特許第6373257号(P6373257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373257
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】ダスト洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20060101AFI20180806BHJP
   C22B 19/20 20060101ALI20180806BHJP
   C22B 13/00 20060101ALI20180806BHJP
   C22B 17/00 20060101ALI20180806BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   B09B3/00 304G
   B09B3/00ZAB
   C22B19/20
   C22B13/00 101
   C22B17/00 101
   C22B7/02 B
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-506863(P2015-506863)
(86)(22)【出願日】2014年3月20日
(86)【国際出願番号】JP2014057866
(87)【国際公開番号】WO2014148623
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2016年11月29日
(31)【優先権主張番号】特願2013-60883(P2013-60883)
(32)【優先日】2013年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】新日鐵住金ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100126848
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 昭雄
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(72)【発明者】
【氏名】小野 信行
(72)【発明者】
【氏名】中尾 隆二
(72)【発明者】
【氏名】久保田 寛
(72)【発明者】
【氏名】吉水 信義
(72)【発明者】
【氏名】伊豆 忠浩
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−276773(JP,A)
【文献】 特開2000−128530(JP,A)
【文献】 特開2001−348627(JP,A)
【文献】 特開平10−202226(JP,A)
【文献】 特表平10−511035(JP,A)
【文献】 特開2009−241010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B3/00
C22B1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属成分として亜鉛、鉛、カドミウムを含み、さらに、フッ素を2%以上含有するダストと、洗浄液とを混合してスラリーとし、当該ダストからフッ素を前記洗浄液中に浸出させて洗浄するダスト洗浄方法であって、
前記ダスト洗浄方法は、
前記スラリーのpH値を10〜13とし、前記スラリー中の前記ダストの希釈率を一定にして、前記スラリー中のフッ素イオン濃度の未飽和状態における前記スラリーのフッ素イオン濃度と、前記ダストのフッ素濃度との相関関係を予め把握する工程と、
前記スラリーのフッ素イオン濃度が、前記相関関係が把握されたスラリー中のダストの希釈率において、前記洗浄対象のダストの目標のフッ素濃度に対応する前記スラリーの目標のフッ素イオン濃度になるまで、洗浄対象のダストが混合されたスラリーのpH値を10〜13の範囲に制御しつつ、前記予め把握された相関関係における前記ダストの希釈率の範囲内で前記洗浄水を添加する工程、又は、前記スラリーの上澄み液を排水し、排水完了後、予め把握された前記ダストの希釈率の範囲内において前記洗浄水を添加する工程のいずれかの工程を1回以上行うことにより、前記スラリーのフッ素イオン濃度を前記目標のフッ素イオン濃度以下にする洗浄工程と、
を有することを特徴とするダスト洗浄方法。
【請求項2】
前記ダスト洗浄方法において、ダストを回収する前のスラリーのフッ素イオン濃度が500mg/l以下になるまで前記洗浄工程を1回実施または2回以上繰り返して実施することを特徴とする請求項に記載のダスト洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製錬過程において、排出されるダスト等を亜鉛精錬用原料としてリサイクルするために必要な、ダスト類の洗浄処理に使用するダスト浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
普通鋼、ステンレス鋼を製造する際に発生するダスト、スケール、スラッジなどは、回転炉床炉や電気抵抗炉などの金属還元炉を用いて、金属成分を還元再利用している。
【0003】
その際に、金属還元炉から発生するダスト中には、重金属成分として亜鉛、鉛、カドミウムを含み、さらに、フッ素が2%以上に濃縮されるが、ダスト中のフッ素や塩素などのハロゲンは、炉中でフッ化水素や塩化水素となって、炉体を構成する耐火物を損傷するため、ダストを亜鉛製錬用原料としてリサイクルを可能にするためには、これらのハロゲン、特にフッ素を除去する必要があった。
本発明は、亜鉛精錬用原料のダストからフッ素等を洗浄除去する処理に用いる洗浄装置及び洗浄方法に関する。
【0004】
一般に、事業場や一般家庭から排出されるゴミ(「都市ゴミ」又は「一般廃棄物」と称されている。)は、都市ゴミ焼却場や産業廃棄物焼却工場等に集められ焼却処分されている。その際に焼却炉等から発生する焼却灰や飛灰(一次ダストともいう。)は、薬剤処理、又は、溶融炉、セメントキルン処理等の中間処理を施した後に最終処分場に堆積される。
【0005】
また、製鉄精錬時に発生する鉄分主体の一次ダスト(例えば、転炉ダストT:Fe分約60%)は、回転炉床炉(回転炉床式還元炉、例えば、特許文献1)や還元溶融ロータリーキルン炉(例えば、特許文献2)等の還元炉で還元されて、還元鉄が製造されている。
【0006】
しかしながら、前記の溶融炉やセメントキルン処理等の中間処理や製鉄ダスト用の回転炉床炉等の還元炉では、蒸気圧の高い亜鉛、鉛、カドミウム等の重金属が、炉内で揮発して排ガス中に入り、この排ガスに入った重金属は排ガス処理設備内で凝縮して再び飛灰(以降、二次ダストまたは単にダストという。)となってしまう。
【0007】
この二次ダスト中には、塩素、フッ素、ナトリウム、カリウムと共に、亜鉛、鉛、カドミウム等の重金属が濃縮されて多量に含有されており、これらの回収を含めた安定した二次ダストの処理装置および処理方法が求められていた。
【0008】
この二次ダスト中の亜鉛を回収する手段として、ダストを亜鉛製錬の原料として、主原料である亜鉛精鉱等と混合し、使用する方法がある。この場合、二次ダスト中のフッ素や塩素がフッ化水素、塩化水素のガスになり、耐火物を劣化させるという問題があり、配合率を抑制せねばならないという課題があった。
【0009】
これに対し、従来技術として、アルカリ浸出処理(特許文献3、特許文献4)が開示されている。特許文献3では、アルカリ剤を用いてpH12以上に調整した後、固液分離することにより、重金属含有澱物を得ることが開示されている。該処理では、アルカリ浸出処理後の回収殿物中の塩素濃度は、回収殿物中の液相部分を水洗し、塩素を含んだ液相部を洗い流すと、40%から3%以下に低減できることが示されているが、フッ素の低減効果については開示されていない。
【0010】
特許文献4では、粗酸化亜鉛粉末をアルカリ溶液中に投入して、pHを10以上に保持しながら撹拌し、さらにアルカリ洗浄、水洗、乾燥することにより、該粗酸化亜鉛粉末中のハロゲン元素を除去することが示されており、フッ素は1.0%から0.3%以下に低減できることが示されているが、フッ素を2%以上含むダストの処理は考えられていない。
【0011】
二次ダスト中のフッ素は、形成している化合物の種類によって、アルカリ溶液への浸出速度は大きく変動する。また、二次ダスト中のフッ素濃度は、二次ダストが発生する炉の操業状態によって大きく変動する。しかしながら、特許文献3および特許文献4では、このような浸出速度の差、濃度の差が大きい二次ダストでの処理装置、処理方法についての記載はない。
【0012】
特に、ステンレス鋼および特殊鋼の製造工程では、製鋼工程での蛍石(主成分CaF2)、酸洗工程でのフッ酸の使用により、製鋼ダスト、および酸洗廃液を中和処理した場合のスラッジに多量のフッ素を含む。そのため、これらを回転炉床炉や溶融炉で処理した場合の二次ダストは2%以上のフッ素を含むことになる。
【0013】
フッ素を2%以上含むダストは、効率的な洗浄装置、洗浄方法がなければ、長時間の洗浄、および多数回の洗浄を行うことになり、洗浄廃液量が増し、工程数も増えて、処理にかかるコストが非常に高くなるという課題があったが、これまでに、このようなダストの浸出処理を効率的に行う洗浄装置、洗浄方法に関する技術の開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−279611号公報
【特許文献2】特開2002−286209号公報
【特許文献3】特開2000−212654号公報
【特許文献4】特開2000−128530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、金属成分として亜鉛、鉛、カドミウムを含み、さらに、フッ素を2%以上含有するダスト中のフッ素を安定的、効率的に低減させるためのスト洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の課題を解決するには、以下の点が必要、かつ重要となる。
(I)アルカリ領域でフッ素化合物を溶解し、ダストに含有されるフッ素を洗浄液に浸出させるために必要な条件と装置、併せて有価金属である亜鉛成分を浸出させない条件と検知する装置を明確にする。
(II)洗浄液中のフッ素飽和濃度、および洗浄液へのフッ素浸出の終点の判別方法と必要な装置を明確にする。
(III)アルカリ領域でフッ素をダストから浸出させた場合、廃液の処理上の負荷となるカドミウム成分をダストから浸出させない条件と検知する装置を明確にする。
本発明は、上記条件及び判別方法を明らかにしたものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
(1) 本発明の一態様に係るダスト洗浄方法は、重金属成分として亜鉛、鉛、カドミウムを含み、さらに、フッ素を2%以上含有するダストと、洗浄液とを混合してスラリーとし、当該ダストからフッ素を前記洗浄液中に浸出させて洗浄するダスト洗浄方法であって、
前記ダスト洗浄方法は、前記スラリーのpH値を10〜13とし、前記スラリー中の前記ダストの希釈率を一定にして、前記スラリー中のフッ素イオン濃度の未飽和状態における前記スラリーのフッ素イオン濃度と、前記ダストのフッ素濃度との相関関係を予め把握する工程と、
前記スラリーのフッ素イオン濃度が、前記相関関係が把握されたスラリー中のダストの希釈率において、前記洗浄対象のダストの目標のフッ素濃度に対応する前記スラリーの目標のフッ素イオン濃度になるまで、洗浄対象のダストが混合されたスラリーのpH値を10〜13の範囲に制御しつつ、前記予め把握された相関関係における前記ダストの希釈率の範囲内で前記洗浄水を添加する工程、又は、前記スラリーの上澄み液を排水し、排水完了後、予め把握された前記ダストの希釈率の範囲内において前記洗浄水を添加する工程のいずれかの工程を1回以上行うことにより、前記スラリーのフッ素イオン濃度を前記目標のフッ素イオン濃度以下にすることを特徴としている。
発明の一態様に係るダスト洗浄方法は、()に記載のダスト洗浄方法において、ダストを回収する前のスラリーのフッ素イオン濃度が500mg/l以下になるまで前記洗浄工程を1回実施または2回以上繰り返して実施するものである、
また、洗浄工程におけるpH値の条件は、異なる洗浄工程毎にpH値が10〜13の範囲内になるようにそれぞれ異なる範囲に設定しても良い。
また、図4に示されるように、スラリーのフッ素濃度が最終的に1000mg/l以下になるように制御することによって、洗浄後のダストのフッ素濃度を1.0%以下にすることができる。或いは、スラリーのフッ素濃度が最終的に500mg/l以下になるように制御することによって、洗浄後のダストのフッ素濃度を0.5%以下にすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、還元鉄製造過程から排出されるダストや、都市ゴミ二次ダスト等のフッ素の含有量の高いダストから、環境に対して低負荷で、フッ素を安定して洗浄除去して低フッ素含有量とすることができ、該ダストを亜鉛製錬原料として、有効利用することができる洗浄装置及び洗浄方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】pHと各種金属イオン濃度の関係を示すグラフである。
図2】ダストスラリーのpHと洗浄後のダスト中のフッ素濃度の関係を示すグラフである。
図3】ダストの洗浄処理時のスラリー中のフッ素濃度の時間変化を示すグラフである。
図4】洗浄後ダストとスラリー中のフッ素濃度の相関関係を示すグラフである。
図5】ダストからフッ素を除去するための洗浄装置の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のダスト浄方法について詳細に説明する。まず、本発明の浄方法におけるpH値及びフッ素飽和濃度の要件について説明する。
【0020】
図1に水溶液中のpHと各種金属イオン濃度の関係を示す。亜鉛と鉛はpH9.2付近で最も溶解度が小さく、カドミウムはpH11.2付近で最も溶解度が小さいことが図示されている。
【0021】
前記(I)の観点から、次の実験を行った。図2にフッ素濃度4.6%のダスト20gに水(洗浄液または浸出液とも言う。)400mlを入れ、撹拌してスラリーにした後に、20%水酸化ナトリウム水溶液で、該スラリーのpHをpH計で監視しながら調整し、30分撹拌を行ったときのスラリーのpHとダスト中フッ素濃度の関係を示す。スラリーのpHが高くなるほど、フッ素濃度は低くなっている。
【0022】
これらの関係より、pH計を装備し、スラリーのpH制御を行えば、スラリーの金属成分濃度およびフッ素濃度を制御できることがわかる。ダストからフッ素を浸出させ、除去するには、pHを高くすれば良いが、一方、回収すべき亜鉛、鉛、カドミウムも浸出することになる。例えば、pH12.5では亜鉛の溶解度は3mg/l、鉛の溶解度は700mg/lであり、洗浄液の量が多ければ、ダストから亜鉛、鉛が浸出し、ロスが大きくなる。そのため洗浄液の量をできるだけ、少なくすることが必要になる。
【0023】
なお、ダストを、NaOHを加えた高アルカリの洗浄液に入れると、式1および式2に示す脱ハロゲン反応が進行する。
PbClF+2NaOH ⇒ Pb(OH)2+NaCl+NaF (式1)
KZnF3+2NaOH ⇒ Zn(OH)2+KF+2NaF (式2)
【0024】
つまり、アルカリ剤であるNaOHを消費しながら、反応が進む。そのため、スラリーのpHが低下する。前記pHを一定に制御するには、NaOHのようなアルカリ剤を投入する制御装置が必要になる。また、pHの変化がなくなり、pH制御が不要になった時点が浸出反応の終点と考えられる。
【0025】
次に、前記(II)の観点から、スラリー中のフッ素濃度の測定に関して述べる。フッ素濃度の測定には、一般的な方法を採用することができ、例えば市販のフッ素イオン電極を用いた方法を用いることが出来る。
【0026】
フッ素濃度6.6%のダスト50g、100g、150gをそれぞれ別々の容器に分取して、それぞれの容器内に洗浄液として水400mlを入れ、撹拌してスラリーにした後、該スラリーに20%水酸化ナトリウム水溶液を加えて、該スラリーのpHを11.5に狙い、pH計で監視しながら調整した。図3に、フッ素イオン電極を用いてフッ素イオン濃度を測定、記録した結果を示す。同図より、ダスト量が多いほど、フッ素濃度が高くなるが、100gと150gでは大きな差はない。12000mg/l近傍で飽和している。つまり、例えば、11000mg/lになった時点でこの処理を終了すれば、短時間の効率的なフッ素の浸出処理が行えることになる。
この後、スラリーを固液分離し、フッ素が浸出したダストを回収する。固液分離方法は特に限定されない。例えばスラリーに凝固剤を投入して、ダストが沈殿した後、上澄み液を廃棄してダストを回収することができる。
以上のフッ素を浸出させたダストを回収するまでの一連の処理を、本発明において「洗浄処理」とよぶ。
【0027】
なお、スラリーのフッ素の飽和濃度は、スラリーのpH、ダストの組成により変化して、9000〜14000mg/lの範囲にあることを確認した。また、飽和濃度に達する時間はダストの組成および装置の撹拌条件により変化して、例えば、ダスト中のカルシウム濃度が高い場合は時間が長くなる。これは、ダスト内に強固な結合を持つCaF2が生成していることに起因すると考えられる。
【0028】
図3より、浸出処理を行ったスラリーからダストの固液分離を行って回収した洗浄処理後のダストは多くの水分を含み、その水分中にはアルカリ起因であるナトリウムイオンと共に、フッ素イオンを多量に含んでいることになる。この洗浄処理後のダストをさらに洗浄処理することで、これらの元素を洗い流すことが可能である。その際、pH調整を行っていない洗浄液(例えば水道水)を使用すると、ダストを洗浄している間に、pH低下が起こり、亜鉛、鉛、カドミウム等の金属が浸出して、濃度低下を招く。
【0029】
図1より、カドミウムの浸出が起こらない範囲はpH10〜13.5である。この範囲であれば、カドミウムの排出水基準である0.1mg/l以下を満足できる。つまり、ダストを洗浄する際の洗浄水のpHを10〜13、好ましくは10〜11に調整すれば、カドミウムの浸出は殆ど起こらない。pH調整剤としては、フッ素イオンの析出を起こさない水酸化ナトリウム水溶液もしくは水酸化カリウム水溶液が好ましい。pH10以下でダストを洗浄した場合には、洗浄廃液中にはカドミウムイオンが混入する。カドミウムイオンは図1より、中性〜酸性領域で析出しないため、例えば、硫化物イオンを投入し、硫化カドミウムとして析出させ、洗浄水中より分離することが必要となり、非常に非効率となる。
【0030】
以上より、ダストの洗浄処理では洗浄装置に、pH計、およびpH制御装置を装着して、常に適切なpHを保つことで、ダストを効率的に洗浄できる。
【0031】
次に、前記(III)の観点から、ダストの洗浄処理の効率的な終点判定方法について検討した。金属成分として亜鉛、鉛、カドミウムを含み、さらに、フッ素を2%以上含有するダストをpH11.5でフッ素の浸出処理を行い、ダストを分離回収した。次いで、新たにダスト量の重量で10倍量の洗浄液を回収したダストに加え、pH10.5に調整しながら、15分間の撹拌を行った後、さらにこのダストを分離して回収したのち、再度ダスト量の重量で10倍量の洗浄液を回収したダストに加え、pH10.5に調整しながら、15分間の撹拌を行った。図4は、洗浄後のダスト中のフッ素濃度とスラリー中のフッ素濃度の関係を示す。なお、ダスト中のフッ素濃度は洗浄後のダストを乾燥後、化学分析法の吸光光度法により分析した値で、分析結果が出るまで1週間を要した。一方、洗浄液のフッ素濃度は、装置に装備したフッ素イオン濃度計の指示値である。
【0032】
図4より多少のばらつきはあるが、両者は一次の相関関係にあり、スラリー中のフッ素濃度からダスト中のフッ素濃度を推定できる。例えば、ダスト中のフッ素濃度を0.5%以下にするには、スラリー中のフッ素濃度を500mg/l以下にすれば良いことがわかる。つまり、洗浄装置にフッ素イオン濃度計を装着し、濃度監視を行っていれば、ダストの洗浄処理の終点を把握できることになる。
【0033】
なお、スラリー中のフッ素濃度とダスト中のフッ素濃度の関係は、ダスト量に対する洗浄液の希釈倍率により変化する。ダスト中のフッ素濃度を同程度に低下させるには、希釈倍率が大きい場合は、スラリー中のフッ素濃度を希釈倍率が低い場合よりも下げる必要がある。そのため、前記フッ素濃度の下限は特に限定されないが、ダスト中のフッ素濃度を低減させるために大量の洗浄液が必要になるため、経済的な観点から前記下限を100mg/lに設定することが好ましい。
以上のように、洗浄処理を2回以上繰り返すことにより、ダスト中のフッ素濃度を所定のフッ素濃度以下にすることができる。もちろん、1回の洗浄処理により所定のフッ素濃度が得ることもできる。また、洗浄液の調整は特に限定されず、異なるpHに調整された洗浄液を予め複数準備しておいても良い。或いはpH値が10〜13のうちのいずれかに調整された単一種類の洗浄液を予め準備し、使用可能な洗浄液の量或いはスラリーの温度等の条件に応じて洗浄液のpH値を再調整した後、前記洗浄液を洗浄処理に使用しても良い。
【0034】
重金属成分として亜鉛、鉛、カドミウムを含み、さらに、フッ素を2%以上含有するダストと、アルカリ性洗浄液とを混合して、当該ダストからフッ素を浸出、洗浄する洗浄装置に関して、pH計、およびpH制御装置を装着し、さらにフッ素イオン濃度計、およびフッ素イオン濃度制御装置を装着することにより、ダストからのフッ素の浸出処理に対し、pH制御を効率よく行え、浸出処理の進行状況および終点を把握できる。更に、浸出処理に続く洗浄処理に関し、pH制御を効率よく行え、洗浄処理の進行状況、追加洗浄処理の必要性の有無を判断し、かつ目標のダスト中のフッ素濃度を達成することが可能になる。
【実施例】
【0035】
図5に概要図にて本発明のダスト洗浄方法を実施するための洗浄装置の例を示す。
本発明例では全ての洗浄処理を同じ槽にて行う装置例である。洗浄槽には、攪拌機M、pH計pH、フッ素イオン濃度計Fが備えられている。pH制御は、前記pH計pHによって測定されたダストスラリーのpH値が所定の範囲内になるように、NaOH水溶液タンクからポンプpを介して同水溶液を前記洗浄槽内に添加することによって行う。また、フッ素濃度制御は、フッ素濃度制御ユニットSによって行われ、前記フッ素イオン濃度計によって測定されたダストスラリーのフッ素イオン濃度が所定の範囲内になるように制御手段CによりバルブVの開閉を行い、水を前記洗浄槽内へ添加する量を制御することによって行う。また、装置は水位計WLを備え、水量の把握、制御が可能である。
【0036】
次に具体的な操作方法の例を説明する。重量を測定したフッ素を2%以上含むダスト(ここではフッ素を6.5%含むダストを用いた。)をダスト収納タンクTDから洗浄槽に投入し、ダスト量の5倍の水を加えて撹拌を開始する。攪拌中、スラリーへのNaOH水溶液の添加を行い、スラリーのpHを11.5に制御する。フッ素イオン濃度計Fにより、スラリーのフッ素濃度を監視し、12000mg/lのほぼ一定になった時点、すなわち、スラリーのフッ素濃度が飽和状態に達した時点で、凝集剤タンクからポンプpにより、市販の凝集剤を加えた後、撹拌を止めて静置し、固液分離を行う。
【0037】
界面計ILにて固液分離を確認してから、上澄み液を排水ポンプPで排水する。排水完了後、新たにダストの10倍量の水を加えて攪拌してスラリーとし、スラリーのpHを10.5に制御しながら、前記スラリーのフッ素濃度の推移を監視した。15分経過後でフッ素濃度は2500mg/lでほぼ一定になったので、凝集剤を加えた後、撹拌を止めて静置し、固液分離を行う。
【0038】
界面計ILにて固液分離を確認してから、上澄み液を排水ポンプPで排水する。排水完了後、新たにダストの5倍量の水を加えて攪拌してスラリーとし、スラリーのpHを10.5に制御しながら、スラリーのフッ素濃度の推移を監視した。10分経過後でフッ素濃度は600mg/lでほぼ一定になったが、まだフッ素の洗浄は不十分と考えられたので、水をさらに、ダスト量の5倍加え(計10倍量)、pHを10.5に制御して、フッ素濃度の推移を監視した。5分経過後でフッ素濃度は400mg/lでほぼ一定となった。
【0039】
これでダストのフッ素濃度は目標の0.5%以下を達成したと考えられたので、凝集剤を添加して、固液分離を行い、界面計ILにて監視しながら、上澄み液の排水を行った。排水後、洗浄後ダストの脱水を行い、洗浄を完了した。
【0040】
洗浄後ダストの化学分析を行ったところ、フッ素濃度は0.4%であり、目標濃度を達成した。また、洗浄前後のダストの成分バランスを確認したところ、亜鉛99%、鉛97%、カドミウム100%の歩留であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、還元鉄製造過程から排出されるダストや、都市ゴミ二次ダスト等のフッ素の含有量の高いダストから、環境に対して低負荷で、フッ素を安定して洗浄除去して低フッ素含有量とすることができ、該ダストを亜鉛製錬原料として、有効利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5