特許第6373049号(P6373049)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373049
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】電子写真用トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20180806BHJP
   C08G 63/16 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   G03G9/087 325
   G03G9/087 331
   C08G63/16
【請求項の数】10
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-89435(P2014-89435)
(22)【出願日】2014年4月23日
(65)【公開番号】特開2015-210278(P2015-210278A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2017年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】福利 憲廣
(72)【発明者】
【氏名】伊知地 浩太
(72)【発明者】
【氏名】家 真知子
【審査官】 後藤 亮治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−127804(JP,A)
【文献】 特開2013−109237(JP,A)
【文献】 特開2008−224976(JP,A)
【文献】 特開2011−053494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08 − 9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数4〜8の脂肪族ジオールAと炭素数10〜14の脂肪族ジオールBを0.33〜3.0のモル比(A/B)で含有するアルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させて得られる重縮合系樹脂部分と、付加重合系樹脂部分とを含む結晶性樹脂を含有した、電子写真用トナーであって、前記脂肪族ジオールAと前記脂肪族ジオールBの炭素数の差が6以上である、電子写真用トナー
【請求項2】
結晶性樹脂の重縮合系樹脂部分のカルボン酸成分が、炭素数8〜14の脂肪族ジカルボン酸化合物を含有する、請求項1記載の電子写真用トナー。
【請求項3】
結晶性樹脂の酸価が0.1mgKOH/g以上20mgKOH/g以下である、請求項1又は2記載の電子写真用トナー。
【請求項4】
結晶性樹脂における重縮合系樹脂部分と付加重合系樹脂部分の質量比(重縮合系樹脂部分/付加重合系樹脂部分)が、97/3〜60/40である、請求項1〜3いずれか記載の電子写真用トナー。
【請求項5】
結晶性樹脂の付加重合系樹脂部分がスチレン系樹脂である、請求項1〜4いずれか記載の電子写真用トナー。
【請求項6】
結晶性樹脂の重縮合系樹脂部分の原料モノマーが、さらに、1価の炭素数6〜22の脂肪族アルコール及び/又は1価の炭素数6〜22の脂肪族カルボン酸化合物を含む、請求項1〜5いずれか記載の電子写真用トナー。
【請求項7】
脂肪族ジオールAが炭素数4〜6の脂肪族ジオールを含み、脂肪族ジオールBが炭素数10〜12の脂肪族ジオールを含む、請求項1〜6いずれか記載の電子写真用トナー。
【請求項8】
さらに、非晶質樹脂を含有する、請求項1〜7いずれか記載の電子写真用トナー。
【請求項9】
非晶質樹脂が、ポリエステル樹脂、ビニル系樹脂、及び重縮合系樹脂部分と付加重合系樹脂部分とを有する複合樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種である、請求項8記載の電子写真用トナー。
【請求項10】
炭素数4〜8の脂肪族ジオールAと炭素数10〜12の脂肪族ジオールBを0.33〜3.0のモル比(A/B)で含有するアルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させて得られる重縮合系樹脂部分と、付加重合系樹脂部分とを含む、電子写真トナー用結晶性樹脂であって、前記脂肪族ジオールAと前記脂肪族ジオールBの炭素数の差が6以上である、電子写真トナー用結晶性樹脂
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等に用いられる電子写真用トナー、及び該トナーに用いられる結晶性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの観点から、低温定着性に優れたトナーの開発が行われており、例えば、特許文献1には、トナーの低温定着性に優れると共に、画像の光沢性及び耐フィルミング性に優れたトナーを得ることができるトナー用結晶性樹脂として、炭素数2〜10の脂肪族ジオールを含有したアルコール成分と、芳香族ジカルボン酸を含有したカルボン酸成分とを縮重合させて得られる縮重合系樹脂成分とスチレン系樹脂成分とを含む複合樹脂からなる、トナー用結晶性樹脂が開示されている。
【0003】
例えば、特許文献2には、低温定着性及び耐熱保存性に優れ、さらに印字物の保管性及び画像濃度も良好な静電荷像現像用トナーを提供することを課題として、炭素数8〜12のジオールと炭素数10〜12のジカルボン酸化合物を含み、両者の総含有量が80モル%以上である原料モノマーを用いて得られる結晶性ポリエステル(1-1)と、アルコール成分と、芳香族ジカルボン酸化合物を含有したカルボン酸成分を含む非晶質縮重合系樹脂の原料モノマー、付加重合系樹脂の原料モノマー及び該付加重合系樹脂の原料モノマー100重量部に対して、3〜15重量部の非晶質縮重合系樹脂の原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物を重合させることにより得られる、非晶質縮重合系樹脂成分と付加重合系樹脂成分とを含む非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)を含有してなる結着樹脂を含有してなる静電荷像現像用トナーであって、前記の結晶性ポリエステル(1-1)と非晶質ハイブリッド樹脂(2-1)の重量比(結晶性ポリエステル(1-1)/非晶質ハイブリッド樹脂(2-1))が1/99〜40/60である、静電荷像現像用トナーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−139659号公報
【特許文献2】特開2013−109237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、低温定着性、高湿保存性、耐スメア性及びローラー剥離性に優れる、電子写真用トナー、及び該トナーに用いられる結晶性樹脂に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
〔1〕 炭素数2〜8の脂肪族ジオールAと炭素数9〜14の脂肪族ジオールBを0.33〜3.0のモル比(A/B)で含有するアルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させて得られる重縮合系樹脂部分と、付加重合系樹脂部分とを含む結晶性樹脂を含有した、電子写真用トナー、並びに
〔2〕 炭素数2〜8の脂肪族ジオールAと炭素数9〜12の脂肪族ジオールBを0.33〜3.0のモル比(A/B)で含有するアルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させて得られる重縮合系樹脂部分と、付加重合系樹脂部分とを含む、電子写真トナー用結晶性樹脂
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電子写真用トナーは、低温定着性、高湿保存性、耐スメア性及びローラー剥離性において優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の電子写真用トナーは、比較的短鎖の脂肪族ジオール(脂肪族ジオールA)と比較的長鎖の脂肪族ジオール(脂肪族ジオールB)という、炭素数の異なる脂肪族ジオールが特定割合で併用されたアルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合して得られる重縮合系樹脂部分と、付加重合系樹脂部分とを含む結晶性樹脂を結着樹脂として含有している点に特徴を有しており、低温定着性、高湿保存性、耐スメア性及びローラー剥離性に優れるものである。
【0009】
前記結晶性樹脂を用いることで、本発明のトナーが耐スメア性(耐こすり性)に優れる理由は、結晶性樹脂にアルコール成分として、比較的短鎖の脂肪族ジオールが用いられているため、エステル基の濃度が部分的に高くなり、親水性が高まることで、紙への親和性が向上するためと考えられる。また、高湿保存性にも優れる理由は、結晶性樹脂に比較的長鎖の脂肪族ジオールが用いられていることで、部分的に疎水性が高くなるためと考えられる。
【0010】
さらに、本発明のトナーは低温定着性に優れるが、これは、付加重合系樹脂部分を含むため、これが結晶核となり、トナー中に、該結晶性樹脂を微細に分散することができるためと考えられる。また、ローラー剥離性にも優れるが、これは、比較的長鎖の脂肪族ジオール量が限定されているとともに、結晶性樹脂が前記付加重合系樹脂部分を有するため、結着樹脂のガラス転移温度の低下が抑制されるためと考えられる。
【0011】
本発明のトナーが含有する結晶性樹脂は、炭素数2〜8の脂肪族ジオールAと炭素数9〜12の脂肪族ジオールBを0.33〜3.0のモル比(A/B)で含有するアルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させて得られる重縮合系樹脂部分と、付加重合系樹脂部分とを含む結晶性樹脂である。
【0012】
なお、樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最高ピーク温度との比、即ち[軟化点/吸熱の最高ピーク温度]の値で定義される結晶性指数によって表わされる。結晶性樹脂は、結晶性指数が0.6〜1.4、好ましくは0.7〜1.2、より好ましくは0.9〜1.2であり、非晶質樹脂は1.4を超えるか、0.6未満の樹脂である。樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。結晶性樹脂においては、吸熱の最高ピーク温度を融点とする。
【0013】
本発明における結晶性樹脂は、意外にも、2種の鎖長の異なる脂肪族ジオールを用いているにもかかわらず、結晶性を有する。これは、結晶性樹脂中の短鎖脂肪族ジオールの部分が折れ曲がり、長鎖脂肪族ジオールの部分で結晶性を有すると考えられ、これにより、融点以上でシャープに融解すると考えられる。
【0014】
結晶性樹脂の重縮合系樹脂部分としては、トナーの低温定着性の観点から、アルコール成分とカルボン酸成分を重縮合させて得られるポリエステルが好ましい。
【0015】
重縮合系樹脂部分のアルコール成分は、炭素数2〜8の脂肪族ジオールAと炭素数9〜12の脂肪族ジオールBを含有する。
【0016】
脂肪族ジオールAの炭素数は、高湿保存性の観点から、2以上であり、好ましくは4以上、より好ましくは6以上である。また、耐スメア性の観点から、8以下であり、好ましくは6以下である。
【0017】
脂肪族ジオールAとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられ、1種であっても、2種以上が併用されていてもよい。これらの中では、高温高湿下での現像安定性及び転写性の観点から、α,ω−脂肪族ジオールが好ましく、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールがより好ましく、1,6-ヘキサンジオールがさらに好ましい。
【0018】
脂肪族ジオールBの炭素数は、低温定着性、高湿保存性の観点から、9以上であり、好ましくは10以上、より好ましくは12以上である。また、耐スメア性の観点から、14以下であり、好ましくは12以下である。
【0019】
脂肪族ジオールBとしては、α,ω−脂肪族ジオールが好ましく、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール等が挙げられ、1種であっても、2種以上が併用されていてもよい。これらの中では、高温高湿下での現像安定性の観点から、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、及び1,12-ドデカンジオールが好ましく、1,12-ドデカンジオールがより好ましい。
【0020】
脂肪族ジオールA及びBの少なくとも一方、好ましくは両方が、トナーの低温定着性を向上させる観点から、水酸基を炭素鎖の末端に有していることが好ましく、α,ω−直鎖アルカンジオールであることが好ましい。
【0021】
低温定着性、高湿保存性、耐スメア性及びローラー剥離性の観点から、脂肪族ジオールAが炭素数4〜6の脂肪族ジオールを含み、脂肪族ジオールBが炭素数10〜12の脂肪族ジオールを含むことが好ましく、脂肪族ジオールAが1,6-ヘキサンジオールを含み、脂肪族ジオールBが1,12-ドデカンジオールを含むことがより好ましく、また、脂肪族ジオールAと脂肪族ジオールBとの炭素数の差は、4以上が好ましく、6以上がより好ましく、8以下がさらに好ましい。
【0022】
脂肪族ジオールAと脂肪族ジオールBのモル比(A/B)は、低温定着性、ローラー剥離性及び耐スメア性の観点から、0.33以上であり、好ましくは0.40以上、より好ましくは0.45以上である。また、低温定着性及び高湿保存性の観点から、3.0以下であり、好ましくは2.5以下、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.0以下、さらに好ましくは0.8以下、さらに0.5以下である。
【0023】
脂肪族ジオールAと脂肪族ジオールBの総量は、アルコール成分中、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。
【0024】
脂肪族ジオールA及びB以外のアルコール成分としては、炭素数13以上の脂肪族ジオール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の3価以上の多価アルコール等が挙げられる。
【0025】
重縮合系樹脂部分のカルボン酸成分は、低温定着性の観点から、脂肪族ジカルボン酸化合物を含有していることが好ましい。
【0026】
脂肪族ジカルボン酸化合物における鎖状炭化水素基は直鎖であっても分岐鎖であってもよいが直鎖であることが好ましく、脂肪族ジカルボン酸化合物の炭素数は、低温定着性及び高湿保存性の観点から、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上である。また、耐フィルミング性の観点から、好ましくは14以下、より好ましくは12以下である。
【0027】
炭素数8〜14の脂肪族ジカルボン酸化合物としては、スベリン酸(炭素数:8)、アゼライン酸(炭素数:9)、セバシン酸(炭素数:10)、ドデカン二酸(炭素数:12)、テトラデカン二酸(炭素数:14)、側鎖にアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸、これらの酸の無水物、それらの炭素数1〜3のアルキルエステル等が挙げられる。本発明において、脂肪族カルボン酸化合物の炭素数にアルキルエステル部の炭素数は含まれない。
【0028】
脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましい。また、トナーの高温高湿下での帯電安定性の観点から、100モル%以下が好ましく、97モル%以下がより好ましく、95モル%以下がさらに好ましく、92モル%以下がさらに好ましい。
また、炭素数8〜14の脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、カルボン酸成分中、70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましい。また、トナーの高温高湿下での帯電安定性の観点から、100モル%以下が好ましく、97モル%以下がより好ましく、95モル%以下がさらに好ましく、92モル%以下がさらに好ましい。
【0029】
他のカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸化合物、炭素数2〜7の脂肪族ジカルボン酸化合物、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸化合物等が挙げられる。
【0030】
結晶性樹脂の重縮合系樹脂部分の原料モノマーであるアルコール成分には1価の炭素数6〜22の脂肪族アルコールが、カルボン酸成分には1価の炭素数6〜22の脂肪族カルボン酸化合物が、高湿保存性及びローラー剥離性の観点から、適宜含有されていることが好ましく、耐スメア性の観点から、両方が用いられていることが好ましい。1価の脂肪族アルコールと1価の脂肪族カルボン酸化合物の炭素数は、高湿保存性の観点から、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは12以上、さらに好ましくは14以上である。また、ローラー剥離性及び耐スメア性の観点から、好ましくは22以下である。
【0031】
炭素数6〜22の脂肪族モノアルコールとしては、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、べへニルアルコール等が挙げられ、これらのなかでは、ステアリルアルコールが好ましい。
【0032】
炭素数6〜22の脂肪族モノカルボン酸化合物としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等が挙げられ、これらのなかでは、ステアリン酸が好ましい。
【0033】
1価の炭素数6〜22の脂肪族モノアルコールと1価の炭素数6〜22の脂肪族モノカルボン酸化合物の総含有量は、結晶性樹脂の重縮合系樹脂部分の原料モノマーである、アルコール成分とカルボン酸成分の総量中、高湿保存性、ローラー剥離性、及び耐スメア性の観点から、4モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、8モル%以上がさらに好ましい。また、耐熱保存性の観点から、20モル%以下が好ましく、15モル%以下がより好ましく、12モル%以下がさらに好ましい。
【0034】
重縮合に用いるカルボン酸成分とアルコール成分のモル比(カルボン酸成分/アルコール成分)は、転写性の観点から、0.80以上が好ましく、0.90以上がより好ましい。また、高温高湿下での現像安定性の観点から、1.03以下が好ましく、1.00以下がより好ましく、0.95以下がさらに好ましい。
【0035】
アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合は、エステル化触媒の存在下で行うことが好ましく、耐スメア性の観点から、エステル化触媒とピロガロール化合物との存在下で行うことがより好ましい。
【0036】
エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫等が挙げられるが、本発明では、帯電性の観点から、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物及びチタン化合物が好ましく、これらはそれぞれ単独で又は両者を併用して用いることができる。
【0037】
Sn−C結合を有していない錫触媒としては、上記の観点から、Sn−C結合を有しておらず、Sn-O結合を有する錫(II)化合物、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく、Sn-O結合を有する錫(II)化合物がより好ましい。
【0038】
Sn-O結合を有する錫(II)化合物としては、シュウ酸錫(II)、酢酸錫(II)、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ラウリル酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)、オレイン酸錫(II)等の炭素数2〜28のカルボン酸基を有するカルボン酸錫(II);オクチロキシ錫(II)、ラウロキシ錫(II)、ステアロキシ錫(II)、オレイロキシ錫(II)等の炭素数2〜28のアルコキシ基を有するアルコキシ錫(II);酸化錫(II);硫酸錫(II)等が、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物としては、塩化錫(II)、臭化錫(II)等のハロゲン化錫(II)等が挙げられる。
【0039】
チタン化合物としては、Ti-O結合を有するチタン化合物が好ましく、総炭素数1〜28のアルコキシ基、アルケニルオキシ基又はアシルオキシ基を有する化合物がより好ましい。
【0040】
Ti-O結合を有するチタン化合物としては、チタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6153N)2(C37O)2〕、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネート〔Ti(C4102N)2(C37O)2〕、チタンジペンチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6153N)2(C511O)2〕、チタンジエチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6153N)2(C25O)2〕、チタンジヒドロキシオクチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6153N)2(OHC816O)2〕、チタンジステアレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6153N)2(C1837O)2〕、チタントリイソプロピレートトリエタノールアミネート〔Ti(C6153N)(C37O)3〕、チタンモノプロピレートトリス(トリエタノールアミネート)〔Ti(C6153N)3(C37O)〕等が挙げられる。
【0041】
上記チタン化合物及び錫(II)化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
上記エステル化触媒の存在量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、0.01〜1.0質量部が好ましく、0.1〜0.6質量部がより好ましい。
【0043】
また、ピロガロール化合物は、互いに隣接する3個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有する化合物であり、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステル、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2',3,4-テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート等のカテキン誘導体等が挙げられる。
【0044】
重縮合反応におけるピロガロール化合物の存在量は、重縮合反応に供される原料モノマー100質量部に対して、0.001〜1.0質量部が好ましく、0.005〜0.4質量部がより好ましく、0.01〜0.2質量部がさらに好ましい。
【0045】
ピロガロール化合物とエステル化触媒の質量比(ピロガロール化合物/エステル化触媒)は、樹脂の耐久性の観点から、0.01〜0.5が好ましく、0.03〜0.3がより好ましく、0.05〜0.2がさらに好ましい。
【0046】
アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合反応は、例えば、エステル化触媒、重合禁止剤等の存在下、不活性ガス雰囲気中で行うことができ、温度条件は、結晶性樹脂の場合は120〜230℃が好ましく、後述の非晶質樹脂の場合は180〜250℃が好ましい。具体的には、例えば樹脂の強度を上げるために全モノマーを一括仕込みしたり、低分子量成分を少なくするために2価のモノマーを先ず反応させた後、3価以上のモノマーを添加して反応させる等の方法を用いてもよい。また、重合の後半に反応系を減圧することにより、反応促進させてもよい。
【0047】
一方、付加重合系樹脂部分は、トナーの耐久性の観点から、スチレン系樹脂であることが好ましい。従って、付加重合系樹脂部分の原料モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン化合物が好ましく、スチレンがより好ましい。
【0048】
スチレン化合物の含有量は、トナーの耐久性の観点から、付加重合系樹脂の原料モノマー中、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、実質100質量%がさらに好ましい。ここで、付加重合系樹脂の原料モノマーには、後述の両反応性モノマーは含めない。
【0049】
スチレン化合物以外に用いられ得る付加重合系樹脂の原料モノマーとしては、エチレン、プロピレン等のエチレン性不飽和モノオレフィン類;ブタジエン等のジオレフィン類;塩化ビニル等のハロビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;(メタ)アクリル酸メチルエステル等のエチレン性モノカルボン酸のエステル;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニリデンクロリド等のビニリデンハロゲン化物;N-ビニルピロリドン等のN-ビニル化合物類等が挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。
【0050】
これらの中では、トナーの耐久性の観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基の炭素数は、上記の観点から、1〜22が好ましく、8〜18がより好ましい。なお、該アルキルエステルの炭素数は、エステルを構成するアルコール成分由来の炭素数を言う。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられ、トナーの耐久性の観点から、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。「(イソ又はターシャリー)」、「(イソ)」は、これらの基が存在している場合とそうでない場合の双方を含むことを意味し、これらの基が存在していない場合には、ノルマルであることを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの双方の場合を含むことを示す。
【0051】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、トナーの耐久性の観点から、付加重合系樹脂の原料モノマー中、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。後述の非晶質樹脂の場合は、低温定着性の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。
【0052】
なお、スチレン化合物と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む原料モノマーを付加重合させて得られる樹脂をスチレン−(メタ)アクリル樹脂ともいう。
【0053】
付加重合系樹脂部分の原料モノマーの付加重合反応は、例えば、重合開始剤、架橋剤等の存在下、有機溶媒存在下又は無溶媒下で、常法により行うことができるが、温度条件としては、110〜200℃が好ましく、140〜170℃がより好ましい。
【0054】
また、付加重合反応は、必要に応じて、重合開始剤等の存在下で行ってもよい。重合開始剤としては、ジブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。重合開始剤の使用量は、付加重合系樹脂部分の原料モノマー100質量部に対して、4〜12質量部が好ましく、6〜10質量部がより好ましい。
【0055】
付加重合反応の際に有機溶媒を使用する場合、キシレン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン等を用いることができる。有機溶媒の使用量は、スチレン系樹脂部分の原料モノマー100質量部に対して、10〜50質量部程度が好ましい。
【0056】
このような複合樹脂は、例えば、(1)カルボキシ基や水酸基を有する付加重合系樹脂の存在下で、重縮合系樹脂部分の原料モノマーを重縮合させる方法(カルボキシ基や水酸基は後述する両反応性モノマーや連鎖移動剤など由来のものを用いることができる)、(2)反応性不飽和結合を有する重縮合系樹脂の存在下で、付加重合系樹脂部分の原料モノマーを付加重合させる方法等で得ることができる。
【0057】
上記複合樹脂は、トナーの低温定着性及び得られる画像の光沢性と耐フィルミング性を向上させる観点から、重縮合系樹脂部分の原料モノマーと付加重合系樹脂部分の原料モノマーに加えて、さらに重縮合系樹脂部分の原料モノマー及び付加重合系樹脂部分の原料モノマーのいずれとも反応し得る、両反応性モノマーを用いて得られる樹脂(ハイブリッド樹脂)であることが好ましい。従って、重縮合系樹脂部分の原料モノマー及び付加重合系樹脂部分の原料モノマーを重合させて複合樹脂を得る際に、重縮合反応及び/又は付加重合反応は、両反応性モノマーの存在下で行うことが好ましい。これにより、複合樹脂は、両反応性モノマー由来の構成単位を介して重縮合系樹脂部分と付加重合系樹脂部分とが結合した樹脂(ハイブリッド樹脂)となり、重縮合系樹脂部分と付加重合系樹脂部分とがより微細に、かつ均一に分散したものとなる。
【0058】
これらから、複合樹脂は、(イ)炭素数2〜8の脂肪族ジオールAと炭素数9〜12の脂肪族ジオールBを含有するアルコール成分とカルボン酸成分とを含む、重縮合系樹脂部分の原料モノマー、(ロ)付加重合系樹脂部分の原料モノマー、及び(ハ)重縮合系樹脂部分の原料モノマー及び付加重合系樹脂部分の原料モノマーのいずれとも反応し得る両反応性モノマーを重合させることにより得られるハイブリッド樹脂であることが好ましい。
【0059】
両反応性モノマーとしては、分子内に、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基、好ましくは水酸基及び/又はカルボキシル基、より好ましくはカルボキシル基と、エチレン性不飽和結合とを有する化合物が好ましく、このような両反応性モノマーを用いることにより、分散相となる樹脂の分散性をより向上させることができる。両反応性モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましいが、重縮合反応及び付加重合反応の反応性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸又はフマル酸がより好ましい。但し、重合禁止剤と共に用いた場合は、フマル酸等の多価カルボン酸は、重縮合系のモノマーとして機能する場合がある。
【0060】
両反応性モノマーの使用量は、付加重合系樹脂部分と重縮合系樹脂部分との分散性を高め、画像の光沢性を高めると共に、低温定着性や耐フィルミング性の向上の観点から、重縮合系樹脂部分のアルコール成分の合計100モルに対して、1〜20モル[(両反応性モノマーのモル/重縮合系樹脂部分のアルコール成分の合計モル)×100]が好ましく、2〜15モルがより好ましく、2〜10モルがよりさらに好ましく、付加重合系樹脂部分の原料モノマーの合計100モルに対して、2〜25モル[(両反応性モノマーのモル/付加重合系樹脂部分の原料モノマーの合計モル)×100]が好ましく、3〜15モルがより好ましい。
【0061】
複合樹脂は、具体的には、以下の方法により製造することが好ましい。両反応性モノマーは、トナーの光沢性を高める観点から、付加重合系樹脂部分の原料モノマーとともに付加重合反応に用いることが好ましい。
【0062】
(i) 重縮合系樹脂部分の原料モノマーによる重縮合反応の工程(A)の後に、付加重合系樹脂部分の原料モノマー及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(B)を行う方法
この方法では、重縮合反応に適した反応温度条件下で工程(A)を行い、反応温度を低下させ、付加重合反応に適した温度条件下で工程(B)を行う。付加重合系樹脂部分の原料モノマー及び両反応性モノマーは、付加重合反応に適した温度で反応系内に添加にすることが好ましい。両反応性モノマーは付加重合反応と共に重縮合系樹脂部分とも反応する。
工程(B)の後に、再度反応温度を上昇させ、必要に応じて架橋剤となる3価以上等の重縮合系樹脂部分の原料モノマー等を重合系に添加し、工程(A)の重縮合反応や両反応性モノマーとの反応をさらに進めることができる。
【0063】
(ii) 付加重合系樹脂部分の原料モノマー及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(B)の後に、重縮合系樹脂部分の原料モノマーによる重縮合反応の工程(A)を行う方法
この方法では、付加重合反応に適した反応温度条件下で工程(B)を行い、反応温度を上昇させ、重縮合反応に適した温度条件下で、工程(A)の重縮合反応を行う。両反応性モノマーは付加重合反応と共に重縮合反応にも関与する。
重縮合系樹脂部分の原料モノマーは、付加重合反応時に反応系内に存在してもよく、重縮合反応に適した温度条件下で反応系内に添加してもよい。前者の場合は、重縮合反応に適した温度でエステル化触媒を添加することで調節できる。
【0064】
(iii) 重縮合系樹脂部分の原料モノマーによる重縮合反応の工程(A)と付加重合系樹脂部分の原料モノマー及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程(B)とを並行して行う方法
この方法では、付加重合反応に適した反応温度条件下で工程(A)と工程(B)とを行い、反応温度を上昇させ、重縮合反応に適した温度条件下で、必要に応じて架橋剤となる3価以上の重縮合系樹脂部分の原料モノマーを重合系に添加し、工程(A)の重縮合反応をさらに行うことが好ましい。その際、重縮合反応に適した温度条件下では、ラジカル重合禁止剤を添加して重縮合反応だけを進めることもできる。両反応性モノマーは付加重合反応と共に重縮合反応にも関与する。
【0065】
上記(i)の方法においては、重縮合反応を行う工程(A)の代わりに、予め重合した重縮合系樹脂を用いてもよい。上記(iii)の方法において、工程(A)と工程(B)を並行して行う際には、重縮合系樹脂部分の原料モノマーを含有した混合物中に、付加重合系樹脂部分の原料モノマーを含有した混合物を滴下して反応させることもできる。
【0066】
上記(i)〜(iii)の方法は、同一容器内で行うことが好ましい。
【0067】
本発明のトナー用結晶性樹脂は上記複合樹脂からなる。重縮合系樹脂部分と付加重合系樹脂部分の質量比(重縮合系樹脂部分/付加重合系樹脂部分)は、耐スメア性、高湿保存性及び低温定着性の観点から、好ましくは60/40以上、より好ましくは70/30以上、さらに好ましくは80/20以上、さらに好ましくは85/15以上である。また、ローラー剥離性及び高湿保存性の観点から、好ましくは97/3以下、より好ましくは95/5以下、さらに92/8以下である。なお、重縮合系樹脂部分の質量は重縮合系樹脂部分の原料モノマーの質量から反応水の質量(計算値)を除いた質量であり、付加重合系樹脂部分の質量は付加重合系樹脂部分の原料モノマーの合計質量である。また、この質量比において、両反応性モノマー及び重合開始剤の質量は、重縮合系樹脂部分と付加重合系樹脂部分のいずれにも含めない。
【0068】
結晶性樹脂の軟化点は、耐スメア性の観点から、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、75℃以上がさらに好ましい。また、低温定着性の観点から、110℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましく、85℃以下がさらに好ましい。
【0069】
また、結晶性樹脂の融点は、耐スメア性の観点から、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、75℃以上がより好ましい。また、低温定着性の観点から、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、85℃以下がより好ましい。
【0070】
結晶性樹脂の酸価は、樹脂の生産性の観点から、好ましくは0.1mgKOH/g以上、より好ましくは0.5mgKOH/g以上、さらに好ましくは1mgKOH/g以上である。また、低温定着性、高湿保存性及びローラー剥離性の観点から、好ましくは20mgKOH/g以下、より好ましくは15mgKOH/g以下、さらに好ましくは10mgKOH/g以下、さらに好ましくは5mgKOH/g以下、さらに4mgKOH/g以下である。
【0071】
結晶性樹脂の軟化点、融点及び酸価は、原料モノマー組成、重合開始剤、分子量、触媒量等の調整又は反応条件の選択により容易に調整することができる。
【0072】
本発明の電子写真用トナーは、例えばトナー製造における溶融混練時の溶解粘度保持の観点から、さらに、結着樹脂として非晶質樹脂を含有することが好ましい。
【0073】
非晶質樹脂は、ポリエステル樹脂、ビニル系樹脂、及び重縮合系樹脂部分と付加重合系樹脂部分とを有する複合樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましく、結晶性樹脂との相溶性が向上し、結晶性樹脂がより微細に分散される観点から、複合樹脂が好ましい。
【0074】
ポリエステル樹脂、又は非晶質複合樹脂の重縮合系樹脂部分のアルコール成分は、式(I):
【0075】
【化1】
【0076】
(式中、RO及びORはオキシアルキレン基であり、Rはエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は1〜16が好ましく、1〜8がより好ましく、1.5〜4がさらに好ましい)
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含有するアルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させて得られる樹脂であることが好ましい。
【0077】
式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、トナーの帯電性及び高湿保存性の観点から、アルコール成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80〜100モル%、さらに好ましくは90〜100モル%である。
【0078】
芳香族ジオール以外のアルコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、水素添加ビスフェノールA等のジオール;ソルビトール、ペンタエリスリトール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の3価以上の多価アルコール等が挙げられる。
【0079】
ポリエステル樹脂、又は非晶質複合樹脂の重縮合系樹脂部分のカルボン酸成分において、2価のカルボン酸化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、ドデセニルコハク酸、オクチルコハク酸等の炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数2〜20のアルケニル基で置換されたコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;それらの酸の無水物及びそれらの酸のアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。
【0080】
カルボン酸成分は、トナーの帯電性及び耐熱保存性の観点から、芳香族ジカルボン酸化合物を含有することが好ましく、芳香族ジカルボン酸化合物としてはテレフタル酸が好ましい。カルボン酸成分中、芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの帯電性及び耐熱保存性の観点から、好ましくは15〜80モル%、より好ましくは20〜75モル%である。
【0081】
3価以上の多価カルボン酸化合物としては、例えば1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸及びこれらの酸無水物、低級アルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。
【0082】
3価以上の多価カルボン酸化合物の含有量は、トナーの耐熱保存性の観点から、カルボン酸成分中、15モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましい。また、低温定着性の観点から、80モル%以下が好ましく、50モル%以下がより好ましく、40モル%以下がさらに好ましく、30モル%以下がさらに好ましい。
【0083】
アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、適宜含有されていてもよい。
【0084】
非晶質の複合樹脂は、前記アルコール成分及びカルボン酸成分を用いる以外は、前記結晶性の複合樹脂と同様の付加重合系樹脂の原料モノマー及び必要に応じて両反応性モノマーを用いて、同様にして得られる。
【0085】
非晶質樹脂がポリエステル樹脂である場合のアルコール成分及びカルボン酸成分とその重縮合反応についても、前記アルコール成分及びカルボン酸成分を用いる以外は、前記結晶性の複合樹脂の重縮合系樹脂部分と同様である。
【0086】
本発明において、上記アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合させて得られるポリエステル樹脂には、樹脂変性樹脂も含まれる。
【0087】
樹脂変性樹脂としては、例えば、樹脂がウレタン結合で変性されたウレタン変性ポリエステル、ポリエステルがエポキシ結合で変性されたエポキシ変性ポリエステル等が挙げられる。
【0088】
非晶質樹脂がビニル系樹脂である場合の原料モノマーと付加重合反応については、前記結晶性の複合樹脂の付加重合系樹脂部分と同様である。
【0089】
非晶質樹脂の軟化点は、定着性の観点から、好ましくは70〜180℃、より好ましくは90〜150℃である。本発明に用いられる非晶質樹脂は、低温定着性及び耐スメア性の観点から、軟化点の高い樹脂と低い樹脂とを併用することが好ましい。具体的に、高軟化点樹脂の軟化点は、好ましくは120〜150℃であり、低軟化点樹脂の軟化点は、好ましくは90〜120℃であり、軟化点が好ましくは10℃以上異なる2種を用いることが好ましい。高軟化点樹脂の低軟化点樹脂に対する質量比(高軟化点樹脂/低軟化点樹脂)は、60/40〜90/10が好ましく、70/30〜80/20がより好ましい。
【0090】
非晶質樹脂のガラス転移温度は、定着性の観点から、好ましくは45〜80℃、より好ましくは45〜60℃である。なお、ガラス転移温度は非晶質樹脂に特有の物性であり、吸熱の最大ピーク温度とは区別される。
【0091】
非晶質樹脂の酸価は、いずれもトナーの帯電性および耐加水分解性が良好である観点から、1〜40mgKOH/gが好ましく、2〜35mgKOH/gがより好ましく、3〜30mgKOH/gがさらに好ましい。
【0092】
非晶質樹脂の軟化点、ガラス転移温度及び酸価は、原料モノマー組成、重合開始剤、分子量、触媒量等の調整又は反応条件の選択により容易に調整することができる。
【0093】
本発明のトナーにおいて、結晶性樹脂と非晶質樹脂との質量比(結晶性樹脂/非晶質樹脂)は、高湿保存性及び耐スメア性の観点から、好ましくは35/65以下、より好ましくは30/70以下、さらに好ましくは20/80以下、さらに好ましくは15/85以下である。また、低温定着性の観点から、好ましくは3/97以上、より好ましくは5/95以上である。
【0094】
本発明のトナーは、結着樹脂として、本発明の効果を損なわない範囲で、前記の結晶性樹脂と非晶質樹脂以外の公知のトナー用結着樹脂、例えば、ポリエステル、スチレン-アクリル樹脂等のスチレン系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の樹脂が併用されていてもよいが、前記の結晶性樹脂と非晶質樹脂の総含有量は、結着樹脂中、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であることがさらに好ましい。
【0095】
本発明のトナーには、着色剤、離型剤、荷電制御剤、荷電制御樹脂、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が含有されていてもよい。
【0096】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、ジスアゾエロー等が用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。着色剤の含有量は、トナーの画像濃度及び低温定着性を向上させる観点から、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。また、40質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0097】
離型剤としては、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレンポリエチレン共重合体、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物、カルナウバワックス、モンタンワックス、サゾールワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステル系ワックス、脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0098】
離型剤の融点は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点から、60〜160℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。
【0099】
離型剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点及び結着樹脂中への分散性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、7質量部以下がさらに好ましい。
【0100】
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
【0101】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリエント化学工業社製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリエント化学工業社製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(クラリアント社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリエント化学工業社製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成社製)等;スチレン−アクリル系樹脂、例えば「FCA-701PT」(藤倉化成社製)等が挙げられる。
【0102】
また、負帯電性荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリエント化学工業社製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」、「T-77」(保土谷化学工業社製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット社製)等;サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「E-304」(以上、オリエント化学工業社製)、「TN-105」(保土谷化学工業社製)等;銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(クラリアント社製)、ニトロイミダゾール誘導体等;有機金属化合物、例えば「TN105」(保土谷化学工業社製)等が挙げられる。
【0103】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましく、1質量部以上がさらに好ましい。また、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、3質量部以下がさらに好ましく、2質量部以下がさらに好ましい。
【0104】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、結着樹脂、着色剤、離型剤、荷電制御剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。
【0105】
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、外添剤を用いることが好ましく、外添剤としては、無機微粒子を用いることが好ましい。無機微粒子の例は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛が挙げられ、シリカが好ましい。
【0106】
シリカは、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであるのが好ましい。
【0107】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられ、これらの中ではヘキサメチルジシラザンが好ましい。
【0108】
外添剤の平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましい。また、250nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、90nm以下がさらに好ましい。
【0109】
外添剤の含有量は、外添剤で処理する前のトナー100質量部に対して、0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.3質量部以上がさらに好ましい。また、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【0110】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、3〜15μmが好ましく、4〜10μmがより好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーを外添剤で処理している場合には、外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径をトナーの体積中位粒径とする。
【0111】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【0112】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の電子写真用トナー及び該トナーに用いられる結晶性樹脂を開示する。
【実施例】
【0113】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。樹脂等の物性は、以下の方法により測定した。
【0114】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター「CFT-500D」(島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0115】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、室温から降温速度10℃/minで0℃まで冷却しそのまま1分間静止させる。その後、昇温速度50℃/minで測定する。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの頂点の温度を吸熱の最高ピーク温度とする。
【0116】
〔樹脂のガラス転移温度〕
示差走査熱量計「DSC210」(セイコー電子工業社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とする。
【0117】
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更する。
【0118】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計「DSC210」(セイコー電子工業社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0119】
〔外添剤の平均粒子径〕
平均粒子径は、個数平均粒子径を指し、外添剤の走査型電子顕微鏡(SEM)写真から測定した、500個の粒子の粒径の数平均値をいう。長径と短径がある場合は長径を指す。
【0120】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)5%電解液
分散条件:分散液5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させる。
測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度で、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0121】
〔樹脂の製造〕
結晶性樹脂の製造例1
表1、2に示すアルコール成分を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L 容の四つ口フラスコに入れ、120℃に加熱した。120℃にて、表1、2に示すカルボン酸成分の混合物から2.0kgを添加し、さらに160℃まで加熱し、6時間反応させた。その後、表1、2に示す付加重合系樹脂部分の原料モノマー及び両反応性モノマーを滴下ロートにより1時間かけて滴下した。160℃に保持したまま1時間付加重合反応を熟成させた後、8.3kPaにて1時間付加重合系樹脂部分の原料モノマーの除去を行った。さらに、残りのカルボン酸成分を添加し、200℃まで8時間かけて昇温、8.3kPaにて30分反応させた。さらに、2-エチルヘキサン酸錫(II)20g及び没食子酸2gを添加し、1時間200℃ にて反応させた後、8.3kPaにて1時間反応させて、結晶性ハイブリッド樹脂(樹脂C−1〜C−15、C−17、C−18)を得た。
【0122】
結晶性樹脂の製造例2
表2に示すアルコール成分とカルボン酸成分を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、140℃で6時間保持、さらに200℃まで6時間かけて昇温後、2-エチルヘキサン酸錫(II)20g及び没食子酸2gを入れ、200℃にて1時間反応させた後、8.3kPaにて1時間反応させて、結晶性ポリエステル(樹脂C−16)を得た。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
非晶質樹脂の製造例1
表3に示す無水トリメリット酸以外の重縮合系樹脂部分の原料モノマー、2-エチルヘキサン酸錫(II)45g及び没食子酸2gを入れ、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットルの四つ口フラスコ中、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で235℃で6時間重縮合させた後、160℃まで冷却した。その後、付加重合系樹脂部分の原料モノマー、両反応性モノマー及び重合開始剤の混合物を、160℃で攪拌しながら1時間かけて滴下し、さらに1時間160℃を保持して付加重合反応を行った後、200℃に昇温した。その後、無水トリメリット酸を添加した後、210℃に昇温し、重縮合反応を行い、軟化点が表3に示す軟化点に達するまで反応させて、複合樹脂(樹脂HB−1、HB−2)を得た。
【0126】
【表3】
【0127】
非晶質樹脂の製造例2
表4に示す無水トリメリット酸以外のポリエステル樹脂の原料モノマー、2-エチルヘキサン酸錫(II)45g及び没食子酸2gを入れ、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットルの四つ口フラスコ中、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で235℃で6時間重縮合させた後、200℃まで冷却した。その後、無水トリメリット酸を添加した後、210℃に昇温し、重縮合反応を行い、軟化点が表4に示す軟化点に達するまで反応させて、非晶質ポリエステル(樹脂a−1、a−2)を得た。
【0128】
【表4】
【0129】
〔静電荷像現像用トナーの製造〕
実施例1〜15及び比較例1〜8(実施例8は参考例である)
表5に示す樹脂を混合した結着樹脂100質量部、着色剤「ECB-301」(大日精化社製、C.I.ピグメントブルー15:3)5質量部、負帯電性荷電制御剤「LR-147」(日本カーリット社製)1質量部及び離型剤「NP-105」(三井化学社製、ポリプロピレンワックス、融点:140℃)2質量部を、ヘンシェルミキサーによく攪拌した後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。ロールの回転速度は200r/min、ロール内の加熱温度は120℃であり、混合物の供給速度は10kg/hr、平均滞留時間は約18秒であった。得られた混練物を冷却ローラーで圧延冷却した後、ジェットミルで体積中位粒径(D50)6.5μmの粉体を得た。
【0130】
得られた粉体100質量部に、外添剤「アエロジルR-972」(疎水性シリカ、日本アエロジル社製、平均粒子径:16nm)1.0質量部及び「SI-Y」(疎水性シリカ、日本アエロジル社製、平均粒子径:40nm)1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサーで3600r/min、5分間混合することにより、外添剤処理を行い、体積中位粒径(D50)6.5μmのトナーを得た。
【0131】
試験例1〔低温定着性〕
トナーを複写機「AR-505」(シャープ(株)製)に実装し、トナー付着量が0.7mg/cm2の未定着画像(2cm×12cm)を得た。複写機「AR-505」(シャープ(株)製)の定着機をオフラインで定着可能なように改良した定着機(定着速度200mm/sec)を用い、定着温度を90℃から240℃へと5℃ずつ順次上昇させながら、各定着温度で定着試験を行った。定着紙には、「CopyBond SF-70NA」(シャープ社製、75g/m2)を使用した。
【0132】
最低定着温度は500gの荷重をかけた底面が15mm×7.5mmの砂消しゴムで、定着機を通して定着された画像を5往復擦り、擦る前後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(擦り後/擦り前)が最初に70%を越える定着ローラーの温度を最低定着温度とする。最低定着温度が低いほど、低温定着性に優れる。結果を表5に示す。
【0133】
試験例2〔耐スメア性〕
試験例1の最低定着温度で定着させて得られた印刷物に、縦3cm、横3cm、高さ6.5cm、重さ500gのステンレス製の重りをのせて、速度で0.5m/sで印字上を往復させた。1往復を1回とし、黒い帯状のトナーの付着物が非印字部に最初に現れた時の回数を目視で確認し、スメア性を評価した。回数が多いほど、耐スメア性が良好である。結果を表5に示す。
【0134】
試験例3〔ローラー剥離性〕
複写機「AR-505」(シャープ(株)製)にトナーを実装し、2cm×12cmのベタ画像部(トナー付着量:0.5mg/cm2)を有する未定着の画像を得た。複写機「AR-505」(シャープ(株)製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した定着機(定着速度:100mm/sec)を用い、定着温度を170℃とし、紙を定着ローラーに通過させ、定着ローラーから剥がれるか定着ローラーに付着するかを目視にて観察し、以下の評価基準に従って、ローラー剥離性を評価した。結果を表5に示す。
【0135】
〔評価基準〕
A:定着ローラーから紙が剥離し、通過後の紙の折れ曲がりもない。
B:定着ローラーから紙が剥離するが、通過後の紙が折れ曲がる。
C:定着ローラーに紙が付着する。
【0136】
試験例4〔高湿保存性〕
トナー10gを半径12mmの円筒型容器に入れ、上から100gの重りをのせ、50℃及び相対湿度80%の環境で72時間保持した。パウダーテスター(ホソカワミクロン(株)製)に、上から順に、篩いA(目開き250μm)、篩いB(目開き150μm)、篩いC(目開き75μm)の3つの篩を重ね合わせて設置し、篩いA上にトナー10gを乗せて60秒間振動を与えた。篩いA上に残存したトナー質量WA(g)を、篩いB上に残存したトナー質量WB(g)を、篩いC上に残存したトナー質量WC(g)を、それぞれ測定し、下記式に従って算出される値(α)をもとに、保存性を評価した。値(α)が100に近いほど、保存性に優れる。結果を表5に示す。
α=100−(WA+WB×0.6+WC×0.2)/10×100
【0137】
【表5】
【0138】
以上の結果より、実施例のトナーは、比較例のトナーに比べて、低温定着性、高湿保存性、耐スメア性及びローラー剥離性のいずれも良好であることが分かる。
【0139】
実施例4と7との対比から、炭素数12の脂肪族ジカルボン酸化合物の方が、炭素数10の脂肪族ジカルボン酸化合物より、低温定着性及び高湿保存性に優れることがわかる。
実施例4と9との対比から、脂肪族ジオールAの炭素数を4から6に変更することで、高湿保存性がやや向上するものの、耐スメア性がやや低下することがわかる。
実施例4と8との対比から、脂肪族ジオールBの炭素数を10から12に変更することで、低温定着性及び高湿保存性がやや向上するものの、耐スメア性がやや低下することがわかる。
実施例4〜6の対比から、脂肪族ジオールAとBのモル比(A/B)が、2.33、1.00、0.46と脂肪族ジオールBが多くなるにつれて、高湿保存性が向上し、脂肪族ジオールAが多くなるにつれて、耐スメア性は向上するが、モル比(A/B)が、1以上では変わらないことがわかる。
結晶性樹脂の重縮合系樹脂部分と付加重合系樹脂部分の質量比が、各々90/10、65/35、95/5である実施例4、10、11の対比から、結晶性樹脂の重縮合系樹脂部分と付加重合系樹脂部分の質量比が90/10である実施例4が耐スメア性、低温定着性、高湿保存性及びローラー剥離性のバランスの観点から優れていることがわかる。
実施例4と12との対比から、付加重合系樹脂部分に、スチレン以外のアルキル(メタ)アクリレートを用いると、耐スメア性、低温定着性、高湿保存性及びローラー剥離性が低下することがわかる。
実施例1、3、4、13の対比から、結晶性樹脂の重縮合系樹脂部分に、1価の炭素数6〜22の脂肪族アルコール又は1価の炭素数6〜22の脂肪酸を用いた場合、高湿保存性及びローラー剥離性に優れ、両方用いることで、さらに耐スメア性にも優れることがわかる。これは、1価の炭素数6〜22の脂肪族アルコール及び/又は1価の炭素数6〜22の脂肪酸が末端のカルボン酸又は水酸基と反応して、樹脂が疎水化したため向上したのではないかと考えられる。
実施例4と実施例14との対比から、結晶性樹脂の酸価が20KOHmg/gである実施例14は、低温定着性、高湿保存性及びローラー剥離性が低下することがわかる。
実施例1と2との対比から、非晶質樹脂に対する結晶性樹脂の質量比が、10/90から30/70に高くなると、高湿保存性及び耐スメア性が低下することがわかる。
実施例1と15との対比から、非晶質樹脂が、重縮合系樹脂部分と付加重合系樹脂部分とを有する複合樹脂である場合、耐スメア性、低温定着性、高湿保存性及びローラー剥離性に優れることがわかる。これは、重縮合系樹脂部分と、付加重合系樹脂部分とを含む結晶性樹脂との相溶性が向上し、より結晶性樹脂が微分散されたためと推定される。
【0140】
比較例1では、脂肪族ジオールBが多すぎるため、耐スメア性及びローラー剥離性の低下が顕著である。
比較例2では、脂肪族ジオールAが多すぎるため、高湿保存性の低下が顕著である。
比較例3では、結晶性樹脂が付加重合系樹脂部分を有していないため、ローラー剥離性及び高湿保存性が低下する。
比較例4では、脂肪族ジオールAだけであり、高湿保存性が低く、比較例5では、脂肪族ジオールBだけであり、耐スメア性及びローラー剥離性の低下が顕著である。
比較例6、7のように結晶性樹脂を用いない場合は、低温定着性及び耐スメア性が低下する。
比較例8のように、脂肪族ジオールAのみが用いられた重縮合系樹脂部分と付加重合系樹脂部分とを含む結晶性樹脂と、脂肪族ジオールBのみが用いられた重縮合系樹脂部分と付加重合系樹脂部分とを含む結晶性樹脂とを単に混合するだけでは、高温保存性、耐スメア性及びローラー剥離性の低下が顕著であり、1つの樹脂中に、脂肪族ジオールAと脂肪族ジオールBが併用されていることが重要であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の電子写真用トナーは、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に用いられるものである。