(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、環境問題への対策は、排出量が大きくなる自動車や工場の排出ガスに重点が置かれていたが、近年では、エネルギー効率が良く排出量も比較的小さいとされていた船舶輸送の排出ガスについても、その改善が求められている。そして、主に船舶から排出される硫黄酸化物(SOx)や黒煙を削減するため、船舶燃料硫黄分の規制が進みつつある(非特許文献1や2参照)。
【0003】
硫黄酸化物及び粒子状物質は、燃料に含まれる硫黄に起因(非特許文献1)するため、現行で硫黄分3.5質量%の燃料が、2020年又は2025年に域外地域を航行する船舶用燃料は硫黄分0.5質量%以下に、また、カリフォルニアやヨーロッパの近海や湾岸では硫黄分0.1質量%以下の使用が義務付けられている。
【0004】
従って、船舶燃料として広く利用されているC重油組成物も、上記硫黄分の規制の対象となり得る。ただし、C重油組成物は、硫黄分の他に、着火性、燃焼性、低温流動性などの性状においても、要求性能を満たすことが求められており、これまでに、そのための様々な手法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2014−51591)には、特定の式にて導かれる着火性指標Iが0以上15未満であるC重油組成物が提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るC重油組成物は、硫黄分が0.100質量%以下であり、好ましくは0.010〜0.100質量%である。硫黄分は、環境汚染源の一つであり、多すぎると排気ガス中の硫黄酸化物や粒子状物質の排出が多くなる。よって少ない方が好ましいが、硫黄分が少なすぎると一般には潤滑性が低下する。
【0013】
硫黄分には、ジベンゾチオフェンの沸点以上の沸点を有する硫黄化合物が含まれる。ジベンゾチオフェンの沸点以上の沸点を有する硫黄化合物としては、例えば、ジベンゾチオフェン、4−メチルジベンゾチオフェン、及び4,6−ジメチルジベンゾチオフェンなどのジベンゾチオフェン類が挙げられ、このような硫黄化合物の殆どがジベンゾチオフェン類である。ジベンゾチオフェンの沸点以上の沸点を有する硫黄化合物の硫黄含有量は、本発明に係るC重油組成物中、5〜400質量ppmであり、好ましくは50〜400質量ppm、より好ましくは100〜400質量ppmであり、更に好ましくは200〜400質量ppm、特に好ましくは200〜350質量ppmである。ジベンゾチオフェンの沸点以上の沸点を有する硫黄化合物を所定量C重油組成物中に含ませることにより、硫黄分が少なくても潤滑性を良好とすることができる。また多すぎると燃料供給系統のシール性が悪化し燃料にじみの可能性が高まる。
【0014】
本発明に係るC重油組成物は、窒素分が好ましくは0.005〜0.08質量%、より好ましくは0.02〜0.08質量%、更に好ましくは0.04〜0.08質量%である。窒素分が少ないと潤滑性が悪化することがあり、多いと燃焼時の窒素酸化物が増加することがある。
【0015】
本発明に係るC重油組成物は、飽和炭化水素分が35.0〜70.0質量%であるのが好ましい。飽和炭化水素分が少ないと、エンジンの始動性不良などの不具合を生じることがあり、多いと通油性能が悪くなることがある。
【0016】
本発明に係るC重油組成物は、芳香族分を含むのが好ましい。芳香族分には、ベンゼンにアルキル基やナフテン環を有する1環芳香族分、ナフタレンにアルキル基やナフテン環を有する2環芳香族分、及びフェナントレンやアントラセンにアルキル基やナフテン環を有する3環芳香族分が含まれる。芳香族分は、C重油組成物中、好ましくは25.0質量%以上であり、より好ましくは30.0質量%以上であり、更に好ましくは40.0質量%以上である。芳香族分は、多い方が潤滑性・通油性に良いが、多すぎるとセタン指数が低下し、エンジンの始動性不良などの不具合を生ずることがあるので、70.0質量%以下が好ましい。
【0017】
本発明に係るC重油組成物は、レジン分を含むのが好ましい。レジン分は、貯蔵時のスラッジ抑制及び燃焼性の観点から、C重油組成物中、好ましくは0.2〜0.6質量%、より好ましくは0.3〜0.6質量%である。
【0018】
アスファルテン分は、貯蔵時のスラッジ抑制及び燃焼性の観点から、C重油組成物中、好ましくは0.4質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下である。
【0019】
本発明に係るC重油組成物に含まれる残留炭素分は、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.04質量%以下である。残量炭素分が多いとフィルター通油性や燃焼性が悪化する。
【0020】
本発明に係るC重油組成物は、密度(15℃)が0.8700〜0.9400g/cm
3であり、好ましくは0.8700〜0.9300g/cm
3、より好ましくは0.9000〜0.9300g/cm
3、更に好ましくは0.9100〜0.9200g/cm
3である。密度が小さいと、燃費が悪化することがあり、密度が大きいと、排ガス中の黒煙が増加したり、着火性が悪化したりすることがある。
【0021】
本発明に係るC重油組成物は、動粘度(50℃)が3.500〜25.000mm
2/sであり、好ましくは4.000〜7.000mm
2/sであり、より好ましくは5.000〜7.000mm
2/s、更に好ましくは6.000〜7.000mm
2/sである。50℃での動粘度が小さいと、潤滑性能が悪化することがあり、動粘度が大きいと、燃焼機内の噴霧状態が悪化し、排ガス性状も悪化することがある。
【0022】
本発明に係るC重油組成物は、流動点が25.0℃以下であり、好ましくは22.5℃以下である。C重油組成物を例えば船舶用の燃料として使用する場合、燃料の流動性を確保するため一般的には燃料供給ラインは加熱されている。しかし、流動点が高い場合、加熱不足によるワックスの目詰まりによりエンジンへの移送に問題が生じる場合がある。
【0023】
本発明に係るC重油組成物は、CCAI(Calculated Carbon Aromatic Index)が好ましくは870以下、より好ましくは860以下、更に好ましくは850以下である。CCAIが大きすぎると着火性が悪化しエンジンの始動不良などの不具合を起こす場合がある。また、CCAIが小さすぎると排ガス中の未燃炭化水素が多くなるので、CCAIは760以上が好ましい。
【0024】
本発明に係るC重油組成物は、安全性や貯蔵の観点から、引火点が70.0℃以上であり、好ましくは90.0℃以上である。
【0025】
本発明に係るC重油組成物は、燃費の観点から、総発熱量が39000J/L以上であり、好ましくは40000J/L以上である。
【0026】
本発明に係るC重油組成物は、ISO12156−1(軽油−潤滑性試験方法に定められた方法のうち、船舶用噴射ポンプでの使用及びC重油仕様の噴射ポンプの摩耗を考慮し、荷重のみを1000gfとしてHFRR試験を行い、固定鋼球の摩耗痕径を測定して、潤滑性能を評価)に基づくHFRRが、好ましくは500μm以下、より好ましくは470μm以下、更に好ましくは450μm以下、特に好ましくは400μm以下である。
【0027】
本発明に係るC重油組成物は、ゴム膨潤試験(JIS K 6258に従った試験で、ゴム材はNBR、温度は70℃、期間は1週間)において、硬さ変化が−19〜15、強度変化率が−50〜50%、伸び変化率が−50〜20%、体積変化率が−60〜60%、厚さ変化率が−20〜20%であることが好ましい。
【0028】
本発明に係るC重油組成物は、最終的に得られる組成物が、規定する特定の性状を有するように、原油を蒸留・脱硫・分解処理して得られる1種又は2種以上の軽油基材と残渣油を混合して調製することができる。C重油組成物は、間接脱硫残油を含んでいてもよい。間接脱硫残油は、C重油組成物中に10容量%以上含まれることが好ましく、10〜95容量%含まれることがより好ましく、30〜95容量%含まれることが更に好ましく、40〜60容量%含まれることが特に好ましい。ただし、間接脱硫残油が多すぎると低温流動性が悪化することがあり、少なすぎると燃焼性、潤滑性が悪化することがある。
【0029】
間接脱硫残油とは、原油から沸点範囲が軽油となる留分の重質部分と沸点範囲がアスファルトとなる留分を分離したもの、具体的には、330℃〜550℃の留分を蒸留により分離したもの、を脱硫処理し、沸点330℃より軽質のものを蒸留処理して除去した残渣物である。例えば、常圧蒸留装置から留出する330℃〜360℃の重質軽油、及び、常圧蒸留残渣を減圧蒸留装置で蒸留することにより得られた沸点範囲で330℃〜550℃程度のものを、単独または混合して脱硫処理し、沸点330℃より軽質のものを蒸留処理して除去した残渣物として得ることができる。
【0030】
間接脱硫残油は、硫黄分が0.100質量%以下、好ましくは0.090質量%以下、密度(15℃)が0.8700〜0.9100g/cm
3、好ましくは0.8800〜0.9000g/cm
3、動粘度(50℃)が10.000〜25.000mm
2/s、及び残留炭素分が0.1質量%以下である。
【0031】
本発明に係るC重油組成物は、分解軽油が混合されていてもよい。分解軽油とは、直接脱硫装置から得られる直脱軽油、間接脱硫装置から得られる間脱軽油、流動接触分解装置から得られる接触分解軽油などの重油のアップグレーディングプロセスから留出する軽油留分などである。C重油組成物中、分解軽油は、5〜70容量%であるのが好ましい。分解軽油が多すぎると潤滑性が悪化したり、少なすぎると低温流動性が悪化したり発熱量が低くなったりすることがある。
【0032】
一般的にC重油組成物は複数の基材及び低温流動性向上剤などの添加剤を混合し、製造される。本発明に係るC重油組成物には添加剤が混合されてもよいが、基材と添加剤との混合時、基材に潤滑性向上剤が添加されていないのが好ましい。
【0033】
本発明に係るC重油組成物は、船舶用の燃料に用いられるのが好ましい。
【実施例】
【0034】
《実施例1〜4、比較例1〜2》
表1に記載の基材を表2に記載の容量比で混合して、実施例1〜4及び比較例1〜2に係るC重油組成物を得た。表1〜3に記載されている性状等は、下記のように測定した。
【0035】
密度(15℃):
JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」に従って測定した。
引火点(℃):
JIS K 2265−3「引火点の求め方−第3部:ペンスキーマルテンス密閉法」に従って測定した。
【0036】
残留炭素分:
JIS K 2270「原油及び石油製品−残留炭素分試験方法」に従って測定した。
動粘度(30℃)、動粘度(50℃):
JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に従って測定した。
【0037】
CCAI:
芳香族含有量と着火性との関連に着目した指標であり、芳香族性を簡便的に重油の密度、動粘度を用いて次式で算出される。
CCAI=D−140.7log{log(V+0.85)}−80.6
ここで、Dは密度(kg/m
3@15℃)、Vは動粘度(mm
2/s@50℃)を示す。
流動点(℃):
JIS K 2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」に従って測定した。
【0038】
飽和炭化水素分、芳香族分、レジン分、アスファルテン分:
JPI−5S−70法「TLC/FID法による組成分析試験方法」に従って測定した。
窒素分:
JIS K 2609「原油及び石油製品‐窒素分試験方法」化学発光法に従って測定した。
硫黄分:
JIS K 2541−4「原油及び石油製品−硫黄分試験方法 第4部:放射線式励起法」に従って測定した。
【0039】
ジベンゾチオフェンの沸点以上の沸点を有する硫黄化合物の硫黄含有量:
硫黄化学発光検出器を備えたAgilent製ガスクロマトグラフ装置を用いてガスクロマトグラフ法で測定した。カラムはJ&WのDB−Sulfur SCDを用いた。ジベンゾチオフェンをヘキサンに溶解したものを測定し、ピークの位置をリテンションタイムとして求めた。またジブチルスルフィドを標準物質とし検量線を作製した。次に試料を測定し、ジベンゾチオフェンのピークを含むジベンゾチオフェンのリテンションタイム以降の位置にあるピークの総面積をジブチルスルフィドの検量線で定量してジベンゾチオフェンの沸点以上の沸点を有する硫黄化合物のC重油組成物中の硫黄含有量を求めた。ガスクロマトグラフの測定条件は、35℃で3分保持したのち、5℃/分で150℃まで昇温し、その後10℃/分で270℃まで昇温し、22分保持した。
【0040】
HFRR:
ISO12156−1 軽油−潤滑性試験方法に定められた方法のうち、荷重のみを1000gfとしてHFRR試験を行い、固定鋼球の摩耗痕径を潤滑性能評価の指標とした。
<試験条件>
試験球 : 軸受鋼(SUJ−2)
荷重(P) : 1000gf
振動数 : 50Hz
ストローク : 1000μm
試験時間 : 75分
温度 : 60℃
測定方法 : 試験試料を試験浴に入れ、試料の温度を60℃に保持した。試験鋼球を鉛直方向に取付けた試験鋼球固定台に固定し、水平方向にセットした試験ディスクに荷重(1.96mN)をかけて押し付けた。試料浴内で完全に試料に浸漬した状態で、試験ディスクと接触しながら試験鋼球を50Hzの周波数で往復運動(振動)させた。試験終了後に固定鋼球の摩耗痕径(μm)を測定した。
【0041】
総発熱量:
JIS K 2279 「原油及び石油製品−発熱量試験方法及び計算による推定方法」により算出した。計算に必要な灰分および水分は測定の結果微量であったので、0質量%として計算した。
【0042】
ゴム膨潤試験:
JIS K 6258に従って測定した。ゴム材はNBRを用い、温度は70℃、期間は1週間とした。
【0043】
【表1】
−:測定不可又は未測定
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
*:ジベンゾチオフェンの沸点以上の沸点を有する硫黄化合物の硫黄含有量
【解決手段】硫黄分が0.100質量%以下、及びジベンゾチオフェンの沸点以上の沸点を有する硫黄化合物の硫黄含有量が5〜400質量ppmであって、密度(15℃)が0.8700〜0.9400g/cm