特許第6373606号(P6373606)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373606
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】抗ウイルス用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4168 20060101AFI20180806BHJP
   A61K 33/38 20060101ALI20180806BHJP
   A61K 31/28 20060101ALI20180806BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20180806BHJP
   A61K 31/20 20060101ALI20180806BHJP
   A61K 31/194 20060101ALI20180806BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20180806BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   A61K31/4168
   A61K33/38
   A61K31/28
   A61K31/19
   A61K31/20
   A61K31/194
   A61P31/12
   A61P43/00 121
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-43485(P2014-43485)
(22)【出願日】2014年3月6日
(65)【公開番号】特開2015-168637(P2015-168637A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2017年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】504284009
【氏名又は名称】株式会社J−ケミカル
(73)【特許権者】
【識別番号】390000527
【氏名又は名称】住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106448
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 伸介
(72)【発明者】
【氏名】仁平 南帆子
(72)【発明者】
【氏名】真玉橋 朝蔵
(72)【発明者】
【氏名】加藤 義晃
【審査官】 馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−031118(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0319062(US,A1)
【文献】 国際公開第2005/083171(WO,A1)
【文献】 A. Martinez-Abad et al.,Evaluation of silver-infused polylactide films for inactivation of salmonella and feline calicivirus in vitro and on fresh-cut vegetables,International Journal of Food Microbiology,2013年,162,89-94
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4168
A61K 31/19
A61K 31/194
A61K 31/20
A61K 31/28
A61K 33/38
A61P 31/12
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化銀、銀塩、又は銀錯体のいずれか1種以上の化合物とクレアチニンとを配合してなる抗ウイルス用組成物であって、前記化合物中の銀(A)とクレアチニン(B)とのモル比(B)/(A)が、2〜80であることを特徴とする、前記抗ウイルス用組成物。
【請求項2】
前記銀塩又は銀錯体が、カルボン酸の銀塩又は銀錯体であることを特徴とする、請求項1に記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項3】
前記カルボン酸が、化学式(1):
【化30】
[式中、Rは置換又は未置換の炭素数1〜18個の1価の炭化水素基(ただし、カルボキシル基を除く)を示し、XはOまたはNHを示す。]
で表されるモノカルボン酸であることを特徴とする、請求項2に記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項4】
前記カルボン酸が、化学式(2):
【化31】
[式中、Rは置換又は未置換の炭素数1〜18個の2価の炭化水素基を示し、RはH、ヒドロキシ基、若しくは置換又は未置換の炭素数1〜18個の1価の炭化水素基を示す。]
で表される、請求項2に記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項5】
前記カルボン酸が、化学式(3):
【化32】
[式中、Rは置換又は未置換の炭素数1〜18個の2価の脂肪族炭化水素基を示す。]
で表されるカルボン酸である、請求項4に記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項6】
前記酸化銀と酸とを含み、酸/銀のモル当量が0.2〜4である、請求項1〜5のいずれかに記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項7】
無膜ウイルスの不活性化に用いることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の抗ウイルス用組成物。
【請求項8】
前記無膜ウイルスがノロウイルスである、請求項7に記載の抗ウイルス用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な抗ウイルス用組成物に関し、特にノロウイルスのような無膜ウイルスを不活性化する抗ウイルス用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、細胞構造を有する細菌、真菌等の微生物と異なり、細胞構造を持たず、ゲノムをカプシドという外殻タンパク質の中に持つ構造体である。ウイルスは、ゲノムがDNA又はRNAかによって二種類に大別され、カプシドが脂質二重膜からなるエンベロープで覆われている有膜ウイルスとエンベロープで覆われていない無膜ウイルスかによってさらに分類される。具体的には、DNAタイプの有膜ウイルスにはヒトヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス等、DNAタイプの無膜ウイルスにはアデノウイルス、B19ウイルス等、RNAタイプの有膜ウイルスにはインフルエンザウイルス、SARSコロナウイルス等、RNAタイプの無膜ウイルスにはノロウイルス、ポリオウイルス、エンテロウイルス等が含まれる。
【0003】
ウイルスが体内に侵入すると感染症を引き起こすことがあり、ウイルスによる疾患の重篤度は、そのウイルスに依存する。殺菌・消毒剤に対するウイルス自体の感受性は、無膜ウイルスの方が有膜ウイルスよりも低い(非特許文献1)。
【0004】
ノロウイルスは、食品媒介性のウイルスであって、ヒトに感染すると非細菌性急性胃腸炎を引き起こす。事例数ではカンピロバクターと首位を争い、患者数では全食中毒患者の約半数を占めており、ノロウイルスの制御は食品衛生対策上重要な課題の一つとなっている(非特許文献2)。無膜ウイルスには、抗ウイルス薬を作り難く、ノロウイルスもまた、RNAタイプの無膜ウイルスに属する。このようなウイルスによる食中毒や感染症の患者の治療は、対症療法となる。抗ウイルス薬の開発が難しく、感染後は対症療法しか対策の取れないウイルスに対抗するためには、ウイルスを不活性化してウイルスの感染を未然に防ぐことが肝要である。
【0005】
銀イオンには真菌や細菌に対する不活性化作用があることがよく知られている。銀イオンを利用した殺菌剤、抗菌剤、防腐剤等が開発され、生活用品に幅広く普及している。一方で、銀イオンの抗ウイルス性の評価は確立していない。例えば、非特許文献3では、銀イオンを溶出できる銀化合物(硝酸銀や酸化銀)は、インフルエンザウイルスのような有膜ウイルスには有効であるが、バクテリオファージQβのような無膜ウイルスには有効でないと報告している。さらに、銀イオンを溶出しない固体銀化合物(硫化銀)は、有膜ウイルスと無膜ウイルスのいずれにも有効でないと報告している。非特許文献4は、有膜ウイルス(エイズウイルス、単純ヘルペスウイルス2型、及び麻疹ウイルス)と無膜ウイルス(ポリオウイルス)に対する銀錯体系抗菌剤(チオスルファト銀錯体)のウイルス特異性を調べたところ、有膜ウイルスのみに不活性化作用を示したと報告している。
【0006】
非特許文献5は、「バイオジェニックAg」と称するLactobacillus fermentumの菌体表面の銀ナノ粒子でマウスノロウイルス1(MNV−1)の不活性化試験を行なったところ、銀ナノ粒子によるウイルス不活性化機構は、カプシドタンパクと前記銀粒子とが相互作用してウイルスが宿主細胞へ結合するのを阻止する、さらに、カプシドタンパク質の損傷やロスがRNAのRNase活性を敏感にする(RNaseの働きが上昇する)と報告する。しかし、特許文献1は、ナノ微粒子銀の使用がウイルス複製を防止する薬剤として効果的であるという報告(www.nanoscale.com)に対して、銀の使用は100%完全に効果的というわけではなく、費用と毒性に問題があると指摘する。
【0007】
特許文献2は、ヨウ化銀(I)微粒子がネコカリシウイルスやインフルエンザウイルスを不活性化する試験データを記載している。しかし、特許文献2の技術は、作用時間が60分と長く、また、光で還元され易いヨウ化銀は作用を安定して発揮しないという問題を有する。また、不活性化効果は、銀でなく遊離したヨウ素による作用と考えられるので、実用性や安全性に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−067618
【特許文献2】特開2013−049944
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Fevero,M.S.et.al.,Disinfection,Sterilization,Preservation 4th Edition,Eited by S.S.Block,Philadelphia,Lea & Febiger,pp.621,1991
【非特許文献2】野田衛等,ノロウイルスの不活化に関する研究の現状,国立医薬品食品衛生研究所報告,129,37−54,(2011)
【非特許文献3】砂田香矢乃,一価銅化合物の抗菌・抗ウイルス作用,村田貴士編集,抗菌・抗ウイルス材料の開発・評価と加工技術,株式会社情報技術協会出版,第1章,第4節,p.19−26
【非特許文献4】富岡敏一,銀錯体系抗菌剤について,色材,70[4],265−275,(1997)
【非特許文献5】Bart De Gusseme et.al.,Biogenic Silver for Disinfection of Water Contaminated with Viruses,Appl.Environ.Microbiol.76,1082−1087,(2010)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したように、銀イオンを含む抗ウイルス剤でウイルスを不活性化する技術が確立していない状況にあって、本発明は、安全かつ有効な抗ウイルス用組成物、特にノロウイルスのような無膜ウイルスを不活性化することも可能な抗ウイルス用組成物を新規に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、酸化銀、銀塩、又は銀錯体のいずれか1種以上の化合物にクレアチニンを一定割合で配合する組成物によれば、抗ウイルス性を発揮することを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、酸化銀、銀塩、又は銀錯体のいずれか1種以上の化合物とクレアチニンとを配合してなる抗ウイルス用組成物であって、前記化合物中の銀(A)とクレアチニン(B)とのモル比(B)/(A)が、2〜80であることを特徴とする、前記抗ウイルス用組成物を提供する。
【0012】
前記銀塩又は銀錯体は、カルボン酸の銀塩又は銀錯体であることが好ましい。
【0013】
前記カルボン酸は、特に化学式(1):
【化1】
[式中、Rは置換又は未置換の炭素数1〜18個の1価の炭化水素基(ただし、カルボキシル基を除く)を示し、XはOまたはNHを示す。]
で表されるモノカルボン酸である。
【0014】
前記カルボン酸は、また、化学式(2):
【化2】
[式中、Rは置換又は未置換の炭素数1〜18個の2価の炭化水素基を示し、RはH、ヒドロキシ基、若しくは置換又は未置換の炭素数1〜18個の1価の炭化水素基を示す。]
で表されるものでもよい。
【0015】
化学式(2)のカルボン酸は、特に化学式(3):
【化3】
[式中、Rは置換又は未置換の炭素数1〜18個の2価の脂肪族炭化水素基を示す。]
で表されるカルボン酸であることが好ましい。
【0016】
化学式(2)のカルボン酸は、また、2〜4個のカルボキシル基を有する芳香族カルボン酸又は芳香族複素環カルボン酸であることが好ましい。
【0017】
前記カルボン酸は、また、ピルビン酸、グリコール酸、酢酸、酪酸及びサリチル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0018】
本発明の抗ウイルス用組成物は、前記酸化銀と酸とを含み、酸/銀のモル当量が0.2〜4であることが好ましい。
【0019】
本発明の組成物は、無膜ウイルスの不活性化に好適に用いられる。
【0020】
前記無膜ウイルスは、例えばノロウイルスである。
【発明の効果】
【0021】
酸化銀、銀塩、又は酸錯体のいずれか1種以上の化合物とクレアチニンとを一定割合で配合した本発明の組成物によれば、抗ウイルス性が得られる。しかも、本発明の組成物は、従来、ウイルスを不活性化する有効手段がなかったノロウイルスのような無膜ウイルスへも適用可能である。この特性を利用して、本発明の組成物は、抗ウイルス用消毒剤としての用途の他に、医薬品及び医薬部外品、工業製品、飲食品等へ抗ウイルス性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態をより詳細に説明する。本発明の組成物は、酸化銀、銀塩、又は酸錯体のいずれか1種を必須の成分とする。
【0023】
銀塩又は銀錯体には、カルボン酸銀、硝酸銀、炭酸銀、硫酸銀、酢酸銀、過塩素酸銀、フッ化銀、塩化銀、塩素酸銀、クロム酸銀、シアン化銀、臭化銀、臭素酸銀、ヨウ化銀、ヨウ素酸銀等が挙げられる。本明細書で、銀塩又は銀錯体を一銀と称する場合は銀イオンが1個結合し、二銀と称する場合は銀イオンが2個結合している。好ましくは、構造によっては銀の変色を著しく抑制可能であるという点で、カルボン酸の銀塩又は銀錯体である。これらは一種単独でも、二種以上併用してもよい。
【0024】
上記カルボン酸の銀塩又は銀錯体を構成するカルボン酸は、特に化学式(1):
【化4】
[式中、Rは置換又は未置換の炭素数1〜18個の1価の炭化水素基(ただし、カルボキシル基を除く)を示し、XはOまたはNHを示す。]
で表されるモノカルボン酸(以下、グループIという)である。
【0025】
は、例えば置換又は未置換の炭素数1〜18個、好ましくは1〜4個の1価の脂肪族炭化水素基、置換又は未置換の炭素数6〜18個、好ましくは6〜12個の1価の芳香族炭化水素基、若しくは、置換又は未置換の炭素数2〜18個、好ましくは2〜11個の1価の芳香族複素環基である。脂肪族炭化水素基は、直鎖でも分岐鎖でもよい。
【0026】
前記脂肪族炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;ビニル基、プロペニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基;並びにシクロプロピル基、シクロブチル基等のシクロアルキル基が挙げられる。
【0027】
前記芳香族炭化水素基の例としては、フェニル基等の単環芳香族炭化水素基;ナフチル基等の縮合環炭化水素基;並びにビフェニリル基等の環集合炭化水素基が挙げられる。
【0028】
前記芳香族複素環基の例としては、トリアゾリル基、フラニル基、フリル基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、ピラジル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリニル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、チオフェニル基、ビピリジル基及びオキサジアゾリル基が挙げられる。
【0029】
における、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基の水素原子は、他の置換基で置換されてもよい。置換基の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、オキソ基、アリールオキシ基、アリールオキシカルボニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、置換アミノ基、イミノ基、ニトロ基、シアノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、アリールチオ基、アリールスルホニル基等が挙げられる。
【0030】
は、さらに好ましくは、置換又は未置換の主鎖炭素数1〜3個の飽和脂肪族炭化水素基、未置換の主鎖炭素数1〜2個の炭化水素基、若しくは、カルボニル基で置換された主鎖炭素数1〜3個の炭化水素基である。Rは、特に好ましくは、メチル基及びアセチル基である。
【0031】
グループIのカルボン酸の具体例としては、化学式:
【化5】
で示されるアセチルグリシン、化学式:
【化6】
で示されるアセトキシ酢酸、及び、化学式:
【化7】
で示されるメトキシ酢酸が挙げられる。
【0032】
アセチルグリシン及びアセトキシ酢酸は、これらの銀塩又は銀錯体とクレアチニンとを含む水溶液を乾燥させた時に光安定性に優れ、透明な固形物が得られる点で特に好ましい。
【0033】
上記カルボン酸の銀塩又は銀錯体を構成するカルボン酸は、また、化学式(2):
【化8】
[式中、Rは置換又は未置換の炭素数1〜18個の2価の炭化水素基を示し、RはH、ヒドロキシ基、若しくは置換又は未置換の炭素数1〜18個の1価の炭化水素基を示す。]
で表され、分子内に特性基として2つのオキソ基を有し、少なくとも1つがカルボキシル基を構成しているカルボン酸でもよい。
【0034】
は、例えば置換又は未置換の炭素数1〜18個、好ましくは1〜5個の2価の脂肪族炭化水素基、置換又は未置換の炭素数6〜18個、好ましくは6〜12個の2価の芳香族炭化水素基、若しくは、置換又は未置換の炭素数2〜18個、好ましくは2〜11個の2価の芳香族複素環基である。脂肪族炭化水素基は、直鎖でも分岐鎖でもよい。
【0035】
前記脂肪族炭化水素基の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等のアルキレン基;ビニレン基、プロペニレン基等のアルケニレン基;並びにシクロプロピレン基、シクロブチレン基等のシクロアルキレン基が挙げられる。
【0036】
前記芳香族炭化水素基の例としては、フェニレン基等の単環芳香族炭化水素基;ナフチレン基等の縮合環炭化水素基;並びにビフェニレン基等の環集合炭化水素基が挙げられる。
【0037】
前記芳香族複素環基の例としては、トリアゾリレン基、フラニレン基、フリレン基、チエニレン基、ピロリレン基、ピリジレン基、ピラジレン基、オキサゾリレン基、イソオキサゾリレン基、チアゾリレン基、イソチアゾリレン基、イミダゾリレン基、ピラゾリレン基、キノリレン基、イソキノリレン基、キノキサリニレン基、ベンゾフリレン基、ベンゾチエニレン基、インドリレン基、カルバゾリレン基、アクリジニレン基、チオフェニレン基、ビピリジレン基、オキサジアゾリレン基等が挙げられる。
【0038】
における、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基の水素原子は、他の置換基で置換されていてもよい。置換基の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、オキソ基、アリールオキシ基、アリールオキシカルボニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、置換アミノ基、イミノ基、ニトロ基、シアノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、アリールチオ基、アリールスルホニル基等が挙げられる。
【0039】
は、さらに好ましくは、置換又は未置換の主鎖炭素数1〜4個の飽和脂肪族炭化水素基、置換又は未置換の主鎖炭素数2〜4個の不飽和脂肪族炭化水素基、置換又は未置換の環炭素数6〜10個の芳香族炭化水素基、若しくは置換又は未置換の環炭素数3〜9個の芳香族複素環基である。Rは、特に好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヒドロキシエチレン基、ビニレン基、ビスヒドロキシエチレン基、フェニレン基、ナフチレン基、カルボキシフェニレン基、ジカルボキシフェニレン基、及びピリジレン基が挙げられる。
【0040】
は、例えば置換又は未置換の炭素数1〜18個、好ましくは1〜5個の1価の脂肪族炭化水素基、置換又は未置換の炭素数6〜18個、好ましくは6〜12個の1価の芳香族炭化水素基、若しくは、置換又は未置換の炭素数2〜18個、好ましくは2〜11個の1価の芳香族複素環基である。脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は芳香族複素環基の例は、Rで挙げたものと同様である。脂肪族炭化水素基は、直鎖でも分岐鎖でもよい。
【0041】
における、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基の水素原子は、他の置換基によって置換されていてもよい。置換基の例は、Rで挙げたものと同様である。
【0042】
は、さらに好ましくは、置換又は未置換の主鎖炭素数1〜3個の飽和脂肪族基、若しくは置換又は未置換の主鎖炭素数2〜4個の不飽和脂肪族基である。Rは、特に好ましくはヒドロキシ基又はメチル基である。
【0043】
化学式(2)のカルボン酸の好ましい例として、化学式(3):
【化9】
[式中、Rは置換又は未置換の炭素数1〜18個、好ましくは1〜5個の2価の脂肪族炭化水素基を示す。]
で表されるカルボン酸(以下、グループIIという)である。
【0044】
前記脂肪族炭化水素基の例は、Rで挙げたものと同様である。脂肪族炭化水素基は、直鎖でも分岐鎖でもよい。Rにおける、脂肪族炭化水素基の水素原子は、他の置換基で置換されていてもよい。置換基の例は、Rに挙げたものと同様である。
【0045】
は、さらに好ましくは、主鎖炭素数1〜4個の脂肪族炭化水素基である。Rは、特に好ましくはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヒドロキシエチレン基、ビスヒドロキシエチレン基及びビニレン基である。
【0046】
グループIIのカルボン酸の具体例には、化学式:
【化10】
で示されるアジピン酸、化学式:
【化11】
で示されるフマル酸、化学式:
【化12】
で示されるコハク酸、化学式:
【化13】
で示されるリンゴ酸、化学式:
【化14】
で示されるグルタル酸、化学式:
【化15】
で示されるマロン酸、化学式:
【化16】
で示されるマレイン酸、化学式:
【化17】
で示される酒石酸等が挙げられる。
【0047】
特に、アジピン酸、フマル酸、コハク酸及び酒石酸は、これらの銀塩又は銀錯体とクレアチニンとを含む水溶液を乾燥させた時に光安定性に優れた点で好ましい。
【0048】
化学式(2)で表されるカルボン酸の別の好ましい例として、2個以上のカルボシキル基を有する芳香族カルボン酸又は芳香族複素環カルボン酸(以下、グループIIIという)がある。
【0049】
グループIIIのカルボン酸の具体例には、化学式:
【化18】
で示されるフタル酸、化学式:
【化19】
で示されるトリメリット酸、化学式:
【化20】
で示されるルチジン酸、化学式:
【化21】
で示されるピロメリット酸、化学式:
【化22】
で示されるイソフタル酸、化学式:
【化23】
で示されるテレフタル酸が挙げられる。
【0050】
特に、フタル酸、トリメリット酸、ルチジン酸及びピロメリット酸は、これらの銀塩又は銀錯体とクレアチニンとを含む水溶液が優れた光安定性を有する点で好ましい。
【0051】
また、化学式(1)や化学式(2)で表されないカルボン酸(以下、グループIVという)として、化学式:
【化24】
で示されるピルビン酸、化学式:
【化25】
で示されるグリコール酸、化学式:
【化26】
で示される酢酸、化学式:
【化27】
で示される酪酸、化学式:
【化28】
で示されるサリチル酸等が挙げられる。
【0052】
本発明の組成物のもう一つの必須成分であるクレアチニンは、以下の化学式:
【化29】
で示される分子量113.12の水溶性化合物である。
【0053】
本発明の組成物は、酸化銀、銀塩、又は銀錯体のいずれか1種以上の化合物中の銀(A)とクレアチニン(B)とのモル比(B)/(A)が、2〜80であり、好ましくは2〜80であり、より好ましくは2〜30であり、特に好ましくは3〜25である。上記モル比が2未満であると、抗ウイルス用組成物の溶解状態及び/又は乾固状態での耐光性が改善されない、溶解性が低下するために抗ウイルス用組成物を高濃度に調製できない等の問題がある。上記モル比が高すぎるとクレアチニン濃度増加によるコストアップやクレアチニンの溶解度が問題になる。よって、モル比80を上限とする。
【0054】
本発明の組成物は、酸化銀、銀塩、又は銀錯体のいずれか1種以上の化合物とクレアチニンとを水性媒体に添加することにより得られる。別法として、無機酸、カルボン酸等の酸及びクレアチニンを水性媒体に添加し、次いで、硝酸銀、酸化銀等の銀化合物又はその溶液を添加してもよい。また、前記銀化合物及びクレアチニンを水性媒体に溶かした後、前記酸を添加してもよい。水性媒体の例には、水、水とアルコール等の有機媒体との混合物があり、好ましくは水である。
【0055】
前記酸化銀を使用する場合、無機酸、カルボン酸等の酸を添加することが溶液状態の耐光性をさらに改善する点で好ましい。酸/銀のモル当量は、好ましくは0.2〜4、より好ましくは0.3〜4であり、特に好ましくは0.3〜2である。
【0056】
本発明の組成物のpHは、通常、1〜12であり、好ましくは3〜9である。
【0057】
本発明の組成物を適用するウイルスは、特に限定されない。ウイルスは、エンベロープを持たないDNAタイプ及びRNAタイプのウイルス、並びにエンベロープを持つDNAタイプ及びRNAタイプのウイルスを含む。エンベロープを持たないRNAタイプの具体例としては、ノロウイルス、ポリオウイルス、エコーウイルス、A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、ライノウイルス、アストロウイルス、ロタウイルス、コクサッキーウイルス、エンテロウイルス、サポウイルス等が挙げられる。エンベロープを持たないDNAタイプの具体例としては、アデノウイルス、B19ウイルス、パホバウイルス、ヒトパピローバウイルス等が挙げられる。エンベロープを有するRNAタイプの具体例としては、インフルエンザウイルス、SARSコロナウイルス、RSウイルス、ムンプスウイルス、ラッサウイルス、デングウイルス、風疹ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、麻疹ウイルス、C型肝炎ウイルス、エボラウイルス、黄熱ウイルス、日本脳炎ウイルス等が挙げられる。エンベロープを有するDNAタイプの具体例としては、ヒトヘルペスウイルス、B型肝炎ウイルス、ワクシニアウイルス等が挙げられる。本発明の組成物は、特にノロウイルスのようなエンベロープを持たないウイルスを不活性化するのにも有効である。
【0058】
本発明の組成物が抗ウイルス性を発揮するために、銀の含有量の下限は、ウイルスにもよるが、通常、0.001mM以上であり、好ましくは0.005mM以上、特に好ましくは0.01mM以上である。含有量が低すぎると充分な抗ウイルス性が得られない。また、銀の含有量の上限は、通常、100mM以下、好ましくは50mM以下、特に好ましくは10mM以下である。含有量が高すぎると不溶物が生じる場合がある。
【0059】
本発明の組成物には、上記必須成分の他に、抗ウイルス用途で利用されている助剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で使用することができる。このような助剤の例には、公知の抗ウイルス剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、乳化剤、香料、着色料、水溶性高分子、アルコール類、蛍光増白剤、粘度調整剤、発泡剤等が挙げられる。
【0060】
本発明の組成物の形態は、特に制限されない。形態には、水溶液、スプレー、クリーム、ペースト、ゲル、ジェル等を含む。本発明の組成物は、水溶性であることから、水溶液やスプレー形態の抗ウイルス消毒剤として使用することが特に有利である。具体的には、本発明の組成物を、水、アルコール等の水性溶媒に本発明の組成物を溶解又は分散させ、必要に応じて、香料、マスキング剤、消臭剤等を添加する。抗ウイルス消毒剤は、手動又は自動のディスペンサーに詰められた状態で手指等を消毒する、紙、不織布、布、スポンジ等の担体に含浸した状態(ウエットワイパー等)で便座、台所、テーブル、床等の基体を消毒するのに用いられる。
【0061】
本発明の組成物は、また、医薬品、農薬、除菌剤等の医薬品及び医薬部外品;空気清浄化関連用品、消臭剤、香粧品、洗浄剤、樹脂成形物、コーティング剤、接着剤等の工業製品;食品、飼料等の飲食品へ抗ウイルス活性を付与するために添加することができる。以下に、各種製品へ本発明の組成物を添加する方法と使用態様を例示する。
【0062】
本発明の組成物を除菌剤や消臭剤に添加して、それらに抗ウイルス性を付与する場合、前記消毒剤と同様に水性溶媒に本発明の組成物を溶解又は分散させ、適宜、香料、マスキング剤等を添加する。本発明により抗ウイルス性の付与された除菌剤や消臭剤は、例えば、スプレーに詰められた後、室内空間(居室、トイレ等)、衣類、寝具、カーテン、家具等に噴霧される。
【0063】
本発明の組成物を、ポリウレタンやメラミン樹脂でてきた樹脂成形物中に練り込んで使用することもできる。予めポリオール、製泡剤、発泡剤、触媒等を混合した原液に本発明の組成物を配合した後、イソシアネート化合物と混合することにより、発泡硬化させてポリウレタン発泡体を製造する。ポリオール成分の一部と本発明の組成物を予め混合してマスターバッチを調製し、これを発泡直前に他の成分と混合して、発泡体を製造することもできる。また、硬化前のメラミン樹脂液に本発明の組成物を溶解又は分散させておき、これを化粧紙等に含浸させた後、加熱硬化させて化粧板を形成する。硬化前のメラミン樹脂液に充填剤を加えて、加圧・加熱硬化させて、器等の形状に成形することもできる。発泡体は、例えばマットレス、枕等の寝具、泡クリーナー等として用いられ、メラミン樹脂は、什器や化粧板として用いられる。
【0064】
本発明の組成物を、マスク、空気清浄機、空調機等の空気清浄化関連用品に添加して抗ウイルス性を付与する場合、不織布や発泡体でできたマスク、フィルター、スクラバー液等の空気清浄用部材に本発明の組成物の水溶液又は水分散液を含浸、滴下、噴霧又は添加する、あるいはマスクやフィルターの基となる繊維や発泡体自体に本発明の組成物を練り込むことで、抗ウイルス用マスク、抗ウイルス用フィルターや抗ウイルス用スクラバー液を作製する。
【0065】
本発明の組成物を、塗料、インキ等のコーティング剤に添加したり、樹脂成型物中に練り込んだりして抗ウイルス性を付与することもできる。これらが使用される場所は、例えば住居、オフィス、自動車、鉄道車両、航空機の壁、床、天井といった内装材;並びにテーブル、テーブルクロス、キッチン台等の什器が挙げられる。また、塗料、インキ等のコーティング剤に添加する場合、例えばメラミン樹脂のような水溶性樹脂、あるいはアクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等の水性分散液に添加するとよい。
【0066】
本発明の抗ウイルス用組成物、又はそれを含むことにより抗ウイルス性の付与される各種製品における本組成物の配合量は、銀含有量として、通常、0.001〜100mMでよく、好ましくは0.005〜50mM、特に好ましくは0.01〜10mMである。
【実施例】
【0067】
以下に、本発明の実施例を示して、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
(1)抗ウイルス用組成物の調製
酸化銀0.054g(0.233mmol)、クレアチニン0.210g(1.854mmol)及びフマル酸0.026g(0.230mmol)を水100mLに溶解することにより、クレアチン/銀のモル比が4.0、そして酸/銀のモル比が0.5である組成物を得た(銀濃度4.66mM)。この組成物の水溶性は良好であった。対照として、本発明の組成物に代えて0.85%塩化ナトリウム含有リン酸緩衝液(0.313M、pH 7.2)を試験サンプルとして調製した。
【0068】
(2)組成物の抗ウイルス性試験
本発明の組成物のノロウイルスに対する抗ウイルス性を評価する試験を行なった。ヒトノロウイルスは、現在、細胞培養や小動物での増殖方法が確立されていない。そのため、ヒトウイルスに対する薬剤の有効性評価等はノロウイルスと同じカリシウイルス科に属し培養細胞での培養に成功しているネコカリシウイルスが代替ウイルスとして主に利用されている。米国の環境保護庁(EPA)の抗微生物剤部局は、抗ウイルス効果試験方法としてノロウイルスの不活化試験にネコカリシウイルスを用いるプロトコルを作成している(非特許文献2)。本実施例においても、本発明の組成物のノロウイルスに対する抗ウイルス性を評価するために、ネコカリシウイルスF−9株(Feline calicivirus、StrainF−9、ATCC VR−782)を用いた。
【0069】
まず、上記ウイルスをCRFK細胞(ネコ腎臓由来細胞)で培養することにより、ウイルス感染価3.1×10PFU/mLの試験ウイルス懸濁液を得た。この試験ウイルス懸濁液0.1mLを、対照又は本発明の組成物を含む試験サンプル10mLへ加えて、25℃で5分間放置した。放置後の混合液0.5mLを、4.5mLの不活性化剤(SCDLP培地)に加えて混合した(処理後試験ウイルス懸濁液)。試験サンプル処理後のウイルス感染価の定量をプラク測定法にて行なった。具体的な手順は、以下である。シート状に培養したCRFK細胞に処理後試験ウイルス懸濁液を接触した後、全体を寒天で被いウイルスが広がらないように培養した。ウイルスに感染した細胞は形状が変化する(細胞変性)ため、この感染した細胞(プラーク)を計測するこことでウイルスの感染価を定量した。結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
PFU=plaque forming units
【0071】
表1に示すとおり、実施例1の組成物(銀濃度4.66mM)は、ウイルス試験液のウイルス感染価を、対照の2.1×10PFU/mLに対し、1×10未満とすることができ、残存感染価が0.5%未満であることを確認した。これから、本発明の組成物には抗ウイルス性があることが検証された。
【0072】
〔実施例2〕
(1)抗ウイルス用組成物の調製
酸化銀0.56mg(0.0024mmol)、クレアチニン11mg(0.093mmol)及びフマル酸0.28mg(0.0024mmol)を水100mLに溶解することにより、クレアチン/銀のモル比が20、そして酸/銀のモル比が0.5である組成物(銀濃度0.048mM)を得た。この組成物の水溶性は良好であった。対照として、本発明の組成物に代えて蒸留水からなる試験サンプルも調製した。
【0073】
(2)組成物の抗ウイルス性試験
上記組成物の抗ウイルス性を確認するため、実施例1と同様に、ネコカリシウイルスF−9株を用いた抗ウイルス性試験を実施した。まず、上記ウイルスをCRFK細胞(ネコ腎臓由来細胞)で培養することにより、ウイルス感染価6.0×10PFU/mLの試験ウイルス懸濁液を得た。
【0074】
次に、対照又は本発明の組成物からなる試験サンプル10mLへ、試験ウイルス懸濁液0.1mLを加えて、25℃で5分間放置した。放置後の混合液0.5mLを、4.5mLの不活性化剤(SCDLP培地)に加えて混合した。試験サンプル処理後のウイルス感染価の定量をプラック測定法にて行なった。結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示すとおり、実施例2の組成物は、ウイルス試験液のウイルス感染価を、対照の5.1×10PFU/mLに対し、2×10PFU/mLとすることができ、残存感染価がわずか0.4%であることを確認した。これから、本発明の組成物には、銀濃度0.048mMという低濃度でも抗ウイルス性が発揮されることが検証された。