【実施例1】
【0010】
図1は、本実施例のエンコーダ1aの構成図である。エンコーダ1aは、スケール10、センサ20および信号処理手段30を有する。スケール10は、センサ20に対して相対移動可能に、不図示の固定部材に取り付けられている。なお、センサ20が、スケール10に対して相対移動可能に、不図示の固定部材に取り付けられていてもよい。すなわち、エンコーダ1aは、スケール10とセンサ20が互いに相対移動可能な構成を有していればよい。
【0011】
スケール10は、ガラスで構成される基材101、および基材101上にパターニングされたクロム膜である反射膜102を有する。スケール10はセンサ20から射出された光を反射し、反射された光は再びセンサ20に入射する。なお、基材101は、ガラスの代わりにポリカーボネートなどで構成されてもよい。また、反射膜102は、クロム膜に限定されず、アルミ膜およびアルミ膜を保護するための保護膜の組み合わせであってもよい。また、反射膜102は、基材101の表面にパターニングされているが、基材101が光を透過できるだけ十分に透明な材料であれば、裏面にパターニングされてもよい。本発明は、センサ20から射出される光が再びセンサ20に入射する構成を有していれば、本実施例の構成に限定されない。
【0012】
センサ20は、スケール10に光を射出する光源201、スケール10により反射される光を受光する検出素子アレイ(受光部)202、および検出素子アレイ202が受光する光を電気信号に変換する受光素子203を備える。すなわち、センサ20は、光源201から射出され、スケール10により反射される光を受光し、受光した光を電気信号に変換する。本実施例では、光源201としてLEDが使用されている。また、本実施例では、スケール10とセンサ20の構成として、スケール10と光源201との間に光束を平行に束ねる平行光束レンズを配置しない発散光束構成が用いられている。発散光束構成とは、光源から発せられた光が、平行、または1点に集光されることなく、一様に広がりを持って進行する構成である。また、本実施例では、光源201および検出素子アレイ202は、スケール10までの距離が等しくなるように配置されているため、スケール10により形成される反射像は、検出素子アレイ202のX方向およびY方向において2倍に拡大された像になる。なお、本実施例では、スケール10からの反射光をセンサ20で受光する反射型の構成を使用しているが、スケール10が透過する光をセンサ20で受光する構成を使用してもよい。また、本実施例では、光を検出対象としているが、磁気や電気などを検出対象としてもよい。
【0013】
信号処理手段30は、信号補正手段301、位相取得手段302および位置演算手段303を有する。また、信号処理手段30は、不図示の増幅回路、A/D変換器および内挿処理部を有する。
【0014】
信号処理手段30は、センサ20から出力される信号を処理して位置情報に変換する。信号補正手段301は、センサ20から出力される信号に含まれるオフセット誤差、振幅比誤差および位相差誤差を補正する。位相取得手段302は、信号補正手段301により補正された信号に逆正接演算を行うことによりセンサ20が取得した信号の位相を算出する。位置演算手段303は、位相取得手段302により算出された位相を累積し、位置情報に変換する。
【0015】
図2は、スケール10にパターニングされた反射膜102を示す図である。黒色の部分は反射膜102がパターニングされている部分を表し、白色の部分は反射膜102がパターニングされていない部分を表している。反射膜102は、複数のパターン103を有するパターン列として構成されている。本実施例では、パターン103は、X方向において1024μmごと、Y方向において25μmごとに2000μmの長さとなるように形成されている。
図3は、パターン103の拡大図である。パターン103は、スケール10の移動方向(X方向)において、物理的特性が周期的に変化するように形成されている。光源201から射出され、反射膜102により反射された光は合成され、正弦波状の反射像が検出素子アレイ202に投影される。
【0016】
図4は、検出素子アレイ202の構成図である。本実施例では、検出素子アレイ202のX方向の寸法は2048μm、Y方向の寸法は450μmである。検出素子アレイ202は、X方向の寸法が32μmであり、スケール10の移動方向に並べられた、複数(本実施例では、64個)の検出素子を有する。本実施例のエンコーダ1aは発散光束構成を有するため、X方向の寸法が1024μmのパターン103からの反射像は検出素子アレイ202上で2048μmとなる。したがって、本実施例では、検出素子アレイ202は、約1周期分の正弦波信号を検出することができる。検出素子は、4つの電気的接続の属性A+,B+,A−,B−のいずれかを有する。検出素子群2021,2022,2023,2024はそれぞれ、属性A+,B+,A−,B−を有する検出素子の集まりである。本実施例では、検出素子群2021,2022,2023,2024はそれぞれ、検出素子群2024,2023,2022,2021を挟むように配置されている。検出素子群2021,2022,2023,2024はそれぞれ、増幅回路の異なる接続部に接続されている。本実施例では、増幅回路は、A+相、B+相、A−相、B−相信の4相の正弦波信号S(A+),S(B+),S(A−),S(B−)を出力する。正弦波信号S(A+)を基準とすると、正弦波信号S(B+),S(A−),S(B−)の相対位相はそれぞれ、約+90度、約+180度、約270度である。信号処理手段30は、以下の式(1),(2)を用いて、正弦波信号である、A相信号S(A)およびB相信号S(B)を生成する。
【0017】
【数1】
【0018】
図5は、センサ20の上面図である。光源201は、X方向において、検出素子アレイ202の中央に配置されている。したがって、光源201から射出され、検出素子アレイ202に入射する光の信号の強度は、距離に比例するため、
図6に示されるように、検出素子アレイ202の中央部において最も高く、端部にいくほど低くなる。式(1)より、A相信号S(A)は、検出素子群2021に到達した光信号の強度が高い場合、プラス側にオフセットし、検出素子群2023に到達した光信号の強度が高い場合、マイナス側にオフセットする。同様に、式(2)より、B相信号S(B)は、検出素子群2022に到達した光信号の強度が高い場合、プラス側にオフセットし、検出素子群2024に到達した光信号の強度が高い場合、マイナス側にオフセットする。
【0019】
図7は、検出素子群の配列図である。
図7(a)は比較例の配列、
図7(b)は本実施例の配列を表している。比較例では、各検出素子群の偏在率が高い。すなわち、検出素子群2021,2022は検出素子アレイ202の端部にのみ存在し、検出素子群2023,2024は検出素子アレイ202の中央部にのみ存在する。本実施例では、比較例において検出素子群2022のみが存在する領域(座標1〜16)に検出素子群2022,2023が存在する。比較例において検出素子群2023のみが存在する領域(座標17〜32)に検出素子群2022,2023が存在する。比較例において検出素子群2024のみが存在する領域(座標33〜48)に検出素子群2021,2024が存在する。比較例において検出素子群2021のみが存在する領域(座標49〜64)に検出素子群2021,2024が存在する。比較例の検出素子アレイでは、信号強度の高い光信号が到達する中央部には検出素子群2023,2024が配置されているため、A相信号S(A)およびB相信号S(B)はともにマイナス側にオフセットする。一方、本実施例の検出素子アレイ202は、比較例の検出素子アレイに比べて
図6に示される信号強度分布の影響を受けにくい。特に、本実施例の構成により、信号処理により補正することができないプラス側またはマイナス側へのサチレーションの影響を抑制することが可能である。ここで、サチレーションとは、信号値がプラス側またはマイナス側の限界値より大きくなり、限界値に貼りつくことを意味する。なお、本実施例では、検出素子群は
図7(b)に示されるように配列されているが、異なる属性を有する検出素子群を挟むように配置されていれば、本発明はこれに限定されない。
【0020】
図8は、正弦波信号S(A+),S(A−)を表す図である。
図9は、A相信号S(A)およびB相信号S(B)を表す図である。
図8(a)は、
図7(a)に示される比較例の検出素子アレイに対してスケール10を2048μmだけ移動させた場合の正弦波信号S(A+),S(A−)を表している。
図9(a)は、
図8(a)の場合におけるA相信号S(A)およびB相信号S(B)を表している。
図8(b)は、
図7(b)に示される本実施例の検出素子アレイ202に対してスケール10を2048μmだけ移動させた場合の正弦波信号S(A+),S(A−)を表している。
図9(b)は、
図8(b)の場合におけるA相信号S(A)およびB相信号S(B)を表している。なお、いずれの場合も
図6に示される信号強度分布を考慮している。
図8に示されるように、本実施例では、正弦波信号S(A+),S(A−)の強度差が比較例に比べて改善されている。図示していないが、正弦波信号S(B+),S(B−)についても同様である。したがって、
図9に示されるように、本実施例では、A相信号S(A)およびB相信号S(B)の信号値は比較例に比べて中心(0)に近づく。
【0021】
以下、
図10を参照して、本実施例のA相およびB相の位相差の変化について説明する。
図10は、検出素子群の重心の差を表す図である。
図10(a)は比較例の検出素子アレイにおける検出素子群2022,2023の位相の関係、
図10(b)は本実施例の検出素子アレイ202における検出素子群2022,2023の位相の関係を表している。
【0022】
比較例および本実施例のいずれの場合も、検出素子群2023,2024の位相境界は、検出素子アレイの中央に存在する。
図10(a)では、検出素子群2023,2024の位相重心は、各検出素子群の中央である。
図10(b)では、検出素子群2023,2024はそれぞれ、検出素子群2022,2021を挟むように離散的に配置されている。そのため、
図10(b)では、検出素子群2023,2024の位相重心はそれぞれ、検出素子群2022,2021の中央である。すなわち、本実施例では、検出素子群2023,2024の位相重心は、比較例に比べて位相境界から端部側にシフトしている。
図10(a)では、位相境界と検出素子群2023,2024のそれぞれの位相重心との間には、8個の検出素子が配置されている。したがって、検出素子群2023,2024の位相重心の間には、16個の検出素子が存在する。一方、
図10(b)では、位相境界と検出素子群2023,2024のそれぞれの位相重心との間には、12個の検出素子が配置されている。したがって、検出素子群2023,2024の位相重心の間には、24個の検出素子が存在する。
【0023】
A相信号S(A)およびB相信号S(B)の位相差は、Nsegを検出素子アレイが有する検出素子の数、Diffsegを各相の位相重心間に存在する検出素子の数とすると、以下の式(3)で表される。
【0024】
【数2】
【0025】
図10(a)では、Nsegは64、Diffsegは16であるため、A相信号S(A)およびB相信号S(B)の位相差は式(3)より90度と算出される。
図10(b)では、Nsegは64、Diffsegは24であるため、A相信号S(A)およびB相信号S(B)の位相差は式(3)より135度と算出される。位相差が135度のままでも位置検出を行うことはできるが、より高精度に位置検出を行う場合、位相差を90度に補正することが望ましい。
【0026】
ここで、位相差が補正されたA相信号S(A)およびB相信号S(B)から位置情報を生成する方法について説明する。信号補正手段301は、まず、A相信号S(A)とB相信号S(B)との位相差誤差を補正する。eを位相差誤差とすると、互いに位相差が90度からずれているA相信号S(A)およびB相信号S(B)はそれぞれ、以下の式(4),(5)を用いて表すことができる。
【0027】
【数3】
【0028】
A相信号S(A)およびB相信号S(B)についてそれぞれ和と差を取ると、以下の式(6),(7)に示されるように、位相差誤差eを分離することができる。
【0029】
【数4】
【0030】
式(6)のsin(e/2−π/4)および式(7)のcos(e/2−π/4)は定数であるため、位相θ−π/4を位相φとした場合に、以下の式(8),(9)より位相差誤差のない補正信号S(A)’,S(B)’を算出することができる。
【0031】
【数5】
【0032】
本実施例では、位相差誤差eは、検出素子アレイ202の設計値より22.5度と決まっている。そのため、信号補正手段301は、位相差誤差eを22.5度として位相差を補正する。本実施例では、補正の際の除算値として定数を用いているが、リアルタイムで補正することが求められる場合、式(6)の左辺S(A)+S(B)および式(7)の左辺−S(A)+S(B)のピーク・ボトムを動作中に求めることで、除算値を決定してもよい。
【0033】
位相取得手段302は、信号補正手段301から出力された補正信号S(A)’,S(B)’を用いて、以下の式(10)で表される逆正接演算を行う。
【0034】
【数6】
【0035】
位置演算手段303は、位相φの変化を積分することにより相対変位を検出する。位相φは2πまで進むと0に折り返すため、位相の変化を計算する場合、以下の式(11)で表される判定処理が必要である。
【0036】
【数7】
【0037】
ここで、φnは最新の位相、φn−1は最新の位相の1つ前の位相、diffはそれらの差である。位置演算手段303は、差diffを累積することで高精度に位置情報を取得する。
【0038】
次に、基本波の空間周波数の約2倍の空間周波数成分の誤差のフィルタリング効果について説明する。
図11は、スケール10からの反射光の空間周波数特性を次数ごとに表している。なお、基本波は1θとし、それ以外の整数倍の空間周波数成分は順に2θ,3θ,4θ,5θとしている。また、
図11では、基本波1θが100%であるとし、それ以外の周波数成分は基本波1θに対する比である。基本波1θの空間周波数の約2倍の空間周波数成分2θは、他の空間周波数成分に比べて大きい。基本波1θの空間周波数の偶数倍の空間周波数成分は、基本波の空間周波数がスケール10のピッチである1024μmの逆数と完全に一致していれば、式(1)および式(2)により除去可能である。これは、正弦波信号S(A+)と正弦波信号S(A−)、および正弦波信号S(B+)と正弦波信号S(B−)が空間的に180度の位相ずれを有しているからである。すなわち、基本波1θをsinθとした場合、基本波1θの空間周波数の偶数倍の空間周波数成分を有する信号において、S(A+)=sin(2nθ)=sin(2nθ+180°)=S(A−)となる。そのため、式(1)より正弦波信号S(A+),S(A−)はキャンセルされる。同様に、正弦波信号S(B+),S(B−)はキャンセルされる。
【0039】
しかしながら、実際には、光源201と検出素子アレイ202との実装高さずれや、センサ20とスケール10とのX軸の傾きにより倍率誤差が発生し、検出素子アレイ202に到達する信号の空間周波数がずれてしまう。そのため、基本波1θの空間周波数がスケール10のパターン103のピッチの逆数と完全に一致することは少ない。A相信号S(A)およびB相信号S(B)に基本波1θ以外の空間周波数成分の信号が混ざると、式(10)により算出される位相φのリニアリティが低下、すなわち精度が低下してしまう。したがって、基本波1θ以外の空間周波数成分のうち、特に大きい空間周波数成分2θの影響は考慮する必要がある。
【0040】
図12は、本実施例(本発明を実施)および比較例(本発明を未実施)の検出素子アレイ202の空間周波数応答特性を表している。本実施例では、基本波1θの空間周波数(1/1024μm)の2倍の空間周波数(1/512μm)を含む範囲における空間周波数応答が、比較例に比べて低減されている。
【0041】
以下、
図7を参照して、基本波1θの空間周波数の約2倍の空間周波数成分2θを低減できる理由について説明する。
図7(a)において、空間周波数1/512μmを有する信号をsinθとする場合の位相に注目する。
図7(a)において、倍率誤差のない場合、検出素子群2022,2024上の空間周波数1/512μmを有する信号の位相はそれぞれ、−270°,90°である。sin(−270°)はsin(90°)と等しいため、式(2)より正弦波信号S(B+),S(−B)をキャンセルすることができる。一方、
図7(a)において、倍率誤差がある場合、倍率誤差による角度ずれをΔとすると、検出素子群2022,2024上の空間周波数1/512μmを有する信号の位相はそれぞれ、−270°+3Δ,90°+Δである。簡略化のため、角度ずれΔを1°とすると、検出素子群2022,2024上の空間周波数1/512μmを有する信号の位相はそれぞれ、−273°,91°ある。sin(−273°)はsin(87°)と等しくsin(91°)と一致しないため、式(2)より差動残差が発生する。
【0042】
図7(b)において、倍率誤差がある場合、正弦波信号S(B+),S(B−)はそれぞれ、sin(−273°)+sin(−91°),sin(91°)+sin(273°)である。sin(−273°)+sin(−91°)は、sin(87°)+sin(269°)と書き換えることができる。このように、
図7(a)では、正弦波信号S(B+),S(B−)はそれぞれ、角度ずれ±3°,±1°のみを有する。一方、
図7(b)では、正弦波信号S(B+),S(B−)はともに、角度ずれ±3°,±1°を有するので、式(2)の差動演算時の位相偏りによる差動残差を軽減することができる。
【0043】
図13は、式(1),(2)の差動演算時の空間周波数1/512μmを有する信号の差動残差特性を表している。
図13に示されるように、本発明を実施することで、本発明を実施しない場合に比べて、差動誤差を軽減することができる。
【0044】
以上により、信号強度分布の影響を受けにくく、倍率誤差発生時の基本波の空間周波数の約2倍の空間周波数の信号による誤差の影響が少ない高精度なエンコーダを実現できる。
【0045】
本実施例では、反射型の光学式エンコーダを例として説明しているが、本発明はこれに限定されない。本発明は、透過型の光学式エンコーダや、磁気式エンコーダにも適用可能である。