特許第6373573号(P6373573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6373573アミン誘導体、有機発光材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373573
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】アミン誘導体、有機発光材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/10 20060101AFI20180806BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20180806BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   C07F7/10 CCSP
   H05B33/22 D
   H05B33/14 A
   C09K11/06 690
【請求項の数】4
【全頁数】81
(21)【出願番号】特願2013-247962(P2013-247962)
(22)【出願日】2013年11月29日
(65)【公開番号】特開2014-131986(P2014-131986A)
(43)【公開日】2014年7月17日
【審査請求日】2016年11月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-266773(P2012-266773)
(32)【優先日】2012年12月5日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512187343
【氏名又は名称】三星ディスプレイ株式會社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Display Co.,Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】渕脇 純太
(72)【発明者】
【氏名】大山 裕美
(72)【発明者】
【氏名】宮田 康生
【審査官】 水野 浩之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−037838(JP,A)
【文献】 特開2010−143841(JP,A)
【文献】 特開2007−230951(JP,A)
【文献】 特表2012−505205(JP,A)
【文献】 特表2007−520470(JP,A)
【文献】 特表2005−516059(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/056674(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/122810(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/052932(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/044130(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2012−0066149(KR,A)
【文献】 特開平05−323634(JP,A)
【文献】 特開2013−093432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/10
C09K 11/06
H01L 51/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(1)で表されるモノアミン誘導体。
【化1】
[一般式(1)中、Ar1はシリル基で置換された以下の構造式(2)で表わされるアリール基であり、Ar2は環形成炭素数6以上30以下の無置換のアリール基であり、Ar3は以下の構造式(3)で表わされるアリール基であり、Lは以下の構造式(4)で表わされるアリーレン基であり、
【化2】
前記構造式(2)において、oは0又は1であり、R11、R12、R13はそれぞれ独立的に炭素数1以上15以下のアルキル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6以上30以下のアリール基、または環形成炭素数1以上30以下のヘテロアリール基であり、
前記構造式(3)において、R1はそれぞれ独立的に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上15以下のアルキル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6以上30以下のアリール基であり、mは0≦m≦5を満たす整数であり、
前記構造式(4)において、R2はそれぞれ独立的に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上15以下のアルキル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6以上30以下のアリール基であり、lは0≦≦4であり、nは2である。]
【請求項2】
前記R11、R12、R13は、それぞれフェニル基であることを特徴とする請求項1に記載のモノアミン誘導体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のモノアミン誘導体を含有する有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
【請求項4】
請求項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を発光層と陽極との間に配置された積層膜の何れか一つに含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光材料、特に、正孔輸送材料等の有機発光材料として好適に使用される新規なアミン誘導体と、それを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光材料を表示部の発光素子に用いた有機エレクトロルミネッセンス表示装置(Organic Electroluminescence Display:有機EL表示装置)の開発が盛んになってきている。有機エレクトロルミネッセンス表示装置は、液晶表示装置等とは異なり、陽極及び陰極から注入された正孔及び電子を発光層において再結合させることにより、発光層における有機化合物を含む発光材料を発光させて表示を実現するいわゆる自発光型の表示装置である。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、近年、発光層と前記発光層にキャリア(正孔、電子)を輸送する層など、特性の異なる複数の層で構成されたものが提案されている。
【0004】
有機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性の向上及び長寿命化のために、正孔輸送層は、優れた正孔輸送能力とキャリア耐性が要求される。このような観点から、種々の正孔輸送材料が提案されている。
【0005】
有機エレクトロルミネッセンス素子の各層に用いられる材料としては、芳香族アミン系化合物等の様々な化合物などが知られている。例えば、特許文献1では、カルバゾール誘導体が正孔輸送材料又は正孔注入材料として提案されている。また、特許文献2では、ターフェニル基を有するアミン化合物が正孔輸送材料及び発光層中のホスト材料として提案されている。特許文献3では、フルオレニル基を有するアミン化合物が正孔輸送材料又は正孔注入材料として提案されている。特許文献4では、トリアリールアミン誘導体が発光層材料、または正孔注入輸送材料として提案されている。特許文献5では、トリ(p−ターフェニル−4−イル)アミン化合物が正孔輸送材料として提案されている。特許文献6では、ジアミン化合物が正孔輸送材料として提案されている。特許文献7及び特許文献8では、シリル基を有するアミン化合物が発光層材料として提案されている。特許文献9では、シリル基を有するアミン化合物が電子阻止層材料、または発光層材料として提案されている。しかしながら、これらの材料を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子も充分な発光寿命を有しているとは言い難く、現在では一層、高効率で低電圧駆動が可能であり、発光寿命の長い有機エレクトロルミネッセンス素子が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0231503号明細書
【特許文献2】国際公開第2012/091471号
【特許文献3】国際公開第2010/110553号
【特許文献4】特許第3278252号公報
【特許文献5】国際公開第2008/015963号
【特許文献6】欧州特許出願公開第02042481号明細書
【特許文献7】特開2007−230951号公報
【特許文献8】米国特許出願公開第2007/207346号明細書
【特許文献9】国際公開第2010/052932号
【0007】
前記したように、有機エレクトロルミネッセンス素子を表示装置に応用するにあたり、有機発光材料には長寿命化が求められている。しかしながら、これまで提案されている化合物を正孔注入層又は正孔輸送層に用いた素子は、電子耐性が十分で無かったため、素子寿命の向上が求められていた。
【0008】
有機エレクトロルミネッセンス素子の素子寿命の前記問題点は、発光層と正孔輸送層との界面近傍での正孔と電子とが再結合して発光する際、再結合できなかった電子が正孔輸送層に侵入して電子が正孔輸送材料に損傷を与え、素子を劣化させることに起因している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の課題を鑑み、正孔輸送層に侵入した電子が原因となる素子の劣化機構を抑制することによって、素子寿命が向上された有機エレクトロルミネッセンス素子、及びそれを実現する有機発光材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態によるアミン誘導体は、以下の一般式(1)で表されるアミン誘導体である。
【化1】

一般式(1)中、Ar、Ar、及びArはそれぞれ独立に、置換若しくは無置換のアリール基、又は置換若しくは無置換のヘテロアリール基であり、前記Ar、Ar、及びArのうち少なくとも1つは置換若しくは無置換のシリル基で置換され、Lは、結合基、置換若しくは無置換のアリーレン基、又は置換若しくは無置換のヘテロアリーレン基を表す。
【0011】
本発明の一実施形態によるアミン誘導体は、電子に対して安定であり、正孔輸送層材料として用いることにより、正孔輸送層の電子耐性を向上させることができ、正孔輸送層に侵入した電子が原因となる正孔輸送材料の劣化を抑制し、有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化を実現することができる。
【0012】
一般式(1)中、Arはシリル基で置換された以下の構造式(2)で表わされるアリール基であり、Arは環形成炭素数6以上30以下の置換若しくは無置換のアリール基であり、Arは以下の構造式(3)で表わされるアリール基であり、Lは以下の構造式(4)で表わされるアリーレン基であり、
【化2】
構造式(2)において、oは0≦o≦2を満たす整数であり、R11、R12、R13はそれぞれ独立的に炭素数1以上15以下のアルキル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6以上30以下のアリール基、または環形成炭素数1以上30以下のヘテロアリール基であり、構造式(3)において、Rはそれぞれ独立的に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上15以下のアルキル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6以上30以下のアリール基であり、mは0≦m≦5を満たす整数であり、構造式(4)において、Rはそれぞれ独立的に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上15以下のアルキル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6以上30以下のアリール基であり、lは0≦m≦4であり、nは2≦n≦5を満たす整数であってもよい。
【0013】
本発明の一実施形態によるアミン誘導体は、一般式(1)におけるArが強電子耐性を示すシリル基で置換されたアリール基であるため、電子耐性が向上し、さらに、構造式(4)中でnが2以上であるアリーレン基を有することにより、π電子が広がり、良好な正孔輸送性を示す。そのため、本発明の一実施形態によるアミン誘導体は、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率の向上及び長寿命化を実現することができる。また、本発明の一実施形態によるアミン誘導体は、構造式(4)中でnが2以上であるアリーレン基を有することにより、ガラス転移温度(Tg)が上昇し、製膜性が向上する。アミン誘導体のガラス転移温度は120℃以上あることが、製造上好ましい。
【0014】
構造式(2)において、R11、R12、R13は、それぞれフェニル基であってもよい。
【0015】
本発明の一実施形態によるアミン誘導体は、一般式(2)におけるR11、R12、R13がフェニル基であることにより、ガラス転移温度(Tg)が上昇し、製膜性が向上する。
【0016】
構造式(2)において、oは、0または1であってもよい。
【0017】
本発明の一実施形態によるアミン誘導体は、一般式(2)におけるoが、0または1であることにより、電子の正孔輸送層への侵入を阻止する能力が高くなり、正孔輸送材料の劣化を抑制し、有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化を実現することができる。
【0018】
構造式(4)において、nは、2であってもよい。
【0019】
本発明の一実施形態によると、構造式(4)におけるnが2であることにより、アミン誘導体の電子耐性をさらに向上させることができる。
【0020】
本発明の一実施形態による有機エレクトロルミネッセンス素子用材料は、前記いずれかに記載のアミン誘導体を含む。
【0021】
本発明の一実施形態によると、強電子耐性を有し、良好な正孔輸送性を示す有機エレクトロルミネッセンス素子用材料が提供される。
【0022】
本発明の一実施形態意による有機エレクトロルミネッセンス素子は、前記有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を発光層と陽極との間に配置された積層膜の何れか一つに含む。
【0023】
本発明の一実施形態によると、発光効率が向上され、長寿命化が実現された有機エレクトロルミネッセンス素子が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、発光効率が向上され、素子寿命が向上された有機エレクトロルミネッセンス素子、及びそれを実現可能にする有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の構造の一実施形態を示す概略断面図である。
図2】本発明の有機エレクトロルミネッセンス材料を使用して作製した有機エレクトロルミネッセンス素子の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本願発明者は、上述の課題を検討した結果、有機エレクトロルミネッセンス素子における正孔輸送層の材料として、シリル基を有するアミン誘導体を用いることに想到し、有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化を達成できることを確認した。以下、本願発明者が想到したシリル基を有するアミン誘導体について説明する。但し、本発明の有機エレクトロルミネッセンス材料及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子は、多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0027】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス材料は、以下の一般式(1)で表されるシリル基を有するアミン誘導体である。
【化3】

一般式(1)中、Ar、Ar、及びArはそれぞれ独立に、置換若しくは無置換のアリール基、又は置換若しくは無置換のヘテロアリール基であり、前記Ar、Ar、及びArのうち少なくとも1つは置換若しくは無置換のシリル基で置換されていることを特徴とする。Lは、結合基、置換若しくは無置換のアリーレン基、又は置換若しくは無置換のヘテロアリーレン基を表す。
【0028】
Ar、Ar、及びArの「置換若しくは無置換のアリール基」又は「置換若しくは無置換のヘテロアリール基」のアリール基及びヘテロアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、トリフェニレン基、ビフェニレン基、ピレニル基、ベンゾチアゾリル基、チオフェニル基、チエノチオフェニル基、チエノチエノチオフェニル基、ベンゾチオフェニル基、ジベンゾチオフェニル基、ジベンゾフリル基、N−アリールカルバゾリル基、N−ヘテロアリールカルバゾリル基、N−アルキルカルバゾリル基、フェノキサジル基、フェノチアジル基、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジル基、キノリニル基、キノキサリル基が挙げられ、Ar、Ar、及びArのアリール基又はヘテロアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、トリフェニレン基、ジベンゾチオフェニル基、ジベンゾフリル基、N−フェニルカルバゾリル基が好ましく、特に、フェニル基、ビフェニル基、フルオレニル基、トリフェニレン基、ジベンゾチオフェニル基、ジベンゾフリル基、N−フェニルカルバゾリル基が好ましい。ここで、上述したように、Ar、Ar、及びArのアリール基及びヘテロアリール基のうち、少なくとも1つはシリル基で置換されている。また、シリル基は、Ar及びArの少なくとも1つに1つずつ置換されることが好ましく、特に、Ar、Ar、及びArの少なくとも1つに1つずつ置換されることがさらに好ましい。
【0029】
Ar、Ar、及びArのうち、少なくとも1つが置換もしくは無置換のヘテロアリール基であることが好ましく、さらに好ましくは、置換若しくは無置換のカルバゾリル基、ジベンゾチオフェニル基、ジベンゾフリル基などのジベンゾヘテロール基である。限定されるわけではないが、Arが置換もしくは無置換のヘテロアリール基であることが好ましく、Arがジベンゾヘテロール基であることが特に好ましい。Arが置換もしくは無置換のヘテロアリール基であるとき、Ar及びArは置換若しくは無置換のアリール基であることが好ましく、特に好ましくは、Arがジベンゾヘテロール基であり、Ar及びArは、環形成炭素数6〜18のアリール基である。
【0030】
Lの「置換若しくは無置換のアリーレン基」又は「置換若しくは無置換のヘテロアリーレン基」としては、Ar、Ar、及びArで挙げられた「置換若しくは無置換のアリール基」又は「置換若しくは無置換のヘテロアリール基」のアリール基及びヘテロアリール基と同様のものが挙げられる。Lの「置換若しくは無置換のアリーレン基」又は「置換若しくは無置換のヘテロアリーレン基」のアリーレン基及びヘテロアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基、チエノチオフェニレン基、及びピリジレン基が好ましい。特に環形成炭素数6〜14のアリーレン基が好ましく、フェニレン基及びビフェニリレン基がより好ましい。また、Lが「結合基」であるということは、本発明の構造式(1)で表されるシリル基を有するアミン誘導体において、アミン部位の窒素原子(N)とArとが直接結合している状態を表す。
【0031】
Ar、Ar、及びArのアリール基又はヘテロアリール基に置換される置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基が挙げられる。アリール基及びヘテロアリール基の例示される具体例は、上記のAr、Ar、及びArのアリール基及びヘテロアリール基と同じである。
【0032】
Ar、Ar、及びArのアリール基又はヘテロアリール基に置換される置換基のアルキル基は特に限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、シクロヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等を例示することができる。
【0033】
Ar、Ar、及びArのアリール基又はヘテロアリール基の置換基のアルコキシ基は特に限定されないが、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシ基等を例示することができる。
【0034】
Lのアリーレン基又はヘテロアリーレン基の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基が挙げられる。例示される具体例は、Ar、Ar、及びArのアリール基又はヘテロアリール基に置換される置換基として述べたアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基と同じである。
【0035】
Ar、Ar、及びArの少なくとも1つに置換されるシリル基の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基が挙げられる。例示される具体例は、Ar、Ar、及びArのアリール基又はヘテロアリール基に置換される置換基として述べたアルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基と同じであり、アルキル基及びアリール基が好ましく、特に、メチル基及びフェニル基が好ましい。また、Ar、Ar、及びArの少なくとも1つに置換されるシリル基は、該シリル基に置換されるアルキル基の炭素数がそれぞれ1以上6以下のトリアルキルシリル基又は該シリル基に置換されるアリール基の環形成炭素数がそれぞれ6以上18以下のトリアリールシリル基であることが好ましい。
【0036】
式(1)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体としては、以下に例示する化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
【化31】
【化32】
【化33】
【化34】
【化35】
【化36】
【化37】
【化38】
【化39】
【化40】
【化41】
【化42】
【化43】
【化44】
【化45】
【化46】
【化47】
【化48】
【化49】
【0038】
式(1)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体としては、好ましくは、上記の化合物1、2、3、4、5、6、8、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27,28、29、30、31、32、37、38、40、42、44、45、46、49、50、53、54、55、56、57、59、60、61、62、63、64、74、77、79、85、87、88、89、92、96、98、101、102、107、及び110が挙げられ、さらに好ましくは、化合物1、2、3、4、6、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、37、40、44、45、46、49、53、54、55、56、57、59、60、61、62、63、77、85、87、88、89、96、101、102、107、及び110が挙げられる。
【0039】
本発明の前記シリル基を有するアミン誘導体は、いずれも有機エレクトロルミネッセンス素子用材料として利用することができる。一般式(1)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体は、アミンの窒素原子(N)又はリンカー(L)に結合したAr、Ar、及びArの置換若しくは無置換のアリール基、又は置換若しくは無置換のヘテロアリール基のうち少なくとも1つが電子強耐性を示す置換若しくは無置換のシリル基で置換されている。そのため、本発明のシリル基を有するアミン誘導体は、電子に対して安定であり、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料、特に、発光層に隣接する正孔輸送層材料として好ましく使用されることができる。本発明のシリル基を有するアミン誘導体を正孔輸送層材料として用いることにより、正孔輸送層の電子耐性を向上させることができ、正孔輸送層に侵入した電子が原因となる正孔輸送材料の劣化を抑制し、有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化を実現することが可能となる。
【0040】
また、本発明のシリル基を有するアミン誘導体の用途は、有機エレクトロルミネッセンス素子の正孔輸送材料に限定されるわけではない。例えば、正孔注入層の材料にも好ましく用いることが可能である。シリル基を有するアミン誘導体を正孔注入層の材料として用いる場合も、電子が原因となる正孔注入層の劣化を抑制することができるため、正孔輸送層の材料として使用した場合と同様に、有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化を実現することが可能となる。
【0041】
[有機エレクトロルミネッセンス素子]
有機エレクトロルミネッセンス素子は、例えば、図1に示すような構造を有していてもよいが、これに限定されるわけではない。
【0042】
図1に示す有機エレクトロルミネッセンス素子100は、本発明のアミン誘導体が有機エレクトロルミネッセンス素子用材料として利用される一実施形態の概略断面図であって、ガラス基板102、ガラス基板102上に配置された陽極104、陽極104上に配置された正孔注入層106、正孔注入層106上に配置された正孔輸送層108、正孔輸送層108上に配置された発光層110、発光層110上に配置された電子輸送層112、及び電子輸送層112上に配置された陰極114を含んでもよい。ここで、電子輸送層112は、電子注入層としても機能するものとする。
【0043】
陽極104は、酸化インジウムスズ(ITO)やインジウム亜鉛酸化物(IZO)等を用いて形成されてもよい。
【0044】
正孔注入層106は、4,4',4"-Tris (N-1-naphtyl-N-phenylamino) triphenylamine (1-TNATA)、または4,4',4''-tris(N-(2-naphthyl)-N-phenylamino)-triphenylamine (2-TNATA)、4,4 -Bis(N,N -di(3-tolyl)amino)-3,3-dimethylbiphenyl (HMTPD)等を含んでもよく、例えば、以下に示す化合物を含んでもよい。
【化50】
【0045】
正孔輸送層108には、一般式(1)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体を用いて形成することができる。
【0046】
発光層110には、ホスト材料として、例えば以下に示す化合物を含んでもよい。
【化51】
但し、発光層110にホスト材料として含まれる化合物は、上述の化合物に限定されず、公知の材料をホスト材料として使用してもよい。
【0047】
また、発光層110には、ドーパントとして、例えば以下に示す化合物を含んでもよい。
【化52】
但し、発光層110にドーパントとしてドープされる化合物は、上述の化合物に限定されず、所望の色領域に応じて公知の材料をドーパントとして使用してもよい。ドーパントは、発光層110を構成する材料に0.1%〜50%ドープされることが好ましい。
【0048】
電子輸送層112は、例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminium(Alq3)などを含んでもよい。また、以下に示す化合物を含んでもよい。
【化53】
【0049】
陰極114は、Al、Ag、Caなどの金属や酸化インジウムスズ(ITO)やインジウム亜鉛酸化物(IZO)等の透明材料により形成される。
【0050】
図1に示す有機エレクトロルミネッセンス素子100では、記載を省略したが、有機エレクトロルミネッセンス素子100は、陰極114と電子輸送112との間に電子注入層含んでもよい。電子注入層は、例えば、フッ化リチウム(LiF)、リチウム8-キノリナート等を含んでもよい。
【0051】
上述したように、一般式(1)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体は、有機エレクトロルミネッセンス素子の正孔輸送層の材料として用いることができる。しかしながら、本発明のシリル基を有するアミン誘導体の用途は、有機エレクトロルミネッセンス素子の正孔輸送材料に限定されるわけではなく、正孔注入材料として正孔注入層に含まれてもよい。
【0052】
前記正孔注入層106及び正孔輸送層108等、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する正孔注入層材料及び正孔輸送層材料のうち、少なくともいずれかの材料に本発明のアミン誘導体を用いることによって、有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化を達成することができる。
【0053】
上述したように、本発明のシリル基を有するアミン誘導体は、電子耐性を有するため、有機エレクトロルミネッセンス素子の正孔輸送層材料又は正孔注入層材料として好ましいが、これらに限定されるわけではない。例えば、発光層内のホスト材料として用いてもよい。
【0054】
[実施例I]
一般式(1)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体について、前記化合物1、3、61、63の合成法の例を以下に述べる。但し、以下に述べる合成法は一例であって、本発明を限定するものでは無い。
【0055】
(化合物1の合成)
以下の化学反応式は、一般式(1)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体である化合物1の合成プロセスを図示したものである。
【化54】
【0056】
本発明の化合物1は、以下のようにして合成を実施した。
【0057】
反応容器に化合物(i)(1.57g, 4.33mmol)、化合物(ii)(1.50g, 3.61mmol)、Pd(dba)・CHCl(0.37g, 0.36mmol)、トルエン(36mL)加えた。次に、トリ(t−ブチル)ホスフィン(0.93mL, 1.44mmol、 1.56M)、ナトリウムt−ブトキシド(1.04g, 10.8mmol)を加え、容器内を窒素置換し、その後80℃で4時間撹拌した。放冷後、反応溶液に水を加えて有機層の抽出を行った。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過後に、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/ヘキサン)により精製し、得られた固体をトルエン/ヘキサンで再結晶したところ、目的物である化合物1である白色粉末状固体を2.26g、収率90%で得た(FAB−MS:C51H41NSi,測定値695)。
【0058】
(化合物3の合成)
以下の化学反応式は、本発明のアミン誘導体である化合物3の合成プロセスを図示したものである。
【化55】
【0059】
本発明の化合物3は、以下のようにして合成を実施した。
【0060】
反応容器に化合物(iii)(1.52g, 4.33mmol)、化合物(ii)(1.50g, 3.61mmol)、Pd(dba)・CHCl(0.37g, 0.36mmol)、トルエン(36mL)加えた。次に、トリ(t−ブチル)ホスフィン(0.93mL, 1.44mmol、 1.56M)、ナトリウムt−ブトキシド(1.04g, 10.8mmol)を加え、容器内を窒素置換し、その後80℃で4時間撹拌した。放冷後、反応溶液に水を加えて有機層の抽出を行った。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過後に、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン/ヘキサン)により精製し、得られた固体をトルエン/ヘキサンで再結晶したところ、目的物である化合物3である白色粉末状固体を1.00g、収率40%で得た(FAB−MS:C48H35NSSi,測定値685)。
【0061】
(化合物61の合成)
以下の化学反応式は、本発明のアミン誘導体である化合物61の合成プロセスを図示したものである。
【化56】
【0062】
本発明の化合物61は、以下のようにして合成を実施した。
【0063】
反応容器に化合物(iv)(0.70g, 1.44mmol)、化合物(v)(0.71g, 1.44mmol)、Pd(dba)(0.04g, 0.07mmol)、トルエン(30mL)加えた。次に、トリ(t−ブチル)ホスフィン(0.14mL, 0.28mmol、2.00M)、ナトリウムt−ブトキシド(0.21g, 2.16mmol)を加え、容器内を窒素置換し、その後還流下で6時間撹拌した。放冷後、反応溶液に水を加えて有機層の抽出を行った。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過後に、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/ヘキサン)により精製し、得られた固体をジクロロメタン/ヘキサンで再結晶したところ、目的物である化合物61である白色粉末状固体を1.15g、収率89%で得た(FAB−MS:C66H48N2Si,測定値897)。
【0064】
(化合物63の合成)
以下の化学反応式は、本発明のアミン誘導体である化合物63の合成プロセスを図示したものである。
【化57】
【0065】
本発明の化合物63は、以下のようにして合成した。
【0066】
反応容器に化合物(iv)(1.00g, 2.06mmol)、化合物(ii)(0.85g, 2.06mmol)、Pd(dba)(0.06g, 0.10mmol)、トルエン(10mL)加えた。次に、トリ(t−ブチル)ホスフィン(0.03mL, 0.06mmol、2.00M)、ナトリウムt−ブトキシド(0.30g, 3.08mmol)を加え、容器内を窒素置換し、その後還流下で4時間撹拌した。放冷後、反応溶液に水を加えて有機層の抽出を行った。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過後に、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/ヘキサン)により精製し、得られた固体をジクロロメタン/ヘキサンで再結晶したところ、目的物である化合物63である白色粉末状固体を1.59g、収率94%で得た(FAB−MS:C60H44N2Si,測定値821)。
【0067】
以下、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子材料として、上述した化合物1を正孔輸送層に用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の実施例1について説明する。
【0068】
本発明の実施例1の有機エレクトロルミネッセンス素子の作製は真空蒸着により行い、次のような手順で行った。先ず、あらかじめパターニングして洗浄処理を施したITO−ガラス基板に、オゾンによる表面処理を行った。尚、前記ITO膜の膜厚は、150nmである。オゾン処理後すぐに、正孔注入材料として4,4’,4’’−トリス(N,N−(2−ナフチル)フェニルアミノ)トリフェニルアミン(2−TNATA,膜厚60nm)を前記ITO膜上に成膜した。
【0069】
次に、正孔輸送材料として本発明の化合物1を成膜し(30nm)、次に、発光材料として2,5,8,11−テトラ−t−ブチル−ペリレン(TBP)を、9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(ADN)に対して3%の割合でドープした膜を共蒸着によって成膜した(25nm)。
【0070】
さらに、次に、電子輸送材料としてトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)を成膜し(25nm)、次に、電子注入材料としてフッ化リチウム(LiF)(1.0nm)及び陰極としてアルミニウム(100nm)を順次積層し、図2に示す有機エレクトロルミネッセンス素子200を作製した。
【0071】
実施例2として、実施例1で用いた化合物1の代わりに化合物3を用いた以外は、実施例1と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0072】
実施例3として、実施例1で用いた化合物1の代わりに化合物61を用いた以外は、実施例1と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0073】
実施例4として、実施例1で用いた化合物1の代わりに化合物63を用いた以外は、実施例1と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0074】
比較例1及び比較例2として、有機エレクトロルミネッセンス素子の正孔輸送層の材料を構成する化合物として以下に示す構造式の比較化合物1及び比較化合物2を用いて、実施例1と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。尚、比較例1及び比較例2で用いた化合物は、シリル基を備えない構造を有する点において、本発明のアミン誘導体と異なる。
【化58】
【0075】
作製した有機エレクトロルミネッセンス素子200の実施例1乃至実施例4、比較例1、及び比較例2の概略図を図2に示す。作製した有機エレクトロルミネッセンス素子200は、陽極204、陽極204上に配置された正孔注入層206、正孔注入層206上に配置された正孔輸送層208、正孔輸送層208上に配置された発光層210、発光層210上に配置された電子輸送層212及び電子注入層214、電子注入層214上に配置された陰極216を含む。
【0076】
作製した実施例1乃至実施例4、比較例1及び比較例2の有機エレクトロルミネッセンス素子200の素子性能を以下の表1に示す。
【表1】
【0077】
尚、作製した有機エレクトロルミネッセンス素子200の電界発光特性の評価には、浜松ホトニクス製C9920−11輝度配向特性測定装置を用いた。
【0078】
表1によれば、本発明の実施例1乃至実施例4の有機エレクトロルミネッセンス素子は、比較例1及び比較例2の有機エレクトロルミネッセンス素子に比して、長寿命化していることが分かる。
【0079】
一般式(1)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体は、電子耐性を有するシリル基を備えており、電子に対して安定な正孔輸送を行うことができる材料である。そのため、本発明のシリル基を有するアミン誘導体を用いることにより、正孔輸送層に侵入した電子が原因となる素子の劣化を抑制することができ、素子の長寿命化を実現することができる。
【0080】
前述した実施例1〜4においては、一般式(1)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体を有機エレクトロルミネッセンス素子の正孔輸送材料に利用した例を説明したが、本発明のシリル基を有するアミン誘導体の利用は有機エレクトロルミネッセンス素子に限定されず、その他の発光素子又は発光装置に利用されてもよい。また、図1及び図2に示す有機エレクトロルミネッセンス素子は、パッシブ・マトリクス駆動方式の有機エレクトロルミネッセンスディスプレイに利用されるが、アクティブ・マトリクス駆動方式の有機エレクトロルミネッセンスディスプレイに利用することもできる。
【0081】
本願発明者らは、一般式(1)で表されるシリル基を有するアミン誘導体のうち、特に、以下に述べる構造を有するアミン誘導体を有機エレクトロルミネッセンス材料として発光層と陽極との間に配置することにより、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率と寿命に著しい改善が得られることを確認した。
【0082】
一般式(1)で表されるシリル基を有するアミン誘導体の好ましい構造は、以下の一般式(5)で表される。
【化59】
【0083】
即ち、上述の一般式(1)で表されるアミン誘導体において、Arはシリル基で置換された以下の構造式(6)で表わされるアリール基である。
【化60】
構造式(6)において、oは0≦o≦2を満たす整数であり、R11、R12、R13はそれぞれ独立的に炭素数1以上15以下のアルキル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6以上30以下のアリール基、または環形成炭素数1以上30以下のヘテロアリール基である。R11、R12、R13は、互いに連結して環を形成してもよい。
【0084】
構造式(6)において、oは0または1であることが好ましい。oが、0または1であることにより、本発明のアミン誘導体の電子の正孔輸送層への侵入を阻止する能力が高くなり、劣化が抑制され、有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化を実現することができる。また、構造式(6)において、R11、R12、R13はそれぞれ、メチル基、炭素数が6以下のノルマルアルキル基、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニル基、クアテルフェニル基、ナフチル基、カルバゾリル基、ジベンゾフラン基であることが好ましい。特に、R11、R12、R13がそれぞれフェニル基であるとき、ガラス転移温度(Tg)が上昇し、製膜性が向上する。
【0085】
また、一般式(5)で表される本発明のシリル基を有する好ましいアミン誘導体は、上述の一般式(1)で表されるにおいてアミン誘導体におけるArが環形成炭素数6以上30以下の置換若しくは無置換のアリール基である。尚、上述の一般式(1)で表されるにおいてアミン誘導体におけるArは、一般式(5)で表されるアミン誘導体においてもArで示している。
【0086】
Arのアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、クアテルフェニル基などがあげられる。
【0087】
また、一般式(5)で表される本発明のシリル基を有する好ましいアミン誘導体は、上述の一般式(1)で表されるにおいてアミン誘導体におけるArが以下の構造式(7)で表わされるアリール基である。
【化61】
構造式(7)において、Rはそれぞれ独立的に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上15以下のアルキル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6以上30以下のアリール基であり、mは0≦m≦5を満たす整数である。
【0088】
さらに、一般式(5)で表される本発明のシリル基を有する好ましいアミン誘導体は、上述の一般式(1)で表されるにおいてアミン誘導体におけるLが以下の構造式(8)で表わされるアリーレン基である。
【化62】
構造式(8)において、Rはそれぞれ独立的に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上15以下のアルキル基、置換若しくは無置換の環形成炭素数6以上30以下のアリール基である。lは0≦m≦4であり、nは2≦n≦5を満たす整数である。ここで、構造式(8)で表されるアリーレン基に置換するRの種類とその個数lは、アリーレン基ごとに異なっていてもよい。構造式(8)において、nは2または3であることが好ましい。nが2または3であることにより、アミン誘導体の電子耐性をさらに向上させることができる。また、分子量の増大により、高いガラス転移温度を得ることが容易になる。
【0089】
一般式(5)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体としては、以下に例示する化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。尚、以下に例示する化合物において、Phはフェニル基を表し、Meはメチル基を表す。
【0090】
【化63】
【0091】
【化64】
【0092】
【化65】
【0093】
【化66】
【0094】
【化67】
【0095】
【化68】
【0096】
一般式(5)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体は、一般式(1)で表される本発明のアミン誘導体におけるArが電子強耐性を示すシリル基で置換されたアリール基である。そのため、一般式(5)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体は、電子に対して安定であり、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料、特に、発光層に隣接する正孔輸送層材料として使用すると、正孔輸送層の電子耐性を向上させることができ、正孔輸送層に侵入した電子が原因となる正孔輸送材料の劣化を抑制し、有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化を実現することが可能となる。
【0097】
また、一般式(5)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体は、構造式(8)で表されるアリーレン基を2個以上有することにより、π電子が広がり、正孔輸送性が向上し、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率の向上及び長寿命化を実現することができる。また、一般式(5)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体は、構造式(8)で表されるアリーレン基を2個以上有することにより、ガラス転移温度(Tg)が上昇し、製膜性が向上する。
【0098】
さらに、一般式(5)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体において、構造式(8)中でnが2であるアリーレン基の場合、構造式(7)で表わされるアリール基を含めて、アミンのN原子に少なくとも1つのターフェニル基が結合されていることになる。ターフェニルアミン骨格を有する化合物は、非常に高い正孔耐性及び電子耐性を有する。そのため、構造式(8)におけるnが2であるとき、一般式(5)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体は、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料、特に、発光層に隣接する正孔輸送層材料として使用されることにより、発光層から正孔輸送層側に流入する電子に対する耐性がさらに向上し、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率を向上させ、有機エレクトロルミネッセンス素子の寿命をさらに長寿命化させることができる。
【0099】
一般式(5)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体は、上述したような図1で表された有機エレクトロルミネッセンス素子100の正孔輸送層の材料として用いることができる。尚、図1に示された有機エレクトロルミネッセンス素子100の構成は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の一実施形態であり、これに限定されるわけではなく種々の変更が可能である。
【0100】
また、一般式(5)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体の用途は、一般式(1)で表されるシリル基を有するアミン誘導体と同様に、有機エレクトロルミネッセンス素子の正孔輸送材料に限定されるわけではなく、正孔注入層の材料としても用いることが可能である。一般式(5)で表されるシリル基を有するアミン誘導体を正孔注入層の材料として用いる場合も、正孔輸送層の材料として使用した場合と同様に、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率を向上させ、有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化を実現することが可能となる。
【0101】
[実施例II]
一般式(5)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体について、前記化合物A−8の合成法の例を以下に述べる。但し、以下に述べる合成法は一例であって、本発明を限定するものでは無い。
【0102】
(化合物A−8の合成)
本発明の化合物A−8は、以下のようにして合成を実施した。
【0103】
アルゴン雰囲気下、300mLの三つ口フラスコに、4−アミノターフェニル3gと4−ブロモテトラフェニルシラン5.08g、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd(dba))0.34g、ナトリウムt−ブトキシド2.34gg、トルエン120mlを加えた後、トリ(t−ブチル)ホスフィンの2Mトルエン溶液0.5mlを加えて、室温で24時間攪拌した。空冷後、水を加えて有機層を分取し溶媒留去した。得られた固体をカラムクロマトグラフィーで精製し、以下に示す白色固体の前駆体A−8aを5.0g得た(収率73%)。
【化69】
【0104】
アルゴン雰囲気下、300mLの三つ口フラスコに、前駆体A−8aを5.0gと4−ブロモビフェニル2.0g、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd(dba))0.23g、ナトリウムt−ブトキシド1.65g、トルエン100mlを加えた後、トリ(t−ブチル)ホスフィンの2Mトルエン溶液0.35mlを加えて、80で12時間加熱攪拌した。空冷後、水を加えて有機層を分取し溶媒留去した。得られた固体をカラムクロマトグラフィーで精製し、以下に示す白色固体の化合物A−8を2.5g得た(収率73%)(FAB−MS測定値;731.3)。
【化70】
【0105】
(化合物A−9の合成)
本発明の化合物A−9は、以下のようにして合成を実施した。
【0106】
アルゴン雰囲気下、300mLの三つ口フラスコに、上述した前駆体A−8aを5.0gと1−ブロモ−4−フェニルアントラセン2.4g、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd(dba))0.23g、ナトリウムt−ブトキシド1.65g、トルエン100mlを加えた後、トリ(t−ブチル)ホスフィンの2Mトルエン溶液0.35mlを加えて、80℃で12時間加熱攪拌した。空冷後、水を加えて有機層を分取し溶媒留去した。得られた固体をカラムクロマトグラフィーで精製し、以下に示す白色固体の化合物A−9を4.4g得た(収率60%)(FAB−MS測定値;781.3)。
【化71】
【0107】
(化合物A−13の合成)
本発明の化合物A−13は、以下のようにして合成を実施した。
【0108】
アルゴン雰囲気下、300mLの三つ口フラスコに、4−アミノターフェニル2.5gと4−ブロモビフェニル2.3g、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd(dba))0.34g、ナトリウムt−ブトキシド2.34g、トルエン120mlを加えた後、トリ(t−ブチル)ホスフィンの2Mトルエン溶液0.5mlを加えて、室温で24時間攪拌した。空冷後、水を加えて有機層を分取し溶媒留去した。得られた固体をカラムクロマトグラフィーで精製し、以下に示す白色固体の前駆体A−13aを3.0g得た(収率76%)。
【化72】
【0109】
アルゴン雰囲気下、300mLの三つ口フラスコに、前駆体A−13aを3.0gと4−ブロモ(4’−トリメチルシリル)ビフェニル2.3g、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd(dba))0.23g、ナトリウムt−ブトキシド1.65g、トルエン100mlを加えた後、トリ(t−ブチル)ホスフィンの2Mトルエン溶液0.35mlを加えて、80℃で12時間加熱攪拌した。空冷後、水を加えて有機層を分取し溶媒留去した。得られた固体をカラムクロマトグラフィーで精製し、以下に示す白色固体の化合物A−13を4.3g得た(収率91%)(FAB−MS測定値;621.3)。
【化73】
【0110】
(化合物A−18の合成)
本発明の化合物A−18は、以下のようにして合成を実施した。
【0111】
アルゴン雰囲気下、300mLの三つ口フラスコに、前駆体A−13aを3.0gと4−ブロモ(4’−トリフェニルシリル)ビフェニル3.7g、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd(dba))0.23g、ナトリウムt−ブトキシド1.65g、トルエン100mlを加えた後、トリ(t−ブチル)ホスフィンの2Mトルエン溶液0.35mlを加えて、80℃で12時間加熱攪拌した。空冷後、水を加えて有機層を分取し溶媒留去した。得られた固体をカラムクロマトグラフィーで精製し、以下に示す白色固体の化合物A−18を6.1g得た(収率90%)(FAB−MS測定値;807.3)。
【化74】
【0112】
以下、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子材料として、上述した化合物A−8を正孔輸送層に用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の実施例5について説明する。
【0113】
本発明の実施例5の有機エレクトロルミネッセンス素子の作製は、上述した実施例1の有機エレクトロルミネッセンス素子と同様に真空蒸着により行い、次のような手順で行った。先ず、あらかじめパターニングして洗浄処理を施したITO−ガラス基板に、オゾンによる表面処理を行った。尚、前記ITO膜の膜厚は、150nmである。オゾン処理後すぐに、正孔注入材料として4,4’,4’’−トリス(N,N−(2−ナフチル)フェニルアミノ)トリフェニルアミン(2−TNATA,膜厚60nm)を前記ITO膜上に成膜した。
【0114】
次に、正孔輸送材料として本発明の化合物A−8を成膜し(30nm)、次に、発光材料として2,5,8,11−テトラ−t−ブチル−ペリレン(TBP)を、9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(ADN)に対して3%の割合でドープした膜を共蒸着によって成膜した(25nm)。
【0115】
次に、電子輸送材料としてトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)を成膜し(25nm)、次に、電子注入材料としてフッ化リチウム(LiF)(1.0nm)及び陰極としてアルミニウム(100nm)を順次積層し、図2に示す有機エレクトロルミネッセンス素子200を作製した。
【0116】
実施例6として、実施例5で用いた化合物A−8の代わりに化合物A−9を用いたこと以外は、実施例5と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【化75】
【0117】
実施例7として、実施例5で用いた化合物A−8の代わりに化合物A−13を用いたこと以外は、実施例5と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【化76】
【0118】
実施例8として、実施例5で用いた化合物A−8の代わりに化合物A−18を用いたこと以外は、実施例5と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【化77】
【0119】
比較例3、比較例4及び比較例5として、有機エレクトロルミネッセンス素子の正孔輸送層の材料を構成する化合物として以下に示す構造式の比較例化合物3、比較例化合物4、比較例化合物5を用いて、実施例5と同様に有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【化78】
【0120】
実施例5〜比較例3で作成した有機エレクトロルミネッセンス素子200について、駆動電圧、発光効率、半減寿命、ガラス転移温度(Tg)を評価した。なお、発光効率は10mA/cmにおける値を示し、半減寿命は初期輝度1,000cd/mからの輝度半減時間を示す。評価結果を表2に示す。
【表2】
【0121】
表2によれば、本発明の実施例5乃至実施例8の有機エレクトロルミネッセンス素子は、比較例3、比較例4及び比較例5の有機エレクトロルミネッセンス素子に比して、発光効率が向上し、長寿命化していることが分かる。
【0122】
一般式(5)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体は、電子耐性を有するシリル基を備えていることにより強電子耐性を有し、さらに、構造式(8)においてnが2以上であるアリーレン基を有することにより電子耐性が向上されるとともに正孔輸送性が向上されており、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率の向上及び長寿命化を実現することができる。一般式(5)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体を用いることにより、正孔輸送層に侵入した電子が原因となる素子の劣化を抑制しつつ、正孔輸送性を向上させることができ、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率の向上及び長寿命化を実現することができる。
【0123】
前述した実施例5〜8においては、一般式(5)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体を有機エレクトロルミネッセンス素子の正孔輸送材料に利用した例を説明したが、本発明のシリル基を有するアミン誘導体の利用は有機エレクトロルミネッセンス素子に限定されず、その他の発光素子又は発光装置に利用されてもよい。また、一般式(5)で表される本発明のシリル基を有するアミン誘導体を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子は、パッシブ・マトリクス駆動方式の有機エレクトロルミネッセンスディスプレイに利用されてもよく、アクティブ・マトリクス駆動方式の有機エレクトロルミネッセンスディスプレイに利用されてもよい。
【符号の説明】
【0124】
100 有機エレクトロルミネッセンス素子
102 ガラス基板
104 陽極
106 正孔注入層
108 正孔輸送層
110 発光層
112 電子輸送層
114 陰極
200 有機エレクトロルミネッセンス素子
204 陽極
206 正孔注入層
208 正孔輸送層
210 発光層
212 電子輸送層
214 電子注入層
216 陰極
図1
図2