(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
平均粒子径が500nm以下の炭酸カルシウム粒子、ケイ酸アルカリ金属塩、及びノニオン系界面活性剤とを含む親水性溶媒に、酸又はアルカリから選ばれる触媒を添加し、炭酸カルシウム、ノニオン系界面活性剤及びケイ酸アルカリ金属塩を含む複合体粒子を得、次いで該複合体粒子から酸処理により炭酸カルシウム粒子を除去することによりナノ中空粒子を製造する方法であり、該ノニオン系界面活性剤が、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル又はフルオロアルコールであることを特徴とするナノ中空粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。
本発明のナノ中空粒子の製造方法は、基本的に下記の工程を有するものである。
第一工程;平均粒子径が500nm以下の炭酸カルシウム粒子、ケイ酸アルカリ金属塩、及びノニオン系界面活性剤とを含む親水性溶媒に、酸又はアルカリから選ばれる触媒を添加して、炭酸カルシウム、ノニオン系界面活性剤及びケイ酸アルカリ金属塩を含む複合体粒子(以下、単に「複合体粒子」と言うことがある。)を得る工程。
第二工程;次いで該複合体粒子から酸処理により炭酸カルシウム粒子を除去する工程。
【0013】
(第一工程)
本製造方法の第一工程では、平均粒子径が500nm以下の炭酸カルシウム粒子、ケイ酸アルカリ金属塩及びノニオン系界面活性剤とを含む親水性溶媒に、酸又はアルカリから選ばれる触媒を添加して、炭酸カルシウムの粒子表面にノニオン系界面活性剤とケイ酸アルカリ金属塩の複合膜を形成した炭酸カルシウム、ノニオン系界面活性剤及びケイ酸アルカリ金属塩を含む複合体粒子を得る工程である。
【0014】
第一工程で用いる炭酸カルシウムは、平均粒子径が500nm以下、好ましくは10〜300nm、いっそう好ましくは10〜100nmのものを用いることが本製造方法において、重要な要件の一つである。この理由は、用いる炭酸カルシウムの平均粒子径が500nmより大きくなると、ナノサイズの粒子を生成させることが難しくなるだけでなく、粒子同士の凝集等により返って中空粒子自体を製造することが困難になるからである。
【0015】
また、用いる炭酸カルシウムの粒子形状は、特に制限はなく、例えば球状、回転楕円体状、円筒状、立方体状等の粒子形状のものを使用するこができる。
【0016】
第一工程で用いる炭酸カルシウムは市販品を用いることができ、例えば、白石工業社、林化成工業社等から市販されている。
【0017】
炭酸カルシウムの親水性溶媒への添加量は、0.01〜5g/ml、好ましくは0.03〜2g/mlとすることが反応操作が容易になり、また、収率よく複合体粒子を得る観点から好ましい。
【0018】
第一工程で用いるケイ酸アルカリ金属塩は、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等のケイ酸アルカリ金属塩を用いることができ、このうちケイ酸ナトリウムが工業的に安価に入手でき、反応を工業的に有利に行える観点から特に好ましい。
【0019】
ケイ酸アルカリ金属塩のSiO
2:M
2O(式中、Mは、Na、K及びLiから選ばれるアルカリ金属元素を示す。)のモル比(SiO
2/M
2O)は、特に制限はなく通常2〜5、好ましくは2.5〜3.5である。
【0020】
本製造方法において、ケイ酸アルカリ金属塩の添加量は、炭酸カルシウム3gに換算したときの値で、0.05〜10g、好ましくは0.1〜5gとすることが収率よく複合体粒子を得る観点から好ましい。
【0021】
第一工程で用いるノニオン系界面活性剤は、例えば、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル、脂肪酸エステル、アルキルアミンエチレンオキサイド付加体、グリコール類、フルオロアルコール或いは高分子界面活性剤類が使用でき、なかでも、水溶性のポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル、フルオロアルコールが好ましい。
【0022】
ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとしては、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンコレステリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジノニルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンメチルグルコシド、ポリオキシプロピレンメチルグルコシド等が挙がられる。
【0023】
フルオロアルコールとしては、例えば、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラフルオロプロパノール、オクタフルオロペンタノール等のC
2 〜C
10脂肪族フルオロアルコールが挙げられる。
【0024】
本製造方法において、これらのうち、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ヘキサフルオロイソプロパノールが好ましく、特にヘキサフルオロイソプロパノールが好ましい。
【0025】
本製造方法においてノニオン系界面活性剤の添加量は、炭酸カルシウム3gに換算したときの値で、10〜1000mg、好ましくは50〜500mgとすることが収率よく複合体粒子を得る観点から好ましい。
【0026】
第一工程で用いる親水性溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールが挙げられ、この中で、エタノールが特に好ましい。
【0027】
第一工程では、前記炭酸カルシウム、ケイ酸アルカリ金属塩及びノニオン系界面活性剤を含む親水性溶媒中に、酸又はアルカリから選ばれる触媒を添加する。
【0028】
第一工程で用いる酸又はアルカリから選ばれる触媒としては、特に制限されず、例えば、アルカリとしては、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等が挙げられ、酸としては、硫酸、塩酸、硝酸又は酢酸等が挙げられ、反応性が高い点で、好ましくは水酸化アンモニウム又は塩酸であり、特に好ましくは水酸化アンモニウムである。
【0029】
酸又はアルカリから選ばれる触媒の添加量は、特に制限されるものではないが、酸の場合は、炭酸カルシウム3gに対して1Nの酸として換算した値で0.1〜10ml、好ましくは0.05〜5mlとすることが、収率よく複合体粒子を得る観点から好ましい。アルカリの場合は、炭酸カルシウム3gに対して、25wt%溶液として換算した値で0.1〜10ml、好ましくは0.5〜5mlとすることが収率よく複合体粒子を得る観点から好ましい。
【0030】
第一工程での反応条件は、反応温度が5〜50℃、好ましくは15〜35℃であり、反応時間は0.5時間以上、好ましくは1〜5時間である。
【0031】
反応終了後、得られた炭酸カルシウム、ノニオン系界面活性剤及びケイ酸アルカリ金属塩を含む複合体粒子を常法により濾過等により回収し、必要により洗浄等の精製、乾燥を行って、複合体粒子を得、次いで該複合体粒子を第二工程に付す。
【0032】
(第二工程)
本製造方法の第二工程では、第一工程で得られた複合体粒子から酸処理により炭酸カルシウム粒子を溶出させ、ナノ中空粒子を得る工程である。第二工程では、また、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の不純物を複合体粒子から除去することも出来る。
なお、本製造方法では、ノニオン系界面活性剤として、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルを用いた場合には、この第二工程の酸処理及び必要により行う水での洗浄処理により、複合体粒子からポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルを除去したナノ中空粒子を得ることができる。一方、ノニオン系界面活性剤としてフルオロアルコールを用いた場合には、場合によってはナノ中空粒子の表面にフルオロアルコールが多少残存することがあるが、用途等を考慮してそのまま用いても何ら差し支えなく、また、洗浄により除去されないノニオン系界面活性剤は、例えば200〜400℃で加熱処理することにより完全に除去することが出来る。
【0033】
第二工程での操作は、複合体粒子と酸溶液とを接触させることで行うことが出来る。使用できる酸としては、例えば、塩酸、硝酸、酢酸等を使用することが出来る。
【0034】
酸溶液の添加量が低いと、炭酸カルシウムの溶解反応が遅くなり、製造効率が悪化する傾向があり、一方、酸の添加量が多くなると、反応が激しくなり、炭酸カルシウムの溶解にともなう炭酸カルシウムの溶解反応が激しくなり、炭酸カルシウムの発泡により、シリカ殻が破壊され、ナノ中空粒子が得られない可能性がある。このため、酸の添加量は炭酸カルシウム1gに対して1Nの酸として換算したときに1〜50ml、好ましくは5〜25mlとすることが好ましい。
【0035】
また、複合体粒子と酸溶液との接触温度は10〜40℃、好ましくは20〜30℃であり、また接触時間は、0.5時間以上、好ましくは1〜48時間である。
【0036】
酸により炭酸カルシウムを溶解し、複合体粒子から炭酸カルシウム粒子を除去してナノ中空粒子を生成させた後は、必要により水等で洗浄、乾燥、更には200〜400℃で加熱処理等を行って製品とする。
【0037】
本製造方法で得られるナノ中空粒子は、光散乱光度計で求められる平均粒子径が10〜500nm、好ましくは20〜300nmである。
本製造方法で得られるナノ中空粒子は、例えば医薬品、化粧品の分野で、ドラッグデリバリー用の担体、断熱塗料、断熱フィルム、断熱繊維等の充填材、また、軽量であることから軽量充填材等の幅広い用途での応用が期待できる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
{実施例1}
第一工程;
市販のナノサイズの炭酸カルシウム(平均粒子径80nm)3g、ケイ酸ナトリウム(日本化学工業社製、SiO
2;62.1wt%、Na
2O;19.7wt%)320mg及びポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル 310mg及びエタノール15mlを反応容器に仕込み、室温(25℃)下でよく撹拌した。
次いで、1N塩酸水溶液を1ml添加し、室温(25℃)下に2時間撹拌した。
反応終了後、常法に従って濾過、次いで50℃で真空下に乾燥して炭酸カルシウム、ノニオン系界面活性剤及びケイ酸アルカリ金属塩を含む複合体粒子試料を得た。
第二工程;
第一工程で得られた複合体粒子試料1gに対して1N塩酸を20ml加え、室温(25℃)下に24時間撹拌を行った。
反応終了後、常法により濾過し、更に水で洗浄し、次いで50℃で真空下に乾燥を行ってナノ中空粒子試料を得た。
【0039】
{実施例2}
第一工程で、1N塩酸水溶液に代えて25wt%アンモニア水を1ml添加した以外は実施例1と同様な条件で複合体粒子試料及びナノ中空粒子試料を得た。
【0040】
{実施例3}
第一工程;
市販のナノサイズの炭酸カルシウム(平均粒子径80nm)3g、ケイ酸ナトリウム(日本化学工業社製、SiO
2;62.1wt%、Na
2O;19.7wt%)320mg及びヘキサフルオロイソプロパノール 310mg及びエタノール15mlを反応容器に仕込み、室温(25℃)下でよく撹拌した。
次いで、1N塩酸水溶液を1ml添加し、室温(25℃)下に2時間撹拌した。
反応終了後、常法に従って濾過、次いで50℃で真空下に乾燥して炭酸カルシウム、ノニオン系界面活性剤及びケイ酸アルカリ金属塩を含む複合体粒子試料を得た。
第二工程;
第一工程で得られた複合体粒子試料1gに対して1N塩酸を20ml加え、室温(25℃)下に24時間撹拌を行った。
反応終了後、常法により濾過し、更に水で洗浄し、次いで50℃で真空下に乾燥を行ってナノ中空粒子試料を得た。
【0041】
{実施例4}
第一工程で、1N塩酸水溶液に代えて25wt%アンモニア水を1ml添加した以外は実施例3と同様な条件で複合体粒子試料及びナノ中空粒子試料を得た。
【0042】
{比較例1}
市販のナノサイズの炭酸カルシウム(平均粒子径80nm)3g、ケイ酸ナトリウム(日本化学工業社製、SiO
2;62.1wt%、Na
2O;19.7wt%)0.93mg及びエタノール15mlを反応容器に仕込み、室温(25℃)下でよく撹拌した。
次いで、1N塩酸水溶液を1ml添加し、室温(25℃)下に2時間撹拌した。
反応終了後、常法に従って濾過、次いで50℃で真空下に乾燥して炭酸カルシウム及びケイ酸アルカリ金属塩を含む複合体粒子試料を得た。
第二工程;
第一工程で得られた複合体粒子試料1gに対して1N塩酸を20ml加え、室温(25℃)下に24時間撹拌を行った。
反応終了後、常法により濾過し、更に水で洗浄し、次いで50℃で真空下に乾燥を行ってナノ中空粒子試料を得た。
【0043】
{比較例2}
第一工程で、1N塩酸水溶液に代えて25wt%アンモニア水を1ml添加した以外は比較例1と同様な条件で複合体粒子試料及びナノ中空粒子試料を得た。
【0044】
{比較例3}
第一工程で、1N塩酸水溶液に代えて水を1ml添加した以外は比較例1と同様な条件で複合体粒子試料及びナノ中空粒子試料を得た。
【0045】
【表1】
注)表中の「quant.」は、収率が5%以下であることを示す。
【0046】
表1の結果より、ノニオン系界面活性剤を用いて反応を行った実施例のものは、ノニオン系界面活性剤を用いないで反応を行った比較例のものに比べて、複合体粒子が高収率で得られていることが分かる。
【0047】
<物性評価>
実施例及び比較例で調製した複合体試料及びナノ中空粒子試料について、X線回析分析及びEDXにより元素分析を行った。その結果を表2に示す。
また、実施例及び比較例で調製した複合体試料及びナノ中空粒子試料を、メタノールに加えて、24時間撹拌して、メタノール中に分散させ、光散乱光度計を用いて、平均粒子径を測定した。その結果を表2に示す。
実施例1〜4の複合体試料及びナノ中空粒子試料のX線回折図を
図1〜
図4に示す。また、比較例1〜3の複合体試料及びナノ中空粒子試料のX線回折図を
図5〜
図7に示す。なお、
図1〜7の上段には炭酸カルシウムのX線回折図も併記した。
また、実施例2で得られたナノ中空粒子試料の電子顕微鏡写真を
図8に示す。
【0048】
【表2】
注)表中の「−」は未測定であることを示す。
【0049】
表2及び
図1〜
図7の結果より、実施例及び比較例のものは、複合体粒子から炭酸カルシウム粒子及びナトリウムが第二工程後に除去されていることが分かる。また、ノニオン系界面活性剤として、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを用いた実施例1及び実施例2では、第2工程後にポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルもナノ中空粒子から完全に除去されていることが分かる。