特許第6373047号(P6373047)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6373047セメント組成物、その製造方法、及び鉄筋コンクリート構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373047
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】セメント組成物、その製造方法、及び鉄筋コンクリート構造物
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/02 20060101AFI20180806BHJP
   E04B 1/16 20060101ALI20180806BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20180806BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20180806BHJP
   C04B 24/00 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   E04G21/02 101
   E04B1/16 Z
   C04B28/02
   C04B22/08 B
   C04B24/00
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-84032(P2014-84032)
(22)【出願日】2014年4月15日
(65)【公開番号】特開2015-202994(P2015-202994A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2017年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000237134
【氏名又は名称】株式会社富士ピー・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(74)【代理人】
【識別番号】230116296
【弁護士】
【氏名又は名称】薄葉 健司
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 紳也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真幸
(72)【発明者】
【氏名】松本 健一
(72)【発明者】
【氏名】徳光 卓
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−285882(JP,A)
【文献】 特表平11−501698(JP,A)
【文献】 特開昭62−100466(JP,A)
【文献】 特開平04−321544(JP,A)
【文献】 特開昭60−014932(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0103814(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
E04B 1/00−1/36
E04G 21/00−21/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物であって、
前記鉄筋の全周側面が、打設されたコンクリート組成物の硬化体で、直接、接して、覆われてなり、
前記鉄筋を直接覆っている硬化体のコンクリート組成物は、少なくとも、セメントとパラフィンと亜硝酸塩とを含有してなり、
前記亜硝酸塩は亜硝酸リチウム及び亜硝酸カルシウムの群の中から選ばれる一種以上であり、
前記パラフィン含有量は、前記セメント量に対して、0.1〜5質量%であり、
前記亜硝酸塩含有量は、前記セメント量に対して、0.1〜5質量%であり、
前記コンクリート組成物は、モノ−、ジ−、トリアルカノールアミンを含有していない
鉄筋コンクリート構造物
【請求項2】
前記パラフィンは固形パラフィンが分散した水溶液の形態で用いられてなる
請求項1の鉄筋コンクリート構造物。
【請求項3】
鉄筋の全周側面が、打設されたコンクリート組成物の硬化体で、直接、接して、覆われてなる鉄筋コンクリート構造物の製造方法であって、
前記鉄筋の周囲に、少なくとも、セメントとパラフィンと亜硝酸塩と水とを含有してなる組成物の混錬物が流し込まれる打設工程を具備してなり、
前記亜硝酸塩は亜硝酸リチウム及び亜硝酸カルシウムの群の中から選ばれる一種以上であり、
前記パラフィンは固形パラフィンが水溶液中に分散した形態で用いられてなり、
前記パラフィン含有量は、前記セメント量に対して、0.1〜5質量%であり、
前記亜硝酸塩含有量は、前記セメント量に対して、0.1〜5質量%であり、
前記コンクリート組成物は、モノ−、ジ−、トリアルカノールアミンを含有していない
鉄筋コンクリート構造物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば塩害抑制効果に優れ、耐久性に富むセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物(特に、鉄筋コンクリート構造物)は、コンクリートが発揮する圧縮応力と、コンクリート内部に配設されている鉄筋が発揮する曲げ応力とが相俟って、優れた強度を発揮することは良く知られている。これらのコンクリート構造物は、硬化後のコンクリートの状態が変質することなく長期に亘って維持できることが望ましい。しかし、建造物の用途(化学工場等)、建造物の地理的な要因(海浜地域等)、又は建築物に使用する材料の性質(海砂の使用等)等の外的な要因によって、コンクリート構造物は劣化することが多い。コンクリート構造物を劣化させる原因としては、コクリートの中性化、アルカリ骨材反応、塩害、凍害、化学的腐食などが挙げられる。コンクリート構造物は、セメントの水和物である水酸化カルシウムの存在により、pH12〜13の強アルカリ性を呈する為、コンクリート内部の鉄筋は表面に不動態皮膜を形成する。これによって、腐食が抑制されている。しかしながら、塩素イオンや炭酸ガスがコンクリート中に侵入すると、水和物の水酸化カルシウムが前記炭酸ガスと反応して炭酸カルシウムを生成する。この為、コンクリートの中性化が促進される。塩素イオンが鉄筋表面に進入した場合には、鉄筋表面を被覆していた不動態皮膜が破壊される。これによって、鉄筋は腐食が進む。鉄筋の腐食が進行すると、鉄筋は体積が膨張する。この為、腐食の進行に伴って、コンクリートにクラックが生じる。これに伴って、コンクリートは強度が低下する。例えば、当初予定の建造物の耐用強度が維持できなくなる。コンクリート中にアルカリ骨材反応を起こす骨材が混入している場合には、アルカリ骨材反応の進行により、コンクリートにクラックが発生する。これによって、前記と同様なトラブルが発生する。
【0003】
このようなコンクリートの劣化(中性化や塩害)を防止する為、コンクリート表面にペイント、樹脂ライニング、樹脂モルタル等の被覆材を塗布する「環境遮断による中性化および塩害の防止方法」と、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウム、亜硝酸塩化合物等の防錆材、又はアルカリ改質材をコンクリート構造物の表面に塗布または含浸させることによってコンクリートのpH改質および配筋の腐食防止を行う「改質材および防錆材による中性化及び塩害の防止方法」が提案されている。しかしながら、上記した中性化および塩害の防止方法の中、環境遮断による中性化および塩害防止方法の場合には、コンクリートの中性化や塩害の原因である炭酸ガスや塩分が外部から侵入することを一時的に防止することは出来るが、環境遮断に使用する素材が可撓性に欠ける為、コンクリートにクラックが発生した場合、これに追随できず、耐久性に欠けることが指摘されている。更に、この方法の場合、環境遮断に使用している素材が水蒸気の透過性を有していない為、コンクリート内部の水分が閉じ込められてしまい、これら内部滞留の水分が原因となって、被覆材を膨張させたり、剥離を惹起させることが指摘されている。もう一つの方法の改質材および防錆材の使用による中性化および塩害防止の方法の場合には、使用しているアルカリ改質材(防錆材)のコンクリートへの浸透性が5〜15mm程度と小さい為、その効果もコンクリート表面付近のpH改質に止まり、コンクリート内部の改質やコンクリート表面から30mm以上離れた位置に配筋されている鉄筋の防錆までは期待できない。更に、この方法の場合には、改質材をコンクリート表面に直接塗布し、この塗布された改質材をコンクリート中に含浸させようとする方法である為、改質材の塗布量や含浸量の定量的な調整が不可能であり、しかも塗布された改質材が雨水等の影響により溶出または飛散をする可能性が有り、塗布効果の持続性や耐久性に欠ける。
【0004】
斯かる問題点を解決する為、「硬化コンクリート構造物の表面に、亜硝酸塩を含有するセメントモルタル、又は亜硝酸塩を含有するポリマーセメントモルタルからなる改質材の塗布層を形成し、前記改質材の塗布層の表面に、遮塩性10−2〜10−6mg/cm・day、伸び率50〜2000%、水蒸気透過性5g/m・day以上の物性を有する表面被覆材を層状に形成することを特徴とするコンクリート構造物の劣化防止方法。」「セメントモルタルに含有される亜硝酸塩が、リチウム、カルシウム、カリウムまたはバリウム塩の一つ若しくはこれらの混合物である前記コンクリート構造物の劣化防止方法。」「ポリマーセメントモルタルにおけるポリマーが、SBRラテックス、エチレン酢酸ビニール共重合系エマルジョン、アクリル樹脂系エマルジョン、エポキシ樹脂系エマルジョン、酢酸ビニール系エマルジョン、アスファルトエマルジョン、ゴムアスファルトエマルジョン、パラフィン水性エマルジョンの単独若しくはこれらの混合物からのポリマーである前記コンクリート構造物の劣化防止方法。」が、提案(特公平7−106955号公報)されている。この提案の技術によれば、使用する改質材(防錆材)のコンクリートに対する浸透効果がコンクリート表面から50〜70mmと高く、コンクリート中に配設されている鉄筋に対する防錆に優れた効果を発揮でき、かつ、アルカリ骨材反応の防止にも極めて有効であると謳われている。更には、改質材をモルタル中に混入させることにより、改質材の混入量の管理が可能となり、しかも従来技術のように改質材を直接コンクリート表面に塗布することが避けられる為、改質材の雨水による溶出や飛散を防止でき、更には遮塩性、空気遮断性および可撓性を有し、かつ、水蒸気透過性を有する表面被覆材を改質材塗布層の表面に被覆することにより、改質材の効果を長期間安定させると共に、耐久性の向上を図ることが出来ると謳われている。
【0005】
「人工ポゾラン活性剤のフライアッシュ及びシリカヒューム、再分散性粉末樹脂、高級脂肪酸系金属塩並びに高性能減水剤を含むコンクリート用防水材組成物において、総組成物100重量%に対して無機塩18〜34重量%と酸化防止剤のタンニン1〜5重量%とを含むことを特徴とする防錆機能を持つコンクリート用防水材組成物。」「前記無機塩が、亜硝酸カルシウムまたは亜硝酸ナトリウムである防錆機能を持つコンクリート用防水材組成物。」「前記人工ポゾラン活性剤のフライアッシュ40〜60重量%、シリカヒューム6〜12重量%、再分散性粉末樹脂0.5〜5重量%、高級脂肪酸系金属塩5〜11重量%、高性能減水剤1〜6重量%を含む防錆機能を持つコンクリート用防水材組成物。」「前記防錆機能を持つコンクリート用防水材組成物をコンクリートの製造に当たってセメント100重量部に対して2.0〜6.0重量部添加することを特徴とするコンクリート製造方法。」が提案(特開2004−307319号公報)されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−106955号公報
【特許文献2】特開2004−307319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、更なる塩害抑制や耐久性が要求されている。
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、塩害抑制効果に優れ、耐久性に富むセメント組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
セメントと、
パラフィンと、
亜硝酸塩
とを含有することを特徴とするセメント組成物を提案する。
【0010】
本発明は、前記セメント組成物であって、前記パラフィンは固形パラフィンが分散した水溶液であることを特徴とするセメント組成物を提案する。
【0011】
本発明は、前記セメント組成物であって、前記パラフィン含有量がセメント量に対して0.1〜5質量%であることを特徴とするセメント組成物を提案する。
【0012】
本発明は、前記セメント組成物であって、前記亜硝酸塩含有量がセメント量に対して0.1〜5質量%であることを特徴とするセメント組成物を提案する。
【0013】
本発明は、前記セメント組成物が混練されることを特徴とするセメント組成物の製造方法を提案する。
【0014】
本発明は、前記セメント組成物の混練物が用いられてなることを特徴とする鉄筋コンクリート構造物を提案する。
【発明の効果】
【0015】
塩害抑制効果に富む。耐久性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】供試体の説明図
図2】腐食試験の説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態が説明される。第1の発明はセメント組成物である。前記組成物は、セメントとパラフィンと亜硝酸塩とを含有する。前記パラフィンは、C2n+2(nは、一般的には、20以上の整数)で表される脂肪族飽和炭化水素である。前記パラフィンには、例えば固形パラフィン(常温において、半透明ないしは白色の軟らかい固体(蝋状))、流動パラフィン(常温において、無色の液体で非揮発性)、塩素化パラフィン等がある。本発明において、特に好ましいパラフィンは固形パラフィンであった。固形パラフィンの使用によって、セメント構造体(構築物)またはコンクリート構造物(構築物)の防水性が高まり、後述の亜硝酸塩との相乗作用にも拠る結果ではあったが、塩害抑制効果(鉄筋の防錆性)に優れていた。すなわち、前記構造体(構築物)の耐久性に富むものであった。時間材齢における初期強度発現性を保持しながら、それ以降の強度発現が抑制された。曲げ強度が向上した。前記パラフィンは前記パラフィン(固形パラフィン)が分散した水溶液の形態で用いられる。すなわち、前記セメント組成物は、固形パラフィンが分散した水溶液が、セメントに添加(混合)されることによって、得られたものである。水溶液タイプのものを用いることによって、セメントへの添加(分散)が極めて容易である。溶液中における固形分濃度は、例えば10〜50質量%である。前記パラフィン含有量は、セメント量に対して0.1〜5質量%である。好ましくは0.2〜2質量%である。前記パラフィン量が少なすぎた場合、本発明が目的とする特長(塩害抑制効果)が奏され難い。逆に、規定量を越えた場合、前記パラフィン量に応じて本発明の特長が増すものでもなかった。多すぎた場合、経済性の点で問題であった。このようなことから、前記の割合が好ましいものであった。前記亜硝酸塩は、例えば亜硝酸リチウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸ベリリウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸亜鉛、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸バリウム等がある。本発明において、好ましい亜硝酸塩は亜硝酸リチウム、亜硝酸カルシウムである。亜硝酸カルシウムが、特に、好ましかった。前記亜硝酸塩は、該亜硝酸塩が溶解した水溶液の形態で用いられる。すなわち、前記セメント組成物は、前記亜硝酸塩が溶解(分散形態のものも含まれる。)した水溶液が、セメントに添加(混合)されることによって、得られたものである。水溶液タイプのものを用いることによって、セメントへの添加(分散)が極めて容易である。溶液中における固形分濃度は、例えば10〜60質量%である。前記亜硝酸塩含有量は、セメント量に対して0.1〜5質量%である。好ましくは0.2〜2質量%である。
【0018】
第2の発明はセメント組成物の製造方法である。前記方法は、前記セメント組成物が混練される工程を有する。特に、水と前記セメント組成物(少なくとも、セメントとパラフィンと亜硝酸塩とを含有)との混合物が混練される工程を有する。
【0019】
第3の発明は鉄筋コンクリート構造物である。前記鉄筋コンクリート構造物(構築物)は、前記セメント組成物の混練物が用いられたものである。
【0020】
以下、更に説明される。
【0021】
本発明で用いられるセメントとしては、例えば普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱などの各種ポルトランドセメントが挙げられる。エコセメントが挙げられる。前記ポルトランドセメント又はエコセメントに、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム又は石灰石微粉末などが混合された各種の混合セメントが挙げられる。前記セメントに限られない。前記セメントの一種または二種以上のものが適宜用いられる。
【0022】
本発明では、必要に応じて、好ましくは、骨材が用いられる。骨材としては、特に制限されるものではなく、通常のコンクリートの製造に使用される骨材を何れも使用できる。例えば、川砂、海砂、砕砂、人工細骨材、スラグ細骨材、再生骨材、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石、人工粗骨材、スラグ粗骨材、再生粗骨材などが挙げられる。
【0023】
骨材以外にも、必要に応じて、各種添加材(剤)が併用される。この種の添加材(剤)としては、例えば減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤等のセメント分散剤、速硬性を有してない水硬性セメント、凝結遅延剤、強度促進材、再乳化粉末樹脂、発泡剤、起泡剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、増粘剤、保水剤、顔料、繊維、撥水剤、白華防止剤、消泡剤等が挙げられる。
【0024】
以下、更に具体的な実施例が説明される。但し、本発明は以下の実施例によって限定されるものでは無い。
【0025】
[セメント組成物]
セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製;密度:3.15g/cm
細骨材:静岡県掛川市産山砂(表乾密度:2.56g/cm
固形パラフィン分散水溶液
亜硝酸塩水溶液(亜硝酸リチウム、亜硝酸カルシウム)
水(水道水)
【0026】
[セメント組成物配合割合]
セメント:511Kg/m
細骨材:1432Kg/m
水:281Kg/m
水セメント比:0.55
固形パラフィン:固形分量としてセメント量に対して0〜1質量%
亜硝酸塩:固形分量としてセメント量に対して0〜1質量%
【0027】
[モルタル供試体]
前記配合割合のセメント組成物が混練された。この混練物が打設され、型枠内で2日間の養生が行われた。この後、脱型された。この後、20℃の袋内で3週間に亘って密封養生が行われた。このようにして、図1に示されるモルタル供試体(100mm×100mm×180mm)が得られた。図1から判る通り、モルタル供試体内には2本の磨き丸鋼(直径:13mm)が埋設されている。
【0028】
[腐食試験]
前記供試体上面に、図2に示される如く、プラスチック製の枠体が配置された。10%塩化ナトリウム水溶液が、前記プラスチック製枠体の中に、入れられた。塩化ナトリウム水溶液充填後、最長で、274日間に亘って、塩分の測定とマイクロセル腐食電流の測定とが行われた。塩分の測定はJIS A1154−2012「硬化コンクリート中に含まれる塩化物イオンの試験方法」に準拠し、電位差滴定法によって全塩分量が定量された。マイクロセル腐食電流の測定は、「マクロセル電流計測の自動測定方法に関する実験的検討(土木学会第60回年次学術講演会要旨、第V部門、pp369−370,2005)」を参考に、静ひずみ計を用いて、連続的に行われた。
【0029】
固形パラフィンと亜硝酸塩との一方しか含まれていなかった場合、及び両方が共に含まれなかった場合の供試体には、急激な腐食電流の変化が認められた。腐食電流が変化した供試体の鋼材は、塩化物イオンが作用する側の表面に腐食が発生していた。
因みに、固形パラフィン及び亜硝酸塩が共に含有されていなかった供試体の場合には、鋼材は平均して145日で腐食が起きていた。
固形パラフィンは含有(セメントに対して1.0質量%)されているが、亜硝酸塩が含有されていなかった供試体の場合には、鋼材は平均して175日で腐食が起きていた。
亜硝酸リチウムは含有(セメントに対して1.0質量%)されているが、固形パラフィンが含有されていなかった供試体の場合には、鋼材は平均して192日で腐食が起きていた。また、亜硝酸カルシウムは含有(セメントに対して1.0質量%)されているが、固形パラフィンが含有されていなかった供試体の場合には、鋼材は平均して195日で腐食が起きていた。
【0030】
これに対して、固形パラフィンと亜硝酸塩とが共に含有(含有量は、各々、セメントに対して0.5及び1.0質量%)されていた場合の供試体には、腐食電流の変化が認められなかった。この供試体の鋼材が取り出された。この結果、鋼材には腐食が認められなかった。測定の最長期間は274日間であった。

図1
図2