特許第6373553号(P6373553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373553
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】アレイ型センサーを使用した測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20180806BHJP
   B82Y 15/00 20110101ALI20180806BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20180806BHJP
【FI】
   G01N21/65
   B82Y15/00
   B82Y30/00
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-241527(P2012-241527)
(22)【出願日】2012年11月1日
(65)【公開番号】特開2014-92388(P2014-92388A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年10月14日
【審判番号】不服2017-8568(P2017-8568/J1)
【審判請求日】2017年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】ホアン チュン ヴ
(72)【発明者】
【氏名】長尾 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】青野 正和
【合議体】
【審判長】 三崎 仁
【審判官】 東松 修太郎
【審判官】 信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/043028(WO,A1)
【文献】 特開2010−230352(JP,A)
【文献】 特表2007−508536(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0188540(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/74
B82Y 5/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイ型センサーと、
前記アレイ型センサーの複数のナノ構造物に順次励起光を与えるレーザー光源と、
前記レーザー光源からの励起光を前記複数のナノ構造物に順次照射するための位置決めを行う機構と、
前記複数のナノ構造物からの光信号を受け取る光学系と、
前記光学系からの前記光信号をスペクトル計測して記録する分光計測系と
を設けた測定装置であって、
前記アレイ型センサーは、
電磁場増強特性が実質的に同一であるとともに、実質的に同一の形状を有する前記複数のナノ構造物を、これらのナノ構造物からの光を互いに分離して観測可能な間隔で基板上に一次元あるいは二次元状に配置し、
前記ナノ構造物の各々は前記基板から伸びるポスト上に前記基板と離間して設けられるとともに、前記ナノ構造物のサイズが前記ポストの直径よりも大きいことにより、前記ナノ構造物の一部が前記ポストから外側にはみ出しており、
溶液中をランダムに拡散する分子または粒子が前記ナノ構造体を通過しまたは前記ナノ構造体に吸着されたことによる前記光の変化を検出する
アレイ型センサーを使用した測定装置。
【請求項2】
前記複数のナノ構造物の各々は、所定の形状を有する金属のドットの対を電磁場増強特性が発現するギャップを介して対向させたものである、請求項1に記載のアレイ型センサーを使用した測定装置
【請求項3】
前記複数のナノ構造物は、前記ドットの形状、サイズ、及びギャップが±5nmの誤差範囲内に入る、請求項2に記載のアレイ型センサーを使用した測定装置
【請求項4】
前記複数のナノ構造物はAuからなる、請求項1から3の何れかに記載のアレイ型センサーを使用した測定装置
【請求項5】
前記複数のナノ構造物の配置の間隔は前記光の回折限界よりも大きい、請求項1から4の何れかに記載のアレイ型センサーを使用した測定装置
【請求項6】
前記基板は誘電体からなる、請求項1から5の何れかに記載のアレイ型センサーを使用した測定装置
【請求項7】
前記垂直方向の離間の距離は前記複数のナノ構造物のサイズ以上である、請求項1から6の何れかに記載のアレイ型センサーを使用した測定装置
【請求項8】
前記複数のナノ構造物は周期的に配置されている、請求項1から7の何れかに記載のアレイ型センサーを使用した測定装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラマン散乱および蛍光シグナルを増強する電磁場増強作用を持つナノ構造物を配置したアレイ型センサーを使用し、可視から近赤外帯域の波長を持つレーザーの電磁場をナノスケールに集中させ、このアレイ型センサーにレーザービームを走査し、個々のナノ構造物近傍に存在する分子のシグナルを個別に計測し識別する測定を行う測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表面増強ラマン散乱(Surface Enhanced Raman Scattering:SERS)、表面増強赤外吸収(Surface Enhanced Infrared Absorption:SEIRA)や表面プラズモン励起増強蛍光分光(Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy:SPFS)は、高感度かつ簡便な化学センサー・バイオセンサーに応用できる現象として、精力的な研究が行われている。特にSERSセンサーやSEIRAセンサーは表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:SPR)センサーなどの誘電センサーや抵抗測定型のガスセンサーなどとは異なり、分子振動によるシグナルを計測でき、そのスペクトルから詳細な情報を得ることが可能である。これらのセンサーは、生体分子、環境汚染物質などの検出のみに留まらず、分子種の同定や分子構造変化のモニタリングに威力を発揮する。SERS測定に可視光や近赤外光を用いる場合には、水分子による吸収が小さいため、水中でレーザー光を照射しながら「その場」で簡便に分子をモニターすることが可能である。一方SEIRA効果の場合には全反射減衰光学系を用いるなどの工夫を加えることで水中にとけた微量分子の計測が可能となる(非特許文献2)。
【0003】
例えばSERS効果によるラマンセンサー材料の例としては、ガラスやシリコンなどの誘電体表面に金属ナノ粒子を担持させたもの、真空蒸着により島状の金属を2次元的に分布させたもの、表面粗さを意図的に持たせた2次元金属膜、ナノスケール、ミクロンスケールの構造を持った金属ナノロッドのアレイなどが存在する。これらのセンサー材料のシグナル増強効果は、表面プラズモンが金属構造物により閉じ込められて共鳴的に励起され、金属構造物表面の近接場が入射光による電磁場に比べて格段に増強される効果を利用している。ラマン散乱の強度は分子位置での電磁場強度の4乗に比例するとされ(非特許文献1)、近接場による増強効果がその感度と性能を大きく左右する。また、検出される分子は増強近接場の生じるナノスケール領域(ホットスポット、ホットサイト)に存在するごく少量の分子である。
【0004】
一般的なラマンセンサー材料においては、増強近接場を生じる構造物がマクロスケールにわたって高密度(光の波長以下の間隔)で分布しているため、光学的手法で計測されるシグナルもマクロスケールの平均情報となる。従って、溶液に複数の分子が存在する場合にはそれらに由来するシグナルが混ざって観測されるので、分子種の同定などは難しくなる。
【0005】
また、共焦点顕微鏡等を用いて一個あるいは数個の構造物からのシグナルを計測する場合でも、センサー上に分布している複数の構造物の形状は互いに同一ではなく多形であるため、電磁場増強の度合いは場所毎に異なる。そのため、有効なホットスポットを計測しているかどうかの保証はなく、また、計測スポット毎の増強の条件が同じである保証もない。
【0006】
一般に行われるSERS計測では、(1)計測対象を含む溶液をSERSセンサー材料に少量滴下し、乾燥後にSERS材料表面上で多層膜として堆積した分子のラマン測定を行う、(2)金属構造物上に、計測したい分子やタンパク質に対する吸着選択性を持たせた親和性分子(リンカー分子、アプタマーなど)を被覆し、溶液中で計測対象としたい分子をSERS材料表面へ捕捉し水中で単分子膜のSERS計測を行う、等の方法がある。しかし、これらのいずれの方法の場合にも、複数分子種を含む溶液の中に含まれる成分分子の同定とその定量は難しい。なぜならば前者(1)の場合には、全ての分子の振動シグナルが重畳してしまうために、上述したように分子種の同定が困難となるからである。つまり、従来技術によるSERS材料を用いる際には(あるいは溶液中にSERS増強粒子を分散したコロイド溶液などを用いることもある)、ホットスポットの形状・大きさはランダムで、その位置も偶発的に生成したものとなり、シグナル発生の位置と強度とが良く規定されたものにはならならない。このため、溶液中に複数の分子が存在する場合、分子の同定が困難になり、計測した分子の量についての情報を得ることも難しい。また後者(2)の場合には分子種の同定はできるが、特定の一種類の特定分子の検出しかできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、ナノスケール空間の電磁場の増幅機能を持つ構造物を並べたアレイ型センサーを実現し、例えば溶液中に存在する複数種類の分子種の同定とその定量を一回の測定で簡便に行える計測手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によれば電磁場増強特性が実質的に同一であるとともに、実質的に同一の形状を有する複数のナノ構造物を、これらのナノ構造物からの光を互いに分離して観測可能な間隔で配置した、アレイ型センサーが与えられる。
ここで、前記複数のナノ構造物の各々は、所定の形状を有する金属のドットの対を電磁場増強特性が発現するギャップを介して対向させたものであってよい。
また、前記複数のナノ構造物は、前記ドットの形状、サイズ、及びギャップが±5nmの誤差範囲内に入ってよい。
また、前記複数のナノ構造物はAuからなってよい。
また、前記複数のナノ構造物の配置の間隔は前記光の回折限界よりも大きくしてよい。
また、前記複数のナノ構造物は基板上に一次元あるいは二次元状に配置されてよい。
また、前記基板は誘電体からなってよい。
また、前記複数のナノ構造物は前記基板から垂直方向に離間して配置されてよい。
また、前記垂直方向の離間の距離は前記複数のナノ構造物のサイズ以上であってよい。
また、前記複数のナノ構造物は周期的に配置されていてよい。
また、前記複数のナノ構造物の配置の間隔は前記複数のナノ構造物の各々から輻射される電磁波が互いに干渉して強め合う距離であってよい。
本発明の他の側面によれば、上記の何れかのアレイ型センサーに測定対象の試料を与えた状態で、前記複数のナノ構造物に順次光を照射し、前記複数のナノ構造物からの光信号をスペクトル計測する、アレイ型センサーを用いた測定方法が与えられる。
ここで、前記光はレーザー光であってよい。
本発明の更に他の側面によれば、上記何れかのアレイ型センサーと、前記アレイ型センサーの前記複数のナノ構造物に順次励起光を与えるレーザー光源と、前記レーザー光源からの励起光を前記複数のナノ構造物に順次照射するための位置決めを行う機構と、前記複数のナノ構造物からの光信号を受け取る光学系と、前記光学系からの前記光信号をスペクトル計測して記録する分光計測系とを設けた測定装置が与えられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特性の揃ったホットスポットからのシグナルを個別に観測することができる構造のアレイ型センサーが提供されるので、多様な分子種の同定やその定量的な測定等を容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例における、可視帯域の電磁場増強作用を持つ2つの金属ドットからなる光学ナノアンテナの構成例を示す概略図。
図2】本発明の実施例における、可視帯域の電磁場増強作用を持つ2つの金属ドットからなる光学ナノアンテナの断面図と数値計算により計算された電磁場の分布を示す図。
図3】本発明の実施例における、可視帯域の電磁場増強作用を持つ2つの金属ドットからなる光学ナノアンテナのアレイの走査電子顕微鏡写真。(a)及び(b)電子線を表面法線方向から45°傾斜した方向から入射した場合。(c)電子線を表面法線方向から入射した場合。
図4】(a)本発明の実施例における、可視帯域の電磁場増強作用を持つ2つの金属ドットからなる単一の光学ナノアンテナからの散乱スペクトルを示す図。(b)波長650nmにおける暗視野顕微鏡像。
図5】本発明の実施例における、可視帯域の電磁場増強作用を持つ2つの金属ドットからなる単一の光学ナノアンテナからの消光スペクトルを示す図。図1のx方向の偏向光とy方向の偏向光を入射しそれぞれのスペクトルを計算によって求めた。
図6】(a)本発明のラマン散乱分光の実施例において用いたDTTCI分子の構造式を示す図。(b)本発明の実施例において、DTTCI分子を用いて計測したラマン散乱スペクトルを示す図。(c)図6(b)において灰色の部分のスペクトル範囲(1210cm−1〜1380cm−1)の積分強度を2次元表示したラマン散乱のマッピングイメージ。
図7】(a)本発明のラマン散乱分光の実施例において用いたRhodamine 6G分子の構造式を示す図。(b)本発明の実施例において、Rhodamine 6G分子の振動(1300cm−1〜1370cm−1)のラマン散乱強度(積分強度)を2次元表示したマッピングイメージ。(c)本発明の実施例において、下地結晶シリコンの振動(520cm−1)のラマン散乱強度を2次元表示したマッピングイメージ。
図8】本発明の測定装置の一実施例の構成を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述した課題を達成するために、本発明の位置実施例においては以下の様なデバイスを提供する。まず、同じ形状を持ち電磁場増強特性のそろったSERS活性を持つナノ構造物(以下、光学ナノアンテナと呼ぶ)を多数(数百個程度以上)2次元的に配置する。これらの光学ナノアンテナ同士の間隔は光学顕微鏡の分解能(光の回折限界)よりも十分大きな距離をもたせ(例えば2μm程度)、隣り合ったアンテナからのシグナルが重ならないようにする。そして、共焦点ラマン顕微鏡を用いてレーザービームを走査あるいは試料ステージを走査しながら個々の光学ナノアンテナのホットスポットにおいて個別にSERS測定を行う。これにより、光学ナノアンテナの増強電磁場のホットスポット(ホットサイト)に分子が入った際の分子振動のシグナルが増強ラマンシグナルとして分光器に記録される。また、ホットスポットに分子がない場合にはそこからのシグナルは計測されない。このような個々の光学ナノアンテナに対するラマン計測をアレイ内のすべてのアンテナに対して行い、それぞれのアンテナのラマンスペクトルの計測を通して、ホットスポットに滞在した分子種を同定する。本発明では光学ナノアンテナを化学修飾せずに用い、計測する分子が溶液中をランダムに拡散し、高々一個程度の分子が光学ナノアンテナのホットスポットに偶然入ることを利用する。また、ホットスポットに留まる分子は化学吸着により固定化されるのではなく、通過する、あるいは弱く吸着した状態にある。このようにして各光学ナノアンテナにて検知された分子種の情報を個々の光学ナノアンテナから集めて集計し、検出した分子種のヒストグラムを得ることができる。従って溶液中に存在する分子の種類を同定できるだけでなく、その存在比率を得ることもできる。例えば、一個のアンテナの計測時間が数秒のオーダーである場合、全てのアンテナの計測は数十分程度のオーダーで完了できる。
【0012】
本発明で用いる光学ナノアンテナアレイはガラスやシリコン基板などの誘電体基板上に形成され、規則的に配列させたナノスケールの金属構造物からなる。用いるレーザー光源の周波数と構造物のアンテナ共鳴の周波数とが一致する様にその形状や大きさが設計されている。アレイの中の各構造物のサイズ及び形状は互いに実質的に同一であり、同じ共鳴周波数を持つように精密に製作されている。このように、形状及びサイズを複数の光学ナノアンテナ間で一致させることにより、単に測定対象の分子や粒子が光学ナノアンテナのホットスポットに存在する場合に得られるシグナルが光学ナノアンテナ間で同じになるだけではなく、これらの分子や粒子がホットスポットに存在する確率も光学ナノアンテナ間で同一となる。従って、分子や粒子の定量的な測定を容易に行うことが可能となる。
【0013】
図1の例では、シリコンウエハの下地SiOのポストが2本形成され、その上にウエハ垂直方向から見て三角形をした厚さ20nmのAuのナノドットが厚さ5nmのCrの接着層を介して形成されている。Auナノ構造をシリコンから離すことでシリコンからの誘電遮蔽の効果を弱めることができ、Auナノドット近傍の電場増強効果を高めることができる。つまり、誘電率の高いシリコンがAuの直下にある場合、Au近傍の電場の大半が下地のシリコンの中に吸い込まれるため(非特許文献3、4)、センシングに有効な上側の部分の電場の強度が弱まってしまう。Au構造物をシリコンから浮かすことで、この様なシリコンからの遮蔽効果を弱める事ができる。なお、Au構造物をシリコンから浮かせる距離(離間距離)は、この三角形のAuナノドット(Au構造物)がシリコン表面に対して平行な方向に広がっているサイズ程度(図1の例の場合は、好ましい離間距離は三角形の辺の長さである100nm程度以上)であれば、当該遮蔽効果の悪影響を十分に低減することができる。一方で、Au構造物を浮かせることで、構造物から輻射される電磁場の及ぶ範囲が拡大し、構造物からの電磁場の干渉効果が生じる。この干渉効果が強めあう間隔でAuナノ構造を周期的に配列することにより、各光学ナノアンテナ近傍の電磁場増強効果を高めることが可能である(非特許文献4、5)。
【0014】
図2は、図1のAuナノ構造の電場分布をFDTD法(Finite-difference time-domain method; FDTD method)を用いてシミュレーションした結果を示したものである。640nmの平面波をAuドットの上側から照射した場合の電場分布を、下地基板に対して垂直方向の断面をとって示したものである。Auドット対の中心部分であるナノギャップの部分に入射電場の90倍の振幅を持つ電場が発生していることが分かる。この増強された電場の中に観測対象である有機分子等が入ることにより、ラマン散乱のシグナルやフォトルミネッセンスのシグナルの増強効果が期待できる。
【0015】
なお、図1の例では光学ナノアンテナの形状はほぼ正三角形としたが、好ましい形状はこの正三角形に限定されるものではなく、多様な変形が可能である。具体的にはナノ構造物の尖った箇所同士が近接して対抗している形状が好ましい。逆に一対の三角形の辺同士が近接して向かい合っている構成では電磁場増強効果が弱い。
【0016】
また、ナノ構造物のサイズ、形状、配置、またナノ構造物同士の間隔について、これらが実質的に同一であるとみなせる範囲は、共鳴周波数などによっても影響を受けるが、寸法精度が±5nm以内であればよい。より好ましくはこれらの寸法精度は±3nm以内である。
【0017】
短時間で溶液中の複数種類の分子の検出ができれば、例えば血液の成分の分析や尿検査などに応用し、進行の早い疾病に対する早期の医療診断などへの応用が可能である。リンカ分子の親和性を用いた多くの検査チップの様に特定の分子の検出ではなく、振動スペクトルで識別可能な物質であれば原則的に検出が可能であり、光計測のみによる単純な検査チップが実現する。また、リンカ分子とターゲット分子の吸着が必要ないため、再利用可能な検査チップとしての利用も見込める。応用分野としては湖沼などの環境水中の汚染物質、化学反応時における溶液中の生成物、食品の成分のモニターなどへの応用も可能であり、溶液中の分子の計測が必要な広い分野での応用が可能である。
【実施例】
【0018】
図3は製作された三角形Auナノドット対(Bowtie antennaとも呼ぶ)のアレイの走査電子顕微鏡写真である。Auドット対のサイズ形状は寸法精度で±5%の誤差範囲でほぼ同じであり、ナノギャップの幅は15nm±3nmであるように、リソグラフィーを用いて作成した。このため、各ドット対の中心部における電場増強度も各Auドット対間でほぼ同程度と考えて良い。この結果は、ほぼ等しい電磁場のホットスポットが規則的に配列できていることを意味する。このような電磁場ホットスポットに分子が入るとホットスポットに存在しない場合に比べてラマン散乱シグナルが増大することが期待できる。また、微粒子のフォトルミネッセンスや蛍光のシグナル増大も期待できる。このように各ホットスポットで増強されたシグナルを計測することで、溶液中に存在している分子や微粒子の種類を知ることができる。また、計測した結果を集計することで存在する分子や粒子のヒストグラムを作成することが可能であり、溶液中の成分分子や粒子の分布に関する情報を得ることができる。このような情報は湖沼などの環境水の汚染、血液成分の分析などに応用することで医療診断に利用できると考えられる。
【0019】
なお、図3の(a)及び(b)ではAuナノドットが三角形ではなく、キノコに類似した形状であるかのように見える(特に図3(b))。これは、これらの写真では電子線を斜め方向から照射しているためである。
【0020】
図4(a)は白色光を照射した際のホットスポットからの散乱光のスペクトルである。暗視野顕微鏡を用い、白色光を図3のAuドット対の一つに焦点を合わせて照射し、単一Auドット対からの散乱光をレンズと光ファイバーを通して分光器に導入し、スペクトルを得たものである。参照スペクトルはAuドット対構造の無い平坦なSi下地を計測して得、その後Auドット対を計測して得たスペクトルを参照スペクトルで割る(つまり、相対スペクトルを計算する)ことで、下地と光源からの情報を除外しAuドット対のみに起因する散乱スペクトルを抽出した。Auドット対のプラズモン共鳴周波数と考えられる640nm近辺にピークを持つ散乱スペクトルが得られた。図4(b)に各点におけるスペクトルの640nm近傍の部分(灰色部分)の積分強度を二次元的に描かせたマッピング測定の結果を示す。640nmの散乱光に対応する強度は周期的に配列しており、ホットスポットの位置で強度が最大になっていることが分かる。図5は厳密結合波解析法(Rigorous Coupled Wave Analysis method)を用いて電磁場計算したAuドット対の消光スペクトルであり、Auドット対の長手方向と短手方向のそれぞれの方向に電場成分を持つ光を照射した際のスペクトルを示している。実験では無偏向の入射光を用いており、得られたスペクトルは計算された両方のスペクトルを合わせたものに近い。計測されたスペクトルは単一Auドット対からのスペクトルを良く再現している。
【0021】
このホットスポットからのラマン散乱スペクトルを計測するために、図6(a)の構造式で示される3,3′-Diethylthiatricarbocyanine iodide(DTTCI)分子を300nM溶液となる様にエタノールに溶解し、アレイ上に塗布した後、乾燥後にスペクトル計測を行った。ホットスポットにおける典型的なラマン散乱スペクトルを図6(b)に示す。DTTCI分子のラマンスペクトルが明瞭に観測されている。また、このラマンスペクトルの灰色の部分に対応する積分強度をマッピングしたものを図6(c)に示す。各ホットスポットに対応する位置にラマンシグナルが明瞭に得られている。ラマンシグナルが無いホットスポットも観測されており、分子がこの部分には吸着していないと考えられる。
【0022】
また、検出対象をRhodamine 6G分子(構造式は図7(a))として行った同様な計測結果を図7に示す。DTTCI分子と同様にしてRhodamine 6G分子の溶液をアレイ上に塗布し乾燥させた後、スペクトル計測を行った。図7(b)は、その結果得られたところの、ホットスポットにおけるRhodamine 6G分子の振動(1300cm−1〜1370cm−1)のラマン散乱強度(積分強度)を2次元表示したマッピングイメージである。また、図7(c)には下地結晶シリコンの振動(520cm−1)のラマン散乱強度を2次元表示したマッピングイメージを示す。検出対象の分子がホットスポット上で選択的に検出できることが示されている。
【0023】
図6図7に例示したような計測は、例えば図8に構成の概念図を示す測定装置を使用して、レーザー光源からのレーザービームを走査しながら、あるいはアレイセンサーを置いた試料ステージを走査しながら各ホットスポットに集光させたビームを照射し、そこからのラマン散乱光などの光信号を対物レンズ、フィルタ、分光器を介して検出器に導くことで、各ホットスポットにおいてスペクトル計測を行うことで実現できる。このようにして微量のターゲット分子の検出、あるいは複数分子種の同定と存在比率・ヒストグラムを得ることができると考えられる。また、分子を発光ナノ粒子などに置き換えることで、フォトルミネッセンスのスペクトルを計測し、これを粒子の種類の同定に用いることもできる。さらに進めて、(光学ナノアンテナではなく)発光粒子表面を検出したい分子を捕捉するアプタマーで修飾することなどで、ターゲット分子を捕捉した粒子の検出を通してターゲット分子を間接的に検出する方法も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明では電磁場を増強するナノ構造をアレイ化することで、目的とする分子や粒子を個々のホットスポットで増強して検出することができる。よく規定されたホットスポットを周期的に配置しアレイ化し、溶液中で偶発的にホットスポットに入った際に生じる増強シグナルを識別することが可能となる。アプタマーやリンカ分子を用いて計測対象となる分子やナノ粒子を化学的に補足したうえで計測する方法ではなく、計測の対象物のサイズがナノギャップに入るサイズであれさえすれば良く、適用できる応用範囲は広い。低濃度の場合にターゲット分子や発光ナノ粒子一個一個を個々のホットスポットにおいて検出すれば、ターゲット分子の液体中の存在比率やヒストグラムを得ることも可能となる。この計測法を湖沼などの環境水や産業用水の排水のモニタリングなどに適用することで環境汚染や水質管理などに貢献することができる。また、血液の成分の分析を迅速に行うことで医療診断などへの応用が可能になるなど、関連する産業や社会への貢献は大きいものがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】K. Kneipp, H. Kneipp, I. Itzkan, R. R. Dasari, and M. S. Feld. Chem. Rev., 99, 2957-2975(1999).
【非特許文献2】M. Osawa, Bull. Chem. Soc. Jpn. 70, 2681-2880(1997).
【非特許文献3】J.-S. Wi, M. Rana, and T. Nagao, Nanoscale 4, 2847-2850(2012).
【非特許文献4】D. Weber, P. Albella, P. Alonso-Gonzalez, F. Neubrech,H. Gui, T. Nagao, R. Hillenbrand, J.Aizpurua, and A. Pucci, Optic Express 19, 15047-15061(2011).
【非特許文献5】C.V. Hoang, et al., JSAP-OSA Joint Symposia, Sept 11, 2012, 愛媛大学.
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8