特許第6373539号(P6373539)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373539
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】レドックスフロー二次電池及びその電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20180806BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   H01M8/18
   H01M4/86 M
   H01M4/86 B
【請求項の数】17
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-520635(P2018-520635)
(86)(22)【出願日】2017年9月1日
(86)【国際出願番号】JP2017031656
(87)【国際公開番号】WO2018043720
(87)【国際公開日】20180308
【審査請求日】2018年4月20日
(31)【優先権主張番号】特願2016-172243(P2016-172243)
(32)【優先日】2016年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】市川 雅敏
(72)【発明者】
【氏名】井関 恵三
(72)【発明者】
【氏名】塙 健三
【審査官】 菊地 リチャード平八郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−530709(JP,A)
【文献】 米国特許第8343646(US,B1)
【文献】 特許第5890561(JP,B1)
【文献】 特開2013−65530(JP,A)
【文献】 特開2005−158383(JP,A)
【文献】 特開平2−148658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
前記正極に対向する負極と、
前記正極と前記負極との間に設けられたイオン交換膜とを備え、
前記正極及び前記負極の一方又は両方が、
金属保護膜と、炭素繊維を含む炭素電極と、を前記イオン交換膜側から順に有し、
該金属保護膜の第1主面が、前記イオン交換膜側に設けられており、
前記金属保護膜は、開口部を有し、前記第1主面の表面の突出山部高さが0.1〜2μmである、
レドックスフロー二次電池。
【請求項2】
前記金属保護膜及び炭素電極が、前記正極及び前記負極の両方に設けられている請求項1に記載のレドックスフロー二次電池。
【請求項3】
前記イオン交換膜の厚みをTとした時に、前記金属保護膜の突出山部高さが以下の関係式(1)を満たす、請求項2に記載のレドックスフロー二次電池。
(Rpk(A)+Rpk(B))×1.2≦T≦60μm…(1)
(式(1)において、Tはイオン交換膜の厚さ(μm)、Rpk(A)は正極の金属保護膜の突出山部高さ(μm)、Rpk(B)は負極の金属保護膜の突出山部高さ(μm)、をそれぞれ表す。)
【請求項4】
前記金属保護膜が導電性を有する金属電極である請求項1〜3のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池。
【請求項5】
前記正極の金属電極は、表面が貴金属又は貴金属酸化物で被覆されている請求項4に記載のレドックスフロー二次電池。
【請求項6】
前記負極の金属電極は、表面がカーボンで被覆されている請求項4に記載のレドックスフロー二次電池。
【請求項7】
前記金属電極と前記炭素電極との間に、開口部を有する第2の金属電極をさらに有し、
前記金属電極と前記第2の金属電極との間で、互いの開口部の位置がずれている請求項4〜6のいずれか一項に記載のレドックスフロー二次電池。
【請求項8】
請求項1〜7のレドックスフロー二次電池のレドックスフロー二次電池金属電極であって、
開口部を有し、少なくとも第1主面の表面の突出山部高さが0.1〜2μmである、金属電極。
【請求項9】
チタン又はその合金により構成されている請求項8に記載の金属電極。
【請求項10】
エキスパンドメタルにより構成されている請求項9に記載の金属電極。
【請求項11】
前記金属電極の厚みが0.2mm以下である請求項8〜10のいずれか一項に記載の金属電極。
【請求項12】
前記金属電極の表面が貴金属又は貴金属酸化物で被覆されている請求項8〜11のいずれか一項に記載の金属電極。
【請求項13】
前記貴金属又は前記貴金属酸化物を構成する貴金属元素は、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、プラチナ(Pt)及びルテニウム(Ru)からなる群から選択された1種以上の元素である請求項12に記載の金属電極。
【請求項14】
前記貴金属又は貴金属酸化物の被覆の平均厚みが、0.05〜0.5μmである請求項12または13に記載の金属電極。
【請求項15】
前記金属電極の表面がカーボンで被覆されている請求項8〜11のいずれか一項に記載の金属電極。
【請求項16】
前記カーボンは、スパッタカーボン、導電性ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン又はこれらの混合物である請求項15に記載の金属電極。
【請求項17】
前記カーボンの被覆の平均厚みが、0.03〜0.3μmである請求項15または16に記載の金属電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックスフロー二次電池及びその電極に関する。
本願は、2016年9月2日に、日本に出願された特願2016−172243号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
大容量蓄電池としてレドックスフロー二次電池が知られている。レドックスフロー二次電池は、一般に、電解液を隔てるイオン交換膜と、そのイオン交換膜の両側にそれぞれ設けられた電極とを有する。イオン交換膜を挟んだそれぞれの側、すなわち正極室と負極室には、正極電解液及び負極電解液が供給される。これら電極上で酸化反応と還元反応をそれぞれ同時に進めることにより、充放電が行われる。充放電の際には、例えば、どちらか一方の電極で水素イオンが生成される構成の際には、発生した水素イオンはイオン交換膜を通って反対の電極側に移動することができ、電解液の電気的中性を保つことができる。電極には、炭素部材が広く用いられている(例えば、特許文献1及び2)。またこの他、電極にチタニウムやジルコニウムのような金属を用いることも知られている(例えば、特許文献3及び4)。
【0003】
レドックスフロー二次電池では、電極は各電極室内に格納されている。レドックスフロー二次電池は、電極室内に電解液を供給し、電解液を循環させながら動作する。例えば、電解液中のイオンが、電子を電極に渡すと、この電子は電極から外部を通って授受される。またイオン交換膜を介してプロトンの授受が行われる。このようにして、レドックスフロー二次電池は充放電を行う。
【0004】
このようなレドックスフロー二次電池では、電極に用いられる炭素繊維等がイオン交換膜に突き刺さり、イオン交換膜に亀裂や貫通孔等が生じることがある。イオン交換膜に亀裂や貫通孔が生じると、正極側の電極室(正極室)に供給される正極電解液と、負極側の電極室(負極室)に供給される負極電解液と、が混ざり、レドックスフロー二次電池の一部が短絡する。このような問題は、レドックスフロー二次電池のクーロン効率の低下、短寿命化の原因となる。
【0005】
イオン交換膜の破損を防ぐ手段として、イオン交換膜を厚くすることにより、炭素繊維が突き刺さってもイオン交換膜を貫通しないようにしたりする方法や、炭素繊維等を含む電極とイオン交換膜との間に、電極よりも柔らかい材料から構成される多孔質シート材を設ける方法が提案されている(例えば、特許文献5)。
【0006】
しかしながら、上述のレドックスフロー二次電池は、セル抵抗等の面で、更なる性能改善の余地があった。
【0007】
例えば、特許文献3に記載のレドックスフロー二次電池は、正極及び負極よりも柔らかい材料として、フッ素樹脂、フェノール樹脂及びエンジニアリングプラスチック等の有機材料の下記に示すような使用を提示している。しかしながら、これらの導電性を有さない有機材料を、正極又は負極とイオン交換膜との間に設けると、電極材とイオン交換膜との距離が広がると共に、伝導に寄与しない部分が生じる。そのため、レドックスフロー二次電池のセル抵抗が上昇する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3560181号公報
【特許文献2】国際公開第2014/033238号公報
【特許文献3】特開2015−228364号公報
【特許文献4】国際公開第2015−156076号公報
【特許文献5】特開2013−65530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、低抵抗でクーロン効率に優れたレドックスフロー二次電池を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、イオン交換膜と正極及び負極との間に開口部を有する金属保護膜を設け、その金属保護膜の表面状態を規定することで、イオン交換膜の損傷を防いで短絡を抑制し、かつ、レドックスフロー二次電池のセル抵抗の上昇を抑制できることを見出した。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)本発明の第一の態様のレドックスフロー二次電池は、正極と、前記正極に対向する負極と、前記正極と前記負極との間に設けられたイオン交換膜とを備え、前記正極及前記負極の一方又は両方が、金属保護膜と、炭素繊維を含む炭素電極と、を前記イオン交換膜側から順に有し、前記金属保護膜の第1主面が、前記イオン交換膜側に設けられており、
前記金属保護膜は、開口部を有し、第1主面の表面の突出山部高さ(Rpk)が0.1〜2μmである、レドックスフロー二次電池である。
【0012】
本発明の第一の態様のレドックスフロー二次電池は、以下の特徴を好ましく含む。下記特徴は必要に応じて互いに組み合わせることも好ましい。
(2)前記金属保護膜及び炭素電極は、前記正極及び前記負極の両方に設けられていてもよい。
【0013】
(3)前記イオン交換膜の厚みをTとした時に、前記金属保護膜の突出山部高さが以下の関係式(1)を満たしてもよい。
(Rpk(A)+Rpk(B))×1.2≦T≦60μm…(1)
(式(1)において、Tはイオン交換膜の厚さ(μm)、Rpk(A)は正極の金属保護膜の突出山部高さ(μm)、Rpk(B)は負極の金属保護膜の突出山部高さ(μm)、をそれぞれ表す。)
【0014】
(4)上記金属保護膜は導電性を有する金属電極であってもよい。
【0015】
(5)前記正極の金属電極は、表面が貴金属又は貴金属酸化物で被覆されていてもよい。
【0016】
(6)前記負極の金属電極は、表面がカーボンで被覆されていてもよい。
【0017】
(7)前記金属電極と前記炭素電極との間に、開口部を有する第2の金属電極をさらに有し、前記金属電極と前記第2の金属電極との間で、互いの開口部の位置がずれていてもよい。
【0018】
(8)本発明の第二の態様は、レドックスフロー二次電池のレドックスフロー二次電池金属電極であって、開口部を有し、少なくとも第1主面の表面の突出山部高さ(Rpk)が0.1〜2μmである金属電極である。
【0019】
第二の態様の金属電極は、以下の特徴を好ましく含む。下記特徴は必要に応じて互いに組み合わせることも好ましい。
(9)前記金属電極は、チタン又はその合金により構成されていてもよい。
【0020】
(10)前記金属電極は、エキスパンドメタルであってもよい。
【0021】
(11)前記金属電極は、厚みが0.2mm以下であってもよい。
【0022】
(12)前記金属電極は、表面が貴金属又は貴金属酸化物で被覆されていてもよい。
【0023】
(13)前記貴金属又は前記貴金属酸化物を構成する貴金属元素は、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、プラチナ(Pt)及びルテニウム(Ru)からなる群から選択された1種以上の元素であってもよい。
【0024】
(14)前記貴金属又は貴金属酸化物の被覆の平均厚みが、0.05〜0.5μmであってもよい。
【0025】
(15)前記金属電極は、表面がカーボンで被覆されていてもよい。
【0026】
(16)前記カーボンは、スパッタカーボン、導電性ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン又はこれらの混合物であってもよい。
【0027】
(17)前記カーボンの被覆の平均厚みが、0.03〜0.3μmであってもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のレドックスフロー二次電池は、低抵抗でクーロン効率に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】第1実施形態にかかるレドックスフロー二次電池の概略断面模式図である。
図2】第2実施形態にかかるレドックスフロー二次電池の金属電極の一部を拡大した概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明のレドックスフロー二次電池及び電極の好ましい例について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。本発明では、開口部を有し、少なくとも第1主面の表面の突出山部高さが0.1〜2μmである、優れた金属電極が提供される。さらにこの電極を用いた、優れた二次電池や電極が提供される。
以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0031】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態にかかるレドックスフロー二次電池の断面模式図である。
【0032】
図1に示すレドックスフロー二次電池100は、セル10を含む。より具体的には、複数のセル10が積層されたセルスタック構造を有する。セル10の積層数は、用途に応じて適宜変更することができる。なお単セルのみの構造としてもよい。セルスタック構造とし、さらにセル10を複数直列接続する場合、電池から実用的な電圧を得ることができる。
このような構造では、正極電解液のタンクと負極電解液のタンク(図示略)からの電解液を、それぞれのポンプ(図示略)を用いて、各セルに循環させてよく、同じ状態の電解液を各セルに流通できる。このため、各電池の充電状態等を均等とし、各電池の充電状態などを均等にすることが可能である。
セル10は、隔膜であるイオン交換膜6と、正極3(炭素電極2と金属保護膜極5)と負極4(金属保護膜5と炭素電極2)を含む。各電極のイオン交換膜側でない表面側には、それぞれ一対の双極板1が設けられる。電極や双極板の端部はセルフレーム20で覆われる。図1ではあまり明確ではないが、セル10内には電解液が流れる空間が負極側と陽極側の電極質のそれぞれあり、セルの構成に応じて、電解液はイオン交換膜6と電極の間や、電極の内部などを流れることができる。
【0033】
セル10は、セルフレーム20によって外周を覆われている。
図1では、2つのセルフレーム20が、イオン交換膜6を両側から挟んでいる状態が示される。セルフレーム20は、例えば額縁形状を有する構造体であり、セルスタック構造の積層方向において、互いに隣接するイオン交換膜6の間に存在する。1組のセルフレーム20は、1組の双極板1及び1つのイオン交換膜6と共に、これらに囲まれた二つの電極室K(Kc,Ka)を、セル10内に形成する。電極室Kの一方は正極室Kcとなり、他方は負極室Kaとなる。セルフレーム20は、正極室Kc及び負極室Kaに供給される電解液が、外部に漏れだすのを防ぐ。なおセルフレーム20や双極板1は、セル10に隣接する他のセル10の一部を形成しても良い。
【0034】
以下、セル10が積層されるセルスタック構造の積層方向を単に「積層方向」、セルスタック構造の積層方向に垂直な面方向を「面内方向」と言うことがある。
【0035】
(セル)
一つのセル10は、上述したように、一組の双極板1と、一つの正極3と、一つの負極4と、一つのイオン交換膜6とを有する。隣接する双極板1の間には、正極3と、イオン交換膜6と、負極4が順に配設される。イオン交換膜6は、正極室Kcと負極室Kaとの間の電解液の移動を遮断し、プロトン(水素イオン)は通過させる。
【0036】
<双極板>
双極板1は、電流は通すが電解液を通さない導電性の板であり、集電板である。双極板1は、電極に電子を授受する役割を持つ集電体である。双極板1は、正極部1Aと負極部1Bを有する。正極部1Aと負極部1Bは明確な区別がされるものではなく、セル10の構成範囲として便宜上区別した。双極板1においては、セルの正極に隣接している側を正極部1Aとし、別のセルの負極に隣接している側を負極部1Bとしている。
【0037】
双極板1の材質は任意に選択でき、導電性を有し、電解液に対して耐性を有し、電極質を形成できるものであれば特に問わない。例えば炭素を含有する導電性材料を用いることができる。具体的には、黒鉛と有機高分子化合物とからなる導電性樹脂、もしくは黒鉛の一部をカーボンブラックとダイヤモンドライクカーボンの少なくとも1つに置換した導電性樹脂、カーボンと樹脂とを混練成形した成形材等が挙げられる。これらのうち、カーボンと樹脂とを混練成形した成形材を用いることが好ましい。
【0038】
<正極及び負極>
正極3は、炭素繊維を含む層からなる電極(以下、炭素電極という)2と、開口部を有する金属保護膜、本例では開口部を有する金属箔からなる電極(以下、金属電極という)5とを、を有する。負極4は、炭素電極2と、金属電極5とによって構成されている。正極3及び負極4のいずれにおいても、イオン交換膜6側から、金属電極5、炭素電極2の順で配設され、かつ、金属電極5は後述する第1主面をイオン交換膜6側に向けて配置されている。
【0039】
<炭素電極>
炭素電極2は任意に選択できるが、例えば、炭素繊維を含む導電性シートが例として挙げられる。ここで言う炭素繊維とは、繊維状炭素であり、例えばカーボンファイバー、カーボンナノチューブ等が挙げられる。これらの中でも、特に径が1μm以上のカーボンファイバーを用いると、導電性シートが破損しにくなるので好ましい。炭素電極2が炭素繊維を含むことで、電解液と炭素電極2の接触面積を増し、レドックスフロー二次電池100の反応性が高まる。
【0040】
炭素繊維を含む導電性のシートとしては、例えば、カーボンフェルト、カーボンペーパー等を用いることができる。炭素繊維を含む導電性シートは、炭素繊維の端部が導電性シートから飛び出ていることがある。
一般的な構造では、この導電性シートとイオン交換膜とは、直接互いに押し付けられている。従って導電性シートから飛び出た炭素繊維の端部があると、この端部がイオン交換膜に突き刺さり、イオン交換膜に亀裂や貫通孔を生じさせる可能性がある。しかしながら、本発明の構成では、金属電極5が前記シートと膜の間に存在することで、イオン交換膜6が保護される。
【0041】
<金属保護膜>
金属保護膜でもある金属電極5は、開口部を有する導電性の金属箔である。金属電極5は、正極または負極を構成する電極の一部である。金属電極5は、電極室K(正極室Kc及び負極室Ka)内に設けられる。金属電極5は、イオン交換膜6の少なくともいずれか一方、好ましくは両側に配設される。
【0042】
金属電極5は、イオン交換膜6に炭素電極2を構成する炭素繊維が刺さるのを防ぐ保護膜として機能する。炭素電極に含まれる炭素繊維がイオン交換膜6に突き刺さり、イオン交換膜6に亀裂や貫通孔を生じると、クーロン効率が低下することがある。しかしながら、本発明では、金属保護膜があることにより、亀裂や貫通孔が生じにくく、クーロン効率が低下しにくい。
【0043】
金属保護膜の突出山部高さ(Rpk)について説明する。
金属電極5の少なくとも一方の主面の突出山部高さ(Rpk)は、0.1〜2μmに制御されている。以下、このように突出山部高さ(Rpk)の制御された金属電極5の面を「第1主面」と言う。第2主面はこの電極の裏側の面、すなわち第1主面とは逆側の面であり、必要に応じて、こちらの面も同様に制御されても良い。金属電極5は第1主面をイオン交換膜6側に向けて配置される。これは、金属保護膜でもある金属電極5自体が、イオン交換膜6に亀裂や貫通孔を生み出す原因とならないようにするためである。
【0044】
突出山部高さ(Rpk)とは、表面形状を計測して得られた、負荷曲線上で定義されるコア部より上側に突出した突出山部の平均高さを意味する。前記コア部とは、負荷曲線から得られた等価直線が、負荷長さ率0%の位置での縦軸と100%の位置での縦軸と交わる、二つの高さ位置の間の領域を意味する。なお負荷曲線では、縦軸が高さであり、横軸が負荷長さ率である。
前記等価直線は、粗さ曲線の測定点の40%を含む負荷曲線の中央部分において求める。前記等価直線は、負荷長さ率の差ΔMrを40%にして引いた負荷曲線の割線が、最もゆるい傾斜となる直線である。
負荷曲線は、輪郭曲線の高さの分布(確率密度)を積分したものとして考えることができるので、負荷曲線より算出した。突出山部高さ(Rpk)は、金属電極5のイオン交換膜6と接する面における突起の発生確率を考慮した値である。
【0045】
なお、Rpk値を得るための金属電極の表面形状の計測には、例えば、レーザー顕微鏡;キーエンス(商品名:VK−X150)社製などの測定装置を用いることができる。レーザー顕微鏡を用いて、金属電極5の開口部以外の任意の表面を、視野100μm×100μm四方で測定し、表面の粗さについて、負荷曲線を求めることができる。Rpkは、その負荷曲線から算出できる。Rpk測定値は、任意の箇所3点を測定して求めた各々のRpkの平均値とする。
「負荷曲線」はJIS B 0601:2013「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語、定義及び表面性状パラメータ」にて定義されており、観測視野画像の各画素における表面高さデータ全測定点から算出されたものである。
「突出山部高さ(Rpk)」の詳細は、JIS B 0671−2:2002「製品の幾何特性仕様 (GPS)−表面性状:輪郭曲線方式;プラトー構造表面の特性評価−第2部:線形表現の負荷曲線による高さの特性評価」に規定されている。
【0046】
金属電極5は、その表面が平坦になるように処理して製造される。そのため、突起の発生確率は非常に小さくなっている。なお、従来の表面状態の評価で用いられるRa、Rzは、輪郭曲線(曲面)上で定義されるものである。Ra(粗さ曲線の算術平均高さ)は平均的な状態を表すパラメータであり、突起の評価には不向きである。また、Rz(粗さ曲線の最大高さ)では発生確率の低い突起は測定視野から外れる可能性があり、突起を見過ごす恐れがある。しかし、粗さ分布を基にした負荷曲線上で定義されるRpk(突出山部高さ:コア部の上にある突出山部の平均高さ)を評価することで、発生確率の低い突起の状態を適切に評価することができる。
【0047】
金属電極5の厚さは任意に設定できるがが、0.2mm以下が好ましく、0.001〜0.2mmであることがより好ましく、0.003〜0.03mmであることがさらに好ましい。開口部以外の厚さは一定であることが好ましいが、必要に応じて変更しても良い。また、金属電極5の開口率は、50〜85%が好ましく、60〜80%がより好ましく、65〜75%がさらに好ましい。金属電極5の厚さ及び開口率がこの範囲内であれば、炭素繊維によるイオン交換膜の損傷をより防止できる。なお、開口率は、[金属電極の開口部の面積の合計]を[開口部を含む金属電極の一面の面積]で割ったものである。
【0048】
上述のように、金属電極5が、炭素電極2とイオン交換膜6との間に挟まることで、炭素電極2を構成する炭素繊維がイオン交換膜6に貫通孔を形成することも抑制できる。また金属電極5のイオン交換膜6と接する面の突出山部高さ(Rpk)が0.1〜2μmであれば、金属電極5の第1主面は、充分に突起の発生を抑えた平坦面であると言える。すなわち、金属電極5が、イオン交換膜6の亀裂や貫通孔の原因とはならない。そのため、イオン交換膜6の厚みを薄くすることができ、レドックスフロー二次電池100のセル抵抗を低減できる。
なお、Raは0.05〜0.4μmであることが好ましい。Rpkが上記範囲を満たした上で、更にRaが当該範囲内であれば、よりマクロな視点でもイオン交換膜6に貫通孔が生じることが避けられる。
【0049】
次に、金属電極の好ましい材料について説明する。
金属電極5は、正極室Kc及び負極室Ka内で使用される。例えば、バナジウムイオンを用いたレドックスフロー二次電池の場合、用いられる電解液は硫酸を含む。そのため、金属電極5を構成する金属又は合金は、耐腐食性を有することが好ましい。そのため、金属電極5には高い耐腐食性を有する材料、例えばチタン又はその合金を用いることが好ましい。このような金属を金属電極5に用いると、レドックスフロー二次電池100の安定的な動作が可能となる。
【0050】
次に、金属電極に好ましく使用される金属箔を説明する。
金属電極5を構成する金属箔は、突出山部高さ(Rpk)が上述の範囲内であって、開口部を有する金属シート(以下、「開口シート」という。)であれば、種類や材料や開口径や開口形などは特に問わず、任意に選択できる。例えば、金属シートに切り目を入れ引き延ばすことで開口部が形成されたエキスパンドメタルや、金属シートをくりぬいて開口部が形成されたパンチングメタル等が、例として挙げられる。エキスパンドメタルは、切り目を入れる前の金属シートの平坦性が確保しやすく、開口部を形成した後でも突出山部高さ(Rpk)を所定の範囲内に収めやすい。
【0051】
次に、金属電極のコーティングを説明する。
金属電極5が、電解液等で変質することを防ぐために、金属電極5の表面は、好ましくは全ての表面は、被覆膜でコーティングされていることが好ましい。コーティングの効果としては、例えばチタンの金属電極の場合は、チタンが酸化し不動態化することが避けられる。
なお、コーティングをされた金属電極5であっても、その電極の第1主面の突出山部高さ(Rpk)は、上述の範囲内である。なお以下に述べるような被覆が用いられていれば、金属電極5を構成する開口シートの第1主面の突出山部高さ(Rpk)が上述の数値範囲内であれば、通常は、被覆後の第1主面も、同範囲を満たす。
【0052】
正極3に設けられる金属電極5は、金属電極5の表面が、貴金属又は貴金属酸化物で被覆されていることが好ましく、貴金属酸化物で被覆されていることがより好ましい。貴金属酸化物は、それ自身が電解液に含まれているバナジウムの価数を変える活性がある。そのため、正極室Kc内で、酸化物イオンが酸素になるという不要な還元反応の発生を抑制し、正極室Kc内で酸素が発生することを抑制できる。電解液中のガス発生は、レドックスフロー二次電池のセル抵抗の増加に繋がる。
【0053】
また負極4に設けられる金属電極5は、金属電極5の表面がカーボンで被覆されていることが好ましい。カーボンで被覆することで、水素イオンが水素になるという不要な反応を抑制し、負極室Ka内で水素が発生することを抑制できる。
【0054】
正極3の金属電極5を被覆する貴金属又は貴金属酸化物は任意に選択できるが、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、プラチナ(Pt)及びルテニウム(Ru)からなる群から選択された1種以上の元素を有することが好ましい。
【0055】
また負極4の金属電極5を被覆するカーボンは任意に選択できるが、スパッタカーボン、導電性ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン又はこれらの混合物であることが好ましい。これらの物質は、電解液中でも安定であり、電気を流すことができるので、被覆膜として好適に用いることができる。なお、これらのカーボン膜は、真空蒸着法、スパッタリング成膜法、プラズマイオン注入成膜法(DLC)等により得ることができる。
【0056】
コーティングの厚さは任意に選択される。しかしながら、正極3の金属電極5を被覆する貴金属又は貴金属酸化物の平均厚みは、0.05〜0.5μmであることが好ましい。また負極4の金属電極5を被覆するカーボンの平均厚みは、0.03〜0.3μmであることが好ましい。
【0057】
これら被覆膜の厚みが当該範囲内であれば、被覆膜にピンホール等が発生することが十分に避けられる。カーボンは、貴金属又は貴金属酸化物よりも緻密な膜を形成できるため、膜厚は薄くてもよい。
【0058】
<イオン交換膜>
イオン交換膜6としては、陽イオン交換膜や陰イオン交換膜を用いることができる。任意に選択できるが、具体的には、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体、スルホン酸基を有する炭化水素系高分子化合物、リン酸などの無機酸をドープさせた高分子化合物、一部がプロトン伝導性の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、及び、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたプロトン伝導体などからなる膜が挙げられる。これらのうち、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体が好ましい。炭素-フッ素からなる疎水性テフロン骨格(疎水性ポリテトラフルオロエチレン骨格)とスルホン酸基を持つパーフルオロ側鎖から構成されるパーフルオロカーボン重合体、例えばナフィオン(登録商標)、はより好ましく使用できる。
【0059】
イオン交換膜6の厚みは任意に選択できるが、120μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましく、10〜40μmであることがさらに好ましい。イオン交換膜6の厚みが薄くなれば、レドックスフロー二次電池100のセル抵抗を低減できる。
【0060】
なお、イオン交換膜6の厚み(T)が決定したら、金属保護膜でもある金属電極5の第1主面の突出山部高さを、以下の関係式(1)を満たすように設定することが好ましい。
(Rpk(A)+Rpk(B))×α≦T…(1)
【0061】
式(1)において、Tはイオン交換膜の厚み、Rpk(A)は正極の金属電極の突出山部高さ、Rpk(B)は負極の金属電極の突出山部高さであり、αは乗数である。αは、1.2であることが好ましく、1.4であることがより好ましく、1.8であることがさらに好ましい。
【0062】
一方の電極に炭素繊維等含むカーボンシート等の炭素電極を使用しない等の理由で、正極3又は負極4のいずれか一方にのみ金属電極5を設ければよい場合は、イオン交換膜6の厚みと、金属電極5の第1主面の突出山部高さは、以下の関係式(2)を満たすように設定することが好ましい。
Rpk×α≦T/2…(2)
【0063】
式(2)において、Rpkは金属電極の突出山部高さである。αは乗数であり、T,αは式(1)と同じである。
【0064】
イオン交換膜6の厚みが、上記関係式(1)及び(2)を満たすことで、金属電極5によりイオン交換膜6に貫通孔が形成される確率をより低減できる。また金属電極5を設けることで、イオン交換膜6の厚みを60μm以下にできる。
【0065】
上述のように、本実施形態にかかるレドックスフロー二次電池100は、金属電極5を炭素電極2とイオン交換膜6の間に配設することで、イオン交換膜6に貫通孔が形成され、正極電解液と負極電解液とが混ざり、短絡することを防止できる。
【0066】
また金属電極5のイオン交換膜6と接する第1主面を所定の面とすることで、電極に用いられる炭素繊維等がイオン交換膜に突き刺さり亀裂や貫通孔を生じる可能性がほとんどなくなったので、イオン交換膜6の厚みを薄くすることができ、レドックスフロー二次電池100のセル抵抗を低減できる。
【0067】
なお、市場の流通の態様によっては、イオン交換膜6に金属電極5を設けた複合体として流通させる場合もある。この場合、複合体は、イオン交換膜6と、イオン交換膜6の少なくともいずれか一面に設けられた金属電極5と、を備える。金属電極5のイオン交換膜6と接する面の突出山部高さ(Rpk)は0.1〜2μmとなる。
【0068】
[レドックスフロー電池の動作]
図1を用いて、レドックスフロー二次電池100の動作の一例を説明する。レドックスフロー二次電池100の電極室Kには、流入口(図視略)から、電解液が供給される(図中、電解液の流れをFin(Flow in)として表示)。電極室K内に供給された電解液は、電極室K内の炭素電極2と反応する。反応時に生じたイオンは、イオン交換膜6を介して正極3と負極4との間を流通し、充放電を行う。反応後の電解液は、流出口(図視略)から排出される(図中、電解液の流れをFout(Flow out)として表示)。なお図1中の矢印部分に該当する位置において、セルフレーム20に流入口と流出口を設けても良い。
【0069】
流入口及び流出口の位置や数は、電極室K内に電解液を通液できれば特に問わず、任意に設定できる。流入口及び流出口及び流路は、セルフレーム20に設けても良い。双極板1の電極室K側の面に溝部等を設けたり、双極板1内に貫通孔を設けたりして、流路を形成する場合は、双極板1の溝部や流路に繋がる流入口及び流出口を設けてもよい。電解液は、セルフレーム20と双極板1の連通する流路を介して供給は排出されても良い。
【0070】
レドックスフロー二次電池100を動作すると、電極室K内に供給される電解液の流れにより、炭素電極2はイオン交換膜6を押す。金属電極5が無いと、炭素電極2を構成する炭素繊維により、イオン交換膜6に貫通孔が形成される場合がある。本実施形態にかかるレドックスフロー二次電池は、所定の金属電極5を有するので、電解液の流れによりイオン交換膜6に対して金属電極5が密着しても、イオン交換膜に貫通孔等が形成されることが抑制される。
【0071】
[レドックスフロー電池の製造方法]
レドックスフロー電池の製造方法の例を説明する。まず、各部材を準備する。
双極板1、イオン交換膜6及びセルフレーム20は公知のものを使用できる。特に問題のない限り、サイズ及び種類などを必要に応じで任意に選択してよい。例えば、市販品などを購入してもよい。
【0072】
炭素電極2も、特に問題のない限り、サイズ及び種類などを必要に応じで任意に選択できる。炭素電極2として、カーボンフェルト、カーボンペーパー等を用いる場合、例えば、市販品等の公知のものを入手してもよい。
【0073】
開口部を有する金属保護膜としての金属電極5は、イオン交換膜6と接する面の突出山部高さ(Rpk)が、0.1〜2μmとなるように、材料を加工して得ることも好ましい。例えば、圧延して所定の面が形成された金属シートを用意し、これに更に切り目を入れて、引き伸ばすことで開口シートを作製してもよい。また金属シートに穴をあけてから、その後圧延して、開口部を有する金属保護膜を得てもよい。なお、圧延後のRpkを0.1〜2μmの範囲にするために、非常に平坦性の高い特別な金型を用いる圧延や、特別な圧縮条件の圧延を行っても良い。また圧延後に、ケミカル研磨、バフ研磨、電解研磨等の研磨を行い、Rpkを所定の範囲にすることもできる。このように開口シート加工し、前述の第1主面を有する金属電極5を得ることができる。
金属保護膜の開口部の形状は任意に選択でき、正方形や長方形などの多角形、円形や楕円形などが挙げられる。開口部はランダムに配置されていても良いが、規則的に配置されていることも好ましい。金属保護膜の一例としては図2の5Aが挙げられる。
開口の数も必要に応じて任意に選択できる。一例を挙げれば、1cmの面積当たり10〜1000個が挙げられ、100〜300個が好ましく用いられる。
【0074】
そして、図1に示すように、イオン交換膜6上にセルフレーム20を設ける。金属電極5、炭素電極2、双極板1、炭素電極2、金属電極5の順に積層した積層体を用意する。セルフレーム20の開口部内に、金属電極5、炭素電極2、双極板1、炭素電極2、金属電極5の順に積層した前記積層体を挿入する。
【0075】
次いで、イオン交換膜6をその上に配置する。続いて、このイオン交換膜6を挟んで積層体が設けられるように、同様の構成を、順次積層していく。
セルフレーム20同士の接合面には、ガスケット等が設けられる。そして、必要な数を積層した後、積層方向の両端にエンドプレートを設ける。最後に、エンドプレート同士を締め付けて固定することで、積層体はセルフレーム20の開口部内に納まるように圧縮される。その結果、積層体を構成する各部材は互いに密着するので、電気伝導性が高まる。セルフレーム20同士は、ガスケットを介して密着し、セルフレーム20内から電解液が漏れることを防ぐ。
【0076】
上述のように、本実施形態にかかるレドックスフロー二次電池によれば、レドックスフロー二次電池の組み立て過程、及び動作中等において、イオン交換膜6側に、炭素繊維を有する炭素電極2が強く押し付けられたとしても、イオン交換膜6に貫通孔が生じることを防ぐことができる。
【0077】
(第2実施形態)
第2実施形態として、2層の金属電極が積層した構造を有するレドックスフロー二次電池の例を説明する。
図2は、第2実施形態にかかるレドックスフロー二次電池の金属電極の一部を拡大した、斜視図である。本発明において、金属保護膜の数は、1であってもよく、あるいは、任意に選択される2以上の数、例えば、2や3や4など、2〜10から選択されるいずれかの数などであっても良い。このレドックスフロー二次電池は、金属電極5と炭素電極2との間に、更に第2の金属電極5Bが設けられている点が、第1実施形態にかかるレドックスフロー二次電池とは異なる。以下、2枚の金属電極のうち、イオン交換膜6側の金属電極を第1の金属電極5A、双極板1側の金属電極を第2の金属電極5Bという。これらは、開口の形状や開口間の距離は同じであり、基本的に同じパターンを有しているが、開口の形状や開口間の距離が互いに異なっていても良い。
【0078】
第1の金属電極5Aは、第1実施形態にかかる金属電極5と同様の電極である。これに対し、第2の金属電極5Bは、イオン交換膜6と直接接触しないため、突出山部高さ(RpK)の範囲は0.1〜2μm内に特に制限されない。この点を除き、金属電極5Bは金属電極5Aと同様である。なお第2の金属電極5Bが、本発明の突出山部高さを有していても特に問題はない。
【0079】
図2に示すように、第1金属電極5Aと第2金属電極5Bは、開口部の形成されている位置が、積層方向でずれている。このように開口部どうしの位置が、ずれていることが好ましい。この構成では、第1金属電極5Aの開口部5Aaから流入した電解液は、例えば、第1金属電極5Aと第2金属電極5Bの間を面内方向に流れた後に、第2金属電極5Bの開口部5Baから流出する。
【0080】
すなわち、複数の金属電極5が積層されることで、隣接する金属電極5の間には、面内方向の流路が形成されている、とみなすことができる。面内方向の流路が形成されることで、反応後の電解液を素早く流出口へ排出することができる。
【0081】
第2実施形態にかかるレドックスフロー二次電池では、イオン交換膜6と接する金属電極の第1主面が、本発明で設定されている所定の形状である。そのため、イオン交換膜6に貫通孔が形成されることが抑制される。
【0082】
また金属電極が2層あることで、金属電極の延在方向に沿った面内方向の電解液の流れを生み出し、電解液の流れをスムーズにできる。一方で、イオン交換膜と炭素電極の距離が遠くなり、セル抵抗が増加するという弊害が生じる可能性はある。そこで、用途に応じて第1実施形態にかかるレドックスフロー二次電池と、第2実施形態にかかるレドックスフロー二次電池のいずれの構成も選択可能である。
【0083】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではない。特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形や変更、追加、省略等が可能である。
【実施例】
【0084】
次に、実施例、比較例を挙げて、本発明の好ましい例をより具体的に説明する。ただし本発明は以下の例のみに限定されない。
(実施例1)
[部材の準備]
カーボン−樹脂成形体からなる50mm×50mmの平板の双極板を用意した。
セルフレーム20を用意した。セルフレーム20によって囲まれる、電極室Kの面内方向の断面の大きさは50mm×50mmとした。
【0085】
炭素電極には、50mm×50mmのカーボンファイバーペーパー(SGL社製、GDL10AA)を用いた。
【0086】
イオン交換膜には、ナフィオンN212(登録商標、デュポン社製)を用いた。このイオン交換膜の厚みは、約50μmであった。
【0087】
また金属保護膜としての開口シートとして、厚み0.02mmのチタンからなるエキスパンドメタルを用いた。開口率は約70%、開口数は1cm当り約200個、大きさは50mm×50mmである。このエキスパンドメタルをケミカル研磨して、Rpkを1μm以下にした。その後、正極側用に用いた開口シートは、酸化イリジウムで被覆して被覆膜を形成した。負極側に用いた開口シートは、スパッタカーボンで被覆して被覆膜を形成した。このようにして、それぞれ正極側及び負極側の金属電極(金属保護膜)を得た。正極側の金属電極の被覆膜の厚みは0.1μmであり、負極側の金属電極の被覆膜の厚みは0.05μmであった。また、金属電極のイオン交換膜と接する面の突出山部高さ(Rpk)は、正極側も負極側も、0.8μmであった。
【0088】
準備した部材を用い順に積層して、2つのセルを含む実施例1のレドックスフロー二次電池を組み上げた。すなわち、レドックスフロー二次電池は、1つのセルの上にセルがさらに1層積層された、セルスタック構造を有していた。
【0089】
(比較例1)
比較例1は、金属電極を設けなかった点が、実施例1とは異なる。その他の構成は、実施例1と同じとした。
【0090】
(比較例2)
比較例2では、正極側、負極側のいずれのエキスパンドメタルも、研磨をしなかった。その為、金属電極のイオン交換膜と接する面の突出山部高さ(Rpk)は、いずれも3.2μmであった。この点が実施例1とは異なる。その他の構成は、実施例1と同じとした。
【0091】
(実施例2)
実施例2は、正極及び負極の開口シートのいずれも被覆しなかった。この点が実施例1とは異なる。その他の構成は、実施例1と同じとした。
【0092】
(実施例3〜5)
実施例3〜5は、正極及び負極の開口シートを被覆する被覆膜の膜厚を表1に示したように変更した。この点が実施例1と異なる。その他の構成は実施例1と同じとした。
【0093】
(実施例6、7)
実施例6及び実施例7は、イオン交換膜の膜厚を表1に示したように変更した。この点が実施例1と異なる。その他の構成は実施例1と同じとした。
【0094】
(比較例3、4)
比較例3及び比較例4は、イオン交換膜の膜厚は、表1に示したように変更した。この点が比較例1と異なる。その他の構成は比較例1と同じとした。
【0095】
(測定及び評価)
各実施例及び各比較例のレドックスフロー二次電池には、正極側にバナジウムイオン(IV価)と硫酸を含む水溶液を、負極側にバナジウムイオン(III価)と硫酸を含む水溶液を、電解液として導入し、それぞれ25mlの電解液をチューブポンプで循環させた。電解液の流量は28ml/minに設定した。充放電時の電流は2A(80mA/cm)とし、充電停止電圧を1.75V、放電停止電圧を1.00Vとした。電池特性としては、セル抵抗率と、クーロン効率を計測し比較した。また、1か月間連続動作させた際のセル抵抗の増加を確認した。
【0096】
【表1】

【0097】
実施例1と比較例1及び比較例2とを比較すると、実施例1のクーロン効率は大きく、セル抵抗が小さかった。これは、所定の金属電極を設けることで、イオン交換膜に貫通孔や亀裂等が入らなかったためであると判断される。
【0098】
ここで、レドックスフロー二次電池においてクーロン効率の1%の違いは大きな意味を有する。レドックスフロー二次電池では、充放電を繰り返し行う。そのため、1%の違いは充放電ごとに累積的に寄与し、レドックスフロー二次電池を実使用する際の性能に大きな影響を及ぼす。つまり、実施例1と比較例1及び比較例2のクーロン効率の数%の違いは、実性能に大きな影響を及ぼす。
【0099】
また実施例1〜5を比較すると、実施例2及び3は、連続動作によりセル抵抗が上昇した。その後、実施例2及び3のレドックスフロー二次電池を分解すると、金属電極に用いたチタンが不動態化していた。実施例1、4及び5では、セル抵抗は上昇しなかった。すなわち、実施例1、4、及び実施例5のように、金属電極の表面を所定の膜厚でコーティングすると、レドックスフロー二次電池を長期的に安定的に動作させることができることが分かった。なお、実施例2及び3のレドックスフロー二次電池は高いクーロン効率で動作はしており、大電流を伴わない等の用途によっては充分使用可能である。
【0100】
また比較例3の結果によると、イオン交換膜の厚みが充分厚いと金属電極を設けなくても、クーロン効率の低下は、金属電極を設けた実施例6に比べ、1%程度の差となることが分かる。しかしながら、イオン交換膜の厚みが厚すぎるとセル抵抗率が大きくなる。
【0101】
これに対し、実施例7及び比較例4の結果によると、イオン交換膜の厚みを薄くするとセル抵抗率を小さくできる。また実施例7によると、イオン交換膜の厚みが20μmと薄くても、金属電極を設けることでクーロン効率の低下を抑えられることが分かる。すなわち、金属電極を設けることで、イオン交換膜の厚みを薄膜化できたと言える。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、低抵抗でクーロン効率に優れたレドックスフロー二次電池を得ることができる。
【符号の説明】
【0103】
1…双極板
1A…正極部
1B…負極部
2…炭素電極
3…正極
4…負極
5…金属電極
5A…第1金属電極
5B…第2金属電極
5Aa,5Ba…開口部
6…イオン交換膜
10…セル
20…セルフレーム
100…レドックスフロー二次電池
Kc…正極室
Ka…負極室
K…電極室
図1
図2