【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために手段1では、複数の評価主体それぞれが評価対象に関するある評価項目を数値化して評価した場合に、前記評価主体の数を増加させるに伴ってそれら評価結果の数値の平均値が収斂するであろう仮想的な真値を、評価主体の数を多数にすることなく推定するための真値推定方法であって、前記評価項目を評価した前記評価主体の評価能力の大小を反映する数値を各評価主体毎に算出し、それらの数値に基づいて算出した各評価主体毎の重みを考慮して真値を推定するようにしたことをその要旨とする。
また、手段2では、複数の前記評価主体のうちのすべての2つの組み合わせの前記評価主体のそれぞれの評価項目に対する評価結果に基づいて相関係数を求め、得られた前記相関係数に基づいて各評価主体に対する評価能力の大小を反映する数値を各評価主体毎に算出し、それらの数値に基づいて各評価主体毎の前記重みを算出するようにしたことをその要旨とする。
また、手段3では、kを「1」から「評価項目の数」まで変わるインデックスとし、nを評価項目の数とし、評価項目の真値のデータ列W
kを平均0となるように規準化したものとして想定し、2つの前記評価主体のそれぞれの評価項目に対する評価結果のデータ列を平均0となるように規準化してx
k、y
kとおいた場合に、x
k、y
kを下記数1の式によって近似的に示し、x
k、y
kの前記相関係数rを下記数2の式によって近似的に示したことをその要旨とする。
【0006】
【数1】
【0007】
【数2】
【0008】
また、
手段4では、iを「1」から「評価主体の数」まで変わるインデックスとし、r
iを第i番目のモニターによる評価項目に対する評価値と真値のデータ列W
kとの前記相関係数として、前記相関係数群r
iに基づいてデータ列W
kの各値を推定するようにしたことをその要旨とする。
また、
手段5では、iを「1」から「評価主体の数」まで変わるインデックスとし、r
iを第i番目のモニターによる評価値と真値のデータ列W
kとの前記相関係数とした場合に、前記重みをr
i/(1−r
i)とすることをその要旨とする。
【0009】
また、
手段6では、前記評価主体の評価能力とは前記評価主体が評価を正確に行う能力であることをその要旨とする。
また、
手段7では、前記評価主体の評価能力は複数の想定した評価因子の1つであることをその要旨とする。
また、
手段8では、評価値を複数の評価因子による寄与量と独自因子の和によって近似的に表すと想定し、前記評価主体の評価能力以外の評価因子の寄与量を評価値から減じた結果に基づいて真値を推定するようにしたことをその要旨とする。
また、
手段9では、多変量解析によって前記評価因子の寄与量を算出するようにしたことをその要旨とする
また、
手段10では、評価主体は人間であることをその要旨とする。
また、
手段11では、評価対象は眼鏡用レンズであることをその要旨とする。
【0010】
上記のような構成では、真値を推定するために評価主体の評価能力の大小を反映する数値を各評価主体毎に算出し、それらの数値に基づいて算出した各評価主体毎の重みを考慮するようにしているため、数多くの評価主体がなくとも、また評価主体の評価能力にバラツキがあっても評価主体の数を増加させた場合に収斂するであろう仮想的な真値に近い値を推定することが可能となる。
ここにいう「真値」とは評価結果の数値の平均値が評価主体の数を増加させるに伴って収斂すると仮定した値である。実際は計算で求まるものではなく、評価主体の数が極めて多い場合の平均値である。本発明ではこのような仮想的な真値を評価主体の数が多くなくとも真値に近い推定が可能としたものである。
また、「評価主体」は3つ以上であることが必要であるが、必ずしも多数であることは必要ではない。ここで評価主体が2つしかないと、相関係数を1つ得られるだけなので、その値をもとに2つの値(各評価主体と真値データ列との相関係数)を求めることができないからである。評価主体が3つあれば、評価主体間の相関係数を3つ得られるので、3つの既知の値から3つの値(各評価主体と真値データ列との相関係数)を求めることができ、評価主体が4つ以上であれば、評価主体間の相関係数の数は評価主体の数を上回るので、最小二乗法により最適解を決定することができる。
もちろん、評価主体が多ければ計算の量は増えるがより真値に近い推定が可能となる。評価主体としては人と考えるのが一般的であるが、人以外に測定装置やコンピュータのような判断可能な機械や、判断のための手法なども評価主体となりうる。
また、「評価主体の評価能力の大小を反映する」とは評価能力が大きい場合に重みを多くし、逆に評価能力が小さい場合に重みを小さくするというものである。
また、それぞれの評価対象には1つ以上の個別評価項目があり、評価対象と個別評価項目の積が「評価項目」である。評価項目は2つ以上なければならない。つまり評価対象と個別評価項目のどちらかは2つ以上なければならない。また、相関係数を求めるためには評価項目は3つ以上でなければならない。評価項目が3つ以上でないといけない理由は評価項目が2つの場合は相関係数の値が常に−1か1になるので、相関係数を求める意味がなくなるからである。
【0011】
ここで、ある評価項目についての真値を推定することを考える。
ある評価項目についての尤度関数を次の数3の式で示す。この式に基づいて真値θを推定するものとする。
【0012】
【数3】
【0013】
尤度とは、第i番目のモニターによる評価点がx
iとなる場合の確率密度関数の値をモニター全員について掛け合わせた値である。ここで第i番目のモニターによるモニターによる評価点は、平均θ、標準偏差σ
iの正規分布に従うと仮定した。
【0014】
【数4】
【0015】
真値θの最尤推定値は、尤度関数の値を(従って対数尤度関数の値を)最大にするθである。そこで、上
記数4の式をθで微分して=0とおくと下記数5となり、更に数6のように変形できる。結局、真値θの最尤推定値は下記の数7となる。この式から真値θはx
iの重みを1/σ
i2とした加重平均となっていることがわかる。従って、各評価主体の固有の分散σ
i2を推定し、それに基づいた加重平均を真値の推定値とすればよいことがわかる。
【0016】
【数5】
【0017】
【数6】
【0018】
【数7】
【0019】
さて、重みを算出するためには、まず、評価能力の大小を反映する数値を算出する必要がある。しかし、評価能力の大小は通常数量データとは考えられていないため、なんらかの方法で数量データ化する必要がある。具体的には相関係数を求めることが考えられる。
すなわち、仮想的な真値のデータ列を想定し、各モニターによる評価値と真値のデータ列との相関係数を求め、それらの相関係数の値が各評価主体に対する評価能力の大小を反映すると考えるのである。そのために、複数の評価主体のうちのすべての2つの組み合わせの評価主体のそれぞれの評価項目に対する評価結果に基づいて、評価主体間の相関係数を求めることがよい。ここで評価主体相互間の相関係数は、評価主体のうちのすべての2つの組み合わせの数だけ求めることとなる。その数は(評価主体の数)・(評価主体の数−1)/2である。
相関係数の一般式は、数8で示される。
ここに、2つの前記評価主体のそれぞれの評価項目に対する評価結果のデータ列を平均0となるように規準化してx
k、y
kとおいた場合に、x
k、y
kは上記数1の式によって近似的に示される。このx
k、y
kを数8に代入し数9とし、これを数10のように展開する。ここでは評価主体はモニター、つまり「人」とするが、もちろん「人」以外でもよい。
【0020】
【数8】
【0021】
【数9】
【0022】
【数10】
【0023】
ここで、α
k、β
k、W
kの分布はすべて独立であると仮定する。すると、これらのうち2つを乗じた和、すなわち、α
kβ
k、W
kα
k、W
kβ
k それぞれについてk=1からnまで加え合わせた和の期待値は0である。
そこで、rをテイラー展開によって近似すると数11の式となる。ここで簡略化のために、γ=n/(2ΣW
k2)とおくと、x
k、y
kの相関係数は数12の式で示されることとなる。
【0024】
【数11】
【0025】
【数12】
【0026】
ここでσ
x=0とすると、数列x
kが真値の組W
kと等しくなる。すると数列y
kと真値の組W
kとの相関係数は1/(1+γσ
y2)であることがわかる。
さて、ここでr
iを第i番目のモニターの評価値と真値の組W
kとの相関係数とする。また、i=1〜nの各評価値の組の分散をσ
i2とし、1/(1+γσ
i2)=r
iと表すことができる。これを変形すると1/σ
i2=γr
i/(1−r
i)となる。
ここで、上記のように1/σ
i2は真値θを加重平均として表す際の係数なのだから、それと比例関係にあるr
i/(1−r
i)を重みとした加重平均を真値θの推定値とすればよいことがわかる。
また、2つのデータ列が上記数12の式のように表されることから、第i番目と第j番目のモニターによる評価値の相関係数は、r
ij≒r
i・r
jと表されることがわかる。
【0027】
上記のような計算によって重みをr
i/(1−r
i)と設定したが、具体的にi番目のモニターと真値との相関係数を算出する必要がある。ここでは行列式を用いて変数を定義し、r
iを最適化する計算で算出する手法を開示する。便宜的にこの手法を1因子法と呼ぶ。尚、この手法は一例であって、他の手法によってr
iを求めるようにしてもよい。
まず、変数を定義する。
m:モニターの人数(実施例では10人)
r
i:第i番目のモニターによる評価結果と、真値との相関係数
これは仮想的な値であり、最適化計算によって推定する。
r
ij:第i番目のモニターによる評価結果と、第j番目のモニターによる評価結果との相関係数、この値は、各モニターによる評価値より算出する。
【0028】
【数13】
【0029】
数13の行列と相関行列Rとの差の二乗和を最小にする条件に基づいて、r
iを最適化することにより、各モニターの評価値と真値の組との相関係数を推定する。相関行列Rは数13の行列式においてr
ijをr
i・r
jに置き換えた行列で示される。
さて、ここで、r
iの組を最適化計算によって求めるわけであるが、上記行列においては対角要素は同じ配列同士の相関係数なので1になる。また、r
i・r
j=r
j・r
iなので、実質的には以下の数14で示すように要素として重要な部分のみで2つの行列の各要素の差の二乗和を表す関数Q(r
1、r
2…r
i…r
m)を想定し、この関数Qの値を最小にするr
iの組を最適化計算によって求める。関数Qは数15の通りである。つまり、既知のr
ijの値の組をもとに、r
1〜r
mの数値を推定する計算を行うわけである。例えば以下の実施例1及び2ではiは10まで変化する。二重のΣによる項の数は、m・(m−1)/2であって、m=10のときは45となる。実施例ではr
ijは45個の数値であり、その値はモニターが評価した結果の数値より相関係数として算出できる。最適化計算の方法として、既知の例えばニュートン法や共役勾配法などを使用することができる。また、これらの計算は一般にはコンピュータによって計算することとなる。
【0030】
【数14】
【0031】
【数15】
【0032】
上記評価主体の評価能力は1つの重要な因子と考えることができるが、評価因子は複数想定することが可能である。ここに「評価主体の評価能力」とはより具体的には例えば評価主体が評価を正確に行う能力である。更に、「評価を正確に行う能力」とはより真値に近い評価を行う性質の強弱と言い換えることができる。
【0033】
因子分析を応用して「正確に行う能力以外の特性」を反映する因子負荷量(寄与量)を求め、その影響を排除することとする。ここでも評価主体はモニター、つまり「人」とするが、もちろん「人」以外でもよい。
(1)変数の設定
まず、評価項目をn個、モニター1とモニター2による評価点を、それぞれ数列x
1={x
11、x
21…x
i1…x
n1}、x
2={x
12、x
22…x
i2…x
n2}で表す。例えば以下の実施例1及び2ではn=20で、モニターは10人であるが、ここでは簡単のためにモニターを2人として説明する。実施例1及び2における評価結果は1〜10の数であるが、これを平均0、分散1に規準化し、その結果を数列Z
1={Z
11、Z
21…Z
i1…Z
n1}、Z
2={Z
12、Z
22…Z
i2…Z
n2}で表す。すなわち基準値Z
ijを以下表1の数値を式に適用して求める。
【0034】
【表1】
【0035】
因子分析では各評価項目の基準値Z
i1、Z
i2(i=1〜n)が、共通因子と因子負荷量と独自因子とによって表されると仮定する(数16の式)。因子負荷量a
11とa
12は、モニター1の2つの因子の強さを表す。因子のうち一つ(たとえば第1因子であるa
11)をモニター1の正確さを反映すると仮定する。すなわち、この値が大きければ、モニター1の評価結果にはバラツキが少ないと考える。もう一つの因子(a
12)を正確さ以外の特性を反映すると仮定する。また、独自因子とは、個々の評価結果のうち共通因子で説明できない要素である。
ここで、a
21はモニター2の正確さを反映しa
22は、モニター2の「正確さ以外の何らかの特性」を反映すると仮定する。下記実施例2では「遠用を高得点に評価する傾向」がこの「正確さ以外の特性」に相当する。「遠用を高得点に評価する傾向」は「正確さ以外の特性」を反映する因子の典型的な例である。
【0036】
【数16】
【0037】
ここでf
i1、f
i2のそれぞれは平均0、分散1とする。
すなわち、Σf
i1/n=Σf
i2/n=0、Σf
i12/n=Σf
i22/n=1が成り立つ。
また、f
i1とf
i2を互いに無相関な直交因子として仮定するので、積和の期待値が0である。すなわち、Σf
i1f
i2/n=0が成り立つ。更にf
i1とe
i1、f
i1とe
i2、f
i2とe
i1、f
i2とe
i2、e
i1とe
i2もすべて無相関と仮定するので、それぞれの積和の期待値は0である。
【0038】
(2)因子分析
Zi1の分散が1であることから、以下の数17の式の関係を導くことができる。
【0039】
【数17】
【0040】
f
i1、f
i2の分散が1であること、Σf
i1f
i2/n=0であること、f
i1、f
i2、e
i1が無相関であることから、d
12=Σe
i12/nとおくと式(1)が成り立つ。
【0041】
【数18】
【0042】
同様にZi2の分散が1であることから、式(2)が成り立つ。
【0043】
【数19】
【0044】
Z
i1とZ
i2の相関係数をr
12(=r
21)とすると、式(3)が成り立つ。
【0045】
【数20】
【0046】
以上の(1)(2)(3)より、相関行列Rを次式で近似的に表わすことができる。
【0047】
【数21】
【0048】
ここで、相関行列Rを表す2つの行列式の各要素の差の二乗和を表す関数Q(a
11、a
21、a
12、a
22)を想定し、この関数の値を最小にする条件にもとづいて、因子付加量の値を最適化手法により求める。
因子分析では、a
112+a
122など、共通因子で説明できる部分を共通性、d
12、d
22を独自性と呼ぶ。独自性は独自因子の分散である。共通性と独自性の和を全変動と呼ぶ。因子分析では観測変数を平均0、分散1に規準化しているため、観測変数の全変動は1である。各項は実数の二乗なので、共通性と独自性の値は0〜1の範囲に制限される。このことから、因子負荷量を最適化するにあたっては、独自因子の範囲を0〜1に制限する拘束条件を設ける。
こうして因子負荷量の値を求めるが、その値は一意に定まるものではない。ある因子負荷量の組a
11、a
21、a
12、a
22が関数Qを最小にする場合、次式(数22)で表される角度θの回転変換によって得られるb
11、b
21、b
12、b
22の値の組も関数Qを最小にするからである。
【0049】
【数22】
【0050】
そのため因子分析では、最適化によって求めた因子負荷量を適当に回転させて解釈する。回転の方法として例えばバリマックス法をはじめいくつかの方法が提案されている。
回転した因子負荷量を再びa
11、a
21、a
12、a
22で表す。次にi=1〜nについて、Z
i1からa
12f
i2を減じ、Z
i2からa
22f
i2を減じて、その結果をそれぞれZ
i1、Z
i2に置き換える。
こうして第2因子の影響を取り除いた新しい数列Z
1={Z
11、Z
21…Z
i1…Z
n1}、Z
2={Z
12、Z
22…Z
i2…Z
n1}を作り、それに対して1因子法を適用して真値の推定値を得る。1因子法を用いることなく、ここでf
i1の値を真値の目安とすることもできる。ただし、それでは推定の精度がやや劣ると考えられる。何故ならば、「正確さ以外の特性」の因子負荷量が大きいモニターにおいては、「正確さ」の因子負荷量が相対的に小さくなる。すると、本来はそのモニターの「正確さ」が強い場合であっても加重平均の重みが小さくなり、そのモニターの評価結果からもたらされる情報を有効に活用できないからである。
因子数を2のままとして、評価結果の数列(モニターの人数)を3とした場合の相関行列を数23として示す。また、因子数を3個想定し、評価結果の数列を3とした場合の相関行列を数24として示す。
【0051】
【数23】
【0052】
【数24】
【0053】
因子数またはモニター人数が3より多い場合の計算方法も同様なので、一般的な式として示すことができる。分析にあたって想定する因子の数は3より多くてもよく、その数は分析を行なう者が判断することになっている。例えば、評価対象として実施例1や2のようにレンズを例に取ると「レンズABCDEを高得点に、レンズFGHIJを低得点に評価する傾向」が、モニターによって大小の違いがあるかもしれない。実施例2の問題設定に、更にその要素を加えれば、その分析を3因子で行うほうが適当となることもある。
このような因子分析の考えを利用すれば、本来必要な評価主体の評価能力以外の因子の影響を除去して評価主体の評価能力という評価因子だけにすることでより真値に近い値を推定することが可能となる。この計算も一般にはコンピュータによって計算することとなる。