるが、これに限定されるものではない。
【0043】
カルボキシル基を導入した無機材料表面にシランカップリング剤を塗布する工程は、水またはエタノール等で希釈したシランカップリング剤溶液内に無機材料を浸漬する方法により実施することができる。また、無機材料が基板状であれば、スピンコート法により塗布することが可能である。
【0044】
カルボキシル基を導入した無機材料表面に適用するシランカップリング剤は、樹脂成分と反応する官能基と、アルコキシ基とを備えるものを使用することができる。例えば、樹脂成分にエポキシ樹脂を用いる場合には、シランカップリング剤は、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基またはエポキシ基を備え、かつアルコキシ基を備えることが好ましい。樹脂成分に、ポリイミド樹脂を用いる場合には、シランカップリング剤は、アミノ基、ウレイド基、イソシアネート基、エポキシ基を備え、かつアルコキシ基を備えることが好ましい。シランカップリング剤の濃度は、0.5〜2質量%程度とすることができ、希釈したシランカップリング剤の塗布量は、無機材料の単位面積当たりの質量で、0.1〜10g/m
2とすることができるが、適宜変更することが可能である。
【0045】
シランカップリング剤の塗布後、シランカップリング剤を塗布した無機材料を加熱して無機材料表面のカルボキシル基とシランカップリング剤を結合させる。このときの加熱温度は80〜120℃、加熱時間は1〜10分とすることができるが、かかる温度及び時間には限定されず、加熱条件は適宜選択することができる。なお、シランカップリング剤の層を単独で設けることなく、樹脂膜の構成成分にシランカップリング剤を含む場合には、上記無機材料表面にシランカップリング剤を塗布する工程、ならびにシランカップリング剤を塗布した無機材料を加熱して無機材料表面のカルボキシル基とシランカップリング剤を結合させる工程は省略し、これに替えて、樹脂とシランカップリング剤とを混合して樹脂組成物を調製する工程を実施することができる。
【0046】
次いで、シランカップリング剤の層を設けた、あるいは層を設けていない無機材料上に、樹脂を塗布する工程を実施する。熱硬化性樹脂の場合、主剤と硬化剤、任意選択的に硬化促進剤とを混合して得られた樹脂組成物を塗布する。熱可塑性樹脂の場合はそのまま塗布することができる。無機材料が基板状の場合は第2の工程と同様にスピンコート法を用いて塗布することができる。シランカップリング剤を含む樹脂組成物の塗布も同様に実施することができる。
【0047】
次いで、任意選択的に、前記熱硬化性樹脂を硬化させる加熱硬化工程を実施する。ここでは、通常の方法にしたがって、塗布した樹脂膜を、熱硬化性樹脂の硬化温度以上の温度で加熱し、硬化させる。加熱は、例えばエポキシ樹脂の場合には、100〜250℃において、1〜20時間程度行うことが好ましい。なお、樹脂成分として、熱可塑性樹脂を使用する場合には、加熱硬化工程は必要ない。
【0048】
このようにして得られた樹脂膜は、無機材料表面への密着性が高く、高温条件下で使用した場合であっても、長期にわたる耐久性を実現することができる。特には、無機材料を、SiO
2またはZnOまたはZrO
2から選択される一以上を主成分とする材料とすることで、シランカップリング剤の効果を向上させ、樹脂との密着性をより向上させることができる。
[第2実施形態]
本発明は、第2の実施形態によれば、樹脂膜形成方法であって、無機材料表面にカルボキシル基を導入する工程と、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂を含んでなる樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、前記カルボキシル基を導入した無機材料上に形成する工程とを含み、前記無機材料が、表面にSiO
2またはZnOまたはZrO
2から選択される一以上を主成分とする被膜を備える無機材料である。
【0049】
第2の実施形態においては、無機材料が、表面にSiO
2またはZnOまたはZrO
2から選択される一以上を主成分とする被膜を備える無機材料である点で第1実施形態と異なる。表面にSiO
2またはZnOまたはZrO
2から選択される一以上を主成分とする被膜を備える無機材料は、表面にSiO
2またはZnOまたはZrO
2から選択される一以上を主成分とする被膜を備えるものであれば、これらの被膜が付された無機材料は、任意の無機材料であってよいが、特には、被膜が付された無機材料は、Al
2O
3、MgO、TiO
2、またはAlNやBNなどの窒化物、CaF、MgFなどのフッ化物あるいはそれらの組み合わせを主成分とするものであることが好ましい。ここでいう表面とは、無機材料の少なくとも一部の表面であって樹脂膜を付着させる対象面となる面を言う。樹脂膜を付着させる対象面に被膜を施せば十分であるが、無機材料の表面全体に被膜が付されていても良く、無機材料の表面の一部に被膜が付されていても良い。被膜は、カルボキシル基を導入するに足りる反応場を提供すれば十分であり、その厚さは、特には限定されないが、例えば、5〜20nmとすることができる。
【0050】
表面にSiO
2またはZnOまたはZrO
2から選択される一以上を主成分とする被膜を備える無機材料は、市販されているものであってもよいし、既知の方法で当業者が適宜製造することができる。例えば、蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法、水ガラス法などにより、表面にSiO
2またはZnOまたはZrO
2から選択される一以上を主成分とする被膜を備える無機材料を調製することができる。
【0051】
したがって、第2の実施形態においては、被膜を備える無機材料を準備、もしくは調製する工程以外の、無機材料表面にカルボキシル基を導入する工程と、樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、前記カルボキシル基を導入した無機材料上に形成する工程とは、第1実施形態と同様にして実施することができる。
【0052】
第2の実施形態によれば、任意の無機材料に対して、表面にSiO
2またはZnOまたはZrO
2から選択される一以上を主成分とする被膜を形成し、その表面にカルボキシル基を導入することで、第1の実施形態と同様に、シランカップリング剤の効果を向上させ、樹脂と無機材料を密着させて、樹脂膜の形成が可能になる。
[第3実施形態]
本発明は、第3の実施形態によれば、樹脂膜形成方法であって、無機材料表面にアミノ基を導入する工程と、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂を含んでなる樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、前記アミノ基を導入した無機材料上に形成する工程とを含み、前記無機材料が、Al
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とするものである。
【0053】
本実施形態においては、無機材料が、Al
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とするものであることを特徴とする。アミノ基の導入による効果が大きいからである。無機材料の形状、用途については、第1の実施形態において説明したのと同様とすることができる。
【0054】
まず、無機材料表面にアミノ基を導入する第1の工程について説明する。無機材料表面にアミノ基を導入する第1の工程は、好ましくは、無機材料表面を熱処理する工程と、熱処理した無機材料をアミノ化試薬と接触させる工程とを備える。
【0055】
無機材料表面を熱処理する工程は、無機材料を1000℃〜1200℃で、通常、10分から120分程度加熱する工程である。かかる工程により、無機材料表面の水酸基が除去され、アミノ基の導入が容易になる。無機材料表面を熱処理する工程は、第1の実施形態において説明したのと同様に実施することができる。
【0056】
上記熱処理する工程の後、アミノ基の導入温度に設定した別の加熱炉に投入して、所望の温度になってからアミノ基の導入処理を行うことが好ましい。上記熱処理工程後に水酸基の再結合が起らないようにするためである。別の加熱炉の設定温度は、例えば、約100〜300℃であり、好ましくは、約200〜260℃であるが、この温度範囲には限定されない。
【0057】
無機材料を、別の加熱炉にて所望の温度とした後、熱処理した無機材料をアミノ化試薬と接触させる工程を行う。かかる工程は、無機材料表面の水酸基が極力低減される条件下、すなわち、乾燥剤を用いるなどして、乾燥雰囲気にしたグローブボックス等で実施することが好ましい。
【0058】
アミノ化試薬は、アンモニアそのものであってもよい。アンモニアそのものをアミノ化試薬として用いる場合、熱処理した無機材料をアミノ化試薬と接触させる工程は、好ましくは、20〜500℃の温度で、10〜180分間で行う。この時のアンモニアの蒸気圧(分圧)は、0.3〜1気圧とすることが好ましい。あるいはまた、アミノ化試薬として、アンモニア発生剤も使用することができる。アンモニア発生剤は、必要に応じて加熱し、また必要に応じて適切な触媒に接触させて分解することでアンモニアを生じるものであり、例えば、ジメチルアミン、尿素、塩化アンモニウム等が挙げられる。アンモニア発生剤を使用する場合も、発生したアンモニアの分圧を、上記範囲内とすることが好ましい。
【0059】
アミノ化試薬にはアミン系シランカップリング剤は含まれない。本願でアミノ化試薬として最終生成するアンモニアは、水蒸気が含まれている場合、無機材料の表面へのシラノール基生成を助長しないように乾燥して用いることが好ましい。乾燥剤としては、塩基性乾燥剤であることが好ましく、例えば、酸化アルミニウム、ゼオライト、モレキュラーシーブ等の物理的乾燥剤、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酸化カルシウム等の化学的乾燥剤を単独使用または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0060】
上記アミノ化試薬と接触させる工程の後、無機材料表面に、アミノ基が導入されていることは、例えば、赤外分光法や飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)等
によって確認することができる。このように処理して得られたアミノ基を導入した無機材料は、処理後直ちに樹脂膜を塗布することが好ましいが、直ぐに処理しない場合は窒素雰囲気のデシケータに保管しておいても良い。
【0061】
次に、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂と、シランカップリング剤と含んでなる樹脂膜を、前記アミノ基を導入した無機材料上に形成する第2の工程は、第1実施形態における第2の工程と同様に実施することができる。
【0062】
第3の実施形態によれば、無機材料を、Al
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とする材料とすることで、シランカップリング剤の効果を向上させ、樹脂との密着性をより向上させることができる。
【0063】
なお、第3の実施形態の変形形態として、無機材料を、SiO
2、ZnO、またはZrO
2、あるいはこれらの組み合わせを主成分とするものとすることもできる。かかる無機材料であっても、密着性の向上において一定の効果を得ることができる。
[第4実施形態]
本発明は、第4の実施形態によれば、樹脂膜形成方法であって、無機材料表面にアミノ基を導入する工程と、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂と、シランカップリング剤と含んでなる樹脂膜を、前記アミノ基を導入した無機材料上に形成する工程とを含み、前記無機材料が、表面にAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とする被膜を備える無機材料である。
【0064】
第4の実施形態においては、前記無機材料が、表面にAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とする被膜を備える無機材料である点で第3実施形態と異なる。表面にAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とする被膜を備える無機材料は、表面にAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とする被膜を備えるものであれば、これらの被膜が付された無機材料は、任意の無機材料であってよいが、特には、被膜が付された無機材料は、SiO
2、ZnO、またはZrO
2、BNや、CaF、MgFなどのフッ化物、あるいはこれらの組み合わせを主成分とするものであることが好ましい。ここでいう表面とは、第2実施形態において定義した被膜が付された表面と同様である。また、被膜は、アミノ基を導入するに足りる反応場を提供すれば十分であり、その厚さは、特には限定されないが、例えば、5〜20nmとすることができる。
【0065】
表面にAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とする被膜を備える無機材料は、市販されているものであってもよいし、既知の方法で当業者が適宜製造することができる。ここでも、蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法などにより、表面にAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とする被膜を備える無機材料を調製することができる。
【0066】
したがって、第4の実施形態においては、被膜を備える無機材料を準備、もしくは調製する工程以外の、無機材料表面にアミノ基を導入する工程と、樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、前記アミノ基を導入した無機材料上に形成する工程とは、第3実施形態と同様にして実施することができる。
【0067】
第4の実施形態によれば、任意の無機材料に対して、表面にAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とする被膜を形成し、その表面にアミノ基を導入することで、第3の実施形態と同様に、シランカップリング剤の効果を向上させ、樹脂と無機材料を密着させて、樹脂膜の形成が可能になる。
【0068】
なお、第4の実施形態の変形形態として、無機材料表面の被膜を、SiO
2、ZnO、またはZrO
2、あるいはこれらの組み合わせを主成分とするものとすることもできる。かかる被膜であっても、密着性の向上において一定の効果を得ることができる。
[第5実施形態]
本発明は、第5の実施形態によれば、樹脂膜形成方法であって、無機材料表面の水酸基密度を4〜8個/nm
2に調整する工程と、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂を含んでなる樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、前記水酸基密度を調整した無機材料上に形成する工程とを含み、前記無機材料が、Al
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とするものである。
【0069】
本実施形態においては、無機材料は、Al
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される金属酸化物もしくはAlNから選択される一以上を主成分とする材料であることを特徴とする。これらの金属酸化物は通常、表面にOH基を有している。また、AlNの表面は、通常、酸化され、Al
2O
3となっているため、金属酸化物と同様にOH基を有している。無機材料の形状、用途については、第1の実施形態において説明したのと同様とすることができる。
【0070】
まず、無機材料の表面の水酸基密度を4〜8個/nm
2に調整する第1の工程について説明する。無機材料の表面の水酸基密度を4〜8個/nm
2に調整する第1の工程は、4〜8個/nm
2の表面水酸基密度を有する無機材料は、市販のものを測定し、評価して、表面水酸基密度が4〜8個/nm
2の範囲内にあるものは、そのまま利用しても良いが、基板表面を洗浄後、表面水酸基密度を制御する方法を経て、表面水酸基密度を測定するのが好ましい。
表面水酸基密度の測定法は、例えば、シリカ表面のシラノール基の定量に用いられているリチウムアルミニウムハイドライド法(LiAlH
4法)、赤外線分光法、モルホリン法(Technical Bulletin Fine Particles No. 11 日本エアロジル)、ターシャリーブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)等の有機アルカリの吸着を利用した酸塩基滴定等の定量法によって測定することが可能である。また、TOF−SIMSによって表面近傍の水酸基量を定量することも可能である。これらの方法は、一般的にシリカの表面水酸基密度の測定方法として知られているが、シリカだけでなくAl
2O
3、MgO、TiO
2あるいはAlNなどの金属窒化物にも適用することができる。ここでは、LiAlH
4法に基づいて赤外線分光法により測定した密度を用いることができる。
【0071】
表面水酸基密度が、4個/nm
2より少ないと、シランカップリング剤が結合する箇所が減少するといった不都合が生じる場合がある。表面水酸基密度が8個/nm
2より多いと、シランカップリング剤が結合しにくくなるといった不都合が生じる場合がある。
【0072】
表面水酸基密度が販売時に特定されている市販品であっても、周囲環境や保存状態によって表面水酸基密度が変化することがあるため、上述の方法によって、表面水酸基密度を測定し、必要に応じて、任意の処理方法を適用して、表面水酸基密度を低減あるいは増加させるように調整してもよい。その調整方法は、特に限定されることなく、公知の方法を採用することができる。
【0073】
一例として、代表的な方法である加熱処理方法を挙げて説明する。加熱処理方法は、高温で無機材料を加熱することにより、無機材料の表面水酸基密度を低減させる方法である。ここで、加熱温度は、無機材料の組成や材質によって任意に選ぶことが可能であり、所望の表面水酸基密度を達成する範囲内で加熱処理温度範囲を選択することができる。加熱温度が高すぎると、無機材料が焼結したりするという不具合が生じる場合がある。逆に加熱温度が低すぎると、無機材料の表面水酸基密度を低減することができない場合がある。具体的には、焼結は目視で確認することができ、また表面水酸基密度は上述の方法で確認することができるため、当業者は、焼結が生じず、かつ所望の表面水酸基密度を達成する範囲内で加熱処理温度範囲を選択することができる。同様に、加熱時間も所望の表面水酸基密度を達成する範囲内で任意に選ぶことが可能である。
一例として、Al
2O
3を用いる場合には、加熱温度を、950〜1100℃とし、加熱時間を1〜3時間とすることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0074】
加熱処理以外に、表面水酸基密度を低減あるいは調整する方法の例としては、表面改質などの化学的処理方法が挙げられる。逆に、表面水酸基密度を増加させる方法としては、各種溶液(例えば水、過酸化水素水、水酸化アンモニウム)による浸漬処理やオートクレーブ表面処理、加湿など、公知の方法を採用することができる。
【0075】
特定の処理により表面水酸基を調整した無機材料の表面水酸基密度は、水酸基の反応性を利用して、上記に定義したような各種の定量法により定量することができる。LiAlH
4法による定量方法は、無機材料をリチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH
4)と反応させ、次式によって生成してくる水素をガスクロマトグラフィー等で定量することにより表面水酸基数の定量を行う方法である。なお、この式では水酸基を有する化合物を(−OH)で表している。
【0076】
4(−OH)+LiAlH
4→(−O)Li+(−O)
3Al+4H
2
具体的かつ現実的な定量方法としては、まず、リチウムアルミニウムハイドライド法(LiAlH
4法)を用いて表面水酸基密度を求め、LiAlH
4法で求めた値と、赤外線分光法による水酸基ピークをあらわす3750cm
−1近傍のピーク強度とを比較することによって、赤外線分光法でも表面水酸基密度を定量することが可能である。赤外線分光法での定量が可能になると、加熱処理直後に非破壊で評価することができるので、所望の水酸基密度を得るための加熱温度や加熱時間の調整が可能となる。例えば、加熱処理後に赤外線分光法で表面水酸基密度を定量し、所望の表面水酸基密度に達していない場合には、加熱温度や加熱時間を追加して、さらに加熱処理することが可能となる点で有利である。また、局部的に加熱する場合には、レーザーによる加熱も可能である。
【0077】
次に、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂と、シランカップリング剤とを含んでなる樹脂膜を、前記水酸基密度を4〜8個/nm
2とした無機材料上に形成する第2の工程は、第1実施形態における第2の工程と同様に実施することができる。
【0078】
第5の実施形態によれば、無機材料を、Al
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とすることで、シランカップリング剤の効果を向上させ、樹脂との密着性をより向上させることができる。
【0079】
なお、第5の実施形態の変形形態として、無機材料を、SiO
2、ZnO、またはZrO
2、あるいはこれらの組み合わせを主成分とするものとすることもできる。かかる無機材料であっても、密着性の向上において一定の効果を得ることができる。
[第6実施形態]
本発明は、第6の実施形態によれば、樹脂膜形成方法であって、無機材料表面の水酸基密度を4〜8個/nm
2に調整する工程と、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれかまたはこれらの組み合わせからなる樹脂と、シランカップリング剤と含んでなる樹脂膜を、前記水酸基密度を調整した無機材料上に形成する工程とを含み、前記無機材料が、表面にAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とする被膜を備える無機材料である。
【0080】
第6の実施形態においては、前記無機材料が、表面にAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とする被膜を備える無機材料である点で第5実施形態と異なる。表面にAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とする被膜を備える無機材料は、表面にAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とする被膜を備えるものであれば、これらの被膜が付された無機材料は、任意の無機材料であってよいが、特には、被膜が付された無機材料は、SiO
2、ZnO、またはZrO
2、BNや、CaF、MgFなどのフッ化物、あるいはこれらの組み合わせを主成分とするものであることが好ましい。ここでいう表面とは、第2実施形態において定義した被膜が付された表面と同様である。また、被膜は、被膜表面の水酸基密度を4〜8個/nm
2とするに足りる反応場を提供すれば十分であり、その厚さは、特には限定されないが、例えば、5〜20nmとすることができる。
【0081】
表面にAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とする被膜を備える無機材料は、市販されているものであってもよいし、既知の方法で当業者が適宜製造することができる。ここでも、蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法などにより、表面にAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とする被膜を備える無機材料を調製することができる。
【0082】
したがって、第6の実施形態においては、被膜を備える無機材料を準備、もしくは調製する工程以外の、無機材料表面の水酸基密度を4〜8個/nm
2に調整する工程と、樹脂膜を、シランカップリング剤を介して、前記水酸基密度を調整した無機材料上に形成する工程とは、第5実施形態と同様にして実施することができる。
【0083】
第6の実施形態によれば、任意の無機材料に対して、表面にAl
2O
3、MgO、TiO
2の群から選択される一以上の金属酸化物またはAlNを主成分とする被膜を形成し、その表面の水酸基密度を4〜8個/nm
2に調整することで、第5の実施形態と同様に、シランカップリング剤の効果を向上させ、樹脂と無機材料を密着させて、樹脂膜の形成が可能になる。
【0084】
なお、第6の実施形態の変形形態として、無機材料表面の被膜を、SiO
2、ZnO、またはZrO
2、あるいはこれらの組み合わせを主成分とするものとすることもできる。かかる被膜であっても、密着性の向上において一定の効果を得ることができる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例と比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0086】
[実施例1]
実施例1では、無機材料としてガラス基板を用い、まず、ガラス基板にカルボキシル基を導入する工程を実施した。ガラス基板は直径100mm、厚さ0.5mmであるものを用いた。このガラス基板を石英製のトレーに入れ、約1000℃に保持したベーク炉に投入した。1時間後にガラス基板をトレーごと取り出し、その後、100℃に保持したベーク炉に2時間程度静置した。その後、ガラス基板を酢酸雰囲気の容器(容量:30L)内に移動させた。酢酸雰囲気は、水で50%に希釈した酢酸をガラス容器に入れたものを、前記容器内に入れることで酢酸雰囲気とした。このときの容器内温度は、120℃とした。酢酸の蒸気圧(分圧)は、約0.8気圧であった。ガラス基板をこの容器内に100分間静置した後、ガラス基板を取り出した。本工程によってガラス基板表面の水酸基をカルボキシル基に置換した。
【0087】
次いで、有機官能基がエポキシ基であるシランカップリング剤(東レダウコーニング株式会社製、品番:Z−6040)を塗布する工程を実施した。その工程では、まず、シランカップリング剤をエタノールで1wt%に希釈し、希釈したシランカップリング剤を、ガラス基板に対し、約10g/m
2の量で滴下し、スピンコートによってガラス基板上に塗布した。その後、ホットプレート上で100℃、5分の加熱を行った。
【0088】
その後、ガラス基板上にエポキシ樹脂を塗布した。エポキシ樹脂主剤にはビスフェノールA型エポキシ樹脂(品番:828、三菱化学社製)を用いた。硬化剤には変性脂環族アミン(品番:113、三菱化学社製)を用いた。樹脂の組成は、エポキシ樹脂主剤100質量部に対し、硬化剤32質量部とした。エポキシ樹脂主剤と硬化剤との混合物を攪拌した後、スピンコーターを用いてガラス基板上に、約2μmの厚さに塗布した。塗布後の硬化処理では、80℃で1時間保持した後(予備加熱)、150℃で3時間保持した。
【0089】
[実施例2]
実施例2では、無機材料としてアルミナ基板を用い、まず、アルミナ基板にアミノ基を導入する工程を実施した。アルミナ基板は直径100mm、厚さ0.5mmであるものを用いた。このアルミナ基板を石英製のトレーに入れ、約1100℃に保持したベーク炉に投入した。1時間後に、アルミナ基板をトレーごと取り出し、その後、250℃に保持したベーク炉に2時間程度静置した。その後、アルミナ基板を、アンモニア雰囲気の容器(容量:30L)内に移動させた。アンモニア雰囲気は、25%アンモニア水をガラス容器に入れたものを、前記容器内に入れることでアンモニア雰囲気とした。このときの、アンモニア雰囲気の容器の温度は室温とした。アンモニアの蒸気圧(分圧)は、約0.5気圧であった。150分間静置した後、アルミナ基板を取り出した。本工程によって、アルミナ基板の水酸基をアミノ基に置換した。
【0090】
その後の樹脂膜形成工程は実施例1と同様の樹脂組成にて、同様の条件で行った。
【0091】
[比較例1、比較例2]
ガラス基板に、カルボキシル基やアミノ基を導入することなく、未処理のままで、樹脂膜形成工程を実施した場合を比較例1とした。また、アルミナ基板に、カルボキシル基やアミノ基を導入することなく、未処理のままで、樹脂膜形成工程を実施した場合を比較例2とした。樹脂膜形成工程において使用した樹脂とシランカップリング剤の組成、並びに塗布方法は、実施例1、2と同様とした。
【0092】
[実施例3]
実施例3では、無機材料として、直径100mm、厚さ0.5mmのアルミナ基板を用いた。このアルミナ基板を石英製のトレーに入れ、所定の加熱温度に保持したベーク炉に投入した。具体的には、実施例3−1、3−2、3−3においては、それぞれ加熱温度を980℃、1050℃、1080℃とした。比較例3−1は加熱処理をしなかった。比較例3−2、比較例3−3においては、それぞれ加熱温度を930℃、1130℃とした。
【0093】
本実施例では、ベーク炉によってアルミナ基板全体を加熱処理したが、必要に応じてレーザー照射による局所的な加熱を行っても良い。
【0094】
加熱処理後の表面水酸基密度の定量は、リチウムアルミニウムハイドライド法(LiAlH4)により実施した。具体的には、アルミナ基板をリチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH4)と反応させ、発生した水素を、ガスクロマトグラフにより測定することで表面水酸基密度を定量した。表1に、各実施例及び比較例において用いたアルミナ基板の表面水酸基密度、及び加熱温度条件を示す。
【0095】
【表1】
その後の樹脂膜形成工程は実施例1と同様の樹脂組成にて、同様の条件で行った。
【0096】
[試験例]
[引張り試験:実施例1、2及び比較例1、2]
実施例1、2、及び比較例1、2で調製した、樹脂膜を形成した無機材料について、樹脂膜の引張り試験を実施した。サンプルを、10mm□に切り出し、スタッド引張り剥離強度測定(装置名:Romulus、QUAD GROUP社製)を用いて実施した。試験サンプル数は各20個とした。比較例1の方法で製造したサンプルでは、10個のサンプルに、比較例2の方法で製造したサンプルでは20個のサンプル全てに剥離が発生した。一方、実施例1と実施例2の方法で製造したサンプルでは、それぞれ、20個すべてにおいて、剥離は発生しなかった。
【0097】
[引張り試験:実施例3−1、3−2、3−3及び比較例3−1、3−2、3−3]
実施例3−1〜3−3及び比較例3−1〜3−3で調製した、エポキシ樹脂膜を形成したアルミナ基板について、エポキシ樹脂膜の引張り試験を実施した。サンプルを、10mm□に切り出し、スタッド引張り剥離強度測定(装置名:Romulus、QUAD GROUP社製)を用いて引張り試験を実施し、目視により界面剥離の有無を確認した。試験サンプル数は各20個とした。比較例3−1では、20個のサンプル全てに、比較例3−2では19個のサンプル、比較例3−3では13個のサンプルに界面剥離が発生した。一方、実施例3−1、3−2、3−3では20個全てにおいて界面剥離が発生しなかった。
【0098】
[ヒートサイクル試験:実施例1、2及び比較例1、2]
ヒートサイクル試験は、長期間の使用後の樹脂膜と無機材料との界面剥離の有無を確認する目的で行った。低温側は、−40℃で30分保持、高温側は150℃で30分保持を1サイクルとし、これを2000サイクル実施した。ただし、比較例2の方法で製造したサンプルは、引張り試験において、20個のサンプル全てに剥離が発生したので、ヒートサイクル試験は行わなかった。
【0099】
ヒートサイクル試験後に引張り試験を実施した。実施例1と実施例2の方法で製造したサンプル、比較例1の方法で製造したサンプルのそれぞれにつき、試験数は20個とした。比較例1の方法で製造したサンプルでは15個に剥離が発生したが、実施例1と2の方法で製造したサンプルでは20個のサンプル全てにおいて、剥離が見られなかった。
【0100】
[ヒートサイクル試験:実施例3−1、3−2、3−3及び比較例3−1、3−2、3−3]
実施例1、2及び比較例1、2と同様にヒートサイクル試験を行った。ただし、比較例3−1の方法で製造したサンプルは、引張り試験において20個のサンプル全てに界面剥離が発生したので、ヒートサイクル試験は行わなかった。
【0101】
ヒートサイクル試験後に引張り試験を実施した。実施例3−1〜3−3及び比較例3−2、3−3の方法で製造したサンプルのそれぞれにつき、試験数は20個とした。比較例3−2の方法で製造したサンプルでは、20個のサンプル全てに、比較例3−3の方法で製造したサンプルでは、18個に剥離が発生した。一方、実施例3−1、3−2、3−3の方法で製造したサンプルでは、20個のサンプル全てにおいて剥離が見られなかった。
【0102】
ヒートサイクル試験による剥離の発生は長期間の使用によって特性が変化しやすいことを示す。よって、比較例1、比較例3−2、3−3の樹脂膜では、長期信頼性に問題があることが示された。一方、実施例1、実施例2及び実施例3−1、3−2、3−3ではヒートサイクル試験後の引っ張り試験で剥離の発生は見られなかった。すなわち、本発明の樹脂膜形成方法により形成された樹脂膜は、長期間の使用によって剥離がなく、長期信頼性が得られることがわかった。