【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果最適展開支援プログラム(A−STEP)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
LEE YJ et al.,Modeling of the endosomolytic activity of HA2-TAT peptides with red blood cells and ghosts,Biochemistry,2010年,Vol.49, No.36,pp.7854-7866
【文献】
WADIA JS et al.,Transducible TAT-HA fusogenic peptide enhances escape of TAT-fusion proteins after lipid raft macrop,Nat. Med.,2004年,Vol.10, No.3,pp.310-315
【文献】
KOSHMAN YE et al.,Delivery and visualization of proteins conjugated to quantum dots in cardiac myocytes,J. Mol. Cell. Cardiol.,2008年,Vol.45,pp.853-856
【文献】
Rayapureddi JP et al.,TAT fusion protein transduction into isolated mitochondria is accelerated by sodium channel inhibitors,Biochemistry,2010年,Vol.49, No.44,pp.9470-9479
【文献】
Jones SW et al.,Characterisation of cell-penetrating peptide-mediated peptide delivery,Br. J. Pharmacol.,2005年,Vol.145,pp.1093-1102
【文献】
Erazo-Oliveras A et al.,Improving the endosomal escape of cell-penetrating peptides and their cargos: strategies and challenges,Pharmaceuticals,2012年11月 1日,Vol.5,pp.1177-1209
【文献】
Lochmann D et al.,Drug delivery of oligonucleotides by peptides,Eur. J. Pharm. Biopharm.,2004年,Vol.58,pp.237-251
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
pH依存性膜融合ペプチド及び蛋白質導入ドメイン(PTD)を有するターゲット分子細胞内導入用ペプチドであって、該膜融合ペプチドの構成アミノ酸数が21以上であり、かつ
当該ターゲット分子細胞内導入用ペプチドのアミノ酸配列が、
(1)N-YGRKKRRQRRRGYWGDIMGEWGNEIFGAIAGFLG-C、もしくはN-RRRRRRRRRRRGYWGEILGEWGGEIFEAIAEFLG-Cであるか、または
(2)N-YGRKKRRQRRRGYWGDIMGEWGNEIFGAIAGFLG-C、もしくはN-RRRRRRRRRRRGYWGEILGEWGGEIFEAIAEFLG-Cにおいて1個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されており、かつ該膜融合ペプチドのアミノ酸配列が
N-GYWGX8IX7GEWGX6EIFX5AIAX4FLG-C
[式中、X4はD、E、G又Nを示す。X5はD、E、G又Nを示す。X6はD、E、G又Nを示す。X7はM又はLを示す。X8はD、E、G又Nを示す。但し、(X4、X5、X6、X7、X8)=(G、G、N、M、D)の組み合わせを除く。]である、ターゲット分子細胞内導入用ペプチド。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において、特段の規定がない場合、本発明のペプチドが有するアミノ酸配列には、左側がN末端のものと左側がC末端のものの両方が包含される。例えば、配列「GLFGAIAGFIENGWEGMIDGWYGF」は、N-GLFGAIAGFIENGWEGMIDGWYGF-C又はN-FGYWGDIMGEWGNEIFGAIAGFLG-Cを示し、
配列「YGRKKRRQRRR」は、N-YGRKKRRQRRR-C又はN-RRRQRRKKRGY-Cを示し、
配列「GLFGAIAGFIENGWEGMIDGWYGFYGRKKRRQRRR」は、N-GLFGAIAGFIENGWEGMIDGWYGFYGRKKRRQRRR-C又はN-YGRKKRRQRRRFGYWGDIMGEWGNEIFGAIAGFLG-Cを示す。
【0023】
ターゲット分子細胞内導入用ペプチド
本発明は、pH依存性膜融合ペプチド及び蛋白質導入ドメイン(PTD)を有するターゲット分子細胞内導入用ペプチドであって、該膜融合ペプチドの構成アミノ酸数が21以上である、ターゲット分子細胞内導入用ペプチドを提供する。
【0024】
本発明において、蛋白質導入ドメイン(PTD)とは、細胞膜表面受容体に吸着後局所刺激を引き起こし、エンドサイトーシスによりターゲット分子細胞内導入用ペプチドを細胞内に取り込ませる機能を有するペプチドおよび同等の機能を有するアミノ酸配列を示す。
【0025】
PTD自体としては、公知の配列を適宜用いることができる。アミノ酸配列は特に限定されないが、例えば、YGRKKRRQRRR、RRRRRRRRRRR、RQIKIWFQNRRMKWKK、QWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL、KLALKLALKALKAALKLA、MVTVLFRRLRIRRACGPPRVRV等が挙げられる。また、本発明においては、PTDには、YGRKKRRQRRR、RRRRRRRRRRR、RQIKIWFQNRRMKWKK、QWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL(配列番号15)、KLALKLALKALKAALKLA(配列番号16)、またはMVTVLFRRLRIRRACGPPRVRV(配列番号17)で示されるアミノ酸配列において1個又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるもの(例えば、YGRKKRRQRRR の末端にPPQを付加したYGRKKRRQRRRPPQ(配列番号18)、さらに反対側の末端からYを欠失させたGRKKRRQRRRPPQ(配列番号19)、RRRRRRRRRRRからRRを欠失させたRRRRRRRRR(配列番号20)等)も含まれる。
【0026】
上記PTDにおいて、「1または複数」の範囲は、当該PTDにpH依存性膜融合ペプチドを組み合わせたターゲット分子細胞内導入用ペプチドが細胞膜透過性を有することを限度として特に制限されないが、例えば1〜15個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜4個、特に好ましくは1〜3個、さらに特に好ましくは1又は2個が挙げられる。特定のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸を欠失、置換及び/または付加させる技術は公知である。なお、このように欠失、置換及び/または付加されたペプチドとしては、欠失、置換及び付加をする前のアミノ酸配列に対して50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、PTDにpH依存性膜融合ペプチドを組み合わせたターゲット分子細胞内導入用ペプチドが細胞膜透過性を有するペプチドが例示される。また、当該ぺプチドとして、アミノ酸の同一性は通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上、さらに特に好ましくは98%以上である。
【0027】
本発明において、細胞膜透過性とは、単にエンドサイトーシスによりエンドソームに取り込まれるだけでなく、エンドソーム膜に小孔を開けて、細胞質内に到達する性質を示す。
【0028】
本発明において、pH依存性膜融合ペプチドとは、エンドソームに取り込まれた後、エンドソーム膜に挿入されるペプチドであって、pHによりその二次構造が変化するものを示す。より具体的には、pHが中性条件とpH5以下(例えば、pH4以下又はpH3以下)等の酸性領域とで立体構造が変化するペプチドを示す。
【0029】
かかるpH依存性膜融合ペプチドとしては、例えば、配列X
1X
2X
3[式中、X
1、X
2及びX
3は同一又は異なって、W、H、G、F、Y、A、C、L、又はT(好ましくはW、H、G、F又はY)を示す]
を有するものが挙げられる。配列X
1X
2X
3の位置としては特に限定されないが、PTDと結合する側の末端が好ましい。配列X
1X
2X
3としては、例えば、YGF、WYG、HGY、WHG、ALY、CLT、YCL等が挙げられる。
【0030】
かかるpH依存性膜融合ペプチドとしては、例えば、各種ウイルス(例えば、インフルエンザA型、インフルエンザB型、インフルエンザC型等)に由来する膜融合ペプチドであってpH依存性を有するもののアミノ酸配列の全部又は一部を用いることができるが、当該pH依存性膜融合ペプチドは構成アミノ酸数が21以上、好ましくは23個以上であることが重要である。構成アミノ酸の上限は特に限定されないが、例えば、26以下が好ましく、24以下がより好ましい。
【0031】
このようなpH依存性膜融合ペプチドのアミノ酸配列としては、上記構成アミノ酸数を有するものであれば特に限定されないが、例えば、GLFGAIAGFIENGWEGMIDGWYGF、GLFGAIAGFIENGWEGMIDGWYG、GFFGAIAGFLEGGWEGMIAGWHGY、GFFGAIAGFLEGGWEGMIAGWHG、LAGVIMAGVAIGIATAAQITAGVALY、GTFTWTLSDSEGKDTPGGYCLT、GTFTWTLSDSSGVENPGGYCLT、AFFSWSLTDSSGKDTPGGYCL、AFFSWSLTDSSGKDMPGGYCL、AFFSWSLSDPKGNDMPGGYCL、GIFSWTITDAVGNDMPGGYCL等を挙げることができる。また、本発明において、pH依存性膜融合ペプチドには、上記GLFGAIAGFIENGWEGMIDGWYGF、GLFGAIAGFIENGWEGMIDGWYG、GFFGAIAGFLEGGWEGMIAGWHGY、GFFGAIAGFLEGGWEGMIAGWHG、AGVIMAGVAIGIATAAQITAGVALY、GTFTWTLSDSEGKDTPGGYCLT、GTFTWTLSDSSGVENPGGYCLT、AFFSWSLTDSSGKDTPGGYCL、AFFSWSLTDSSGKDMPGGYCL、AFFSWSLSDPKGNDMPGGYCLもしくはGIFSWTITDAVGNDMPGGYCLで示されるアミノ酸配列において1個又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるものも含まれる。
【0032】
上記pH依存性膜融合ペプチドにおいて、「1または複数」の範囲は、当該pH依存性膜融合ペプチドにPTDを組み合わせたターゲット分子細胞内導入用ペプチドが細胞膜透過性を有することを限度として特に制限されないが、例えば1〜15個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜7個、さらに好ましくは1〜5個が挙げられる。特定のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸を欠失、置換及び/または付加させる技術は公知である。
【0033】
なお、このように欠失、置換及び/または付加されたペプチドとして、欠失、置換及びおよび付加をする前のアミノ酸配列に対して50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、当該pH依存性膜融合ペプチドにPTDを組み合わせたターゲット分子細胞内導入用ペプチドが細胞膜透過性を有するようなペプチドが例示される。また、当該ぺプチドとして、アミノ酸の同一性は通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上、さらに特に好ましくは98%以上である。
【0034】
このようなペプチドとしては、例えば、GLFX
4AIAX
5FIEX
6GWEGX
7IX
8GWYG(配列番号21)
[式中、X
4はD、E、G又Nを示す。X
5はD、E、G又Nを示す。X
6はD、E、G又Nを示す。X
7はM又はLを示す。X
8はD、E、G又Nを示す。但し、(X
4、X
5、X
6、X
7、X
8)=(G、G、N、M、D)の組み合わせを除く。]
からなるペプチド等を挙げることができる。より具体的には、例えば、配列GLFGAIAGFIENGWEGMIDGWYG のうち4個を置換した配列、例えば、GLF
EAIA
EFIE
GGWEG
LI
EGWYG(下線は置換部分、配列番号22)からなるペプチド等が挙げられる。
【0035】
本発明のターゲット分子細胞内導入用ペプチドにおいて、pH依存性膜融合ペプチドとPTDとは直接結合しても、リンカーを介して結合してもよい。リンカーとしては、当該分野において用いられているものを広く使用することができる。
【0036】
本発明のターゲット分子細胞内導入用ペプチドには、目的物質を結合させるためのドメイン、具体的には、例えば、DNA結合ドメイン(ジンクフィンガードメイン、HMG-box等)、二本鎖RNA結合ドメイン(ヒストン、RDE-4タンパク質、プロタミン等由来の二本鎖RNA結合ドメイン)、各種標識タグ蛋白質認識化合物(抗Myc結合蛋白質(Myc-tagに対して)、Halotagリガンド(Halotag蛋白質結合分子)、nickel分子 (His-tag蛋白質結合分子)等)等を融合ペプチド側の末端及びPTD側の末端のうち、PTD側の末端に有していてもよい。
【0037】
より具体的には、本発明のターゲット分子細胞内導入用ペプチドとしては、例えば、以下のものが挙げられる:
N-GLFGAIAGFIENGWEGMIDGWYGF
YGRKKRRQRRR-C (ペプチド1、配列番号23)
N-GLFGAIAGFIENGWEGMIDGWYGF
RRRQRRKKRGY-C (ペプチド2、配列番号24)
N-
YGRKKRRQRRRFGYWGDIMGEWGNEIFGAIAGFLG-C (ペプチド3、配列番号25)
N-
RRRQRRKKRGYFGYWGDIMGEWGNEIFGAIAGFLG-C (ペプチド4、配列番号26)
N-GFFGAIAGFLEGGWEGMIAGWHGY
YGRKKRRQRRR-C (ペプチド5、配列番号27)
N-GFFGAIAGFLEGGWEGMIAGWHGY
RRRQRRKKRGY-C (ペプチド6、配列番号28)
N-
YGRKKRRQRRRYGHWGAIMGEWGGELFGAIAGFFG-C (ペプチド7、配列番号29)
N-
RRRQRRKKRGYYGHWGAIMGEWGGELFGAIAGFFG-C (ペプチド8、配列番号30)
N-GLFGAIAGFIENGWEGMIDGWYG
YGRKKRRQRRR-C (ペプチド9、配列番号31)
N-GLFGAIAGFIENGWEGMIDGWYG
RRRQRRKKRGY-C (ペプチド10、配列番号32)
N-
YGRKKRRQRRRGYWGDIMGEWGNEIFGAIAGFLG-C (ペプチド11、配列番号33)
N-
RRRQRRKKRGYGYWGDIMGEWGNEIFGAIAGFLG-C (ペプチド12、配列番号34)
N-GFFGAIAGFLEGGWEGMIAGWHG
YGRKKRRQRRR-C (ペプチド13、配列番号35)
N-GFFGAIAGFLEGGWEGMIAGWHG
RRRQRRKKRGY-C (ペプチド14、配列番号36)
N-
YGRKKRRQRRRGHWGAIMGEWGGELFGAIAGFFG-C (ペプチド15、配列番号37)
N-
RRRQRRKKRGYGHWGAIMGEWGGELFGAIAGFFG-C (ペプチド16、配列番号38)
N-GLFGAIAGFIENGWEGMIDGWYGF
RRRRRRRRRRR-C (ペプチド17、配列番号39)
N-
RRRRRRRRRRRFGYWGDIMGEWGNEIFGAIAGFLG-C (ペプチド18、配列番号40)
N-GFFGAIAGFLEGGWEGMIAGWHGY
RRRRRRRRRRR-C (ペプチド19、配列番号41)
N-
RRRRRRRRRRRYGHWGAIMGEWGGELFGAIAGFFG-C (ペプチド20、配列番号42)
N-GLFGAIAGFIENGWEGMIDGWYG
RRRRRRRRRRR-C (ペプチド21、配列番号43)
N-RRRRRRRRRRRGYWGDIMGEWGNEIFGAIAGFLG-C (ペプチド22、配列番号44)
N-GFFGAIAGFLEGGWEGMIAGWHG
RRRRRRRRRRR-C (ペプチド23、配列番号45)
N-
RRRRRRRRRRRGHWGAIMGEWGGELFGAIAGFFG-C (ペプチド24、配列番号46)
N-GLFEAIAEFIEGGWEGLIEGWYG
RRRRRRRRRRR-C (ペプチド25、配列番号47)
N-
RRRRRRRRRRRGYWGEILGEWGGEIFEAIAEFLG-C (ペプチド26、配列番号48)
N-GLFEAIAEFIEGGWEGLIEGWYG
YGRKKRRQRRR-C (ペプチド27、配列番号49)
N-GLFEAIAEFIEGGWEGLIEGWYG
RRRQRRKKRGY-C (ペプチド28、配列番号50)
N-
YGRKKRRQRRRGYWGEILGEWGGEIFEAIAEFLG-C (ペプチド29、配列番号51)
N-
RRRQRRKKRGYGYWGEILGEWGGEIFEAIAEFLG-C (ペプチド30、配列番号52)。
上記配列において、下線部はPTDを示し、それ以外の部分は、pH依存性膜融合ペプチドである。
【0038】
本発明のターゲット分子細胞内導入用ペプチドは、従来公知の遺伝子工学的手法や化学合成法などによって作製できる。例えば、前述のターゲット分子細胞内導入用ペプチドをコードするポリヌクレオチドをベクター等に挿入し、次いで、当該ベクターが組み込まれた形質転換体を培養したのち、所望のペプチドを取得すればよい。また、本発明のターゲット分子細胞内導入用ペプチドは、当該ペプチドの産生能を有するよう形質転換した微生物から単離・精製することによって取得してもよい。また、ターゲット分子細胞内導入用ペプチドのアミノ酸配列またはこれをコードするヌクレオチド配列の情報に従って、本発明のターゲット分子細胞内導入用ペプチドを従来公知の化学合成法により合成して取得してもよい。なお、化学合成法には、液相法や固相法によるペプチド合成法が包含される。
【0039】
その際、本発明のターゲット分子細胞内導入用ペプチドは、pH依存性膜融合ペプチドとPTDとが結合したもの(またはさらに目的物質を結合させるためのドメインが結合したもの)を上記の方法により製造しても、pH依存性膜融合ペプチド及びPTD(またはPTDに目的物質を結合させるためのドメインが結合したもの)をそれぞれ上記の方法により合成した後にこれらを結合させて製造してもよい。
【0040】
複合体
本発明は、前述ターゲット分子細胞内導入用ペプチドとターゲット分子とを結合させてなるターゲット分子複合体を提供する。
【0041】
ターゲット分子とターゲット分子細胞内導入用ペプチドとの結合様式は特に限定されず、例えば、前述の結合ドメインを介して結合してもよく、−S−S−結合等により架橋されてもよく、ビオチン、アビジンシステムを利用してもよく、静電的に結合してもよく、化学的に修飾して結合させても良い。
【0042】
ターゲット1分子に対しターゲット分子細胞内導入用ペプチドを結合させる数も特に限定されないが、2個以上(例えば、3個以上、より好ましくは8個以上)のターゲット分子細胞内導入用ペプチドがターゲット分子に結合することが、細胞表面受容体結合の効率上昇び細胞表面受容体の取り込み機序の活性化の観点から好ましい。ターゲット1分子に対しターゲット分子細胞内導入用ペプチドを結合させる数の上限も特に限定されないが、例えば、30個以下が好ましく、20個以下がより好ましい。
【0043】
目的物質としては、特に限定されず、高分子及び低分子のいずれであってもよい。例えば、高分子化合物としては、DNA、RNA(siRNA、shRNA等)等の核酸分子;オリゴペプチド、タンパク質(抗体、抗体フラグメント、酵素、サイトカイン、ケモカイン、レセプターポリペプチド、等)等のペプチド等、糖鎖等が挙げられる。低分子としては、例えば、抗生物質、抗癌剤、抗炎症剤、リポソーム、ミセル、デンドリマー、ナノチューブ、アミノ酸ナノ粒子等のナノキャリア、量子ドット等、蛍光色素等、細胞内分子可視化試薬、ナノ磁性体、ナノゴールド等、生体内での標的細胞動態を可視化できる化合物等が挙げられる。
【0044】
例えば、転写因子の異常により発生する癌については、当該転写因子をターゲット分子として含む本発明の複合体を調製し、これを被験体に投与して癌の治療をすることも可能である。
【0045】
また、本発明の方法を用いて抗原提示細胞に抗原を導入すると抗原がMHC-クラスIに提示されて細胞障害性T細胞が活性される。そこで、細胞障害性T細胞を誘導する必要がある多くのウイルス感染症および癌に対するワクチンへの応用が考えられる。
【0046】
本発明のターゲット分子細胞内導入用ペプチド及び複合体には、さらに特定の抗原に対し特異的に結合する物質(例えば、抗体、抗体フラグメント(scFv(Single-chain variable fragment)等))を結合させてもよい。当該実施形態によれば、種々の細胞を含む試料又は被験体において、特定の細胞に特異的にターゲット分子を導入することができる。
【0047】
本発明の複合体は、コンディショナルノックアウト動物への応用も可能である。具体的には、例えば、標的となる遺伝子領域をCreリコンビナーゼ標的配列loxPで挟んだ遺伝子座を有するfloxマウスに、本発明のターゲット分子細胞内導入用ペプチドとCreリコンビナーゼ又はこれをコードする遺伝子とを結合した複合体を投与する方法があげられる。当該実施形態においては、Creリコンビナーゼ又はこれをコードする遺伝子がfloxマウスの体細胞に導入され、リコンビナーゼにより標的遺伝子を欠失させることができる。そのため、当該実施形態においては、所望のタイミングで標的となる遺伝子領域を欠失させることができるため有用である。また、当該複合体に特定の抗原等に結合する物質を結合させておくことにより、さらに、標的となる遺伝子領域の欠失を所望のタイミングでかつ所望の部位で生じさせることができる。
【0048】
別の実施形態において、本発明の複合体はiPS細胞の作製にも使用することができる。具体的には例えば、OCT3/4・SOX2・NANOG・LIN28の4遺伝子発現ベクター、もしくは4蛋白質等をターゲット分子として本発明の複合体を作製し、これをin vitroで細胞に添加するか、または被験体となる動物に直接投与することにより、ターゲット分子である遺伝子が細胞に導入され、iPS細胞を樹立することができる。
【0049】
また、細胞内での細胞外との環境変化に反応する反応基質を活用する例えば、エンドソームに取り込まれた後のpHの低下をpH反応性に応答して構造が変化し目的物質が導入ペプチドから離れるようにする、例えばpH反応性のpara-nitrophenyl (pNP)-PEG-PE、システイン-システイン間のSS結合等を用いて細胞内で目的物質より乖離する方法を含む。
【0050】
ベクター
本発明は、ターゲット分子細胞内導入用ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターも提供する。本発明においては、プラスミドベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター等いずれのベクターであっても利用できる。
【0051】
当該ベクターにターゲット分子細胞内導入用ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む塩基配列をクローニングする方法としては、自体公知の方法を用いて行うことができ、例えば、発現制御シグナル(転写開始及び翻訳開始シグナル)等をコード領域の上流に配置する等して、宿主微生物に応じて該遺伝子が微生物菌体中で自発現可能となるよう設計することができる。
【0052】
本発明のベクターには、上記ターゲット分子細胞内導入用ペプチドをコードするものだけでなく、ターゲット分子細胞内導入用ペプチドと目的物質とが結合した複合体をコードするものも含む。当該実施形態においては、遺伝子発現により、ターゲット分子細胞内導入用ペプチドと目的物質とを共有結合したかたちで産生することができる。
【0053】
医薬組成物
本発明は、前記複合体を有効成分として含む医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物において、有効成分である前記複合体は単独で用いることも可能であるが、投与経路に応じ、薬学的に許容し得る担体を用いて適当な剤形に製剤化することができる。例えば、本発明の医薬組成物は、被験体に対し、種々の投与経路、具体的には、経口又は非経口投与(例えば静脈注射、筋肉注射、経鼻粘膜投与、経口腔粘膜投与、経皮投与、皮下投与、皮内投与、直腸投与等)で投与することができる。好ましくは静脈注射、筋肉注射、経鼻粘膜投与等どの非経口的な局所投与である。被験体としては、哺乳動物(ヒト又は非ヒト哺乳動物)等が挙げられ、非ヒト哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル等が挙げられる。
【0054】
好ましい剤形としては、非経口剤では、例えば、注射剤(点滴剤を含む)、軟膏剤、点眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤等が好ましく挙げられる。経口剤では、例えば、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、シロップ剤、及びトローチ剤等が好ましく挙げられる。
【0055】
これら製剤の製剤化に用い得る担体としては、例えば、医薬分野において通常使用される、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、及び矯味矯臭剤、また必要に応じて、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、無痛化剤等が挙げられる。
【0056】
細胞内にターゲット分子を導入する方法
本発明は、細胞に前記複合体を添加する工程を含む、ターゲット分子を細胞内に導入する方法を提供する。当該方法は、前記複合体をin vitro及びin vivoのいずれで細胞に添加してもよい。
【0057】
添加された複合体は、細胞膜表面付近でPTDが膜表面のへパラン硫酸プロテオグリカン等に結合して局所刺激を引き起こし、エンドサイトーシスによりターゲット分子細胞内導入用ペプチドを細胞内に取り込まれる(
図1)。そして、pH依存性膜融合ペプチドがエンドソーム膜に挿入される。その後、時間と共にエンドソーム内のpHは早急に酸性に変化する。pHの変化に伴い、pH依存性膜融合ペプチドはエンドソーム膜に挿入された状態でその立体構造が変化して湾曲し、エンドソーム膜に小孔を生じさせる。その結果、ターゲット分子細胞内導入用ペプチドは、エンドソーム膜を介して細胞質内に放出される。
【0058】
ターゲット分子の細胞内導入剤
本発明は、前述したターゲット分子細胞内導入用ペプチドを含むターゲット分子の細胞内導入剤を提供する。本発明においては、ターゲット分子細胞内導入用ペプチド自体をターゲット分子の細胞内導入剤として用いてもよく、またターゲット分子細胞内導入用ペプチドを、前述した担体等と混合し製剤化したものを用いてもよい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは明らかである。
【0060】
実施例1
東レ株式会社に依頼し、Fmoc (N-(9-フルオレニル)メトキシカルボニル)固相合成法で下記アミノ酸配列からなるペプチドを合成した:
N-GLFGAIAGFIENGWEGMIDGWYGF
YGRKKRRQRRR-C ペプチド1
合成したペプチドはアセトニトリル/H
2O/トリフルオロ酢酸グラディエントによる逆相HPLCで95%以上に精製した(分子量4149.7)。
【0061】
実施例2〜6
下記のアミノ酸配列からなるペプチドを合成する以外、実施例1と同様にして、ペプチドを合成した:
N-
YGRKKRRQRRRFGYWGDIMGEWGNEIFGAIAGFLG-C(ペプチド3、分子量4149.7)
N-
RRRQRRKKRGYYGHWGAIMGEWGGELFGAIAGFFG-C(ペプチド8、分子量4072.6)
N-
YGRKKRRQRRRGYWGDIMGEWGNEIFGAIAGFLG-C(ペプチド11、分子量4002.6)
N-
RRRRRRRRRRRGYWGEILGEWGGEIFEAIAEFLG-C(ペプチド26、分子量4261.9)
N-
YGRKKRRQRRRGYWGEILGEWGGEIFEAIAEFLG-C(ペプチド29、分子量4085.6)
上記配列において、下線部はPTDを示し、それ以外の部分は、pH依存性膜融合ペプチドである。
【0062】
実施例1’
また、上記Fmoc固相合成法において最後のアミノ酸(ペプチド1においてはN末端のG)の伸長に、ビオチン化アミノ酸を用いてPTD側をビオチン化したこと以外、実施例1と同様にして、N末端をビオチン化したペプチドを合成した。得られた化合物を化合物1とする(分子量4394.1)。
【0063】
実施例2’〜6’
また、上記Fmoc固相合成法において最後のアミノ酸(ペプチド1においてはN末端のG)の伸長に、ビオチン化アミノ酸を用いることによりPTD側をビオチン化した(化合物3、8、11、26)。各化合物の分子量は以下の通り:
化合物3、分子量4394.1
化合物8、分子量4316.9
化合物11、分子量4246.9
化合物26、分子量4329.9
また、下記アミノ酸配列を有しN末端をビオチン化したペプチドも同様にして合成した(化合物33)
N-GYWGEILGEWGGEIFEAIAEFLGRRRRRRRRRRR-C(ペプチド33、分子量4506.2)
比較例1及び2
下記のアミノ酸配列としてからなるペプチドを合成する以外、実施例1’と同様にして、ビオチン化ペプチドを合成した(それぞれ、化合物31〜32とする):
N-RRRQRRKKRGYGDIMGEWGNEIFGAIAGFLG-C(ペプチド31)
N-YGRKKRRQRRR-C(ペプチド32)
実施例31及び32ならびに比較例3及び4
市販のストレプトアビジン蛍光性量子ドット(QD)(QD655, invitrogen; 直径30nm)1 μmolに前述の化合物11及び26を1,2,4,8,12,16,20までの様々なモル比で反応させ、様々な数のターゲット分子細胞内導入用ペプチドをQD上に重合させた(これを価数と表現し、x価の場合、1個のQD上にx個のペプチドが結合していることになる)(価数1〜20の複合体をそれぞれ複合体11−1〜11−20及び26−1〜26−20とする)。実験では生細胞としてHeLa細胞を用い、HeLa細胞は細胞培養液X-VIVO bufferで培養した。複合体11−1〜11−20及び26−1〜26−20、50 pMをendosome染色試薬0.25%のDiOと同時に細胞に添加して1時間後に細胞を培養液で洗浄して、さらに2時間培養後に、文献1.Duan H, Nie S. J Am Chem Soc. (2007) Vol. 129,3333-8.と2.Imamura J, Suzuki Y, Gonda K, Roy CN, Gatanaga H, Ohuchi N, Higuchi H. J Biol Chem. (2011) Vol.286, 10581-92.に記載の方法に従って一分子顕微鏡で観察を行い何%のQD粒子がエンドソームに残存するか定量的に観察した。この結果、力価が2,4,8、16、20価と価数が上昇するに従い、QD粒子の取り込みの向上が観察された(
図2A)。
【0064】
次に、比較例として1及び2で合成した化合物31及び32を用いる以外、実施例31と同様にして、複合体31及び32を調製し、QD粒子のエンドソームへの残存率を測定した。この結果、コントロールとして複合体32(HIV-1 Tat由来)(我々の検討で最も効率が高い8価)と、現時点で最も強力な細胞導入能を有するとされる複合体31(HA-PTD)(同様の検討で最も効率が高い20価)を用いて観察しても、それぞれ平均で0.2%と2%前後しか細胞内に導入されないことが明らかになった(
図3)。他方新たに合成した複合体ではエンドソームからの遊出が著名に改善し、うち2つの複合体(複合体11−20及び26−20)では、平均値でQDの60〜70%がエンドソームから遊出し(
図3)、高いものではQDの70-90%近くがエンドソームから遊出することが明らかになった。
【0065】
ストレプトアビジンQDに化合物11及び26を同様に様々な濃度で重合させ、様々な力価(複合体11−1〜11−20及び26−1〜26−20)で作成した複合体11−1〜11−20及び26−1〜26−20を30pM、Hela細胞に添加して、45分後に細胞内に取り込まれた1個の細胞あたりのQD数で比較した場合、20価複合体11及び26は、2価の複合体32(HIV-1 TatPTD-QD)と比較して、取り込まれる数でそれぞれ7.5倍および5倍改善した(
図2B)。この結果、細胞内に実際に導入されるQD数としては20価複合体11及び26で2価の複合体32と比較して、それぞれ2000倍および1740倍改善したことになった。以上のことより、QD導入能において、従来のPTDに対して1000倍以上の改善を行うことが可能であることが示された。
【0066】
複合体11及び26をQD上に15分子をSS結合を用いて重合させて、さらにHaloTagリガンド分子(Halo-L)(この実験では確実にHaloTagを認識できるように8分子NH2を用いて結合させた)を表面に結合させたQD(QD 564)の合成を四国産総研に依頼し作成した。このQD粒子を用いてミトコンドリア外膜蛋白Mitofusin-2(MFN2)を標的分子に選んで可視化できるか検討した。
【0067】
HaloTag付加MFN2発現ベクターを細胞に導入後48時間経過した時点で、細胞培養液に合成したQDを15pM濃度で添加し、2時間後、細胞内に取り込まれなかったQDを洗浄し、さらに30分間培養後、一分子顕微鏡を用いて細胞内QDを観察した(
図4)。MFN2とQDが共局在するか明らかにする目的で、HaloTag付加MFN2は更にHaloTag TMR Ligandで可視化した。その結果、我々の作成したQDは2時間ほどで細胞に取り込まれて、HaloTag融合MFN2に結合し、高速度でミトコンドリア表面を往復運動することが示された(
図4)。一方HaloTag付加MFN2発現ベクターを細胞に導入していない細胞ではQDのミトコンドリア上への集積は認められず細胞内にびまん性に集積していた。以上より、我々が開発した複合体11及び26とHalo-LをQDに結合させた系を活用すると簡便な操作で、生細胞内分子の一分子イメージングが可能であることが示された。