(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年の内燃機関の燃費向上やエミッションの低減のために、燃料ガスの希薄化や排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)技術の採用などが進んでいる。このために、点火プラグの着火性能のさらなる向上が求められている。
【0006】
本明細書は、内燃機関に用いられる点火プラグの着火性能を向上する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、以下の適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]軸線方向に沿って延びる軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記軸線方向に沿って延び、前記軸孔の先端側に配置される棒状の中心電極と、
前記絶縁体の外周に配置される主体金具と、
前記主体金具の先端に接続された接続端部と、前記接続端部とは反対側で、前記中心電極との間に間隙を形成して対向する自由端部と、を備える棒状の接地電極と、
を備える点火プラグであって、
前記絶縁体は、先端が前記中心電極の先端より後端側に位置する筒状の本体部と、周方向の一部分において前記本体部の先端から先端側に突出し、先端が前記中心電極の先端より先端側に位置する突出部と、を備え、
前記軸線と垂直で、前記中心電極の先端を通る断面において、
前記突出部の少なくとも一部は、前記中心電極の中心から前記接地電極に対して引かれた2本の接線の間に位置し、
前記突出部は、前記中心電極の周囲のうちの(1/3)以下の範囲を覆っていることを特徴とする、点火プラグ。
【0009】
上記構成によれば、中心電極と接地電極との間の間隙に発生した火花放電や該火花放電に起因するプラズマを、突出部によって方向付けすることができる。この結果、火花放電やプラズマが接地電極に向かうことを抑制し、火花放電やプラズマを接地電極から遠ざけることができる。また、突出部が電極20の周囲を覆う範囲は(1/3)以下であるので、突出部による消炎作用が過度に大きくなることもない。この結果、接地電極による消炎作用を抑制して、点火プラグの着火性能を向上することができる。
【0010】
[適用例2]適用例1に記載の点火プラグであって、
前記断面において、
前記突出部は、前記中心電極の周囲のうちの(1/6)以上の範囲を覆っていることを特徴とする、点火プラグ。
【0011】
上記構成によれば、中心電極の周囲のうちの十分に広い範囲に、突出部が配置されるので、火花放電やプラズマをより効果的に接地電極から遠ざけることができる。この結果、さらに、点火プラグの着火性能を向上することができる。
【0012】
[適用例3]適用例1または2に記載の点火プラグであって、
前記突出部の前記軸線方向における前記中心電極の先端からの突出量をHとし、
前記間隙の最短距離をGとするとき、
0.15≦(H/G)≦0.5を満たすことを特徴とする、点火プラグ。
【0013】
上記構成によれば、突出部によって、火花放電やプラズマが消炎されることを抑制できる。この結果、さらに、点火プラグの着火性能を向上することができる。
【0014】
[適用例4]適用例1〜3のいずれか1項に記載の点火プラグであって、
前記断面において、
前記突出部は、前記接地電極に対して引かれた2本の接線の間の全ての範囲に亘って位置していることを特徴とする、点火プラグ。
【0015】
上記構成によれば、接地電極に対して引かれた2本の接線との間の全ての範囲に亘って、突出部が位置しているので、火花放電やプラズマをさらに効果的に接地電極から遠ざけることができる。この結果、さらに、点火プラグの着火性能を向上することができる。
【0016】
[適用例5]適用例1〜4のいずれか1項に記載の点火プラグであって、
前記軸線と垂直な平面に前記接地電極と前記中心電極とを投影させた場合において、前記接地電極の前記接続端部から前記自由端部に向かう方向を第1方向とし、前記第1方向の反対方向を第2方向とするとき、
前記中心電極の放電面の前記第1方向の端は、前記自由端部よりも前記第1方向側に位置することを特徴とする、点火プラグ。
【0017】
上記構成によれば、中心電極の第1方向の端は、接地電極の自由端部よりも第1方向側に位置するので、火花放電やプラズマが先端側へ広がることが、接地電極によって妨げられることを効果的に抑制できる。この結果、さらに、点火プラグの着火性能を向上することができる。
【0018】
[適用例6]適用例1〜5のいずれか1項に記載の点火プラグと、
前記点火プラグに電力を供給する電源装置と、を備える点火システムであって、
前記電源装置は、前記間隙に火花放電を発生させるための電力を供給する第1電源と、前記第1電源による電力の供給後に、前記間隙に発生した火花放電に、前記第1電源とは別に電力を供給する第2電源と、を含むことを特徴とする点火システム。
【0019】
上記構成によれば、第1電源による電力の供給後に、発生した火花放電に、第1の電源とは別に電力が供給されるので、点火プラグの着火性能をより向上することができる。
【0020】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、点火プラグや点火プラグを用いた点火装置、その点火プラグを搭載する内燃機関や、その点火プラグを用いた点火装置を搭載する内燃機関等の態様で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
A.第1実施形態:
A−1.点火システムの構成:
図1は、本実施形態の点火システムのブロック図である。点火システム600は、点火プラグ100と、放電用電源640と、高周波電源650と、混合回路660と、インピーダンスマッチング回路670と、制御装置680と、点火プラグ100の端子金具と接続されたプラグコード690と、を備えている。
【0023】
放電用電源640は、図示しないバッテリと混合回路660とに接続されている。放電用電源640は、例えば、点火コイルを含み、バッテリの電力を用いて比較的高電圧、例えば、5kVから30kVのトリガ電圧を生成する。生成されたトリガ電圧は、混合回路660とプラグコード690とを介して点火プラグ100に供給される。
【0024】
高周波電源650は、図示しないバッテリとインピーダンスマッチング回路670とに接続されている。高周波電源650は、例えば、DC/ACコンバータを含み、バッテリの電力を用いて比較的高周波数(例えば、50kHz〜100MHz)の電圧(本実施形態では、交流電圧)を生成する。生成された交流電圧は、インピーダンスマッチング回路670と混合回路660とプラグコード690とを介して点火プラグ100に供給される。
【0025】
インピーダンスマッチング回路670は、混合回路660と高周波電源650とに接続されている。インピーダンスマッチング回路670は、高周波電源650側の出力インピーダンスと混合回路660側の入力インピーダンスとを整合させる。これによって、点火プラグ100に供給される交流電圧の減衰が抑制される。
【0026】
混合回路660は、放電用電源640とインピーダンスマッチング回路670とプラグコード690とに接続されている。混合回路660は、放電用電源640(第1電源とも呼ぶ)とプラグコード690との間に接続されたコイル662と、インピーダンスマッチング回路670とプラグコード690との間に接続されたコンデンサ663と、を備えている。混合回路660は、放電用電源640と高周波電源650(第2電源とも呼ぶ)との一方から他方へ電流が流れることを抑制しつつ、放電用電源640からのトリガ電圧と高周波電源650から交流電圧との双方を、プラグコード690を介して点火プラグ100に供給する。コイル662は、放電用電源640からの比較的低周波数の電流が流れることを許容し、高周波電源650からの比較的高周波数の電流が流れることを抑制する。コンデンサ663は、高周波電源650からの比較的高周波数の電流が流れることを許容し、放電用電源640からの比較的低周波数の電流が流れることを抑制する。尚、放電用電源640に含まれる点火コイルによって、コイル662が代用されても良い。
【0027】
制御装置680は、放電用電源640と高周波電源650とに接続されている。制御装置680は、例えば、プロセッサとメモリとを含むコンピュータである。制御装置680は、放電用電源640から点火プラグ100にトリガ電圧が供給されるタイミングと、高周波電源650から点火プラグ100に交流電圧が供給されるタイミングと、を制御する。
【0028】
点火システム600の動作を簡単に説明する。制御装置680は、放電用電源640を制御して、トリガ電圧を点火プラグ100に供給する。この結果、点火プラグ100の中心電極と接地電極との間にトリガ電圧が供給され、これらの電極間の間隙にて絶縁破壊による火花放電が発生する。絶縁破壊による火花放電をトリガ放電とも呼ぶ。制御装置680は、トリガ電圧の供給直後に、高周波電源650を制御して、交流電圧を点火プラグ100に供給する。この結果、トリガ電圧により発生したトリガ放電に、交流電圧のエネルギーが供給されてプラズマが生成される。生成されたプラズマのエネルギーによって、内燃機関の燃焼室内の混合気へ点火される。このような点火システム600で利用される点火プラグ100は、高周波プラズマプラグとも呼ばれる。
【0029】
このように、放電用電源640は、火花放電を発生させるための電力を供給する電源であり、高周波電源650は、発生した火花放電に、放電用電源640とは別に電力を供給する電源である、と言うことができる。
【0030】
なお、本実施形態の高周波電源650は、交流電圧を生成するが、交流電圧に代えて、複数個の矩形のパルス電圧を含む電圧を生成しても良い。交流電圧や、複数個の矩形のパルス電圧を含む電圧は、いずれも複数個のピーク電圧を含む電圧であると言うことができる。すなわち、高周波電源650は、高周波の複数のピーク電圧を含む電圧(例えば、交流電圧やパルス電圧)を生成すれば良い。放電用電源640と高周波電源650との全体は、トリガ放電用のトリガ電圧と、プラズマ生成用の複数のピーク電圧と、を点火プラグ100に供給する電圧供給部と、呼ぶことができる。
【0031】
A−2.点火プラグの構成:
図2は、実施形態の点火プラグの一例の断面図である。図示されたラインCOは、点火プラグ100の軸線を示している。図示された断面は、軸線COを含む断面である。軸線COと平行な方向を「軸線方向」とも呼ぶ。軸線COを中心とし軸線COと垂直な面上の円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、当該円の円周方向を「周方向」とも呼ぶ。軸線COと平行な方向のうち、
図1における下方向を先端方向FDと呼び、上方向を後端方向BDとも呼ぶ。先端方向FDは、後述する端子金具40から電極20、30に向かう方向である。また、先端方向FD側を点火プラグ100の先端側と呼び、後端方向BD側を点火プラグ100の後端側と呼ぶ。
【0032】
点火プラグ100は、内燃機関に取り付けられ、内燃機関の燃焼室内の燃焼ガスに着火するために用いられる。点火プラグ100は、絶縁体10と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50と、を備える。
【0033】
絶縁体10はアルミナ等を焼成して形成されている。絶縁体10は、軸線方向に沿って延び、絶縁体10を貫通する貫通孔である軸孔12を有する略円筒状の部材である。絶縁体10は、鍔部19と、後端側胴部18と、先端側胴部17と、段部15と、脚長部13と、を備えている。後端側胴部18は、鍔部19より後端側に位置し、鍔部19の外径より小さな外径を有している。先端側胴部17は、鍔部19より先端側に位置し、鍔部19の外径より小さな外径を有している。脚長部13は、先端側胴部17より先端側に位置し、先端側胴部17の外径よりも小さな外径を有している。脚長部13は、点火プラグ100が内燃機関(図示せず)に取り付けられた際には、その燃焼室に曝される。段部15は、脚長部13と先端側胴部17との間に形成されている。
【0034】
主体金具50は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼材)で形成され、内燃機関のエンジンヘッド(図示省略)に点火プラグ100を固定するための略円筒状の部材である。主体金具50は、軸線COに沿って貫通する挿入孔59が形成されている。主体金具50は、絶縁体10の外周に配置される。すなわち、主体金具50の挿入孔59内に、絶縁体10が挿入・保持されている。絶縁体10の先端は、主体金具50の先端より先端側に突出している。絶縁体10の後端は、主体金具50の後端より後端側に突出している。
【0035】
主体金具50は、プラグレンチが係合する六角柱形状の工具係合部51と、内燃機関に取り付けるための取付ネジ部52と、工具係合部51と取付ネジ部52との間に形成された鍔状の座部54と、を備えている。取付ネジ部52の呼び径は、例えば、M8(8mm(ミリメートル))、M10、M12、M14、M18のいずれかとされている。
【0036】
主体金具50の取付ネジ部52と座部54との間には、金属板を折り曲げて形成された環状のガスケット5が嵌挿されている。ガスケット5は、点火プラグ100が内燃機関に取り付けられた際に、点火プラグ100と内燃機関(エンジンヘッド)との隙間を封止する。
【0037】
主体金具50は、さらに、工具係合部51の後端側に設けられた薄肉の加締部53と、座部54と工具係合部51との間に設けられた薄肉の圧縮変形部58と、を備えている。主体金具50における工具係合部51から加締部53に至る部位の内周面と、絶縁体10の後端側胴部18の外周面との間に形成される環状の領域には、環状のリング部材6,7が配置されている。当該領域における2つのリング部材6、7の間には、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。加締部53の後端は、径方向内側に折り曲げられて、絶縁体10の外周面に固定されている。主体金具50の圧縮変形部58は、製造時において、絶縁体10の外周面に固定された加締部53が先端側に押圧されることにより、圧縮変形する。圧縮変形部58の圧縮変形によって、リング部材6、7およびタルク9を介し、絶縁体10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。金属製の環状の板パッキン8を介して、主体金具50の取付ネジ部52の内周に形成された段部56(金具側段部)によって、絶縁体10の段部15(絶縁碍子側段部)が押圧される。この結果、内燃機関の燃焼室内のガスが、主体金具50と絶縁体10との隙間から外部に漏れることが、板パッキン8によって防止される。
【0038】
中心電極20は、軸線方向に延びる棒状の中心電極本体21と、中心電極本体21の先端に接合された円柱状の中心電極チップ29と、を備えている。したがって、本実施形態では、中心電極20の先端は、中心電極チップ29の先端(後述する第1放電面295)である。中心電極本体21は、絶縁体10の軸孔12の内部の先端側の部分に配置されている。中心電極本体21は、電極母材21Aと、電極母材21Aの内部に埋設された芯部21Bと、を含む構造を有する。電極母材21Aは、例えば、ニッケル(Ni)またはNiを主成分とする合金(例えば、NCF600、NCF601)を用いて形成されている。芯部21Bは、電極母材21Aを形成する合金よりも熱伝導性に優れる銅または銅を主成分とする合金、本実施形態では、銅で形成されている。
【0039】
また、中心電極本体21は、軸線方向の所定の位置に設けられた鍔部24(フランジ部とも呼ぶ。)、鍔部24よりも後端側の部分である頭部23(電極頭部)と、鍔部24よりも先端側の部分である脚部25(電極脚部)と、を備えている。鍔部24は、絶縁体10の段部16に支持されている。脚部25の先端部分、すなわち、中心電極本体21の先端は、絶縁体10の先端より先端側に突出している。
【0040】
中心電極チップ29は、略円柱形状を有する部材であり、中心電極本体21の先端(脚部25の先端)に、例えば、レーザ溶接を用いて、接合されている。中心電極チップ29の先端面は、後述する接地電極チップ39の第2放電面395との間で火花ギャップを形成する第1放電面295である。火花ギャップは、第1放電面295と第2放電面395との間の間隙であり、燃焼ガスに着火するための火花放電が発生する部位である。
【0041】
中心電極チップ29は、高融点の貴金属を主成分とする材料で形成されている。中心電極チップ29は、例えば、イリジウム(Ir)や白金などの貴金属や、当該貴金属を主成分とする合金が用いて、形成されている。
【0042】
接地電極30は、接地電極本体31と、接地電極チップ39と、を備えている。接地電極本体31は、断面が四角形の棒状体である。接地電極本体31は、両端面として、接続端面311と、接続端面311の反対側に位置する自由端面312と、を有している。接続端面311は、主体金具50の先端面50Aに、例えば、抵抗溶接によって、接合されている。これによって、主体金具50と接地電極本体31とは、電気的に接続される。
【0043】
接地電極本体31は、例えば、NiまたはNiを主成分とする合金(例えば、NCF600、NCF601)を用いて形成されている。接地電極本体31は、耐腐食性の高い金属(例えば、NiまたはNi合金)で形成された母材と、熱伝導性が高い金属(例えば、銅)を用いて形成され、母材に埋設された芯部と、を含む2層構造を有しても良い。
【0044】
接地電極チップ39は、接地電極本体31の自由端面312の近傍において、自由端面312と交差する側面のうち、中心電極20の第1放電面295と対向する側面に沿って配置されている。接地電極チップ39は、上述した第1放電面295と対向する第2放電面395を有している。接地電極チップ39は、高融点の貴金属を主成分とする材料で形成されている。接地電極チップ39は、例えば、イリジウム(Ir)や白金などの貴金属や、当該貴金属を主成分とする合金が用いて、形成されている。
【0045】
端子金具40は、軸線方向に延びる棒状の部材である。端子金具40は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼)で形成され、端子金具40の表面には、防食のための金属層(例えば、Ni層)がめっきなどによって形成されている。端子金具40は、軸線方向の所定位置に形成された鍔部42(端子顎部)と、鍔部42より後端側に位置するキャップ装着部41と、鍔部42より先端側の脚部43(端子脚部)と、を備えている。端子金具40のキャップ装着部41は、絶縁体10より後端側に露出している。端子金具40の脚部43は、絶縁体10の軸孔12に挿入されている。キャップ装着部41には、プラグコード690が接続されたプラグキャップが装着され、上述したトリガ電圧や交流電圧が供給される。
【0046】
絶縁体10の軸孔12内において、端子金具40の先端(脚部43の先端)と中心電極20の後端(頭部23の後端)との間は、導電性シール60によって埋められている。導電性シール60は、例えば、B
2O
3−SiO
2系等のガラス粒子と金属粒子(Cu、Feなど)とを含む組成物で形成されている。
【0047】
A−3.点火プラグ100の先端部分の構成:
上記の点火プラグ100の先端近傍の構成について、さらに、詳細に説明する。
図3は、点火プラグ100の先端近傍の構成の説明図である。
図3(A)には、点火プラグ100の先端近傍の断面CFAが示されている。この断面CFAは、点火プラグ100の軸線COを含み、かつ、棒状の接地電極本体31の軸線と平行な断面である。
図3(B)には、点火プラグ100の先端近傍を、軸線COに沿って後端方向BDに向かって見た図である。
図3(B)では、図の煩雑を避けるため、主体金具50については、先端面50Aのみを図示している。同様に、
図3(B)では、絶縁体10については、脚長部13のうち、主体金具50の先端面50Aより先端側の部分のみを図示し、中心電極20については、中心電極チップ29のみを図示している。
図3(B)の一点破線は、
図3(A)の断面CFAを示している。
図4は、絶縁体10の先端近傍の斜視図である。
【0048】
図3(A)に示すように、接地電極30のうち、接地電極本体31の自由端面312の近傍を、自由端部31Bとも呼ぶ。接地電極30のうち、接地電極本体31の接続端面311の近傍を、接続端部31Aとも呼ぶ。自由端部31Bは、中心電極20のより先端側に位置し、接地電極チップ39を含む部分である。自由端部31Bは、軸線COと垂直な方向に延びている。接続端部31Aは、軸線COの方向に延びている。接続端部31Aと自由端部31Bとの間(すなわち、棒状の接地電極本体31の中央部分)は、約90度だけ湾曲している。
【0049】
図3(B)において、径方向(軸線COと垂直な方向)のうち、接続端部31Aから自由端部31Bに向かう方向(
図3(B)の右方向)を第1方向D1とし、第1方向D1の反対方向(
図3(B)の左方向)を第2方向D2とする。換言すれば、軸線COと垂直な平面に接地電極30と中心電極20とを投影させた場合に、該投影図において、第1方向は、接続端部31Aから自由端部31Bに向かう方向であり、第2方向は、自由端部31Bから接続端部31Aに向かう方向である。
【0050】
接地電極チップ39は、自由端部31Bにおいて、接地電極本体31の第1放電面295と対向する側面315に沿って抵抗溶接によって接合されている。接地電極チップ39の第1方向D1の端は、接地電極本体31の自由端面312より第1方向D1に僅かに突出している。接地電極チップ39は、例えば、軸線COに沿って見た形状が四角形の板状の部材である。
【0051】
絶縁体10の脚長部13は、本体部131と、突出部132と、を備えている。本体部131は、略円筒形状を有している。本体部131の先端131Aは、主体金具50の先端面50Aより先端側に位置し、中心電極20の先端(すなわち、本実施形態では、上述した中心電極チップ29の第1放電面295)より後端側に位置している。突出部132は、周方向の一部において、本体部131の先端131Aから先端側(先端方向FD)に突出している。突出部132の先端132Aは、中心電極20の先端より先端側に位置している。
【0052】
突出部132の軸線方向における中心電極20の先端からの突出量、
図3(A)の例では、第1放電面295と、突出部132の先端132Aと、の間の軸線方向の距離を、突出量Hとする。また、第1放電面295と第2放電面395との間の間隙の最短距離(ギャップ長とも呼ぶ)をGとする。
【0053】
図5は、軸線COと垂直で、中心電極20の先端(すなわち、第1放電面295)を通る断面CFBを示す図である。この断面CFBは、
図3(A)において、破線で示されている。
【0054】
図5の断面CFBには、第1放電面295と、突出部132と、接地電極本体31と、が表れる。
図5には、参考として、
図3(B)の主体金具50の先端面50Aと、接地電極30と、が破線で示されている。
【0055】
図5の断面CFBにおいて、中心電極20の中心CC(
図5の例では、軸線COの位置)から接地電極30(
図5の例では、接地電極本体31)に対して引かれた2本の接線を、第1接線L1、第2接線L2と、呼ぶ。
図5の例では、第1接線L1は、接地電極本体31の断面を示す矩形の頂点P1と、中心電極20の中心CCと、を通る線であり、第2接線L2は、該矩形の頂点P2と、中心電極20の中心CCと、を通る線である。断面CFBにおける中心電極20の中心CCは、第1放電面295の重心とも言うことができる。
【0056】
2本の接線L1、L2との間の角度のうち、接地電極30(接地電極本体31)が位置している側の角度θ1(
図5)を、接地電極30の配置角θ1と呼ぶ。配置角θ1は、中心電極20の周囲(360度分)のうち、接地電極30の接続端部31Aが配置されている範囲を示す値である。
【0057】
図5の断面CFBにおいて、中心電極20の中心CCから突出部132に対して引かれた2本の接線を、第3接線L3、第4接線L4と、呼ぶ。
図5の例では、第3接線L3は、突出部132の周方向の一方の端面と接する線であり、第4接線L4は、突出部132の周方向の他方の端面と接する線である。
【0058】
2本の接線L3、L4との間の角度のうち、突出部132が位置している側の角度θ2(
図5)を、突出部132の設置角θ2と呼ぶ。設置角θ2は、中心電極20の周囲(360度分)のうち、突出部132が覆っている範囲を示す値である。例えば、設置角θ2が60度以上であるとは、突出部132が、中心電極20の周囲のうちの(1/6)以上の範囲を覆っていることを意味している。
【0059】
ここで、接地電極30(特に、接地電極本体31)は、熱伝導率が比較的高く熱引き性能が高い材料で形成されているので、接地電極30に火花放電やプラズマが接触すると、接地電極30によって火花放電やプラズマの熱エネルギーが奪われる現象(消炎作用とも呼ぶ)が発生する。このために、接地電極30による消炎作用を抑制して着火性能を向上するためには、間隙にて生成された火花放電やプラズマを接地電極30(特に、接地電極本体31)から遠ざけることが重要である。
【0060】
本実施形態では、断面CFBにおいて、突出部132の少なくとも一部が、2本の接線L1、L2の間に位置しており、かつ、突出部132は、中心電極20の周囲のうちの(1/3)以下の範囲を覆っていることが好ましい。突出部132が、中心電極20の周囲のうちの(1/3)以下の範囲を覆っているとは、換言すれば、突出部132の設置角θ2が120度以下であることである。断面CFBにおいて、突出部132の少なくとも一部が、2本の接線L1、L2の間に位置していれば、中心電極20と接地電極30との間の間隙に発生した火花放電やプラズマが広がる方向を、突出部132によって制限できる。このために、プラズマが、接地電極30(接地電極本体31)の方向(例えば、
図5の第2方向D2)に向かわないように、突出部132によって火花放電やプラズマに対して方向付けをすることができる。この結果、火花放電やプラズマが接地電極30に向かうことを抑制し、火花放電やプラズマを接地電極30から遠ざけることができるので、接地電極30による消炎作用を抑制できる。
【0061】
ここで、突出部132を形成する材料(アルミナなどの絶縁体)は、接地電極本体31を形成する材料(Ni合金などの金属)より熱伝導率が低いために、接地電極本体31と比較して吸収する熱エネルギーは、はるかに少ない。しかしながら、突出部132自体も接地電極30より少ないものの熱エネルギーを吸収するので、突出部132による消炎作用によって、着火性能が低下し得る。断面CFBにおいて、突出部132が中心電極20を覆う範囲(設置角θ2)が過度に大きい場合には、突出部132と、火花放電やプラズマと、の接触面積が過度に大きくなるために、突出部132による消炎作用が過度に大きくなり、点火プラグ100の着火性能を向上できない。突出部132が中心電極20を覆う範囲が、(1/3)以下であれば、このような不都合もない。
【0062】
以上の説明から解るように、断面CFBにおいて、突出部132の少なくとも一部が、2本の接線L1、L2の間に位置しており、かつ、突出部132は、中心電極20の周囲のうちの(1/3)以下の範囲を覆っている場合には、点火プラグ100の着火性能を向上できる。例えば、
図5の例では、突出部132のうちの周方向の中央部分が、2本の接線L1、L2の間に位置しており、設置角θ2は、120度より十分に小さい約80度である。
【0063】
さらに、本実施形態では、断面CFBにおいて、突出部132は、中心電極20の周囲のうちの(1/6)以上の範囲を覆っていることが好ましい。換言すれば、設置角θ2は、60度以上であることが好ましい。こうすれば、中心電極20の周囲のうちの十分に広い範囲に、突出部132が配置されるので、火花放電やプラズマをより効果的に接地電極30から遠ざけることができる。この結果、さらに、点火プラグ100の着火性能を向上することができる。例えば、
図5の例では、設置角θ2は、60度より十分に大きい約80度である。
【0064】
ここで、上述したように、突出部132自体も、熱エネルギーを吸収するので、接地電極30より小さいものの、突出部132による消炎作用によって、着火性能が低下し得る。突出部132の突出量H(
図3(A))が、間隙の最短距離G(ギャップ長G)に対して過度に大きいと、突出部132と、火花放電やプラズマと、の接触面積が大きくなるために、突出部132による消炎作用が大きくなり、点火プラグ100の着火性能が低下し得る。一方、突出量Hがギャップ長Gに対して過度に小さいと、火花放電やプラズマの方向付けが十分にできず、接地電極30に向かうことを突出部132によって十分に抑制することができない。この結果、接地電極30による消炎作用を抑制できず、着火性能が低下し得る。
【0065】
本実施形態では、突出部132の突出量H(
図3(A))と、ギャップ長Gと、は、0.15≦(H/G)≦0.5を満たすことが好ましい。こうすれば、ギャップ長Gに対する突出量Hが適切な量になるために、接地電極30による消炎作用を抑制しつつ、突出部132による消炎作用を抑制できる。この結果、さらに、点火プラグ100の着火性能を向上することができる。例えば、
図5の例では、(H/G)は、上記の範囲を満たす約0.2である。
【0066】
さらに、本実施形態では、断面CFBにおいて、突出部132は、接地電極30に対して引かれた2本の接線L1、L2との間の全ての範囲に亘って位置していることが好ましい。こうすれば、火花放電やプラズマが、接地電極30の方向に広がることを効果的に抑制できるので、火花放電やプラズマをさらに効果的に接地電極から遠ざけることができる。この結果、さらに、点火プラグ100の着火性能を向上することができる。例えば、
図5の例では、突出部132の周方向の両端は、2本の接線L1、L2によって規定される範囲の外側に位置しており、突出部132は、中心電極20の周囲のうち、2本の接線L1、L2との間の全ての範囲に亘って位置していることが解る。なお、この場合には、突出部132の設置角θ2は、接地電極30の配置角θ1以上になる(θ2≧θ1)。
【0067】
ここで、火花放電やプラズマが燃焼室の中央部に向かって広がると、換言すれば、火花放電やプラズマが点火プラグ100の先端から先端方向FDに向かって広がると、より燃焼ガスに着火しやすいので、着火性能が向上する。本実施形態では、中心電極20の第1放電面295の第1方向D1の端は、自由端部31Bよりも第1方向D1側に位置する。こうすれば、火花ギャップにおいて発生した火花放電やプラズマの先端方向FDへの拡大が、接地電極30(例えば、接地電極本体31や接地電極チップ39)によって妨げられることを効果的に抑制できる。この結果、さらに、点火プラグ100の着火性能を向上することができる。
図5の例では、自由端部31Bの第1方向D1の端は、接地電極チップ39の第1方向D1の端である。
図5の例では、第1放電面295の第1方向D1の端は、長さWだけ、接地電極チップ39の第1方向D1の端より第1方向D1側に位置している。
【0068】
さらに、本実施形態では、点火システム600(
図1)は、上述したように、点火プラグ100と、点火プラグ100に電力を供給する電源装置として、火花ギャップに火花放電を発生させるための電力を供給する放電用電源640と、放電用電源640による電力の供給後に、火花ギャップに発生した火花放電に、放電用電源640とは別に電力を供給する高周波電源650を含む。この結果、放電用電源640による電力の供給後に、発生した火花放電に、放電用電源640とは別に電力が供給されるので、点火プラグ100の着火性能をより向上することができる。また、この場合には、高エネルギーの火花放電やプラズマが生成されるため、突出部132を設けることで高エネルギーの火花放電やプラズマの方向付けが可能である。このために、突出部132を設けることでより効果的に着火性能を向上することができる。
【0069】
A−4:第1評価試験
第1評価試験では、表1に示すように、3種類の点火プラグのサンプルa1〜a3を作製し、着火性能の試験を行った。各サンプルに共通な寸法は、以下の通りである。
中心電極チップ29の径:1.6mm
脚長部13の外径:3.85mm
主体金具50の先端の内径:7.2mm
ギャップ長G:0.8mm
突出部132の突出量H:0.1mm
接地電極30の配置角θ1:40度
突出部132の設置範囲(設置角θ2):1/3(120度)
接地電極30の被り:全被り
【0070】
接地電極30の被りが「全被り」であるとは、具体的には、接地電極30の自由端部31Bの第1方向D1の端が、中心電極20の第1放電面295の第1方向D1の端と、一致している、ことを意味している(すなわち、
図5のW=0)。
【0072】
サンプルa1〜a3では、突出部132の設置位置が互いに異なっている。
図6は、各サンプルの突出部132の設置位置を示す図である。
図6には、
図5の断面CFBに相当する各サンプルの断面が示されている。
図6において、突出部132a1、132a2、132a3は、それぞれ、サンプルa1、a2、a3の突出部である。
図6の直線C1、C2、C3は、突出部132a1、132a2、132a3の周方向の中心CP1、CP2、CP3と、中心電極20の中心CCと、を結ぶ線である。
図6の直線C0は、接地電極本体31の周方向の中心CP0と、中心電極20の中心CCと、を結ぶ線である。
【0073】
図6に示すように、サンプルa1の突出部132a1の周方向の位置は、接地電極本体31の周方向の位置と一致している。すなわち、接地電極本体31の周方向の中心CP0と中心CCとを結ぶ直線C0と、サンプルa1の突出部132a1の周方向の中心CP1と中心CCとを結ぶ直線C1とは、一致している。サンプルa2の突出部132a2の周方向の位置は、接地電極本体31の周方向の位置に対して、反時計回りに120度ずれている(
図6のθa=120度)。すなわち、接地電極本体31の周方向の中心CP0と中心CCとを結ぶ直線C0に対して、サンプルa2の突出部132a2の周方向の中心CP2と中心CCとを結ぶ直線C2は、反時計回りに120度回転した位置にある。サンプルa3の突出部132a3の周方向の位置は、接地電極本体31の周方向の位置に対して、時計回りに120度ずれている(
図6のθb=120度)。すなわち、接地電極本体31の周方向の中心CP0と中心CCとを結ぶ直線C0に対して、サンプルa3の突出部132a3の周方向の中心CP3と中心CCとを結ぶ直線C3は、時計回りに120度回転した位置にある。このために、サンプルa1では、接地電極本体31が設置された周方向の範囲、すなわち、2本の接線L1、L2の間の範囲に、突出部132a1が配置されている。これに対して、サンプルa2、a3では、2本の接線L1、L2の間の範囲とは異なる範囲に、突出部132a2、132a2が配置されている。突出部を除く構成は、サンプルa1〜a3において同一である。
【0074】
さらに、比較のために1種類の比較サンプルとして、絶縁体10の脚長部13が、本体部131のみで構成され、突出部132が配置されていないサンプルが準備された。比較サンプルの他の構成は、各サンプルa1〜a3と同一である。
【0075】
着火性能の試験では、3種類のサンプルのEGR限界を調べた。具体的には、直列4気筒、DOHC、排気量1.5L、自然吸気で、タンブル流が生じるように吸気ポートが改良されたガソリンエンジンに、各サンプルを搭載して、該ガソリンエンジンを1200rpmの回転速度で運転した。運転時には、
図1の点火システム600を用いて、トリガ電圧と交流電圧の供給を行い、1放電あたり400mJの電気エネルギーをサンプルに供給した。排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)を行わない場合に、このガソリンエンジンの図示平均有効圧力は、500kPaである。
【0076】
運転時には、トルクが最大となる点火時期(MBT:Minimum advance for the Best Torque)で、排気再循環を行い、図示平均有効圧力の変動(トルク変動)を調べた。そして、吸気ガスの中に占める再循環ガスの割合(EGR率)を変更しながら、試験を繰り返し行うことで、図示平均有効圧力の変動が5%を超える最小のEGR率を、EGR限界として決定した。EGR限界を示すEGR率が大きいほど、着火性能に優れている。
【0077】
そして、比較サンプルと、各サンプルa1〜a3との間で、EGR限界を比較して、各サンプルの評価を行った。比較サンプルのEGR限界LE1と、評価対象のサンプルのEGR限界LE2と、の差分(LE2−LE1)が、0.1%未満であるサンプルの評価を「D」とし、0.1%以上0.5%未満のサンプルの評価を「C」とした。差分(LE2−LE1)が、0.5%以上1%未満のサンプルの評価を「B」とし、1%以上のサンプルの評価を「A」とした。
【0078】
表1には、各サンプルの着火性能の試験の評価結果が示されている。サンプルa1の評価は、「B」であり、比較サンプルと比較して着火性能の明らかな向上が見られた。サンプルa2、a2の評価は、「D」であり、比較サンプルと比較して着火性能の有意な向上は見られなかった。サンプルa1では、火花ギャップで発生した火花放電やプラズマが接地電極本体31の方向(第2方向D2)に向かうことが、突出部132a1によって妨げられるので、接地電極本体31による消炎作用が抑制されるため、着火性能が向上したと考えられる。サンプルa2、a3では、火花ギャップで発生した火花放電やプラズマが接地電極本体31の方向(第2方向D2)に向かうことが、突出部132a1によって妨げられないので、接地電極本体31による消炎作用が抑制されず、着火性能が向上しなかったと考えられる。
【0079】
以上の説明から解るように、第1評価試験によって、接地電極本体31が設置された周方向の範囲、すなわち、2本の接線L1、L2の間の範囲に、突出部132を設置することで、点火プラグの着火性能を向上できることが確認できた。
【0080】
A−5:第2評価試験
第2評価試験では、表2に示すように、7種類の点火プラグのサンプルb1〜b7を作製し、着火性能の試験を行った。サンプルb1〜b7では、突出部132の周方向の位置は、互いに共通であり、表1のサンプルa1と同様に、接地電極本体31の周方向の位置と一致している。すなわち、各サンプルb1〜b7の突出部132の周方向の中心と中心CCとを結ぶ線は、
図6に示す接地電極本体31の周方向の中心CP0と中心CCとを結ぶ直線C0と、一致する。サンプルb1〜b7では、突出部132の設置範囲(設置角θ2)が互いに異なっている。具体的には、サンプルb1〜b7の設置範囲(設置角θ2)は、それぞれ、1/8(45度)、1/7(約51度)、1/6(60度)、1/5(72度)、1/4(90度)、1/3(120度)、1/2(180度)である。サンプルb1〜b7のその他の構成は、表1のサンプルa1と同一である。
【0082】
着火性能の試験の内容、および、評価基準は、第1評価試験と同一である。表2には、各サンプルの着火性能の試験の評価結果が示されている。突出部132の設置範囲が、(1/3)より大きな(1/2)であるサンプルb7の評価は、「D」であり、比較サンプルと比較して着火性能の有意な向上は見られなかった。突出部132の設置範囲が、(1/3)以下であるサンプルb1〜b6の評価は、「B」または「C」であり、比較サンプルと比較して着火性能の有意な向上が確認できた。突出部132の設置範囲が、(1/3)より大きい場合には、突出部132自身の消炎作用が大きくなり、突出部132によって接地電極本体31の消炎作用を抑制する効果が相殺されて、点火プラグの着火性能を向上できないと考えられる。以上のように、突出部132の設置範囲は、(1/3)以下であることが好ましいことが確認できた。
【0083】
さらに、突出部132の設置範囲が、(1/3)以下であるサンプルb1〜b6のうち、設置範囲が(1/6)より小さなサンプルb1、b2の評価は、「C」であり、設置範囲が(1/6)以上であるサンプルb3〜b6の評価は、「B」であった。以上のように、第2評価試験によって、突出部132は、中心電極20の周囲のうちの(1/6)以上の範囲を覆っていることが好ましく、これにより、さらに、点火プラグ100の着火性能が向上することが確認できた。
【0084】
A−6:第3評価試験
第3評価試験では、表3に示すように、10種類の点火プラグのサンプルc1〜c10を作製し、着火性能の試験を行った。5種類のサンプルc1〜c5では、突出部132の突出量Hが、互いに異なっている。サンプルc1〜c5のその他の構成は、突出部132の設置範囲が(1/6)である表2のサンプルb3と同一である。サンプルc1〜c5の突出部132の突出量Hは、それぞれ、0.1mm、0.12mm、0.24mm、0.4mm、0.56mmである。サンプルc1〜c5のギャップ長Gは、0.8mmで固定されているので、サンプルc1〜c5の(H/G)の値は、それぞれ、0.125、0.15、0.3、0.5、0.7である。
【0085】
同様に、5種類のサンプルc6〜c10では、突出部132の突出量Hが、互いに異なっている。サンプルc6〜c10のその他の構成は、突出部132の設置範囲が(1/3)である表2のサンプルb6と同一である。サンプルc1〜c5と同様に、サンプルc6〜c10の突出部132の突出量Hは、それぞれ、0.1mm、0.12mm、0.24mm、0.4mm、0.56mmであり、(H/G)の値は、それぞれ、0.125、0.15、0.3、0.5、0.7である。
【0087】
着火性能の試験の内容、および、評価基準は、第1評価試験と同一である。表3には、各サンプルの着火性能の試験の評価結果が示されている。(H/G)の値が、0.15≦(H/G)≦0.5を満たすサンプルc2〜c4、c7〜c9の評価は、突出部132の設置範囲が(1/6)、(1/3)のいずれでも、「A」であった。(H/G)の値が0.15未満であるサンプルc1、c6、および、(H/G)の値が0.5を超えるサンプルc5、c10の評価は、突出部132の設置範囲が(1/6)、(1/3)のいずれでも、「B」であった。以上のように、第3評価試験によって、(H/G)の値が、0.15≦(H/G)≦0.5を満たすことが好ましく、これにより、さらに、点火プラグ100の着火性能が向上することが確認できた。
【0088】
A−7:第4評価試験
第4評価試験では、表4に示すように、4種類の点火プラグのサンプルd1〜d4を作製し、着火性能の試験を行った。サンプルd1、d3では、比較サンプルと同様に、上述した接地電極の30の被りが、上述した「全被り」である。
【0089】
サンプルd2、d4では、比較サンプルとは異なり、上述した接地電極の30の被りが「半被り」である。接地電極30の被りが「半被り」であるとは、具体的には、中心電極20の第1放電面295の第1方向D1の端が、接地電極30の自由端部31Bの第1方向D1の端より、0.525mmだけ第1方向D1側に位置している、ことを意味している(すなわち、
図5のW=0.525mm)。
【0090】
サンプルd1、d2のその他の構成は、突出部132の設置範囲が(1/6)である表2のサンプルb3と同一である。サンプルd3、d4のその他の構成は、突出部132の設置範囲が(1/3)である表2のサンプルb6と同一である。
【0092】
着火性能の試験の内容、および、評価基準は、第1評価試験と同一である。表4には、各サンプルの着火性能の試験の評価結果が示されている。接地電極の30の被りがないサンプルd2、d4の評価は、突出部132の設置範囲が(1/6)、(1/3)のいずれでも、「A」であった。接地電極の30の被りがあるサンプルd1、d3の評価は、突出部132の設置範囲が(1/6)、(1/3)のいずれでも、「B」であった。以上のように、第4評価試験によって、接地電極の30の被りがないこと、すなわち、中心電極20の第1放電面295の第1方向D1の端は、自由端部31Bよりも第1方向D1側に位置することが好ましく、これにより、さらに、点火プラグ100の着火性能が向上することが確認できた。
【0093】
B.変形例:
(1)
図3、
図4に示す突出部132の形状は、一例であり、これに限られない。
図7は、変形例の突出部132bの近傍の斜視図である。
図7の突出部132bの側面132Sbは、軸線方向と平行ではなく、軸線方向に対して傾斜している。このため、
図7の突出部132bでは、軸線方向の位置によって、周方向の長さ、すなわち、中心電極20の周囲を覆う範囲が異なる。この場合であっても、突出部132bは、軸線COと垂直で、中心電極20の先端(具体的には第1放電面295)を通る断面において、突出部132bは、中心電極20の周囲のうちの(1/3)以下の範囲を覆っていれば良い。
【0094】
また、
図4の突出部132の先端132A(
図4)は、軸線方向と垂直な面を有しているが、例えば、突出部の先端は、尖った稜線や頂点であっても良い。また、
図4の突出部132は、中心電極20の中心から接地電極30に対して引かれた2本の接線L1、L2の間の周方向の範囲の全体に亘って配置されている。これに代えて、2本の接線L1、L2の間の周方向の範囲の一部分にのみ、突出部132が配置されていても良い。一般的には、突出部の少なくとも一部が、中心電極20の中心から接地電極30に対して引かれた2本の接線L1、L2(
図5)の間に位置していれば良い。こうすれば、該突出部は、火花ギャップに発生した火花放電やプラズマが、接地電極30(接地電極本体31)に向かうことを、該突出部が無い場合と比較して抑制することができるので、接地電極30による消炎作用を抑制し得る。
【0095】
(2)
図2の点火プラグ100は、
図1の点火システム600、すなわち、2個の電源640、650を用いて、駆動される。これに代えて、
図2の点火プラグ100は、1個の電源、例えば、放電用電源640のみを用いて駆動されるプラグであっても良い。この場合には、火花ギャップにプラズマが発生しない場合もあるが、例えば、火花ギャップで発生した火花放電が接地電極30に向かうことを、突出部132によって抑制できる。この結果、本変形例の点火プラグは、接地電極30による消炎作用を抑制し得るので、着火性能を向上することができる。
【0096】
(3)
図3(A)では、第1放電面295の第1方向D1の端は、接地電極30の自由端部31Bの第1方向D1の端より第1方向D1に位置している。これに代えて、第1放電面295の第1方向D1の端は、接地電極30の自由端部31Bの第2方向D2に位置しても良い。この場合であっても、突出部132が配置されていることによって、接地電極30による消炎作用を抑制することができる。
【0097】
(4)
図2の点火プラグ100の具体的な形状、材料等は、一例であり、これに限られない。例えば、接地電極30は、接地電極チップ39がないタイプの電極であっても良い。また、接地電極チップ39の形状は、四角形の板状であるが、円柱形状であっても良いし、三角柱形状や五角柱形状であっても良い。また、主体金具50の材質は、亜鉛めっきまたはニッケルめっきされた低炭素鋼でも良いし、めっきがなされていない低炭素鋼でも良い。また、絶縁体10の材質は、アルミナ以外の様々な絶縁性セラミックスでもよい。
【0098】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。