特許第6373847号(P6373847)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373847
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】DHAを混合したオメガ−9カノーラ油
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20180806BHJP
   A23D 9/02 20060101ALI20180806BHJP
   A23L 19/18 20160101ALN20180806BHJP
   A21D 2/14 20060101ALN20180806BHJP
   A21D 13/60 20170101ALN20180806BHJP
   A23L 27/60 20160101ALN20180806BHJP
【FI】
   A23D9/00
   A23D9/02
   !A23L19/18
   !A21D2/14
   !A21D13/60
   !A23L27/60 A
【請求項の数】6
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-531299(P2015-531299)
(86)(22)【出願日】2013年9月10日
(65)【公表番号】特表2015-529087(P2015-529087A)
(43)【公表日】2015年10月5日
(86)【国際出願番号】US2013058860
(87)【国際公開番号】WO2014043053
(87)【国際公開日】20140320
【審査請求日】2016年9月2日
(31)【優先権主張番号】61/699,679
(32)【優先日】2012年9月11日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501035309
【氏名又は名称】ダウ アグロサイエンシィズ エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126354
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】サイド,アシム
(72)【発明者】
【氏名】ジシャク,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ギルソン,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】シュー,チアピン チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】ワン−ノラン,ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】セナナヤケ,エス.ピー.ジャナカ ナマル
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/146524(WO,A1)
【文献】 特開平11−152491(JP,A)
【文献】 特開2000−262214(JP,A)
【文献】 特開2009−100736(JP,A)
【文献】 特表2011−519552(JP,A)
【文献】 特表2012−507286(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0305811(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00−9/06
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カノーラ油の酸化安定性を増大させる方法であって、藻類から得られるドコサヘキサエン酸(DHA)をアブラナ属(Brassica)種の植物から得られるオメガ−9カノーラ油と混合して油組成物を形成することを含む、方法。
【請求項2】
前記DHAは、前記油組成物において、0.1重量%から1.0重量%の濃度を占める、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記DHAは、前記油組成物において、0.2重量%から0.5重量%の濃度を占める、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記DHAは、前記油組成物において、0.23重量%の濃度を占める、請求項に記載の方法。
【請求項5】
酸化安定性が増大したカノーラ油組成物を調製する方法であって、アブラナ属(Brassica)種の植物から得られるオメガ−9カノーラ油を藻類から得られるドコサヘキサエン酸(DHA)と混合することを含む、方法。
【請求項6】
オメガ−9カノーラ油を酸化に対して安定させる方法であって、前記方法は、前記オメガ−9カノーラ油を藻類から得られるドコサヘキサエン酸(DHA)と混合して、油組成物を形成することを含み、前記DHAは、前記組成物中、前記油組成物の0.1重量%から1.0重量%の最終濃度で存在する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2012年9月11日出願の、「DHAを混合したオメガ−9カノーラ油(Omega-9 Canola Oil Blended With DHA)」についての米国特許仮出願第61/699,679号の出願日の利益を主張する。
【0002】
共同研究契約
ここに特許請求された本発明は、共同研究契約の下記の当事者によって、または当事者のために行われたものである。共同研究契約は、特許請求された本発明が行われた日以前に有効であり、そして特許請求された本発明は、共同研究契約の範囲内でなされた業務の結果として行われたものである。共同研究契約の当事者は、Dow AgroSciences,LLCおよびMARTEKである。
【0003】
技術分野
本開示は、一般に、改良されたカノーラ油、改良されたカノーラ油の生産方法、および改良されたカノーラ油を有する食品組成物に関する。オメガ−9カノーラ油およびオメガ−3脂肪酸の組成物は、汎用カノーラ油と比較して、高い酸化安定性を示す。組成物は、酸化防止剤(例えばトコフェロール)を含んでもよい。
【背景技術】
【0004】
カノーラは、カナダの植物育種家によって(具体的にはその油およびミール属性、特にその低い飽和脂肪レベルに関して)開発されたナタネの遺伝的変異体である。「カノーラ」は、一般に、種子油中に2重量%未満のエルカ酸(Δ13−22:1)、およびオイルフリーミール1グラムあたり30マイクロモル未満のグルコシノレートを有するアブラナ属(Brassica)種の植物を指す。一般的に、カノーラ油は、飽和脂肪酸(パルミチン酸およびステアリン酸を含む);モノ不飽和脂肪酸(オレイン酸として公知である);およびポリ不飽和脂肪酸(リノール酸およびリノレン酸を含む)を含有する。これらの脂肪酸は、炭素鎖の長さ、および鎖中の二重結合の数によって記載されることがある。例えば、オレイン酸はC18:1と呼ばれ(18−炭素鎖および1つの二重結合を有するからである);リノール酸は、C18:2と呼ばれ(18−炭素鎖および2つの二重結合を有するからである);そしてリノレン酸は、C18:3と呼ばれることがある(18−炭素鎖および3つの二重結合を有するからである)。また、(脂肪酸のアルキル末端からの)最初の二重結合の位置も示されることがあり、オメガ−3脂肪酸では、アルファ−リノレン酸(18:3w−3)(ALA)、エイコサペンタエン(eicosopentaneoic)酸(EPA)(20:5w−3)、およびドコサヘキサエン酸(DHA)(22:6w−3)となり、最初の二重結合は炭素3に位置する。
【0005】
カノーラ油は、約7%未満の総飽和脂肪酸、および60%を超えるオレイン酸を含有し得る(総脂肪酸のパーセンテージとして)。「オメガ−9カノーラ油」は、例えば、少なくとも68.0重量%のオレイン酸、および4.0重量%以下のリノレン酸を含む脂肪酸含有量の非水添油を含有する。
【0006】
植物油の脂肪酸組成は、油の品質、安定性および健康属性に影響を及ぼす。例えば、オレイン酸は、ある種の健康上の利点(血漿コレステロールレベルを下げる効果を含む)を有すると認識されており、種子油中のオレイン酸含有量を高いレベル(>70%)にすることは望ましい形質である。同じプロセシング、製剤化、包装および貯蔵の条件下では、異なる植物油間における安定性の主な差異は、それら種々の脂肪酸プロフィールに起因する。また、高いオレイン酸含有量の植物油は、耐酸化性が、熱の存在下で高いため、料理用として好ましい。酸化安定性が低いと、油がフライ油として用いられる場合に、作業時間が短くなる。これは、酸化により異臭および悪臭が生じるためであり、これにより、油の市場価値が大いに下がる虞がある。
【0007】
関連技術の前述した例およびこれと関連のある限定は、説明を意図するものであり、排他的なものではない。関連技術の他の限定は、当業者であれば、明細書を読み、かつ図面を検討すれば直ぐに明らかとなろう。
【発明の概要】
【0008】
以下の実施形態およびその態様は、例示的かつ説明のためのものであることを意味しており、範囲を限定するものではない。種々の実施形態において、先に記載される課題の1つまたはそれ以上が軽減される、または取り除かれると同時に、他の実施形態が他の改良に向けられる。
【0009】
種々の態様において、オメガ−9カノーラ油およびオメガ−3脂肪酸を含む、酸化安定性が増大した組成物が提供される。実施形態において、オメガ−3脂肪酸は、ドコサヘキサエン酸(DHA)であってよい。ある実施形態において、DHAは、組成物中に、0.1から1.0重量パーセントの濃度で存在してよい。一部の実施形態において、組成物は、さらなる酸化防止剤を含んでよい。ある実施形態において、酸化防止剤は、トコフェロールまたは関連の酸化防止剤を含んでよい。
【0010】
別の態様において、オメガ−9カノーラ油の酸化安定性を、DHAをオメガ−9カノーラ油と混合することによって増大させる方法が開示される。酸化安定性が増大したカノーラ油組成物を調製する方法もまた開示される。
【0011】
さらなる態様において、オメガ−9カノーラ油およびDHAを含み、オメガ−9カノーラ油が、少なくとも68重量%のオレイン酸および4重量%以下のリノレン酸を含む、耐酸化性がある食品組成物および油組成物が開示される。
【0012】
先に記載される例示的な態様および実施形態に加えて、さらなる態様および実施形態が、図面を参照することによって、そして以下の記載を検討することによって、明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】FAME分析によって測定された、選択したカノーラ油サンプルの脂肪酸濃度プロフィールを示すヒストグラムである。
図2】選択したカノーラ油サンプルについての摂氏90°でのRANCIMAT(商標)値を示すチャートである。
図3】選択したカノーラ油サンプルについての過酸化物価(PV)(脂肪または油の1キログラムあたりの過酸化物酸素の量)を示すチャートである。
図4】選択したカノーラ油サンプルについてのp−アニシジン(pAnV)価を示すチャートである。
図5】選択したカノーラ油サンプルについてのTotox値を示すチャートである。
図6】選択したカノーラ油サンプルについての初期の魚臭い/絵の具の(painty)(初期F/P)芳香および芳香強度を、15ポイントの記述的分析スケールを用いて示すヒストグラムである。
図7】室温で貯蔵した油サンプルについて、選択したカノーラ油サンプルの魚臭い/絵の具の芳香を、15ポイントの記述的分析スケールを用いて示すチャートである。
図8】室温で貯蔵した油サンプルについて、選択したカノーラ油サンプルの魚臭い/絵の具の芳香性を、15ポイントの記述的分析スケールを用いて示すチャートである。
図9】摂氏32°で貯蔵した油サンプルについて、選択したカノーラ油サンプルの魚臭い/絵の具の芳香を、15ポイントの記述的分析スケールを用いて示すチャートである。
図10】摂氏32°で貯蔵した油サンプルについて、選択したカノーラ油サンプルの魚臭い/絵の具の芳香性を、15ポイントの記述的分析スケールを用いて示すチャートである。
図11】紫外線露光下で貯蔵した油サンプルについて、選択したカノーラ油サンプルの魚臭い/絵の具の芳香を、15ポイントの記述的分析スケールを用いて示すチャートである。
図12】紫外線露光下で貯蔵した油サンプルについて、選択したカノーラ油サンプルの魚臭い/絵の具の芳香性を、15ポイントの記述的分析スケールを用いて示すチャートである。
図13】シュレッダにかけたジャガイモの調製物におけるカノーラ油サンプルの適用を、6ポイントの、コントロールとの差異(DFC)スケールを用いて示すチャートである。
図14】ビネグレットドレッシングの調製物におけるカノーラ油サンプルの適用を、6ポイントの、コントロールとの差異(DFC)スケールを用いて示すチャートである。
図15】マフィンの調製物におけるカノーラ油サンプルの適用を、6ポイントの、コントロールとの差異(DFC)スケールを用いて示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一部の態様において、オメガ−9カノーラ油およびオメガ−3脂肪酸を含む油組成物であって、市場リーダーであるカノーラ油に匹敵するか、これよりも優れた酸化安定性がある油組成物が提供される。本明細書中で用いられる用語「オメガ−9油」または「オメガ−9カノーラ油」は、少なくとも68.0重量%のオレイン酸および4.0重量%以下のリノレン酸を含むカノーラ油組成物を指す。一部の実施形態において、オメガ−9カノーラ油は、少なくとも70重量%のオレイン酸を含んでよい。一部の実施形態において、オメガ−9カノーラ油は、3.0重量%未満のリノレン酸を含んでよい。オメガ−9カノーラ油は、NATREON(商標)(Dow Agrosciences(インディアナポリス、IN))として市場に出ているので、本明細書中では「オメガ−9カノーラ油」、「DowAgroカノーラ油」または「DowAgroオメガ−9カノーラ油」と呼ぶことがある。カラシナ(Brassica juncea)中の、オメガ−9カノーラ油およびオメガ−9カノーラ油の生成方法が、米国特許出願公開第2010/0143570号において開示されている。
【0015】
種々の実施形態において、オメガ−3脂肪酸は、ドコサヘキサエン酸(DHA)(22:6w−3)、エイコサペンタエン酸(EPA)(20:5w−3)またはアルファ−リノレン酸(18:3w−3)を含んでよい。DHAは、一次構造脂肪酸として脳および眼において機能し、かつ一生を通じて、脳、眼および心血管の健康を支える、長鎖脂肪酸である(例えば、Hashimoto and Hossain, 2011;Kiso, 2011参照)。DHAは主に、魚油または藻類の発酵物から得られる。栄養学者は、人々にDHAの消費増大を推奨している。なぜなら、ほとんどの人々が、食事で十分に得ていないためである。本明細書における使用に適したDHAの、魚を含まない藻類ソースが、LIFE’S DHA(商標)(Martek Biosciences(コロンビア、MD))として市場に出ている。一部の実施形態において、DHAが、オメガ−9カノーラ油に加えられて、油組成物中約0.1%から約1.0%(w/w)の最終濃度に達してよい。ある実施形態において、DHAが、油組成物中約0.1%、0.2%、0.23%、0.25%、0.5%または1.0%(w/w)の最終濃度で存在してよい。DHAの、オメガ−9カノーラ油への添加により、カノーラ油組成物の健康上の利点が高まると予想される。
【0016】
種々の化学的方法が用いられて、本明細書中に開示される油組成物の脂肪酸組成が測定されてよい。例えば、脂肪酸メチルエステラーゼ(FAME)方法が、この目的に広く用いられている。FAME分析は、脂肪(例えば油)または脂肪酸とメタノール間のアルカリ触媒反応を伴う。続いて、脂肪酸メチルエステルは、当業者に公知のガスクロマトグラフィ(GC)または他の方法を用いて、分析されてよい。
【0017】
本明細書中で用いられる、脂肪酸または油の「酸化安定性」または「耐酸化性」は、酸化および付随する化学的劣化に対する耐性を指す。油の酸化により、悪臭、不快な(魚臭い)匂い、栄養価の低下、および市場性の低下が生じる。油の酸化は、複雑な一連の反応を伴う:最初に、一次分解産物(ペルオキシド、ジエン、遊離脂肪酸)が、続いて二次産物(カルボニル、アルデヒド、トリエン)が、そして最後に三次産物が生じる。二次産物は、多くの場合、悪臭がする油の匂いと関連している。温度の上昇および貯蔵の長期化により、酸化の速度は増す。しかしながら、植物油中の全ての脂肪酸が、等しく、高温および酸化の影響を受けやすいというわけではない。個々の脂肪酸の、酸化に対する感応性は、それらの不飽和度に左右される。例えば、リノレン酸(C18:3)は、3つの炭素−炭素二重結合を有するが、1つの炭素−炭素二重結合しか有していないオレイン酸よりも98倍速く酸化する。同様に、リノール酸は、2つの炭素−炭素二重結合を有するが、オレイン酸よりも41倍速く酸化する(R.T. Holman and O.C. Elmer,「The rates of oxidation of unsaturated fatty acid esters」, J. Am. Oil Chem. Soc. 24, 127-129 1947)。オレイン、リノール、およびリノレン脂肪酸の相対的な酸化速度に関するさらなる情報については、Hawrysh, 「Stability of Canola Oil」, Chap. 7, pp. 99 122, CANOLA AND RAPESEED: PRODUCTION, CHEMISTRY, NUTRITION, AND PROCESSING TECHNOLOGY, Shahidi, ed., Van Nostrand Reinhold, NY, 1990を参照のこと。
【0018】
海産の油は、酸化に対して高度に感受性である。これは、ポリ不飽和脂肪酸の数が多いためである。飽和脂肪(典型的な動物性脂肪およびパーム油を含む)は、酸化するのがより遅い。これは、脂肪酸中に、炭素−炭素二重結合を、あったとしても僅かしか有していないためである。しかしながら、飽和脂肪は、より多くのモノ−およびポリ不飽和脂肪酸を含有する脂肪および油よりも、不健康であると広く考えられている。
【0019】
油組成物の酸化安定性を測定する種々の方法が用いられてよい。これらとして、限定されないが、RANCIMAT(商標)法が挙げられ、これは、油サンプルの酸化安定性インデックス(OSI)を測定するものである。RANCIMAT(商標)法の原理は、油サンプルを一定の通気下で加熱して、水中での酸化により形成された揮発性成分をトラップするものである。これら揮発性化合物の形成速度は、電気伝導度の増大を測定することによってモニターされ、これにより、油または油混合物の悪臭を発生するまでの時間の指標が与えられる。OSI値が高いほど、酸化までの時間が長いことを反映するので、高い値が望ましい。
【0020】
油組成物の酸化はまた、過酸化物価(PV)法、アニシジン価(AV)法(すなわち、p−アニシジン価法)およびTotox値法(Miller, 2012)を用いて測定されてもよい。これらの試験は、より完全な酸化プロフィールを与えるために、しばしば組み合わされる。PV法は、一次酸化産物、特にヒドロペルオキシドを測定する。PV法は、時折、「現在の」酸化を測定する方法として記載される。当業者に公知の適切なPV法として、米国油脂化学協会(AOCS)の「Peroxide Value Acetic Acid-Chloroform Method」Cd8-53 (1997)の方法およびその変形が挙げられる。同様に、油中でのアルデヒド化合物の形成は、悪臭の測定可能な指標である。AOCSのAnisidine Value (AV) Method Cd18-90 (1997)は、アルデヒド含有量を測定するのに広く用いられている。酢酸の存在下で、p−アニシジンは、油および脂肪中でアルデヒド化合物と反応して、黄色がかった反応産物が生じ、これは、350nmでの吸光度を測定することによって定量化され得る。AV法は、時折、油の「過去の」酸化を測定する方法として記載される。Totox値法は、式AV+2PVを用いて得られ、これは、油の全体的な酸化状態を示している。より低いTotox値が望ましい。油組成物中の酸化および悪臭を測定する他の方法が、当業者に公知であり、酸価試験(遊離脂肪酸FFA)、チオバルビツール酸価(TBA)およびヨウ素価(IV)が挙げられる。
【0021】
「正常な」匂いと、悪臭に関連した異常な匂いとを識別するために電子匂い検出系(「人工ノーズ」)(金属酸化物センサを利用する)を用いてよい。公知のサンプルとの比較が容易にするために油サンプルの加熱が制御されて用いられてよい。「芳香マップ」がこのように作成されて用いられて、種々の組成物の酸化安定性が評価される。また、食物研究分野では、そのような匂いを検出するよう訓練を積んだ人々によっても、評価されている。官能試験が用いられて、種々の油組成物の芳香および芳香属性(魚臭い/絵の具の芳香)が、15pt SPECTRUM(商標)のスケール、または他の適切なスケールでランク付けされてよい。また、味覚研究が行われて、食品調製物中の、DHA入り、そしてDHAなしの種々の油組成物(例えばオメガ−9カノーラ油)の味および望ましさ(desirability)が、評価されてもよい。当業者に公知の無作為単純盲検または二重盲検法が用いられて、バイアスが最小にされてよい。
【0022】
貯蔵の条件、期間および温度が修正されて、これらの要因の、化学的安定性および酸化安定性に及ぼす影響が評価されてよい。例えば、紫外線、種々の金属(例えば、鉄または銅)および湿気の存在が、油の酸化速度を増大させ得る。一部の実施形態において、酸化防止剤が油組成物に加えられてよい。酸化防止剤は、酸化連鎖反応(oxidation chain reaction)を終了させ、かつ酸化中間体の形成を阻害することによって、油の酸化速度を遅らせることができる。油組成物での使用に適した酸化防止剤として、トコフェロール(ビタミンE)、カロチノイド、ベータ−カロテン、レチノール(ビタミンA)、クエン酸、アスコルビン酸(ビタミンC)、リン酸、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、tert−ブチルヒドロキノン(TBHQ)、フラボノイドおよび茶カテキンが挙げられ得る。他の適切な天然の酸化防止剤または合成酸化防止剤が用いられてよい。ある実施形態において、トコフェロールが、酸化防止剤として油組成物に加えられてよい。一部の実施形態において、トコフェロールを約600ppmの濃度で含有するDHAストック油が、オメガ−9カノーラ油に加えられて、適切な油組成物が生産されてよい。他の酸化防止剤の濃度が、酸化防止剤の利点を油組成物にもたらすのに有効であるかもしれず、本明細書中に包含される。
【0023】
本明細書中に開示される油および油組成物はまた、調理以外の種々の用途において用いられてもよい。これらの用途の一部として、酸化安定性が要求される、産業用、化粧用、または医薬用の用途がある。一般に、油組成物は、例えば、種々の用途(例えば潤滑剤、潤滑添加剤、金属作用流体、作動流体(hydraulic fluid)および耐火性作動流体)において、鉱油、エステル、脂肪酸または動物性脂肪の代替として用いられてよい。本明細書中に開示される油組成物は、修飾油組成物を生産するプロセスにおける材料として用いられてもよい。油組成物を修飾する技術の例として、分留、水素添加、油のオレイン酸またはリノレン酸含有量の変更、および当業者に公知の他の修飾技術が挙げられる。一部の実施形態において、油組成物は、エステル交換油の生産、トリステアリンの生産、または誘電流体組成物に用いられてよい。このような組成物は、電気装置に含まれてよい。本明細書中に開示される油組成物の工業的用途の例として、潤滑剤組成物の構成部(米国特許第6689722号;国際公開第2004/0009789号も参照);燃料(例えば、バイオディーゼル)(米国特許第6887283号;国際公開第2009/038108号も参照);複写装置に使用される記録材料(米国特許第6310002号);粗油類似組成物(米国特許第7528097号);コンクリート用シーリング組成物(米国特許第5647899号);硬化性コーティング剤(米国特許第7384989号);産業用フライ油;クリーニング製剤(国際公開第2007/104102号;国際公開第2009/007166号も参照);およびはんだ付け用フラックス中の溶媒(国際公開第2009/069600号)が挙げられる。本明細書中に開示される油組成物はまた、産業プロセス(例えば、バイオプラスチックの生産(米国特許第7538236号);および逆相エマルジョン重合によるポリアクリルアミドの生産(米国特許第6686417号))に用いられてもよい。本明細書中に開示される油組成物の化粧用途の例として、化粧組成物中のエモリエントとして;石油ゼリー置換物として(米国特許第5976560号);石鹸の構成部として、または石鹸の生産プロセスにおける材料として(国際公開第97/26318号;米国特許第5750481号;国際公開第2009/078857号);経口治療溶液の構成部として(国際公開第00/62748号);エージング処理組成物の構成部として(国際公開第91/11169号);および皮膚または毛髪のエアロゾル泡調製物の構成部として(米国特許第6045779号)の使用が挙げられる。本明細書中に開示される油組成物はまた、医療用途において用いられてもよい。例えば、本明細書中に開示される油組成物は、感染に対する保護的バリアに用いられてよく(Barclay and Vega, 「Sunflower oil may help reduce nosocomial infections in preterm infants」Medscape Medical News <http://cme.medscape.com/viewarticle/501077>、2009年9月8日にアクセス);そして、オメガ−9脂肪酸が多い油組成物が用いられて、移植片の残存率が高められてよい(米国特許第6210700号)。
【0024】
本明細書中で議論される、刊行物、特許および特許出願を含む全ての参照は、単に、本出願の出願日前の開示に関して提供されているだけである。本発明者らが、先の発明によって、そのような開示に先行する権利がないという承認として、本明細書中で解釈されるべきでない。
【0025】
以下に提供される実施例は、ある特定の特徴および/または態様を示すものである。これらの実施例は、本開示を、記載される特定の特徴または態様に限定するものであると解釈されるべきでない。
【実施例】
【0026】
混合油サンプルの酸化安定性および官能安定性を、経時的に、化学的試験および官能試験による測定に従って評価した。DowAgroオメガ−9カノーラ油(「DowAgroカノーラ油」(DowAgrosciences、インディアナポリス、INによってNATREON(商標)として市場に出ている)のサンプルを、商業的に精製され、漂白され、かつ消臭された汎用のカノーラ油(「市場リーダーカノーラ油」)と比較した。一部のサンプルは、DHAおよび/またはトコフェロール酸化防止剤を含んだ。
【0027】
実施例1:油の混合
油混合物を、重量ベースで調製した。市場リーダーカノーラ油を、POS Pilot Plant(サスカトゥーン、SK、カナダ)から得た。DowAgroカノーラ油を、Richardson International(ウィニペグ、MB、カナダ)から得た。サンプルは、約50gのDowAgroカノーラ油、または市場リーダーカノーラ油を、DHAの含有量が公知のDHAストック油(Martek、コロンビア、MD)と混合することによって調製した。DHAストック油を、DowAgroカノーラ油および市場リーダーカノーラ油の双方について、0.5%または1.0%の最終濃度になるまで加えた。また、酸化防止剤(600ppmのトコフェロール)を含有するDHAストック油を、一部のサンプル中に加えた。酸化防止剤を、DowAgroカノーラ油および市場リーダーカノーラ油の双方について、1.0%または0.5%の最終濃度になるまで加えた。混合油を、均一になるまで撹拌した。混合物を、50℃にセットした重力対流オーブン内で貯蔵した。約10gのアリコートを2週おきにとり、以下に記載する種々の分析を実行するまで冷凍貯蔵した。
【0028】
実施例2:油の脂肪酸メチルエステラーゼ(FAME)分析
実験油混合物を、脂肪酸の含有量について、AOCS法Ce2−66(Preparation of Methyl Esters of Fatty Acids: Ce2-66(97). Official Methods and Recommended Practices of the AOCS, Fifth Edition-First Printing (1993年から1997年の全ての変更を含む); Dr. David Firestone-Editor:米国油脂化学協会、シャンペーン、イリノイ)に記載されるFAME法を用いて分析した。油サンプルを、ヘプタン中油20mg/mLに希釈した。メタノール中1%ナトリウムメキトシドの40マイクロリットル(40μl)を各サンプルに加え、ボルテックスし、60分間室温でインキュベートした。次に、生じた混合物の1マイクロリットル(1μl)を、フレームイオン化検出器(FID)を備えたAgilent 6890 GC(商標)上に注入した。メチルエステル参照標準を、Nu−Chek−Prep,Inc.から購入し、サンプル(Nu−Chek−Prep,Inc.)と同じ濃度に希釈した各油サンプルにおける脂肪酸ピークを同定するために用いた。使用したカラムは、DB−23、60メートルの、0.25mmのIDおよび0.25μmのフィルム厚を有するカラム(Agilent Technologies)であった。オーブン温度を190℃にセットし、ランの間中等温的に維持した。入口スプリット比は1:25であり、入口温度は28℃であった。水素キャリアガスフロー速度は、最初の0.3分間、3.0mL/分にセットし、続いて0.5ml/分(4.0ml/分まで)ランプさせ、そして15.5分間保持した。続いて、水素キャリアガスフロー速度を、0.5ml/分の速度で3.5ml/分に落とし、残りのラン時間保持した。検出器温度を、20ml/分の一定のキャリアガス、30ml/分の燃料水素フロー、および400ml/分の酸化剤フローによって、300℃にセットした。DowAgroカノーラ油および市場リーダーカノーラ油の脂肪酸プロフィールを図1に示す。サンプルを50℃で貯蔵し、トランス脂肪酸およびDHA含有量について、8週間にわたり2週間隔で分析し、それぞれ表1および表2に要約した。
【表1】

【表2】
【0029】
実施例3:酸化安定性インデックス(OSI)を測定するRANCIMAT(商標)研究
選択したカノーラ油組成物のアリコートを、RANCIMAT(商標)(Metrohm、ヘリザウ、スイス)上で、110℃にて、製造者の指示に従って分析した。各油サンプルの3グラム(3g)のアリコートを、ラベル付き反応ベッセル中に入れ、空気入口およびキャップを、各バイアル中に挿入した。収集ベッセルを70mLのMILLI−Q(商標)水で満たし、RANCIMAT(商標)上へ置いて、チュービングを反応ベッセルから収集ベッセルに取り付けた。110℃の温度に達したら、バイアルをヒートブロック中に挿入し、そして20ml/分のエアフローを開始した。RANCIMAT(商標)法は、収集ベッセル中の導電性の増大をモニターして、油の酸化安定性インデックス(OSI)中断点を、導電性カーブの変曲点から測定する。110℃でのOSI算出値を、表3に報告する。
【表3】
【0030】
結果は、OSIスコアが全てのサンプルにおいて経時的に下がることを示している。貯蔵の期間が長いほど、カノーラ油は不安定となり、かつ酸化されるので、OSIスコアが低下する。しかしながら、DowAgroカノーラ油は、DHAまたは添加酸化防止剤の有無にかかわらず、貯蔵の長い期間にわたって、市場リーダーカノーラ油よりも安定していた。例えば、初期時点(表3の「0時」)の市場リーダーカノーラ油は、10.22時間のOSIスコアを示し、これは、初期時点(表1の「0時」)のOSIスコアが18.46時間であるDowAgro油よりも有意に低い。50℃での8週間の貯蔵後、DowAgro油は、酸化がより少ないことを示し続けており、市場リーダーカノーラ油と比較して、OSIスコアが有意に高くなっている。DowAgroカノーラ油は、50℃での貯蔵の8週間後、2.62時間のOSIスコアを示した。このOSIスコアは、市場リーダーであるカノーラ油の、50℃での貯蔵の8週間後の1.67時間のOSIスコアよりも有意に高かった。酸化が少なくなる傾向は、同じ条件下での市場リーダーカノーラ油サンプルと比較して、全てのDowAgroカノーラサンプルにおいて観察された。
【0031】
RANCIMAT(商標)分析を、先に示すように繰り返したが、運転温度を90℃にセットし(図2)、そしてサンプルを、12か月の貯蔵にわたって分析した。DowAgroカノーラ油サンプルは、DHAまたはトコフェロールの有無にかかわらず、初期時点の市場リーダーカノーラ油よりもOSIスコアが高い(したがって、酸化安定性がより良好である)ことを実証した。12か月の貯蔵期間にわたって、全てのDowAgroカノーラ油サンプルは、DHAまたは添加トコフェロールの有無にかかわらず、同様の酸化安定性の傾向を実証した。
【0032】
実施例4:油の過酸化物価分析
過酸化物価(PV)を、油サンプルについて測定した。DHA入り、そしてDHAなしの市場リーダーカノーラ油を、DHAおよび添加トコフェロール入り、そしてDHAおよび添加トコフェロールなしのDowAgroカノーラ油と比較した。PVは、ヨウ化カリウムを酸化する全ての物質を、1,000gのサンプルあたりの過酸化物のミリ当量に換算して測定することによって、算出する。これらの物質は、一般に、過酸化物、または他の同様の脂肪酸化産物であると仮定する。米国油脂化学協会「Peroxide Value Acetic Acid-Chloroform Method」Cd8-53(1997)は、METROHM 702(商標)自動滴定器の使用を含むように構成されている。各シフトの初めに、または任意の変化を系に起こした場合に、ブランク滴定を最初にランさせた。自動滴定器を、製造者が推奨する装置パラメータに従ってセットした。30ミリリットル(30ml)の酢酸/クロロホルム溶液を、5gの油サンプルを含有する滴定ビーカーに加え、そして500μlのKI溶液を加えながら、溶液を滴定器の渦巻プレート上で渦巻かせた。溶液を、たまに振盪させて、正確に1分間静置した。次に、30mlの蒸留水を溶液に加え、そして溶液を滴定器の渦巻プレート上で1分間渦巻かせた。自動滴定器の電極を溶液中に浸し、そして結果を記録して、公知のチオ硫酸ナトリウム溶液のモル標準およびブランクコントロールと比較した。過酸化物価を、1000gのサンプルあたりの過酸化物のミリ当量として、自動滴定器よって以下の式を用いて、算出した:
【数1】
式中:
EP1=サンプルの滴定量(mL)
C30=ブランクの滴定量(mL)
C31=チオ硫酸ナトリウム溶液の規定度
C01=1000(1000gのサンプルの定数)
C00=サンプルの重量(g)
過酸化物価の結果を、図3に示す。DowAgroカノーラ油は、DHAの有無にかかわらず、市場リーダーカノーラ油よりも低い過酸化物価となった。トコフェロールの、DHA入りDowAgroカノーラ油への添加により、僅かに高いPV値が6か月目に表れ、そして僅かに低いPV値が9か月目に表れたが、トコフェロールの添加は、PV値にほとんど影響を及ぼさないようであった。過酸化物価が低いほど、油サンプル中の悪臭レベルが低いことを示す。値が高いほど、悪臭の量が多いことを示し、これは、油産物の望まれない特性である。したがって、DowAgroカノーラ油は、インキュベーション期間中に、市場リーダーカノーラ油と比較して、あまり酸化および悪臭を経験しなかった。
【0033】
実施例5:油のp−アニシジン価分析
p−アニシジン価(pAnV)を、油サンプルについて測定した。DHA入り、そしてDHAなしの市場リーダーカノーラを、DHAおよび添加トコフェロール入り、そしてDHAおよび添加トコフェロールなしのDowAgroカノーラと比較した。米国油脂化学協会Anisidine Value Method Cd18-90(1997)法を用いて、サンプルを分析した。酢酸の存在下で、p−アニシジンは、アルデヒド化合物と油または脂肪中で反応して、黄色がかった反応産物を形成する。pAnVは、pAnV反応の吸光度を350nmで測定することによって、測定する。形成される産物の強度は、存在するアルデヒド化合物の量だけでなく、その構造によっても決まる。カルボニル二重結合と共役する炭素鎖中の二重結合が、モル吸光度を4から5倍増大させることが分かっている。これは、2−アルケナールおよびジエナールが特に、値に実質的に寄与することとなることを示している。油サンプルを計量して25mLのラベル付きメスフラスコ中に入れて、重量を記録した。サンプルを、イソオクタンで溶解して、規定容量まで希釈した。ストッパをフラスコの上部に置いて、フラスコを十分に振盪させた。約2mlのイソオクタンを、澄明な1.00cmキュベット中に移した。溶液の吸光度は、分光測光法を用いて350nmで測定した。5mLのイソオクタンを用いてこれを移してサンプルを希釈し、この手順を繰り返した。正確に1mLのp−アニシジン溶液をサンプルの各セットに加えて、チューブを10秒間激しく振盪させた。10分の反応時間後、溶液を1.00cmキュベットに移した。これらのサンプルを、分光光度計によって350nmで測定して、「ブランク」と比較した。pAnVを、以下の式を用いて算出した:
【数2】
式中:
As=p−アニシジン試薬との反応後のサンプルの吸光度(分光光度計のリーディングによって測定);
Ab=溶液のイニシャル吸光度;および
m=試験部分の質量(グラム)。
【0034】
p−アニシジンの結果を、図4に示す。DowAgroカノーラ油のpAnV値は、0および9か月の市場リーダーカノーラ油の値よりも低かった。p−アニシジン価が低いほど、油サンプル内で生じるアルデヒド生産が少ないことを示す。値が高いほどアルデヒド生産が多いことを示し、これは、油産物の望まれない特性である。表4は、DHAおよび添加トコフェロール入り、そしてDHAおよび添加トコフェロールなしのDowAgroカノーラ油、ならびにDHA入り、そしてDHAなしの市場リーダーカノーラ油の酸化安定性データ(RANCIMAT(商標)、PVおよびpAnVを含む)をまとめる。
【表4】
【0035】
また、DHAおよび添加トコフェロール入り、そしてDHAおよび添加トコフェロールなしのDowAgroカノーラ油サンプル、ならびにDHA入り、そしてDHAなしの市場リーダーカノーラ油について、式TV=AV+2PVを用いて、Totox値を算出した(図5)。Totox値は、油の全体的な酸化状態を示す。Totox値が低いほど、酸化安定性が高いことと関連する。酸化安定性データは、DHA入りDowAgroカノーラ油が、市場リーダーカノーラ油に匹敵する、または市場リーダーカノーラ油よりも優れた酸化安定性を示すことを実証している。これは、DowAgroカノーラ油のより高いオレイン酸含有量に関係している可能性もあるし、他の要因かもしれない。
【0036】
実施例6:スカール(Schaal)オーブン試験
略式の悪臭官能スクリーニングを、スカールオーブン貯蔵安定性試験を用いてカノーラ油組成物に行った。スカールオーブン試験を用いて、脂肪、油、および焼商品(例えばクラッカーおよびパイ皮)について、サンプルをオーブン内にて高温で長時間インキュベートすることによって、悪臭までの時間を迅速に推定する。試験したサンプルは、DHAなし市場リーダーカノーラ油;DHA入り市場リーダーカノーラ油;DHA入りDowAgroカノーラ油;ならびにDHAおよび添加トコフェロール(600ppm)入りDowAgroカノーラ油であった。全てのサンプルが、60℃での貯蔵1週後に悪臭がした。
【0037】
実施例7:130°Fで貯蔵した加工油サンプル中の、Eノーズ分析による揮発性プロフィール
高温で貯蔵したDowAgroオメガ−9カノーラ油および市場リーダーカノーラ油のサンプルによって放出される揮発性化合物を、Analytical Technologies ALPHA MOS FOX 4000系(商標)(Alpha MOS、ハノーバ、Md)(本明細書中で「Eノーズ」と記載する)を用いて比較した。Eノーズは、18個の金属酸化物センサを装備しており、広範囲にわたる匂い検出能力が実現される。匂いは、試験油サンプルによって放出される化合物の、何千とまではいかないが何百もの複雑な混合物に由来するものであり、これらの匂いをEノーズによって検出する。Eノーズから生じたデータを用いて、貯蔵寿命安定性研究由来の「悪」臭および異常な匂いを同定かつ識別することができる。
【0038】
Eノーズ分析を、以下のサンプルで完了した:DHAを含有しないDowAgroオメガ−9カノーラ油;0.5% DHAを含有するDowAgroオメガ−9カノーラ油;1.0% DHAを含有するDowAgroオメガ−9カノーラ油;DHAを含有しない市場リーダーカノーラ油、0.5% DHAを含有する市場リーダーカノーラ油、および1.0% DHAを含有する市場リーダーカノーラ油。5から10グラム(5から10g)の油サンプルを、澄明なガラスボトル内に130°Fで貯蔵した。アリコートを、初期時点(すなわちインキュベーション0日)、30日および60日にて取り出して、Eノーズを用いて分析した。サンプルを測定するのに使用した分析条件を、表5に記載する。
【表5】
【0039】
油を分析するために、各サンプルの1.0mlを、加熱した5.0mLのシリンジを用いてEノーズ中に注入した。インキュベータオーブンは、2、10または20mLバイアル用の6つの加熱位置を有し、加熱範囲は35から200℃(1℃のインクリメント)である。また、インキュベータは、サンプルを加熱しながら混合する旋回シェーカを有する。系は、TOC(総有機炭素)ガスフィルタを使用して、合成乾燥気流を系にもたらす。診断用サンプルセットを毎週ランさせて、センサが順調に作動していることを保証し、そして自動試験を毎週実行して、自動サンプラおよびチャンバ内の温度が適切に機能していることを保証した。
【0040】
この方法を用いて、主成分分析(PCA)グラフを作成し、DHAを含有する、DowAgroオメガ−9カノーラ油および市場リーダーカノーラ油を評価した。Eノーズリーディングの結果を、表6および表7に示す。これらの結果は、インキュベーションの30日および60日後の4つの油タイプについて、匂いプロフィールのEノーズリーディングを提供する。DHAを含有する、DowAgroオメガ−9カノーラ油および市場リーダーカノーラ油の双方の匂いプロフィールは、経時的に増大した。しかしながら、DowAgroオメガ−9カノーラ油は、30日および60日の時点で、市場リーダーカノーラ油と比較して、匂いプロフィールがより低いことを示した。
【表6】

【表7】
【0041】
実施例8:75°Fで貯蔵した処理物中の、Eノーズ分析による揮発性プロフィール。
Eノーズ分析を、実施例6に記載した方法を用いて、75°Fで貯蔵した油サンプルで完了した。以下のサンプルを分析した:DHAを含有しないDowAgroオメガ−9カノーラ油;0.5% DHAを含有するDowAgroオメガ−9カノーラ油;1.0% DHAを含有するDowAgroオメガ−9カノーラ油;DHAを含有しない市場リーダーカノーラ油;0.5% DHAを含有する市場リーダーカノーラ油;および1.0% DHAを含有する市場リーダーカノーラ油。5から10グラム(5から10g)の油サンプルを、澄明なガラスボトル内に75°Fで貯蔵した。これらサンプルのアリコートを、初期時点(すなわち0日)、60日、120日および360日にて取り出して、Eノーズを用いて評価した。Eノーズリーディングの結果を、表8および表9に示す。DHAを含有する、DowAgroオメガ−9カノーラ油および市場リーダーカノーラ油の匂いプロフィールは、経時的に増大した。しかしながら、DowAgroオメガ−9カノーラ油は、2、4および6か月の時点で、市場リーダーカノーラ油と比較して、匂いプロフィールがより低いことを示した。
【表8】

【表9】
【0042】
実施例9:官能安定性試験
官能研究を完了して、DHAおよび添加酸化防止剤入り、そしてDHAおよび添加酸化防止剤なしのDowAgroオメガ−9カノーラ油を、DHA入り、そしてDHAなしの市場リーダーカノーラ油と比較した。官能試験の結果は、1グループのパネリストによって、油の魚臭い/絵の具の芳香および芳香属性の強度を15pt SPECTRUM(商標)スケールでランク付けして、判定した。このスケールでは、0のスコアは、芳香および芳香性がないことを示し、1から3は「低」であり;4から6は「低から中」であり;7から8は「中」であり;9から11は「中から高」であり;12から14は「高」であり;そして15は「非常に高」である。予備研究により、全てのサンプルが、時間0にて、魚臭い/絵の具の芳香および芳香性が低いことが実証された(図6)。
【0043】
続いて、DowAgroオメガ−9および市場リーダーカノーラ油を、数週/数か月にわたって、多数の様々な貯蔵条件にさらした。第1研究において、油サンプルを、周囲(室温)条件下で0か月、6か月、9か月、12か月または15か月間貯蔵した(図7および図8)。第2研究では、32℃で0週、3週、9週または12週間貯蔵した油サンプルを比較した(図9および図10)。第3研究では、1か月、2か月および3か月間貯蔵しながら紫外線にさらした油サンプルを比較した(図11および図12)。3つ全ての研究結果は、DHAおよび酸化防止剤入り、そしてDHAおよび酸化防止剤なしのDowAgroオメガ−9カノーラ油が、DHA入り、そしてDHAなしの市場リーダーカノーラ油と比較して、匹敵する魚臭い/絵の具の芳香および芳香生産量(aromatic production)を示したことを表している。全体的に、9か月試験したサンプルのうち、4つのカノーラ油サンプルのうちの3つ(DHAなしの市場リーダーカノーラ油;DHAを添加したDowAgroカノーラ油;ならびにDHAおよびトコフェロールを添加したDowAgroカノーラ油)を、研究コースの全体を通じて、同様に実行した。しかしながら、DHA入り市場リーダーカノーラ油サンプルは、T=6Mにて有意な「オフ」ノート("off" notes)(主に絵の具/プラスチック/溶媒様)を呈し、T=9Mにて試験を中止した。有意な魚臭い、または絵の具の芳香または芳香性は、周囲(室温)条件下で9か月目に、残りのサンプルのいずれにおいても生じなかった。
【0044】
実施例10:油の食品用途研究
DHA入りの、酸化防止剤入り、そして酸化防止剤なしのDowAgroオメガ−9カノーラ油を含有する食品を調製し、そして官能結果を、市場リーダーカノーラDHA油で調製した同じ食品と比較した。50℃にセットした重力対流オーブン内で3か月間貯蔵した油を、新しい油と比較した。食品の調製に使用したレシピ(表9)は、William−SonomaのウェブサイトおよびWilliam−Sonomaの料理本から採用した。最終食品を室温にてパネリストが試し、全体の官能結果を比較した。コントロールとの差異(DFC)法を用いて、結果を測定した。パネルは、ハッシュブラウン、ビネグレットサラダドレッシングまたはマフィンの味覚における差異を、表10に示す6ポイントスケールを用いてスコアした。ゼロのDFC値は、パネルが、試験したサンプル間の差異に気づかなかったことを意味する。
【表10】
【0045】
食品を、表11に記載するように調製した。評価のために、サンプルサイズを計量してパネリストに給仕した。パネリストに、サンプルを評価するやり方を指導した。
【表11】
【0046】
6ポイントスケールを用いた観察を、図13から図15においてチャートにしている。ハッシュブラウンの全体的な官能結果は、油の貯蔵3か月後の市場リーダー油で調製したハッシュブラウンとの有意な知覚できる味覚差異を示した。マフィンおよびビネグレットサラダドレッシングは、コントロールと、油の貯蔵3か月後の試験サンプルの間で、何ら知覚できる差異をもたらさなかった。
【0047】
本発明のある好ましい実施形態について本明細書中に記載されているが、当業者であれば、本発明がこれらの好ましい実施形態に限定されないことを認識し、理解するであろう。むしろ、好ましい実施形態について、多くの追加、削除および修正が、特許請求されるような本発明の趣旨を逸脱しない範囲でなされてよい。また、一実施形態の特徴が、別の実施形態の特徴と組み合わされてよく、それでもなお、発明者によって意図される本発明の範囲内に包含される。
なお、本願発明には以下の実施形態が包含されるものとする。
[1]オメガ−9カノーラ油およびオメガ−3脂肪酸を含む、耐酸化性がある油組成物。
[2]前記オメガ−3脂肪酸は、アルファ−リノレン酸(ALA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、およびドコサヘキサエン酸(DHA)からなる群から選択される、[1]に記載の油組成物。
[3]前記オメガ−3脂肪酸は、DHAである、[2]に記載の油組成物。
[4]酸化防止剤をさらに含む、[3]に記載の油組成物。
[5]前記酸化防止剤は、トコフェロールである、[4]に記載の油組成物。
[6]前記DHAは、約0.1重量%から約1.0重量%の濃度を占める、[3]に記載の油組成物。
[7]前記DHAは、約0.2重量%から約0.5重量%の濃度を占める、[6]に記載の油組成物。
[8]前記DHAは、約0.23重量%の濃度を占める、[7]に記載の油組成物。
[9]カノーラ油の酸化安定性を増大させる方法であって、DHAをオメガ−9カノーラ油と混合して油組成物を形成することを含む、方法。
[10]前記DHAは、前記油組成物において、約0.1重量%から約1.0重量%の濃度を占める、[9]に記載の方法。
[11]前記DHAは、前記油組成物において、約0.2重量%から約0.5重量%の濃度を占める、[10]に記載の方法。
[12]前記DHAは、前記油組成物において、約0.23重量%の濃度を占める、[11]に記載の方法。
[13]酸化安定性が増大したカノーラ油組成物を調製する方法であって、オメガ−9カノーラ油をオメガ−3脂肪酸と混合することを含む、方法。
[14]前記オメガ−3脂肪酸は、DHAを含む、[13]に記載の方法。
[15]カノーラ油およびDHAを含む耐酸化性がある食品組成物であって、前記カノーラ油は、少なくとも68.0重量%のオレイン酸および4.0重量%以下のリノレン酸を含み;前記DHAは、前記油組成物の約0.1重量%から約1.0重量%を占める、食品組成物。
[16]カノーラ油およびDHAを含む油組成物であって:
前記カノーラ油は、前記カノーラ油の少なくとも68.0重量%のオレイン酸および4.0重量%以下のリノレン酸を含み;
前記DHAは、前記油組成物の約0.1重量%から約1.0重量%を占める、油組成物。
[17]前記カノーラ油は、少なくとも70重量%を占め、前記リノレン酸は、前記カノーラ油の3.0重量%未満を占める、[16]に記載の油組成物。
[18]オメガ−9カノーラ油を酸化に対して安定させる方法であって、前記方法は、前記オメガ−9カノーラ油をDHAと混合して、油組成物を形成することを含み、前記DHAは、前記組成物中、前記油組成物の約0.1重量%から約1.0重量%の最終濃度で存在する、方法。
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