特許第6373565号(P6373565)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373565
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】外装用建材
(51)【国際特許分類】
   E04F 13/14 20060101AFI20180806BHJP
   E04F 13/18 20060101ALI20180806BHJP
   B32B 3/28 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   E04F13/14 103C
   E04F13/18 C
   B32B3/28 C
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-203646(P2013-203646)
(22)【出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-68059(P2015-68059A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】森 啓明
(72)【発明者】
【氏名】矢野 宏和
(72)【発明者】
【氏名】和泉 圭二
【審査官】 油原 博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−145652(JP,A)
【文献】 特開2011−089298(JP,A)
【文献】 特開2009−203771(JP,A)
【文献】 特表2008−540879(JP,A)
【文献】 特開2003−089725(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0281801(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/07−13/30
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の並列する溝を表面に有する窯業系外装用建材または樹脂製外装用建材であって、
前記外装用建材は、前記外装用建材の表面を流れる雨水が前記溝を横断するように前記溝が鉛直方向に対して交差する向きで設置されるための構成をさらに有し、
前記溝は、並列する二本の稜線と、前記稜線の間に位置する谷底と、前記谷底から一方の前記稜線に繋がる第一傾斜面と、前記谷底から他方の稜線に繋がる第二傾斜面と、を有し、
前記溝の深さは、0.15mm以上であり、
前記溝のピッチは、1.0〜3.0mmであり、
隣り合う二本の前記溝のうちの一方の溝の前記第一傾斜面と他方の溝の前記第二傾斜面との間に前記稜線を含む凸曲面をさらに有し、
前記凸曲面の曲率半径が0.5〜1.5mmである、外装用建材。
【請求項2】
表面に塗膜をさらに有する、請求項1に記載の外装用建材。
【請求項3】
前記第一傾斜面または前記第二傾斜面の傾斜角が10〜60°である、請求項1または2に記載の外装用建材。
【請求項4】
前記溝が鉛直方向に対して交差する向きは、前記溝の稜線または谷底の水平方向に対する傾きが45°以下となる向きである、請求項1〜のいずれか一項に記載の外装用建材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外装用建材に関する。
【背景技術】
【0002】
外装用建材の表面には、通常、意匠性を高めるために、凹凸や彩色、模様などの装飾が施されている。一方、外装用建材には、その表面を流下する雨水の通り道に汚れが筋状に付着する場合がある(以下、この汚れを「雨筋汚れ」とも言う)。雨筋汚れは、一般に、建物の美観を損なう。
【0003】
雨筋汚れ対策には、外装用建材の表面に親水性の塗膜を形成することが知られている。この対策によれば、外装用建材の表面に付着した汚れは、外装用建材の表面を流下する雨水と一緒に流されるので、雨筋汚れの発生が抑制される。上記親水性塗膜用の塗料には、メチルシリケートなどの親水化剤を添加した塗料が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−214676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記親水性塗膜用の塗料は、長期間保存すると、塗料の粘度が経時的に上昇し、ゲル化することがある。このため、上記塗料を再使用すると、塗料の所期の性状が損なわれていることがある。よって、一度塗膜の形成に用いて余った塗料は、通常、再使用されずに廃棄される。したがって、親水性塗膜用の塗料の使用は、外装用建材のコストを削減する観点からは不利である。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、上記親水性塗膜を有さずとも雨筋汚れが目立たない外装用建材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定のピッチおよび深さの溝を表面に有する外装用建材が、雨筋汚れを目立たなくする効果を奏することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の外装用建材に関する。
[1] 複数の並列する溝を表面に有する窯業系外装用建材または樹脂製外装用建材であって、前記溝は、並列する二本の稜線と、前記稜線の間に位置する谷底と、前記谷底から一方の前記稜線に繋がる第一傾斜面と、前記谷底から他方の稜線に繋がる第二傾斜面と、を有し、前記溝の深さは、0.15mm以上であり、前記溝のピッチは、1.0〜3.0mmである、外装用建材。
[2] 表面に塗膜をさらに有する、[1]に記載の外装用建材。
[3] 前記第一傾斜面または前記第二傾斜面の傾斜角が10〜60°である、[1]または[2]に記載の外装用建材。
[4] 隣り合う二本の前記溝のうちの一方の溝の前記第一傾斜面と他方の溝の前記第二傾斜面との間に前記稜線を含む凸曲面をさらに有し、前記凸曲面の曲率半径が0.5〜1.5mmである、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の外装用建材。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る外装用建材は、その表面に親水性塗膜を有さなくとも、雨筋汚れを目立たなくすることができる。よって、本発明によれば、より安価な外装用建材によって、雨筋汚れによる建物の美観の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1Aは、本発明の一実施形態の外装用建材の一部分の平面図であり、図1Bは、本実施形態の外装用建材の一部分の断面図であり、図1Cは、本実施形態の外装用建材の一部分の断面をさらに拡大して示す図である。
図2】本発明に係る窯業系外装用建材の製造工程を概略的に示す図である。
図3図3Aは、平らな表面を有する外装用建材に形成される雨筋汚れを模式的に示す図であり、図3Bは、本発明に係る外装用建材に形成される雨筋汚れを模式的に示す図であり、図3Cは、図3B中の矢印X方向から見た外装用建材を模式的に示す図である。
図4図4Aは、外装用建材の溝の傾きBを説明する図であり、図4Bは、外装用建材の表面の斜度Cを説明する図である。
図5】雨筋汚れの評価試験時における外装用建材の様子を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る外装用建材を図1に概略的に示す。本実施形態の外装用建材10は、樹脂製外装用建材または窯業系外装用建材であり、図1Aに示されるように、複数の並列する溝11を表面に有する。溝11は、互いに平行に配置されている。溝11は、二本の並列する稜線12と、その間に位置する谷底13と、谷底13から一方の稜線12を繋ぐ第一傾斜面14と、溝の谷底13から他方の稜線12を繋ぐ第二傾斜面15とを有する。外装用建材を平面視したときの稜線12および谷底13は互いに平行である。図1Bに示されるように、稜線12は、溝11の横断面(溝を垂直に横切る断面)形状における最高点であり、谷底13は、溝11の横断面形状における最下点である。
【0012】
なお、溝11は、互いに平行でなくてもよい。また、稜線12および谷底13は、後述する溝の深さDおよびピッチPの条件を満たす範囲において、いずれも、直線であっても曲線であってもよい。さらに、第一傾斜面14および第二傾斜面15は、いずれも、溝11の横断面における直線であってもよいし、曲線であってもよい。
【0013】
溝の深さDは、0.15mm以上である。溝の深さDは、全ての溝で同じであってもよいし、異なっていてもよい。溝の深さDとは、溝11の深さ方向における稜線12から谷底13までの距離である。溝の深さDが0.15mm未満であると、雨筋汚れを目立たせなくする効果が不十分となることがある。溝の深さDの上限値は、特に限定されないが、下記の溝のピッチPを実現する観点から、例えば5mmである。溝の深さDは、0.2mm以上であることが、雨筋汚れを目立たせなくする効果をより高める観点から好ましい。溝の深さDの上限値は、本発明の効果が得られる上記溝が形成される範囲であれば特に限定されない。
【0014】
溝のピッチPは、1.0〜3.0mmである。溝のピッチPは、外装用建材を平面視したときの隣り合う二本の溝の谷底13間の距離である。溝のピッチPは、全ての溝で同じであってもよいし、異なる二種以上を含んでいてもよい。溝のピッチPが1.0mm未満であると、上記の溝の深さを実現することが困難であり、溝のピッチPが3.0mmを超えると、雨筋汚れを目立たせなくする効果が不十分となることがある。溝のピッチPが1.0〜1.6mmであることが、雨筋汚れを目立たせなくする効果をより高める観点から好ましい。
【0015】
第一傾斜面14または第二傾斜面15の傾斜角Aは、10〜60°であることが好ましい。傾斜角Aは、溝11の横断面における稜線12または谷底13の接線に対して第一傾斜面14または第二傾斜面15がなす角度である。第一傾斜面14または第二傾斜面15が凸曲面や凹凸面などの曲面である場合は、傾斜角Aは、溝11の横断面において、稜線12または谷底13の接線に対して第一傾斜面14または第二傾斜面15の接線がなす角度である(図1B参照)。第一傾斜面14の傾斜角Aは、第二傾斜面15の傾斜角Aと同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、第一傾斜面14の傾斜角Aは全て同じであってもよいし、異なっていてもよく、第二傾斜面15の傾斜角Aは全て同じであってもよいし、異なっていてもよい。傾斜角Aが10°未満であると、雨筋汚れを目立たせなくする効果が不十分となることがある。傾斜角Aが60°を超えると、溝の形成が困難になることがある。傾斜角Aは、雨筋汚れを目立たせなくする効果をより高める観点から、30°以上であることがより好ましい。なお、第一傾斜面14および第二傾斜面15は、それぞれ独立して平面であってもよいし、曲面であってもよい。
【0016】
また、隣り合う二本の溝11のうちの一方の溝11の第一傾斜面14と他方の溝11の第二傾斜面15との間に形成された凸曲面に稜線12が含まれることが、溝を横断して流下する雨水に対して適度な堰き止め作用を呈する観点から好ましい。このような観点から、溝の横断面における溝の稜線付近の上記凸曲面の曲率半径R(図1Bおよび図1C参照)は、0.5〜1.5mmであることがより好ましく、雨筋汚れを目立たせなくする効果をより高める観点から、0.7〜1.5mmであることがさらに好ましい。上記曲率半径Rは、全ての上記凸曲面で同じであってもよいし、異なっていてもよい。さらに、溝の横断面における溝の谷底付近の凹部の曲率半径Rも、本発明の効果が得られる範囲において、独立して設定されうる。
【0017】
外装用建材10は、樹脂製外装用建材または窯業系外装用建材である。樹脂製外装用建材および窯業系外装用建材は、いずれも型による成形によって得られるため、所期の表面形状を精密に形成することが可能である。よって、型の表面形状の設計によって、溝の横断面における溝の谷底や稜線の曲率半径を自在に設定し、第一傾斜面の傾斜角および第二傾斜面の傾斜角を自在に設定し、または第一傾斜面および第二傾斜面のそれぞれを独立して凸曲面または凹曲面などの所望の面形状に形成することが可能である。
【0018】
上記樹脂製外装用建材は、例えば、押出成形法、カレンダープレス法およびこれらを組み合わせた連続プレス法などの公知の方法によって作製される。また、樹脂製外装用建材は、樹脂の平板の表面に上記の溝を刻むことによって作製されうる。樹脂製外装用建材の樹脂には、耐火性の観点から使用される塩化ビニルなどの、当該外装用建材の材料の樹脂として公知の樹脂が用いられる。上記樹脂には、耐候性、耐光性または強度の向上や意匠性の付与などの観点から、無機骨材、紫外線吸収剤、着色剤、酸化防止剤などの公知の各種添加剤がさらに含有されていてもよい添加してもよい。
【0019】
上記窯業系外装用建材とは、いわゆる非金属製の外装用建材であり、非金属の無機系材料によって主に構成される。この窯業系外装用建材は、外装用建材の生板の表面に上記溝を形成し、上記生板を硬化させることによって作製されうる。たとえば、外装用建材10は、図2に示されるように、生板41を作製または準備し、所期の溝を形成する表面形状を有する型板42を生板41の表面に押し付け、型板42を剥がした後または型板42で押圧しながら生板41を養生硬化することによって作製される。溝は、上記の平板プレスの他、例えば特開2011−173272号公報に記載されているようなロールプレスなどの他のプレス成形方法によっても形成されうる。上記生板は、上記公報に記載されているように、例えば、成形材料を板状に成形することによって作製される。上記成形材料は、例えば、ポルトランドセメントなどの水硬性材料、フライアッシュなどの無機充填剤、無機繊維や金属繊維などの繊維質材料および水を配合して得られる。生板の養生硬化は、例えば、オートクレーブ養生、蒸気養生または常温養生によって行われる。
【0020】
さらに、上記樹脂製外装用建材および窯業系外装用建材は、いずれも、平板の表面に、前述した溝を有するシートを貼り付けることによっても作製されうる。
【0021】
外装用建材10は、その表面に塗膜をさらに有することが、耐候性の向上や意匠性の付与などの観点から好ましい。塗膜は、例えば上記公報に記載されているような有機塗膜、無機塗膜および光触媒含有無機塗膜などの公知の塗膜によって構成される。
【0022】
上記有機塗膜は、例えば、耐久性の向上や意匠性の付与などの観点から、上記生板の硬化物や樹脂成形物などの表面に、有機樹脂を含有する有機塗料を塗布し、硬化させることによって形成される。有機塗料の例には、アクリルエマルションやアクリルシリコーンエマルションなどを主剤とする有機塗料や、塗装鋼板における上塗り塗膜用の塗料などが含まれる。
【0023】
上記上塗り塗膜用の塗料において、ベースとなる樹脂は、塗装鋼板用塗料に使用されている公知の樹脂から適宜選択すればよく、熱硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよい。そのような樹脂の例には、ポリフッ化ビニリデン樹脂とアクリル樹脂との混合樹脂や、溶剤可溶型フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーンポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニリデン樹脂などが含まれる。また、熱硬化性樹脂の例には、平均分子量が数千程度のレギュラーポリエステル樹脂(OH価:1〜250mgKOH/g)および硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物が含まれる。硬化剤は、塗料の焼付け時に樹脂間を架橋する。硬化剤の種類は、使用する樹脂の種類や、焼付け条件などによって既知のものを適宜選択することができる。硬化剤の例には、メラミン化合物やイソシアネート化合物などが含まれる。メラミン化合物の例には、イミノ基型、メチロールイミノ基型、メチロール基型および完全アルキル基型のメラミン化合物が含まれる。また、上塗り塗膜用の塗料の貯蔵安定性に影響しない範囲内であれば、硬化触媒が適宜添加されていてもよい。
【0024】
上塗り塗膜用の塗料は、顔料を含有しないクリア塗膜用の塗料であってもよいし、顔料を含有する着色塗膜用の塗料であってもよい。顔料は、着色顔料や体質顔料などである。顔料は、1種のみであってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。顔料の種類は、特に限定されず、後述するpHの条件を満たすように公知の顔料から適宜選択することができる。着色顔料の例には、酸化チタン、カーボンブラック、鉄黒、チタンイエロー、ベンガラ、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、群青、コバルトグリーン、モリブデン赤などの無機顔料;CoAl、CoCrAl、CoCrZnMgAl、CoNiZnTi、CoCrZnTi、NiSbTi、CrSbTi、FeCrZnNi、MnSbTi、FeCr、FeCrNi、FeNi、FeCrNiMn、CoCr、Mn、Co、SnZnTiなどの金属成分を含む複合酸化物焼成顔料;Al、樹脂コーティングAl、Niなどのメタリック顔料;および、リソールレッドB、ブリリアントスカーレットG、ピグメントスカーレット3B、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、レーキレッドD、パーマネントレッド4R、ボルドー10B、ファストイエローG、ファストイエロー10G、パラレッド、ウォッチングレッド、ベンジジンイエロー、ベンジジンオレンジ、ボンマルーンL、ボンマルーンM、ブリリアントファストスカーレット、バーミリオンレッド、フタロシアニンブロー、フタロシアニングリーン、ファストスカイブルー、アニリンブラックなどの有機顔料;が含まれる。また、体質顔料の例には、クレー、タルク、硫酸バリウム、シリカ、炭酸カルシウム、などが含まれる。顔料の含有量は、ベースとなる樹脂に対して5〜150質量%の範囲内であることが好ましい。顔料の含有量が5質量%未満の場合、必要な色調が得られないおそれがある。一方、顔料の含有量が150質量%超の場合、加工性や塗装性などが低下するおそれがある。
【0025】
上記無機塗膜は、例えば、耐候性の向上の観点から、上記生板の硬化物などの表面または上記有機塗膜の表面に無機塗料を塗布し、成膜することによって形成される。無機塗料の例には、オルガノシランのシリカ分散オリゴマー溶液に、ポリオルガノシロキサンや、アルキルチタン酸塩などの縮合反応触媒を加え、あるいはさらにシリカを加えたケイ素アルコキシド系塗料が含まれる。この無機塗料による無機塗膜は、例えば、上記生板の硬化物などの表面に静電塗装などの公知の方法によって上記無機塗料を塗布し、60〜120℃で焼き付け、乾燥させることによって形成される。
【0026】
上記光触媒含有無機塗膜は、例えば、防汚性の向上の観点から、上記有機塗膜、上記無機塗膜、あるいは、上記生板の硬化物など、の表面に、光触媒を含有する無機塗料を塗布し、成膜することによって形成される。光触媒含有無機塗料の例には、上記ケイ素アルコキシド系塗料に酸化チタンなどの光触媒がさらに添加された塗料が含まれる。
【0027】
塗膜は、溝が形成された表面とは反対側の面(裏面)にも形成されていてもよい。この裏面に形成される裏面塗膜は、1コート構成の塗膜であってもよいし、2コート構成の塗膜であってもよい。また、裏面塗膜を構成する材料の種類も特に限定されない。裏面塗膜は、例えば公知の塗料を公知の方法で塗布することで形成される。
【0028】
本発明に係る外装用建材による雨筋汚れに対する効果を説明する。
図3は、外装用建材に雨水が流れたときの雨筋汚れを模式的に示す図である。図3Aは、平らな表面を有する外装用建材30に形成される雨筋汚れを模式的に示す図であり、図3Bは、上記溝を表面に有する外装用建材10に形成される雨筋汚れを模式的に示す図であり、図3Cは、図3B中の矢印X方向から見た外装用建材10を模式的に示す図である。
【0029】
通常、雨水は、建物の外壁上を筋状に流れる。平らな表面を有する外装用建材に雨水を筋状に流すと、図3Aに示されるように、例えば幅が3〜4mm程度の細い雨筋汚れ31が発生する。この雨筋汚れ31は、経時的に濃くなり、より明瞭になる。
【0030】
一方、本発明に係る外装用建材に上記建材と同じ条件で雨水を流すと、雨水は、溝の上方側の傾斜面(例えば図3C中の第一傾斜面14)でせき止められ、当該溝に沿って広がり、かつ流下する。このため、図3Bに示されるように、例えば幅が10〜15mm程度の広い雨筋汚れ31が発生する。この雨筋汚れ31は、非常に薄く、そして不明瞭である。これは、雨水が溝に沿って広がることで雨水中の汚れが溝の延出方向へ分散するため、と考えられる。
【0031】
また、本発明に係る外装用建材では、雨水が第一傾斜面14で堰き止められながら流下することから、雨筋汚れ31には、幅の広い部分と狭い部分とが交互に形成される。このため、雨筋汚れ31の縁がジグザグに形成され、外装用建材を正面視したときの雨筋汚れ31の境界がより不明瞭になっている、と考えられる。
【0032】
さらに、本発明に係る外装用建材では、雨水中の汚れが第一傾斜面14上により付着しやすい。このため、雨水の流れ方向において、雨筋汚れ31のわずかな濃淡が交互に生じ、外装用建材を正面視したときの雨筋汚れ31自体がより不明瞭になっている、と考えられる。
【0033】
以上の説明から明らかなように、本発明に係る外装用建材は、雨筋汚れを溝に沿って分散することから、雨筋汚れを目立たなくさせることができる。第一傾斜面による堰き止め効果が発現されると、雨水は溝に沿って広がる。したがって、前述した溝の稜線部における曲率半径Rや、第一傾斜面の傾斜角A、溝のピッチPなどを調整することによって、雨筋汚れを目立たなくする効果をより高めることが可能である。さらに、前述した塗膜によって、雨筋汚れを目立たなくする外観(例えばメタリック塗装、中間色塗装、金属板や塗膜の表面粗さの調整など)を付与することによって、雨筋汚れを目立たなくする効果をより高めることが可能である。
【0034】
上記溝は、本発明の効果が得られる範囲において、外装用建材の表面の一部分に形成されていてもよいし、当該表面の全面に形成されていてもよい。上記溝は、外装用建材を建物に設置したときに外部から見える部分に形成されていることが、雨筋汚れによる建物の美観の低下を防止する観点から好ましい。また、本発明に係る外装用建材の表面の一部には、本発明の効果が得られる範囲において、上記溝以外の他の表面形状を含んでいてもよい。たとえば、本発明に係る外装用建材の表面には、前述した数値範囲の一部または全部を満たさない他の溝がさらに形成されていてもよい。または、本発明に係る外装用建材の表面は、例えば、レンガ調の表面形状などの意匠性を付与するための第一の表面形状と、この第一の表面形状中に含まれる、本発明で特定する上記溝を含む第二の表面形状と、を含んでいてもよい。あるいは、本発明に係る外装用建材の表面は、例えば、外装用建材の表面を流下する雨水を導くための第三の表面形状と、この第三の表面形状によって誘導された雨水が流下する部分に配置される上記第二の表面形状と、を含んでいてもよい。
【0035】
本発明に係る外装用建材は、通常、溝の稜線または谷底が水平となる向きに、建物の垂直な外壁面を構成するように配置される。しかしながら、本発明に係る外装用建材の配置は、雨水が溝を横断するように外装用建材の表面を流れる範囲内であれば、特に限定されない。たとえば、図4Aに示されるように、外装用建材10は、溝の稜線または谷底の水平方向に対する傾きBが45°以下となるように配置されてもよい。また、例えば、図4Bに示されるように、外装用建材10は、その斜度C(外装用建材を側面視したときの谷底と稜線との間の中心線の水平方向に対する角度)が60〜120°となるように配置されてもよい。
【0036】
本発明に係る外装建材が配置された建物の外壁は、鉛直方向に対して交差する、複数の並列する溝を有する部分を含む。本発明に係る外装用建材は、本発明の効果が得られる範囲において、他の構成をさらに含んでいてもよい。たとえば、本発明に係る外装用建材は、上記溝が鉛直方向に対して交差する向きで外装用材が設置されるための構成をさらに有していてもよい。このような構成の例には、溝の上記の向きで外装用材を建物に固定するための部材や部分、当該向きで外装用建材同士を連結するための部材、および、外装用建材の取り付け時の向きを示すマーク、などが含まれる。また、本発明に係る外装用建材は、建物に配置される時の形状にさらに成形されていてもよい。たとえば、本発明に係る外装用建材は、上記の向きの溝を有するように、化粧屋根(パラペット)や外壁用パネルなどとして取り付けられる形状にさらに成形されまたは組み立てられていてもよい。
【0037】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0038】
[外装用建材1の製造]
木片、木質パルプ、木質繊維などの木質補強材、セメントおよび水を混合してなる成形材料を第一の型板上に散布して、成形材料が平板状に保持されてなるマットを作製した。このマットの表面を、図2の型板42で示されるような、並列する複数の溝を形成するための表面形状を有する第二の型板によって押圧し、その状態で上記マットを養生、硬化して、木質セメント板1を作製した。木質セメント板1の表面に、窯業系外装用建材用の市販の塗料を塗布して塗膜を形成し、縦200mm、横100mmの矩形の板状の外装用建材1を作製した。外装用建材1の溝の深さDは0.25mmであり、溝のピッチPは1.1mmであり、溝の稜線部における曲率半径Rは0.60mmであり、第一傾斜面の傾斜角Aおよび第二傾斜面の傾斜角Aは、いずれも35°であった。
【0039】
[外装用建材2〜11の製造]
上記表面形状が異なる第二の型板をそれぞれ用いた以外は外装用建材1と同様にして、外装用建材2〜11を得た。
【0040】
外装用建材2の溝の深さDは0.21mmであり、上記ピッチPは2.5mmであり、上記曲率半径Rは1.40mmであり、上記傾斜角Aは10°であった。外装用建材3の溝の深さDは0.52mmであり、上記ピッチPは1.4mmであり、上記曲率半径Rは0.40mmであり、上記傾斜角Aは44°であった。
【0041】
外装用建材4の溝の深さDは0.21mmであり、上記ピッチPは2.4mmであり、上記曲率半径Rは1.60mmであり、上記傾斜角Aは13°であった。外装用建材5の溝の深さDは0.18mmであり、上記ピッチPは2.8mmであり、上記曲率半径Rは1.00mmであり、上記傾斜角Aは8°であった。外装用建材6の溝の深さDは0.70mmであり、上記ピッチPは1.9mmであり、上記曲率半径Rは0.50mmであり、上記傾斜角Aは62°であった。外装用建材7の溝の深さDは0.18mmであり、上記ピッチPは2.6mmであり、上記曲率半径Rは0.40mmであり、上記傾斜角Aは8°であった。
【0042】
外装用建材8の溝の深さDは0.11mmであり、上記ピッチPは1.4mmであり、上記曲率半径Rは1.00mmであり、上記傾斜角Aは12°であった。外装用建材9の溝の深さDは0.11mmであり、上記ピッチPは2.8mmであり、上記曲率半径Rは0.75mmであり、上記傾斜角Aは4°であった。外装用建材10の溝の深さDは0.21mmであり、上記ピッチPは0.7mmであり、上記曲率半径Rは0.20mmであり、上記傾斜角Aは36°であった。外装用建材11の溝の深さDは0.53mmであり、上記ピッチPは3.1mmであり、上記曲率半径Rは1.55mmであり、上記傾斜角Aは23°であった。
【0043】
[外装用建材12の製造]
上記表面形状が平らな第二の型板を用いた以外は外装用建材1と同様にして、平らな表面を有する外装用建材12を作製した。
【0044】
図5に示されるように、外装用建材1〜12(図5中の符号50)を、溝の傾きBを0°とし、外装用建材の表面の斜度Cを90°として、屋外の波板の屋根51下の横支柱52,53に、固定具54によって三点で固定することにより、屋根51の縁の直下に配置した。雨が降ると、屋根51の波板の溝を流れ、屋根51の縁から筋状に流れ落ちる雨水が、外装用建材1〜12の表面を流れた。こうして、外装用建材1〜12を屋外に90日間設置した。
【0045】
そして、10人の判定者が1mの距離で外装用建材1〜12を正面から目視で観察し、雨筋汚れの判別の可否を判定した。そして、雨筋汚れを判別不能と判定した判定者の数によって外装用建材1〜12を以下の基準で評価した。外装用建材1〜12の溝に係る寸法および上記評価の結果を表1に示す。
(評価基準)
◎:10人中10人が雨筋汚れを判別不能と判定した。
○:10人中7〜9人が雨筋汚れを判別不能と判定した。
△:10人中4〜6人が雨筋汚れを判別不能と判定した。
×:10人中0〜3人が雨筋汚れを判別不能と判定した。
【0046】
【表1】
【0047】
外装用建材1〜7では、いずれも、10人中7人以上が雨筋汚れを判別不能と判定するほどの、雨筋汚れを目立たなくする効果が認められた。特に、外装用建材1および2では、10人全員が雨筋汚れの位置を特定するのが困難なほどの顕著な効果が認められた。
【0048】
一方、外装用建材1〜7に比べて溝の深さDがより小さな外装用建材8、9では、雨筋汚れを目立たなくする効果は、認められなかった。これは、溝が浅く、また第一傾斜面および第二傾斜面がなだらか過ぎて、流下する雨水に対して、第一傾斜面の堰き止め作用が弱すぎ、雨水が一様に流下したため、と考えられる。
【0049】
また、外装用建材1〜7に比べてピッチPがより小さな外装用建材10、および、ピッチPがより大きな外装用建材11、では、いずれも、雨筋汚れを目立たなくする効果は不十分であった。外装用建材10では、曲率半径Rも小さくなったものの、溝が細かすぎ、流下する雨水に対して第一傾斜面が堰として十分に作用しなかったため、と考えられる。外装用建材11では、流下する雨水に対する第一傾斜面の堰き止め作用が強すぎ、雨水中の汚れが第一傾斜面に残留して雨筋汚れをより目立たせたため、と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る外装用建材は、高価な親水性塗膜を表面に有さなくとも、雨筋汚れを目立たなくすることが可能である。よって、雨筋汚れが目立たないパラペットや外壁パネルを容易かつ安価にすることができ、例えば建物の高所などの手入れが行き届きにくい部分への適用が期待される。
【符号の説明】
【0051】
10,30,50 外装用建材
11 溝
12 稜線
13 谷底
14 第一傾斜面
15 第二傾斜面
31 雨筋汚れ
41 生板
42 型板
51 屋根
52,53 横支柱
54 固定具
図1
図2
図3
図4
図5