(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
(全体構成)
以下、本発明の実施形態に係る車両の動力伝達制御装置(以下、「本装置」と呼ぶ)について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、本装置は、変速機T/Mと、摩擦クラッチC/Tと、クラッチアクチュエータACT1と、シフトアクチュエータACT2と、電子制御ユニット(ECU)と、を備える。本装置は、オートメイテッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)とも呼ばれる。
【0017】
変速機T/Mは、トルクコンバータを備えない変速機(所謂、マニュアルトランスミッション)である。T/Mは、周知の内燃機関であるエンジンE/Gの駆動出力軸A1から動力が入力される入力軸A2と、車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸A3と、を備える。駆動出力軸A1と入力軸A2とは同軸的に配置され、入力軸A2と出力軸A3とは、平行に配置されている。入力軸A2と出力軸A3とは、それぞれ、T/Mのハウジング(図示せず)に、軸方向に相対移動不能、且つ、軸周りに回転可能に支持されている。T/Mは、車両前進用に6つの変速段(1速(1st)〜6速(6th))を備えている。T/Mの状態は、シフトアクチュエータACT2により制御される。T/Mの構成の詳細は後述する。
【0018】
摩擦クラッチC/Tは、E/Gの駆動出力軸A1とT/Mの入力軸A2との間に介装される、周知の平板摩擦クラッチである。C/Tは、駆動出力軸A1と入力軸A2との間で動力伝達系統が形成される「接合状態」と、前記動力伝達系統が形成されない「分断状態」とを選択的に実現可能に構成される。C/Tの状態は、クラッチアクチュエータACT1により制御される。従って、クラッチC/Tは、運転者によって操作されるクラッチペダルを備えていない。
【0019】
ECUは、車両のアクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出するセンサ、車両のシフトレバーの位置を検出するセンサ、車両の速度を検出するセンサ等(全て図示せず)からの情報に基づいて、クラッチアクチュエータACT1(従って、C/Tの状態)、及び、シフトアクチュエータACT2(従って、T/Mの状態)を制御する。
【0020】
(T/Mの構成)
以下、T/Mの構成の詳細について
図1〜
図8を参照しながら説明する。
図1に示すように、変速機T/Mは、複数の固定ギヤ(「駆動ギヤ」ともいう)G1i、G2i、G3i、G4i、G5i、G6iと、複数の遊転ギヤ(「被動ギヤ」ともいう)G1o、G2o、G3o、G4o、G5o、G6oと、を備える。固定ギヤG1i、G2i、G3i、G4i、G5i、G6iは、前進用の1速、2速、3速、4速、5速、6速にそれぞれ対応しており、入力軸A2に、同軸的且つ相対回転不能に、且つ、軸方向に相対移動不能に固定されている。
【0021】
遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4o、G5o、G6oは、前進用の1速、2速、3速、4速、5速、6速にそれぞれ対応しており、出力軸A3に、同軸的且つ相対回転可能に、且つ、軸方向に相対移動不能に設けられ、且つ、固定ギヤG1i、G2i、G3i、G4i、G5i、G6iとそれぞれ常時噛合している。
【0022】
T/Mは、スリーブS1、S2、S3を備える。スリーブS1、S2、S3は、出力軸A3に、同軸的且つ相対回転不能に、且つ、軸方向に相対移動可能に設けられている。スリーブS1は、1速及び4速の遊転ギヤG1o、G4oと係合可能であり、スリーブS2は、5速及び2速の遊転ギヤG5o、G2oと係合可能であり、スリーブS3は、3速及び6速の遊転ギヤG3o、G6oと係合可能である。
【0023】
図2、及び
図3に示すように、T/Mは、フォークシャフトFS1、FS2、FS3を備える。FS1、FS2、FS3は、それぞれ、T/Mのハウジング(図示せず)に、軸方向に相対移動可能、且つ、軸周りに回転不能に、且つ、互いに平行に支持されている。
図3に示すように、FS1、FS2、FS3は、それぞれ、スリーブS1、S2、S3と、軸方向に相対移動不能に連結されている。
【0024】
FS1、FS2、FS3の全てが軸方向における中立位置(
図2に示す位置)にあるとき、S1、S2、S3は、何れの遊転ギヤとも係合しない。この結果、ニュートラル(入力軸A2と出力軸A3との間で動力伝達系統が形成されない状態)が実現される。
【0025】
FS1が中立位置(
図2に示す位置)から1速(4速)の噛合位置(
図2では、左方向(右方向))に移動すると、S1が遊転ギヤG1o(G4o)と係合し、遊転ギヤG1o(G4o)が出力軸A3に対して相対回転不能に固定される。この結果、1速(4速)が実現される。ここで、変速段が「実現される」とは、「その変速段の遊転ギヤのみが出力軸A3に対して相対回転不能に固定され、その他の全ての変速段の遊転ギヤが出力軸A3に対して相対回転可能に維持された状態」を指す。換言すれば、「入力軸A2と出力軸A3との間で、その変速段の減速比(出力軸A3の回転速度に対する入力軸A2の回転速度の割合)を有する動力伝達系統が形成されること」を指す。
【0026】
同様に、FS2が中立位置(
図2に示す位置)から5速(2速)の噛合位置(
図2では、左方向(右方向))に移動すると、S2が遊転ギヤG5o(G2o)と係合して5速(2速)が実現される。FS3が中立位置(
図2に示す位置)から3速(6速)の噛合位置(
図2では、左方向(右方向))に移動すると、S3が遊転ギヤG3o(G6o)と係合して3速(6速)が実現される。
【0027】
FS1にはヘッドH1が固定されており、ヘッドH1は、軸方向に離れた1速ヘッド及び4速ヘッドを有する。FS2にはヘッドH2が固定されており、ヘッドH2は、軸方向に離れた5速ヘッド及び2速ヘッドを有する。FS3にはヘッドH3が固定されており、ヘッドH3は、軸方向に離れた3速ヘッド及び6速ヘッドを有する。各変速段のヘッドは、対応するフォークシャフトの側面から径方向に突出している。
【0028】
図2、及び
図3に示すように、T/Mは、シフトアンドセレクトシャフト(以下、「S&Sシャフト」と呼ぶ)を備える。S&Sシャフトは、T/Mのハウジング(図示せず)に、軸方向に相対移動可能、且つ、軸周りに回転可能に支持されている。S&Sシャフトの側面には、径方向に突出するインナレバーILが設けられている。
【0029】
S&Sシャフトを軸周りに回転することによって、フォークシャフトFS1、FS2、FS3のうち1つのフォークシャフトが選択され、選択されたフォークシャフトに設けられた2つのヘッドの間にインナレバーILが進入する(
図2、及び
図3を参照)。この状態で、S&Sシャフトを軸方向に移動することによって、ILが選択されたフォークシャフトの2つのヘッドの何れかを軸方向に押圧して、選択されたフォークシャフトが中立位置から前記押圧されたヘッドに対応する変速段の噛合位置まで軸方向に移動する。この結果、押圧されたヘッドに対応する変速段が実現される。
【0030】
シフトアクチュエータACT2(
図1を参照)は、具体的には、シフトモータとセレクトモータとを備える(
図3を参照)。セレクトモータは、S&Sシャフトを軸周りに回転駆動する(セレクト操作)。シフトモータは、S&Sシャフトを軸方向に駆動する(シフト操作)。従って、セレクトモータとシフトモータとを制御する(即ち、セレクト操作とシフト操作とを行う)ことによって、ニュートラル、並びに、1速〜6速の何れかの変速段が、選択的に実現され得る。
【0031】
図2に示すように、FS1、FS2、FS3の側面には、それぞれ、軸方向に延びる溝g1、g2、g3が形成されている。また、FS1、FS2、FS3には、それぞれ、そその側面から径方向に突出するようにピンP1、P2、P3が固定されている。P1、P2、P3の先端部は、それぞれ、g3、g1、g2に嵌合している。ここで、「P1及びg3」、「P2及びg1」、及び「P3及びg2」が、それぞれ、前記「連結機構」を構成している。
【0032】
FS1、及びFS3の両方が中立位置にあるとき、P1の先端部は、g3における軸方向の中央に位置している(
図2を参照)。この状態にて、g3の軸方向の端g3a、g3bのそれぞれと、P1との間の軸方向の距離は、それぞれ、フォークシャフトの中立位置から変速段の噛合位置までの軸方向の移動距離(以下、「FS移動距離C」と呼ぶ)と一致している。従って、FS1、及びFS3の一方が中立位置にあり且つ他方が或る変速段の噛合位置にあるとき、P1の先端部は、g3a、g3bの何れかと当接する。換言すれば、FS1、及びFS3が軸方向に関して連結される。
【0033】
FS1、及びFS2の両方が中立位置にあるとき、P2の先端部は、g1における軸方向の中央に位置している(
図2を参照)。この状態にて、g1の軸方向の端g1a、g1bのそれぞれと、P2との間の軸方向の距離は、それぞれ、FS移動距離Cと一致している。従って、FS1、及びFS2の一方が中立位置にあり且つ他方が或る変速段の噛合位置にあるとき、P2の先端部は、g1a、g1bの何れかと当接する。換言すれば、FS1、及びFS2が軸方向に関して連結される。
【0034】
FS2、及びFS3の両方が中立位置にあるとき、P3の先端部は、g2における軸方向の中央に位置している(
図2を参照)。この状態にて、g2の軸方向の端g2a、g2bのそれぞれと、P3との間の軸方向の距離は、それぞれ、FS移動距離Cと一致している。従って、FS2、及びFS3の一方が中立位置にあり且つ他方が或る変速段の噛合位置にあるとき、P3の先端部は、g2a、g2bの何れかと当接する。換言すれば、FS2、及びFS3が軸方向に関して連結される。
【0035】
具体的には、
図4に示すように、1速が実現された状態では、P1とg3aとが当接するとともに、P2とg1bとが当接する。2速が実現された状態では、P2とg1bとが当接するとともに、P3とg2aとが当接する。3速が実現された状態では、P3とg2aとが当接するとともに、P1とg3bとが当接する。4速が実現された状態では、P1とg3bとが当接するとともに、P2とg1aとが当接する。5速が実現された状態では、P2とg1aとが当接するとともに、P3とg2bとが当接する。6速が実現された状態では、P3とg2bとが当接するとともに、P1とg3aとが当接する。
【0036】
図5(a)に示すように、各フォークシャフトに設けられた2つのヘッドの間の軸方向の距離を「A」、インナレバーILの軸方向の幅を「B」としたとき、
図5(b)から理解できるように、(A−C)>Bという関係が成立している。この関係の成立によって、本装置では、シーケンシャルシフト(現在の変速段から隣の変速段への変速)に関し、「現在の変速段の解除の動作」と「隣の変速段の実現の動作」とが同時に実行され得る。以下、この点について、
図6、及び
図7を参照しながら説明する。
【0037】
図6は、2速から3速へのシーケンシャルシフトアップにおける作動を示す。
図6(a)に示すように、2速が実現された状態では、インナレバーILは、2速ヘッドと当接している。この状態にて、上述したように「(A−C)>B」という関係が成立していることに起因して、ILは、セレクト操作によって、5速ヘッドと6速ヘッドとの間の空間を移動することができる。この結果、
図6(b)に細い矢印で示すように、FS2を2速の噛合位置に維持しながら(即ち、FS2を中立位置に戻す動作(2速の解除の動作)を行うことなく)、シフト操作とセレクト操作とを組み合わすことによって、ILを「2速ヘッドと当接する位置」から「3速ヘッドと当接する位置」まで移動することができる。
【0038】
そして、ILが3速ヘッドと当接している状態にて、
図6(c)に示すように、シフト操作を行うことによって、ILが3速ヘッドを押圧して、FS3が中立位置から3速の噛合位置まで移動する。このとき、上述のように、
図6(b)に示す状態(即ち、2速が実現された状態)では、P3とg2aとが当接している(
図4を参照)。即ち、FS2とFS3とが軸方向に関して連結されている。従って、上述したFS3の中立位置から3速の噛合位置までの移動と同時に、FS2が、FS3と同方向に、2速の噛合位置から中立位置まで移動する。このように、「2速の解除の動作」と「3速の実現の動作」とが同時に実行され得る。
【0039】
図7は、2速から1速へのシーケンシャルシフトダウンにおける作動を示す。上述した
図6の場合と同様、
図7(b)に示すように、ILは、セレクト操作によって、4速ヘッドと5速ヘッドとの間の空間を移動することができる。この結果、
図7(b)に細い矢印で示すように、FS2を2速の噛合位置に維持しながら(即ち、FS2を中立位置に戻す動作(2速の解除の動作)を行うことなく)、シフト操作とセレクト操作とを組み合わすことによって、ILを「2速ヘッドと当接する位置」から「1速ヘッドと当接する位置」まで移動することができる。
【0040】
そして、ILが1速ヘッドと当接している状態にて、
図7(c)に示すように、シフト操作を行うことによって、ILが1速ヘッドを押圧して、FS1が中立位置から1速の噛合位置まで移動する。このとき、上述のように、
図7(b)に示す状態(即ち、2速が実現された状態)では、P2とg1bとが当接している(
図4を参照)。即ち、FS1とFS2とが軸方向に関して連結されている。従って、上述したFS1の中立位置から1速の噛合位置までの移動と同時に、FS2が、FS1と同方向に、2速の噛合位置から中立位置まで移動する。このように、「2速の解除の動作」と「1速の実現の動作」とが同時に実行され得る。
【0041】
本装置では、2速から3速へのシーケンシャルシフトアップ、及び、2速から1速へのシーケンシャルシフトダウン以外の全てのシーケンシャルシフトアップ、及びシーケンシャルシフトダウンのパターンについても、「現在の変速段の解除の動作」と「隣の変速段の実現の動作」とが同時に実行され得る。
【0042】
具体的には、
図4から理解できるように、1速から2速へのシーケンシャルシフトアップでは、P2とg1bとの当接によるFS1とFS2との連結を利用して、「1速の解除の動作」と「2速の実現の動作」とが同時に実行され得る。3速から2速へのシーケンシャルシフトダウンでは、P3とg2aとの当接によるFS2とFS3との連結を利用して、「3速の解除の動作」と「2速の実現の動作」とが同時に実行され得る。
【0043】
3速と4速との間のシーケンシャルシフトアップ及びシーケンシャルシフトダウンでは、P1とg3bとの当接によるFS2とFS3との連結を利用して、「3速の解除の動作」と「4速の実現の動作」、並びに、「4速の解除の動作」と「3速の実現の動作」が同時に実行され得る。
【0044】
4速と5速との間のシーケンシャルシフトアップ及びシーケンシャルシフトダウンでは、P2とg1aとの当接によるFS1とFS2との連結を利用して、「4速の解除の動作」と「5速の実現の動作」、並びに、「5速の解除の動作」と「4速の実現の動作」が同時に実行され得る。
【0045】
5速と6速との間のシーケンシャルシフトアップ及びシーケンシャルシフトダウンでは、P3とg2bとの当接によるFS2とFS3との連結を利用して、「5速の解除の動作」と「6速の実現の動作」、並びに、「6速の解除の動作」と「5速の実現の動作」が同時に実行され得る。
【0046】
以上、本装置では、1速から6速のシーケンシャルシフトアップ、及びシーケンシャルシフトダウンの全てのパターンについて、「現在の変速段の解除の動作」と「隣の変速段の実現の動作」とが同時に実行され得る。従って、「現在の変速段の解除の動作」の後に「隣の変速段の実現の動作」がなされる従来の装置と比べて、ニュートラルの期間が短くなる。
【0047】
加えて、本装置では、スキップシフト(現在の変速段から2段以上離れた変速段への変速)も実行され得る。具体的には、例えば、
図8は、3速から1速へのスキップシフトにおける作動を示す。
図8(a)に示すように、3速が実現された状態では、インナレバーILは、3速ヘッドと当接している。この状態にて、先ず、
図8(b)に示すように、シフト操作を行うことによって、ILが6速ヘッドを押圧して、FS3が3速の噛合位置から中立位置まで移動する。即ち、ニュートラルが得られる。
【0048】
次いで、
図8(c)に細い矢印で示すように、ニュートラルを維持しながら、シフト操作とセレクト操作とを組み合わすことによって、ILが「6速ヘッドと当接する位置」から「1速ヘッドと当接する位置」まで移動される。
【0049】
そして、ILが1速ヘッドと当接している状態にて、
図8(d)に示すように、シフト操作を行うことによって、ILが1速ヘッドを押圧して、FS1が中立位置から1速の噛合位置まで移動する。これにより、3速から1速へのスキップシフトが完了する。
【0050】
このように、本装置では、現在実現されている変速段に対応するフォークシャフトがその変速段に対応する噛合位置から中立位置に移動した後は、何れのフォークシャフトも中立位置から噛合位置に移動され得る。即ち、従来の装置と同様に「変速前の変速段の解除の動作」の後に「変速後の変速段の実現の動作」を行えば、従来の装置と同様、「スキップシフト」が可能となる。以上、本装置によれば、シーケンシャルシフトにおけるニュートラルの期間が短く、且つ、スキップシフトが可能となる。
【0051】
図9は、上記本装置の変形例に係る6つの変速段を備えた変速機のフォークシャフトFS1、FS2、FS3のパターンを示す。
図9に示す例では、「遊転ギヤG1o及びG2oと係合可能なスリーブS1」と連結されたFS1は、1速及び2速ヘッドを備える。「遊転ギヤG3o及びG4oと係合可能なスリーブS2」と連結されたFS2は、3速及び4速ヘッドを備える。「遊転ギヤG5o及びG6oと係合可能なスリーブS3」と連結されたFS3は、5速及び6速ヘッドを備える。
【0052】
上記本装置では、1速〜6速のシーケンシャルシフトアップ、及びシーケンシャルシフトダウンのパターンの全てについて、「現在の変速段の解除の動作」と「隣の変速段の実現の動作」とが同時に実行され得る。これに対して、
図9に示す例では、1速〜6速のシーケンシャルシフトアップ、及びシーケンシャルシフトダウンのパターンの一部のみについて「現在の変速段の解除の動作」と「隣の変速段の実現の動作」とが同時に実行され得、残りのパターンでは、従来の装置と同様、「現在の変速段の解除の動作」の後に「隣の変速段の実現の動作」が実行され得る。
【0053】
具体的には、1速と2速との間のシーケンシャルシフトアップ及びシーケンシャルシフトダウン、3速と4速との間のシーケンシャルシフトアップ及びシーケンシャルシフトダウン、5速と6速との間のシーケンシャルシフトアップ及びシーケンシャルシフトダウンについては、従来の装置と同様、「現在の変速段の解除の動作」の後に「隣の変速段の実現の動作」が実行される。
【0054】
2速と3速との間のシーケンシャルシフトアップ及びシーケンシャルシフトダウンでは、P2とg1aとの当接によるFS1とFS2との連結を利用して、「2速の解除の動作」と「3速の実現の動作」、並びに、「3速の解除の動作」と「2速の実現の動作」が同時に実行され得る。
【0055】
4速から5速との間のシーケンシャルシフトアップ及びシーケンシャルシフトダウンでは、P3とg2aとの当接によるFS2とFS3との連結を利用して、「4速の解除の動作」と「5速の実現の動作」、並びに、「5速の解除の動作」と「4速の実現の動作」が同時に実行され得る。
【0056】
図10及び
図11は、
図9に示した変形例において、固定ギヤG7i及びG8i、遊転ギヤG7o及びG8o、スリーブS4、及び、フォークシャフトFS4を加えられることによって得られる8つの変速段を備えた変速機のフォークシャフトFS1、FS2、FS3、FS4のパターンを示す。
図10及び
図11に示す例では、FS1、FS2、及び、FS3については、
図9に示した例と同じであり、「遊転ギヤG7o及びG8oと係合可能なスリーブS4」と連結されたFS4が、7速及び8速ヘッドを備える。
【0057】
図10及び
図11では、1速と2速との間、2速と3速の間、3速と4速の間、4速と5速の間、及び、5速と6速の間のシーケンシャルシフトアップ及びシーケンシャルシフトダウンについては、
図9に示した例と同じである。6速と7速との間のシーケンシャルシフトアップ及びシーケンシャルシフトダウンでは、P4とg3aとの当接によるFS3とFS4との連結を利用して、「6速の解除の動作」と「7速の実現の動作」、並びに、「7速の解除の動作」と「6速の実現の動作」が同時に実行され得る。7速と8速との間のシーケンシャルシフトアップ及びシーケンシャルシフトダウンについては、従来の装置と同様、「現在の変速段の解除の動作」の後に「隣の変速段の実現の動作」が実行される。
【0058】
図12は、上記本装置の他の変形例に係る6つの変速段を備えた変速機のフォークシャフトFS1、FS2、FS3のパターンを示す。上記本装置では、「ピンと溝」の3つの組み合わせが、それぞれ、前記「連結機構」を構成しているが、
図12に示す例では、「ピンと溝」の組み合わせのみならず、「リンクと溝」の組み合わせも前記「連結機構」を構成している。
【0059】
具体的には、
図12に示す例では、ピンP2、P3(
図2を参照)に代えて、リンクL2、L3が採用されている。L2は、棒状を呈しており、その長手方向の中央部の支点L2cが、フォークシャフトFS1、FS2の間の位置で、ハウジング(図示せず)に対して、相対移動不能且つ相対回転可能に連結されている。従って、L2は、支点L2cを回転中心として、ハウジングに対して相対回転可能となっている。
【0060】
L2の支点L2cから離れた第1部分L2aは、FS2の係合部と、相対移動不能且つ相対回転可能に連結されている。L2の支点L2cからL2aとは反対側に離れた第2部分L2bは、溝g1に嵌合している。なお、実際には、L2a及びL2bのL2cからの距離は、それぞれ、ハウジングに対するL2の角度に応じて変化する。
【0061】
FS1、及びFS2の両方が中立位置にあるとき、L2の長手方向は、FS1、FS2の軸方向に対して垂直の方向(以下、単に「垂直方向」と呼ぶ)となっており、L2bは、g1における軸方向の中央に位置している(
図12を参照)。FS1、及びFS2の一方が中立位置にあり且つ他方が或る変速段の噛合位置にあるとき、L2の長手方向が「垂直方向」から傾き、L2bは、g1a、g1bの何れかと当接する。換言すれば、FS1、及びFS2が軸方向に関して連結される。
【0062】
L3は、L2と同様の形状を有し、その長手方向の中央部の支点L3cが、フォークシャフトFS2、FS3の間の位置で、ハウジング(図示せず)に対して、相対移動不能且つ相対回転可能に連結されている。従って、L3は、支点L3cを回転中心として、ハウジングに対して相対回転可能となっている。
【0063】
L3の支点L3cから離れた第1部分L3aは、FS3の係合部と、相対移動不能且つ相対回転可能に連結されている。L3の支点L3cからL3aとは反対側に離れた第2部分L3bは、溝g2に嵌合している。なお、実際には、L3a及びL3bのL3cからの距離は、ハウジングに対するL3の角度に応じて変化する。ここで、「P1及びg3」、「L2及びg1」、及び「L3及びg2」が、それぞれ、前記「連結機構」を構成している。
【0064】
FS2、及びFS3の両方が中立位置にあるとき、L3の長手方向は「垂直方向」となっており、L3bは、g2における軸方向の中央に位置している(
図12を参照)。FS2、及びFS3の一方が中立位置にあり且つ他方が或る変速段の噛合位置にあるとき、L3の長手方向が「垂直方向」から傾き、L3bは、g2a、g2bの何れかと当接する。換言すれば、FS2、及びFS3が軸方向に関して連結される。
【0065】
具体的には、
図13に示すように、1速が実現された状態では、P1とg3aとが当接するとともに、L2bとg1bとが当接する。2速が実現された状態では、L2bとg1bとが当接するとともに、L3bとg2bとが当接する。2速が実現された状態では、L2bとg1bとが当接するとともに、L3bとg2bとが当接する。3速が実現された状態では、L3bとg2bとが当接するとともに、P1とg3bとが当接する。4速が実現された状態では、P1とg3bとが当接するとともに、L2bとg1aとが当接する。5速が実現された状態では、L2bとg1aとが当接するとともに、L3bとg2aとが当接する。6速が実現された状態では、L3bとg2aとが当接するとともに、P1とg3aとが当接する。
【0066】
図12に示す例でも、上述した「(A−C)>B」という関係が成立している。この関係の成立によって、この例でも、上記本装置と同様、シーケンシャルシフトに関し、「現在の変速段の解除の動作」と「隣の変速段の実現の動作」とが同時に実行され得る。以下、この点について、
図14、及び
図15を参照しながら説明する。
【0067】
図14は、2速から3速へのシーケンシャルシフトアップにおける作動を示す。
図14(a)に示すように、2速が実現された状態では、インナレバーILは、2速ヘッドと当接している。この状態にて、上述したように「(A−C)>B」という関係が成立していることに起因して、ILは、セレクト操作によって、3速ヘッドと5速ヘッドとの間の空間を移動することができる。この結果、
図14(b)に細い矢印で示すように、FS2を2速の噛合位置に維持しながら(即ち、FS2を中立位置に戻す動作(2速の解除の動作)を行うことなく)、シフト操作とセレクト操作とを組み合わすことによって、ILを「2速ヘッドと当接する位置」から「3速ヘッドと当接する位置」まで移動することができる。
【0068】
そして、ILが3速ヘッドと当接している状態にて、
図14(c)に示すように、シフト操作を行うことによって、ILが3速ヘッドを押圧して、FS3が中立位置から3速の噛合位置まで移動する。このとき、上述のように、
図14(b)に示す状態(即ち、2速が実現された状態)では、L3bとg2bとが当接している(
図13を参照)。即ち、FS2とFS3とが軸方向に関して連結されている。従って、上述したFS3の中立位置から3速の噛合位置までの移動と同時に、FS2が、FS3と逆方向に、2速の噛合位置から中立位置まで移動する。このように、「2速の解除の動作」と「3速の実現の動作」とが同時に実行され得る。
【0069】
図15は、2速から1速へのシーケンシャルシフトダウンにおける作動を示す。上述した
図14の場合と同様、
図15(b)に示すように、ILは、セレクト操作によって、1速ヘッドと5速ヘッドとの間の空間を移動することができる。この結果、
図15(b)に細い矢印で示すように、FS2を2速の噛合位置に維持しながら(即ち、FS2を中立位置に戻す動作(2速の解除の動作)を行うことなく)、シフト操作とセレクト操作とを組み合わすことによって、ILを「2速ヘッドと当接する位置」から「1速ヘッドと当接する位置」まで移動することができる。
【0070】
そして、ILが1速ヘッドと当接している状態にて、
図15(c)に示すように、シフト操作を行うことによって、ILが1速ヘッドを押圧して、FS1が中立位置から1速の噛合位置まで移動する。このとき、上述のように、
図15(b)に示す状態(即ち、2速が実現された状態)では、L2bとg1bとが当接している(
図13を参照)。即ち、FS1とFS2とが軸方向に関して連結されている。従って、上述したFS1の中立位置から1速の噛合位置までの移動と同時に、FS2が、FS1と逆方向に、2速の噛合位置から中立位置まで移動する。このように、「2速の解除の動作」と「1速の実現の動作」とが同時に実行され得る。
【0071】
図12に示す例では、上記本装置と同様、2速から3速へのシーケンシャルシフトアップ、及び、2速から1速へのシーケンシャルシフトダウン以外の全てのシーケンシャルシフトアップ、及びシーケンシャルシフトダウンのパターンについても、「現在の変速段の解除の動作」と「隣の変速段の実現の動作」とが同時に実行され得る。
【0072】
具体的には、
図13から明らかなように、1速から2速へのシーケンシャルシフトアップでは、L2bとg1bとの当接によるFS1とFS2との連結を利用して、「1速の解除の動作」と「2速の実現の動作」が同時に実行され得る。3速から2速へのシーケンシャルシフトダウンでは、L3bとg2bとの当接によるFS2とFS3との連結を利用して、「3速の解除の動作」と「2速の実現の動作」が同時に実行され得る。
【0073】
3速と4速との間のシーケンシャルシフトアップ及びシーケンシャルシフトダウンでは、P1とg3bとの当接によるFS1とFS3との連結を利用して、「3速の解除の動作」と「4速の実現の動作」、並びに、「4速の解除の動作」と「3速の実現の動作」が同時に実行され得る。
【0074】
4速と5速との間のシーケンシャルシフトアップ及びシーケンシャルシフトダウンでは、L2bとg1aとの当接によるFS1とFS2との連結を利用して、「4速の解除の動作」と「5速の実現の動作」、並びに、「5速の解除の動作」と「4速の実現の動作」が同時に実行され得る。
【0075】
5速と6速との間のシーケンシャルシフトアップ及びシーケンシャルシフトダウンでは、L3bとg2aとの当接によるFS2とFS3との連結を利用して、「5速の解除の動作」と「6速の実現の動作」、並びに、「6速の解除の動作」と「5速の実現の動作」が同時に実行され得る。
【0076】
このように、
図12に示す例でも、上記本装置と同様、1速から6速のシーケンシャルシフトアップ、及びシーケンシャルシフトダウンの全てのパターンについて、「現在の変速段の解除の動作」と「隣の変速段の実現の動作」とが同時に実行され得る。従って、「現在の変速段の解除の動作」の後に「隣の変速段の実現の動作」がなされる従来の装置と比べて、ニュートラルの期間が短くなる。
【0077】
加えて、
図12に示す例では、上記本装置と同様、スキップシフトも実行され得る。具体的には、例えば、
図16は、3速から1速へのスキップシフトにおける作動を示す。
図16(a)に示すように、3速が実現された状態では、インナレバーILは、3速ヘッドと当接している。この状態にて、先ず、
図16(b)に示すように、シフト操作を行うことによって、ILが6速ヘッドを押圧して、FS3が3速の噛合位置から中立位置まで移動する。即ち、ニュートラルが得られる。
【0078】
次いで、
図16(c)に細い矢印で示すように、ニュートラルを維持しながら、シフト操作とセレクト操作とを組み合わすことによって、ILが「6速ヘッドと当接する位置」から「1速ヘッドと当接する位置」まで移動される。
【0079】
そして、ILが1速ヘッドと当接している状態にて、
図16(d)に示すように、シフト操作を行うことによって、ILが1速ヘッドを押圧して、FS1が中立位置から1速の噛合位置まで移動する。これにより、3速から1速へのスキップシフトが完了する。
【0080】
以上、
図12に示す例では、上記本装置と同様、シーケンシャルシフトにおけるニュートラルの期間が短く、且つ、スキップシフトが可能となる。
【0081】
図17は、
図12に示した変形例において、固定ギヤG5i及びG6i、遊転ギヤG5o及びG6o、スリーブS3、及び、フォークシャフトFS3を除くことによって得られる4つの変速段を備えた変速機のフォークシャフトFS1、FS2のパターンを示す。
【0082】
図17に示す例では、1速と2速との間のシーケンシャルシフトアップ及びシーケンシャルシフトダウンでは、L2bとg1bとの当接によるFS1とFS2との連結を利用して、「1速の解除の動作」と「2速の実現の動作」、並びに、「2速の解除の動作」と「1速の実現の動作」が同時に実行され得る。
【0083】
2速と3速との間のシーケンシャルシフトアップ及びシーケンシャルシフトダウンでは、P1とg2bとの当接によるFS1とFS2との連結を利用して、「2速の解除の動作」と「3速の実現の動作」、並びに、「3速の解除の動作」と「2速の実現の動作」が同時に実行され得る。
【0084】
3速と4速との間のシーケンシャルシフトアップ及びシーケンシャルシフトダウンでは、L2bとg1aとの当接によるFS1とFS2との連結を利用して、「3速の解除の動作」と「4速の実現の動作」、並びに、「4速の解除の動作」と「3速の実現の動作」が同時に実行され得る。
【0085】
このように、
図17に示す例でも、1速〜4速のシーケンシャルシフトアップ、及びシーケンシャルシフトダウンのパターンの全てについて、「現在の変速段の解除の動作」と「隣の変速段の実現の動作」とが同時に実行され得る。
【0086】
本発明は上述した種々の実施形態等に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態等では、前記「連結機構」として、「ピンと溝」の組み合わせ、又は、「リンクと溝」の組み合わせ、が使用されているが、「ピンと突起」の組み合わせ、又は、「リンクと突起」の組み合わせ、が使用されてもよい。これらによっても、全く同じ作用・効果が得られる。
【0087】
ここで、「ピンと突起」の組み合わせとは、フォークシャフトに、「溝」に代えて、溝の軸方向の両端に相当する位置にそれぞれ突起を設け、ピンの先端部が2本の突起の間に配置される構成、を指す。「リンクと突起」の組み合わせとは、フォークシャフトに、「溝」に代えて、溝の軸方向の両端に相当する位置にそれぞれ突起を設け、リンクの上記第2部分が2本の突起の間に配置される構成、を指す。「溝」に代えて「突起」が設けられる場合、2本のフォークシャフトの連結は、「ピン(リンク)」と「溝の軸方向の端」との当接ではなく、「ピン(リンク)」と「突起」との当接によって実現される。
【0088】
また、上記実施形態等では、S&Sシャフトがフォークシャフトと平行に配置され、S&Sシャフトの軸方向の移動がシフト操作に、S&Sシャフトの軸周りの回転がセレクト操作に対応しているが、S&Sシャフトがフォークシャフトと垂直に配置されてもよい。この場合、S&Sシャフトの軸方向の移動がセレクト操作に、S&Sシャフトの軸周りの回転がセレクト操作に対応する。
【0089】
また、上記実施形態等では、S&Sシャフトを利用して、複数のフォークシャフトを軸方向に駆動しているが、S&Sシャフトを利用することなく、他の駆動装置を利用して、複数のフォークシャフトを軸方向に駆動してもよい。
【0090】
また、上記実施形態等では、「スキップシフト」を行う場合、従来の装置と同様に「変速前の変速段の解除の動作」の後に「変速後の変速段の実現の動作」を行う必要があるが、上記実施形態等において、「変速前の変速段の解除の動作」と「変速後の変速段の実現の動作」とが同時に実行され得る2つの変速段の組み合わせを、「シーケンシャルシフトに対応する組み合わせ」ではなく「スキップシフトに対応する組み合わせ」に変更することによって、「スキップシフト」を行う場合も、「変速前の変速段の解除の動作」と「変速後の変速段の実現の動作」とを同時に行うことができる。
【0091】
また、上記実施形態等では、スリーブS1、S2、S3が共に出力軸A3に設けられているが、スリーブS1、S2、S3のそれぞれが、入力軸A2及び出力軸A3の何れに設けられていてもよい。スリーブS1、S2、S3のそれぞれは、入力軸A2及び出力軸A3のうち対応する遊転ギヤが設けられている軸に設けられる。