特許第6373311号(P6373311)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373311
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/38 20060101AFI20180806BHJP
   C04B 35/111 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   H01T13/38
   C04B35/111
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-156361(P2016-156361)
(22)【出願日】2016年8月9日
(65)【公開番号】特開2018-26230(P2018-26230A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2017年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】横山 裕
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦治
(72)【発明者】
【氏名】荒木 信良
(72)【発明者】
【氏名】黒野 啓一
(72)【発明者】
【氏名】佐治 俊匡
(72)【発明者】
【氏名】野村 裕介
(72)【発明者】
【氏名】井笹 純平
【審査官】 太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−44892(JP,A)
【文献】 特開2014−220136(JP,A)
【文献】 特開2016−23122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/38
C04B 35/111
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ結晶を含有するアルミナ基焼結体からなる絶縁体を有するスパークプラグであって、
前記アルミナ基焼結体は、酸化物換算で92質量%以上96質量%以下のAl成分と、
IUPAC1990年勧告に基づく周期表の第2族元素から選択される少なくとも3種の元素と、を含有し、且つ、前記少なくとも3種の元素のうちの1種が、酸化物換算で1.90質量%以上のBa成分であり、
前記アルミナ結晶の間に存在する粒界相に、
前記元素のうち少なくとも1種とSiとを含有する第1結晶相と、
前記元素のうち少なくとも1種とAlとを含有する第2結晶相(但し、第2結晶相はSiを含有するもの及び前記元素としてMgのみを含有するものを除く)とを含み、
前記アルミナ基焼結体のX線回折において、前記アルミナ結晶の最大の回折強度に対する、前記第1結晶相の最大の相対強度および前記第2結晶相の最大の相対強度は、いずれも2以上であることを特徴とするスパークプラグ。
【請求項2】
前記第1結晶相および前記第2結晶相は、前記元素の主成分がBaであることを特徴とする請求項1記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパークプラグに関し、特に耐電圧性能を向上できる絶縁体を有するスパークプラグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に使用されるスパークプラグは、例えば、アルミナを主成分とするアルミナ基焼結体からなる絶縁体を備えている。アルミナ基焼結体は、一般に、SiO及びMgO等を含む焼結助剤を含有する混合粉末の焼結により形成される(例えば特許文献1)。このようなアルミナ基焼結体において、焼結助剤は、主にアルミナ結晶の粒界に存在するガラスに含まれる。このようなガラスは低融点ガラス相として存在するため、特許文献1では、700℃程度の環境下において、この低融点ガラス相が軟化し絶縁体の耐電圧性能が低下する問題を考慮し、絶縁体材料を適宜設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−44892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記技術に対して、さらなる高温環境下(例えば900℃以上)での耐電圧性能の向上が求められている。
【0005】
本発明はこの要求に応えるためになされたものであり、さらなる高温環境下での耐電圧性能を向上できる絶縁体を有するスパークプラグを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために請求項1記載のスパークプラグは、アルミナ結晶を含有するアルミナ基焼結体からなる絶縁体を有する。アルミナ基焼結体は、酸化物換算で92質量%以上96質量%以下のAl成分と、IUPAC1990年勧告に基づく周期表の第2族元素から選択される少なくとも3種の元素とを含有し、且つ、少なくとも3種の元素のうちの1種が、酸化物換算で1.90質量%以上のBa成分である。そして、アルミナ結晶の間に存在する粒界相に、第2族元素のうち少なくとも1種とSiとを含有する第1結晶相と、第2族元素のうち少なくとも1種とAlとを含有する第2結晶相とを含む。但し、第2結晶相はSiを含有するもの及び第2族元素としてMgのみを含有するものを除く。さらに、アルミナ基焼結体のX線回折において、アルミナ結晶の最大の回折強度に対する、第1結晶相の最大の相対強度および第2結晶相の最大の相対強度は、いずれも2以上である。
【0007】
請求項2記載のスパークプラグは、請求項1において、第1結晶相および第2結晶相は第2族元素の主成分がBaである。
【発明の効果】
【0008】
第1結晶相は低融点のガラスを形成し易いSi成分を含むので、粒界相に存在する低融点のガラスを相対的に減少させる。粒界相に存在する第2結晶相は、軟化したガラスによる導電経路を分断する。よって、高温下での耐電圧性能を向上できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施の形態におけるスパークプラグの断面図である。
図2】耐電圧測定装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施における絶縁体13を備えるスパークプラグ10の軸線Oを含む断面図である。図1では、紙面下側をスパークプラグ10の先端側、紙面上側をスパークプラグ10の後端側という。図1に示すようにスパークプラグ10は、主体金具11、接地電極12、絶縁体13及び中心電極15を備えている。
【0011】
主体金具11は、内燃機関のねじ穴(図示せず)に固定される略円筒状の部材であり、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成されている。接地電極12は主体金具11に接合される金属製(例えばニッケル基合金製)の棒状の部材である。
【0012】
絶縁体13は、機械的特性や高温下の絶縁性に優れるアルミナ基焼結体からなる略円筒状の部材であり、外周に主体金具11が固定される。絶縁体13は、軸線Oに沿って貫通する軸孔14が形成されている。中心電極15は、軸孔14に挿入されると共に絶縁体13の先端側に保持される金属製の棒状の電極である。中心電極15は、接地電極12と火花ギャップを介して対向する。
【0013】
端子金具16は、高圧ケーブル(図示せず)が接続される棒状の部材であり、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成されている。端子金具16は絶縁体13に取り付けられ、端子金具16の先端側は軸孔14内に配置される。端子金具16は中心電極15と軸孔14内で電気的に接続される。
【0014】
絶縁体13を構成するアルミナ基焼結体は、Al成分、Si成分および周期表の第2族元素から選択される少なくとも3種の元素を含有し、且つ、少なくとも3種の元素のうちの1種がBa成分である。さらに、アルミナ基焼結体は、アルミナ結晶の間に存在する粒界相に、第1結晶相および第2結晶相(後述する)を含む。なお、粒界相とは、アルミナ結晶の間に存在するアルミナ結晶以外の結晶および非晶質(以下、ガラスとも言う)のことをいう。
【0015】
アルミナ基焼結体におけるAl成分の含有率は、アルミナ基焼結体の質量(酸化物換算)を100質量%としたときに酸化物換算で92質量%以上96質量%以下である。Ai成分の含有率をこの範囲とすることで、焼結性を確保すると共に良好な耐電圧性能を得ることができる。Al成分は主にアルミナとしてアルミナ基焼結体に存在し、第1結晶相や第2結晶相としても存在する。
【0016】
アルミナ基焼結体はSi成分を含有する。Si成分は焼結助剤由来の元素であり、酸化物やイオン等として焼結体に存在する。Si成分は、焼結時には溶融して通常液相を生じ、焼結体の緻密化を促進する焼結助剤として機能する。また、焼結後、Si成分はアルミナ結晶の間に存在する粒界相にガラス及び第1結晶相等を形成する。
【0017】
アルミナ基焼結体に含まれる第2族元素としては、入手のし易さの観点から、Mg,Ca,Sr及びBaが好適である。第2族元素は焼結助剤由来の元素であり、酸化物やイオン等としてアルミナ基焼結体に存在する。第2族元素は、焼結時、焼結体の緻密化を促進する焼結助剤として機能する。そして、アルミナ基焼結体は少なくとも3種の第2族元素を含有するので、焼結性を確保できる。
【0018】
さらに、少なくとも3種の第2族元素のうちの1種として含まれるBa成分の含有率は、アルミナ基焼結体の質量(酸化物換算)を100質量%としたときに酸化物換算で1.90質量%以上である。Ba成分の含有率をこの範囲とすることで、粒界相の結晶化を促進させ、高温下で軟化し易い粒界相のガラスの生成を抑制できる。
【0019】
第1結晶相は、第2族元素から選択される少なくとも1種の元素とSiとを必須の元素とする結晶からなる。第1結晶相としては、例えばCaAlSi,CaAlSiO,BaAlSi,SrAlSiが挙げられる。ここに例示したものは代表的な組成式であり、これら以外に化学量論比からずれたものも含まれる。また、第1結晶相中に第2族元素が複数含まれるものでも良い。第1結晶相はこれらのうちの1種または2種以上を含むことができる。第1結晶相は低融点のガラスを形成し易いSiを含むので、第1結晶相が粒界相に析出した分だけ、高温下で軟化し易い粒界相のガラスの量を相対的に減らすことができる。
【0020】
第1結晶相は、Baを第2族元素の主成分とするBaAlSi等が好適である。Al−SiO−第2族元素酸化物系において、第2族元素は、Ca,Sr,Ba,Mgの順にガラス化領域が狭くなる傾向があり(結晶化し易く)、BaはMgに比べてSiを含む結晶相が析出し易いからである。Baは、低融点のガラスを形成し易いSiと共に結晶相を形成し易いので、Siを含むガラスの量を相対的に減少させ易くできる。
【0021】
第2結晶相は、第2族元素から選択される少なくとも1種の元素とAlとを必須の元素とする結晶からなる。第2結晶相としては、例えばBaAl1219,SrAl1219,CaAl1219が挙げられる。ここに例示したものは代表的な組成式であり、これら以外に化学量論比からずれたものも含まれる。また、第2結晶相中に第2族元素が複数含まれるものでも良い。第2結晶相はこれらのうちの1種または2種以上を含むことができる。
【0022】
第2結晶相は長径が0.2〜3μm程度の比較的大きな板状結晶なので、軟化したガラスによる粒界相の導電経路を分断する。第1結晶相によって粒界相のガラスの量を減らし、軟化したガラスによる導電経路を第2結晶相によって分断できるので、高温下での絶縁体13の耐電圧性能を向上できる。
【0023】
但し、第2結晶相は、Siを含有するもの及び第2族元素としてMgのみを含有するもの(例えばMgAl)を除く。Siを含有する結晶相を除くのは、Siを含有する結晶相は第1結晶相に属するからである。第2族元素としてMgのみを含有する結晶相を除くのは、Mgのみを第2族元素として含有するものは結晶が球状なので、軟化したガラスによる粒界相の導電経路を分断する機能が乏しいからである。
【0024】
第2結晶相は、Baを第2族元素の主成分とするBaAl1219等が好適である。Baを含む第2結晶相は結晶化し易いので、粒界相の結晶化を促進する。その結果、高温下での絶縁体13の耐電圧性能の向上に寄与するからである。
【0025】
絶縁体13は、絶縁体13を構成するアルミナ基焼結体の断面または研磨面のX線回折において、アルミナ結晶の最大の回折強度Aに対する、第1結晶相の最大の回折強度Bの相対強度を2以上とする。同様に、アルミナ結晶の最大の回折強度Aに対する、第2結晶相の最大の回折強度Cの相対強度を2以上とする。アルミナ結晶に対する第1結晶相および第2結晶相の含有率を確保し、高温下での絶縁体13の耐電圧性能を向上させるためである。
【0026】
アルミナ結晶、第1結晶相および第2結晶相の回折強度は、X線回折法によって以下のように測定できる。絶縁体13の任意の断面または研磨面にX線を入射し、X線回折図形を得る。得られたX線回折図形と既知物質のX線回折図形とを比較することにより結晶相(アルミナ結晶、第1結晶相および第2結晶相)を同定する。
【0027】
アルミナ結晶の複数の回折線のうち最も強度の大きい回折線の回折強度Aを求める。第1結晶相の複数の回折線のうち最も強度の大きい回折強度Bを求める。第2結晶相の複数の回折線のうち最も強度の大きい回折強度Cを求める。回折強度は、バックグラウンドを除去した回折線のピークプロファイルから求める。第1結晶相の最大の相対強度は、回折強度A,Bを使ってB/A×100により求められる。第2結晶相の最大の相対強度は、回折強度A,Cを使ってC/A×100により求められる。
【0028】
なお、第1結晶相または第2結晶相に複数の物質が含まれる場合(例えば、第1結晶相としてCaAlSi及びBaAlSiが含まれる場合)、それぞれの物質の最大の相対強度を求め、その和を第1結晶相の相対強度または第2結晶相の相対強度とする。
【0029】
次に、絶縁体13及びスパークプラグ10の製造方法について具体的に説明する。絶縁体13の原料粉末として、主成分としてのAl化合物粉末とSi化合物粉末と第2族元素化合物粉末と、バインダーと、溶媒とを混合して、スラリーを調製する。必要に応じて、可塑剤、消泡剤、分散剤等の添加物を添加してもよい。各原料粉末の混合は、原料粉末の混合状態を均一にし、かつ得られる焼結体を高度に緻密化することができるように、8時間以上にわたって行われるのが好ましい。
【0030】
Al化合物粉末は、焼成によりアルミナ(Al)に転化する化合物であれば特に制限はなく、通常、アルミナ粉末が用いられる。Al化合物粉末は、現実的に不可避不純物としてNa成分を含有していることがあるので、高純度のものを用いるのが好ましく、例えば、Al化合物粉末における純度は99.5%以上であるのが好ましい。
【0031】
Al化合物粉末は、緻密なアルミナ基焼結体を得るには、通常、その平均粒径が0.1〜5.0μmの粉末を使用するのがよい。この平均粒径は、レーザー回折法(日機装株式会社製、マイクロトラック粒度分布測定装置(MT−3000))により測定した値である。
【0032】
Al化合物粉末は、焼成後のアルミナ基焼結体の質量(酸化物換算)を100質量%としたときに、酸化物換算で92質量%以上96質量%以下となるように調製されることが、良好な耐電圧性能を得る上で好ましい。
【0033】
Si化合物粉末は、焼成によりSiの酸化物に転化できる化合物であれば特に制限はなく、例えば、Siの酸化物、その複合酸化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等の各種無機系粉末、又は天然鉱物の粉末等を挙げることができる。なお、Si化合物粉末として酸化物以外の粉末を使用する場合には、その使用量は酸化物に換算したときの質量%で把握する。Si化合物粉末の純度および平均粒径はAl化合物粉末の場合と基本的に同様である。
【0034】
第2族化合物粉末は、焼成により第2族元素の酸化物に転化できる化合物であれば特に制限はなく、例えば、第2族元素の酸化物、その複合酸化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等の各種無機系粉末、又は天然鉱物等を挙げることができる。なお、第2族化合物粉末として酸化物以外の粉末を使用する場合には、その使用量は酸化物に換算したときの質量%で把握する。第2族化合物粉末の純度および平均粒径はAl化合物粉末の場合と基本的に同様である。
【0035】
バインダーは、原料粉末の成形性を良好にすることができればよく、そのようなバインダーとして親水性結合剤を挙げることができる。親水性結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、水溶性アクリル樹脂、アラビアゴム、デキストリン等を挙げることができる。これらのバインダーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
バインダーとしては、第1結晶相および第2結晶相の結晶化を阻害しないように、Na成分およびK成分の少ないものを使用するのが好ましい。バインダーは、原料粉末100質量部に対して、0.1〜7質量部の割合で配合されるのが好ましく、1〜5質量部の割合で配合されるのが特に好ましい。
【0037】
溶媒は、原料粉末を分散させることができればよく、そのような溶媒として水、アルコール等を挙げることができる。これらの溶媒は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。溶媒は、原料粉末100質量部に対して、40〜120質量部であるのが好ましく、50〜100質量部であるのが特に好ましい。
【0038】
このようにして得られたスラリーは、スプレードライ法等により噴霧乾燥されて球状の造粒物に調製される。この造粒物の平均粒径は、30〜200μmが好ましく、50〜150μmが特に好ましい。この平均粒径は、レーザー回折法(日機装株式会社製、マイクロトラック粒度分布測定装置(MT−3000))により測定した値である。
【0039】
次に、この造粒物を例えばラバープレス又は金型プレス等でプレス成形して成形体を得る。得られた成形体は、その外面がレジノイド砥石等で研削されることにより形状が整えられる。なお、成形体の成形方法はプレス成形に限られるものではなく、射出成形等の他の成形方法を採用することは当然可能である。
【0040】
所望の形状に整形された成形体を、大気雰囲気下、1450〜1650℃で1〜8時間焼成し、冷却速度5〜30℃/分で1200℃まで冷却し、その後常温まで自然冷却することにより、アルミナ基焼結体が得られる。焼成温度が1450〜1650℃であると、焼結体が十分に緻密化し易く、アルミナの異常粒成長が生じ難いので、得られるアルミナ基焼結体の耐電圧性能および機械的強度を確保できる。
【0041】
焼成時間が1〜8時間であると、焼結体が十分に緻密化し易く、アルミナの異常粒成長が生じ難いので、得られるアルミナ基焼結体の耐電圧性能および機械的強度を確保できる。焼成温度から1200℃までの平均冷却速度が30℃/分以下であると、粒界相に第1結晶相および第2結晶相が析出し易くなり、良好な耐電圧特性を有するアルミナ基焼結体を得ることができる。アルミナ基焼結体は、所望により、再度、その形状等が成形されてもよい。このようにして絶縁体13が製造される。
【0042】
一方、Ni基合金等の電極材料を所定の形状および寸法に加工して接地電極12及び中心電極15を作製する。所定の形状および寸法に塑性加工等によって形成した主体金具11に接地電極12を抵抗溶接等によって接合する。絶縁体13に中心電極15及び端子金具16を公知の方法により組み付け、接地電極12が接合された主体金具11に絶縁体13を組み付ける。接地電極12の先端部を中心電極15側に折り曲げて、接地電極12の先端が中心電極15の先端と対向するようにして、スパークプラグ10が製造される。
【実施例】
【0043】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(アルミナ基焼結体の製造)
原料粉末として、平均粒径が0.2〜2.1μmのアルミナ(Al)粉末、Si化合物粉末としてSiO粉末、第2族元素化合物粉末としてBa,Ca,Mgの炭酸塩粉末を準備した。これらの粉末を種々の割合で混合した原料粉末と、バインダーとしてのポリビニルアルコールと、溶媒としての水とを混合して種々のスラリーを調製した。
【0045】
得られたスラリーをスプレードライ法等により噴霧乾燥し、平均粒径が約100μmの球状の造粒物に調製した。得られた造粒物をプレス成形することにより、種々の円板状の成形体と有底筒状の成形体とを得た。この成形体を大気雰囲気下において、焼成温度1450℃〜1650℃の範囲内で焼成時間を1〜8時間に設定して焼成し、焼成温度から1200℃までの平均冷却速度を5〜30℃/分の範囲内の一定条件に設定して冷却し、さらに常温まで自然冷却した。
【0046】
これにより、サンプルNo.1〜30における直径18mm、厚さ0.3〜0.5mmの円板状のアルミナ基焼結体(成分分析用)と、サンプルNo.1〜30における有底筒状のアルミナ基焼結体(耐電圧測定用)とを得た。
【0047】
(成分分析)
得られた円板状のアルミナ基焼結体(成分分析用)それぞれの組成、即ち各成分の含有率を蛍光X線分析法により検出した。検出された各成分の酸化物換算の質量の合計を100質量%としたときの質量割合(%)として、各成分の含有率を算出した。その結果、表1に示される各成分の含有率(計算値)は、原料粉末の混合割合とほぼ一致した。
【0048】
【表1】
(X線回折)
円板状の各アルミナ基焼結体(成分分析用)に研磨処理を施した後、株式会社リガク製のX線回折装置(型式:Smart Lab)を用いて、X線:CuKα(λ1.54Å)、X線出力:40kV−30mA、スキャンスピード(計数時間):5.0、サンプリング幅:0.02deg、入射スリット:1/2deg、受光スリット(1):15.000mm、受光スリット(2):20.000mmの測定条件で、アルミナ基焼結体の断面のX線回折分析をした。
【0049】
得られたX線回折図形をJCPDSカードと比較等して、結晶相を同定した。その結果、各アルミナ基焼結体の粒界相に、表1に示す第1結晶相、第2結晶相およびその他の結晶相が存在していることを確認した。
【0050】
表1の結晶相の欄に示す記号T,U,V,Wは、表1の欄外に示す第1結晶相に属する化合物を示す。表1の結晶相の欄に示す記号X,Yは、表1の欄外に示す第2結晶相に属する化合物を示す。表1の結晶相の欄に示す記号Zは、表1の欄外に示す第1結晶相、第2結晶相のいずれにも属しない化合物(その他の化合物)を示す。
【0051】
X線回折図形における各ピークの回折強度は、株式会社リガク製のデータ解析ソフト「ピークサーチ」を用い、平滑化:加重平均(平滑化点数11)、バックグラウンド除去(ピーク幅閾値0.10、強度閾値0.01)の条件でデータ処理することにより求めた。
【0052】
アルミナ結晶の複数の回折線のうち最も大きい回折強度Aに対する、第1結晶相の複数の回折線のうち最も大きい回折強度Bの相対強度(B/A×100)を求めた。同様に、アルミナ結晶の複数の回折線のうち最も大きい回折強度Aに対する、第2結晶相の複数の回折線のうち最も大きい回折強度Cの相対強度(C/A×100)を求めた。第1結晶相および第2結晶相の相対強度を表1に示した。
【0053】
なお、サンプル3などのように、第1結晶相に複数の化合物(サンプル3ではT,V)が含まれる場合、それぞれの化合物の複数の回折線のうち最も大きい回折強度の相対強度を求め、その相対強度の和を第1結晶相の相対強度とした。
【0054】
(耐電圧試験)
図2に示す耐電圧試験装置20を用いて、サンプルNo.1〜30における有底筒状のアルミナ基焼結体31(耐電圧測定用)の900℃における高温耐電圧試験を行った。図2は耐電圧試験装置20の断面図である。
【0055】
図2に示すように、アルミナ基焼結体31は軸線方向の中心に軸孔32が形成されている。軸孔32は先端が塞がれている。アルミナ基焼結体31は、軸孔32の先端の開口が塞がれた円筒状の小径部33と、小径部33よりも外径が大きい円筒状の大径部34とを備えている。小径部33及び大径部34は軸線方向に連接されている。耐電圧測定装置20は、金属製の環状部材21と、環状部材21を加熱するヒータ22と、環状部材21との間に高電圧が印加される棒状の電極23とを備えている。電極23はNi合金製である。
【0056】
アルミナ基焼結体31の軸孔32の開口から軸孔32の先端まで電極23を挿入し、アルミナ基焼結体31の小径部33と大径部34との境界付近の外周面に環状部材21の内周面が接するように環状部材21を配置した状態で、アルミナ基焼結体31の耐電圧を測定した。
【0057】
具体的には、アルミナ基焼結体31の周囲が900℃になるまでヒータ22で加熱した状態で、環状部材21と電極23との間に電圧を印加した。電圧は1.5kV/秒の割合で昇圧し、アルミナ基焼結体31に絶縁破壊が発生したとき、即ちアルミナ基焼結体31が貫通して昇圧できなくなったときの電圧値を測定した。
【0058】
絶縁破壊したアルミナ基焼結体31を耐電圧試験装置20から取り出し、絶縁破壊して貫通した部分のアルミナ基焼結体31の外周面から軸孔32までの厚さを測定した。絶縁破壊が発生したときの電圧値を厚さで除した値(kV/mm)を耐電圧として表1に示した。
【0059】
この試験では、耐電圧が50kV/mm以上55kV/mm未満のサンプルを「良い(●)」、55kV/mm以上58kV/mm未満のサンプルを「優れている(○)」、58kV/mm以上のサンプルを「特に優れている(◎)」、50kV/mm未満のサンプルを「劣る(×)」と評価した。
【0060】
表1に示すようにサンプル1〜21は、酸化物換算で92質量%以上96質量%以下のAl成分、酸化物換算で1.90質量%以上のBa成分、3種の第2族元素(Mg,Ba,Ca)、第1結晶相および第2結晶相を含有していた。サンプル1〜21は、X線回折における第1結晶相および第2結晶相の相対強度は2以上であり、いずれも耐電圧が50kV/mm以上(評価は●,○又は◎)であった。
【0061】
一方、酸化物換算でBa成分が1.90質量%未満のサンプル22,23,25,26,29、第2族元素を2種(Ba,Ca)しか含んでいないサンプル24、第2結晶相を含まないサンプル27,28、酸化物換算でAlが92質量%未満のサンプル30は、いずれも耐電圧が50kV/mm未満(評価は×)であった。
【0062】
サンプル22〜30のうちサンプル23,24を除くサンプルは、第1結晶相および第2結晶相のいずれかが検出されなかった。これらのサンプルは、粒界相の結晶化が不十分であったため、粒界相に残存するガラスの影響で耐電圧が低くなったと推察される。
【0063】
サンプル23は、ガラス相の基になるSiOの含有量が多く、また第2族元素の中でも結晶化し易いBaOが少ないため、第1結晶相および第2結晶相を両方とも析出できずに耐電圧が低くなったと推察される。
【0064】
サンプル24は、第1結晶相および第2結晶相の相対強度はいずれも2以上であった。しかし、MgOを含まないので、アルミナ結晶の緻密化が進まず、耐電圧が低くなったものと推察される。
【0065】
これに対しサンプル1〜21は、いずれも耐電圧が50kV/mm以上であった。特に第1結晶相の相対強度が2以上、且つ、第2結晶相の相対強度が4以上のサンプル4〜21は、耐電圧が55kV/mm以上であった(評価は○又は◎)。また、第1結晶相の相対強度が8以上、且つ、第2結晶相の相対強度が12以上のサンプル9〜16は、耐電圧が58kV/mm以上であった(評価は◎)。
【0066】
この実施例から、酸化物換算で92質量%以上96質量%以下のAl成分、少なくとも3種の第2族元素、第2族元素の1種が酸化物換算で1.90質量%以上のBa成分、第1結晶相および第2結晶相を含有し、X線回折における第1結晶相および第2結晶相の相対強度が2以上であると、900℃という高温環境下での耐電圧性能を向上できることがわかった。
【0067】
なお、この実施例では3種の第2族元素(Mg,Ba,Ca)を配合した絶縁体の試験結果を説明したが、4種(例えばMg,Ca,Sr及びBa)以上の第2族元素を配合した絶縁体であっても、同様の試験結果が得られるものと推察される。
【0068】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0069】
上記実施の形態では、絶縁体13の先端が中心電極15の先端よりも後端側に位置する(中心電極15が軸孔14から突出する)スパークプラグ10について説明した。しかし、必ずしもこれに限られるものではない。中心電極15の先端が絶縁体13の軸孔14の中に収められたスパークプラグを製造する場合にも、上記の絶縁体13を適用することは当然可能である。
【0070】
上記実施の形態では、絶縁体13の先端が主体金具11の先端よりも突出するスパークプラグ10について説明した。しかし、必ずしもこれに限られるものではない。絶縁体13の先端が主体金具11に収められた(主体金具11の先端が絶縁体13の先端よりも突出する)スパークプラグを製造する場合にも、上記の絶縁体13を適用することは当然可能である。
【符号の説明】
【0071】
10 スパークプラグ
13 絶縁体
図1
図2