(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
(シリコーン多孔質体)
本発明のシリコーン多孔質体は、連通する気孔と、前記気孔を形成する三次元網目状のシリコーン骨格とを有するシリコーン多孔質体であって、前記シリコーン骨格は、二官能のアルコキシシランと、三官能のアルコキシシランとの共重合により形成されたものであり、前記シリコーン骨格における未反応部の割合が10mol%以下である。
【0016】
本発明のシリコーン多孔質体は、連通する気孔と、前記気孔を形成する三次元網目状のシリコーン骨格とを有する。すなわち、本発明におけるシリコーン多孔質体は、モノリス構造を有するものである。ここで、「モノリス構造」とは、連続した三次元網目状骨格と、連通する気孔とにより一体的に構成される共連続構造である。
【0017】
本発明のシリコーン多孔質体における前記シリコーン骨格は、二官能のアルコキシシランと、三官能のアルコキシシランとの共重合により形成されたものである。本発明のシリコーン多孔質体は、このように形成された三次元網目状のシリコーン骨格と、連通する気孔とを有するモノリス構造を有することによって、高い柔軟性と、シロキサン結合に基づく高い耐熱性とを有することができる。本発明のシリコーン多孔質体の電子顕微鏡写真を
図1に示す。
【0018】
二官能のアルコキシシランは、珪素の4本の結合基のうち重合(結合)に関与するアルコキシ基を二つ有し、残りの反応に関与しない修飾基を二つ有するものであり、下記化学式(1)により示されるものである。
【0020】
二官能のアルコキシシランにおけるアルコキシ基(−OR
1)は、好ましくは炭素数1〜5のアルコキシ基である。加水分解反応速度の観点からは、メトキシ基、エトキシ基又はプロポキシ基であることが好ましく、メトキシ基又はエトキシ基であることがより好ましい。なお、二官能のアルコキシシランにおける二つのアルコキシ基(−OR
1)は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0021】
二官能のアルコキシシランにおける修飾基(−R
2)としては、置換または非置換のアルキル基、アリール基、ビニル基、メルカプトアルキル基等が挙げられる。
置換または非置換のアルキル基におけるアルキル基は、好ましくは炭素数1〜5のアルキル基であり、メチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン元素などが挙げられる。置換されたアルキル基としては、フロロアルキル基が好ましい。
アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニリル基、ナフチル基などを挙げることができ、フェニル基であることが好ましい。
メルカプトアルキル基としては、メルカプトメチル基、メルカプトエチル基、メルカプトプロピル基等が挙げられ、メルカプトプロピル基であることが好ましい。
【0022】
二官能のアルコキシシランにおける二つの修飾基(−R
2)は、同じであってもよく、異なっていてもよい。なお、得られる構造体への撥水性や耐熱性等の機能付与の観点からは、これら二つの修飾基のうちの一つ以上が、メチル基、フェニル基及びフロロアルキル基からなる群より選択されたものであることが好ましい。
【0023】
二官能のアルコキシシランとしては、具体的には、ジメチルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられ、耐熱性向上の観点からは、ジメチルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン等が特に好ましい。なお、二官能のアルコキシシランとしては、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
三官能のアルコキシシランは、珪素の4本の結合基のうち重合(結合)に関与するアルコキシ基を三つ有し、残りの反応に関与しない修飾基を一つ有するものであり、下記化学式(2)により示されるものである。
【0026】
三官能のアルコキシシランのアルコキシ基(−OR
3)としては、二官能のアルコキシシランのアルコキシ基(−OR
1)と同様のものを挙げることができる。また、三官能のアルコキシシランの修飾基(−R
4)についても、二官能のアルコキシシランの修飾基(−R
2)と同様のものを挙げることができる。
【0027】
三官能のアルコキシシランにおける修飾基としては、得られる構造体への撥水性や耐熱性等の機能付与の観点からは、メチル基、フェニル基又はフロロアルキル基であることが好ましい。
【0028】
三官能のアルコキシシランとしては、具体的には、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、耐熱性向上の観点からは、メチルトリメトキシシランが特に好ましい。なお、三官能のアルコキシシランとしては、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
また、本発明においては、二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシランとともに、三官能以上のアルコキシシラン類をさらに共重合させてもよい。ここで、三官能以上のアルコキシシラン類とは、重合(結合)に関与するアルコキシ基が三つ以上のものを指す。三官能以上のアルコキシシラン類としては、たとえば、−Si−C−C−Si−構造または−Si−フェニル−Si−構造を持つアルコキシシランが挙げられる。Siの結合基は4つであるが、−Si−C−C−Si−構造または−Si−フェニル−Si−構造を持つアルコキシシランを架橋剤として使用することにより、その6つの官能基を利用することができ、より緻密なシリコーンのネットワークを形成することができる。
【0030】
−Si−C−C−Si−構造をもつアルコキシシランとしては、たとえば、1,2−ビス(メチルジエトキシシリル)エタン等が挙げられる。
【0031】
二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシランの重合比は、目的とするシリコーン多孔質体の特性等を考慮して適宜選択することができ、特に限定されないが、それらの重合比(二官能のアルコキシシラン:三官能のアルコキシシラン)は、容積比で、好ましくは2:8〜6:4であり、より好ましくは3:7〜5:5である。前記重合比が2:8以上であると、得られる多孔質体への柔軟性付与といった点で好ましい。また、前記重合比が6:4以下であると、機械強度維持といった点で好ましい。
【0032】
なお、二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシランとともに、三官能以上のアルコキシシラン類をさらに共重合させる場合、三官能以上のアルコキシシラン類の重合比は特に限定されないが、たとえば、二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシランの合計に対する容積比(二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシランの合計:三官能以上のアルコキシシラン類)として、たとえば6:4〜4:6である。
【0033】
本発明のシリコーン多孔質体において、前記シリコーン骨格における未反応部の割合は10mol%以下である。本発明によれば、当該シリコーン骨格における未反応部の割合を10mol%以下に制御することにより、優れた耐熱クッション回復性を得ることができる。
【0034】
ここで、クッション回復性とは、ある物体をある温度での圧縮下に置いた後に圧力を開放することにより、当該物体の形状が圧縮前の形状に回復する性質をいう。また、耐熱クッション回復性とは、ある物体を高温での圧縮下に置いた後に圧力を開放すると、当該物体の形状が高温での圧縮前の形状に回復する性質をいう。
本発明において、(耐熱)クッション回復性は、以下のようにして評価することができる。
【0035】
まず、(縦10mm×横10mm)×厚みT
0の試験サンプル1を用意する。そして、
図2に示すように、当該試験サンプル1を、ある試験温度下において、圧縮試験機2により圧縮後の試験サンプル1の厚みが圧縮前の50%、すなわちT
0/2となるまで圧縮し、当該試験温度下で22時間放置する。その後、常温(23℃)に戻すために常温(23℃)で2時間放置してから、圧力を開放し、1分経過後に試験サンプル1の厚み(T
1)を測定し、圧縮残留歪み(50%圧縮永久歪み)を下記式に基づいて計算する。
圧縮残留歪み(50%圧縮永久歪み)(%)=(T
0−T
1)/T
0×100
(T
0:試験前の厚み、T
1:試験後の厚み)
【0036】
このようにして算出される圧縮残留歪み(50%圧縮永久歪み)が小さいほど、その試験温度下における(耐熱)クッション回復性に優れているといえる。本発明においては、試験温度150℃における圧縮残留歪み(50%圧縮永久歪み)が5%以下であることが好ましく、より好ましくは2%以下である。また、試験温度250℃における圧縮残留歪み(50%圧縮永久歪み)が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、特に好ましくは3%以下である。
【0037】
前述のように、本発明のシリコーン多孔質体においては、前記シリコーン骨格における未反応部の割合が10mol%以下に制御されている。このように、シリコーン骨格における未反応部の割合を小さく制御することにより、本発明のシリコーン多孔体は、その構造に起因する高い柔軟性及び高い耐熱性を有するとともに、優れた耐熱クッション回復性をも発揮することができる。
【0038】
ここで、本発明において、シリコーン骨格における未反応部の割合は、固体
29Si−NMRによる測定結果より導き出すことができる。
本発明のシリコーン多孔質体のシリコーン骨格は、二官能のアルコキシシランと、三官能のアルコキシシランとの共重合により形成されたものであり、本発明のシリコーン多孔質体を固体
29Si−NMRにより解析すると、得られるNMRスペクトルにおいて、以下の4つの構造単位に起因するピークが観察される。なお、化学式(3)の構造単位をD1、化学式(4)の構造単位をD2、化学式(5)の構造単位をT2、化学式(6)の構造単位をT3ともいう。構造単位D1及びD2は二官能のアルコキシシランに由来する構造単位であり、構造単位T2及びT3は三官能のアルコキシシランに由来する構造単位である。
【0039】
【化3】
(式中、R
5はHまたはR
1である。R
1及びR
2は化学式(1)のものと同じである。)
【0040】
【化4】
(式中、R
2は化学式(1)のものと同じである。)
【0041】
【化5】
(式中、R
6はHまたはR
3である。R
3及びR
4は化学式(2)のものと同じである。)
【0042】
【化6】
(式中、R
4は化学式(2)のものと同じである。)
【0043】
構造単位D1は未反応基であるOR
5を有する。また、構造単位T2も未反応基であるOR
6を有する。一方、構造単位D2及びT3は未反応基を有していない。ここで、固体
29Si−NMR解析により得られるNMRスペクトルの各ピークの積分値より、各構造単位の割合(mol%)を導き出すことができる。そして、構造単位D1及びT2を未反応部とし、構造単位D2及びT3を反応部として、全構造単位に占める未反応部(構造単位D1及びT2)の割合(mol%)の合計を、シリコーン骨格における未反応部の割合とする。
【0044】
なお、二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシランとともに、三官能以上のアルコキシシラン類をさらに共重合させた場合においては、構造単位D1、D2、T2及びT3に加えて、三官能以上のアルコキシシラン類に由来する未反応基を有する構造単位(未反応部)及び未反応基を有さない構造単位(反応部)の割合も同様に導き出した上で、全構造単位に占める構造単位D1、構造単位D2及び三官能以上のアルコキシシラン類に由来する未反応基を有する構造単位の割合(mol%)の合計を、シリコーン骨格における未反応部の割合とすればよい。
【0045】
本発明において、シリコーン骨格における未反応部の割合は、10mol%以下であり、好ましくは9mol%以下であり、より好ましくは8mol%以下である。未反応部の割合を10mol%以下に制御することにより、優れた耐熱クッション回復性を得ることができる。一方、未反応部の割合の下限は特に限定されないが、過度に小さくしすぎると、柔軟性を損なうおそれがある。したがって、未反応部の割合は、たとえば2mol%以上であり、好ましくは3mol%以上である。
【0046】
シリコーン骨格における未反応部の割合は、たとえば、後述する加熱処理(アニール処理)によって、制御することができる。また、レーザー、LEDやランプ光源等によって発せられるUV光照射等によっても制御することができる。
【0047】
本発明のシリコーン多孔質体の気孔率は、特に限定されるものではないが、好ましくは50%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。気孔率が50%未満であると、柔軟性及び軽量性を損なう場合がある。また、気孔率が高くなりすぎると機械強度が低下する場合があるため、好ましくは95%以下である。
【0048】
本発明のシリコーン多孔質体の連通する気孔の平均孔径は、特に限定されないが、例えば50〜50,000nmである。また、シリコーン骨格の骨格径も特に限定されないが、例えば50〜10,000nmである。なお、本発明のシリコーン多孔質体の連通する気孔の平均孔径は、SEMや光学顕微鏡等により測定することができる。また、シリコーン骨格の骨格径は、SEMや光学顕微鏡等により測定することができる。
【0049】
本発明のシリコーン多孔質体は、一軸圧縮試験において80%圧縮した後、圧力を開放して10秒以内の形状回復率が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、特に好ましくは100%である。当該形状回復率が90%以上であることにより、高い柔軟性を発揮することができる。
【0050】
本発明のシリコーン多孔質体は、TG−GTA(示差熱・熱重量同時測定)において、熱分解開始温度が300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましい。
【0051】
(シリコーン多孔質体の製造方法)
つづいて、本発明のシリコーン多孔質体の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう)について説明する。
【0052】
本発明のシリコーン多孔質体の製造方法は、上記シリコーン多孔質体の製造方法であって、二官能のアルコキシシランと、三官能のアルコキシシランとを相分離を伴ったゾル−ゲル反応により共重合させることにより、連通する気孔と、前記気孔を形成する三次元網目状のシリコーン骨格とを有するシリコーン多孔質体を形成する工程と、前記シリコーン多孔質体をその熱分解開始温度未満の温度で加熱処理する工程とを備える。
【0053】
本発明の製造方法では、第1の工程として、二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシランを前駆体として用い、これらをゾル−ゲル反応による共重合によりSi−O結合のネットワーク化をしつつ、界面活性剤で相分離を制御しながら、酸触媒及び塩基触媒による酸塩基2段階反応を行うことにより、連通する気孔と、前記気孔を形成する三次元網目状のシリコーン骨格とを有するシリコーン多孔質体を形成する。以下において、本第1の工程の一実施形態を示す。
【0054】
まず、ガラス容器等の容器中で、溶媒としての水と酸触媒としての酢酸を混合して酢酸水溶液を調製し、その中に界面活性剤としての塩化n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAC)及び塩基触媒としての尿素を添加する。
【0055】
ついで、前駆体としての二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシランを添加し、たとえば10〜30℃で0.5〜2.0時間撹拌して、前駆体の加水分解を進行させる。
【0056】
その後、得られた溶液を密封容器に移してから、たとえば50〜85℃で6〜48時間加熱することにより、尿素を加水分解して塩基性条件下としつつ、加水分解した前駆体をゾル−ゲル反応により重縮合させることにより、湿潤ゲル(ウェットゲル)を得る。
【0057】
得られた湿潤ゲルを、水とイソプロピルアルコールの混合溶液等に含浸させ、その後、イソプロピルアルコール、メタノール等にて洗浄し、未反応の前駆体や界面活性剤を除去する。
【0058】
さらに、このようにして得られるモノリス状ゲルをノルマルヘキサン等の非極性溶媒に含浸させて溶媒置換をした後に、たとえば20〜80℃で5〜24時間乾燥させることにより、キセロゲルとしてのモノリス構造を有するシリコーン多孔質体が得られる。また、このようにして得られるモノリス状ゲルを炭酸ガス等により超臨界乾燥させることにより、エアロゲルとしてのモノリス構造を有するシリコーン多孔質体を得ることもできる。
【0059】
なお、本第1の工程は、目的とするモノリス構造を有するシリコーン多孔質体を得られる限り、材料の種類やそれらを添加する順番、反応条件等は適宜調整することができ、上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、界面活性剤としては、塩化n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAC)の代わりに、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)等を用いてもよい。酸触媒としては、酢酸の代わりにシュウ酸、ギ酸等を用いてもよい。塩基触媒としては、尿素の代わりに、アンモニア水等を用いてもよい。また、二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシランに加えて、三官能以上のアルコキシシラン類をさらに前駆体として用いてもよい。
【0060】
つづいて、第2の工程として、上記第1の工程により得られたシリコーン多孔質体に対して、その熱分解開始温度未満の温度で加熱処理(アニール処理)を行う。当該加熱処理(アニール処理)を行うことにより、シリコーン多孔質体を構成するシリコーン骨格における未反応部の割合を制御することができる。なお、加熱処理(アニール処理)は、例えば、シリコーン多孔質体を所定の温度に加熱された加熱炉中にて所定時間保持することにより行うことができる。
【0061】
加熱処理(アニール処理)の加熱温度は、シリコーン多孔質体の熱分解開始温度未満の温度であればよく、使用する出発原料(二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシラン等)の種類や加熱時間等を考慮して適宜設定することができるが、好ましくは320℃以下であり、より好ましくは300℃以下である。
【0062】
一方、加熱処理(アニール処理)における加熱温度の下限は特に限定されないが、たとえば100℃以上であり、好ましくは150℃以上である。また、シリコーン多孔質体が所望の耐熱クッション回復性を有するためには、そのシリコーン多孔質体が高温での圧縮下で使用される際の温度以上の温度で加熱処理(アニール処理)を施すことが好ましい。
【0063】
また、加熱処理(アニール処理)における加熱時間は、使用する出発原料(二官能のアルコキシシラン及び三官能のアルコキシシラン等)の種類や加熱温度等を考慮して適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば8時間以上であり、好ましくは12時間以上であり、より好ましくは18時間以上である。また、例えば120時間以下であり、好ましくは100時間以下であり、より好ましくは80時間以下であり、さらに好ましくは70時間以下であり、よりさらに好ましくは60時間以下ある。ただし、高温・長時間の加熱処理(アニール処理)を施すと、シリコーン多孔質体が劣化し、所望の柔軟性や耐熱クッション回復性を発揮できなくなるおそれがある。一方、低温・短時間の加熱処理(アニール処理)では、シリコーン骨格における未反応部の割合を十分に制御できないおそれがある。したがって、加熱処理(アニール処理)を行うにあたっては、これらを考慮した上で、適切な条件を選択して行うことが好ましい。
【0064】
本発明のシリコーン多孔質体が優れた耐熱クッション回復性を有する理由は定かではないが、以下のように推察される。
【0065】
上記第1の工程により作製された加熱処理(アニール処理)前のシリコーン多孔質体においては、シリコーン骨格における未反応部の割合が高い。したがって、このシリコーン多孔質体を高温での圧縮条件下で保持した場合、その高温での圧縮条件下で未反応部の反応(架橋)が進行し、圧縮された状態での形状が記憶されてしまうため、その後に圧力を開放しても圧縮前の形状に回復できないと推察される。
【0066】
一方、本発明の製造方法においては、第1の工程によりシリコーン多孔質体を作製した後、当該シリコーン多孔質体に加熱処理(アニール処理)を行うことにより、非圧縮条件下でシリコーン骨格における未反応部の反応(架橋)をあらかじめ進行させて、未反応部の割合を10mol%以下と低く制御している。したがって、本発明のシリコーン多孔質体は、高温での圧縮条件下で保持したとしても、その高温での圧縮条件下における未反応部の反応(架橋)は進行せず、あるいは進行したとしても限定的であるため、その後に圧力を開放すると優れた耐熱クッション回復性を発揮することができると推察される。
【0067】
本発明のシリコーン多孔質体は、高い柔軟性と高い耐熱性を有するとともに、優れた耐熱クッション回復性を併せ持つ。したがって、たとえば、航空、宇宙、自動車、原子力施設、船舶等の分野における、制振材、防振材、クッション材等として有用に用いることができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明につき、実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0069】
(実施例1)
5mMの酢酸水溶液150mLに、界面活性剤としての塩化n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウム10gと尿素50gを添加し、ガラス容器中で撹拌混合した。
次いで、前駆体としてのメチルトリメトキシシラン30mLとジメチルジメトキシシラン20mLを加え、60分間スターラーで撹拌した。撹拌後に、この溶液を密封容器に移し、80℃で24時間加熱することにより、尿素を加水分解して塩基性条件下としつつ、加水分解した前駆体をゾル−ゲル反応により重縮合させた。得られたウェットゲルを水/イソプロピルアルコール(1:1)溶液に含浸させ、その後、イソプロピルアルコールにて洗浄し未反応試薬や界面活性剤を除去した。このようにして得たモノリス状ゲルを、ノルマルヘキサンに含浸させ溶媒置換した後に、60℃で24時間乾燥させることにより、キセロゲルとしてのモノリス構造を有するシリコーン多孔質体を得た。
さらに、得られたシリコーン多孔質体に対して、温度250℃の加熱炉中で48時間アニール処理を行って、実施例1のシリコーン多孔質体を作製した。
【0070】
(実施例2)
アニール処理を温度150℃の加熱炉中で50時間行った以外は実施例1と同様にして、実施例2のシリコーン多孔質体を作製した。
【0071】
(比較例1)
アニール処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして、比較例1のシリコーン多孔質体を作製した。
【0072】
(固体
29Si−NMR解析)
実施例1及び比較例1のシリコーン多孔質体を固体
29Si−NMRにより解析した。
図3に、実施例1のシリコーン多孔質体の固体
29Si−NMRスペクトルを示す。また、
図4に、比較例1のシリコーン多孔質体の固体
29Si−NMRスペクトルを示す。
これら固体
29Si−NMRスペクトルを解析することにより、実施例1及び比較例1のシリコーン多孔質体のシリコーン骨格における構造単位D1、D2、T2及びT3の割合(mol%)をそれぞれ算出した。その結果を表1に示す。また、実施例2についても、そのシリコーン多孔質体を固体
29Si−NMRにより解析し、その固体
29Si−NMRスペクトルより、シリコーン骨格における構造単位D1、D2、T2及びT3の割合(mol%)を算出した。その結果についても表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
((耐熱)クッション回復性)
以下の方法により、(耐熱)クッション回復性を評価した。
まず、実施例1及び比較例1の各シリコーン多孔質体について、縦10mm×横10mm×厚み10mm(T
0)の試験サンプルを用意した。そして、当該試験サンプルを、−68℃、80℃、150℃あるいは250℃のいずれかの試験温度下において、圧縮試験機により圧縮後の試験サンプルの厚みが圧縮前の50%(5mm、T
0/2)となるまで圧縮し、当該試験温度下で22時間放置した。その後、常温(23℃)で2時間放置後、圧力を開放し、1分経過後試験サンプルの厚み(T
1、単位mm)を測定し、圧縮残留歪み(50%圧縮永久歪み)を下記式に基づいて計算した。
圧縮残留歪み(50%圧縮永久歪み)(%)=(T
0−T
1)/T
0×100
(T
0:試験前の厚み(mm)、T
1:試験後の厚み(mm))
【0075】
各実施例及び比較例についての、−68℃、80℃、150℃及び250℃の試験温度における50%圧縮永久歪み(%)を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
実施例1のシリコーン多孔質体は、シリコーン骨格における未反応部の割合が7.5mol%であり、試験温度150℃における50%圧縮永久歪み(%)が3.2%と低く、かつ試験温度250℃における50%圧縮永久歪み(%)も5.0%と低く、耐熱クッション回復性に優れていた。また、実施例2のシリコーン多孔質体は、シリコーン骨格における未反応部の割合が9.5mol%であり、試験温度150℃における50%圧縮永久歪み(%)が2.9%と低く、耐熱クッション回復性に優れていた。一方、比較例1のシリコーン多孔質体は、シリコーン骨格における未反応部の割合が14.7mol%であり、試験温度150℃における50%圧縮永久歪み(%)が45.0%と高く、かつ試験温度250℃における50%圧縮永久歪み(%)も48.0%と高く、十分な耐熱クッション回復性を有していなかった。