特許第6373648号(P6373648)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧

特許6373648耐油性ポリスチレン系樹脂シートおよびその成形容器
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373648
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】耐油性ポリスチレン系樹脂シートおよびその成形容器
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/04 20060101AFI20180806BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20180806BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   C08J7/04 BCET
   B32B27/30 B
   B32B27/30 102
   B65D1/00 111
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-117869(P2014-117869)
(22)【出願日】2014年6月6日
(65)【公開番号】特開2015-229330(P2015-229330A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2017年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】大藤 千里
(72)【発明者】
【氏名】吉村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】増田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】金子 英利香
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−240676(JP,A)
【文献】 特開昭53−021229(JP,A)
【文献】 特開2013−082861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/04−7/06
B32B 1/00−43/00
B65D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸方向に延伸したポリスチレン系樹脂シートの少なくとも片方の面に、アセタール化度が5〜40mol%のポリビニルアセタール樹脂の塗膜を形成させてなる油性ポリスチレン系樹脂シートであり、
前記ポリスチレン系樹脂シートの延伸倍率が1.5〜5.0倍、最大配向緩和応力が0.2〜1.0MPaであり、
前記ポリスチレン系樹脂シートを構成するポリスチレン系樹脂が、スチレン系単量体を70〜97質量%、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸の少なくともいずれか1成分を3〜15質量%含む単量体の重合体であり、
前記ポリスチレン系樹脂の重量平均分子量が15〜40万であり、
前記ポリスチレン系樹脂シートの最大配向緩和応力のピーク温度が120〜150℃であり、
前記ポリビニルアセタール樹脂が、平均重合度500〜4500のポリビニルアルコールにアルデヒドを縮合反応させてアセタール化することにより得られたものであり、
前記ポリビニルアセタール樹脂において、アセタール化された全構成単位のうち、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が70%以上であり、
前記ポリビニルアセタール樹脂の塗工量が50〜2000mg/mである、耐油性ポリスチレン系樹脂シート。
【請求項2】
請求項1に記載の耐油性ポリスチレン系樹脂シートを成形してなる容器。
【請求項3】
成形してなる容器が蓋材であることを特徴とする請求項記載の容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジで使用可能な耐油性ポリスチレン系樹脂シートおよびそれから成形してなる容器に関する。さらに詳しくは、熱板成形、真空成形などの方法での成形に適しており、防曇性に優れ、臭気の問題がなく、耐熱性、耐油性に優れているので、特に電子レンジで加熱する食品の包装容器の用途に好適に用いることができる、耐油性ポリスチレン系樹脂シートおよびそれから成形された容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレンの二軸延伸シートは、透明性、剛性に優れることから、主に軽量容器等の成形品に使用されている。しかしながら、これらの容器は耐熱性に劣ることから、電子レンジで加熱される食品包装容器の用途にはあまり使用されていない。また、電子レンジで加熱される食品は油を含むものが多く、この用途には耐熱性だけでなく耐油性も必要とされるが、ポリスチレンは一般的に油に対する耐性が低い。ポリスチレンの二軸延伸シートは、油と接した状態にあると、白化したり、場合によっては亀裂が生じたりする。高温になるほど油の影響を強く受けるため、特に電子レンジで加熱される食品の用途には、高い耐熱性とともに、耐油性が必要となる。
ポリスチレンの耐熱性を高める方法として、スチレン−メタクリル酸共重合体やスチレン−無水マレイン酸共重合体等の耐熱性スチレン樹脂を使用した耐熱性ポリスチレン系樹脂シートが提案されている(特許文献1〜4)。しかし、特許文献1〜4に記載の延伸シートを熱成形して得た容器は、耐熱性以外の物性に劣る場合があった。例えばシート強度が低く割れやすかったり、十分な耐熱性が得られず加熱した際に容器が変形したりする問題があった。
一方、耐油性を高める方法としては、異素材を併用したり、親水性高分子や熱可塑性エマルジョンの塗膜を形成したりする方法が提案されている(特許文献5、6)。しかし、特許文献5、6に記載の方法では、透明性が不十分なうえ、異素材が混入しているために原料のリサイクルが困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−104817号公報
【特許文献2】特開2001−294721号公報
【特許文献3】特開2002−36353号公報
【特許文献4】特開2002−225127号公報
【特許文献5】特開昭59−57748号公報
【特許文献6】特開2004−292745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ポリスチレン系樹脂シートに成形性やシート強度を損なうことなく耐熱性と耐油性を付与することを目的になされたものである。さらに詳しくは、電子レンジで加熱する食品の包装容器として好適なポリスチレン系樹脂シートならびにそれから形成される包装容器を提供することを目的になされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の課題を解決すべく耐熱性と強度が得られるポリスチレン系樹脂の組成ならびに分子量そして加工条件を調査し、さらに得られたポリスチレン系樹脂シートに耐油性を付与するための塗工剤について鋭意検討を重ねた結果、ポリスチレン系樹脂を選定し、シート製膜条件によって延伸倍率や配向緩和応力を調整し、得られたポリスチレン系樹脂シートにアセタール化度が適切なポリビニルアセタール樹脂を塗工することによって、その目的が達成されることを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、
(1)ポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、アセタール化度が5〜40mol%のポリビニルアセタール樹脂の塗膜を形成させてなることを特徴とする耐油性ポリスチレン系樹脂シートに関する。
(2)ポリスチレン系樹脂シートが二軸方向に延伸したシートであって、該シートの延伸倍率が1.5〜5.0倍であり、最大配向緩和応力が0.2〜1.0MPaであることを特徴とする上記(1)に記載の耐油性ポリスチレン系樹脂シートに関する。
(3)ポリスチレン系樹脂が、スチレン系単量体を70〜97質量%含み、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸の少なくともいずれか1成分を3〜15質量%含むものであり、且つ重量平均分子量が15〜40万であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の耐油性ポリスチレン系樹脂シートに関する。
(4)ポリスチレン系樹脂シートの最大配向緩和応力のピーク温度が120〜150℃であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の耐油性ポリスチレン系樹脂シートに関する。
(5)ポリビニルアセタール樹脂が、平均重合度が500〜4500のポリビニルアルコールにアルデヒドを縮合反応させてアセタール化することにより得られたものであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の耐油性ポリスチレン系樹脂シートに関する。
(6)ポリビニルアセタール樹脂が、アセタール化された全構成単位のうち、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が70%以上であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の耐油性ポリスチレン系樹脂シートに関する。
(7)ポリビニルアセタール樹脂の塗工量が50〜2000mg/mであることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の耐油性ポリスチレン系樹脂シートに関する。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の耐油性ポリスチレン系樹脂シートを成形してなる容器に関する。
(9)成形してなる容器が蓋材であることを特徴とする上記(8)記載の容器に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、耐熱性、剛性に優れる上、耐油性にも優れるポリスチレン系樹脂シートが提供できる。熱板成形や真空成形等の方法で成形された容器により、油を含む食品を電子レンジで加熱する用途にも好適に使用できる食品用容器の蓋材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の耐油性ポリスチレン系樹脂シートを構成するポリスチレン系樹脂シートは、ポリスチレン系樹脂を二軸延伸することによって得られる。さらに、シートおよび成形品の強度を確保するために、延伸倍率と最大配向緩和応力を適切な範囲に調整することが必要となる。ポリスチレン系樹脂を延伸し分子鎖を配向させると、シートの強度が増す。延伸によって分子鎖を配向させるためには、延伸倍率を高くするだけでなく、適切な温度で延伸することが必要となる。一般的には、樹脂のビカット軟化点+30℃程度の温度で延伸することが好ましい。延伸温度が低すぎると配向がかかり過ぎ、硬く脆くなってしまう。また、延伸温度が高すぎると配向がかからず、耐衝撃性に劣る。延伸倍率と温度を合わせることで、シートの最大配向緩和応力を適切な範囲におさめることができ、十分なシート強度が得られるようになる。
本発明のポリスチレン系樹脂シートは、延伸倍率が1.5〜5.0倍である。延伸倍率が1.5倍より小さい場合、十分な延伸配向効果が得られず、シートの強度が不足する。また、5.0倍より大きい場合、延伸時の寸法変化が大きいため、厚みの制御が難しくなる。延伸倍率は1.8〜4.5倍がより好ましい。
【0008】
本発明のポリスチレン系樹脂シートは、最大配向緩和応力が0.2〜1.0MPaである。最大配向緩和応力は、ASTMD1504に準じて測定することができる。最大配向緩和応力が0.2MPaより小さいと、シートが脆くなり耐衝撃性が不足し、指でシートを曲げても割れてしまう耐折性の低いシートとなる。また、最大配向緩和応力が1.0MPaより大きいと、硬く脆くなる傾向にあり、引き裂き強度が低下し裂けやすいシートとなり、スリット加工時等、ノッチに張力がかかったときに横裂けが生じやすく、実用的でない。最大配向緩和応力は、0.4〜0.9MPaがより好ましい。さらには、縦と横の最大配向緩和応力は同程度であることが強度確保には必要である。縦と横の最大配向緩和応力の差が大きいと、シートの方向性が強く存在し、一方向の裂けに対する強度が弱くなる傾向が見られる。これはクラック発生時に応力が配向の低い方向に集中して割れが成長しやすく、配向の低い方向に沿って破断しやすくなるためと考えられる。
【0009】
本発明の耐油性ポリスチレン系樹脂シートを構成するポリスチレン系樹脂は、スチレン系単量体70〜97質量%と、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸の少なくともいずれか1成分3〜15質量%とをラジカル共重合して得られる。ラジカル共重合法としては、一般的なラジカル共重合法が採用でき、具体的には懸濁重合、塊状重合、溶液重合が挙げられる。好ましくは懸濁重合により得られる。スチレン系単量体としては、スチレンあるいはスチレン以外にもα−メチルスチレンまたはベンゼン核の一部がアルキル基で置換されたスチレンを使用できるが、特に好ましくはスチレンである。本発明のポリスチレン系樹脂は、スチレン系単量体が70質量%未満では成形加工性が劣るものとなり、97質量%を超えると耐熱性が劣るものとなって好ましくない。より好ましい範囲は、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸の少なくともいずれか1成分が4〜14質量%、更に好ましくは7〜13質量%である。メタクリル酸とメタクリル酸メチルを併用する場合は、耐熱性と機械的強度の両方が向上するため特に好ましく、それぞれの含有量が上記範囲内であることが好ましい。なお、単量体は重合初期に全量存在させて重合しても、重合途中に単量体を添加しながら重合しても差し支えない。また、本発明のポリスチレン系樹脂には、ポリスチレン系樹脂の耐熱性、成形性、剛性を損なわない範囲で、他の共重合性単量体が共重合されていてもよい。他の共重合性単量体とは、スチレン系単量体と共重合可能な単量体であれば特に制限はなく、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のラジカル重合性多塩基酸およびその無水物(無水マレイン酸を除く)、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド系単量体、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体(メタクリル酸メチルを除く)、あるいは(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルニトリル等の単量体が例示できる。ポリスチレン系樹脂重合時における、他の共重合性単量体は0〜10質量%の範囲が好ましい。
【0010】
本発明のポリスチレン系樹脂の重量平均分子量(Mw)は15〜40万である。Mwは光散乱法、GPC法、超遠心法等によって測定することができる。Mwが15万より小さい場合、分子の絡み合いが不十分となり、延伸配向効果が十分に得られ難くなるため、ポリスチレン系樹脂は脆く、該樹脂から得られるシートやその成形品も脆くなる。また、Mwが40万より大きい場合、溶融粘度が大きくなり、シートにする際の成膜性やその後の二次加工における成形性に劣る。Mwは15〜35万の範囲がより好ましい。
【0011】
本発明のポリスチレン系樹脂には、必要に応じて、加工助剤、酸化防止剤、滑剤、離型剤、可塑剤、含量、染料、無機フィラー、帯電防止剤、摺動剤等公知の添加剤を含有させることもできる。加工助剤としては、溶融張力を高める目的で、重量平均分子量が150万以上のアクリル系高分子が好適に用いられる。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤が好適に用いられる。
また、本発明のポリスチレン系樹脂には、ブタジエン系ゴムが含まれていてもよい。ブタジエン系ゴムとしては、ハイシスポリブタジエン、ローシスポリブタジエン、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンブロックゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックゴム、部分水添ポリブタジエンゴム等が挙げられる。
【0012】
本発明のポリスチレン系樹脂シートは、最大配向緩和応力のピーク温度が120〜150℃である。最大配向緩和応力は、ASTMD1504に準じて測定し、最大配向緩和応力のピーク温度は、シート押出方向(縦方向)とそれに垂直な方向(横方向)での配向緩和応力をそれぞれ測定し、その最大値を示す温度として求めることができる。最大配向緩和応力のピーク温度が120℃より小さいと、成形後の容器の耐熱性が不足し、電子レンジで加熱する際、容器が収縮し変形する。また、最大配向緩和応力のピーク温度が150℃より大きいと、シートを延伸する際に破断等を生じやすい。最大配向緩和応力のピーク温度は、121〜145℃がより好ましい。
【0013】
本発明のポリスチレン系樹脂シートは、コロナ処理、火炎処理、オゾン処理等の親水化処理を施すこともできる。親水化処理を施すことで、コーティング液が濡れやすくなり、はじきが起こりにくくなる。
【0014】
本発明の耐油性ポリスチレン系樹脂シートは、上記のポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、ポリビニルアセタール樹脂の塗膜が形成されたものである。
本発明の耐油性ポリスチレン系樹脂シートに使用されるポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールにアルデヒドを縮合反応させてアセタール化することにより得ることができるが、そのアセタール化度は5〜40mol%である。好ましくは5〜30mol%、より好ましくは5〜20mol%である。アセタール化度は、例えば13C核磁気共鳴スペクトル法に基づいて測定される。アセタール化度が5mol%より小さいと、耐水性が悪くなり、油だけでなく水分を含む食品が付着した状態で加熱されると塗膜が水分により膨潤、溶解し、耐油性が維持できない。一方、アセタール化度が40mol%よりも大きいと、疎水性が強まるため耐水性は向上するが、防曇性が得られなくなり、得られたシートを容器にした時、包装後に内容物を視認しにくくなるため好ましくない。
【0015】
本発明の耐油性ポリスチレン系樹脂シートに使用されるポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールにアルデヒドを縮合反応させて得られるが、ポリビニルアルコールとしては、平均重合度が500〜4500のものが用いられる。好ましくは600〜4200、より好ましくは600〜3500である。平均重合度が500未満では、ポリビニルアルコールの合成が困難であり、平均重合度が4500を超えると溶液粘度が高くなりすぎて、この用途における実用性が低下する。
【0016】
また、ポリビニルアルコールのケン化度は75〜99.8mol%のものが用いられる。ケン化度が75mol%未満では、反応の際の溶解性が十分でなく、99.8mol%を超えると、ポリビニルアルコール自体の合成が困難となる。
【0017】
本発明の耐油性ポリスチレン系樹脂シートに使用されるポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化された全構成単位のうち、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合が70%以上である。芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合は、例えば13C核磁気共鳴スペクトル法に基づいて測定される。芳香族アルデヒドは疎水性が強いため、低アセタール化度でも耐水性に優れており、またそのために水酸基を多く残存し、親水性にも優れ防曇性を発揮することができる。
【0018】
芳香族アルデヒドとしては、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、その他のアルキル置換ベンズアルデヒド、クロルベンズアルデヒド、その他のハロゲン置換ベンズアルデヒド等が挙げられる。
【0019】
上述した芳香族アルデヒド以外のアルデヒドは特に限定されず、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、オクチルアルデヒド、デシルアルデヒド等の脂肪族アルデヒド、アミルアルデヒド、グリオキザール等が挙げられる。
【0020】
本発明の耐油性ポリスチレン系樹脂シートは、コーティング液としてポリビニルアセタール樹脂の水溶液がポリスチレン系樹脂シート上に塗工された後、乾燥されて、ポリビニルアセタール樹脂の塗膜が形成される。塗工方式としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバース方式、オフセットグラビア方式等が挙げられ、コーターとしては、グラビアコーター、リバースグラビアコーター、エアナイフコーター、デイップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を用いることができる。乾燥方法としては、熱風乾燥や赤外線乾燥等を用いることができる。
【0021】
本発明の耐油性ポリスチレン系樹脂シートにおいて形成されるポリビニルアセタール樹脂の塗工量は50〜2000mg/mであり、好ましくは100〜1500mg/m、さらに好ましくは100〜1000mg/mである。50mg/mより少ないと、容器成形の際に延伸されて欠陥を生じる可能性があり、十分な耐油性が得られない。2000mg/mより多いと、ブロッキングを生じ、外観不良となる可能性がある。
【0022】
コーティング液におけるポリビニルアセタール樹脂の濃度は、0.5〜8.0質量%であることが好ましい。0.5質量%より低いと、十分な厚みの塗膜を形成するためには、多量のコーティング液を塗工しなければならず、乾燥効率が悪い。8.0質量%より高いと、コーティング液の粘度が高くなり均一な厚みの塗膜を得ることが難しくなる。
【0023】
本発明の耐油性ポリスチレン系樹脂シートは、容器の蓋材に成形され使用されるが、蓋の内側にポリビニルアセタール樹脂の塗膜が形成された面が向くように成形される。ポリビニルアセタール樹脂は親水性であるため、食品を入れた容器を電子レンジで加熱する際、水分が蓋内側に付着しても、付着した水滴が濡れ広がるため曇りを生じにくい。
【0024】
本発明の耐油性ポリスチレン系樹脂シートは、耐油性に優れるため、ポリスチレン系樹脂に対する侵食力が最も強い中鎖脂肪酸油(MCT)をはじめ、様々な食用油に対して優れた耐油性能を示す。
【0025】
ポリビニルアセタール樹脂からなるコーティング液は、本発明の耐油性ポリスチレン系樹脂の耐油性や透明性等の諸物性を損なわない範囲で、消泡剤、界面活性剤、防腐剤、光安定剤等公知の添加剤を含有させることもできる。この場合、添加剤の含有量は20.0質量%以下が好ましく、さらには10.0質量%以下が好ましい。また、ポリビニルアセタール樹脂からなるコーティング液は、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が高いほど、水への溶解性が低下し析出を生じやすいため、水溶性の有機溶媒を含むことが好ましい。水溶性の有機溶媒としては、アルコール、アセトン等が挙げられる。この場合、水溶性の有機溶媒の含有量は、コーティング液の溶媒において65.0質量%以下が好ましく、さらには60.0質量%以下が好ましい。
【0026】
本発明の耐油性ポリスチレン系樹脂シートは、ポリビニルアセタール樹脂の塗膜が形成された面とは反対の面に、離型剤が塗工されていてもよい。離型剤としては、シリコーンエマルジョン、ショ糖脂肪酸エステル、水溶性高分子、界面活性剤からなるコーティング液を使用することができる。この場合、シリコーンエマルジョンとしては、ポリシロキサン骨格で、両端または片端がメチル基、あるいはフェニル基であるシリコーンオイルからなるものが有効である。ショ糖脂肪酸エステルとしては、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、モンタン酸等の炭素数6〜30の飽和脂肪酸のエステルや、リンデン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、イソオレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸等の炭素数10〜24の不飽和脂肪酸のエステルが挙げられ、これら脂肪酸エステルは単独でも併用してもよい。その中でも炭素数が10〜14の脂肪酸のエステルが有効である。水溶性高分子としては、メチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコール共重合体樹脂が好ましい。界面活性剤としては特に制限はないが、シート表面に静電気が帯電しやすいため、帯電防止性を発揮する界面活性剤がよい。その中でポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキル硫酸エステル塩が好ましい。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの場合の脂肪酸としては、例えばカプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、モンタン酸等の炭素数6〜30の飽和脂肪酸、リンデン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、イソオレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸などの炭素数10〜24の不飽和脂肪酸が挙げられる。その中でも炭素数が10〜14の脂肪酸が好ましい。
【0027】
本発明の耐油性ポリスチレン系樹脂シートは、公知の手法により容器とすることができる。例えば、シートを加熱してやわらかくし、型の中の空気を吸引し大気圧で型に押し付けて成形する真空成形や、真空成形で型の中の空気を吸引する時、同時に上から圧縮空気を送ってシートを金型に密着させる圧空成形等の方法が挙げられる。
【0028】
本発明の耐油性ポリスチレン系樹脂シートは、透明性が高いため、食品等を包む容器の蓋材とすることができる。このとき、食品に接する側にポリビニルアセタール樹脂を塗工した面が向くようにポリスチレン系樹脂シートから蓋材を成形することで、食品に含まれる油分が容器に付着した状態で流通したり、電子レンジで加熱されたりしても、油分によってポリスチレン系樹脂シートが劣化することなく、包装状態を維持することができる。また、本発明のポリビニルアセタール樹脂は親水性があるため、防曇性を発現することができ、内容物の視認性が高い。
【実施例】
【0029】
[アセタール化度の測定]
ポリビニルアセタール樹脂をDMSO−d6(ジメチルスルホキサイド)に溶解させて、13C−NMRスペクトルを測定し、ポリビニルアセタール樹脂におけるエステル化されている水酸基が結合しているメチン基に由来するピーク面積S1、水酸基が結合しているメチン基に由来するピーク面積S2、アルデヒドによりアセタール化された部分のメチン基に由来するピーク面積S3を下記式(1)に代入して、アセタール化度を算出した。
アセタール化度(mol%)=100×(S3)/(S1+S2+S3) ・・・式(1)
[芳香族アルデヒドの割合の測定]
ポリビニルアセタール樹脂において、アセタール化された全構成単位のうち、芳香族アルデヒドによってアセタール化された構成単位の割合のことを芳香族アルデヒドの割合とする。
芳香族アルデヒドの割合は、ポリビニルアセタール樹脂をDMSO−d6(ジメチルスルホキサイド)に溶解させて、13C−NMRスペクトルを測定し、ポリビニルアセタール樹脂におけるベンゼン環が結合しているメチン基に由来するピーク面積S4、アルキル基が結合しているメチン基に由来するピーク面積S5を下記式(2)に代入して算出した。
芳香族アルデヒドの割合(%)=100×(S4)/(S4+S5) ・・・式(2)
[重量平均分子量の測定]
テトラヒドロフランを溶媒としてポリスチレン系樹脂を溶解し、2質量%の溶液を作製し測定サンプルとした。カラムとしてPLgel MIXED−B(Polymer Labolatories社製)を3本直列でつなぎ、移動相としてテトラヒドロフランを使用し、SYSTEM−21Shodex(昭和電工社製)を使って、40℃にて重量平均分子量を測定した。
[シート成膜性の評価]
φ40mmのシート押出し機(田辺プラスチック機械社製)で樹脂を240℃で溶融混練し、T−ダイより押出し、無延伸シートを得た。得られた無延伸シートを、二軸延伸試験装置(東洋精機社製)にて、ビカット軟化点+30℃の温度、300mm/minの速度で縦横に延伸してシートを得た。なお、ビカット軟化点は、JISK 7206:1999に準じて、昇温速度50℃/h、荷重50Nの条件で求めることができる。得られたシートの状態を目視にて下記A〜Eの5段階で評価した。
A:透明かつ平滑なシートである
B:平滑だがわずかに不透明なシートである
C:平滑ではない
D:延伸および冷却時に割れや破断が生じる
E:延伸および冷却時に割れや破断が生じシートが得られない
[配向緩和応力の測定]
ASTM D1504に準じて、ポリスチレン系樹脂シートのシート押出方向(縦方向)とそれに垂直な方向(横方向)の配向緩和応力を測定した。
[引裂き強度の評価]
JIS K 7128−2:1998に準じて、シート押出方向(縦方向)とそれに垂直な方向(横方向)の最大引き裂き荷重を測定した。縦横の平均値を求め、下記A〜Cの3段階で評価した。
A:1500N/cm以上
B:1300N/cm以上、1500N/cm未満
C:1300N/cm未満
[耐折性の評価]
ASTM D2176に準じて、シート押出方向(縦方向)とそれに垂直な方向(横方向)の耐折曲げ強さを測定した。縦横の平均値を求め、下記A〜Cの3段階で評価した。
A:10回以上
B:5回以上、10回未満
C:5回未満
[塗工外観の評価]
ポリスチレン系樹脂シートにコーティング液を塗工した後、塗工面の外観を、下記A〜Cの3段階で評価した。
A:塗工面は平滑で透明である
B:不透明さがあるが、シートを通して反対側を視認可能である
C:シートを通して反対側を視認不良である
[防曇性の評価]
(株)脇坂エンジニアリング社製の熱板成形機(HPT−460S)を用いて、ポリスチレン系樹脂シートを、弁当蓋の形状の金型(天面200×150mm、高さ30mm)で成形した。
得られた蓋容器に対応する容器本体に、1cm間隔の格子柄のシート(格子の線の太さは2mm)を貼付け、水300gを入れた後、得られた蓋容器をかぶせ、出力1500Wの電子レンジで1分間加熱した。加熱後に蓋容器を通した格子柄の見えやすさを、目視にて下記A〜Dの4段階で評価した。
A:格子柄がはっきり見える
B:わずかに格子柄が揺らいで見える
C:格子柄の揺らぎが多く、ぎらつく
D:全体的に曇った状態で、格子柄がはっきり見えない
[熱変形率の評価]
防曇性の評価にて成形した弁当蓋の容器の縦、横の寸法を測定し、110℃に設定したオーブンに30分間入れた。オーブン加熱後の容器の縦、横の寸法を測定し、縦、横それぞれについて、加熱前の寸法に対する、加熱前後での寸法差の割合を求め、熱変形率とした。縦、横の熱変形率のうち大きい方の値により、熱変形率を下記A〜Cの3段階で評価した。
A:変形率が2%未満
B:変形率が2%以上〜5%未満
C:変形率が5%以上
[電子レンジ使用適性の評価]
防曇性の評価にて成形した弁当容器を使い、蓋の内側中央に2×2cmでマヨネーズ(キューピー(株)製)を付けた。容器本体に水300gを入れ、蓋容器をかぶせて出力1500Wの電子レンジで1分間加熱した後、マヨネーズ付着部分の様子を目視にて下記A〜Cの3段階で評価した。
A:変化なし
B:白化あり
C:穴あきあり
【0030】
[実施例1]
メタクリル酸含有量が10.0質量%のスチレン−メタクリル酸共重合体(重量平均分子量20万)をφ40mmのシート押出し機(田辺プラスチック機械社製)に供給し280℃で溶融混練し、T−ダイより押出し無延伸シートを得た。得られた無延伸シートを、二軸延伸試験装置(東洋精機社製)にて、ビカット軟化点+30℃の温度にて、300mm/minの速度で縦、横方向にそれぞれ2.5倍延伸した後、厚みが0.3mmのポリスチレン系樹脂シートを得た。得られたシートの最大配向緩和応力は縦横ともに0.6MPa、最大配向緩和応力のピーク温度は131℃であった。
得られたポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、ポリビニルアセタール(重合度2000、アセタール化度9モル%、芳香族アルデヒドの割合100%)を、4.0質量%の濃度でバーコーターにて塗工し、90℃で乾燥して、300mg/mの塗膜を形成し、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得た。
得られた耐油性ポリスチレン系樹脂シートについて、成膜性、引裂き強度、耐折性、塗工外観、防曇性、熱変形率、電子レンジ使用適性を評価した。
ポリスチレン系樹脂の特性値およびシート物性、コーティング液、耐油性ポリスチレン系樹脂シートの性能評価については、表1に記載した。
[実施例2]
実施例1と同様にして得られたポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、ポリビニルアセタール(重合度2000、アセタール化度5モル%、芳香族アルデヒドの割合100%)を、4.0質量%の濃度でバーコーターにて塗工し、90℃で乾燥して、300mg/mの塗膜を形成し、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[実施例3]
実施例1と同様にして得られたポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、ポリビニルアセタール(重合度2000、アセタール化度40モル%、芳香族アルデヒドの割合100%)を、4.0質量%の濃度でバーコーターにて塗工し、90℃で乾燥して、300mg/mの塗膜を形成し、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[実施例4]
実施例1と同様にして得られたポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、ポリビニルアセタール(重合度500、アセタール化度9モル%、芳香族アルデヒドの割合100%)を、4.0質量%の濃度でバーコーターにて塗工し、90℃で乾燥して、300mg/mの塗膜を形成し、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[実施例5]
実施例1と同様にして得られたポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、ポリビニルアセタール(重合度4500、アセタール化度9モル%、芳香族アルデヒドの割合100%)を、4.0質量%の濃度でバーコーターにて塗工し、90℃で乾燥して、300mg/mの塗膜を形成し、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[実施例6]
実施例1と同様にして得られたポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、ポリビニルアセタール(重合度2000、アセタール化度9モル%、芳香族アルデヒドの割合70%)を、4.0質量%の濃度でバーコーターにて塗工し、90℃で乾燥して、300mg/mの塗膜を形成し、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[実施例7]
実施例1と同様にして得られたポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、ポリビニルアセタール(重合度2000、アセタール化度9モル%、芳香族アルデヒドの割合100%)を、4.0質量%の濃度でバーコーターにて塗工し、90℃で乾燥して、50mg/mの塗膜を形成し、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[実施例8]
実施例1と同様にして得られたポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、ポリビニルアセタール(重合度2000、アセタール化度9モル%、芳香族アルデヒドの割合100%)を、4.0質量%の濃度でバーコーターにて塗工し、90℃で乾燥して、2000mg/mの塗膜を形成し、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[実施例9]
実施例1において、延伸倍率を縦、横方向にそれぞれ1.5倍とし、最大配向緩和応力は縦横ともに0.2MPaのポリスチレン系樹脂シートが得られた。それ以外は実施例1と同様にして、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[実施例10]
実施例1において、延伸倍率を縦、横方向にそれぞれ5.0倍とし、最大配向緩和応力は縦横ともに1.0MPaのポリスチレン系樹脂シートが得られた。それ以外は実施例1と同様にして、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[実施例11]
実施例1において、スチレン−メタクリル酸共重合体の重量平均分子量が15万であること以外は実施例1と同様にして、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[実施例12]
実施例1において、スチレン−メタクリル酸共重合体の重量平均分子量が40万であること以外は実施例1と同様にして、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[実施例13]
実施例1において、メタクリル酸含有量が3.0質量%であり、得られたシートの最大配向緩和応力のピーク温度が117℃であること以外は実施例1と同様にして、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[実施例14]
実施例1において、メタクリル酸含有量が15.0質量%であり、得られたシートの最大配向緩和応力のピーク温度が141℃であること以外は実施例1と同様にして、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[実施例15]
実施例1において、メタクリル酸含有量が11.0質量%、メタクリル酸メチル含有量が5.0質量%であり、得られたシートの最大配向緩和応力のピーク温度が132℃であること以外は実施例1と同様にして、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[実施例16]
実施例1において、メタクリル酸含有量が14.0質量%、メタクリル酸メチル含有量が15.0質量%であり、得られたシートの最大配向緩和応力のピーク温度が142℃であること以外は実施例1と同様にして、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[実施例17]
実施例1において、無水マレイン酸含有量が10.0質量%であり、得られたシートの最大配向緩和応力のピーク温度が133℃であること以外は実施例1と同様にして、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[比較例1]
実施例1において、メタクリル酸含有量が2.0質量%であり、得られたシートの最大配向緩和応力のピーク温度が115℃であること以外は実施例1と同様にして、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[比較例2]
実施例1において、メタクリル酸含有量が18.0質量%の樹脂を用いて縦、横方向にそれぞれ1.5倍延伸しシートを得ようとしたが、延伸、冷却時に割れや破断が生じ、シートが得られなかった。
[比較例3]
実施例1において、スチレン−メタクリル酸共重合体の重量平均分子量が13万であること以外は実施例1と同様にして、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[比較例4]
実施例1において、メタクリル酸含有量が6.0質量%、スチレン−メタクリル酸共重合体の重量平均分子量が45万である樹脂を用いて縦、横方向にそれぞれ2.5倍延伸しシートを得ようとしたが、シートの平滑性が得られなかった。
[比較例5]
実施例1において、延伸倍率を縦、横方向にそれぞれ1.2倍とし、最大配向緩和応力は縦横ともに0.1MPaであるシートが得られたが、割れ・破断が生じやすかった。かろうじて得られたシートに実施例1と同様にして塗工を行い、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[比較例6]
実施例1において、延伸倍率を縦、横方向にそれぞれ6.0倍とし、最大配向緩和応力は縦横ともに1.2MPaであること以外は実施例1と同様にして、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[比較例7]
実施例1と同様にして得られたポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、ポリビニルアセタール(重合度300、アセタール化度9モル%、芳香族アルデヒドの割合100%)を、4.0質量%の濃度でバーコーターにて塗工し、90℃で乾燥して、300mg/mの塗膜を形成し、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[比較例8]
実施例1と同様にして得られたポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、ポリビニルアセタール(重合度5000、アセタール化度9モル%、芳香族アルデヒドの割合100%)を、4.0質量%の濃度でバーコーターにて塗工し、90℃で乾燥して、300mg/mの塗膜を形成し、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[比較例9]
実施例1と同様にして得られたポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、ポリビニルアセタール(重合度2000、アセタール化度3モル%、芳香族アルデヒドの割合100%)を、4.0質量%の濃度でバーコーターにて塗工し、90℃で乾燥して、300mg/mの塗膜を形成し、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[比較例10]
実施例1と同様にして得られたポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、ポリビニルアセタール(重合度2000、アセタール化度45モル%、芳香族アルデヒドの割合100%)を、4.0質量%の濃度でバーコーターにて塗工し、90℃で乾燥して、300mg/mの塗膜を形成し、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[比較例11]
実施例1と同様にして得られたポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、ポリビニルアセタール(重合度2000、アセタール化度9モル%、芳香族アルデヒドの割合65%)を、4.0質量%の濃度でバーコーターにて塗工し、90℃で乾燥して、300mg/mの塗膜を形成し、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[比較例12]
実施例1と同様にして得られたポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、ポリビニルアセタール(重合度2000、アセタール化度9モル%、芳香族アルデヒドの割合100%)を、4.0質量%の濃度でバーコーターにて塗工し、90℃で乾燥して、30mg/mの塗膜を形成し、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[比較例13]
実施例1と同様にして得られたポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、ポリビニルアセタール(重合度2000、アセタール化度9モル%、芳香族アルデヒドの割合100%)を、4.0質量%の濃度でバーコーターにて塗工し、90℃で乾燥して、3000mg/mの塗膜を形成し、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
[比較例14]
実施例1と同様にして得られたポリスチレン系樹脂シートの片方の面に、ポリビニルアルコール(重合度1700、完全ケン化)を、4.0質量%の濃度でバーコーターにて塗工し、90℃で乾燥して、300mg/mの塗膜を形成し、耐油性ポリスチレン系樹脂シートを得て、評価した。
【0031】
【表1】


【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の耐油性ポリスチレン系樹脂シートは、耐油性、耐熱性、剛性に優れ、熱板成形、真空成形などの方法で成形された容器は防曇性に優れ、耐水性、耐熱性、耐油性に優れているので、特に電子レンジで加熱する食品の包装容器の用途に好適に用いることができる。