特許第6373325号(P6373325)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373325
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】蓄冷機能付きエバポレータ
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/00 20060101AFI20180806BHJP
   F28D 1/053 20060101ALI20180806BHJP
   F28F 1/02 20060101ALI20180806BHJP
   F28F 17/00 20060101ALI20180806BHJP
   B60H 1/32 20060101ALI20180806BHJP
   F25B 39/02 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   F28D20/00 Z
   F28D1/053 A
   F28F1/02 A
   F28F17/00 501B
   B60H1/32 613C
   F25B39/02 E
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-205779(P2016-205779)
(22)【出願日】2016年10月20日
(62)【分割の表示】特願2012-283875(P2012-283875)の分割
【原出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2017-15391(P2017-15391A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2016年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】512025676
【氏名又は名称】株式会社ケーヒン・サーマル・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】鴨志田 理
(72)【発明者】
【氏名】平山 貴司
【審査官】 金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−149814(JP,A)
【文献】 特開2004−003787(JP,A)
【文献】 特開2011−012947(JP,A)
【文献】 特開2003−042586(JP,A)
【文献】 特開2011−133182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/00
B60H 1/32
F25B 39/02
F28D 1/053
F28F 1/02
F28F 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向が上下方向を向くとともに幅方向が通風方向を向いた複数の扁平状冷媒流通管が、冷媒流通管の厚み方向に間隔をおいて並列状に配置されており、隣り合う冷媒流通管どうしの間に通風間隙が形成され、全通風間隙のうち一部の複数の通風間隙に蓄冷材が封入された蓄冷材容器が配置され、残りの通風間隙にフィンが配置されて冷媒流通管に接合されており、蓄冷材容器が、冷媒流通管に接合された容器本体部を備えている蓄冷機能付きエバポレータであって、
容器本体部の左右両側壁外面に、それぞれ上端から下端に向かって漸次低くなりかつ上下両端が開口した複数の凝縮水排水路が間隔をおいて形成されており、各凝縮水排水路が、蓄冷材容器の容器本体部の左右両側壁に設けられて外方に膨出した2つの凸部の間に形成され、1つの凝縮水排水路を形成する2つの凸部のうち少なくともいずれか一方の凸部の長さが、蓄冷材容器の容器本体部の通風方向の幅よりも長くなっており、
蓄冷材容器の容器本体部の左右両側壁外面に設けられたすべての凝縮水排水路のうちの一部の凝縮水排水路が、全体に上方から下方に向かって風上側に傾斜しており、残りの凝縮水排水路が、上下方向に間隔をおいて形成されかつ上方から下方に向かって風上側に傾斜した上下両傾斜部と、上傾斜部の下端と下傾斜部の上端とを通じさせる鉛直部とよりなり、各凝縮水排水路の上端が容器本体部の上縁または風下側縁部に開口し、上端が容器本体部の上縁に開口した凝縮水排水路の下端が容器本体部の風上側縁部に開口し、上端が容器本体部の風下側縁部に開口した凝縮水排水路の下端が容器本体部の下縁に開口している蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項2】
長手方向が上下方向を向くとともに幅方向が通風方向を向いた複数の扁平状冷媒流通管が、冷媒流通管の厚み方向に間隔をおいて並列状に配置されており、隣り合う冷媒流通管どうしの間に通風間隙が形成され、全通風間隙のうち一部の複数の通風間隙に蓄冷材が封入された蓄冷材容器が配置され、残りの通風間隙にフィンが配置されて冷媒流通管に接合されており、蓄冷材容器が、冷媒流通管に接合された容器本体部を備えている蓄冷機能付きエバポレータであって、
容器本体部の左右両側壁外面に、それぞれ上端から下端に向かって漸次低くなりかつ上下両端が開口した複数の凝縮水排水路が間隔をおいて形成されており、各凝縮水排水路が、蓄冷材容器の容器本体部の左右両側壁に設けられて外方に膨出した2つの凸部の間に形成され、1つの凝縮水排水路を形成する2つの凸部のうち少なくともいずれか一方の凸部の長さが、蓄冷材容器の容器本体部の通風方向の幅よりも長くなっており、
蓄冷材容器の容器本体部の左右両側壁外面に設けられたすべての凝縮水排水路が、全体に上方から下方に向かって風上側に傾斜しており、各凝縮水排水路の上端が容器本体部の上縁または風下側縁部に開口し、上端が容器本体部の上縁に開口した凝縮水排水路の下端が容器本体部の風上側縁部に開口し、上端が容器本体部の風下側縁部に開口した凝縮水排水路の下端が容器本体部の下縁に開口している蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項3】
蓄冷材容器の容器本体部の凸部の突出端が冷媒流通管に接合され、蓄冷材容器の容器本体部内にインナーフィンが配置されるとともに、容器本体部の左右両側壁における凝縮水排水路の底部を形成する部分に接合され、容器本体部の左側壁の凝縮水排水路および凸部と、右側壁の凝縮水排水路および凸部とが、全体に重複しないように、同一水平面内において通風方向にずれて設けられている請求項1または2記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項4】
蓄冷材容器が、容器本体部の風下側縁部または風上側縁部に連なって冷媒流通管よりも通風方向外側に張り出すように設けられた外方張り出し部を備えており、当該外方張り出し部に、容器本体部に対して左右両方向のうち少なくとも一方向に膨らみ、かつ左右方向の寸法が容器本体部の左右方向の寸法よりも大きくなっている膨張部が設けられ、当該膨張部がフィンよりも通風方向外側に位置しているとともに、膨張部の左右両側壁が平坦となっている請求項1〜3のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項5】
蓄冷材容器の外方張り出し部が、容器本体部の風下側縁部または風上側縁部の上端から一定の長さを有し、かつ当該風下側縁部または風上側縁部の上下方向の全長のうちの一部分のみに連なって冷媒流通管よりも通風方向外側に張り出すように設けられている請求項4記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項6】
蓄冷材容器の外方張り出し部に、蓄冷材を蓄冷材容器内に注入するのに用いられた蓄冷材注入口を閉じることにより形成された封止部が存在している請求項4または5記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項7】
前記封止部が、外方張り出し部の上端から上方に突出して形成され、当該封止部が、通風面に対して、上方に向かって容器本体部から離れる方向に傾斜している請求項6記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項8】
長手方向が上下方向を向くとともに幅方向が通風方向を向き、かつ通風方向に間隔をおいて配置された複数の扁平状冷媒流通管からなる管組が、冷媒流通管の厚み方向に間隔をおいて複数配置され、隣り合う管組どうしの間に通風間隙が形成されている請求項1〜7のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両のカーエアコンに用いられる蓄冷機能付きエバポレータに関する。
【0002】
この明細書および特許請求の範囲において、図2の上下、左右を上下、左右というものとする。
【背景技術】
【0003】
近年、環境保護や自動車の燃費向上などを目的として、信号待ちなどの停車時にエンジンを自動的に停止させる自動車が提案されている。
【0004】
しかしながら、通常のカーエアコンにおいては、エンジンを停止させると、エンジンを駆動源とする圧縮機が停止するので、エバポレータに冷媒が供給されなくなり、冷房能力が急激に低下するという問題がある。
【0005】
そこで、このような問題を解決するために、エバポレータに蓄冷機能を付与し、エンジンが停止して圧縮機が停止した際に、エバポレータに蓄えられた冷熱を放冷して車室内を冷却することが考えられている。
【0006】
蓄冷機能付きエバポレータとして、本出願人は、先に、長手方向が上下方向を向くとともに幅方向が通風方向を向き、かつ通風方向に間隔をおいて配置された2つの扁平状冷媒流通管からなる複数の管組が、冷媒流通管の厚み方向に間隔をおいて並列状に配置され、隣り合う管組どうしの間に通風間隙が形成され、すべての通風間隙のうちの一部の通風間隙に、蓄冷材が封入された蓄冷材容器が、管組の全冷媒流通管に跨るように配置され、蓄冷材容器が、冷媒流通管に接合された容器本体部を備えており、蓄冷材容器の容器本体部の左右両側壁に、上下方向に間隔をおいて形成され、かつ外方に膨出するとともに冷媒流通管に接触した複数の凸部からなる凸部列が、通風方向に間隔をおいて複数設けられ、各凸部の長さが蓄冷材容器の通風方向の幅よりも短くなり、各凸部が上方から下方に向かって風上側に傾斜している蓄冷機能付きエバポレータを提案した(特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1記載の蓄冷機能付きエバポレータによれば、圧縮機が作動している通常の冷房時には、冷媒流通管内を流れる冷媒の有する冷熱が、凸部を介して蓄冷材容器内の蓄冷材に伝わって蓄冷材に蓄えられ、圧縮機が停止した際には、蓄冷材容器内の蓄冷材に蓄えられた冷熱が、凸部および冷媒流通管を介して通風間隙に配置されたフィンに伝えられ、フィンから当該通風間隙を流れる空気に放冷されるようになっており、エンジンが停止して圧縮機が停止した際に、エバポレータに蓄えられた冷熱を利用して車室内を冷却することが可能になり、エンジンが停止した際の冷房能力の急激な低下が抑制されている。
【0008】
ところで、圧縮機の作動時には、蓄冷材容器外面に発生した凝縮水が凍結するおそれがあるので、当該凝縮水を効果的に排水する必要がある。
【0009】
しかしながら、特許文献1記載の蓄冷機能付きエバポレータにおいては、各凸部の長さが蓄冷材容器の通風方向の幅よりも短いので、表面張力によって凝縮水が各凸部列の上下方向に隣り合う凸部どうしの間に留まり、スムーズに排水されないことがある。すなわち、凸部の長さが短いと、上下方向に隣り合う凸部どうしの間に溜まる凝縮水の量は比較的少なくなり、凝縮水に作用する重力が表面張力よりも小さくなる場合があり、いつまでも隣り合う凸部どうしの間に留まってスムーズに排水されなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−149814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明の目的は、上記問題を解決し、蓄冷材容器の外面に発生した凝縮水をスムーズに排水することができる蓄冷機能付きエバポレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
【0013】
1)長手方向が上下方向を向くとともに幅方向が通風方向を向いた複数の扁平状冷媒流通管が、冷媒流通管の厚み方向に間隔をおいて並列状に配置されており、隣り合う冷媒流通管どうしの間に通風間隙が形成され、全通風間隙のうち一部の複数の通風間隙に蓄冷材が封入された蓄冷材容器が配置され、残りの通風間隙にフィンが配置されて冷媒流通管に接合されており、蓄冷材容器が、冷媒流通管に接合された容器本体部を備えている蓄冷機能付きエバポレータであって、
容器本体部の左右両側壁外面に、それぞれ上端から下端に向かって漸次低くなりかつ上下両端が開口した複数の凝縮水排水路が間隔をおいて形成されており、各凝縮水排水路が、蓄冷材容器の容器本体部の左右両側壁に設けられて外方に膨出した2つの凸部の間に形成され、1つの凝縮水排水路を形成する2つの凸部のうち少なくともいずれか一方の凸部の長さが、蓄冷材容器の容器本体部の通風方向の幅よりも長くなっており、
蓄冷材容器の容器本体部の左右両側壁外面に設けられたすべての凝縮水排水路のうちの一部の凝縮水排水路が、全体に上方から下方に向かって風上側に傾斜しており、残りの凝縮水排水路が、上下方向に間隔をおいて形成されかつ上方から下方に向かって風上側に傾斜した上下両傾斜部と、上傾斜部の下端と下傾斜部の上端とを通じさせる鉛直部とよりなり、各凝縮水排水路の上端が容器本体部の上縁または風下側縁部に開口し、上端が容器本体部の上縁に開口した凝縮水排水路の下端が容器本体部の風上側縁部に開口し、上端が容器本体部の風下側縁部に開口した凝縮水排水路の下端が容器本体部の下縁に開口している蓄冷機能付きエバポレータ。
【0014】
2)長手方向が上下方向を向くとともに幅方向が通風方向を向いた複数の扁平状冷媒流通管が、冷媒流通管の厚み方向に間隔をおいて並列状に配置されており、隣り合う冷媒流通管どうしの間に通風間隙が形成され、全通風間隙のうち一部の複数の通風間隙に蓄冷材が封入された蓄冷材容器が配置され、残りの通風間隙にフィンが配置されて冷媒流通管に接合されており、蓄冷材容器が、冷媒流通管に接合された容器本体部を備えている蓄冷機能付きエバポレータであって、
容器本体部の左右両側壁外面に、それぞれ上端から下端に向かって漸次低くなりかつ上下両端が開口した複数の凝縮水排水路が間隔をおいて形成されており、各凝縮水排水路が、蓄冷材容器の容器本体部の左右両側壁に設けられて外方に膨出した2つの凸部の間に形成され、1つの凝縮水排水路を形成する2つの凸部のうち少なくともいずれか一方の凸部の長さが、蓄冷材容器の容器本体部の通風方向の幅よりも長くなっており、
蓄冷材容器の容器本体部の左右両側壁外面に設けられたすべての凝縮水排水路が、全体に上方から下方に向かって風上側に傾斜しており、各凝縮水排水路の上端が容器本体部の上縁または風下側縁部に開口し、上端が容器本体部の上縁に開口した凝縮水排水路の下端が容器本体部の風上側縁部に開口し、上端が容器本体部の風下側縁部に開口した凝縮水排水路の下端が容器本体部の下縁に開口している蓄冷機能付きエバポレータ
【0015】
3)蓄冷材容器の容器本体部の凸部の突出端が冷媒流通管に接合され、蓄冷材容器の容器本体部内にインナーフィンが配置されるとともに、容器本体部の左右両側壁における凝縮水排水路の底部を形成する部分に接合され、容器本体部の左側壁の凝縮水排水路および凸部と、右側壁の凝縮水排水路および凸部とが、全体に重複しないように、同一水平面内において通風方向にずれて設けられている上記1)または2)記載の蓄冷機能付きエバポレータ
【0016】
4)蓄冷材容器が、容器本体部の風下側縁部または風上側縁部に連なって冷媒流通管よりも通風方向外側に張り出すように設けられた外方張り出し部を備えており、当該外方張り出し部に、容器本体部に対して左右両方向のうち少なくとも一方向に膨らみ、かつ左右方向の寸法が容器本体部の左右方向の寸法よりも大きくなっている膨張部が設けられ、当該膨張部がフィンよりも通風方向外側に位置しているとともに、膨張部の左右両側壁が平坦となっている上記1)〜3)のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0017】
5)蓄冷材容器の外方張り出し部が、容器本体部の風下側縁部または風上側縁部の上端から一定の長さを有し、かつ当該風下側縁部または風上側縁部の上下方向の全長のうちの一部分のみに連なって冷媒流通管よりも通風方向外側に張り出すように設けられている上記4)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0018】
6)蓄冷材容器の外方張り出し部に、蓄冷材を蓄冷材容器内に注入するのに用いられた蓄冷材注入口を閉じることにより形成された封止部が存在している上記4)または5)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0019】
7)前記封止部が、外方張り出し部の上端から上方に突出して形成され、当該封止部が、通風面に対して、上方に向かって容器本体部から離れる方向に傾斜している上記6)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0020】
8)長手方向が上下方向を向くとともに幅方向が通風方向を向き、かつ通風方向に間隔をおいて配置された複数の扁平状冷媒流通管からなる管組が、冷媒流通管の厚み方向に間隔をおいて複数配置され、隣り合う管組どうしの間に通風間隙が形成されている上記1)〜7)のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【発明の効果】
【0021】
上記1)〜8)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、容器本体部の左右両側壁外面に、それぞれ上端から下端に向かって漸次低くなりかつ上下両端が開口した複数の凝縮水排水路が間隔をおいて形成されており、各凝縮水排水路が、蓄冷材容器の容器本体部の左右両側壁に設けられて外方に膨出した2つの凸部の間に形成され、1つの凝縮水排水路を形成する2つの凸部のうち少なくともいずれか一方の凸部の長さが、蓄冷材容器の容器本体部の通風方向の幅よりも長くなっているので、蓄冷材容器の容器本体部の表面に発生した凝縮水が、表面張力によって2つの凸部に沿うようにして凝縮水排水路内に溜まった場合、溜まった凝縮水の量が多くなると、溜まった凝縮水に作用する重力が表面張力よりも大きくなり、凝縮水排水路内を一挙に流下する。したがって、凝縮水が凝縮水排水路内に留まる時間が短くなり、蓄冷材容器の外面に発生した凝縮水をスムーズに排水することができる。
【0022】
上記1)または2)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、通風している際には、蓄冷材容器の凝縮水排水路の下側部分で凝縮水を保持することができるので、冷房時(蓄冷時)および放冷時に、凝縮水の顕熱としての冷熱によって、冷媒流通管と蓄冷材容器との間を通る風の温度上昇を抑制することができる
【0023】
上記3)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、蓄冷材容器の容器本体部の凸部の突出端が冷媒流通管に接合され、蓄冷材容器の容器本体部内にインナーフィンが配置されるとともに、容器本体部の左右両側壁における凝縮水排水路の底部を形成する部分に接合され、容器本体部の左側壁の凝縮水排水路および凸部と、右側壁の凝縮水排水路および凸部とが、全体に重複しないように、同一水平面内において通風方向にずれて設けられているので、凝縮水排水路および凸部の通風方向の幅や、通風方向のずれ幅を適切に調節することによって、蓄冷材容器の容器本体部の左右の各側壁に、インナーフィンに接触する接触部分と、インナーフィンに接触しない非接触部分とを設けるとともに、蓄冷材容器を左右いずれか一方から見た際の容器本体部の左右の各側壁と冷媒流通管とが重なる重なり部分において、蓄冷材容器の容器本体部の左右の各側壁におけるインナーフィンに接触する接触部分の面積を、インナーフィンに接触しない非接触部分の面積よりも大きくすることができる。したがって、蓄冷時および放冷時のいずれに場合においても、蓄冷材容器の左右両側壁と蓄冷材との間のインナーフィンを介しての熱伝達性能が優れたものになる
【0024】
上記4)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、蓄冷材容器の内圧が異常上昇した場合に、外方張り出し部の膨張部の平坦な左右両側壁が外方に膨らむように変形し、蓄冷材容器の内圧の異常上昇による破損が防止される。
【0025】
上記5)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、蓄冷材容器の外方張り出し部が、容器本体部の風下側縁部または風上側縁部の上端から一定の長さを有し、かつ当該風下側縁部または風上側縁部の上下方向の全長のうちの一部分のみに連なって冷媒流通管よりも通風方向外側に張り出すように設けられているので、冷媒流通管に直接には接していない外方張り出し部内に存在する蓄冷材の量を少なくすることが可能になって、蓄冷材容器内に封入された全蓄冷材のうち効果的に冷却されない蓄冷材の量を低減することができる。すなわち、蓄冷材容器の強度、および蓄冷材容器の内部空間の内容積に対する封入された蓄冷材の体積の比率である蓄冷材充填率は、通常の使用環境温度範囲、たとえば−40〜90℃の範囲内において、液相状態の蓄冷材が密度変化するとともに、蓄冷材容器内に残存している空気が熱膨張することにより内圧が上昇したとしても、破損しないような強度および蓄冷材充填率に設計されている。このような蓄冷材充填率は、当然100%未満であるから、蓄冷材容器内の上端寄りの部分には、蓄冷材の存在しない空間が存在することになり、容器本体部の風下側縁部または風上側縁部の上端から一定の長さにわたって設けられている外方張り出し部内の全てが蓄冷材で満たされることはなくなる。その結果、蓄冷材容器内に封入された全蓄冷材のうち効果的に冷却されない蓄冷材の量を低減することができる。
【0026】
上記7)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、蓄冷材注入口を通して蓄冷材を蓄冷材容器内に注入する際の作業性、および蓄冷材注入口を封止する際の作業性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】この発明の蓄冷機能付きエバポレータの全体構成を示す斜視図である。
図2】この発明の蓄冷機能付きエバポレータの全体構成を示す通風方向下流側から見た正面図である。
図3図1および図2の蓄冷機能付きエバポレータに用いられる蓄冷材容器を示す左側面図である。
図4図3のA−A線拡大断面図である。
図5図1および図2の蓄冷機能付きエバポレータに用いられる蓄冷材容器の上部を示し、左側の金属板を切除して示す図3の一部分に相当する図である。
図6図1および図2の蓄冷機能付きエバポレータに用いられる蓄冷材容器を示す分解斜視図である。
図7図1および図2の蓄冷機能付きエバポレータに用いられる蓄冷材容器の内圧が異常上昇した状態を示す図4の一部分に相当する図である。
図8図1および図2の蓄冷機能付きエバポレータに用いられる蓄冷材容器の変形例を示す図3に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0029】
以下の説明において、通風方向下流側(図1図3に矢印Xで示す方向)を前、これと反対側を後というものとする。したがって、前方から後方を見た際の上下、左右が図2の上下、左右となる。
【0030】
さらに、以下の説明において、「アルミニウム」という用語には、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。
【0031】
図1および図2はこの発明による蓄冷機能付きエバポレータの全体構成を示し、図3図7はその要部の構成を示す。
【0032】
図1および図2において、蓄冷機能付きエバポレータ(1)は、長手方向を左右方向に向けた状態で上下方向に間隔をおいて配置されたアルミニウム製第1ヘッダタンク(2)およびアルミニウム製第2ヘッダタンク(3)と、両ヘッダタンク(2)(3)間に設けられた熱交換コア部(4)とを備えている。
【0033】
第1ヘッダタンク(2)は、前側(通風方向下流側)に位置する風下側上ヘッダ部(5)と、後側(通風方向上流側)に位置しかつ風下側上ヘッダ部(5)に一体化された風上側上ヘッダ部(6)とを備えている。風下側上ヘッダ部(5)の左端部に冷媒入口(7)が設けられ、風上側上ヘッダ部(6)の左端部に冷媒出口(8)が設けられている。第2ヘッダタンク(3)は、前側に位置する風下側下ヘッダ部(9)と、後側に位置しかつ風下側下ヘッダ部(9)に一体化された風上側下ヘッダ部(11)とを備えている。第2ヘッダタンク(3)の風下側下ヘッダ部(9)内と風上側下ヘッダ部(11)内とは、図示しない適当な手段により通じさせられている。
【0034】
熱交換コア部(4)には、長手方向が上下方向を向くとともに幅方向が通風方向(前後方向)を向いた複数のアルミニウム押出形材製扁平状冷媒流通管(12)が、左右方向(冷媒流通管(12)の厚み方向)に間隔をおいて並列状に配置されている。ここでは、前後方向に間隔をおいて配置された2つの冷媒流通管(12)からなる複数の組(13)が左右方向に間隔をおいて配置されており、前後の冷媒流通管(12)よりなる組(13)の隣り合うものどうしの間に通風間隙(14)が形成されている。前側の冷媒流通管(12)の上端部は風下側上ヘッダ部(5)に接続されるとともに、同下端部は風下側下ヘッダ部(9)に接続されている。また、後側の冷媒流通管(12)の上端部は風上側上ヘッダ部(6)に接続されるとともに、同下端部は風上側下ヘッダ部(11)に接続されている。
【0035】
熱交換コア部(4)における全通風間隙(14)のうち一部の複数の通風間隙(14)でかつ隣接していない通風間隙(14)において、蓄冷材(図示略)が封入されたアルミニウム製蓄冷材容器(15)が、前後両冷媒流通管(12)に跨るように配置されている。また、残りの通風間隙(14)に、両面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートからなり、かつ前後方向にのびる波頂部、前後方向にのびる波底部、および波頂部と波底部とを連結する連結部よりなるコルゲート状のアウターフィン(16)が、前後両冷媒流通管(12)に跨るように配置されて通風間隙(14)を形成する左右両側の組(13)を構成する前後両冷媒流通管(12)にろう付されている。ここでは、蓄冷材容器(15)が配置された通風間隙(14)の左右両側に隣り合う通風間隙(14)にはそれぞれアウターフィン(16)が配置されており、左右方向に隣り合う蓄冷材容器(15)間には2つのアウターフィン(16)が位置している。また、左右両端の冷媒流通管(12)の組(13)の外側にも両面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートからなるアウターフィン(16)が配置されて前後両冷媒流通管(12)にろう付され、さらに左右両端のアウターフィン(16)の外側にアルミニウム製サイドプレート(17)が配置されてアウターフィン(16)にろう付されている。
【0036】
この実施形態のエバポレータ(1)の場合、冷媒は、冷媒入口(7)を通ってエバポレータ(1)の風下側上ヘッダ部(5)内に入り、全冷媒流通管(12)を通って風上側上ヘッダ部(6)の冷媒出口(8)から流出する。
【0037】
図3図6に示すように、蓄冷材容器(15)は、長手方向を上下方向に向けるとともに幅方向を前後方向に向けた扁平状であり、前側冷媒流通管(12)の前側縁よりも後方に位置し、かつ各組(13)の前後2つの冷媒流通管(12)にろう付された容器本体部(18)と、容器本体部(18)の前側縁部(風下側縁部)の一部分、ここでは上部のみに連なるとともに前側冷媒流通管(12)の前側縁よりも前方(通風方向外側)に張り出すように設けられた外方張り出し部(19)とよりなる。蓄冷材容器(15)の容器本体部(18)および外方張り出し部(19)の内部どうしは通じさせられている。外方張り出し部(19)は、容器本体部(18)の前側縁部の上端から一定の長さにわたって設けられており、外方張り出し部(19)の上下方向の長さは容器本体部(18)の上下方向の長さよりも短くなっている。また、蓄冷材容器(15)の外方張り出し部(19)は、アウターフィン(16)よりも通風方向外側に位置しており、外方張り出し部(19)の下縁部(19a)は、容器本体部(18)(通風方向上流側)に向かって下方に傾斜している。なお、ここでは、容器本体部(18)および外方張り出し部(19)の左右方向の厚みは等しくなっている。
【0038】
蓄冷材容器(15)の容器本体部(18)の左右両側壁(18a)外面に、それぞれ上端から下端に向かって漸次低くなった複数の凝縮水排水路(21)(22)が間隔をおいて形成されている。ここでは、全体が上方から下方に向かって風上側に傾斜した第1凝縮水排水路(21)と、上下方向に間隔をおいて形成されかつ上方から下方に向かって風上側に傾斜した上下両傾斜部(22a)と、上傾斜部(22a)の下端と下傾斜部(22a)の上端とを通じさせる鉛直部(22b)とよりなる第2凝縮水排水路(22)とが設けられている。第2凝縮水排水路(22)は、容器本体部(18)の上下方向の中央部を含むように、上部から下部にかけて形成されている。各凝縮水排水路(21)(22)の上端は容器本体部(18)の上縁または風下側縁部に開口し、上端が容器本体部(18)の上縁に開口した凝縮水排水路(21)(22)の下端は容器本体部(18)の風上側縁部に開口し、上端が容器本体部(18)の風下側縁部に開口した凝縮水排水路(21)(22)の下端は容器本体部(18)の下縁に開口している。各凝縮水排水路(21)(22)は、蓄冷材容器(15)の容器本体部(18)の左右両側壁(18a)に設けられて外方に膨出した2つの凸部(23)の間に形成されており、1つの凝縮水排水路(21)(22)を形成する2つの凸部(23)のうち少なくともいずれか一方の凸部(23)の長さは、蓄冷材容器(15)の容器本体部(18)の通風方向の幅よりも長くなっている。なお、隣り合う2つの凝縮水排水路(21)(22)は、両凝縮水排水路(21)(22)間に位置する凸部(23)を共有している。すべての凸部(23)の膨出頂壁は平坦であるとともに同一平面上に位置しており、凸部(23)の平坦な膨出頂壁が冷媒流通管(12)に接触した状態でろう付されている。容器本体部(18)の左側壁(18a)の凝縮水排水路(21)(22)および凸部(23)と、右側壁(18a)の凝縮水排水路(21)(22)および凸部(23)とは、一部分が重複するが全体に重複しないように、同一水平面内において通風方向に若干ずれて設けられている。
【0039】
蓄冷材容器(15)の容器本体部(18)内には、オフセット状のアルミニウム製インナーフィン(24)が、上下方向のほぼ全体にわたって配置されている。インナーフィン(24)は、上下方向にのびる波頂部(25a)、上下方向にのびる波底部(25b)、および波頂部(25a)と波底部(25b)とを連結する連結部(25c)からなる波状帯板(25)が、上下方向に複数並べられるとともに相互に一体に連結されることにより形成され、上下方向に隣り合う2つの波状帯板(25)の波頂部(25a)どうしおよび波底部(25b)どうしが前後方向に位置ずれしているものである。インナーフィン(24)は、蓄冷材容器(15)の容器本体部(18)の左右両側壁(18a)内面、すなわち容器本体部(18)の左右両側壁(18a)の凸部(23)が形成されていない部分にろう付されている。凸部(23)の膨出頂壁は、冷媒流通管(12)に接触するが、インナーフィン(24)には接触しないので、蓄冷材容器(15)の容器本体部(18)の各側壁(18a)に、インナーフィン(24)に接触する接触部分と、インナーフィン(24)に接触しない非接触部分とが設けられていることになる。
【0040】
蓄冷材容器(15)の外方張り出し部(19)には、通風方向内側寄り(後側寄り)の狭幅部分を除いて、左右両方向に膨らみ、かつ左右方向の寸法が容器本体部(18)の左右方向の寸法よりも大きくなっている膨張部(26)が設けられており、膨張部(26)がアウターフィン(16)よりも通風方向外側(通風方向下流側)に位置しているとともに、膨張部(26)の左右両側壁(26a)が平坦となっている。
【0041】
蓄冷材容器(15)内へ充填される蓄冷材としては、凝固点が5〜10℃程度に調整されたパラフィン系潜熱蓄冷材が用いられる。具体的には、ペンタデカン、テトラデカンなどが用いられる。蓄冷材容器(15)の内部空間の内容積に対する封入された蓄冷材の体積の比率である蓄冷材充填率が70〜90%であることが好ましい。蓄冷材は、外方張り出し部(19)の上端部に設けられて上方に開口した蓄冷材注入口(27)を通して蓄冷材容器(15)内に注入されている。蓄冷材注入口(27)は、外方張り出し部(19)の上端部に固定されて外方張り出し部(19)を外部に通じさせる円筒状注入部材(32)の内部に設けられている。蓄冷材注入口(27)は、蓄冷材の蓄冷材容器(15)内への注入後に、注入部材(32)の上部を圧潰することによって閉鎖されている。その結果、外方張り出し部(19)の上端部に、蓄冷材注入口(27)を閉じることにより形成された封止部(28)が存在している。封止部(28)は、外方張り出し部(19)の上端から上方に突出しており、蓄冷機能付きエバポレータ(1)の通風面(F)に対して、上方に向かって容器本体部(18)から離れる方向、ここでは風下側に傾斜している(図3参照)。
【0042】
蓄冷材容器(15)の強度は、通常の使用環境温度範囲、たとえば−40〜90℃の範囲内においては、液相状態の蓄冷材が密度変化するとともに、蓄冷材容器(15)内に残存している空気が熱膨張することにより内圧が上昇したとしても、破損しないような強度に設計されている。
【0043】
図6に詳細に示すように、蓄冷材容器(15)は、両面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートにプレス加工が施されることにより形成され、かつ周縁部どうしが互いにろう付された2枚の略縦長方形状アルミニウム板(29)(31)よりなる。各アルミニウム板(29)(31)には、容器本体部(18)および外方張り出し部(19)を形成する膨出高さの等しい第1膨出部(29a)(31a)と、第1膨出部(29a)(31a)における容器本体部(18)を形成する部分の膨出頂壁に設けられかつ凸部(23)となる第2膨出部(29b)(31b)と、第1膨出部(29a)(31a)における外方張り出し部(19)を形成する部分の膨出頂壁に設けられかつ膨張部(26)を形成する第3膨出部(29c)(31c)と、第3膨出部(29c)(31c)の上端に連なって上方に延びるように設けられかつ第3膨出部(29c)(31c)内を上方に通じさせる半円筒状の第4膨出部(29d)(31d)とを備えている。ここで、各アルミニウム板(29)(31)を、第2凝縮水排水路(22)の鉛直部(22b)よりも上方に存在する第1凝縮水排水路(21)、ならびに第2凝縮水排水路(22)の上傾斜部(22a)および鉛直部(22b)の上部を形成する上型と、第2凝縮水排水路(22)の下傾斜部(22a)および鉛直部(22b)の下部を形成する下型と、第2凝縮水排水路(22)の鉛直部(22b)の残部を形成する中型とからなる分割型を用いてプレス加工を施すようにすれば、中型のみを交換することにより高さの異なるアルミニウム板を形成することが可能になる。
【0044】
そして、2枚のアルミニウム板(29)(31)を、インナーフィン(24)を間に挟んで第1膨出部(29a)(31a)の開口どうしが対向するとともに、第4膨出部(29d)(31d)間に注入部材(32)の下部に設けられた小径部(32a)が挟まれるように組み合わせ、この状態で両アルミニウム板(29)(31)の周縁部どうし、および両アルミニウム板(29)(31)と注入部材(32)とをろう付することによって蓄冷材容器(15)が形成されている。蓄冷材は、上部が圧潰される前の注入部材(32)内の蓄冷材注入口(27)を通して蓄冷材容器(15)内に注入され、蓄冷材注入口(27)は注入部材(32)の上部を圧潰することにより封止され、これにより封止部(28)が形成されている。蓄冷材注入口(27)を通して蓄冷材容器(15)内に注入される蓄冷材は、外方張り出し部(19)内に入った後、容器本体部(18)に入る。そして、外方張り出し部(19)の下縁部(19a)が、容器本体部(18)に向かって下方に傾斜しているので、蓄冷材注入口(27)を通して蓄冷材容器(15)の外方張り出し部(19)内に注入された蓄冷材は、容器本体部(18)側に流れやすくなる。
【0045】
上述した蓄冷機能付きエバポレータ(1)は、車両のエンジンを駆動源とする圧縮機、圧縮機から吐出された冷媒を冷却するコンデンサ(冷媒冷却器)、コンデンサを通過した冷媒を減圧する膨張弁(減圧器)とともに冷凍サイクルを構成し、カーエアコンとして、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両、たとえば自動車に搭載される。そして、圧縮機が作動している場合には、圧縮機で圧縮されてコンデンサおよび膨張弁を通過した低圧の気液混相の2相冷媒が、冷媒入口(7)を通って蓄冷機能付きエバポレータ(1)の風下側上ヘッダ部(5)内に入り、全冷媒流通管(12)を通って風上側上ヘッダ部(6)の冷媒出口(8)から流出する。そして、冷媒が冷媒流通管(12)内を流れる間に、通風間隙(14)を通過する空気と熱交換をし、冷媒は気相となって流出する。
【0046】
圧縮機の作動時には、冷媒流通管(12)内を流れる冷媒の有する冷熱が、蓄冷材容器(15)の容器本体部(18)の左右両側壁(18a)における冷媒流通管(12)にろう付されている凸部(23)の膨出頂壁を経て直接蓄冷材容器(15)内の蓄冷材に伝わるとともに、凸部(23)の膨出頂壁から左右両側壁(18a)における冷媒流通管(12)にろう付されていない部分およびインナーフィン(24)を経て蓄冷材容器(15)内の蓄冷材の全体に伝わって蓄冷材に冷熱が蓄えられる。
【0047】
このとき、蓄冷材容器(15)表面に発生した凝縮水は、凝縮水排水路(21)(22)内に入り、表面張力により凝縮水排水路(21)(22)の両側の凸部(23)に沿うようにして凝縮水排水路(21)(22)内に溜まる。溜まった凝縮水の量が多くなると、溜まった凝縮水に作用する重力が表面張力よりも大きくなり、凝縮水排水路(21)(22)内を一挙に流下する。したがって、凝縮水が凝縮水排水路(21)(22)内に留まる時間が短くなり、蓄冷材容器(15)の外面に発生した凝縮水をスムーズに排水することができる。
【0048】
圧縮機が停止した場合には、蓄冷材容器(15)内の蓄冷材に蓄えられた冷熱が、蓄冷材容器(15)の容器本体部(18)の左右両側壁(18a)における冷媒流通管(12)にろう付されている凸部(23)の膨出頂壁を経て直接冷媒流通管(12)に伝わるとともに、インナーフィン(24)から左右両側壁(18a)における冷媒流通管(12)にろう付されていない部分および凸部(23)の膨出頂壁を経て冷媒流通管(12)に伝わり、さらに冷媒流通管(12)を通過して当該冷媒流通管(12)における蓄冷材容器(15)とは反対側にろう付されているアウターフィン(16)に伝わる。そして、アウターフィン(16)を介して蓄冷材容器(15)が配置されている通風間隙(14)の両隣の通風間隙(14)を通過する空気に伝えられる。したがって、エバポレータ(1)を通過した風の温度が上昇したとしても、当該風は冷却されるので、冷房能力の急激な低下が防止される。
【0049】
周囲の温度が通常の使用環境温度範囲よりも高温、たとえば100℃になると、液相状態の蓄冷材の密度変化および蓄冷材容器(15)内に残存している空気の熱膨張が顕著になって、蓄冷材容器(15)の内圧が異常に上昇するが、この場合、図7に示すように、蓄冷材容器(15)の外方張り出し部(19)に設けられた膨張部(26)の左右両側壁(26a)が外側に膨らむように変形し、蓄冷材容器(15)の内圧上昇による破損が防止される。しかも、アウターフィン(16)よりも風下側に張り出している外方張り出し部(19)の強度は、冷媒流通管(12)にろう付されている容器本体部(18)の強度よりも低いので、周囲の温度がさらに高温になった場合には、外方張り出し部(19)において蓄冷材容器(15)が破損して蓄冷材が洩れることがあるが、冷媒流通管(12)は蓄冷材容器(15)の破損の影響を受けないので、冷媒流通管(12)の破損が防止される。しかも、蓄冷材の洩れる箇所が決まっているので、洩れた蓄冷材に対応する対策を比較的簡単に講じることができる。
【0050】
図8はこの発明による蓄冷機能付きエバポレータに用いられる蓄冷材容器の変形例を示す。
【0051】
図8に示す蓄冷材容器(40)の場合、容器本体部(18)の左右両側壁(18a)外面に、間隔をおいて形成されかつ上端から下端に向かって漸次低くなった複数の凝縮水排水路(41)は、全体が上方から下方に向かって風上側に傾斜している。各凝縮水排水路(41)の上端は容器本体部(18)の上縁または風下側縁部に開口し、各凝縮水排水路(41)の上端は容器本体部(18)の上縁または風下側縁部に開口し、上端が容器本体部(18)の上縁に開口した凝縮水排水路(41)の下端は容器本体部(18)の風上側縁部に開口し、上端が容器本体部(18)の風下側縁部に開口した凝縮水排水路(41)の下端は容器本体部(18)の下縁に開口している。各凝縮水排水路(41)は、蓄冷材容器(15)の容器本体部(18)の左右両側壁(18a)に設けられて外方に膨出した2つの凸部(42)の間に形成されており、1つの凝縮水排水路(41)を形成する2つの凸部(42)のうち少なくともいずれか一方の凸部(42)の長さは、蓄冷材容器(15)の容器本体部(18)の通風方向の幅よりも長くなっている。なお、隣り合う2つの凝縮水排水路(41)は、両凝縮水排水路(41)間に位置する凸部(42)を共有している。すべての凸部(42)の膨出頂壁は平坦であるとともに同一平面上に位置しており、凸部(42)の平坦な膨出頂壁が冷媒流通管(12)に接触した状態でろう付されている。図示は省略したが、容器本体部(18)の左側壁(18a)の凝縮水排水路(41)および凸部(42)と、右側壁の凝縮水排水路および凸部とは、一部分が重複するが全体に重複しないように、同一水平面内において通風方向に若干ずれて設けられている。
【0052】
その他の構成は、上述した蓄冷材容器(15)と同様であり、同一部分には同一符号を付す。なお、蓄冷材容器(40)も、両面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートにプレス加工が施されることにより形成され、かつ周縁部どうしが互いにろう付された2枚の略縦長方形状アルミニウム板(29)(31)よりなる。各アルミニウム板(29)(31)には、容器本体部(18)および外方張り出し部(19)を形成する膨出高さの等しい第1膨出部(29a)(31a)と、第1膨出部(29a)(31a)における容器本体部(18)を形成する部分の膨出頂壁に設けられかつ凸部(42)となる第2膨出部(29b)(31b)と、第1膨出部(29a)(31a)における外方張り出し部(19)を形成する部分の膨出頂壁に設けられかつ膨張部(26)を形成する第3膨出部(29c)(31c)と、第3膨出部(29c)(31c)の上端に連なって上方に延びるように設けられかつ第3膨出部(29c)(31c)内を上方に通じさせる半円筒状の第4膨出部(29d)(31d)とを備えている。
【産業上の利用可能性】
【0053】
この発明による蓄冷機能付きエバポレータは、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両のカーエアコンを構成する冷凍サイクルに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0054】
(1):蓄冷機能付きエバポレータ
(12):冷媒流通管
(13):管組
(14):通風間隙
(15)(40):蓄冷材容器
(16):アウターフィン
(18):容器本体部
(19):外方張り出し部
(19a):下縁部
(21)(22):凝縮水排水路
(22a):傾斜部
(22b):鉛直部
(23):凸部
(24):インナーフィン
(26):膨張部
(26a):左右両側壁
(27):蓄冷材注入口
(28):封止部
(F):通風面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8