(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373246
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】運動案内装置
(51)【国際特許分類】
F16C 29/06 20060101AFI20180806BHJP
F16C 33/40 20060101ALN20180806BHJP
【FI】
F16C29/06
!F16C33/40
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-244324(P2015-244324)
(22)【出願日】2015年12月15日
(65)【公開番号】特開2017-110704(P2017-110704A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2017年8月8日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114498
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】青木 慎史
(72)【発明者】
【氏名】入川 弘基
【審査官】
岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−185045(JP,A)
【文献】
特開平11−002241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/06
F16C 33/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道レールと、前記軌道レールを転走する多数の転動体と、前記転動体の無限循環路を有すると共に前記軌道レールに沿って運動自在な移動ブロックと、
所定間隔で前記転動体を収容するポケットが形成されると共に、前記無限循環路に組み込まれて前記転動体と共に当該無限循環路内を移動する保持ベルトと、を備え、
前記保持ベルトは、一定間隔で一列に配列された複数のスペーサ部と、これらスペーサ部を連結すると共に可撓性を有する一対の結合ベルト部とから構成され、前記転動体の収容ポケットは互いに隣接する一対のスペーサ部の間に設けられ、
前記保持ベルトは前記無限循環路内において一対の端部が1個の自由転動体を介して互いに対向し、
以下の条件、
(X−Y)×Z>(B+C)−A>0
A:無限循環路の経路長 X:ポケット径
B:保持ベルト全長 Y:転動体の直径
C:自由転動体の直径 Z:前記保持ベルトに配列される転動体数
を満たすことを特徴とする運動案内装置。
【請求項2】
各スペーサ部は前記転動体が接する凹面座を有しており、前記保持ベルトの端部に位置する末端スペーサは前記自由転動体が接する凹面座を有していることを特長とする請求項1記載の運動案内装置。
【請求項3】
前記自由転動体は前記保持ベルトのポケットに収容された転動体と同一直径であり、前記軌道レールと前記移動ブロックとの間で荷重を負荷していることを特長とする請求項1記載の運動案内装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械のワークテーブルや各種搬送装置のテーブルを軌道レールに沿って自在に案内する運動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の運動案内装置としては特許文献1に開示されるものが知られている。この運動案内装置は、ベッド等の固定部に敷設される軌道レールと、この軌道レールに沿って自在に移動可能であると共に案内対象であるテーブル等の可動体を固定可能な移動ブロックとを備えている。前記移動ブロックはボール又はローラといった複数の転動体を介して前記軌道レールに組み付けられており、前記軌道レールには長手方向に沿って転動体の転走面が形成されている。前記移動ブロックには、前記軌道レールの転走面と対向する転動体の転走面が設けられると共に、当該転走面の一端から多端へ前記転動体を循環させる無限循環路が設けられており、前記転動体が当該無限循環路内を循環することにより、前記移動ブロックが前記軌道レールに沿って自在に運動を行うことが可能となっている。
【0003】
また、前記無限循環路内には前記転動体の間隔を一定に保持するための保持ベルトが当該転動体と共に組み込まれている。前記保持ベルトは合成樹脂等の可撓性を有する材料から成形されており、当該保持ベルトには転動体を収容するポケットが一定の間隔で配列されている。また、保持ベルトはその全長が無限循環路の経路長よりも短く設定されており、無限循環路に組み込んだ際に、両端部が当該無限循環路内で間隔を空けて互いに向かい合っている。転動体はこの保持ベルトのポケット内で回転しながら前記軌道レールの転走面及び前記移動ブロックの転走面を転走し、ボールが無限循環路内を循環するのに伴い、当該保持ベルトも前記無限循環路内を循環する。
【0004】
前記移動ブロックが有する転動体の無限循環路は、負荷通路と、この負荷通路と平行に設けられた戻し通路と、前記負荷通路と戻し通路の端部同士を接続する一対の方向転換路とから構成されている。前記負荷通路は前記軌道レールの転走面と前記移動ブロックの転走面とが対向する領域であり、前記転動体は軌道レールと移動ブロックとの間で荷重を負荷しながら当該負荷通路を転走する。一方、前記戻し通路及び前記一対の方向転換路は前記転動体を前記負荷通路の終端から始端へ戻すための無負荷通路であり、前記転動体は当該通路において何ら荷重を負荷していない。
【0005】
このため、前記軌道レールと前記移動ブロックとの間に相対的な運動が生じると、前記負荷通路内の転動体は強制的に転がされて当該通路内を進行することになるが、前記戻し通路及び前記一対の方向転換路内の転動体は自ら転動せず、前記保持ベルトを介して負荷通路内の転動体に引っ張られ、あるいは押されて当該戻し通路及び一対の方向転換路を進行することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3243415号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、前記保持ベルトは両端部が互いに向かい合うようにして前記無限循環路内に組み込まれているので、このような無限循環路内における転動体の動きに起因し、前記保持ベルトにはその端部が前記負荷通路に出入りする際に循環方向に沿った引っ張り力が繰り返し作用することになる。これに伴い、当該保持ベルトが方向転換路に設けられたベルト案内溝に対して部分的に強く擦れて偏摩耗が促進される懸念があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、保持ベルトが転動体と共に無限循環路内を循環する際に、当該保持ベルトに対して作用する引っ張り力を軽減し、保持ベルトの偏摩耗を防止することが可能な運動案内装置を提供することにある。
【0009】
すなわち、本発明の運動案内装置は、軌道レールと、前記軌道レールを転走する多数の転動体と、前記転動体の無限循環路を有すると共に前記軌道レールに沿って運動自在な移動ブロックと、所定間隔で前記転動体を収容するポケットが形成されると共に、前記無限循環路に組み込まれて前記転動体と共に当該無限循環路内を移動する保持ベルトと、を備えており、前記保持ベルトは前記無限循環路内において一対の端部が1個の自由転動体を介して互いに対向し、以下の条件、
(X−Y)×Z>(B+C)−A>0
A:無限循環路の経路長 X:ポケット径
B:保持ベルト全長 Y:転動体の直径
C:自由転動体の直径 Z:前記保持ベルトに配列される転動体数
を満たすものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記保持ベルトは長手方向に押し縮められた状態で無限循環路に組み込まれるので、前記保持ベルトの両端部が自由転動体を介して常に互いを押し合っており、前記保持ベルトの循環に伴って当該保持ベルトに作用する引っ張り力が軽減され、当該保持ベルトの偏摩耗を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明を適用した運動案内装置の実施形態の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す運動案内装置に利用可能な保持ベルトの一例を示す側面図である。
【
図4】
図2に示す保持ベルトのポケットとボールの隙間を示す拡大図である。
【
図5】
図1に示す運動案内装置の無限循環路の構成を簡略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を用いて本発明の運動案内装置を詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明を適用可能な運動案内装置の一例を示す斜視図である。この運動案内装置は、直線状に延びる軌道レール1と、転動体としての多数のボール3を介して前記軌道レール1に組付けられた移動ブロック2とから構成されており、固定部に前記軌道レール1を敷設し、前記移動ブロック2に対して各種の可動体を搭載することで、かかる可動体を軌道レール1に沿って往復移動自在に案内することができるようになっている。
【0014】
前記軌道レール1は略断面四角形状の長尺体に形成されている。この軌道レール1には長手方向に所定の間隔をおいて上面から底面に貫通するボルト取付け孔12が複数形成されており、これらボルト取付け孔12に挿入した固定ボルトを用いて、軌道レール1をベッド、コラム等の固定部に対して強固に固定することができるようになっている。前記軌道レール1の左右両側面には長手方向に沿って突部がそれぞれ設けられると共に、これら突部の上下にはボールの転走面11が1条ずつ設けられ、軌道レール全体としては4条の転走面11が設けられている。尚、前記軌道レール1に設けられる転走面11の条数はこれに限られるものではない。
【0015】
一方、前記移動ブロック2は、大きく分けて、金属製のブロック本体21と、このブロック本体21の移動方向の両端に装着される一対の合成樹脂製のエンドプレート22とから構成されている。この移動ブロック2は前記軌道レールの各転走面11に対応してボール3の無限循環路を複数備えており、かかる無限循環路は前記移動ブロック2の両端に前記一対のエンドプレートを固定することによって完成している。各無限循環路には可撓性の保持ベルト30が組み込まれており、かかる保持ベルト30には多数のボール3が一列に配列されている。従って、
前記移動ブロック2が前記軌道レール1の長手方向へ動かされ、前記ボール3が前記軌道レール1の転走面を転がると、前記保持ベルト30がボール3と一緒に前記無限循環路を循環する。
【0016】
また、前記移動ブロックには当該移動ブロックと軌道レールとの隙間を密閉する
各種シール部材4,5,7が固定されており、軌道レール1に付着した塵芥などが前記無限循環路の内部に侵入するのを防止している。尚、
図1は前記無限循環路内におけるボール3及び保持ベルト30の存在を把握できるように、前記移動ブロック2の全体の1/4を切り欠いて描いてある。
【0017】
図2及び
図3は前記ボール3が配列された前記保持ベルト30の一部を示すものであり、当該保持ベルト30の長手方向の端部を含んでいる。前記保持ベルト30は、一定間隔で一列に配列された複数のスペーサ部31と、これらスペーサ部31を連結する一対の結合ベルト部61とから構成され、これらスペーサ部と結合ベルト部は合成樹脂の射出成形によって製作されている。前記保持ベルト30は前述のごとく可撓性を備え、前記無限循環路内をボール3と一緒に循環する際に、伸展と湾曲を繰り返すことになる。この際、可撓性を発揮しているのは専ら前記結合ベルト部61であり、当該結合ベルト部61は前記スペーサ部31に比べて自由に撓むことが可能である。
【0018】
各スペーサ部31には前記ボール3の球面に近似した曲率の凹面座33が設けられており、互いに隣接するスペーサ部の間が前記ボールを収容するポケット34になっている。また、前記保持ベルト30の端部に位置する末端スペーサ部31aも他のスペーサ部31と同じ形状に形成されており、前記無限循環路内では後述する自由ボール3aが末端スペーサ部31aの具備する凹面座33aに摺接するようになっている。
【0019】
図4に示すように、
前記保持ベルト30に設けたボール3の収容ポケット34の直径Xはボール3の直径Yよりも かに大きく設定されている。但し、互いに隣接するスペーサ部31の間の距離dはボール3の直径Yよりも小さく設定されており、前記ポケット34に収容されたボール3は両側に位置するスペーサ部31の間から抜け落ちることがない。
【0020】
尚、
図2乃至
図4を用いて説明した実施形態では本発明の転動体としてボールを用いたが、当該転動体はローラであってもよい。その場合、前記スペーサ部31に形成する凹面座33はローラの外周面に近似した曲率の凹面座となる。また、前記スペーサ部31に形成された凹面座33は必須のものではなく、転動体同士の直接の接触を回避するという観点からすれば、当該スペーサ部31は単なる平板状のものであっても差し支えない。
【0021】
図5は前記無限循環路6を示す断面図である。前記無限循環路6は、負荷通路60、戻し通路61及び一対の方向転換路62で構成されている。前記移動ブロック2を構成するブロック本体21には、前記軌道レール1の転走面11と対向する転走面23が形成されており、ボール3は軌道レール1の転走面11とブロック本体21の転走面23との間で荷重を負荷しながら転がる。前記無限循環路6のうち、このようにボール3が荷重を負荷しながら転動している通路部分が前記負荷通路60である。また、前記ブロック本体21には前記負荷通路60と平行に前記戻し通路61が形成されている。通常、この戻し通路61は前記ブロック本体21を貫通して設けられており、その内径はボール3の直径よりも僅かに大きく設定されている。一方、前記一対の方向転換路62は前記負荷通路60の長手方向の両側に位置して、当該負荷通路60の端部と前記戻し通路61の端部とを接続している。各方向転換路62は前記エンドプレート22に設けられており、一対のエンドプレート22を前記ブロック本体21の両端の所定の位置に固定することにより、前記方向転換路62が前記負荷通路60と前記戻し通路61とを接続し、前記ボール3が循環可能な無限循環路6が完成する。
【0022】
前記無限循環路6にはボール3を前記ポケット34に収容した前記保持ベルトが組み込まれる。前記保持ベルト30の両端部は当該無限循環路6の内部で互いに対向し、それらの間には前記ポケット34に収容されていないボール(以下、「自由ボール」という)3aが配置されている。この自由ボール3aは前記保持ベルト30のポケット34に配列されたボール3と同一のものであり、他のボール3と同様に前記軌道レール1と前記ブロック本体との間で荷重を負荷している。また、当該自由ボール3aの球面は前記保持ベルトの末端スペーサ部31aの
凹面座33に当接している。従って、前記無限循環路6内には前記スペーサ部31の厚みに相当する一定の間隔で多数のボール3が配列されていることになる。
【0023】
前記自由ボール3aと前記末端スペーサ31aの
凹面座33を常に接触させるため、前記無限循環路6の経路長Aは前記保持ベルト30の全長Bと前記自由ボール3aの直径Cの和よりも小さく設定されている。すなわち、
(B+C)>A
である。ここで、前記無限循環路6の経路長とは、当該無限循環路内でボール3の中心が描く軌跡の一周分の長さである。また、前記保持ベルト30の全長Bとは、前記末端スペーサ部31aに前記自由ボール3aと接する凹面座33aが形成されている場合には、当該保持ベルトの
一端の凹面座33aの最深部から他端の凹面座33aの最深部までの距離である。
【0024】
従って、以下の式、
δ=(B+C)−A>0
が満足されれば、前記保持ベルト30はその長手方向へ押し縮められた状態で前記無限循環路6に組み込まれ、当該保持ベルト30の両端に位置する一対の末端スペーサ部31aは常に前記自由ボール3aと接触することになる。
【0025】
一方、前記無限循環路6に対して前記保持ベルト30及び自由ボール3aを組み込むためには、当該保持ベルト30の全長を前述の長さδだけ長手方向へ押し縮めることが必要である。この点に関し、前記保持ベルト30の各ポケット34の直径Xはそこに収容されるボール3の直径Yよりも大きく設定しており、当該ポケット34に収容されたボール3と前記スペーサ部31との間に隙間(X−Y)が存在する。従って、この隙間を排除することにより、前記保持ベルト30を無理なく押し縮めることが可能であり、この際に個々の結合ベルト部32はわずかに圧縮されて撓んだ状態となる。
【0026】
前記保持ベルト30に配列されるボール3の総数をZとした場合、各ボール3とスペーサ部31との隙間を排除するように当該保持ベルト30を押し縮めると、その最大量は、
δ
max=(X−Y)Z
となる。すなわち、このδ
maxまでは前記スペーサ部31を押し潰すことなく、前記保持ベルト30の全長をその長手方向へ無理なく押し縮めることができる。
【0027】
以上から明らかなように、以下の条件、
(X−Y)×Z>(B+C)−A>0
を満たすように、無限循環路6の経路長A、保持ベルト30の全長B、自由ボール3aの直径C、保持ベルト30のポケット34の直径X、ボール3の直径Y、前記保持ベルト30に配列されるボール3の総数Zを設定すれば、前記無限循環路6に組み込んだ保持ベルト30の両端部の間に1個の自由ボール3aを挟みつつ、当該保持ベルト30の末端スペーサ部31aを前記自由ボール3aに常に圧接させておくことが可能となる。
【0028】
前記無限循環路6内で前記保持ベルト30がボール3と共に一方向へ循環している場合、当該保持ベルト30は前記負荷通路60内を転走しているボール3によって動かされることから、無限循環路6内における保持ベルト30の両端部の位置に応じて、当該保持ベルト30には大きな引っ張り力が作用することになる。
【0029】
その際、前述した条件を満たすように前記無限循環路6内に保持ベルト30と自由ボール3aを組み込んであれば、当該無限循環路6内における保持ベルト30の循環方向に関し、前記保持ベルト30の前端が常に後端を押圧することになるので、前記保持ベルト30に作用する引っ張り力の変動を軽減することができ、無限循環路6内における前記保持ベルト30の偏摩耗を防止することが可能となる。
【0030】
尚、本発明はボールを転動体とした運動案内装置だけでなく、ローラを転動体とした運動案内装置にも適用可能である。また、
図1を用いて具体的に示した運動案内装置はあくまでも一例であり、本発明を適用可能な運動案内装置の形状はこれに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0031】
1…軌道レール、2…移動ブロック、3…ボール(転動体)、3a…自由ボール(自由転動体)、6…無限循環路、30…保持ベルト