【文献】
Archives of Biochemistry and Biophysics,1969年,Vol.134,p.279-284
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カルボン酸界面活性剤は、前記ウイルスタンパク質の沈殿が生じない条件下で、カプリル酸(8)、バレリアン酸(5)、カプロン酸(6)、エナント酸(7)、ペラルゴン酸(9)、カプリン酸(10)からなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、タンパク質の製造、およびそれらの改良された精製法に関する。特に本発明は、適切な宿主(例えば、宿主細胞)において産生されたタンパク質生成物から、残留核酸などの細胞の混入物を除去するための方法を提供する。したがって、本発明は、そのような方法によって調製された、関係する組成物も包含する。
【0010】
このように本発明は、細胞培養から産生される生物学的生成物の収量、純度、および/または安全性を上昇させる方法を含む。本発明の方法によって調製された生物学的生成物は、以下を含み得るが、これらに限定されない:バイオ医薬品、タンパク質、多糖、ウイルス抗原および抗体。特定の局面として、本方法は、実質的に残留DNAのない生物学的生成物を提供する。
【0011】
本発明者らは、細胞培養に由来するタンパク質およびDNAを含むサンプルの精製が、タンパク質および細胞DNAを含む溶液へのアニオン性界面活性剤の添加、次いでイオン交換マトリクスを含む精製工程によって、有意に改良されることを驚くべきことに見出した。解決される課題は、正に荷電されたイオン交換マトリクス上での、目的のタンパク質からの負に荷電されたDNA不純物の分離の非効率性に関し得る。二次的な(secondary)相互作用は、アニオン交換クロマトグラフィーが負に荷電されたDNA不純物を吸着する能力の減少において役割を担うことが想定され得る。本発明は今や、残留DNAをアニオン性界面活性剤溶液と接触させ、そしてアニオン交換マトリクス上での吸着により残留DNAを処理することによって、質を高めた(enriched)生成物およびそれらの上昇した収量を達成している。本発明者らは、本発明がまた、インフルエンザ核タンパク質を除去することを、予期せずして見出した。本発明によって達成されたような混入物の効率的な除去は、より高い量の目的タンパク質が得られるように、インキュベーションおよび感染の時間を増加させることができるため、より高い収量の生成物を可能にする。本発明はまた、ウイルス調製物が、脂肪酸界面活性剤(例えば、カプリル酸ナトリウム)などのアニオン性界面活性剤の存在下でイオン交換クロマトグラフィーを介して精製される場合、細胞培養において産生されたインフルエンザウイルス由来残留DNAの特に効果的な除去を達成させ得るという認識も包含する。
【0012】
驚くべきことに、本発明者らはまた、本明細書中に記載されるプロセスが、実質的にインフルエンザ核タンパク質(NP)を除去することも見出した。好都合なことに、本発明は、細胞培養に由来するインフルエンザウイルスに制限されず、NPの除去が望まれる場合には、卵中で産生されたインフルエンザウイルスにも適用することができる。
【0013】
先行技術において記載された方法とは異なり(上記「発明の背景」を参照)、本発明は、目的のタンパク質もDNAも沈殿させない条件下で、アニオン性界面活性剤を利用する。本発明によると、目的のタンパク質の調製物は、イオン交換クロマトグラフィーを通じて、混入するDNA/タンパク質から分離される。本明細書中で記載されるプロセスを使用することにより、サンプル中の不純物(例えば、残留DNA)の量を劇的に減少させることができる。本発明を用いて、細胞培養などの宿主細胞において産生される、1つまたはそれより多い目的のタンパク質を含む任意のサンプルから、残留細胞DNAを除去することができる。
【0014】
したがって、本発明は、細胞培養などの宿主細胞において産生される、目的のタンパク質を含むサンプルから残留細胞DNAを除去するための方法を提供し、この方法は、沈殿させない条件下で、目的のタンパク質を含む溶液へアニオン性界面活性剤を添加し、そしてその溶液をアニオン交換マトリクスを通過させ、残留細胞DNAを除去することを含む。本発明の方法は、特定の目的のタンパク質には限定されない。本発明に従い精製することのできるタンパク質の限定されない例は、以下を含むが、これらに限定されない:治療用タンパク質、抗原(例えば、免疫原性タンパク質)、抗体またはそれらの断片。
【0015】
本発明によると、本明細書中に提供される方法を適用させることのできる、適切な開始材料は、目的のタンパク質を含む溶液であり得る。そのような溶液は、粗製の細胞調製物もしくは組織調製物、部分的に精製した調製物、細胞が増殖した培養培地、または細胞培養上清などであり得るが、除去されることが望ましい残留細胞混入物を含むようである。
【0016】
目的のタンパク質は、適切な宿主細胞系において生産され得、そして当該分野において公知である一般的な分離手法によって、細胞不純物から精製または清澄化させることができる。必要に応じて、タンパク質がイオン交換マトリクスを通過する前、望ましくはアニオン性界面活性剤の添加の前に、更なる工程が行われ得る。例えば、目的のタンパク質を、最初に細胞培養不純物から精製して、清澄化された溶液を生産し得る。本発明の方法から得られた溶出液またはフロースルー(flow−through)は、目的のタンパク質の精製およびワクチンへの製剤化などの更なる処理工程に供することができる。本発明のいくつかの実施形態において、沈殿させない条件下で、目的のタンパク質および細胞培養不純物を含む溶液とアニオン性界面活性剤溶液とを接触させ、そしてその溶液をイオン交換マトリクスを通過させることによって、アニオン性界面活性剤は、清澄化された溶液に添加される。沈殿させない条件は、タンパク質またはDNAの実質的な沈殿が生じない条件である。
【0017】
それゆえ、本発明は、ウイルスタンパク質の産生に適する。目的のウイルスタンパク質は、ウイルスを感染させた適切な宿主(培養細胞など)中で産生され得る。いくつかの実施形態において、ウイルスタンパク質産生のプロセスは、ビリオンのスプリットを含み得、これは典型的にスプリットする薬剤または他の界面活性剤の使用に関係する。いくつかの実施形態において、本明細書中に記載される方法において使用されるアニオン性界面活性剤は、スプリットするプロセスにおいて使用されるスプリットする薬剤または界面活性剤ではない。
【0018】
代替的にまたは加えて、本発明は、残留細胞DNAを減少させるための方法を提供し、この方法は、沈殿させない条件下で、アニオン性界面活性剤の存在下でタンパク質、細胞DNAを含む溶液を、イオン交換マトリクスを通過させ、そして実質的に全ての細胞DNAをイオン交換マトリクス上に吸着させる。好ましい局面において、アニオン性界面活性剤は、プロセス中で使用されるスプリットする薬剤でも他の界面活性剤でもない。タンパク質および細胞DNAがイオン交換マトリクスを通過する前、好ましくはアニオン性界面活性剤の添加の前に、更なる工程が行われ得る。例えば、ウイルスをスプリットする薬剤を用いてスプリットして、そしてタンパク質をスプリットウイルスを含む細胞培養残骸から分離して、清澄化された溶液を生産し得る。本発明によって産生された、イオン交換マトリクスより得られる溶出液またはフロースルーは、ウイルスタンパク質の更なる精製、そしてワクチンへの製剤化などの更なる処理工程に供し得る。
【0019】
本発明は、特にワクチン産生のためのウイルスタンパク質の調製に適用できる。別の実施形態において、本発明は、細胞培養で産生されたウイルスタンパク質を含むサンプルから残留細胞DNAを除去するための方法を提供し、この方法は、沈殿させない条件下で、目的のタンパク質を含む溶液にアニオン性界面活性剤を添加し、その溶液をイオン交換マトリクスを通過させることを含み、これにより残留細胞DNAがイオン交換樹脂に結合する。好ましい局面において、アニオン性界面活性剤は、プロセス中で使用されるスプリットする薬剤または他の界面活性剤ではない。必要に応じて、イオン交換マトリクスを通過する前、好ましくはアニオン性界面活性剤の添加の前に、更なる工程が行われ得る。例えば、ウイルスを、最初にスプリットする薬剤を用いてスプリットして、次いで細胞培養残骸からスプリットウイルスを分離して、清澄化された溶液を生産し得る。本発明によって産生される、イオン交換マトリクスより得られた溶出液またはフロースルーは、ウイルスタンパク質の更なる精製、そしてワクチンへの製剤化などの更なる処理工程に供し得る。
【0020】
細胞培養に由来する生物学的生成物のための特に効果的な精製法は、宿主細胞DNAなどの不純物を最適に除去し、一方で同時に生成物の最大収量への到達を可能にするべきである。この目的のために、本発明は、実質的に不純物および豊富な免疫原性タンパク質のない生成物を提供する。本発明によると、細胞培養増殖などの宿主細胞に由来する残留DNAおよび不純物は、アニオン性界面活性剤を含む溶液中の通過、その後にイオン交換マトリクスで処理されることによって、意図される生成物から除去され得る。
【0021】
したがって、本発明は、細胞培養に由来する目的のタンパク質を含むワクチン組成物を調製するための方法を提供し、この方法は、沈殿させない条件下で、目的のタンパク質を含む溶液に脂肪酸界面活性剤(以下に定義されるような)を添加し、そしてイオン交換マトリクス上で目的のタンパク質を処理することを含む。本発明は、バイオ医薬ワクチン生成物のために有用であり得る。
【0022】
好ましい局面として、本発明は、細胞培養に由来するウイルスに由来する免疫原性タンパク質を含むインフルエンザワクチン組成物を産生するための方法を提供し、この方法は、沈殿させない条件下で、免疫原性タンパク質を含む溶液に脂肪酸界面活性剤を添加し、そしてイオン交換マトリクス上で免疫原性タンパク質を処理することを含む。免疫原性タンパク質は、不活化およびスプリットする薬剤に供したインフルエンザウイルスより得られた、ヘマグルチニン、ノイラミニダーゼおよび核タンパク質を含む。追加の工程が、イオン交換マトリクス上で免疫原性タンパク質を処理する前、好ましくは脂肪酸界面活性剤の添加の前に行われ得る。例えば、インフルエンザウイルスは、最初にスプリットする薬剤を用いてスプリットされ、次いで細胞培養残骸からスプリットウイルスが分離され、清澄化された溶液を生産し得る。本発明によって産生された、イオン交換マトリクスより得られた溶出液またはフロースルーは、ウイルスタンパク質の更なる精製、そしてワクチンへの製剤化などの更なる処理工程に供し得る。好ましい局面において、脂肪酸界面活性剤は、プロセス中で使用されるスプリットする薬剤でも他の界面活性剤でもない。
【0023】
上記で言及したように、本発明はまた、本明細書中に記載されるプロセスが、実質的にインフルエンザ核タンパク質(NP)を除去するという驚くべき発見も包含する。好都合なことに、本発明は、NPの除去が望まれる場合には、細胞培養に由来するインフルエンザウイルスに制限されず、卵中で産生されるインフルエンザウイルスにも適用できる。
【0024】
それゆえ、本発明は、目的のウイルスタンパク質からウイルス核タンパク質を除去するための方法を提供する。アニオン性界面活性剤は、沈殿させない条件下でウイルス核タンパク質を含む溶液に添加される。いくつかの実施形態において、アニオン性界面活性剤は、プロセス中で使用されるスプリットする薬剤でも他の界面活性剤でもない。その後、核タンパク質はイオン交換マトリクスに結合し、実質的にウイルス核タンパク質および細胞DNAのない、目的のタンパク質を含む溶出液(またはフロースルー)を産生し得る。いくつかの実施形態において、本発明のために使用される適切なアニオン性界面活性剤溶液は、デオキシコレートも、ラウリル硫酸ナトリウムもそれらの組み合わせも含まない。
【0025】
したがって、本発明は、細胞培養または孵化卵に由来するインフルエンザウイルス調製物から、インフルエンザ核タンパク質を除去するための方法を提供し、この方法は、沈殿させない条件下でのウイルス調製物へのアニオン性界面活性剤の添加、そしてアニオン交換マトリクスでのウイルス調製物の処理を含み、これにより核タンパク質はアニオン交換マトリクスに結合する。追加の工程が、イオン交換マトリクス上でのウイルス調製物の処理の前、好ましくはアニオン性界面活性剤の添加の前に行われ得る。例えば、インフルエンザウイルスは、最初にスプリットする薬剤を用いてスプリットされ、次いで細胞培養残骸からスプリットウイルスが分離され、清澄化された溶液が生産され得る。本発明によって産生された、イオン交換マトリクスより得られた溶出液またはフロースルーは、更なるウイルスタンパク質の精製、そしてワクチンへの製剤化などの更なる処理工程に供し得る。好ましい局面において、アニオン性界面活性剤は、プロセス中で使用されるスプリットする薬剤でも他の界面活性剤でもない。
【0026】
本発明は、本発明の方法によって産生された、実質的に残留DNAおよび核タンパク質のない、インフルエンザワクチンを提供する。インフルエンザワクチンは、サブビリオン粒子形態で製剤化することができて、例えば、HAタンパク質およびNAタンパク質は、精製されたサブユニットタンパク質であるか、またはインフルエンザウイルス構造の一部に結合し得る。
本発明の実施形態は、以下に挙げられる。
(項目1)
目的のタンパク質を含むサンプルから残留細胞DNAを除去するための方法であって、該方法は、:
a.沈殿させない条件下で、目的のタンパク質を含む溶液に、アニオン性界面活性剤を添加する工程;および
b.該目的のタンパク質を含む溶出液を得るために、該溶液を、イオン交換マトリクスを通過させる工程であって、これにより該残留細胞DNAが、該イオン交換樹脂に結合し、該溶出液は、実質的に細胞DNAがない工程
を含む方法。
(項目2)
ウイルスタンパク質を含むサンプルから残留細胞DNAを除去するための方法であって、該方法は、:
a.宿主細胞系において増殖させたウイルスを含むサンプルを提供する工程であって、該ウイルスは、目的のウイルスタンパク質を発現する工程;
b.該ウイルスをスプリットする工程;
c.沈殿させない条件下で、該ウイルスタンパク質を含む溶液に、アニオン性界面活性剤を添加する工程;および
d.該目的のウイルスタンパク質を含む溶出液を得るために、該溶液を、イオン交換マトリクスを通過させ、これにより残留細胞DNAが、該イオン交換樹脂に結合する工程
を含む方法。
(項目3)
細胞培養物において増殖させたウイルスに由来する免疫原性タンパク質を含む、インフルエンザウイルス組成物を調製するための方法であって、該方法は、
a.細胞培養でウイルスを増殖させる工程
b.沈殿させない条件下で、該免疫原性タンパク質を含む溶液に、脂肪酸界面活性剤を添加する工程、および
c.該免疫原性タンパク質を、イオン交換マトリクス上で処理する工程
を含む方法。
(項目4)
目的のウイルスタンパク質を含む調製物から、インフルエンザ核タンパク質(NP)を除去するための方法であって、該方法は、
a.細胞培養または卵に由来するウイルス調製物をスプリットする工程
b.沈殿させない条件下で、該ウイルス調製物に、アニオン性界面活性剤を添加する工程、および
c.該ウイルス調製物を、イオン交換マトリクスを通じて処理する工程であって、これにより該核タンパク質が、該イオン交換マトリクスに結合する工程
を含む方法。
(項目5)
清澄化工程を更に含む、項目1〜4に記載の方法。
(項目6)
濃縮工程を更に含む、項目1〜4に記載の方法。
(項目7)
デプスフィルトレーション工程を更に含む、項目1〜4に記載の方法。
(項目8)
前記界面活性剤工程(b)の前に、スプリットする工程を更に含む、項目3に記載の方法。
(項目9)
前記イオン交換工程の前に、不活化工程を更に含む、項目2〜4に記載の方法。
(項目10)
前記スプリットする工程は、CTABを用いた処理を含む、項目8に記載の方法。
(項目11)
前記アニオン性界面活性剤は、プロセスにおいて使用される他の界面活性剤と同じではない、前述の項目のいずれかに記載の方法。
(項目12)
前記アニオン性界面活性剤は、脂肪酸界面活性剤である、項目1、2または4に記載の方法。
(項目13)
前記アニオン性界面活性剤は、4〜10炭素を含む長さのカルボン酸の界面活性剤である、前述の項目のいずれかに記載の方法。
(項目14)
前記カルボン酸界面活性剤は、前記ウイルスタンパク質の沈殿が生じない条件下で、カプリル酸(8)、バレリアン酸(5)、カプロン酸(6)、エナント酸(7)、ペラルゴン酸(9)、カプリン酸(10)からなる群より選択される、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記アニオン性界面活性剤は、25mM〜500mMの濃度で存在する、前述の項目のいずれかに記載の方法。
(項目16)
前記不活化工程は、BPLを用いた不活化を含む、項目9に記載の方法。
(項目17)
前記膜は、Sartobind Qである、前述の項目のいずれかに記載の方法。
(項目18)
前記樹脂は、Fractogel TMAEである、前述の項目のいずれかに記載の方法。
(項目19)
医薬組成物を生産するための、前述の項目のいずれかに記載の方法の使用。
(項目20)
回収される前記目的のタンパク質の量は、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%である、前述の項目のいずれかに記載の方法。
(項目21)
200塩基未満の断片サイズで、用量あたり5ng未満の残留DNAおよび10μgのHAあたり0.5μg未満のNPを含むインフルエンザワクチン。
(項目22)
アジュバントを更に含む、項目21に記載のインフルエンザワクチン。
(項目23)
前記アジュバントは、:アルミニウムアジュバント、水中油型アジュバントおよびToll様受容体(TLR)アゴニストからなる群より選択される、項目22に記載のインフルエンザワクチン。
(項目24)
インフルエンザワクチンを生産するための方法であって、前記方法は、:
a.宿主細胞において増殖させたウイルスをスプリットする工程
b.沈殿させない条件下で、該ウイルス由来の目的のウイルスタンパク質を含む溶液に、アニオン性界面活性剤を添加する工程
c.該目的のウイルスタンパク質を含む溶出液を得るために、該溶液を、イオン交換マトリクスを通過させる工程であって、これにより該残留細胞DNAが、該イオン交換樹脂に結合する工程;
d.必要に応じて該溶出液を更に処理して、該目的のウイルスタンパク質を含む調製物を提供する工程;および
e.該調製物の濾過滅菌、ならびに必要に応じて充填および包装を行う工程
を含む方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
特定の実施形態の詳細な説明
目的のタンパク質
本発明の方法は、細胞DNAなどの残留宿主細胞混入物から、宿主細胞源(培養細胞など)に由来する任意の目的のタンパク質の精製に使用することができる。本明細書で記載されるような現代のウイルス産生法は、リコンビナントタンパク質産生またはモノクローナル抗体産生のバイオ処理と共通点が多い。それゆえ、特定の局面において、その方法は、目的のタンパク質、例えば、真核(哺乳類、鳥類、昆虫、植物、真菌など)細胞培養および原核(例えば、細菌)細胞培養などの、宿主細胞中で生成される治療用タンパク質、免疫原性タンパク質もしくは抗原、抗体もしくはその断片、それらの細胞溶解物、清澄化されたバルク(例えば、清澄化された細胞培養上清)、または動物に由来するタンパク質混合物もしくは抽出物を精製するために利用される。
【0029】
特定の実施形態において、その方法は、1つまたはそれより多い目的タンパク質を含む混合物(宿主細胞由来調製物、例えば、細胞培養、細胞溶解液、清澄化されたバルクなど)からの宿主細胞混入物(例えば、不純物)の効果的な除去を含む。いくつかの実施形態において、本明細書中に記載される方法のための適切な開始材料は、1つまたはそれより多い目的のタンパク質、および意図される目的のために望まれない量の残留宿主細胞混入物を含む、宿主細胞由来調製物(サンプル溶液および細胞溶解液など)を含む。いくつかの実施形態において、そのような開始材料は、粗製の細胞溶解液である。いくつかの実施形態において、そのような開始材料は、分泌タンパク質を含む細胞培養上清(例えば、宿主細胞が増殖した細胞培養培地)である。いくつかの実施形態において、そのような開始材料は、部分的に精製された形態として示される。
【0030】
それゆえ、本発明の1つの局面は、細胞培養などの適切な系において産生される、目的のタンパク質を含むサンプルから、残留細胞DNAを除去するための方法を提供し、この方法は、沈殿させない条件下で目的のタンパク質を含む溶液に、少なくとも1つのアニオン性界面活性剤を添加する工程;(例えば、溶出液またはフロースルー中の)残留DNAから目的のタンパク質を分離するために、その溶液をイオン交換マトリクスを通過させる工程であって、これにより残留細胞DNAがイオン交換樹脂に結合する工程;ならびに必要に応じて、目的のタンパク質を更に精製する工程、および生成物へと製剤化する工程を含む。いくつかの実施形態において、その結果として生じる精製された目的のタンパク質は、医薬組成物の製造における使用に適している。それゆえ、そのような1つまたはそれより多いタンパク質は、生物製剤治療薬およびワクチンなどの薬学的製品として製剤化される。
【0031】
したがって、本明細書中に記載される方法は、適切な宿主において産生されるウイルスタンパク質の調製のために有用である。いくつかの実施形態において、そのようなウイルスタンパク質は、ワクチン産生に適したウイルスの免疫原性タンパク質(すなわち、ウイルス抗原)である。
【0032】
本発明における使用に適切な免疫原性タンパク質は、ワクチンの標的である、任意のウイルスに由来し得る。免疫原性タンパク質は、ウイルスから精製されたかまたはウイルスに由来する、不活化(または死菌)ワクチン、弱毒化ワクチン、スプリットウイルス製剤、精製サブユニット製剤、単離されたウイルスタンパク質およびウイルス様粒子(VLP)であり得る。
【0033】
ワクチン産生の間に、スプリットする工程が使用される場合、スプリットする薬剤は、本明細書中に記載される方法のアニオン性界面活性剤とは異なり得る。好ましくは、スプリットする工程またはスプリットする薬剤は、残留細胞DNAが結合するか、または目的のタンパク質から分離される、イオン交換クロマトグラフィーの前に加えられる。
【0034】
本発明の免疫原性タンパク質は、好ましくは、ウイルスの生活環の少なくとも1ステージの間にウイルスの表面に曝露されるエピトープを含む。ウイルスは、非エンベロープ型、または好ましくはエンベロープ型であり得る。ウイルスは、好ましくはRNAウイルス、より好ましくはssRNAウイルスである。それらは、センスのゲノム、または好ましくはアンチセンスのゲノムを有し得る。それらのゲノムは、非分節型、または好ましくは分節型であり得る。本発明の好ましいウイルスは、ノイラミダーゼ(NA)タンパク質およびヘマグルチニン(HA)タンパク質などのウイルス抗原を含むインフルエンザウイルスを含む。
【0035】
ウイルス培養
本発明は、インフルエンザウイルスの調製、およびワクチン産生のためのウイルス抗原の処理の間に生成される、残留DNAまたは不純物の除去の方法を提供する。したがって、本発明は、インフルエンザウイルス調製物から核タンパク質を除去するための方法を提供する。インフルエンザウイルスは、宿主中で培養されて、そしてNAタンパク質およびHAタンパク質を単離し、かつ精製するために精製工程が行われ得る。それゆえ、本発明の1つの局面において、目的のウイルスタンパク質を含む調製物からインフルエンザ核タンパク質(NP)を除去するための方法に関し、この方法は、細胞培養または卵より得られたウイルス調製物をスプリットすること、沈殿させない条件下でそのウイルス調製物をアニオン性表面活性剤と接触させること、およびその調製物をイオン交換マトリクスを通過させることであって、これにより核タンパク質がアニオン交換樹脂に結合すること、ならびに必要に応じてウイルスタンパク質を精製すること、およびそれをワクチンへと製剤化することを含む。
【0036】
培養宿主は、細胞またはニワトリ孵化卵であり得て、これはヒトへの投与のために使用することのできるワクチンの産生に適している。ワクチン製造のために認可された適切な細胞の限定されない例は、MDCK細胞、CHO細胞、Vero細胞、およびPER.C6(登録商標)細胞を含む。卵の使用を伴う本発明の実施形態のために、ウイルスはまた、卵中でも増殖され得る。ワクチンのためのインフルエンザウイルス増殖についての現在の標準的な方法は、SPFニワトリ孵化卵と共に卵内容物(尿膜腔液)から精製したウイルスを使用する。ウイルスを卵によって継代培養し、そして続いてそれを細胞培養で繁殖させること、およびその逆もまた可能である。孵化卵中で培養された(cultivate)ワクチン生成物の精製のための方法は、例えば、英国第1498261号において記載されている。
【0037】
好ましくは、細胞は、一般的な混入物の源を避けるために、血清の非存在下で培養される。多数の真核細胞培養のための無血清培地が、当業者に公知であり、例えば、イスコフ培地、ultra CHO培地(BioWhittaker)、EX−CELL(JRH Biosciences)である。更に無タンパク質培地が使用され得て、例えば、PF−CHO(JRH Biosciences)である。もしそうでなければ、複製のための細胞はまた、通例の血清を含む培地(例えば、0.5%〜10%のウシ胎児血清を含むMEM培地またはDMEM培地)中でも培養することができる。
【0038】
ウイルスは、接着培養または懸濁培養の細胞において増殖され得る。マイクロキャリア培養を使用することができる。いくつかの実施形態においては、それゆえ、細胞は、懸濁での増殖を適用され得る。懸濁は最初に、当該分野において公知である任意の方法を使用して清澄化され得る。清澄化工程は、サンプルからの細胞、細胞残骸、および宿主細胞不純物の除去に役立つ。いくつかの実施形態において、清澄化は、1つまたはそれより多い遠心分離工程を介して行われ得る。サンプルの遠心分離は、当該分野において公知である普通の方法によって行われ得る。例えば、遠心分離は、荷重が約1×10
−8 m/sに標準化され(normalized)、かつ重力が約5,000×g〜約15,000×gに標準化されて行われ得る。
【0039】
精製
別の局面において、懸濁液は、1つまたはそれより多いデプスフィルトレーション(depth filtration)技術によって清澄化され得る。デプスフィルトレーションとは、縮小していく孔径を有する一連のフィルターを順番に配置して使用し、溶液から粒子を除去する方法をいう。デプスフィルター三次元マトリクスは、サンプルが通過する迷路様の経路を作り出す。デプスフィルターの根本的な保持メカニズムは、マトリクスの奥行き中でのランダムな吸着および機械的な取込みに依拠する。多様な局面において、フィルターの膜またはシートは、巻き綿(wound cotton)、ポリプロピレン、レーヨンセルロース、ガラス繊維、焼結金属、磁器、珪藻土、または他の公知である構成要素であり得る。特定の局面において、デプスフィルター膜を含む組成物は、フィルターが、DNA、宿主細胞タンパク質、または凝集体などの負に荷電された粒子を捕捉することが可能となるように、化学的に処理されて、電気陽性の電荷、すなわちカチオン性電荷が付与され得る。
【0040】
本発明に従う方法はまた、細胞培養から生成されるウイルスまたはタンパク質の採取および単離も含む。ウイルスまたはタンパク質の単離の間に、細胞は、分離、濾過、または限外濾過などの標準的な方法によって培養培地から分離される。次いで、ウイルスまたはタンパク質は、勾配遠心分離、濾過、沈降、クロマトグラフィーなどの、当業者に十分に公知の方法に従い濃縮され、次いで精製される。ウイルスが、精製の間、または精製の後に不活化されることもまた、本発明に従うと望ましい。ウイルスの不活化は、精製プロセス中の任意の点で、例えばβ−プロピオラクトンまたはホルムアルデヒドによって、引き起こすことができる。
【0041】
当業者が入手可能な任意のデプスフィルトレーションシステムが、本発明の工程を通じて使用され得る。特定の実施形態において、デプスフィルトレーションによる清澄化および精製は、Millipore Corporationから入手可能な、MILLISTAK+ Pod depth filter system、X0HC mediaによって成し遂げられる。別の局面において、デプスフィルター工程は、3M Purification Inc.から入手可能な、ZETA PLUS Depth Filterにより成し遂げられる。
【0042】
ワクチン産生
ワクチンは、通常生ウイルスまたは不活化ウイルスのいずれかに基づく。不活化ワクチンは、全ビリオン、「スプリット」ビリオン、または精製された表面抗原に基づき得る。抗原はまた、ヴィロソームの形態においても提示され得る。本発明は、これらの任意の型のワクチンの製造に使用することができる。これは、インフルエンザワクチンを製造するために特に適するが、しかしながら、これは、通常検出可能な量で残留DNAおよび核タンパク質を含む。そのようなインフルエンザワクチンは、生ウイルス、全ビリオン、またはスプリットビリオンインフルエンザワクチンを含む。ワクチンが、サブビリオン形態で製剤化される場合、ウイルス抗原は、スプリットウイルス形態で見出され、ここでウイルスの脂質エンベロープは、溶解している、もしくは崩壊している(disrupted)、または1つもしくはそれより多い、精製されたウイルスタンパク質の形態である。
【0043】
更なる代替として、ワクチンは、例えば、全弱毒生ウイルス、全不活化ウイルスなどの全ウイルスを含み得る。哺乳類細胞への感染能を破壊するための、ウイルスを不活化または殺傷する方法は、当該分野において公知である。そのような方法は、化学的手段と物理的手段の両方を含む。ウイルスを不活化するための化学的手段は、以下の因子:界面活性剤、ホルムアルデヒド、ホルマリン、BPL、およびUV光の1つまたはそれより多くを、有効量で処理することを含む。不活化のための追加の化学的手段は、メチレンブルー、ソラレン、カルボキシフラーレン(C60)、またはそれらの任意の混合物を含む。ウイルス不活化の他の方法は、例えば、バイナリーエチルアミン(binary ethylamine)、アセチルエチレンイミン、またはガンマ線照射などが、当該分野において公知である。好ましくは、ウイルスは、BPLを用いて不活化される。
【0044】
残留DNAは、機能的タンパク質をコードすることができないようにDNAを十分に小さな部分に切断する、アルキル化剤を用いて不活化され得る。好ましくは、分解された残留細胞培養DNAの長さは、500塩基対より短い。より好ましくは、分解された残留細胞培養DNAの長さは、200塩基対より短い。好ましくは、本発明におけるベータプロピオラクトン(BPL)などのアルキル化剤の使用は、凝集体および混入物の減少において追加の恩恵を提供する。凝集体を減少させたワクチン製剤はまた、改良された免疫原性も有し得る。米国第2009−0304729号は、アルキル化剤を用いた機能的残留DNAの処理を教示する。Onions et al.(2010;Biologicals,38(5):544−551)に記載されるように、イオン交換クロマトグラフィーと組み合わせてアニオン性界面活性剤を使用する前に、断片化された残留DNAの一部は、CTABのようなカチオン性界面活性剤を用いた沈降によって除去することができる。Onionsの全下流プロセスは、
図5に示される。いくつかの実施形態において、本発明は、Onionsのプロセスの一部として適用することができる。
【0045】
インフルエンザウイルスなどのウイルスをスプリットする方法は、当該分野において周知であり、例えば、国際特許公開:国際公開第02/28422号、国際公開第02/067983号、国際公開第02/074336号、国際公開第01/21151号などを参照。ウイルスのスプリットは、感染性(野生型もしくは弱毒化)であろうと非感染性(例えば、不活化)であろうと、全ウイルスを、崩壊させる濃度のスプリットする薬剤を用いて、崩壊または断片化させることによって遂行される。スプリットする薬剤は通常、脂質膜を分解し、かつ溶解する能力を有し、典型的に疎水性尾部が親水性頭部に連結した薬剤を含む。好ましいスプリットする薬剤は、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)である。崩壊は、ウイルスタンパク質の完全な可溶化または部分的な可溶化をもたらし、ウイルスの統合性(integrity)を変化させる。好ましいスプリットする薬剤は、例えば、アルキルグリコシド、アルキルチオグリコシド、アシル糖、スルホベタイン、ベタイン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、N,N−ジアルキル−グルカミド、Hecameg、アルキルフェノキシ−ポリエトキシエタノール、第四級アンモニウム化合物、サルコシル、CTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)、リン酸トリ−N−ブチル、セタブロン、ミリスチルトリメチルアンモニウム塩、リポフェクチン、リポフェクタミン、およびDOT−MA、オクチル−またはノニルフェノキシ ポリオキシエタノール(例えば、Triton X−100またはTriton N101などのTriton表面活性剤)、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(Tween表面活性剤)、ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンエステルなどの、非イオン性表面活性剤およびイオン性(例えば、カチオン性)表面活性剤である。
【0046】
1つの有用なスプリット手順は、デオキシコール酸ナトリウムおよびホルムアルデヒドの継続的な効果を使用し、スプリットを最初のビリオン精製の間(例えば、スクロース密度勾配溶液中)に行うことができる。それゆえ、スプリットするプロセスは、(ビリオンでない材料を除去するための)ビリオンを含む材料の清澄化、採取したビリオンの濃縮(例えば、CaHPO
4吸着などの吸着法を使用する)、ビリオンでない材料からの全ビリオンの分離、密度勾配遠心分離工程におけるスプリットする薬剤を使用するビリオンのスプリット(例えば、デオキシコール酸ナトリウムなどのスプリットする薬剤を含有する、スクロース勾配を使用する)、次いで望ましくない材料を除去するための濾過(例えば、限外濾過)を包含し得る。スプリットビリオンは、有用なことにリン酸ナトリウム緩衝等張塩化ナトリウム溶液中に再懸濁することができる。
【0047】
「実質的に残留DNAのない」組成物(ワクチンなど)とは、200塩基対未満の残留DNA断片が、0.5mlあたり10ng未満で検出可能であることが、キャピラリー電気泳動によって決定される組成物または製剤をいう(例えば、国際公開第2009/118420号を参照)。本発明の組成物中の残留DNAの総量は、好ましくは20ng/ml未満であり、例えば、10ng/ml以下、5ng/ml以下、1ng/ml以下、100pg/ml以下、10pg/ml以下などである。
【0048】
したがって、残留DNAを測定するために使用されるアッセイは、典型的にバリデートされたアッセイである(Guidance for Industry:Bioanalytical Method Validation. U.S. Department of Health and Human Services Food and Drug Administration Center for Drug Evaluation and Research(CDER)Center for Veterinary Medicine(CVM). May 2001;Lundblad(2001)Biotechnology and Applied Biochemistry 34:195−197)。DNA定量のための3つの原理の技術が使用され得る:サザンブロットまたはスロットブロットなどのハイブリダイゼーション法(Ji et al.(2002) Biotechniques. 32:1162−7);THRESHOLDシステムなどのイムノアッセイ(Briggs(1991) J Parenter Sci Technol. 45:7−12;および定量PCR(Lahijani et al.(1998) Hum Gene Ther. 9:1173−80)。これらの方法は全て、当業者によく知られたものであるが、それぞれの方法の正確な特性は、ハイブリダイゼーションのためのプローブの選択、増幅のためのプライマーおよび/またはプローブの選択などの多様な因子に依存し得る。
【0049】
別の局面として、本発明は、核タンパク質(NP)のレベルを減少させたインフルエンザワクチン組成物を調製するための方法を提供する。好ましくは、NPは、ワクチン中の総インフルエンザウイルスタンパク質の質量に対して15%未満を構成し、例えば、12%未満、10%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満を構成する。ワクチンは、10μgのHAあたり3μg未満のNP、10μgのHAあたり2.5μg未満のNP、10μgのHAあたり2μg未満のNP、10μgのHAあたり1.5μg未満のNP、10μgのHAあたり1μg未満のNP、10μgのHAあたり0.5μg未満のNP、または10μgのHAあたり0.1μg未満のNPを含み得る。最も好ましくは、ワクチンは、実質的にNPのないものである。これは、10μgのHAあたり0.1μg未満のNPを有することとして理解される。いくつかの実施形態において、本明細書中に提供される方法は、調製物中のNPの量において、少なくとも10倍の減少を達成し、例えば、本発明の精製法に供した開始材料と比較して、フロースルー(または溶出液)中のNPの量において、少なくとも10倍、少なくとも12倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも25倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも75倍、少なくとも100倍の減少を達成し得る。
【0050】
組成物中のタンパク質の量を決定するための方法は、当業者に公知である。しかしながら、NPとNAとは事実上同じ分子量(約60kD)を有するため、それらは通常非還元ゲルにおいて共移動する。そのため、古典的なSDSゲル電気泳動は、NPの量を決定するための適切な方法ではないかもしれない(Chaloupka et al.,1996, Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 1996 Feb;15(2):121−7を参照。)。ワクチンのバルク中のNPの量を決定するための1つの方法は、2次元電気泳動とそれに続く濃度計測であり得る。しかしながら、好ましくは、例えば、:Williams et al.,Vaccine 30(2012)2475−2482に記載されるような、同位体標識した合成ペプチドを使用した同位体希釈質量分析法である。そのような方法は、多重反応モニタリング(MRM)と連結した、同位体希釈を使用した液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC−MS/MS)を使用する。この方法は、サンプルのタンパク質分解性消化によって放出された、標的ペプチドを、分析物タンパク質の化学量論的な代表として定量する。同位体標識された安定な基準ペプチドは、内部標準(IS)としてサンプルに加えられる(spiked)。NPの定量は、同位体標識された基準ペプチドのピーク面積を、内在性標的ペプチドのピーク面積と比較することによって達成される。この方法は、標識されたペプチドが、それぞれの特異的な標的について含まれる場合、複数タンパク質の同時定量を可能にする。
【0051】
代替的に、ラベルフリー質量分析法(LC/MSE)が、好ましくは四重極型飛行時間型(Q−Tof)質量分析において、定量のために使用される(Getie−Kebtie et al.,(2013):Influenza and Other Respiratory Viruses 7(4),521−530)。この方法のために、LC/MS分析の間に、低衝突エネルギーと上昇した衝突エネルギーとの交互スキャン(scan)が、単一実験においてタンパク質の同一性および量の両方を得るために使用される。定量は、任意の所定のタンパク質について、最も強力な3つのトリプシン消化性のペプチドのLC/MSEによって計測された平均シグナル強度が、タンパク質のタイプおよび大きさに拘らず所定の濃度で一定であることを示す、実験データに基づく。シグナル強度は濃度に比例するため、混合物中の任意のタンパク質の量を見積もることができる。
【0052】
本発明はまた、細胞培養(好ましくは、哺乳類または鳥類細胞)で増殖させたウイルスに基づくインフルエンザワクチンも含み、それにより、ワクチンは、200塩基対未満の断片サイズで、5ng/用量未満(例えば、用量あたり4ng未満、3ng未満、2ng未満、または1ng未満)の残留細胞DNA量を有し、それにより、ワクチンは10μgのHAあたり1μg未満のNP、10μgのHAあたり0.5μg未満のNP、または10μgのHAあたり0.1μg未満のNPを含有する。最も好ましくは、ワクチンは、実質的にNPのないものである。これは、10μgのHAあたり0.1μg未満のNPを有することとして理解される。特にインフルエンザワクチンは、200塩基未満の断片サイズで、用量あたり1ng未満の残留DNA、かつ10μgのHAあたり0.5μg未満のNPを含有する。このワクチンは、水銀を含有する防腐剤および抗生物質がなく、最も好ましい。ワクチンは、200塩基対未満の断片サイズで、用量あたり1ng未満の残留細胞DNAを有し、かつ10μgのHAあたり0.5μg未満のNPを有し、4価の季節性インフルエンザワクチンまたは1価の汎流行インフルエンザワクチンに最も好ましい。
【0053】
そのようなワクチン調製物は、例えば特に好ましい実施形態である、以下のプロセスによって得られる:以下の工程が行われる、インフルエンザウイルスワクチンを産生するための方法:インフルエンザウイルスは細胞培養、例えば、MDCK懸濁細胞で増殖される(国際公開第1997/037000号)。ウイルスは、採取され、精製され、そして0.45マイクロメートル濾過およびCSクロマトグラフィーによって濃縮される。界面活性剤(ポリソルベートなどであり、例えば、Tween(登録商標)80)の添加の後、ウイルス調製物は、BPLを用いて処理される。その後、ウイルスは、CTABを用いてスプリットされる。超遠心工程および吸着工程の後に、ウイルスタンパク質調製物は、樹脂としてTMAEまたはSartobind Qを使用するイオン交換クロマトグラフィーに供される。クロマトグラフィーは、カプリル酸ナトリウム(Sartobindに対して約50mM;TMAEに対して100mM)および塩化ナトリウム(Sartobindに対して400mM)、およびTMAEに対して200mM)の存在下で行われる。その後、タンパク質調製物は、限外濾過などの適切な手段によって濃縮される。タンパク質は、必要に応じて他のウイルス調製物と混合され(3価のまたは4価の季節性ワクチンの場合において)、そして必要に応じて濾過滅菌され、充填されて包装され得る。それゆえ、本発明は、このプロセスによって得られるインフルエンザワクチンを含む。
【0054】
残留宿主細胞DNA含有量の程度(measure)は、この方法論を制限する特徴としても定義する特徴としても意味しないことは、当業者に対して明白である。その代わりに、実施例におけるこれらデータは、本発明の本質:臨床の設定および商業の設定において利用され得る、高度に精製された生成物をもたらす、ウイルス粒子の生成のための大規模の方法論を支持する。最終生成物において特定のDNAレベルに到達することの重要性が、生成物特異的であることは、特筆され得る。ヒトにおける非経口使用のために連続継代性細胞株を使用して産生されるウイルス生成物は、最も厳しい純度の基準を必要とするが、その場合でさえ、目標は、用量あたり100pgから用量あたり10ng(WHO Requirements for the Use of Animal Cells as in vitro Substrates for the Production of Biologicals Requirements for Biological Substances No.50),WHO Technical Report Series,No.878,1998)またはそれより多くまで変化し、生成物の適用(indication)に依存して調節されるようである。
【0055】
界面活性剤
本発明において使用されるアニオン性界面活性剤は、イオン交換を行うために、追加の物質として添加される界面活性剤である。したがって、界面活性剤自体は、イオン交換プロセスによって除去されることも、マトリクスで処理された物質を沈殿させることもしないが、残留DNAおよび/またはウイルスもしくはウイルスタンパク質の、特にHAサブユニットの疎水性領域と相互作用することに役立つ。いくつかの実施形態において、本発明のために使用されるアニオン性界面活性剤は、デオキシコレートおよび/またはラウリル硫酸ナトリウムを除外する。
【0056】
好ましい実施形態において、1つまたはそれより多いアニオン性界面活性剤が使用される。好ましい実施形態において、脂肪酸界面活性剤が使用される(以下に定義される)。特に好ましい実施形態において、炭素数8の脂肪酸が使用される。例えば、いくつかの実施形態において、カプリル酸類(例えば、カプリル酸ナトリウム)が使用される。
【0057】
1つの局面において、アニオン性界面活性剤溶液は、目的のタンパク質を有する溶液に添加される。ウイルス調製物のために使用される場合、アニオン性界面活性剤は、好ましくはウイルスの不活化またはウイルスのスプリットの後に添加され、それにより不活化はスプリット工程の前またはスプリット工程の後に行われ得る。1つの局面において、アニオン性界面活性剤は、イオン交換工程の間またはイオン交換工程の前に添加される。アニオン性界面活性剤の添加は、処理をしていない残留DNAの除去と比較して、残留DNAの除去を、少なくとも10%、20%、30%、40%または50%で著しく改良する。市販のアニオン性界面活性剤の一覧は、例えば以下で見出すことができる:http://www.sigmaaldrich.com/life−science/biochemicals/biochemical−products.html?TablePage=14572921。
【0058】
好ましいアニオン性界面活性剤は、コレート、デオキシコレート、1−デカンスルホネート、およびラウリルサルフェートである。他の適切な界面活性剤は、臭化セチルピリジニウム、塩化アルキルベンジルジメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルアンモニウム、およびオルニチニル−システイニル−テトラデシルアミド(orinthinyl−cysteinyl−tetradecylamide)を含む。
【0059】
いくつかの実施形態において、適切なアニオン性界面活性剤は、脂肪酸界面活性剤である。本開示の文脈において、脂肪酸界面活性剤は、脂肪酸(特にC4〜C18炭素鎖、好ましくは、例えばC6、C8およびC10などのC6〜C10炭素鎖から選択される、カルボン酸)の塩であると理解される。好ましくは、脂肪酸は直鎖であり、かつ飽和である。いくつかの実施形態において、適切な脂肪酸界面活性剤は、カプリル酸ナトリウムまたはカプリル酸の同様の塩である。本明細書中に記載されるように、中性pHでのカプリレート(カプリル酸ナトリウム)(C8)の添加は、タンパク質の回収を改良し、かつタンパク質の凝集も非特異的な結合も妨げることが示された。特定の実施形態において、目的の1つまたはそれ以上のタンパク質(抗体またはそれらの断片、抗原、治療用タンパク質、毒素、ペプチドなど)を含むカプリレートの酸溶液の最終濃度は、適切な濃度の界面活性剤を有し、この濃度は、25mMと300mMとの間、好ましくは50mMと250mMとの間、特に好ましくは75mMと200mMとの間である。濃度は、イオン交換樹脂またはイオン交換クロマトグラフィーの条件に依存して、約25mM、約50mM、約75mM、約100mM、約125mM、約150mM、約175mM、約200mM、約250mMまたは約300mMであり得る。当業者は、最も適切な脂肪酸界面活性剤を決定することができ、および経験的に、溶液を作製するための脂肪酸界面活性剤の濃度を解明することができる。例えば、より低級の炭素鎖を有するカルボン酸界面活性剤は、低い界面活性剤特性を有する一方で、より高級の炭素鎖は減少した溶解度を有することが公知である。典型的に、高い界面活性剤濃度は、いずれかの疎水性相互作用の崩壊、および
図2に説明されるような不純物の高い減少のために、異なる種のインフルエンザにわたって、よりロバストなプロセスを提供するものとして見られる。しかしながら、溶液においてタンパク質および残留DNAの沈殿を妨げる量およびpHで、脂肪酸界面活性剤の量が存在することは重要である。
【0060】
別の局面において、タンパク質を含む溶液のpHは、タンパク質、核タンパク質および残留DNAの沈殿が全く(またはわずかな量しか)生じないpHに維持される。例えば、カプリル酸については、これは中性のpHである。タンパク質の沈殿を妨げるために必要とされる至適pHは、当業者によって経験的に容易に決定することができる。好ましくは、混合物の最終pHは、約7.0と約9.0との間になるように維持されるべきである。いくつかの実施形態において、混合物の最終pHは、約7.2と約7.5との間に維持され、例えば、約7.2〜約7.4の間、約7.2〜約7.3の間、約7.3〜約7.5の間、約7.4〜約7.5の間である。いくつかの実施形態において、混合物の最終pHは、約7より高いまたは約7に等しい(約7〜約9の間などであり、例えば、約7.0、約7.5、約8.0、約8.5、約9.0など)pHで維持される。いくつかの実施形態において、タンパク質、残留DNAおよびカプリレートを含む溶液のpHは、約6.0またはそれ未満(例えば、約5、約4および約3)まで減少させるべきでない。pHは、サンプルへのアニオン性界面活性剤(例えば、カプリレート)の添加の前および/または添加の後に調整することができる。いくつかの実施形態において、混合物のpHは、アニオン性界面活性剤(例えば、カプリレート)の添加の前に調整することができる。通常は、例えば、リン酸を含有する緩衝剤およびトリスを含有する緩衝剤を含む、当該分野において認識されている任意の酸または緩衝剤が、混合物のpHを変化させるまたは調製するために使用することができる。
【0061】
本発明の方法はまた、部分的に精製されたタンパク質サンプルにも適用され得、混合物中でタンパク質の沈殿を妨げる条件下で、混合物をアニオン性界面活性剤溶液と接触させること、およびこの混合物をイオン交換マトリクスを通過させることによって、DNAまたは望まれない不純物を更に除去し得る。本発明の方法は、WHOによって推奨されるように、連続継代性細胞株については、宿主細胞DNA混入物を用量あたりDNAが10ng未満の濃度まで、かつ核タンパク質を10μgのHAあたりNPが0.5μg以下の濃度まで効果的に除去する。特定の局面において、本発明によって除去された核タンパク質の量は、SDS−PAGEによって決定されるように、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、60%、70%、80%および90%である。
【0062】
アニオン性界面活性剤の溶液において、タンパク質および残留DNAを含む組成物は、望まれる生成物を回収するために更に処理される。残留DNAは、アニオン性界面活性剤の存在下で、アニオン交換膜上で良好に吸着される。驚くべきことに、本発明者らにより吸着プールの電気泳動解析によって解明されたように、インフルエンザ核タンパク質もまた、アニオン交換膜上に捕捉される。本発明者らは、核タンパク質が、アニオン性界面活性剤の溶液と接触させたときに、残留DNAと一緒に流れるということを発見した。この発見は以前に示されておらず、実質的に残留DNAのない、豊富なインフルエンザ生成物をもたらす。
【0063】
したがって、本明細書中に記載の方法に従い、アニオン性界面活性剤を用いて混入物を含有するサンプル(例えば、細胞培養および清澄化されたバルクの混合物)を処理すること、およびそれに続く精製工程によって残留宿主細胞混入物が除去された後、そのようなサンプルは、約10000ng/mg以下(例えば、約10000ng/mg以下、約5000ng/mg以下、約1000ng/mg以下、約500ng/mg以下、約200ng/mg以下、約100ng/mg以下、約50ng/mg以下、約25ng/mg以下または約10ng/mg以下)のタンパク質混入物を含有し得る。いくつかの実施形態において、そのようなタンパク質混入物は、約10000ng/mg以下の核タンパク質を含み、例えば、約10000ng/mg以下、約5000ng/mg以下、約1000ng/mg以下、約500ng/mg以下、約200ng/mg以下、約100ng/mg以下、約50ng/mg以下、約25ng/mg以下または約10ng/mg以下の核タンパク質を含む。
【0064】
それゆえ、残留DNAおよび核タンパク質を含む任意のインフルエンザ生成物は、アニオン性界面活性剤溶液と接触させること、およびイオン交換マトリクスを通過させることによって、HAタンパク質およびNAタンパク質に富ませることができる。当業者は、本発明の方法を、細胞培養または卵培養から生成されたインフルエンザ生成物に適用することができる。
【0065】
クロマトグラフィー
本発明は、バルク量の完成した生成物を産生するためにイオン交換クロマトグラフィーを利用する、商業規模の処理技術において使用され得る。大規模製造の間に、DNAは、ウイルス粒子の凝集の間に物理的に捕捉された状態になり得るため、残留DNAとウイルス粒子またはウイルスタンパク質との結合アフィニティーの効果は、ウイルス粒子の濃縮の間に更に複雑化することが公知である。一度DNAが、ウイルスに特異的にもしくは非特異的に結合すると、または別な方法でウイルスもしくはタンパク質の凝集によって取り込まれると、当該分野において記載されるようなイオン交換マトリクスの使用は、効率的にDNAを除去するための手段として、比較的効果的でなくなる。したがって、本発明は、クロマトグラフィーマトリクス上の、アニオン性界面活性剤溶液および/または塩緩衝剤によって提供される適切な濃度もしくはイオン強度を用いた精製による、残留DNAを除去するための精製プロセスに関する。
【0066】
アニオン性Q膜クロマトグラフィーカプセルは、クロマトグラフィーカプセルである、Mustang Q膜(Pall Corporationから入手可能)またはSartobind Q(強力な塩基性アニオン交換膜であり、Sartorius Stedim Biotech GmbHから入手可能)を含み得る。第四級アミノ基などの、アニオン性交換樹脂の形成に適切な固形層に結合した、陽性に荷電した任意のリガンドを使用することができる。市販のアニオン交換樹脂は、DEAE cellulose、POROS.PI 20、PI 50、HQ 10、HQ 20、HQ 50、D 50(Applied Biosystemsから)、SARTOBIND.Q(Sartoriusから)、MONO Q、MINI Q、Source 15Qおよび30Q、Q、DEAEおよびANX SEPHAROSE. FAST FLOW、Q SEPHAROSE high Performance、QAE SEPHADEX.ならびにFAST Q SEPHAROSE(GE Healthcare)、WP PEI、WP DEAM、WP QUAT(J.T.Bakerから)、HYDROCELL DEAEおよびHYDROCELL QA(BioChrom Labs Inc.から)、UNOSPHERE Q、MACRO−PREP DEAEおよびMACRO−PREP High Q(Bio−Radから)、Ceramic HyperD Q、ceramic HyperD DEAE、TRISACRYL MおよびLS DEAE、Spherodex LS DEAE、QMA SPHEROSIL LS、QMA SPHEROSIL MならびにMUSTANG Q(Pall Technologiesから)、DOWEX Fine Mesh Strong Base Type IおよびType II Anion ResinsならびにDOWEX MONOSPHERE 77、weak base anion(Dow Liquid Separationsから)、INTERCEPT Q membrane、MATREX CELLUFINE A200、A500、Q500およびQ800(Milliporeから)、FRACTOGEL EMD TMAE、FRACTOGEL.EMD DEAEおよびFRACTOGEL EMD DMAE(EMDから)、AMBERLITE weak strong anion exchangers type IおよびII、DOWEX weak and strong anion exchangers type IおよびII、DIAION weak and strong anion exchangers type IおよびII、DUOLITE(Sigma−Aldrichから)、TSKgel QおよびDEAE 5PWおよび5PW−HR、TOYOPEARL SUPERQ−650S、650Mおよび650C、QAE−550Cおよび650S、DEAE−650Mおよび650C(Tosohから)、QA52、DE23、DE32、DE51、DE52、DE53、EXPRESS−Ion DおよびEXPRESS−Ion Q(Whatmanから)を含む。
【0067】
イオン交換マトリクス上のクロマトグラフィー分離は、フロースルー方式において行われる。カラムでのサンプルの流れ、洗浄および溶出を含むクロマトグラフィー捕捉工程のために使用される特定の方法は、使用される特定のカラムおよび樹脂に依存し、典型的に、製造者によって提供されるか、または当該分野において公知である。
【0068】
代わりの局面において、イオン強度の調節はまた、クロマトグラフィー工程の間に講じられ得る。緩衝剤溶液のイオン強度は、溶液中に存在する全てのイオンのモル濃度と電荷数との両方から決定され得る。イオン強度Iは、以下の公式を使用して計算され得る:
【数1】
ここで、c
iは、イオンiのモル濃度であり(mol・dm
−3)、z
iは、そのイオンの電荷数であり、そしてその和が、溶液中の全てのイオンについて行われる。一般的に、NaClなどの1:1の電解質では、イオン強度は、そのモル濃度に等しいが、一方で多価イオンは、溶液中でイオン強度により寄与し、例えば、2:2の電解質であるMgSO
4のイオン強度は、NaClのイオン強度の4倍である。
【0069】
好ましいイオン強度は、費用効果の高い方法で、不必要な残留DNAを除去する一方で、ウイルスの抗原性を保持するウイルスまたはタンパク質の収量を高く維持することの間のバランスを最適化する。
【0070】
当業者は、例えば、サンプルの特性、クロマトグラフ膜の性質および分画の効率に依存する、クロマトグラフィー分離プログラムを設計することができる。塩分を含む緩衝剤は、好ましくは、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7および約7.8などの中性pHまたは中性pH付近で提供される。アニオン性界面活性剤(例えば、脂肪酸界面活性剤)の存在下で、目的のタンパク質が、活性を失う、凝集するまたは沈殿するため、pHは約6未満まで減少させるべきではない。緩衝剤(例えば、塩化ナトリウム緩衝剤)の適切な濃度は、約100mMと約1Mとの間であり得、100mM、150mM、200mM、300mM、400mM、500mM、600mM、700mM、800mM、900mMおよび1Mなどである。最適な塩濃度は、使用されるイオン交換クロマトグラフィー樹脂に依存する。当業者は、慣用される試験によって、最適な塩濃度を容易に決定することができる。TMAE樹脂については、最良の塩化ナトリウム濃度は、約300mMであり、SARTOBIND Qについては、400mMよりも高い(界面活性剤としてカプリレートの使用のために;以下の実施例を参照)。
【0071】
本明細書中で使用されるように、用語「クロマトグラフィー」とは、混合物中の、例えば、目的のタンパク質などの目的の溶質が、その混合物を吸着剤で濾過することによって、混合物中の他の溶質から分離されるプロセスをいい、吸着剤は、プロセスの特定の緩衝条件下で、pI、疎水性、サイズおよび構造などの溶質の性質により、溶質を強くまたは弱く吸着するまたは保持する。本発明の方法において、クロマトグラフィーは、混合物(細胞培養または清澄化された細胞培養上清を含むが、これらに限定されない)から沈殿物を除去した後に、混入物を除去するために使用することができる。
【0072】
本明細書中で使用されるような用語「不純物」とは、一般的に、残留宿主細胞DNA、空のウイルス粒子、凝集したタンパク質または生成物の意図される組成物以外の物質をいう。
【0073】
本発明の文脈において使用される「処理」または「処理された」とは、細胞の副生成物および残骸、コロイド粒子、多量のバイオマスならびに高い細胞密度を含む、最初の開始材料の清澄化の後に行われる、下流の1つまたはそれより多い工程をいう。処理工程において使用される技術は、単離、精製、濃縮、遠心分離、フィルトレーション(濾過)、製剤化、不活化、スプリットおよび滅菌された生物学的生成物のために行われる多様な分析操作を含む。「処理された」はまた、サンプルを、クロマトグラフィーカラム、樹脂、膜、フィルターもしくは他のメカニズムに流すまたは通過させる工程を記載し得、かつそれぞれのメカニズムを連続して流すことと同様に、それぞれのメカニズムの間で休止したまたは停止した流れも含み得る。
【0074】
明示的な教示はないが、2つまたはそれより多くの組成物を混合する工程を含むプロセスは、いずれかの特定の順序での混合を必要としない。それゆえ、組成物は、任意の順序で混合させることができる。3つの組成物がある場合、その後2つの組成物をそれぞれ組み合わせることができ、その後その組み合わせは、第3の組成物と組み合わされ得るなどである。
【0075】
句「イオン交換材料」とは、負に荷電された(例えば、カチオン交換樹脂)または正に荷電された(例えば、アニオン交換樹脂)固形層をいう。1つの実施形態において、電荷は、1つまたはそれより多い荷電した配位子(または吸着剤)を固形層に(例えば、共有結合によって)結合させることによって提供され得る。代わりにまたは加えて、電荷は、(例えば、全体に負の電荷を有する、シリカについての場合のように)固形層の固有の性質であり得る。
【0076】
したがって、本発明は、以下の実施形態を含むが、これらに制限されない:
1.目的のタンパク質を含有する第二溶液を得るために、沈殿させない条件下で、目的のタンパク質およびアニオン性界面活性剤を含有する第一溶液をイオン交換マトリクスに供する工程を含む方法であって、該第二溶液は、該第一溶液よりも少ない残留細胞混入物を含有する方法。
2.前記第一溶液は、:細胞溶解液または組織溶解液、培養培地、細胞培養上清、血漿および部分的に精製されたタンパク質溶液からなる群より選択される、実施形態1の方法。
3.前記目的のタンパク質は、:治療用タンパク質、免疫原性タンパク質(例えば、ウイルス抗原)および抗体またはそれらの抗原結合断片からなる群より選択される、前述の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
4.前記アニオン性界面活性剤は、:脂肪酸界面活性剤からなる群より選択される、前述の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
5.前記アニオン性界面活性剤は、タンパク質精製のプロセスにおいて使用されるいずれの界面活性剤とも異なる、前述の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
6.前記アニオン性界面活性剤は、デオキシコレートおよび/またはラウリル硫酸ナトリウムを含まない、前述の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
7.前記イオン交換マトリクスは、塩基性アニオン交換膜を含む、前述の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
8.前記沈殿させない条件は、中性pHまたは中性pH付近を含む、前述の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
9.前記第二溶液は、溶出液である、前述の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
10.更なる精製の工程を更に含む、前述の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
11.濾過滅菌を行う工程を更に含む、前述の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
12.前記目的のタンパク質を、医薬組成物へと製剤化する工程を更に含む、前述の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
13.濾過滅菌を行う工程を更に含む、前述の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
14.前記医薬組成物は、予防用組成物、治療用組成物またはそれらの混合である、実施形態12または13に記載の方法。
15.前記医薬組成物は、薬学的に許容可能な賦形を更に含む、実施形態12〜14のいずれか1つに記載の方法。
16.前記医薬組成物は、アジュバントを更に含む、実施形態12〜15のいずれか1つに記載の方法。
17.前記医薬組成物を、滅菌閉鎖系へと包装する工程を更に含む、実施形態12〜16のいずれか1つに記載の方法。
18.前記滅菌閉鎖系は、:バイアル、注射器および容器からなる群より選択される、実施形態17に記載の方法。
19.前記滅菌閉鎖系は、プラスチックまたはガラスである、実施形態17または18に記載の方法。
20.前記滅菌閉鎖系は、シリコン処理された表面を含む、実施形態17〜19のいずれか1つに記載の方法。
21.医薬品の製造のための、実施形態12〜20のいずれか1つに記載の医薬組成物の使用であって、該医薬品は、該医薬品を必要とする被験体に投与される使用。
22.被験体に投与するための医薬品として使用するための、実施形態12〜20のいずれか1つに記載の医薬組成物。
23.実施形態12〜20のいずれか1つに記載の医薬組成物を、被験体へ投与する工程を含む方法。
24.用量あたり5ng未満の残留DNAおよび1.0μg未満の核タンパク質を含むウイルスワクチン。
25.用量あたり1ng未満の残留DNAおよび0.5μg未満の核タンパク質を含む、実施形態24に記載のウイルスワクチン。
26.用量あたり1ng未満の残留DNAおよび0.1μg未満の核タンパク質を含む、実施形態24に記載のウイルスワクチン。
27.前記ウイルスワクチンは、インフルエンザワクチンである、実施形態24〜26のいずれか1つに記載のウイルスワクチン。
28.アジュバントを更に含む、実施形態24〜27のいずれか1つに記載のウイルスワクチン。
29.前記アジュバントは、:アルミニウムアジュバント、水中油型アジュバント、ヴィロソームおよびToll様受容体(TCR)アゴニストからなる群より選択される、実施形態28に記載のウイルスワクチン。
【0077】
本発明は、以下の実施例によって更に説明されるが、これは制限として解釈されるべきではない。
【実施例】
【0078】
Onions et al.,2010において記載されているように、H5N1ウイルスを、MDCK懸濁細胞において増殖させ、採取し、そして処理した。スプリットウイルス調製物は、SARTOBIND Q膜(Sartorius)またはFRACTOGEL TMAE(EMD Millipore)膜を使用するイオン交換クロマトグラフィーに供した。TMAEについて見出された最適な塩濃度は、約300mMであることが決定された一方で、SARTOBIND Qについて見出された最適な濃度は、400mMよりも高かった。異なる界面活性剤およびカオトロピック剤を用いた調製を行った。7.2のpHを有するアルギニン組成物を除いて、最終組成物のpHは、7.5であった。DNAの減少は、Picogreenによって評価し、タンパク質の収量は、BCAアッセイによって評価した。全体として、SARTOBINDQは、DNAの減少においてTMAEよりもより良好に機能した;しかしながら、カプリル酸ナトリウムを利用する全ての実験は、DNAの減少において、NaClだけと比較して有意な上昇を示した。SARTOBINDQ膜上で50mMカプリレートおよび400mM NaClを用いて、ロバストな結果を得ることができた。アルギニンについてのBCA値は、BCAアッセイにおけるアルギニンの干渉のため、正確ではないかもしれない。アルギニンは、不充分にDNAを除去するため、収量について更に調査していない。これら条件についてのBCAおよびDNAデータは、
図3および
図4に示される。
【0079】
以下の3つの実験からのサンプルを、HA含有量についてRP−HPLCによって更に調べた:(i)対照−50mMリン酸、300mM NaCl、pH7.5;(ii)50mMリン酸、100mMカプリル酸ナトリウム、200mM NaCl、pH7.5;(iii)50mMリン酸、100mMカプリル酸ナトリウム、500mM NaCl、pH7.5。これら実験を、試験した条件についての最良の事例であるとみなした。より高いカプリレート濃度は、系統にわたってよりロバストなプロセスを提供するとして理解され、これは、より高い濃度のカプリレートが、より効果的にいずれの疎水性相互作用も崩壊させ、そして全体として不純物の高度な減少を導くという考えに基づく。RP−HPLCによる収量を計算し、
図1においてプロットした。
【0080】
これら3つの実験からの材料をまた、SDS−PAGEによって解析した。これらは、
図2において見ることができる。サンプルは、低いタンパク質濃度のため、ゲル上で流す前にサンプル調製を必要とした。サンプルを、SDS−PAGEによって視覚化するために十分に高いタンパク質濃度を確保するために、2.5倍に濃縮した。サンプルは、15mL Amicon ULTRA SPIN Tubを10,000MWCO膜と一緒に使用して濃縮した。吸着プールもまた、緩衝剤中で希釈し、低分子量混入物が、濃縮プロセスの間に失われないことを保証するために、2.5倍に濃縮した。これは、吸着および吸着(濃縮した)とラベルされたレーンを比較することによって実証される。純度における劇的な違いは、対照の実験とカプリレートを含有する実験とを比較することによって見ることができる。カプリレートの実験のおける核タンパク質は、収量性能を最適化するためにNaClだけを使用した実験と比較して有意に減少した。
【0081】
これら実験は、二次的な(天然においてはおそらく疎水性の)相互作用が、AEXクロマトグラフィーの、負に荷電された不純物DNAを吸着する能力の減少における役割を行うことをうまく示した。理論に拘束されることを望むわけではないが、カプリレートの吸着プールへの添加は、この疎水性相互作用を崩壊させ、DNAおよび核タンパク質の、膜または樹脂への結合を可能にするようである。
【0082】
本発明は、単なる例示の手段で記載され、改変は、本発明の範囲および主旨の範囲内にとどまっている間に行われ得ることが、理解されるべきである。
【0083】
上記の個々の節において言及される、本発明の種々の特徴および実施形態は、必要な変更を加えて他の節に適切に適用される。結果的に、1つの節において明記された特徴は、適切に他の節において明記された特徴と組み合わされ得る。
【0084】
文脈が許可する場合には、請求項を含む明細書を通じて、用語「含む」および「含み」または「含むもの」などのその変形は、1つまたはそれより多くの主張される要素(例えば、整数)を、必ずしもそれ以外の要素(例えば、整数)を除外することなく含むとして解釈される。
【0085】
当業者は、慣用される実験法だけを使用して、本明細書中に記載される本発明の特定の実施形態に対する多くの同等のものを認識し、または確かめることができるだろう。そのような同等のものは、以下の特許請求の範囲によって含まれることが意図される。