特許第6373385号(P6373385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373385
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】ネオペンチルグリコールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/141 20060101AFI20180806BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20180806BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20180806BHJP
【FI】
   C07C29/141
   C07C31/20 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-536163(P2016-536163)
(86)(22)【出願日】2015年1月26日
(65)【公表番号】特表2017-510543(P2017-510543A)
(43)【公表日】2017年4月13日
(86)【国際出願番号】EP2015051466
(87)【国際公開番号】WO2015113928
(87)【国際公開日】20150806
【審査請求日】2016年12月6日
(31)【優先権主張番号】102014100996.7
(32)【優先日】2014年1月28日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507254975
【氏名又は名称】オクセア・ゲゼルシャフト・ミト・べシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】アイゼナッハー・マティアス
(72)【発明者】
【氏名】シャーラプスキー・クルト
(72)【発明者】
【氏名】シュトルッツ・ハインツ
【審査官】 鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】 西独国特許出願公開第10317545(DE,A)
【文献】 特開昭55−004396(JP,A)
【文献】 特開昭51−018928(JP,A)
【文献】 特表2008−506775(JP,A)
【文献】 特開2013−237046(JP,A)
【文献】 特表2002−500208(JP,A)
【文献】 特表2010−520250(JP,A)
【文献】 特表2012−511534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/141
C07C 31/20
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)塩基性触媒の存在下に、イソブチルアルデヒドをホルムアルデヒドと反応させる工程であって、その際、該イソブチルアルデヒドが過剰に存在する、工程
b)工程a)からの反応混合物を蒸留による精製によって底部生成物を生じさせる工程であって、該底部生成物が、≦3重量%の水を含有する、工程、
c)該底部生成物を水素化してネオペンチルグリコールにする工程、
を含む、ネオペンチルグリコールの合成方法であって、
その際、前記塩基性触媒がトリメチルアミンであり、
前記工程b)が、≧170℃〜≦200℃の温度で行われ、
前記工程c)が、ニッケル及び/又は銅クロマイトをベースとする触媒を含み、≧6MPa〜≦20MPaの水素の圧力及び≧100℃〜≦220℃の温度で行われる、上記の方法。
【請求項2】
前記工程c)が、管型リアクター中で行われ、47.5%銅、46.5%クロム、4.0%マンガン、2.0%バリウムの組成を有し、3%触媒をグラファイトと混合してタブレット化して該管型リアクター中に仕込み、触媒の充填物の下方を130℃に、そして、触媒の充填物の上方を170℃に加熱し、水素圧を8MPaにして行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イソブチルアルデヒドのホルムアルデヒドに対する比が≧1.01:1(イソブチルアルデヒドのモルのホルムアルデヒドのモルに対する)である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記塩基性触媒が、前記イソブチルアルデヒドに対して≧0.01〜≦0.1のモル比で使用される、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
工程b)が、薄膜蒸発器において遂行される、請求項1〜のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
工程b)が遂行された後に、下記の工程b1):
b1)工程b)で分離された、イソブチルアルデヒドを含有する有機相を、工程a)による新たな反応にフィードバックする工程、
を追加的に含む、請求項1〜のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
工程b)と工程c)との間に、前記蒸留排液の更なる精製が行われない、請求項1〜のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
工程c)が、二段階又は多段階の水素化として、マルチゾーンリアクター中で遂行される、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はネオペンチルグリコールへの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオペンチルグリコール(=2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール)は、産業化学の重要な化合物であり、主として、粉体塗料のための飽和ポリエステル樹脂、並びにガラス繊維強化プラスチックを製造するための原料として重要である。
【0003】
このことに起因して、ネオペンチルグリコールのための、新規な、改善された製造方法が絶え間なく探求されている。
【0004】
それ故、本発明は、ネオペンチルグリコールの新規な製造方法を提供することを課題とする。この課題は、本発明の請求項1に記載の方法によって解決される。それによれば、提供される方法は次の工程を含む:
a)塩基性触媒の存在下に、イソブチルアルデヒドをホルムアルデヒドと反応させる工程であって、その際、該イソブチルアルデヒドが過剰に存在する、工程
b)工程a)からの反応混合物を蒸留による精製によって底部生成物を生じさせる工程であって、該底部生成物は、≦5重量%の水を含有する、工程、
c)該底部生成物を水素化してネオペンチルグリコールにする工程。
【0005】
驚くことに、イソブチルアルデヒドが過剰に存在する塩基性での反応によって、その後の蒸留による精製時に、5%以下の水を含有し、そして、それに加えて、ほとんどの用途の場合に、先行するアルドール反応の触媒が完全に除去される、底部生成物が得られることが判明した。そのような底部生成物は、ヒドロキシピバリンアルデヒドが選択的にネオペンチルグリコールに転化できるだけでなく、高沸点不純物も非常に高い選択率でネオペンチルグリコールに転化できるように、引き続いて水素化することができる。
【0006】
以下に、個々の工程をより詳細に説明する。
【0007】
工程a)イソブチルアルデヒドとホルムアルデヒドとの反応
この反応は、好ましくは、≧40℃〜≦100℃の温度で行われ、連続的又は断続的に行うことができる。
【0008】
大部分の用途の場合、ホルムアルデヒドはホルムアルデヒドの水溶液の形態で使用される。
【0009】
その場合、イソブチルアルデヒドは、ホルムアルデヒドに対して過剰に、好ましくは、≧1.01:1(ホルムアルデヒドのモルに対するイソブチルアルデヒドのモル)、より好ましくは、≧1.03:1、さらに好ましくは≧1.05:1〜≦1.2:1、就中、≧1.1:1〜≦1.15:1の比で存在させる。
【0010】
工程a)は、塩基性触媒の存在下で行われ、その際、該塩基性触媒は、好ましくは、イソブチルアルデヒドに対して≧0.01〜≦0.1のモル比で用いられる。
【0011】
その際、好ましくは、該塩基性触媒は、トリメチルアミン及び/又はアルカリ水溶液、好ましくは水酸化ナトリウム溶液及び/又は水酸化カリウム溶液を含む。
【0012】
塩基性触媒がアルカリ水溶液を含む場合、好ましくは、工程a)の後に工程a1)が行われる:
【0013】
a1)工程b)の実施前の水性相の分離
【0014】
工程b)蒸留による精製
工程b)は、好ましくは、薄膜蒸留器で行われる。これは、好ましくは、10個〜30個のトレイを備えた、取り付けられたカラムを有する。さらに好ましくは、≧170℃〜≦200℃の温度である。
【0015】
工程a)において、イソブチルアルデヒドは過剰に存在するため、蒸留器での蒸留時に、イソブチルアルデヒドを含む有機相及び水性相からなる二相系が生じ、これは、さらなる精製工程に供することなくイソブチルアルデヒドを再び工程a)にフィードバックするのを可能にする。
【0016】
それ故、本発明の好ましい実施形態によれば、方法は、工程b)が遂行された後の工程b1)を含む:
【0017】
b1)工程b)で分離されたイソブチルアルデヒドを含有する有機相の、工程a)による新たな反応へのフィードバック
【0018】
工程b)は、好ましくは、底部生成物が、≦3、さらに好ましくは≦2重量%の水を含有するように遂行される。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、有機相は、少なくとも、6個の底部に搭載されたカラムに供給される。そうすることで、非常に良好な分離効率が可能になることが判明した。
【0020】
工程c)水素化
好ましくは、工程c)は、工程b)の直後に行われ、これはすなわち、本発明の好ましい実施形態によれば、工程b)と工程c)の間には蒸留生成物のさらなる精製が存在しない。
【0021】
好ましくは、工程c)は、≧6MPa〜≦20MPa、さらに好ましくは≧8MPa〜≦18MPaの水素圧で行われる。
【0022】
好ましくは、工程c)は、≧100℃〜≦220℃の温度で行われ、これは実践的であることが証明されている。
【0023】
工程c)は、一段階リアクター中で遂行することができる。しかしながら、マルチゾーンリアクターにおける二段階又は多段階の水素化が特に好ましい。ここで、それぞれの場合における圧力条件は、全リアクターにわたる圧力条件である。
【0024】
二段階水素化が選択される場合、リアクターのゾーンにおいて、最初に得られた水素化物が≧100〜≦140℃及び≧0.7〜≦1.0h−1のV/Vhで処理され(リアクターの第一のゾーンにだけ基づく)、そして、それに続くリアクターのゾーンにおいては、≧150〜≦220℃及び≧0.2〜≦0.8h−1のV/Vhで処理される(リアクターの第二のゾーンにだけ基づく)ことが好ましく行われる。これは、実践上実証されている。
【0025】
触媒は、好ましくは、ニッケル及び/又は銅クロムをベースとする、好ましくは、マンガン及び/又はバリウムでドープされた触媒を含む。これは、実践上選択されている。これは、実践上実証されている。
【0026】
生成物は、その後、用途及び方法の具体的な使用分野に応じて、更なる精製工程、例えば、適性な蒸留等に供することができる。これも同様に、本発明の好ましい実施形態である。
【0027】
上述並びに特許請求の範囲及び実施の形態に記載されている、本発明によって使用される成分は、それらの大きさ、形成構造(Formgestaltung)、支持材料の選択及び技術的な概念において、特別な例外はなく、それ故、使用分野において既知の選択基準において制限なく使用することができる。
本発明の特徴は次の通である。
1.a)塩基性触媒の存在下に、イソブチルアルデヒドをホルムアルデヒドと反応させる工程であって、その際、該イソブチルアルデヒドが過剰に存在する、工程
b)工程a)からの反応混合物を蒸留による精製によって底部生成物を生じさせる工程であって、該底部生成物が、5重量%未満の水を含有する、工程、
c)該底部生成物を水素化してネオペンチルグリコールにする工程、
を含む、ネオペンチルグリコールの合成方法。
2. 前記イソブチルアルデヒドのホルムアルデヒドに対する比が≧1.01:1(イソブチルアルデヒドのモルのホルムアルデヒドのモルに対する)である、上記の特徴1に記載の方法。
3. 前記塩基性触媒が、前記イソブチルアルデヒドに対して、好ましくは≧0.01〜≦0.1のモル比で使用される、上記の特徴1又は2に記載の方法。
4. 前記塩基性触媒が、トリメチルアミン及び/又は苛性ソーダを含む、上記の特徴1〜3のいずれか一つに記載の方法。
5. 工程b)が、薄膜蒸発器において遂行される、上記の特徴1〜4のいずれか一つに記載の方法。
6. 工程b)が遂行された後に、下記の工程b1):
b1)工程b)で分離された、イソブチルアルデヒドを含有する有機相を、工程a)による新たな反応にフィードバックする工程、
を追加的に含む、上記の特徴1〜5のいずれか一つに記載の方法。
7. 工程b)と工程c)との間に、前記蒸留排液の更なる精製が行われない、上記の特徴1〜6のいずれか一つに記載の方法。
8. 工程c)が、≧6MPa〜≦20MPaの水素の圧力で行われる、上記の特徴1〜7のいずれか一つに記載の方法。
9. 工程c)が、二段階又は多段階の水素化として、マルチゾーンリアクター中で遂行される、上記の特徴1〜8のいずれか一つに記載の方法。
10. 工程c)が、ニッケル及び/又は銅クロマイトをベースとする触媒を含む、上記の特徴1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【0028】
本発明の主題の更なる細部、特徴及び利点は、従属請求項並びに以下に記載する次の実施例によって示されるが、それらの実施例は単なる例示であると理解されるべきである。
【実施例】
【0029】
使用する水素化触媒の製造
2.8kgの硝酸銅三水和物、400gの硝酸マンガン(希硝酸中の50%濃度溶液)及び150gの硝酸バリウムを、20Lの蒸留HO中に55℃で溶解する。別途、2.6kgの重クロム酸アンモニウムを12Lの水及び4Lの25%濃度アンモニア溶液中に溶解する。
【0030】
それに続いて、その重クロム酸アンモニウム溶液を、硝酸銅溶液中にゆっくりと滴下する。その時、赤褐色の固形物質が沈殿する。その沈殿を完了させるために、更に1時間、後撹拌し、そしてその際、室温に冷却する。引き続いて、その固形物質をろ別する。それから、該固形物質を110℃の乾燥棚で乾燥する。乾燥した固形物質を、350℃で4時間か焼し、その際の加熱速度は2℃/分である。
【0031】
固形物質のか焼及び再冷却後、これを20Lの10%濃度酢酸と共に撹拌する。それに続いて、その固形物質を酸がなくなるまで水で洗浄し、そして新たに110℃で乾燥し、そして350℃で熱する(加熱速度は2℃/分)。
【0032】
その後で、この固形物質は触媒として使用可能となる。
【0033】
金属に基づき、触媒は、銅、クロム、マンガン及びバリウムの割合に基づいて、次の組成を有するものであった:
47.5%銅、46.5%クロム、4.0%マンガン、2.0%バリウム
【0034】
本発明の方法の実施
3996gのイソブチルアルデヒド(97.4%濃度)及び3034gのホルマリン(49%濃度の水溶液)を、オートクレーブに仕込み、そして、45℃に加熱する。引き続いて、151gのトリメチルアミン(40%濃度の水溶液)を汲み入れる(zugepumpt)。添加後すぐに、反応混合物を90℃に加熱し、そして、1時間その温度で放置する。引き続いて、生成物を排出させる。生成物の組成は次のとおりである。
【0035】
【表1】
【0036】
その後、カラムが搭載された薄膜蒸発器中でこの混合物を蒸留により選別する。その際、その混合物は、26本の充填カラムの底部20に供給される。その薄膜蒸発器は、170℃で運転される。この操作の場合、二相の蒸留塔塔頂物及び蒸留塔塔底物が生じる。
【0037】
その蒸留塔塔頂物の有機相は、次の組成を有する:
【0038】
【表2】
【0039】
この有機相は、その後、更なる操作を経ることなく、アルドール化で新たに投入することができる。
【0040】
蒸留塔塔頂物の水性相は、次の組成を有する:
【0041】
【表3】
【0042】
この水性相は、その後廃棄される。
【0043】
蒸留塔塔底物は、次の組成を有する:
【0044】
【表4】
【0045】
その蒸留塔塔底物はその後水素化され、その水素化は次のように行われる:
【0046】
上記の触媒を、3%のグラファイトと混合し、そしてタブレット化する。得られた、5×5mmのタブレットを、1.3リットル体積の管型リアクター中に仕込む。その際、該リアクターは、触媒充填物の下方0.3リットルが別途加熱でき、そして、触媒充填物の上方1.0リットルも同様に、別途加熱出来るように設定される。
【0047】
触媒を活性化させるために、二つの触媒床を、それぞれ同じ温度に加熱する。触媒は次のように活性化させる:
加熱速度:20℃/時間、180℃まで
窒素:1000NL/時間
水素: 20NL/時間
期間:12時間
窒素:1000NL/時間
水素: 60NL/時間
期間:6時間
窒素:1000NL/時間
水素: 120NL/時間
期間:6時間
【0048】
引き続いて、充填物の下方を130℃に、そして、充填物の上方を170℃に加熱し、水素圧を8MPaにし、そして、例2からの蒸留塔塔底物を300mL/時間で、リアクターの下方から排出させる。それから得られた生成物は次の組成を有する:
【0049】
【表5】
【0050】
その後、生成物は、公知の方法に従って精製することができる。
【0051】
既に言及した実施形態の成分及び特徴の個々の組合せは例として示したものである。当業者であれば、ここに記載の変更、改変及びその他の実施形態が、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく実施可能であることは認められるであろう。従って、上述の説明は例示であって限定されるものと解されるべきである。特許請求の範囲において使用されている“含む”という用語は、その他の成分又は工程を排除するものではない。不定の“一つ”という用語は、複数の成分を排除するものではない。相互に異なる請求項において引用する所定の量(大きさ(Masse))は、これらの量(大きさ)の組合せが利点のために利用出来ないことを意味しないことが明らかであることは全くの事実である。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲に定義されて、その同等物である。