(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373218
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】高さ調整治具及びスラブの立ち上がり部の形成方法
(51)【国際特許分類】
E04G 17/14 20060101AFI20180806BHJP
E04G 11/08 20060101ALI20180806BHJP
E04G 15/00 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
E04G17/14 A
E04G11/08
E04G15/00
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-71117(P2015-71117)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-191233(P2016-191233A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2017年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 忠博
(72)【発明者】
【氏名】中野 篤司
【審査官】
星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0285044(US,A1)
【文献】
特開2013−104208(JP,A)
【文献】
実開昭55−053148(JP,U)
【文献】
特開2001−098684(JP,A)
【文献】
特開平10−231524(JP,A)
【文献】
特開2002−220922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 17/14
E04G 11/08
E04G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラブ及び当該スラブから立ち上がる立ち上がり部をコンクリートを打設して一体に形成するために、型枠部の内方に前記コンクリートが打設されて前記立ち上がり部を形成する浮き型枠のベースからの高さを調整する高さ調整治具であって、
下部を前記ベースに支持され上下方向に延びる支持部と、
前記浮き型枠の前記型枠部の上端から外側に延びる被把持部を把持し、前記支持部に対して上下方向に移動可能な把持部と、
前記支持部に取り付けられ、前記把持部と当接して前記把持部を支持する当接支持部とを備えることを特徴とする高さ調整治具。
【請求項2】
前記支持部は、上下端部に袋ナットが取り付けられた全ねじ棒であり、
前記把持部は、前記全ねじ棒に螺合される貫通ねじ孔と、前記被把持部の下面を受ける受け面と、前記被把持部を上方から押し付け可能な押付具とを有し、
前記当接支持部は、前記全ねじ棒に螺合され、前記貫通ねじ孔に前記全ねじ棒が貫通螺合された前記把持部に当接して支持することを特徴とする請求項1に記載の浮き型枠の高さ調整治具。
【請求項3】
内方にコンクリートが打設されて立ち上がり部を形成する型枠部を備える浮き型枠を用いて、スラブ及び当該スラブから立ち上がる前記立ち上がり部をコンクリートを打設して一体に形成する方法であって、
前記浮き型枠の型枠部の上端から外側に延びる被把持部を高さ調整治具の把持部で把持する工程と、
前記高さ調整治具の支持部の下部をベースに支持する工程と、
前記把持部の前記支持部に対する上下方向の位置を調整する工程と、
前記浮き型枠の型枠部の下端から外側に延びる固定部を、固定材を介して前記ベースに固定する工程と、
前記高さ調整治具を前記浮き型枠から取り外す工程と、
前記スラブ及び前記立ち上がり部を形成するためにコンクリートを打設する工程と、
前記コンクリートが硬化した後に、前記浮き型枠を取り外す工程とを備えることを特徴とするスラブの立ち上がり部の形成方法。
【請求項4】
前記浮き型枠の被把持部は、当該浮き型枠の長手方向に連続してなり、
前記浮き型枠の固定部は、平板状の部材が間隔を開けて複数配置されることを特徴とする請求項3に記載のスラブの立ち上がり部の形成方法。
【請求項5】
前記浮き型枠は鋼製型枠であることを特徴とする請求項3か又は4に記載のスラブの立ち上がり部の形成方法。
【請求項6】
前記固定材は、
前記浮き型枠の固定部を下方から受ける受け部と、
前記受け部を前記ベースに対して支持する脚部とを備えることを特徴とする請求項3から5の何れか1項に記載のスラブの立ち上がり部の形成方法。
【請求項7】
前記浮き型枠を取り外した後、前記固定材の受け部を取り外し、当該受け部を取り外したときに生じた凹部をモルタルで補修する工程を備えることを特徴とする請求項6に記載のスラブの立ち上がり部の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮き型枠の高さ調整治具、及びこれを用いたスラブの立ち上がり部の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
共用廊下、バルコニーなどの室外と室内との間には、雨水の室内への侵入を防ぐために立ち上がり部が設けられる。例えば、集合住宅の場合、バルコニーに出るための窓の窓枠(サッシ)は立ち上がり部に設置されており、外壁がALC板(軽量コンクリート板)の場合、その支持部として立ち上がり部が設けられる。
【0003】
これら立ち上がり部を床コンクリートの上に後から別個に形成すると、床レベルにコンクリートの打継部が形成される。このような打継部は破損が生じやすく、長期間に亘って雨水が侵入するおそれを防止することができない。
【0004】
そのため、立ち上がり部は床コンクリートと一体に打設することが望ましい。この場合、立ち上がり部の型枠は、床型枠などの上から床コンクリート打設分だけ浮かせた浮き型枠(浮かせ型枠ともいう)となる。
【0005】
立ち上がり部には窓枠、ALC板などが設置されるので、その位置と高さには十分な精度が求められる。浮き型枠の下にコンクリートブロックを設置して、浮き型枠を床型枠(ハーフPCa床の場合はその上端部)から浮かせる方法がある(例えば、特許文献1参照)。しかし、この方法では、浮き型枠の高さを調整することができない。そこで、浮き型枠の高さ調整が可能な方法が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献2には、鉄骨鉄筋コンクリート構造の鉄骨梁であるH型鋼に固定治具で形鋼を固定し、この形鋼に浮き型枠を支持するねじ付きセパレータのねじ部を螺合させ、セパレータの先端のナット(Pコン)により浮き型枠を所定の位置に保持することが記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、型枠支持材の腕部を鉄筋に固定し、型枠支持材の腕部に対して上下動する縦部材の上端に固定した支承材で浮かし型枠(浮き型枠)を支承することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4010937号公報
【特許文献2】特開平10−331424号公報
【特許文献3】特許第5670655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献2に記載の方法は、鉄骨鉄筋コンクリート構造にしか適用することができない。また、受け型枠の下方で高さ調整の作業を行うので、特に鋼製からなる重量物の浮き型枠を支承する場合、作業が困難である。さらに、固定治具、形鋼、ねじ付きセパレータを埋め殺しにしており、これらを再利用することができない。
【0010】
上記特許文献3に記載の方法では、支持装置の取付位置付近に腕部を固定するための鉄筋が存在する必要がある。また、受け型枠の下方で高さ調整作業を行うので、特に鋼製からなる重量物の浮き型枠を支承する場合、作業が困難である。さらに、型枠支持材を埋め殺しにしており、再利用することができない。
【0011】
特に高層の集合住宅などの場合、立ち上がり部はほぼ同じ形状のものが連続するので、浮き型枠は繰り返し使用可能な剛強な鋼製型枠であることが望ましい。上記特許文献2,3に記載の方法では、このような重量物の浮き型枠の高さを調整することは非常に困難、又は実質的に不可能であった。
【0012】
本発明は、以上の点に鑑み、重量物の浮き型枠の高さを容易に調整することが可能な高さ調整治具、及びこれを用いたスラブの立ち上がり部の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の高さ調整治具は、スラブ及び当該スラブから立ち上がる立ち上がり部をコンクリートを打設して一体に形成するために、型枠部の内方に前記コンクリートが打設されて前記立ち上がり部を形成する浮き型枠のベースからの高さを調整する高さ調整治具であって、下部を前記ベースに支持され上下方向に延びる支持部と、前記浮き型枠の前記型枠部の上端から外側に延びる被把持部を把持し、前記支持部に対して上下方向に移動可能な把持部と、前記支持部に取り付けられ、前記把持部と当接して前記把持部を支持する当接支持部とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の高さ調整治具によれば、浮き型枠の型枠部の上端から外側に延びる被把持部を、ベースに支持された支持部に上下方向に移動可能な把持部で把持する。この把持部の支持部に対する上下方向の位置さを調整すれば、浮き型枠の高さ調整を行うことができる。よって、浮き型枠の下方で高さの調整作業を行う上記特許文献2,3に記載の方法と比較して、浮き型枠の上端部で付近で高さの調整作業を行うことができるので、作業を容易に行うことが可能になる。
【0015】
さらに、支持部に取り付けられた当接支持部を当接させて把持部を支持するので、把持部で被把持部を把持した浮き型枠を安定的に支持することができる。
【0016】
本発明の高さ調整治具おいて、前記支持部は、上下端部に袋ナットが取り付けられた全ねじ棒であり、前記把持部は、前記全ねじ棒に螺合される貫通ねじ孔と、前記被把持部の下面を受ける受け面と、前記被把持部を上方から押し付け可能な押付具とを有し、前記当接支持部は、前記全ねじ棒に螺合され、前記貫通ねじ孔に前記全ねじ棒が貫通螺合された前記把持部に当接して支持することが好ましい。
【0017】
この場合、全ねじ棒を回転させた力は拡大されて当接支持部とこれに支持された把持部を介して浮き型枠を上下動させるので、浮き型枠が鋼製からなる高重量物であっても高さ調整を容易に行うことができる。そして、当接支持部が把持部を当接支持した状態で高さを調節することによって高さの調節中及び調整後も浮き型枠を保持することができる。当接支持部は、例えばナットであればよい。これらにより、高さ調整治具は、全ねじ棒、ナットなどの比較的ありふれた部品で構成されており、簡易に作製することを可能となる。
【0018】
この場合、全ねじ棒を回転させた力は拡大されて把持部を介して浮き型枠を上下動させるので、浮き型枠が鋼製からなる高重量物であっても高さ調整を容易に行うことができる。そして、調整後の状態は、当接支持部が把持部を当接支持することによって保持するjことができる。当接支持部は、例えばナットであればよい。これらにより、高さ調整治具は、全ねじ棒、ナットなどの比較的ありふれた部品で構成されており、簡易に作製することを可能となる。
【0019】
本発明のスラブの立ち上がり部の形成方法は、内方にコンクリートが打設されて立ち上がり部を形成する型枠部を備える浮き型枠を用いて、スラブ及び当該スラブから立ち上がる前記立ち上がり部をコンクリートを打設して一体に形成する方法であって、前記浮き型枠の型枠部の上端から外側に延びる被把持部を高さ調整治具の把持部で把持する工程と、前記高さ調整治具の支持部の下部をベースに支持する工程と、前記把持部の前記支持部に対する上下方向の位置を調整する工程と、前記浮き型枠の型枠部の下端から外側に延びる固定部を、固定材を介して前記ベースに固定する工程と、前記高さ調整治具を前記浮き型枠から取り外す工程と、前記スラブ及び前記立ち上がり部を形成するためにコンクリートを打設する工程と、前記コンクリートが硬化した後に、前記浮き型枠を取り外す工程とを備えることを特徴とする。
【0020】
本発明のスラブの立ち上がり部の形成方法によれば、浮き型枠の型枠部の上端から外側に延びる被把持部を高さ調整治具で把持部で把持する。そして、この把持部を支持部に対する上下方向の位置を調整することにより浮き型枠の高さの調整作業を行う。よって、浮き型枠の下方で高さの調整作業を行う上記特許文献2,3に記載の方法と比較して、浮き型枠の上端部で付近で作業を行うことができるので、作業を容易に行うことが可能になる。
【0021】
さらに、浮き型枠を固定材で固定した後、高さ調整治具は取り外される。よって、上記特許文献2,3に記載の方法と異なり、高さ調整治具を繰り返し使用することができ、コスト的に有利である。
【0022】
本発明のスラブの立ち上がり部の形成方法において、前記浮き型枠の被把持部は、当該浮き型枠の長手方向に連続してなり、前記浮き型枠の固定部は、平板状の部材が間隔を開けて複数配置されることが好ましい。
【0023】
この場合、高さ調整治具の支持部を支持するに適したベースの箇所で支持することが可能となる。また、間隔を開けた固定部がそれぞれ固定材を介してベースに固定されるので、浮き型枠を安定的に固定することが可能となる。
【0024】
本発明のスラブの立ち上がり部の形成方法において、前記浮き型枠は鋼製型枠であることが好ましい。
【0025】
この場合、浮き型枠を繰り返し使用することが可能であり、コスト的に有利である。
【0026】
本発明のスラブの立ち上がり部の形成方法において、前記固定材は、前記浮き型枠の固定部を下方から受ける受け部と、前記受け部を前記ベースに対して支持する脚部とを備えることが好ましい。
【0027】
この場合、浮き型枠をベースに対して安定的に固定することが可能となる。
【0028】
本発明のスラブの立ち上がり部の形成方法において、前記コンクリートが硬化した後、前記固定材の受け部を取り外し、当該受け部を取り外したときに生じた凹部をモルタルで補修する工程を備えることが好ましい。
【0029】
コンクリートが硬化した後、コンクリートをはつって受け部を取り外すと、所定のかぶり厚さを確保することができないおそれがある。そこで、受け部を取り外したときに生じた凹部をモルタルで補修してかぶり厚さを確保する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態に係る高さ調整治具を浮き型枠に取り付けた状態を示す模式的断面図。
【
図2】固定材で浮き型枠を固定して状態を示す模式的断面図。
【
図3】高さ調整治具を取り外し状態を示す模式的断面図。
【
図4】浮き型枠などを取り外し、固定材の受け部を取り出した状態を示す模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態に係る高さ調整治具10について図面を参照して説明する。
【0032】
図1に示すように、高さ調整治具10は、浮き型枠20のベースAに対する高さの調整を行うものである。
【0033】
浮き型枠20は、内側にコンクリートを受ける型枠部21と、型枠部21上端から外側に延びる被把持部22と、型枠部21下端から外方に延びる固定部23とを備えている。被把持部22は、型枠部21の長手方向(
図1の紙面に垂直な方向)に連続して設けることが好ましい。固定部23は、型枠部21の長手方向に間隔を開けて複数設けることが好ましい。
【0034】
型枠部21は、セパレータ(不図示)などによって1対のせき板24が所定の間隔を隔てて配置された公知の構成のものである。ここでは、せき板24は、断面L字状のL形鋼24からなっており、このL形鋼24の上側に位置したフランジが被把持部22となっている。
【0035】
そして、固定部23は、水平片23aに貫通孔23bが形成されたL字状の鋼板であり、その垂直片23cの外側面がL形鋼24の外側面に溶接によって固定されている。L形鋼24の下端と水平片23aの下面とは同じ高さに位置している。なお、固定部23は、L形鋼を切断して形成したものであってもよい。
【0036】
高さ調整治具10は、下部をベースAに支持され、上下方向に延びる支持部11と、浮き型枠20の被把持部22を把持可能であり、支持部11に対して上下方向に移動可能な把持部12と、把持部12に当接して支持する当接支持部13とを備えている。
【0037】
支持部11は、上下方向に延びる全ねじ棒11aと、その上下端にそれぞれ螺合して固定された袋ナット11b、11cとから構成されている。下端の袋ナット11cの頂部がベースA、ここでは床型枠Aの上面に当接することにより、支持部11が支持されている。
【0038】
そして、大略断面コの字のブラケット14の基幹部14aには上下方向に貫通する貫通ねじ孔14bが形成されており、この貫通ねじ孔14bを挿通して全ねじ棒11aが螺合している。これにより、ブラケット14は、支持部11に対して上下方向に移動可能となっている。なお、ここでは、貫通ねじ孔14bは、ブラケット14の基幹部14aの上下方向全長に亘って設けているが、これに限定されない。例えば、基幹部14aの上下方向全長の一部、例えば基幹部14aの上端部及び下端部、あるいは上端部又は下端部のみにねじ部を設け、他の部分を単なる孔としてもよい。
【0039】
把持部12は、浮き型枠20の被把持部22を上下方向から挟んで把持するものであり、ここでは、ブラケット14の下部飛び出し部14cの上面に設けられた水平な受け面14d上に被把持部22の下面を受けた状態で、ブラケット14の上部飛び出し部14eに貫通して形成されたねじ孔14fに螺合するボルト15の下端が被把持部22の上面を押し付けることによって、固定される。
【0040】
このような構成により、被把持部22の厚さが変わっても把持部12で被把持部22をクランプ式に強固に把持することができる。なお、ボルト15は、本発明の押付具に相当する。そして、把持部12は、ブラケット14が支持部11に対して上下方向に移動可能となっていることにより、支持部11に対して上下方向に移動可能となっている。
【0041】
当接支持部13は、ここでは、全ねじ棒11aの途中に螺合された長ナット13であり、全ねじ棒11aの上下方向の任意の位置に位置する把持部12に長ナット13の上面に当接させることにより、把持部12を支持することができる。これにより、把持部12で被把持部22を把持した浮き型枠20を安定的に支持することができる。
【0042】
このように、支持部11は全ねじ棒11aからなるので、全ねじ棒11aを回転させることによって、把持部12の高さを容易に調整することができる。そして、このとき、全ねじ棒11aの上端に固定した袋ナット11bを手動又は電動でレンチなどで回転させることにより、浮き型枠20が鋼製からなる重量物であっても、高さの調整を容易に行うことができる。さらに、袋ナット11bは浮き型枠20の上側に位置しており、浮き型枠20の下方で作業する上記特許文献2,3の場合と比較して、高さの調整作業が容易である。
【0043】
次に、本発明の実施形態に係る高さ調整治具10を用いたスラブBの立ち上がり部C(
図4参照)の形成方法について図面を参照して説明する。
【0044】
まず、図示しないが、地上の水平面で浮き型枠20に高さ調整治具10を固定し、浮き型枠20の高さが水平面から予め設定された高さになるように、高さ調整治具10の把持部12の高さを調整する工程を行う。この調整は、全ねじ棒11aの上端に固定された袋ナット11bをスパナなどで回転させることにより行う。調整は、把持部12の下面に当接支持部13の上面を当接させた状態で行い、調整後もこの状態を維持する。
【0045】
高さ調整は、浮き型枠20の上側で行われるので、作業が容易である。また、袋ナット11bをスパナなどで回転させた力は、拡大されて把持部12を介して浮き型枠20を上下動させるので、浮き型枠20が鋼製で高重量物であっても高さ調整を行うことができる。
【0046】
なお、浮き型枠20に対して複数の高さ調整治具10を適宜な間隔を隔てて固定することが好ましい。浮き型枠20の型枠部21に対して高さ調整治具10を対向させて固定することも好ましい。せき板24の間隔が一定距離を保持するように、図示しないセパレータなどを用いてもよく、せき板24を繋ぐ部材を被把持部22上に設置してもよい。
【0047】
次に、
図1及び
図2に示すように、高さ調整治具10が固定された浮き型枠20を、立ち上がり部C(
図4参照)を形成する場所に移動させ、予め設定された位置に設置する工程を行う。
【0048】
このとき、全ねじ棒11aの下端に固定された袋ナット11cの頂部をベースAの上面に当接させる。
【0049】
そして、図示しない予め設定された基準点を基準に測量を行い、浮き型枠20の位置を調整し、さらに、必要であれば、高さ調整治具10によって浮き型枠20の高さを調整する。浮き型枠20を支持する床型枠A等の表面の傾斜などによって、浮き型枠20の高さが変化するので、浮き型枠20の高さ調整が必要になることがある。
【0050】
このときも、浮き型枠20の上側で高さ調整が行われるので、作業が容易である。また、袋ナット11bをスパナなどで回転させた力は、拡大されて被把持部22を介して浮き型枠20を上下動させるので、浮き型枠20が鋼製で高重量物であっても高さ調整を行うことができる。なお、調整は、これ以降、適宜行ってもよい。
【0051】
次に、浮き型枠20を固定する固定材30を設置する工程を行う。
【0052】
固定材30は、浮き型枠20の固定部23に固定され、床型枠Aに対して浮き型枠20を支持する。固定材30は、浮き型枠20の固定部23を受ける受け部31と、受け部31を床型枠Aに対して支持する脚部32とを備えている。
【0053】
ここでは、受け部31はPコン(プラスチックコーン)であり、脚部32は全ねじ棒からなっている。全ねじ棒32の上端に、Pコン31が螺合して固定されている。そして、Pコン31の上部のねじ部が、固定部23の水平片23aに形成された貫通孔23bを挿通してナット33が螺合されている。これにより、Pコン31で浮き型枠20の固定部23を受けた状態が、ナット33により維持される。
【0054】
このような構成により、受け部31、ひいては浮き型枠20の高さが変化しても、固定材30で浮き型枠20を支持することができるので、高さ調整治具10で定めた高さを変えることなく浮き型枠20を床型枠Aに対して固定することができる。
【0055】
固定材30の脚部32は、その下端部で、床型枠Aに固定される。なお、床が鉄筋コンクリートスラブからなる場合は、スラブの鉄筋に脚部32を結束すればよい、あるいは、鉄筋に固定した腕に脚部32を溶接してもよい。また、床がハーフプレキャスト版からなる場合は、その上面でそのまま脚部32を支持してもよく、トラス鉄筋に溶接してもよい。このように、固定材30による浮き型枠20の支持は、既存の方法を用いればよい。床型枠A、スラブの鉄筋、ハーフプレキャスト版などが本発明のベースに相当する。
【0056】
なお、バルコニー側にはフルプレキャスト版Dが設置されている。固定部23の水平片23aと同じ厚さのスペーサ41をフルプレキャスト版Dの上面に載置し、押え金具42で固定部23の水平片23aを押えた状態で、押え金具42に形成された貫通孔42aを挿通するボルト43によって押え金具42がフルプレキャスト版Dに固定される。これにより、浮き型枠20がフルプレキャスト版Dに対して固定される。
【0057】
次に、
図3に示すように、固定材30を設置した後、高さ調整治具10を浮き型枠20から取り外す工程を行う。
図2を参照して、ボルト15を緩めれば、浮き型枠20から高さ調整治具10を容易に取り外すことができる。
【0058】
次に、コンクリートを打設する工程を行う。
【0059】
その後、コンクリートが固化した後、浮き型枠20を取り外す工程を行う。これにより、
図4に示すように、スラブBと立ち上がり部Cとが一体化して形成される。
【0060】
そして、ナット33を取り外し、Pコン31を取り出した後、Pコン31の取り出しによって生じた凹部51をモルタルなどで補修する工程を行う。Pコン31を取り出すと、脚部32の頭部が剥きだしになり、かぶり厚さを確保できない。そこで、凹部51をモルタルなどで補修して、かぶり厚さを確保する。
【0061】
なお、固定材30の設置と高さ調整治具10の取り外しは、コンクリート打設の直前に行うことが望ましい。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、高さ調整治具10がボルト15で押え付けて浮き型枠20の被把持部22を把持部12が把持する場合について説明した。しかし、把持部12の把持方法はこれに限定されず、例えばクリップのような機構で把持してもよい。
【0063】
また、支持部11は、全ねじ棒11aではなく、一部にねじ部を有する棒材であってもよい。そして、当接支持部13は、長ナットではなく、通常のナットでもよく、さらには、クリップなどであってもよい。当接支持部13は把持部12と一体に接合されていてもよい。高さ調整は把持部12を上下させて予め設定された高さとし、その後に当接支持部13の上面を当接させて、調整後の状態を維持するようにしてもよい。その他、実施形態における高さ調整治具10の構造は一例に過ぎない。
【符号の説明】
【0064】
10…高さ調整治具、 11…支持部、 11a…全ねじ棒、 11b、11c…袋ナット、 12…把持部、 13…当接支持部、長ナット、 14…ブラケット、 14b…貫通ねじ孔、 14d…受け面、 14f…ねじ孔、 15…ボルト、押付具、 20…浮き型枠、 21…型枠部、 22…被把持部、 23…固定部、 24…せき板、L形鋼、 30…固定材、 31…受け部、Pコン、 32…脚部、全ねじ棒、 33…ナット、 51…凹部、 A…ベース、床型枠、 B…スラブ、 C…立ち上がり部、 D…フルプレキャスト版。