特許第6373693号(P6373693)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373693
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】出没式筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 24/00 20060101AFI20180806BHJP
   B43K 8/24 20060101ALI20180806BHJP
   B43K 5/17 20060101ALI20180806BHJP
   B43K 24/08 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   B43K24/00 100
   B43K8/24
   B43K5/17
   B43K24/08 150
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-185664(P2014-185664)
(22)【出願日】2014年9月11日
(65)【公開番号】特開2016-55576(P2016-55576A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108328
【氏名又は名称】ゼブラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118898
【弁理士】
【氏名又は名称】小橋 立昌
(72)【発明者】
【氏名】相沢 吉敏
【審査官】 金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−108676(JP,A)
【文献】 特開2005−007850(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0138139(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 24/00 − 24/08
B43K 5/06
B43K 5/17 − 5/18
B43K 8/00 − 8/12
B43K 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と、該軸筒内に進退可能に設けられるとともに前端側に筆記部を突出させた中芯ユニットと、軸筒内にて前記筆記部の周囲を覆うとともに軸筒に対し前進不能に係止されたシール筒と、該シール筒の前端開口部を開放可能に閉鎖する蓋部材と、前記蓋部材に対し前方側から圧接する蓋開閉部材と、前記中芯ユニットを後方へ付勢する付勢部材とを備え、前記中芯ユニットを前進させることで前記蓋開閉部材を緩めて前記蓋部材を開放し前記筆記部を突出させ、前記中芯ユニットを後退させることで前記蓋開閉部材を後方へ引っ張り前記蓋部材を閉鎖し前記筆記部を没入するようにした出没式筆記具において、
前記中芯ユニットは、前記筆記部を支持した支持筒部の後側に、後方斜め径外方向へ傾斜する環状の傾斜段部を有し、
前記蓋開閉部材は、前記支持筒部の外周面に沿って後方へ延びる係合片部を、周方向に間隔を置いて複数有し、
前記係合片部の各々は、前記支持筒部に係止されるとともに前記付勢部材の付勢力により後方へ引っ張られ、前記中芯ユニットが前進した際に、前記傾斜段部に摺接するとともに軸筒径外方向へ撓んで、前記支持筒部との係止状態を解除することを特徴とする出没式筆記具。
【請求項2】
複数の前記係合片部の各々には、軸筒軸方向へ長尺な被係合孔が設けられ、
前記支持筒部の外周面には、前記被係合孔の後端側に挿入されて前記係合片部を後方へ引っ張るように、係合突起が設けられていることを特徴とする請求項1記載の出没式筆記具。
【請求項3】
前記係合突起は、前記被係合孔の後端に当接する面を、前方へ向かって軸筒径内方向へ傾斜する傾斜面としていることを特徴とする請求項2記載の出没式筆記具。
【請求項4】
前記蓋部材は、その外周縁の一部が前記シール筒に接続されるとともに、該接続部分を支点にし、自由端側を前後方向へ回動して開閉動作するように設けられ、
前記蓋開閉部材は、前記蓋部材に対し前方側から圧接する環状押圧部を有するとともに、該環状押圧部の径方向の一端側と他端側からそれぞれ後方へ延びて前記係合片部に接続された二つの引張片部を有し、
二つの前記引張片部のうちの一方は、前記蓋部材の前記自由端寄りに配置され、その他方は、前記接続部分寄りに配置されることを特徴とする請求項1乃至3何れか1項記載の出没式筆記具。
【請求項5】
前記蓋部材の内面に、前記シール筒内へ挿入されて、前記シール筒の内周面に近接又は接触する突起を、周方向へ間隔を置いて複数設けたことを特徴とする請求項1乃至4何れか1項記載の出没式筆記具。
【請求項6】
前記軸筒の前端側に、軸筒壁面を貫通する逃がし孔が設けられ、
前記逃がし孔は、前進した際の前記蓋開閉部材の前端側部分を挿入するように配設されていることを特徴とする請求項1乃至5何れか1項記載の出没式筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉状態の筆記部を、蓋部材を開放させて突出するようにした出没式筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、マーキングペンやサインペン等では、筆記部の乾燥を簡素な構造によって防止するために、キャップ式構造を採用する場合が多い。しかし、キャップ式筆記具は、キャップの着脱に両手を使うこと、キャップが落下衝撃等で外れてしまうおそれがあること、キャップを引張った際の衝撃でインクが飛散するおそれがあること等、改善の余地を有している。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1に記載の発明では、軸筒(バレル12及びノーズセクション20等)と、該軸筒内に進退可能に設けられるとともに前端側に筆記部(筆記用ニブ24)を有する中芯ユニット(リザーバホルダ22及び保持アーム28等)と、軸筒内にて前記筆記部の周囲を覆うとともに軸筒に対し前進不能に係止されたシール筒(弁40の筒状部分)と、該シール筒の前端開口部を開放可能に閉鎖する蓋部材(蓋42)と、前記蓋部材に対し前方側から圧接する蓋開閉部材(蓋リング62、保持リング64及び蓋アーム66等)と、前記中芯ユニットを後方へ付勢する付勢部材(偏倚部材36)とを備え、前記中芯ユニットを前進させることで前記蓋開閉部材を緩めて前記蓋部材を開放し前記筆記部を突出させ、前記中芯ユニットを後退させることで前記蓋開閉部材を後方へ引っ張り前記蓋部材を閉鎖し前記筆記部を没入するようにしている。
【0004】
ところで、前記従来技術によれば、前記中芯ユニットが前進する際、先ず、保持アーム(28)の外周面の小さな突出部(34)を保持リング(64)に当接させて該保持リング(64)を押動する。そして、この押動により蓋リング(62)が軸筒前端内面に当接した後は、前記突出部(34)を保持リング(64)内に潜り込ませて、さらに前記中芯ユニットを前進させるようにしている(特許文献1の図3〜5参照)。
したがって、突出部(34)の寸法を高精度に管理する必要が生じ、例えば、突出部(34)の突出量が小さすぎると、該突出部(34)が保持リング(64)に当接せずに保持リング(64)内に潜り込み、また、突出部(34)の突出量が大きすぎると、該突出部(34)が保持リング(64)に潜り込み難くなり、何れの場合も作動性の低下を招くおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012−516252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来事情に鑑みてなされたものであり、その課題とする処は、中芯ユニットの作動性が良好な出没式筆記具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための一手段は、軸筒と、該軸筒内に進退可能に設けられるとともに前端側に筆記部を突出させた中芯ユニットと、軸筒内にて前記筆記部の周囲を覆うとともに軸筒に対し前進不能に係止されたシール筒と、該シール筒の前端開口部を開放可能に閉鎖する蓋部材と、前記蓋部材に対し前方側から圧接する蓋開閉部材と、前記中芯ユニットを後方へ付勢する付勢部材とを備え、前記中芯ユニットを前進させることで前記蓋開閉部材を緩めて前記蓋部材を開放し前記筆記部を突出させ、前記中芯ユニットを後退させることで前記蓋開閉部材を後方へ引っ張り前記蓋部材を閉鎖し前記筆記部を没入するようにした出没式筆記具において、前記中芯ユニットは、前記筆記部を支持した支持筒部の後側に、後方斜め径外方向へ傾斜する環状の傾斜段部を有し、前記蓋開閉部材は、前記支持筒部の外周面に沿って後方へ延びる係合片部を、周方向に間隔を置いて複数有し、前記係合片部の各々は、前記支持筒部に係止されるとともに前記付勢部材の付勢力により後方へ引っ張られ、前記中芯ユニットが前進した際に、前記傾斜段部に摺接するとともに軸筒径外方向へ撓んで、前記支持筒部との係止状態を解除することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、以上説明したように構成されているので、中芯ユニットの作動性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る出没式筆記具の一例を示す斜視図であり、(a)は筆記部を没入させた状態を示し、(b)は筆記部を突出させた状態を示す。
図2】軸筒の一例を示す断面図であり、(a)に対し(b)は切断面を90度回転させている。
図3】中芯ユニット、蓋及び蓋開閉部材等の一例を示す斜視図である。
図4】蓋及びシール筒の一例を示す斜視図である。
図5】蓋開閉部材の一例を示す斜視図である。
図6】筆記部を突出させる際の動作を(a)〜(c)に順次に示す要部断面図である。
図7】筆記部を突出させる際の動作を(a)〜(c)に順次に示す要部断面図であり、図6に対し切断面を90度回転させている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施の形態の第一の特徴は、軸筒と、該軸筒内に進退可能に設けられるとともに前端側に筆記部を突出させた中芯ユニットと、軸筒内にて前記筆記部の周囲を覆うとともに軸筒に対し前進不能に係止されたシール筒と、該シール筒の前端開口部を開放可能に閉鎖する蓋部材と、前記蓋部材に対し前方側から圧接する蓋開閉部材と、前記中芯ユニットを後方へ付勢する付勢部材とを備え、前記中芯ユニットを前進させることで前記蓋開閉部材を緩めて前記蓋部材を開放し前記筆記部を突出させ、前記中芯ユニットを後退させることで前記蓋開閉部材を後方へ引っ張り前記蓋部材を閉鎖し前記筆記部を没入するようにした出没式筆記具において、前記中芯ユニットは、前記筆記部を支持した支持筒部の後側に、後方斜め径外方向へ傾斜する環状の傾斜段部を有し、前記蓋開閉部材は、前記支持筒部の外周面に沿って後方へ延びる係合片部を、周方向に間隔を置いて複数有し、前記係合片部の各々は、前記支持筒部に係止されるとともに前記付勢部材の付勢力により後方へ引っ張られ、前記中芯ユニットが前進した際に、前記傾斜段部に摺接するとともに軸筒径外方向へ撓んで、前記支持筒部との係止状態を解除する。
この構成によれば、中芯ユニットを前進させることで、蓋開閉部材を緩めて蓋部材を開放し筆記部を突出させる際に、複数の係合片部が、それぞれ、傾斜段部に摺接して軸筒径外方向へ撓み、各係合片部と支持筒部との係止状態が解除される。よって、蓋開閉部材と中芯ユニットとの摩擦抵抗を軽減して、中芯ユニットの動作性を向上することができる。
【0011】
第二の特徴として、複数の前記係合片部の各々には、軸筒軸方向へ長尺な被係合孔が設けられ、前記支持筒部の外周面には、前記被係合孔の後端側に挿入されて前記係合片部を後方へ引っ張るように、係合突起が設けられている。
この構成によれば、中芯ユニットの係合突起が、係合片部の被係止孔の後端に係止して、蓋開閉部材を後方へ引っ張る。中芯ユニットが前進した際には、各係合突起が被係合孔内を前方へ移動することで、被係止孔の後端と各係止突起との係止状態が解除される。
【0012】
第三の特徴としては、前記係合突起は、前記被係合孔の後端に当接する面を、前方へ向かって軸筒径内方向へ傾斜する傾斜面としている。
この構成によれば、後退した際の中芯ユニットにより蓋開閉部材を引張る際に、蓋開閉部材の係合片部を前記傾斜面により軸筒径内方向へ撓ませて、係合片部の被係合孔を、前記係合突起の付け根側まで深く係合させることができ、ひいては、係合突起と被係合孔との係合が外れて、作動不良を生じるようなことを防止することができる。
【0013】
第四の特徴としては、前記蓋部材は、その外周縁の一部が前記シール筒に接続されるとともに、該接続部分を支点にし、自由端側を前後方向へ回動して開閉動作するように設けられ、前記蓋開閉部材は、前記蓋部材に対し前方側から圧接する環状押圧部を有するとともに、該環状押圧部の径方向の一端側と他端側からそれぞれ後方へ延びて前記係合片部に接続された二つの引張片部を有し、二つの前記引張片部のうちの一方は、前記蓋部材の前記自由端寄りに配置され、その他方は、前記接続部分寄りに配置される。
この構成によれば、蓋部材の自由端寄りにおいて、該蓋部材を押圧する環状押圧部が前記引張片部により支持されるため、環状押圧部の押圧力が変形等により低下し、蓋部材の前記自由端側と前記シール筒の前端開口部との間の気密性が低下するようなことを防ぐことができる。
【0014】
第五の特徴としては、前記蓋部材の内面に、前記シール筒内へ挿入されて、前記シール筒の内周面に近接又は接触する突起を、周方向へ間隔を置いて複数設けた(図4参照)。
この構成によれば、蓋部材が閉鎖された際の位置決めを、複数の前記突起により行うことができ、ひいては、蓋部材による気密性を向上することができる。
【0015】
第六の特徴としては、前記軸筒の前端側に、軸筒壁面を貫通する逃がし孔が設けられ、前記逃がし孔は、前進した際の前記蓋開閉部材の前端側部分を挿入するように配設されている(図1参照)。
この構成によれば、蓋開閉部材を前進させる際の作動スペースを、前記逃がし孔内に確保することができる。
【0016】
なお、後述する実施例では、上記特徴の一部を含まずに、以下の構成要件を必須とした発明も開示している。
すなわち、この発明は、軸筒と、該軸筒内に進退可能に設けられるとともに前端側に筆記部を突出させた中芯ユニットと、軸筒内にて前記筆記部の周囲を覆うとともに軸筒に対し前進不能に係止されたシール筒と、該シール筒の前端開口部を開放可能に閉鎖する蓋部材と、前記蓋部材に対し前方側から圧接する蓋開閉部材と、前記中芯ユニットを後方へ付勢する付勢部材とを備え、前記中芯ユニットを前進させることで前記蓋開閉部材を緩めて前記蓋部材を開放し前記筆記部を突出させ、前記中芯ユニットを後退させることで前記蓋開閉部材を後方へ引っ張り前記蓋部材を閉鎖し前記筆記部を没入するようにした出没式筆記具において、前記軸筒の前端側に、軸筒壁面を貫通する逃がし孔が設けられ、前記逃がし孔は、前進した際の前記蓋開閉部材の前端側部分を挿入するように配設されている。
この構成によれば、蓋開閉部材を前進させた際に、該蓋開閉部材の前端側が前記逃がし孔に挿入される。したがって、蓋開閉部材の作動スペースを確保するために当該出没式筆記具が大型化するのを防ぐことができる。
【実施例】
【0017】
次に、上記特徴を有する好ましい実施例を、図面に基づいて詳細に説明する。
以下の説明において、「前」とは、軸筒10の先端方向(筆記部が突出する方向)を意味し、「後」とは前記「前」に対する逆方向を意味する。また、「径内方向」とは、軸筒10の径方向に沿う方向であって、かつ軸筒10の軸心(中心)へ向かう方向を意味する。また、「径外方向」とは、前記径内方向に対する逆方向を意味する。また、「軸筒軸方向」とは、軸筒10の軸心(中心)に沿う方向を意味する。
【0018】
この出没式筆記具1は、軸筒10と、該軸筒10内に進退可能に設けられるとともに前端側に筆記部22aを有する中芯ユニット20と、軸筒10内にて前記筆記部22aの周囲を覆うとともに軸筒10に対し前進不能に係止されたシール筒30と、該シール筒30の前端開口部を開放可能に閉鎖する蓋部材40と、前記蓋部材40に対し前方側から圧接する蓋開閉部材50と、中芯ユニット20を軸筒10に対し後方へ付勢する付勢部材60とを備え、中芯ユニット20を前進させることで蓋開閉部材50を緩めて蓋部材40を開放し前記筆記部22aを突出させ、中芯ユニット20を後退させることで蓋開閉部材50を後方へ引っ張り蓋部材40を閉鎖し前記筆記部22aを没入する。
【0019】
軸筒10は、長尺円筒状の部材であり(図1参照)、単一の筒状部材から形成してもよいし、複数の筒状部材を接続することで構成してもよい。
この軸筒10は、前端側を先細状に窄めており、その内壁面の前端側に、前進した際の蓋開閉部材50を当接させるための被当接部11を有し、さらに、最前端部には、筆記部22aを出没させるための開口部19を有する。被当接部11は、軸筒全周にわたる段状の面である(図2参照)。
【0020】
軸筒10前端側の先細状部分には、その壁面を貫通するように逃がし孔12が設けられる。この逃がし孔12には、蓋開閉部材50が前進した際に、該蓋開閉部材50の最前端部が挿入される(図1(b)参照)。
【0021】
また、軸筒10の前端側の内周面には、蓋開閉部材50の進退を案内するガイド凸部13と、蓋部材40及びシール筒30を前進不能に係止する係止部13aと、蓋開閉部材50及び回動部材24等に係合する縦リブ14とが設けられる(図2参照)。
【0022】
ガイド凸部13は、軸筒10内面から突出し軸筒後方へ延びるリブ状の突起であり、軸筒周方向に間隔を置いて一対に設けられる(図2(a)参照)。これら一対のガイド凸部13,13は、軸筒10の内周面において周方向に角度180度の間隔を置いて、2箇所に設けられる(図2(b)参照)。蓋開閉部材50は、ガイド凸部13,13の外側面に沿うようにして進退する。
【0023】
係止部13aは、前記二本のガイド凸部13,13間の段部によって平面視略凹状(図2(a)参照)に形成される。この係止部13aは、シール筒30の当接突起33(図4参照)を受けて、シール筒30を前進不能に保持する。
【0024】
縦リブ14は、軸筒10内周面の前半部側において径方向の両側に位置するように二つ設けられる。各縦リブ14は、前後方向へ長尺状に連続している。各縦リブ14における径内方向の端面は、蓋開閉部材50の外周面に近接又は摺接して、蓋開閉部材50の進退動作を安定させる。
また、各縦リブ14の後端部は、回動部材24が前側係止部17に係止した位置から前進した際に、回動部材24のカム斜面24aに係合して、回動部材24を回動させる。
【0025】
また、軸筒10内周面の後半部側には、中芯ユニット20の進退を案内する長尺孔状のガイド孔16や、中芯ユニット20を進退動作の前側と後側で係脱する前側係止部17及び後側係止部18等が設けられる。
【0026】
また、中芯ユニット20は、筒状部材21と、該筒状部材21に内在されるチップ22及び中綿23(図6参照)と、筒状部材21の外周に環状に装着される回動部材24(図3参照)と、筒状部材21の後端開口部を塞ぐノック部25とを具備する。
そして、この中芯ユニット20の前端側には、付勢部材60や、シール筒30、蓋部材40及び蓋開閉部材50等が装着される(図3参照)。
【0027】
筒状部材21は、小径筒状の支持筒部21a(図6参照)と、該支持筒部21aよりも後側で後方斜め径外方向へ傾斜する環状の傾斜段部21bと、該傾斜段部21bから後方へ延設された大径筒部21cとを有する。
【0028】
支持筒部21aは、図6に示すように、その内部にチップ22を進退不能に嵌合し、該チップ22前端の筆記部22aを前方へ突出させている。この支持筒部21aには、付勢部材60(図示例によれば、圧縮コイルスプリング)が環状に装着され、さらに、この付勢部材60よりも前側にシール筒30が環状に装着される。
支持筒部21aにおける付勢部材60よりも後側の外周面には、径方向の両側へ突出するように二つの係合突起21d,21dが設けられる。これら係合突起21d,21dは、後述する蓋開閉部材50に係合している。
各係合突起21dは、係合片部54の被係合孔54aの後端に当接する面を、前方へ向かって軸筒径内方向へ傾斜する傾斜面21d1としている。
【0029】
チップ22は、多数の合成樹脂繊維を軸状に収束してなり、その前端に、例えば砲弾状や斜めカット状等、当該出没式筆記具の用途に応じた適宜形状の筆記部22aを有する(図6及び図7参照)。
中綿23は、円柱状に束ねられた多数の繊維にインクを含浸してなり、その前端部に、チップ22の後端部を差し込んでいる(図6及び図7参照)。
【0030】
また、傾斜段部21bは、軸筒後方斜め径外方向へ向かう傾斜面であり、軸筒周方向の全周にわたって連続する環状に形成される(図3参照)。
この傾斜段部21bは、軸筒10内で中芯ユニット20が前進した際に、蓋開閉部材50の係合片部の後端に当接して、該係合片部の後端側を径外方向へ撓ませるように(図6参照)、その傾斜角度が適宜に設定されている。
【0031】
大径筒部21cは、傾斜段部21bの最大径部分から後方へ延設される。この大径筒部21cの外周には、回動部材24が環状に嵌め合せられる。また、大径筒部21cの後端にはノック部25が接続され、大径筒部21cの内部には中綿23が収納される。
【0032】
回動部材24は、環状本体部24bに、軸筒10内周面の縦リブ14に係合するカム斜面24aや、軸筒径内方向へ弾性変形可能な係止突起24cなどを一体に設けてなる。カム斜面24aは、環状本体部24bの前端縁から前方へ突出する突起に形成される。また、係止突起24cは、環状本体部24bの後端縁から後方へ突出する突片部に設けられ、軸筒径外方向へ突出している。
【0033】
また、シール筒30は、支持筒部21aの前端部及び筆記部22aの周囲を覆うようにして、支持筒部21aの前端側に進退可能に装着された略円筒状の部材である。
このシール筒30の後端側内周面には、支持筒部21aの外周面に摺接して気密性を保持する環状突起31が設けられる(図6及び図7参照)。
また、シール筒30の後端側外周面には、付勢部材60の前端を受ける段部32が設けられる。
シール筒30の前端側外周面における径方向の両側には、当接突起33(図4参照)が設けられる。この当接突起33は、軸筒10内の係止部13a(図2参照)に当接して、シール筒30の前方への移動を規制する。
【0034】
シール筒30の前端側内周部には、筒状のシール材34が設けられる。このシール材34は、エラストマー樹脂をシール筒30に一体成型することで構成される。このシール材34は、シール筒30の前端開口部を蓋部材40によって閉鎖した際に、蓋部材40内面に圧接されて、シール筒30内の密閉性を向上する。
【0035】
また、シール筒30外周部における前端側には、蓋部材40が開閉可能に装着される。
蓋部材40は、合成樹脂材料(例えば、ポリプロピレン等)によって一体成形され、シール筒30の前端側の外周面に接続された接続部43を弾性的に撓ませて、円盤状の蓋本体部42を回動させる。
【0036】
蓋本体部42は、シール筒30の前端開口部の内縁に嵌脱可能な円盤状に形成され、その内面には、中心寄りに位置する隆起部42aと、該隆起部42aの周囲に位置する突起42bとが設けられる。
隆起部42aは、蓋部材40の閉鎖状態で、シール筒30内に突出する凸曲面状に形成される。この隆起部42aは、前進する筆記部22aを受けて蓋本体部42の開放を容易にする。
突起42bは、筆記部22aと干渉しないように筆記部22aの出没経路の両側に位置して、周方向に間隔を置いて複数設けられ、蓋部材40の閉鎖状態においてシール筒30前端側内縁に近接又は接触して蓋部材40をセンタリングする。この突起42bによれば、閉鎖状態の蓋部材40が、搬送や使用時の振動等によって径方向へがたつき、シール性が損なわれるようなことを防ぐことができる。
【0037】
また、接続部43は、略閉鎖状態の蓋部材40の外周縁の一部と、シール筒30の前端側外周面の一部とを接続しており、弾性的に撓むことで、蓋部材40を回動させて開放したり閉鎖したりする。
【0038】
上記構成のシール筒30と、蓋部材40は、それぞれ別体の部材を組付けるようにしてもよいし、予め一体成型された部材としてもよい。
【0039】
また、蓋開閉部材50は、蓋部材40に対し前方側から圧接する環状押圧部51と、環状押圧部51の径方向の一端側と他端側からそれぞれ後方へ延びた二つの引張片部52,52と、これら引張片部52,52の後端側に接続された筒部53と、該筒部53から後方へ延びる二つの係合片部54,54とを具備し、
弾性的に撓むことが可能な合成樹脂材料(例えば、ポリアセタールやポリプロピレン等)によって一体成形されている。
【0040】
環状押圧部51は、蓋部材40に対し前方側から嵌り合う環状に形成され、二つの引張片部52,52により後方へ引っ張られることで、蓋部材40前面の周縁側を押圧する。
この環状押圧部51は、閉鎖状態の蓋部材40から前方へ離れることで、蓋部材40の前方への回動(開放動作)を可能にする。また、同環状押圧部51は、開放状態の蓋部材40の縁を前方から押すことで、該蓋部材40を後方へ回動(閉鎖動作)させる(図6及び図7参照)。
【0041】
引張片部52,52は、環状押圧部51の周端側から後方へ延設された部材である(図5参照)。これら引張片部52,52のうちの一方は、回動する蓋部材40の自由端寄り(図7によれば上側)に配置され、その他方は、蓋部材40の接続部43寄り(図7によれば下側)に配置される。
この配置によれば、閉鎖状態の蓋部材40の自由端寄りに対応して、引張片部52が位置するため、蓋部材40の変形等が生じた場合でも、その変形を引張片部52による引張力により矯正することができ、ひいては、蓋部材40の自由端側とシール筒30との間に隙間が生じるようなことを防ぐことができる。
【0042】
筒部53は、付勢部材60の周囲に遊びを有する状態で環状に嵌め合せられ、その周壁において径方向の一方側と他方側に、それぞれ、前方を開口したガイド凹部53aを有する(図5参照)。各ガイド凹部53aは、軸筒10内面の一対のガイド凸部13,13(図2参照)に嵌り合い、蓋開閉部材50の前後方向の動きをガイドする。
【0043】
係合片部54,54は、支持筒部21a及び付勢部材60を間に置くようにして、二股状に設けられる。各係合片部54は、付勢部材60の側面に沿うようにして後方へ延設され、中芯ユニット20が前進した際に、中芯ユニット20の傾斜段部21bに摺接して軸筒径外方向へ撓む(図6参照)。
各係合片部54には、軸筒軸方向へ長尺な被係合孔54aが設けられる。この被係合孔54aの後端縁は、支持筒部21a外周の係合突起21dに対し係止される。
【0044】
付勢部材60は、圧縮コイルスプリングであり、その前端をシール筒30の段部に当接するとともに、後端を支持筒部21aにおける係合突起21d前側の部分に当接して、シール筒30と中芯ユニット20の間を弾発する。
したがって、蓋開閉部材50は、各係合片部54が係合突起21dに係止された状態で、付勢部材60の付勢力によって中芯ユニット20に対し前方へ付勢される。
【0045】
上述した中芯ユニット20、シール筒30、蓋部材40、蓋開閉部材50及び付勢部材60は、図3に示すように一体化され、軸筒10内に後方側から挿入される。この際、筒状部材21の後端側外周に設けられる図示しない突起を、軸筒10後端の切欠部16aに挿入することで、周方向の位置合わせが行われる。そして、この後、前記突起を、軸筒10内周面側に潜り込ませるようにして前進させ、ガイド孔16に嵌め合せる。
【0046】
次に上記構成の出没式筆記具1について、その特徴的な作用効果を詳細に説明する。
図1及び図6(a)は、筆記部22aを没入させた初期状態を示す。この初期状態では、中芯ユニット20外周の回動部材24は、係止突起24cを後側係止部18に係合している。
また、この初期状態では、蓋開閉部材50が付勢部材60によって前方へ付勢されるため、各係合片部54の被係合孔54aの後端内縁が、係合突起21d後端の傾斜面21d1に押圧される。よって、各係合片部54は、前記傾斜面21d1によって軸筒径内方向へ撓んだ状態に維持される。
【0047】
前記初期状態において、ノック部25が前方へ押される等して、中芯ユニット20が前進すると、係止突起24cは、軸筒径内方向へ撓んで後側係止部18から外れ、軸筒10の内周面に沿って前進する。そして、前進する係止突起24cは、前側係止部17に嵌り合って係止される。
【0048】
前記前進の過程において、中芯ユニット20の前部側では、蓋開閉部材50の二つの係合片部54,54が、それぞれ、軸筒径外方向へ撓みながら、係合突起21dから後方へ離れてゆく。
詳細に説明すれば、中芯ユニット20が前進すると、蓋開閉部材50における各係合片部54の後端が、筒状部材21の傾斜段部21bに摺接し、各係合片部54が径外方向へ撓むとともに、各係合片部54の被係合孔54aの後端縁が傾斜面21d1から後方へ離れ、大径筒部21cが、二つの係合片部54,54の間に入り込むようにして前進する(図6(b)参照)。
【0049】
また、中芯ユニット20の前進中、シール筒30は軸筒10内の係止部13aに係止されて前進不能であるため、蓋部材40が、前進するチップ22の前端に押圧されて徐々に解放してゆく(図6(b)参照)。
【0050】
そして、前記前進により、蓋開閉部材50の前端が軸筒10内前端の被当接部11に当接すると、蓋開閉部材50は前進不能になるが、中芯ユニット20は、二つの係合片部54の間に入り込むようにして更に前進し、図6及び7(c)に示すように、筆記部22aを開口部19から前方へ突出させる。この突出状態は、中芯ユニット20側の係止突起24cと、軸筒10側の前側係止部17との係止により維持される。
【0051】
また、前記突出状態において、筆記部22aを没入させる場合には、ノック部25を更に前方へ押動する操作が行われる。この操作により、中芯ユニット20が前進し、係止突起24cが前側係止部17から外れて軸筒10内周面側へ潜り込み、縦リブ14(図2参照)とカム斜面24a(図3参照)との係合により、回動部材24が回転して、係止突起24cが前側係止部17に係合しない位置になる。
この状態で、ノック部25に対する押圧力が解除されると、中芯ユニット20が付勢部材60の付勢力により後退し、係止突起24cが後側係止部18に嵌りあって初期状態に戻る。
【0052】
前記後退の過程において、中芯ユニット20の前部側では、図6〜7の(c)(b)(a)に示す順番の動作が行われる。
すなわち、中芯ユニット20の後退の初期段階では、蓋開閉部材50は軸筒10内周部(詳細にはガイド凸部13や縦リブ14等)との摩擦によって突出位置側に寄せられており殆ど後退せずに、各係合突起21dが被係合孔54a内を後方へ移動し、この動作に伴って、筆記部22aが、軸筒10の開口部19内へ没入し、さらにシール筒30内へ向かって移動する。
そして、中芯ユニット20の後退が継続すると、各係合突起21dが被係合孔54aの後端内縁に係止するため、蓋開閉部材50は、係合突起21dに引っ張られて後退し始める。
【0053】
すると、後退する蓋開閉部材50に押されて、蓋部材40が閉動し、該蓋部材40によってシール筒30の開口部が閉鎖され、元の初期状態(没入状態)に戻る。
【0054】
よって、出没式筆記具1によれば、中芯ユニット20を前進させた際に、二股状の係合片部54,54を、筒状部材21の傾斜段部21bに沿わせて弾性的に撓ませて、これら係合片部54,54と中芯ユニット20との係止を外すようにしているため、中芯ユニット20を押圧操作する際の抵抗感が小さく、中芯ユニット20をスムーズに前進させることができる。
【0055】
なお、上記実施例によれば、蓋開閉部材50の係合片部54を二つ有する構成としたが、他例としては、係合片部54を軸筒周方向へ間隔を置いて3以上設けた構成とすることも可能である。この場合、中芯ユニット20側の係合突起21dも、3以上設けて、それぞれを係合片部54に係止する。
【0056】
また、上記実施例によれば、中芯ユニット20外周の係止突起24c、軸筒10側の後側係止部18及び前側係止部17等により、初期位置と突出位置における係止構造を構成したが、他例としては、前記係止構造以外の構造によって、中芯ユニット20を初期位置と突出位置に係止することも可能である。
【0057】
また、上記実施例では、中綿式筆記具を構成したが、他例としては、前記中綿23を省いて直液式の筆記具を構成したり、チップ22及び中綿23をボールペン用リフィールに置換してボールペンを構成したり等、中綿式筆記具以外の出没式筆記具を構成することも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1:出没式筆記具
10:軸筒
12:逃がし孔
20:中芯ユニット
21:筒状部材
21a:支持筒部
21b:傾斜段部
21c:大径筒部
21d:係合突起
21d1:傾斜面
22a:筆記部
30:シール筒
40:蓋部材
42b:突起
50:蓋開閉部材
51:環状押圧部
52:引張片部
53:筒部
54:係合片部
54a:被係合孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7