(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来の技術において、耐熱性の向上に対する要求がある。
【0005】
本発明は上述した要求に応えるためになされたものであり、熱伝達性を良くして耐熱性を向上できるスパークプラグを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明のスパークプラグは、軸線方向に延びる筒状の主体金具は径方向外側に座部が突出し、座部の先端面に対面して環状のガスケットが配置される。ガスケットのうち座部の先端面に接する第1面の算術平均粗さGを座部の先端面の算術平均粗さSで除した値G/Sは0.5≦G/S≦2.0を満たす。算術平均粗さGは0.16μm以下である。第1面の裏側の第2面の面積および第1面の面積の平均値は280mm
2以下である。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載のスパークプラグによれば、座部からガスケットへの熱伝達性を向上させ、第1面の面積および第2面の面積の平均値が280mm
2以下のガスケットを介して熱をエンジンへ放散できるので、耐熱性を向上できる効果がある。
【0008】
請求項2記載のスパークプラグによれば、ガスケットは中実の板状なので、熱伝導に寄与するガスケットの断面積を確保できる。よって、請求項1の効果に加え、ガスケットの熱伝導性を良くして耐熱性を向上できる効果がある。
【0009】
請求項3記載のスパークプラグによれば、ガスケットは外径が15mm以下なので、請求項1又は2の効果に加え、耐熱性を確保しつつスパークプラグを小径化できる効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施の形態におけるスパークプラグ10の片側断面図である。
図1では、紙面下側をスパークプラグ10の先端側、紙面上側をスパークプラグ10の後端側という。スパークプラグ10は、絶縁体11及び主体金具15を備えている。
【0012】
絶縁体11は、機械的特性や高温下の絶縁性に優れるアルミナ等により形成された部材であり、軸線Oに沿って貫通する軸孔12が形成されている。軸孔12の先端側に中心電極13が配置される。
【0013】
中心電極13は、軸線Oに沿って延びる棒状の部材であり、銅または銅を主成分とする芯材がニッケル又はニッケル基合金で覆われている。中心電極13は絶縁体11に保持され、先端が軸孔12から露出する。
【0014】
端子金具14は、高圧ケーブル(図示せず)が接続される棒状の部材であり、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成されている。端子金具14は、先端側が軸孔12に圧入された状態で、絶縁体11の後端に固定されている。
【0015】
絶縁体11の後端から軸線O方向に所定の距離だけ離れた絶縁体11の外周の先端側に、端子金具14と絶縁距離を確保して、主体金具15が加締め固定されている。主体金具15は、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成された略円筒状の部材である。主体金具15は、径方向の外側へ鍔状に張り出す円環状の座部16と、座部16より先端側の外周面に形成されたねじ部18とを備えている。主体金具15は、エンジン30(シリンダヘッド)のねじ穴にねじ部18を締結して固定される。座部16の先端面17とエンジン30との間にガスケット20(後述する)が配置される。
【0016】
接地電極19は、主体金具15の先端に接合される金属製(例えばニッケル基合金製)の部材である。本実施の形態では、接地電極19は棒状に形成されており、先端側が屈曲し中心電極13と対向する。接地電極19は、中心電極13との間に火花ギャップを形成する。
【0017】
ガスケット20は、座部16の先端面17に接する第1面21と、エンジン30に対面する第2面22とを備える円環状の部材である。ガスケット20は、座部16とエンジン30との間に挟まれて、エンジン30のねじ穴からの燃焼ガスの漏洩を防ぐ。ガスケット20は銅を主成分とする金属製であり、銅以外にニッケル、スズ、リン等の元素を含有する。但し、ガスケット20は銅を主成分とするものに限られるものではなく、軟鋼、純鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、チタン等の他の公知の材質を採用することは当然可能である。
【0018】
図2(a)はガスケット20の平面図であり、
図2(b)は
図2(a)のIIb−IIb線におけるガスケット20の軸線Oを含む断面図である。本実施の形態では、ガスケット20は中実の板状である。中実とは、中身が詰まっており中空部分を有していないこと、具体的には板材が折り曲げられて作成されたものではないことをいう。
【0019】
ガスケット20は、円環状の第1面21と、第1面21の反対側に設けられた円環状の第2面22と、ガスケット20の外周側で第2面22と第1面21とを連絡する外周側側面23と、第1面21の近くから径方向の内側へ突出する突部24と、突出部24と第2面22とを連絡する内周側側面26と、を備えている。突部24は、ねじ部18(
図1参照)の後端部に係合して、ねじ部18に対するガスケット20の軸方向の移動を規制する部位である。突部24の内周面25は、軸線Oに対して傾斜している。
【0020】
第1面21は、座部16(
図1参照)の先端面17に接触する面であり、外周側側面23及び内周面25に隣り合う面である。第2面22は、エンジン30(
図1参照)に接触する面であり、外周側側面23及び内周側側面26に隣り合う面である。
【0021】
ガスケット20は、第1面21の面積と第2面22の面積とを足して2で割った平均値が280mm
2以下に設定される。本実施の形態では、ガスケット20は外径Dが15mm以下である。
【0022】
スパークプラグ10は、ガスケット20の第1面21の算術平均粗さRa(以下「G」と称す)が0.16μm以下であり、座部16の先端面17の算術平均粗さRa(以下「S」と称す)で算術平均粗さGを除した値G/Sが、0.5≦G/S≦2.0を満たすように設定される。なお、この表面粗さはエンジン30にスパークプラグ10が取り付けられる前の座部16及びガスケット20のものである。
【0023】
算術平均粗さG,Sは、JIS B0601(2013年版)に準拠して算出される。算術平均粗さG,Sは、第1面21及び先端面17を周方向に等分した8か所の算術平均粗さの平均値である。第1面21の算術平均粗さを求める部分は、第2面22の裏側の部分(突部24を除いた部分)である。突部24は、第1面21及び第2面22が押されて圧縮応力が生じる部分ではないので、座部16はガスケット20の熱伝導にほとんど寄与しないからである。従って、突部24を除いた部分の第1面21の表面粗さを求める。
【0024】
座部16の先端面17及びガスケット20の第1面21の粗さが、G≦0.16μm且つ0.5≦G/S≦2.0を満たすことにより、座部16からガスケット20への熱伝達性を向上させ、ガスケット20を介して熱をエンジン30へ放散できる。その結果、スパークプラグ10の耐熱性を向上できる。
【0025】
ガスケット20は中実の板状なので、軸線Oと直交するガスケット20の断面積を確保できる。ガスケット20の断面積は熱伝導に寄与するので、ガスケット20の熱伝導性を良くしてスパークプラグ10の耐熱性を向上できる。
【0026】
ガスケット20は第1面21の面積および第2面22の面積の平均値が280mm
2以下に設定されるので、スパークプラグ10を小径化できる。本実施の形態では、ガスケット20は外径Dが15mm以下である。しかし、外径の小さいスパークプラグ10は、中心電極13や主体金具15の断面積が小さくなるので熱伝達性(いわゆる熱引き)が低下する傾向がみられる。しかし、先端面17及び第1面21の粗さを上記のように設定することで、第1面21の面積および第2面22の面積の平均値が280mm
2以下のガスケット20の熱伝達性を向上できるので、スパークプラグ10の耐熱性を確保しつつスパークプラグ10を小径化できる。
【実施例】
【0027】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0028】
アームに支持されたアルミニウム合金製のナットに、スパークプラグ10のねじ部18を締結してスパークプラグ10の座部16とナットとの間にガスケット20を挟み付けた。ナットから突出した接地電極19をバーナで加熱し、座部16の温度とガスケット20の温度との差を測定してガスケット20の熱伝達性を評価する試験を行った。以下、試験方法を説明する。
【0029】
(試験に用いたサンプル)
試験に用いたスパークプラグ10は、ねじ部18の呼び径が10mmであった。ガスケット20は銅を主成分とする金属製の円環状の中実の板材であり、寸法は外径14.8mm(公差+0.3mm、−0mm)、内径9.9mm(公差+0.1mm、−0mm)、厚さ1.5mm(公差±0.05mm)であった。スパークプラグ10の座部16の外径は、ガスケット20の外径よりも大きくした。ねじ部18を締結したナットの寸法は二面幅(六角対辺)30mm(公差+0mm、−0.5mm)、厚さ約10mmであった。スパークプラグ10(ガスケット20を含む)の大きさ及び材質は同一とし、表面粗さだけが異なる座部16及びガスケット20をもった種々のスパークプラグ10(サンプル1〜23)を準備した。
【0030】
比較のため、ねじ部18の呼び径が12mmのスパークプラグ10(サンプル24〜29)及びねじ部18の呼び径が14mmのスパークプラグ10(サンプル30〜33)を準備した。サンプル24〜33におけるガスケット20も、銅を主成分とする金属製の円環状の中実の板材とした。サンプル1〜33におけるガスケット20の第1面21の面積と第2面22の面積とを足して2で割った平均値を求めた。
【0031】
(表面粗さの測定)
ガスケット20を主体金具15に取り付ける前に、座部16の先端面17、ガスケット20の第1面21及び第2面22の算術平均粗さRaを、接触式表面粗さ測定機を使い、JIS B0601(2013年版)に準拠して求めた。算術平均粗さは、先端面17、第1面21及び第2面22を周方向に等分した8か所の平均値である。カットオフ値λc80μmの高域フィルタによって長波長成分(うねり成分)を遮断して、測定か所の粗さ成分を求めた。1つの測定か所における測定長さは約800μmであった。
【0032】
(試験)
ガスケット20を主体金具15に取り付けた後、アームに支持されたナットに、スパークプラグ10のねじ部18を15N・mのトルクで締め付けて、座部16とナットとの間にガスケット20を挟んだ状態でスパークプラグ10を取り付けた。スパークプラグ10の接地電極19の温度が900℃になるようにバーナの炎で接地電極19の先端を加熱し、加熱開始から5分後の座部16の側面の中心の温度とガスケット20の外周側側面23の中心の温度とを熱電対で測定した。
【0033】
この試験では、座部16からガスケット20へ伝わった熱は、ナットからアームへ伝達される。そのため、座部16とガスケット20との温度差が小さい方が、ガスケット20の熱伝達性が良いといえる。そこで、座部16の側面の中心の温度とガスケット20の外周側側面23の中心の温度との差が2℃以下のサンプルを「〇:優れる」と評価した。
【0034】
第1面21の面積および第2面22の面積の平均値、座部16の先端面17、ガスケット20の第1面21及び第2面22の算術平均粗さ、座部16の側面の中心の温度、ガスケット20の外周側側面23の中心の温度、その温度差、評価を表1に示した。
【0035】
【表1】
表1によれば、座部16に接するガスケット20の第1面21の算術平均粗さ(G)が0.16μm以下であって、第1面21の算術平均粗さ(G)を座部16の先端面17の算術平均粗さ(S)で除した値G/Sが0.5≦G/S≦2.0を満たすサンプル1〜12は、エンジン30に接するガスケット20の第2面22の算術平均粗さに関わらず、座部16とガスケット20との温度差を2℃以下にできることが確認された。
【0036】
一方、サンプル16,18,19,22,23は第1面21の算術平均粗さ(G)が0.16μm以下であるにも関わらず、座部16とガスケット20との温度差を2℃以下にできなかった。サンプル16,18,19,22,23はG/S<0.5であり、0.5≦G/S≦2.0を満たさなかった。従って、座部16からガスケット20への熱伝達は、ガスケット20の第1面21の算術平均粗さ(G)と座部16の先端面17の算術平均粗さ(S)との関係(G/S)に依存することが明らかになった。
【0037】
また、サンプル27〜29,32,33は第1面21の算術平均粗さ(G)が0.2μmであり、Gが0.16μmより大きいにも関わらず、座部16とガスケット20との温度差を2℃以下にできることがわかった。サンプル27〜29,32,33は第1面21の面積および第2面22の面積の平均値が280mm
2よりも大きい380mm
2又は495mm
2なので、ガスケット20や先端面17の表面粗さを管理しなくても、座部16からガスケット20への熱伝達性を確保できると推察される。
【0038】
この実施例によれば、ガスケット20の第1面21の算術平均粗さ(G)が0.16μm以下であって、第1面21の算術平均粗さ(G)を座部16の先端面17の算術平均粗さ(S)で除した値G/Sが0.5≦G/S≦2.0を満たすようにすることで、第1面21の面積および第2面22の面積の平均値が280mm
2以下のガスケット20であっても、座部16からガスケット20への熱伝達を良くできることが確認された。サンプル1〜12は、ガスケット20の第1面21と座部16の先端面17との馴染みを良くすることができ、熱伝達性を向上できたと推察される。座部16からガスケット20への熱伝達性を向上させると、ガスケット20を介して主体金具15及び絶縁体11の熱をエンジン30へ十分に放散できるので、表面積の小さいガスケットが装着された小径のスパークプラグ10の耐熱性を向上できることが明らかである。
【0039】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、ガスケット20の形状や寸法等はこれに限られるものではなく適宜設定できる。
【0040】
上記実施の形態では、中実の板材でガスケット20が形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。弾性を増すために板材を折り曲げて内部に中空部分を設けたガスケットを採用することは当然可能である。ガスケットの座部16側の面の表面粗さと座部16の先端面17の表面粗さとを設定することにより、ガスケットと座部16との馴染みを良くすることができるので、座部とガスケットとの熱伝達を向上できるからである。
【0041】
上記実施の形態では、中心電極14の先端に接地電極19が対向するスパークプラグ10について説明したが、スパークプラグの構造は必ずしもこれに限られるものではない。ガスケット20を備える他のスパークプラグに、本実施の形態における技術を適用することは当然可能である。他のスパークプラグとしては、例えば、中心電極14の側面に接地電極19が対向するスパークプラグ、主体金具17に複数の接地電極19を接合した多極のスパークプラグ、中心電極よりも軸方向に突出する主体金具の先端に円環状の接地電極を配置したスパークプラグ、接地電極19が省略され有底筒状の絶縁体に中心電極が覆われたスパークプラグなどが挙げられる。