(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373404
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】冷却通路付きピストン用の延長された冷却通路供給部及び冷却通路付きピストンを作動させる方法
(51)【国際特許分類】
F02F 3/22 20060101AFI20180806BHJP
F02F 3/00 20060101ALI20180806BHJP
F01P 3/10 20060101ALI20180806BHJP
F16J 1/08 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
F02F3/22 A
F02F3/00 G
F01P3/10 Z
F16J1/08
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-561771(P2016-561771)
(86)(22)【出願日】2015年4月9日
(65)【公表番号】特表2017-514059(P2017-514059A)
(43)【公表日】2017年6月1日
(86)【国際出願番号】EP2015057771
(87)【国際公開番号】WO2015155309
(87)【国際公開日】20151015
【審査請求日】2016年12月6日
(31)【優先権主張番号】102014206877.0
(32)【優先日】2014年4月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504233247
【氏名又は名称】カーエス コルベンシュミット ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】KS Kolbenschmidt GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヨヘン ミュラー
【審査官】
櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−528764(JP,A)
【文献】
実開昭57−160942(JP,U)
【文献】
特開平11−132101(JP,A)
【文献】
特開昭56−124650(JP,A)
【文献】
特表2003−517139(JP,A)
【文献】
特開平03−149341(JP,A)
【文献】
実開昭54−085209(JP,U)
【文献】
実開昭57−160917(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0056367(US,A1)
【文献】
特表2007−507643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/22
F02F 3/00
F01P 3/10
F16J 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン下部(2)と、
ピストン上部(3)と、
前記ピストン下部(2)及び前記ピストン上部(3)によって画定されている、内部に位置するリング状の冷却通路(5)と、
前記冷却通路(5)内に配置される流入開口(10)が形成された第1の管状エレメント(15,115)であって、前記流入開口(10)を介して前記冷却通路(5)へのクーラントの流入が行われる、第1の管状エレメント(15,115)と、
前記冷却通路(5)内に配置される流出開口(11)が形成された第2の管状エレメント(15,115)であって、前記流出開口(11)を介して前記冷却通路(5)からのクーラントの流出が行われる、第2の管状エレメント(15,115)と、
を備える、内燃機関用のピストン(1)であって、
前記冷却通路(5)の下方の冷却通路壁(6)には、前記冷却通路壁(6)の上面からピン穴(4)に面した下面に貫通する第1の貫通孔(12)及び第2の貫通孔(12)が形成されており、
前記第1の貫通孔(12)及び第2の貫通孔(12)はねじ山(14)を有しており、前記第1の貫通孔の前記ねじ山(14)には、前記第1の管状エレメント(15,115)が挿入されており、前記第2の貫通孔の前記ねじ山(14)には、前記第2の管状エレメント(15,115)が挿入されており、
前記第1の管状エレメント(15,115)及び前記第2の管状エレメント(15,115)は、前記流入開口(10)が前記流出開口(11)よりも高く位置するように、それぞれ前記ねじ山(14)に挿入されていることを特徴とする、ピストン(1)。
【請求項2】
前記第1の貫通孔の上端及び前記第2の貫通孔の上端は、それぞれ前記冷却通路壁(6)の上面と同一平面を成し、
前記第1の管状エレメント(15,115)は、前記第1の貫通孔の上端を越えて前記冷却通路(5)内に突入しており、前記第2の管状エレメント(15,115)は、前記第2の貫通孔の上端を越えて前記冷却通路(5)内に突入しており、
前記冷却通路壁(6)の上面と前記流入開口(10)との間の距離(X)が、前記冷却通路壁(6)の上面と前記流出開口(11)との間の距離(X)よりも長い、請求項1記載のピストン(1)。
【請求項3】
前記第1の貫通孔及び前記第2の貫通孔はそれぞれカラー(13)を有し、
前記カラー(13)は、前記冷却通路(5)内へ突入しており、
前記第1の管状エレメント(15,115)は、前記第1の貫通孔の前記カラー(13)を越えて前記冷却通路(5)内に突入しており、前記第2の管状エレメント(15,115)は、前記第2の貫通孔の前記カラー(13)を越えて前記冷却通路(5)内に突入しており、
前記第1の貫通孔の前記カラー(13)の上端と前記流入開口(10)との間の距離(Y)が、前記第2の貫通孔の前記カラー(13)の上端と前記流出開口(11)との間の距離(Y)よりも長い、請求項1記載のピストン(1)。
【請求項4】
前記カラー(13)は、前記冷却通路壁(6)の下面から突出している、請求項3記載のピストン(1)。
【請求項5】
前記第1の管状エレメント(15)及び/又は前記第2の管状エレメント(15)は、前記ねじ山(14)を越えて、前記冷却通路(5)とは反対の方向に突出する、請求項1から4までのいずれか1項記載のピストン(1)。
【請求項6】
前記第1の管状エレメント(115)及び/又は前記第2の管状エレメント(115)の、前記冷却通路(5)とは反対側の端部は漏斗状である、請求項5記載のピストン(1)。
【請求項7】
内燃機関用のピストン(1)の冷却通路(5)におけるクーラントレベルを調節する方法であって、前記ピストン(1)は、
ピストン下部(2)と、
ピストン上部(3)と、
前記ピストン下部(2)及び前記ピストン上部(3)によって画定されている、内部に位置するリング状の冷却通路(5)と、
前記冷却通路(5)内に配置される流入開口(10)が形成された第1の管状エレメント(15,115)であって、前記流入開口(10)を介して前記冷却通路(5)へのクーラントの流入が行われる、第1の管状エレメント(15,115)と、
前記冷却通路(5)内に配置される流出開口(11)が形成された第2の管状エレメント(15,115)であって、前記流出開口(11)を介して前記冷却通路(5)からのクーラントの流出が行われる、第2の管状エレメント(15,115)と、
を備え、
前記冷却通路(5)の下方の冷却通路壁(6)には、前記冷却通路壁(6)の上面からピン穴(4)に面した下面に貫通する第1の貫通孔(12)及び第2の貫通孔(12)が形成されており、
前記第1の貫通孔(12)及び第2の貫通孔(12)はねじ山(14)を有しており、前記第1の貫通孔の前記ねじ山(14)には、前記第1の管状エレメント(15,115)が挿入されており、前記第2の貫通孔の前記ねじ山(14)には、前記第2の管状エレメント(15,115)が挿入されている、方法において、
前記冷却通路(5)内の前記クーラントレベルを、前記ねじ山(14)への前記第1の管状エレメント(15,115)及び第2の管状エレメント(15,115)のねじ込み長さを介して調節し、このとき前記流入開口(10)が前記流出開口(11)よりも高く位置するように、前記第1の管状エレメント(15,115)及び第2の管状エレメント(15,115)を前記ねじ山(14)へねじ込むことを特徴とする、クーラントレベルを調節する方法。
【請求項8】
前記第1の貫通孔(12)及び/又は前記第2の貫通孔(12)をフロードリルにより形成する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記ねじ山(14)を、ねじ切りにより形成する、請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
前記ねじ山(14)を、ねじ山成形により形成する、請求項7又は8記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は独立請求項の各上位概念に記載の特徴を有する、内燃機関用の冷却通路付きピストン、並びに冷却通路内のクーラントレベルを調節する方法に関する。
【0002】
ピストン上部(ピストンクラウンとも呼ばれる)に冷却通路(冷却室とも呼ばれる)が配置されている冷却通路付きピストンが公知である。冷却通路は通常、冷却媒体を導入するための少なくとも1つの開口を有している。冷却媒体は冷却通路を通過した後、別の開口を介して、又は同じ開口を介して冷却通路から出ていく。
【0003】
独国特許出願公開第102011007285号明細書(DE102011007285A1)は、内燃機関用のピストンであって、ピストン上部とピストン下部とを有しており、内燃機関の運転中にピストンを冷却するための内部に位置する好適にはリング状の冷却通路と、前記ピストン下部に配置された少なくとも1つの流入開口と、前記ピストン下部に配置された少なくとも1つの流出開口とを備え、前記流入開口を介して前記冷却通路へのクーラントの流入が行われ、かつ前記流出開口を介して前記冷却通路からのクーラントの流出が行われ、前記少なくとも1つの流入開口及び/又は前記少なくとも1つの流出開口は、前記ピストン下部に一体に形成された、クーラントレベルの予め規定されたレベル以下への低下を阻止するリング状ビード又は傾斜した隆起部によって取り囲まれている、ピストンに関する。しかしながらリング状ビードは、押しのけられた材料の高さでしか調節できない。従って、冷却通路内のクーラントのレベル若しくは水位に対して影響を与えることのできる可能性も限られている。
【0004】
そこで本発明の課題は、クーラント水位を広範囲で調節することができるようにし、冷却通路におけるクーラントレベルを調節する方法を提供することである。
【0005】
この課題は独立請求項に記載の特徴を備えたピストン及び方法により解決される。
【0006】
本発明によれば、特に内燃機関用のピストンであって、ピストン下部とピストン上部とを有しており、内部に位置する好適にはリング状の冷却通路と、前記ピストン下部に配置された少なくとも1つの流入開口と、前記ピストン下部に配置された少なくとも1つの流出開口とを備え、前記流入開口を介して前記冷却通路へのクーラントの流入が行われ、かつ前記流出開口を介して前記冷却通路からのクーラントの流出が行われ、前記少なくとも1つの流入開口及び/又は前記少なくとも1つの流出開口は、前記ピストン下部に一体に形成された貫通孔によって形成されている、ピストンにおいて、前記少なくとも1つの貫通孔はねじ山を有しており、前記ねじ山には少なくとも1つの管状エレメントが挿入されている。少なくとも1つの流入開口及び/又は流出開口にねじ山を設けることにより、ピストンに任意のエレメントをねじ込むことができ、例えばクーラントによって貫流され得る管状エレメントをねじ込むことができる。少なくとも1つのねじ山を備えたピストンを形成することにより、ピストンの冷却通路におけるクーラントレベルに合わせて後から充填することができる。このようなピストンは、このステップまで同様に製造することができる。
【0007】
さらに本発明によれば、前記少なくとも1つの貫通孔は、冷却通路壁の表面と同一平面を成す。これにより、管状エレメントのねじ込み長さを介してクーラントレベルを自由に調節することができる。従って、最小充填レベルは生じない。
【0008】
本発明によれば選択的に、前記少なくとも1つの貫通孔が少なくとも1つのカラーを有している。これにより、ここに設けられるねじ山の補強が得られる。ピストンと、ねじ込まれる構成部分、例えば管状エレメントとの結合はより堅固になる。
【0009】
さらに本発明によれば、前記少なくとも1つのカラーは、前記冷却通路壁の、ピン穴に面した側に形成されている。これにより、ピストン下部とピストン上部が接合されて形成されたピストンに少なくとも1つの貫通孔を形成することができる。
【0010】
選択的に本発明によれば、前記少なくとも1つのカラーが、前記冷却通路壁の、ピン穴とは反対の側に形成されていて、従って前記冷却通路内へ突入している。これにより冷却通路において、最小クーラント充填レベルが達成される。
【0011】
さらに本発明によれば、前記少なくとも1つの管状エレメントは、前記少なくとも1つの貫通孔と、又は前記少なくとも1つの貫通孔の前記カラーと同一平面を成す。この場合、管状エレメントは、冷却通路へのクーラントの良好な導入のために機能するが、冷却通路におけるクーラントレベルには影響を与えない。
【0012】
別の態様では、本発明によれば、前記少なくとも1つの管状エレメントは、前記少なくとも1つの貫通孔、及び/又は前記少なくとも1つの貫通孔の前記カラーを越えて前記冷却通路内に突入している。冷却通路への管状エレメントの進入深さにより、冷却通路内のクーラントのレベルに影響が与えられる。
【0013】
さらに本発明によれば、前記少なくとも1つの管状エレメントは、前記ねじ山を越えて、前記冷却通路とは反対の方向に突出する。この場合、管状エレメントは、冷却通路へのクーラントの良好な導入のために機能し、例えばクーラントはノズルによって直接、管状エレメント内に圧送される。
【0014】
さらに本発明によれば、前記少なくとも1つの管状エレメントの、前記冷却通路とは反対側の端部は漏斗状である。管状エレメントの漏斗状の構成により、ノズルから噴射されるクーラントの受容が向上される。管状エレメントの漏斗状の構成により、オイル噴流の誤差を補償することができる。オイル噴流が広がる場合でも、上死点と下死点との間でピストンが往復運動する間に、殆ど全ての、又は好適には全ての容積流が冷却通路内へと案内され得る。
【0015】
本発明によれば、特に内燃機関用のピストンの冷却通路におけるクーラントレベルを調節する方法であって、前記ピストンは、少なくとも1つの貫通孔によって前記冷却通路内に形成された少なくとも1つの流入開口及び/又は流出開口を有している、方法において、前記冷却通路内の前記クーラントレベルを、調整可能な管状エレメントを介して調節する。
【0016】
さらに本発明によれば、前記少なくとも1つの流入開口及び/又は流出開口を形成する前記貫通孔をフロードリルにより形成する。フロードリルは切削屑を発生させず、従って、ピストンの製造で使用するためには理想的である。何故ならば、内燃機関におけるピストンで使用する際には、切削屑が内燃機関の運転を脅かすからである。
【0017】
さらに本発明によれば、前記少なくとも1つの流入開口及び/又は流出開口を形成する前記貫通孔にねじ山を、ねじ切りにより形成する。ねじ切りは、製造技術的に公知であり主流の方法である。従って、ねじ切りは、ねじ山成形に対して選択的な方法である。
【0018】
選択的に本発明によれば、貫通孔におけるねじ山はねじ山成形により形成される。ねじ山成形は、フロードリルに続く理想的なステップである。何故ならば、ねじ山成形の際にも、フロードリルの際にも、切削屑は生じないからである。
【0019】
さらに、本発明によれば、前記クーラントレベルの前記調節を、前記冷却通路内にあるねじ山内への前記管状エレメントのねじ込み長さを介して行う。この場合、ねじ込み長さとは、貫通孔若しくは貫通孔のカラーを越えて冷却通路内に突入する管状エレメントの長さである。ねじ山により、クーラントレベルの特に正確な調節が可能である。クーラントレベルの調節が行われてからは、管状エレメントを摩擦接続的に、形状接続的に、かつ/又は材料接続的に固定することができ、これによりクーラントレベルの調節は内燃機関の運転中、固定されている。
【0020】
冷却通路内への管状エレメントの進入深さの変更により、クーラントレベルの調節が行われる。
【0021】
さらに、管状エレメントは、クーラントの搬送のために機能する。従って、冷却通路へのクーラントの流入、かつ/又は冷却通路からのクーラントの流出を行うことができる。管状エレメントの形状は、各使用例に合わせることができる。
【0022】
特に内燃機関用のピストンの冷却通路におけるクーラントレベルを調節する方法では、冷却通路におけるクーラントレベルは、調節可能な管状エレメントにより調節される。この方法により、内燃機関の運転中、ピストンの冷却通路における正確に規定されたクーラント量を維持することができる。
【0023】
このようなピストンは、冷却通路付きピストンとも呼ばれ、少なくとも2つのピストン部分、例えばピストン下部とピストン上部とから成っていて、これらのピストン部分は、摩擦接続的、形状接続的、かつ/又は材料接続的な接合方法により1つのピストンとなるように接合される。選択的に、ピストン下部とピストン上部とを有するピストンを、例えば鋳造法における製造工程で一体に製造することもでき、この場合、ピストン下部とピストン上部とを接合する作業ステップは省かれる。キャビティを形成するために、鋳造法では例えば砂型が使用される。砂型は、鋳造工程後、そのために特別に設けられた開口からすすぎ出すことができる。この開口はすすぎ出し後、閉鎖される。
【0024】
フロードリル工程の開始時には、フロードリルと冷却通路壁との間に必要な摩擦熱を発生させるために、比較的高い軸方向力と回転数が必要である。この場合、フロードリルの温度は極めて迅速に例えば約650℃〜800℃に上昇し、冷却通路壁は例えば局所的に約600℃になる。
【0025】
冷却通路壁から押しのけられた材料は、最初に、送り方向とは逆に上方へと流れ、進入深さが増大するにつれ、送り方向で実際の貫通孔が形成される。上方に向かって流れる材料と、下方に向かって流れる材料との比は約1/3〜2/3である。これは孔の直径と材料厚さに応じて変化し、より少ない場合もある(例えば1/4〜3/4)。
【0026】
フロードリルが冷却通路壁を貫通した後、フロードリルは、フロードリルタイプに応じて、上方に流れた材料を均一なカラー若しくはビードに変形させるか、又はこの材料をすぐに再び削り取る。この場合、工具の形状的な形が材料に移される。
【0027】
驚くべきことに、フロードリル(フロー成形、フロー穿孔、フロー穴成形としても公知である)は、ピストンに、特に内燃機関用のピストンに貫通孔を形成するための有利な非切削加工法であることがわかった。この場合、材料は除去されるのではなく、力と摩擦熱により押しのけられ、ビード状に積み上げられ、一種のブシュ若しくは貫通孔となるようにピストンに成形されるので、切削屑の発生は回避される。押しのけられ、ビード状に積み上げられたピストン材料は、カラーとなるように成形することができる、又は削り取ることができる。形成された安定的なブシュ若しくは貫通孔は材料押しのけにより形成されるのであって、除去により形成されるのではない。均一な変形により付加的な材料強度が得られるだけでなく、時間と材料も著しく節約される。ピストンに形成された貫通孔の形状と直径とは、フロードリルの円筒状部分の寸法により規定される。材料の押しのけにより、ピストンにおける開口製作時、切削屑は生じない。押しのけられた材料は有利には、フロードリルによる貫通開口の周りの領域を形成するために利用される。ビード状に積み上げられた材料によりカラーを形成することにより、その後に形成したいねじ山列を延長することができる。ねじ山内に収容される構成部分、例えば管状エレメントに対する安定性は高められる。ねじ結合の際には、ねじ込み深さは、収容するピストンと、ねじ込まれるエレメント、例えば管状エレメントとの間の結合の安定性に影響を与える。損傷の発生、穴の形成、ねじ山変形、かつ/又はねじ山せん断の危険は、ピストンに設けられた貫通孔のカラーにより増大されたねじ込み深さにより減じられる。ねじ込み深さは、ねじ山によりピストンに収容される構成部分、例えば管状エレメントと、雌ねじ山とが、実際に支持するように係合している長さである。理想的なねじ込み深さの範囲のみにおいては、ねじ山は完全に支持性があると言える。外部に延在するねじ山は、支持能力という意味では、ピストンと管状エレメントとの間に位置する完全に支持しているねじ山と同等であるとは言えない。従って、物理的に支持しているねじ込み深さの長さを差し引くことにより、理想的なねじ込み深さが生じる。従って、フロードリルによりピストンに形成されたカラーは有利には、ピストンの結合部における、例えばピストンと管状エレメントとの間の結合部におけるねじ山の溝数を増大させる。端部影響により、雌ねじ山構成部分と、ねじ山に収容される構成部分の出口部における支持性が弱められる。カラーと、カラーに形成されるねじ山の形成により、ピストンにおけるねじ結合部に対する端部影響は少なくとも補償される。好適には、フロードリルにより製作されたピストンの貫通孔にカラーを形成することにより、従来の、例えば穿孔又は鋳造により製作されたピストンの開口よりも、ねじ山の支持性が高められる。
【0028】
ピストンにおけるフロードリル法の使用により、上述した利点の他に、とりわけ以下の利点が得られる。ピストンにおけるフロードリル法の利用により、例えばクーラントによって貫流され得る管状エレメントのようなねじ結合部材を収容するための安定した貫通孔若しくはブシュが形成される。さらに対角線状のフロードリル法が可能であり、この場合、フロードリル孔若しくは生じた貫通孔の中心軸線は、ピストン昇降軸線により形成される垂直線から、鋭角又は鈍角をなしてずれている。フロードリル法は、非切削の製造法であり、結合エレメントは不要である。フロードリル法は、付加的な構成要素を必要としないので、時間、作業、材料を著しく節約する。ピストンにおける貫通孔の製造は、1つの作業工程で行われる。フロードリル法は、最小限の装備時間を伴う完全に自動化可能な方法である。例えば管状エレメントのような構成部分を接合するために、リベットナットや溶接ナットは不要である。フロードリル法は、均質な変形によりより高い安全性を提供し、従ってピストンの耐用期間は向上する。フロードリルは耐用期間が長く、卓越した表面品質を提供する。フロードリル法は、非切削法であるので、廃棄物及び破棄物処理コストが生じない。さらに好適には、切削屑が、内燃機関におけるピストンの運転安全性を脅かすことはない。従って、記載すべき製品の故障はより僅かである。従って、フロードリル法は、硬質合金から成る耐用性の長い工具により、高い工程確実性を提供する。
【0029】
フロードリルは、多角形輪郭を備えた完全硬質合金工具である。肉厚の薄い金属材料に対して高い回転数及び軸方向力で押し付けられることにより、フロードリルは極めて高い摩擦熱を発生させる。これにより、冷却通路壁の材料は局所的にフロードリルの位置で可塑化される。フロードリルは、数秒のうちに冷却通路壁を貫通する。この場合、全く材料損失なく、貫通孔若しくはブシュが出発材料から形成される。この場合、このブシュの長さは、もともとの材料厚さの約3〜5倍にすることができる。処理できる最大の材料厚さは、フロードリルのコアドリルホール直径に比例する。コアドリルホール直径に応じて、0.5mm(最良の下限)〜12mm(極めて高いスピンドル出力を要する)の厚さの材料を処理することができる。材料厚さと材料品質に応じて、1つのフロードリルによって約5000〜10000の穴を形成することができる。
【0030】
ねじ山形成の際には、フロードリルの利点がさらに拡大される。ブシュ若しくは貫通孔の非切削加工により、加工すべき材料の材料加工硬化が生じ、冷間形成されたねじ山はねじ山の強度をさらに強化する。ねじ山形成には、通常の各ねじ切り装置を使用することができる。しかしながら、より高い回転速度(3〜10倍の工程速度)で作業されることに注意されたい。ねじ山形成は、手持ち式ドリルによって作業することもできる。この場合、手持ち式ドリルは、右回り又は左回り及び十分な出力を有しているのが望ましい。手動でガイドされる穿孔機を手持ち式ドリルと言う。手持ち式ドリルは、構成形式に応じて、ピストンの金属又は金属合金のような様々な材料におけるフロードリル法及び/又はねじ山形成に適している。全ての手持ち式ドリルの共通した特徴は、フロードリル、及び、例えばねじ山成形体のようなその他の回転工具を、端面側に取り付けられたチャックに装着することができることである。手持ち式ドリルに関する重要な相違点はエネルギ供給の形式であり、エネルギ供給は、手動で筋力により、又は電力、液圧力、空気圧力により行われる。このような手持ち式ドリルは、好適には、ピストンの小ロット生産に使用することができる。従って、顧客の要望に応じた数のピストンに、フロードリルによって形成された貫通孔と、ねじ山変形により形成されたねじ山を設けることができる。
【0031】
いわゆるねじ山加工では、ねじ山成形体が、貫通孔若しくはブシュの材料をねじ山側面に押し込み、切削加工によらない冷間変形によりピストン材料の組織の圧縮が行われる。これにより、ピストンにおけるねじ山の極めて高い強度並びに正確なねじ山ガイドが達成される。ねじ山におけるピストン材料の中断のない延在と、ねじ山形状の冷間圧延により、耐久性の高い結合が生じる。正確なねじ山ガイドにより、誤切断の危険は生じない。
【0032】
ねじ山成形法によるピストンにおけるねじ山の製作は、とりわけ以下の利点を有している。ねじ山成形は、非切削法であり、従って、フロードリル法の利点を補完する。この製造ステップでは切削屑が生じないので、内燃機関でのピストンの作動に対して後から危険を及ぼす恐れもない。ねじ山成形では、比較的高い工程速度により生産性が上げられる。ねじ山成形によりピストンで形成される結合は耐久性が高く、正確なねじ山ガイドを有している。例えば特別な錫コーティングにより、工具寿命を高めることができる。さらに、フロードリル法により形成された貫通孔の長さと壁厚さは完全に維持される。ねじ山成形法も完全に自動化可能な方法である。ねじ山成形法は、通常のあらゆるねじ切り装置で使用可能であるので、既存の製造設備を使用することができる。
【0033】
従来のねじ切りとは異なり、フロードリル法と共に行うねじ山成形は大きな利点を有している。先行するフロードリル法の際に材料を半熱間で押しのけ、引き続きねじ山成形の際に冷間転造することにより、冷却通路壁の材料の著しい強化が行われる。これにより引き抜き耐性の高いねじ山結合が保証される。非切削で作業するねじ山成形体は、極めて高い切断速度及び極めて長い耐用期間により、生産性を明らかに向上させる。
【0034】
冷却媒体が供給される開口は、冷却油ノズルの方向に向けられていて、この場合、冷却油ノズルからは冷却媒体が開口の方向で噴射される。この場合、冷却通路付きピストンを内燃機関のシリンダに組み込む間、及び運転中には、シリンダ室内でピストンが往復上下運動する間に、冷却油が冷却通路へと到ることができるように、冷却油ノズルを出る冷却油噴流が正確にピストン内部領域の下面に設けられた開口に当たるよう注意しなければならない。
【0035】
冷却通路は例えば、公知のように、冷却通路付きピストンを鋳造する際に、ロストコアを用いて形成される。この場合、ピストン内部領域から、ロストコアに到達し、これを洗い流すために、鋳造プロセス後に少なくとも1つの開口、例えば1つの孔が設けられる。
【0036】
このような態様の他に、実際のピストンに付加的な孔として延長された供給部を設けることが公知である。この場合、ピストンボディに、通常、ピストンボスの領域に肉厚部が鋳造又は成形され、この場合、次いで肉厚部は穿孔される。
【0037】
このようなピストン内側から過剰となる方向で延長された供給開口は、この供給部に噴射された、若しくは導入される冷却媒体を良好に案内でき、所望のように冷却通路内へと変向でき、ここで循環させることができるという利点を有している。
【0038】
本発明は、冷却通路付きピストンの製造後に任意の形式で1つの冷却通路(又は複数の冷却通路、又は区分等)がピストンクラウンに設けられる冷却通路付きピストンに基づくものであって、この場合、下方に向かって見て、ピストンクラウンが終わっている平面のほぼ下側に(即ち、ピン穴の上側若しくはピンの頂部の上側に)、冷却媒体の供給用に少なくとも1つの開口が位置している。従って、本発明の根底を成すこのようなピストンは、ピストンボスに、鋳造及び成形され、次いで穿孔される肉厚部を有していない。
【0039】
ピストンクラウンの軸方向端部の平面のほぼ下側にある冷却媒体の供給部(又は流出部)用の少なくとも1つの開口を起点として、流入開口には、延長された冷却通路供給部(又は延長された冷却通路流出部)を形成する構成部分が配置されている。この構成部分は一体であるか、又は複数の構成部分から形成されていてよい。少なくとも1つの構成部分は例えば鋼材料(例えば鋼板)、プラスチック、複合材料、軽金属材料から成り、例えば、広がる、又は先細りする管状の構成部分又は管状エレメントの形で安価に製造することができる。結合は、ねじ締結、接着、付着、形状接続、クリップ接続、ろう接、溶接、収縮、プレス成形等、簡単な取り付け法により行うことができる。
【0040】
この構成部分は、冷却通路供給部の内部まで突入するように、即ち、供給開口若しくは流出開口が位置する平面を越えるように形成することができる。これにより形成された冷却通路内に突入するフランジにより、好適には、構成部分の方向への冷却通路の逆流が阻止される。これは、内燃機関のシリンダ内でのピストンの往復上下運動中、常に、所定量の冷却媒体が冷却通路内に残っていることが保証されていることを意味している。この冷却媒体は、ピストンクラウンの周囲領域からの熱を吸収することができ、流入してくる新しい冷却媒体との攪拌作用により混合され、これにより熱を良好に導出することができる。
【0041】
少なくとも1つの本発明による構成部分により冷却通路を補うことによって冷却通路供給部を延長することにより、冷却通路付きピストンへの冷却媒体の充填はとりわけ下死点において著しく改善される。この場合、測定によると、充填についてだけでなく、熱排出に関しても60%の改善がもたらされた。
【0042】
冷却通路供給部延長のために孔を設けるべきピストンボス側方に肉厚の領域を設ける必要がないならば、さらに重量減少も達成される。これにより、冷却通路付きピストンのピストン軸のボスへの取り付けが著しく良好になる。
【0043】
さらに、1つの冷却通路を有した任意のピストンが考えられ、この場合、この冷却通路自体は、本発明により延長された冷却通路供給部若しくは流出部を備えている少なくとも1つの流出開口及び/又は流入開口を有している。
【0044】
このような本発明によれば、延長された冷却通路供給部は、ピストンにおける単数又は複数の付加的な構成部分により実現される。延長された冷却通路供給部は、内燃機関用のピストンのための付加的な構成部分として、例えば管状エレメントとして設けられる。
【0045】
本発明により、冷却通路の充填を著しく改善することができる。安価な製造が可能である。
【0046】
延長された供給部は、これまでは付加的な孔として実際のピストンに形成されている。ピストン材料において、ピストンボスに肉厚部が鋳造又は成形され、次いで肉厚部は穿孔される。これは、アルミニウム製ピストンでは数年来の公知技術であり、この場合、穴は鋳造することができる。
【0047】
冷却通路供給部を延長することにより、ピストンの冷却通路における冷却油の充填はとりわけ下死点において著しく改善される。測定によると、60%までの改善が示されている。
【0048】
本発明によれば、とりわけ、鋳造されないピストンにおいて、延長された冷却通路供給部の安価な製造が達成される。このような手段により、後から穿孔される材料を設ける必要がないので、ピストン軸のボスへの取り付けはより安価に行われる。ピストン重量若しくはピストンの質量を減じることができる。しかしながら先行技術では、ピストンを従来の設計で構成していて、即ち、肉厚部が鍛造され、次いで延長された供給部が穿孔される。
【0049】
フロードリル法によっても、流入開口及び/又は流出開口の貫流長さに対して比較的短いカラーを形成することができる。この場合、冷却効果はまず、冷却通路に、冷却油の逆流を阻止するカラーを形成することにより改善される。延長のために、管、例えば管状エレメントをねじ込むことができる。
【0050】
この方法は、切削屑を発生させずに孔を形成することができるという利点も有している。従って、フロードリル法は、目下のところ極めて手間のかかるECM法による開口に代替することができる。電解加工(英語ではElectro Chemical Machining,ECM)は、特に極めて硬い材料のための除去的製造方法であって、分離に属する。ECMは、ピストンに開口を製造するまでの簡単なバリ取り作業に適している。
【0051】
貫通孔をカラー又はリング状ビード又は傾斜した隆起部によって取り囲むならば、クーラント水位が規定されたレベルを下回ることを阻止することができる。少なくとも1つのこの貫通孔は、ピン穴に面した冷却通路壁に置き換えられる。
【0052】
本発明の別の構成は、さらなる利点を奏する従属請求項に記載されている。本発明の実施例を図面に示し、以下に詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1A】本発明によるピストンをピン軸線に対して横方向で断面した図である。
【
図1B】本発明によるピストンをピン軸線に対して横方向で断面した図である。
【
図2】接合して1つのピストンを形成する前の状態のピストン上部(A)とピストン下部(B)を示した断面図である。
【
図4】
図2AとBのピストン上部及びピストン下部が接合されて形成されたピストンを示す断面図である。
【
図5】加工中の
図4のピストンを示した断面図である。
【
図6】ねじ山形成中の
図5のピストンを示した断面図である。
【
図7】ねじ山完成後の
図6のピストンを示した断面図である。
【
図8】ピストンのフロードリルによる加工ステップA〜Gを概略的に示した図である。
【
図9】ピストンにおけるフロードリル孔の実施形態A〜Hを示した図である。
【0054】
以下に記載する図面の説明では、上方、下方、左、右、前方、後方等の概念は、専ら各図面に示された例としての装置及びその他のエレメントの図及び位置に関するものである。この概念は限定的に理解されるべきではなく、即ち、様々な位置かつ/又は鏡像対称的な構成等により、この関係を変更することができる。
【0055】
図1A、
図1B、
図2、
図3A、
図3B、
図4、
図5、
図6、
図7には、ピストン1若しくは、ピストン下部2及び/又はピストン上部3の形のピストン1の構成部分が示されている。以下の図面の説明は、本発明に関するピストン1の包括的な特徴に関する。
【0056】
ピストン下部2は少なくとも1つのピン穴4を有している。さらにピストン1は、リング領域7(詳しくは図示せず)の後方に、半径方向周方向に延びる冷却通路5を有している。この冷却通路5は、ピン穴4の方向で冷却通路壁6によって画定されている。ピストン上部3は、燃焼室凹部8を有している。しかしながらこの燃焼室凹部8は必ずしも設けられていなくてよい。内燃機関においてピストン1の作動中、ピストン1はピストン昇降軸線9の方向で動く。ピストン下部2及びピストン上部3は、材料接続により接合されて1つのピストン1を形成する。材料接続的な接合のために、溶接、特に摩擦溶接が行われる。溶接の際に、外側の接合シーム16と内側の接合シーム17とが生じる。
図2Bには、ピストン1の接合前のピストン下部2が示されていて、
図2Aにはピストン1の接合前のピストン上部3が示されている。
【0057】
冷却通路壁6は少なくとも1つの貫通孔12を有している。この貫通孔12にはカラー13が設けられている(
図1A、
図1B、
図3A、
図3B、
図6及び
図7参照)。この少なくとも1つの貫通孔12は、クーラント用の少なくとも1つの流入開口及び/又は少なくとも1つの流出開口として用いられる。この少なくとも1つの貫通孔12にはねじ山14が設けられている。このねじ山14には、(一定の直径を有する)まっすぐな管状エレメント15又は(漏斗状であって、少なくとも一部の領域で異なる直径を有する)少なくとも片側で拡大された管状エレメント115を挿入することができる。この管状エレメント15,115を介して、冷却通路5へのクーラントの流入かつ/又は冷却通路5からのクーラントの流出が行われる。この管状エレメント15,115のねじ込み長さを介して、冷却通路5内のクーラントのレベルを調節することができる。符号Xにより、冷却通路壁6と、管状エレメント15,115の端部に位置する開口との間の距離が示されている。符号Yにより、カラー13と、管状エレメント15,115の端部に位置する開口との間の距離が示されている。冷却通路5におけるクーラントの水位は、最も小さいXの値に基づき調節される。従って、複数の管状エレメント15,115が使用される場合には、冷却通路5内に突入する長さが最も僅かである管状エレメント15,115が、冷却通路5内のクーラントのレベルを規定する。流入開口10が流出開口11よりも高く位置している限り、流入開口10と流出開口11との間に継続的なクーラントの流れが形成される。冷却通路5におけるクーラントのレベルは、冷却通路5内の流出開口11の位置により規定される。従って、冷却通路5内に位置する管状エレメント15,115の端部側の開口は、流入開口10及び/又は流出開口11として機能することができる。管状エレメント15,115はその外周の少なくとも部分領域にねじ山を有している。このねじ山は、ねじ山14にねじ込むことができるように製作されている。ねじ山の構成に応じて、冷却通路5内における流入開口10及び/又は流出開口11の極めて正確な調節が可能である。従って、ピストン1の冷却通路5におけるクーラントのレベルを、後の使用に合わせて正確に調節することができる。これにより、様々なクーラントレベルを有するピストン1を市場に提供することができる。さらに、まっすぐに形成された管状のエレメント15又は選択的に少なくとも片側で拡大された管状のエレメント115を使用することができる。従ってピストン1は、内燃機関の運転中に提供されるクーラント量に関して可変である。1つのピストンにつき、1つだけの管状エレメント15,115を使用することもできる。少なくとも片側で拡大された管状のエレメント115は、特に、ノズルから噴霧されるクーラント噴流を受容するのに適している。
【0058】
図1Aには、2つの管状エレメント15を備えたピストン1が示されている。
図1Bには、少なくとも片側で拡大された管状エレメント115を備えたピストン1が示されている。管状エレメント15,115の調整後に、管状エレメント15,115を、摩擦接続的に、又は形状接続的に、又は材料接続的に固定することができる。固定は例えば、貫通孔12又は冷却通路壁6において行うことができる。
【0059】
図3A及び
図3Bには、フロードリル18により冷却通路壁6の領域に貫通孔12を製造中のピストン下部2が示されている。この場合、カラー13が既に完全に形成されているので、貫通孔12はほぼ完成している。
【0060】
図4には、材料接続的な接合方法後の、特に摩擦溶接法の実施後の、
図2Aのピストン上部3と
図2Bのピストン下部2から成るピストン1が示されている。接合シーム16,17には、溶接ビードが形成されている。
【0061】
図5には、ピストン下部2とピストン上部3とが接合されて成るピストン1が、フロードリル18が冷却通路壁6に作用している状態で示されている。フロードリル法は、接合前(
図3A及び
図3B参照)又は接合後(
図5参照)に、ピストン下部2で行うことができる。接合後、又はピン穴4の方向からの冷却通路壁の加工後、冷却通路壁6の、ピン穴4に面した側にカラー13が生じる(
図3A及び
図5参照)。貫通孔12内へとねじ山14を後から成形することにより(
図5及び
図6参照)、若しくはピン穴4の方向からねじ山を成形することにより、冷却通路5の内側にカラーを形成する必要はなく、管状エレメント15,115を使用することにより、冷却通路5内におけるクーラントのレベルを自由に調節することができる。カラー13は、カラー13が、冷却通路壁6のピン穴4側に配置されているか、又は冷却通路壁6のピン穴4とは反対側に配置されているかに関わらず、ねじ山延長作用を、ひいては結合強化作用も発揮する。従って、冷却通路壁6の加工は、フロードリル法と、その後に続く、ピストン下部10及びピストン上部11におけるねじ山成形によって行うこともできる。選択的には、フロードリル法とねじ山成形の組み合わせを、一体的に鍛造された、又は鋳造されたピストンにおいて行うことができる。
【0062】
図6には、ねじ山成形法による貫通孔12におけるねじ山14の形成が概略的に示されている。冷却通路壁6に、その前にフロードリル法により形成された貫通孔12に、ねじ山14を形成するためのねじ山成形体19が作用する。
【0063】
図1A、
図1B、
図3A、
図5、
図6、
図7には、2つの貫通孔12若しくは2つのねじ山14の平行な形成が示されているが、
図3Bに示したように、1つだけの貫通孔12若しくは1つだけのねじ山14が形成されてもよい。ねじ山14を有した2つよりも多い貫通孔12がピストン1に、例えば冷却通路5の冷却通路壁6に形成されてもよい。少なくとも1つの貫通孔と少なくとも1つのねじ山とを有した中央の冷却室(図示せず)が設けられていてもよい。
【0064】
図7には、ねじ山14を備えた貫通孔12が製造された後のピストン1が示されている。
【0065】
図8のA〜Gに概略的に示されているフロードリル工程は以下のステップを有している。
【0066】
図8Aに示した第1のステップでは、フロードリル18の先端が冷却通路壁6上に載置される。
【0067】
図8BとCでは、予熱が示されている。このためには、フロードリル18が高い軸方向力及び回転数で、冷却通路壁6上へと押し付けられ、これにより必要な摩擦熱が発生させられ、冷却通路壁6の材料が加熱される。フロードリル18は、今や材料に侵入し、貫通孔12を形成することができる。
【0068】
第3のステップは
図8D〜Fに示されていて、成形を含む。フロードリル18は、最初は、送り方向とは逆に上方に向かって冷却通路壁6の材料を押しのける。進入深さが増大するにつれ、送り方向で貫通孔12が形成される。上方に向かって流れる材料と、下方に向かって流れる材料の比は約1/3〜2/3である。
【0069】
図8Gには第4のステップ、仕上げ成形が示されている。フロー成形された貫通孔12は完成する。フロードリル18により、上方に流れた冷却通路壁6の材料は、均一なカラー13若しくはビードとなるように変形された。工具商取引上は、このために必要なフロードリルは通常、「フォーム」若しくは「標準」タイプと呼称される。選択的には、上方に流れた冷却通路壁6の材料はすぐに、再び削り取られる。工具商取引上は、この削り取りのために必要なフロードリルは通常、「カット」若しくは「フラット」タイプと呼称される。カラー13がほぼ削り取られた、又は削り取られた場合、さらに好適には、管状エレメント15,115を、貫通孔12に形成されたねじ山14に設けることができる。2つの管状エレメント15,115を1つのねじ山14に挿入することもでき、この場合、これら2つの管状エレメント15,115は、好適にはねじ山の内側で互いに当接する。
【0070】
カラー13の形成は、工具タイプに応じて、例えば、シールリングの形の縁部として、又は扁平な表面として行われる。
図9A〜Hには、様々な工具タイプによって形成されたカラー13を備えた貫通孔12の構成が示されている。
【0071】
図10には、ねじ山成形によるねじ山14の製作が概略的に示されている。ねじ山成形の際の工程の経過は以下の通りである。
【0072】
ねじ山変形によるねじ山14の製作は、ねじ山加工と呼ばれ、この場合、ねじ山成形体19が、貫通孔12の材料をねじ山側面内に押し込み、切削加工によらない冷間変形により組織の圧縮が行われる。これにより、ねじ山14の極めて高い強度並びに正確なねじ山ガイドが達成される。結果として、ねじ山における材料の中断のない延在と、ねじ山形状の冷間転造により、極めて耐久性の高い結合が生じる。正確なねじ山ガイドにより、誤切断の危険は生じない。
【符号の説明】
【0073】
1 ピストン
2 ピストン下部
3 ピストン上部
4 ピン穴
5 冷却通路
6 冷却通路壁
7 リング領域
8 燃焼室凹部
9 ピストン昇降軸線
10 流入開口
11 流出開口
12 貫通孔
13 カラー
14 ねじ山
15 まっすぐな管状エレメント
115 漏斗状の管状エレメント
16 外側の接合シーム
17 内側の接合シーム
18 フロードリル
19 ねじ山成形体
X 冷却通路壁と管状エレメントの開口との間の距離
Y カラーと管状エレメントの開口との間の距離