(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下は、本発明の実施形態に関する説明であって本発明を説明した対象に限定する趣旨ではない。以下では、各成分の含有率を示す%表示はすべて質量%であり、含有率の比も質量基準で記述する。YAは可視光透過率を、Tuvは紫外線透過率を、T1500は波長1500nmにおける光線透過率をそれぞれ意味し、これらの透過率はガラス厚みを3.5mmに換算したときの値に基づいて記述する。また、ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの総称として、R
2OはLi
2O、Na
2O及びK
2Oの総称として使用する。さらに、本明細書において「実質的に含まれていない」は、含有率が0.1質量%未満、好ましくは0.05質量%未満、特に好ましくは0.01質量%未満であることを示す用語として使用する。
【0011】
[組成物における各成分]
まず、本発明によるガラス組成物の各成分について説明する。
【0012】
(SiO
2)
SiO
2はガラス骨格を形成する主成分である。ガラス組成物の耐久性のみを考慮すると、SiO
2は65%程度以上含まれていればよい。しかし、高いYAと低いT1500とを両立させるため、SiO
2の含有率は71%以上に調整される。後述するとおり、より高いYAとより低いT1500とを両立させる観点からは、SiO
2とAl
2O
3との含有率の合計は74%程度以上であることが好ましく、これを達成するためにSiO
2の含有率は72%以上、特に72.5%以上、であることが好ましい。さらに高いYAを達成するべき場合、SiO
2の含有率は、73%以上、さらには74%以上が好ましく、場合によっては75%以上であってもよい。SiO
2の含有率が高すぎるとガラス原料の溶融が困難となる。このため、SiO
2の含有率は78%以下、特に77.5%以下、が好ましく、場合によっては77%以下であってもよい。
【0013】
(B
2O
3)
B
2O
3は、必須成分ではないが、溶融助剤等として5%を限度として含まれていてよい成分である。B
2Oの含有率が高すぎると、その揮散性により製造上の問題が生じることがある。B
2O
3の好ましい含有率は、3%未満、特に2%未満である。B
2O
3は実質的に含まれていなくてもよい。
【0014】
(Al
2O
3)
Al
2O
3の含有率は1〜5%の範囲に調整される。ROの含有率が低い組成では、ガラス組成物の耐久性の低下を補う観点から、Al
2O
3は、1.3%以上、特に1.5%以上含ませることが好ましい。ただし、Al
2O
3の含有率が高すぎるとガラス原料の溶融が困難になりやすい。また、Al
2O
3は熱膨張係数を低下させる。このため、ガラス組成物を熱強化(風冷強化)する場合、Al
2O
3の含有率は2.5%以下が好ましい。
【0015】
より高いYAと低いT1500とを高いレベルで両立させるためには、SiO
2とAl
2O
3との含有率の合計は73.9%以上が好ましい。この好ましい例によれば、ガラス組成物において、72.7%以上のYAと33%以下のT1500との両立が可能になる。SiO
2とAl
2O
3との含有率の合計は74.3%以上がより好ましい。このより好ましい例によれば、73%以上のYAと33%以下のT1500との両立が可能になる。
【0016】
(MgO)
MgOの含有率は1〜3.5%の範囲に調整される。MgOは、ガラス組成物の耐久性の向上に寄与し、失透温度及び粘度の調整に使用できる成分である。MgOの含有率が高すぎると、失透温度が上昇してフロート法による量産ができなくなることがある。FeOの吸収ピークを長波長側に移動させるためには、MgOの含有率は低いことが望ましい。FeOピークの長波長側への移動は、より高いYAとより低いT1500とを両立させる手段として有効である。
【0017】
具体的に、MgOの含有率は、1〜2.5%、さらには1〜2%が好ましく、場合によっては1〜1.8%であってもよい。ただし、上述したように、SiO
2とAl
2O
3との含有率の合計を74%程度以上(具体的には73.9%以上、さらには74.3%以上)へと引き上げる場合には、MgOの含有率を極度に低く設定する必要はない。この場合は、MgOの含有率を、例えば2〜3.5%、特に2〜3%に設定して、耐久性の維持にも配慮するとよい。
【0018】
(CaO)
CaOの含有率は2〜9.5%の範囲に調整される。CaOも、MgOとはその影響の程度が相違するものの、ガラス組成物の耐久性の向上に寄与し、失透温度及び粘度の調整に使用できる成分である。CaOの含有率は、3〜9%、さらに4〜9%が好ましい。CaOの含有率は、場合によっては7〜9.5%であってもよい。SiO
2とAl
2O
3との含有率の合計を74%程度以上へと引き上げる場合のCaOの望ましい含有率は4〜7%である、FeOの吸収ピークを長波長側に移動させるためにはCaOの含有率は低いことが望ましいが、CaOの含有率が低すぎるとガラス融液の粘性が高くなりすぎて融液の清澄に不都合をきたす場合がある。
【0019】
(SrO、BaO)
SrO及びBaOは、必須成分ではないが、ガラス組成物の耐久性の向上等に寄与する成分として、それぞれ1%を限度として、好ましくは0.5%を限度として含まれていてよい成分である。SrOとBaOの添加には、CaO等と比較して相対的に高価な原料を使用する必要がある。BaOについてはその取扱いに注意を要する。このため、SrO及びBaOは、それぞれ、実質的に含まれていなくてもよい。
【0020】
(RO)
ROの含有率(MgO、CaO、SrO及びBaOの含有率の合計)は10.5%以下、好ましくは10.3%以下である。ROの含有率の下限は、特に限定されないが、通常は例えば6%以上、さらには7%以上、特に8%以上、場合によっては8.5%以上が適切である。ただし、SiO
2とAl
2O
3との含有率の合計を74%程度以上(具体的には73.9%以上、さらには74.3%以上)に設定する場合、ROの含有率は、10%未満、特に9.5%以下であってもよく、例えば5〜9.5%が適切である。
【0021】
より高いYAと低いT1500とを高いレベルで両立させるためには、MgOの含有率が1〜2%であり、CaOの含有率が7〜9.5%であり、SrO及びBaOを実質的に含まないことが好ましい。この好ましい例によれば、ガラス組成物において、72.6%以上のYAと33%以下のT1500、特に72.6%以上のYAと31.5%以下のT1500との両立を実現することが可能になる。
【0022】
ただし、SiO
2及びAl
2O
3の含有率の合計を74%程度以上(具体的には73.9%以上、さらには74.3%以上)とする場合には、MgOの含有率が2〜3.5%であり、CaOの含有率が4〜7%であり、SrO及びBaOを実質的に含まない、ガラス組成物としてもよい。
【0023】
ROの含有率に対するSiO
2の含有率の比(SiO
2/RO)は、上述した好ましい含有率の範囲を反映して7以上が好ましく、場合によっては8以上、さらには10以上であってもよい。
【0024】
(Li
2O、Na
2O、K
2O)
Li
2O、Na
2O及びK
2Oは、アルカリ金属酸化物であり、溶融促進剤としてガラス原料の溶融に役立つ成分である。Li
2Oは、任意成分であり、3%を限度として、好ましくは1%を限度として含まれていてもよい。Li
2Oは実質的に含まれていなくてもよい。Na
2Oは、製造コストの観点から使用が望ましいアルカリ金属酸化物である。Na
2Oの含有率は10〜18%の範囲に調整される。Na
2Oの含有率は12〜16%が好ましい。K
2Oは、任意成分であり、3%を限度として、好ましくは1.5%を限度として、含まれていてもよい。K
2Oの含有率は、例えば0.5〜1.5%であってもよい。
【0025】
(R
2O)
R
2Oの含有率(Li
2O、Na
2O及びK
2Oの含有率の合計)は、12〜18%の範囲に調整される。R
2Oの含有率は13〜16%の範囲が好ましい。R
2Oの含有率が高すぎるとガラス組成物の耐久性が低下する場合がある。
【0026】
(TiO
2)
TiO
2は、紫外線の吸収機能を担いうる成分の1つである。TiO
2は、FeO比が高いガラスの色調を青味がかった色から緑がかった色へと調整する色調の調整機能を有する。ただし、TiO
2の含有率が高くなるとガラス組成物が黄色味を帯びやすくなる。また、紫外線の吸収機能を担う成分は他にも存在する。このため、TiO
2は、1%を限度として含まれていてもよい任意成分として取り扱う。ただし、TiO
2は、失透温度を下げる機能を有する成分でもあり、微量の添加が望ましい場合がある。TiO
2の含有率は、0.05%以上、さらには0.08%以上、特に0.1%以上であることが好ましい。
【0027】
(CeO
2)
CeO
2も、紫外線の吸収機能を担いうる成分の1つである。ただし、CeO
2の添加は原料コストの増加を招き、成形後に酸化鉄の酸化還元反応に関与してガラス組成物の光学特性を変化させる要因になり得る。また、紫外線の吸収機能を担う成分は他にも存在する。このため、CeO
2は、1%を限度として含まれていてもよい任意成分として取り扱う。ただし、CeO
2は、YAを高く保ちながらTuvを低下させる観点からは最も優れた成分であり、微量の添加が望ましい場合がある。CeO
2の含有率は、0.05%以上、さらには0.1%以上、特に0.3%以上であることが好ましい。
【0028】
低いTuvを達成するために、TiO
2及びCeO
2の含有率の合計は、0.05%以上、さらには0.1%以上、特に0.3%以上であることが好ましく、場合によっては0.5%以上であってもよい。TiO
2及びCeO
2は、それぞれの含有率が高くなった場合の弊害を避けながら適切なTuvを実現するために、それぞれ0.05%以上含まれていることが好ましい。TiO
2及びCeO
2の含有率の合計の上限は、1.5%以下が好ましく、1%以下がさらに好ましく、場合によっては0.9%以下であってもよい。
【0029】
(SO
3)
SO
3は、ガラスの清澄を促進する任意成分として、0.5%を限度として含まれていてもよい成分である。SO
3の含有率は0.05〜0.5%の範囲が好ましい。SO
3の含有率が高すぎると、その分解により生成したSO
2が泡としてガラス組成物に残留したり、リボイルにより泡が発生したりすることがある。SO
3の含有率は0.05〜0.25%がさらに好ましい。SO
3は、通常、ガラス原料の一部に清澄剤として硫酸塩を添加することによりガラス組成物に導入される。
【0030】
(酸化鉄)
酸化鉄は、ガラス組成物中ではFe
2O
3又はFeOとして存在し、Fe
2O
3は紫外線を吸収する機能を有し、FeOは近赤外線を吸収する機能を有する。これらの総量をFe
2O
3に換算したT−Fe
2O
3は0.6〜1.2%の範囲に調整される。T−Fe
2O
3の含有率が高すぎると、ガラス原料を溶融する際に炎の輻射熱が溶融ガラスの上面部で著しく吸収されて窯底部付近まで十分に加熱できなくなる。量産を考慮すると、T−Fe
2O
3は1.1%以下、特に1%以下が好ましい。必要な光学特性を得るため、T−Fe
2O
3の含有率は0.7%以上、さらには0.8%以上であってもよい。
【0031】
好ましくはFeOのT−Fe
2O
3に対する質量比(FeO比)は、30%以下に調整される。FeO比が高すぎると、溶融したガラス原料にシリカリッチの筋やシリカスカムを生じやすくなる。一方、高いFeO比は近赤外線の吸収機能の向上に有利である。FeO比は、23%以上、さらには25%以上、特に26%以上、場合によっては27%以上が好ましい。
【0032】
(その他の微量成分)
本発明によるガラス組成物は、上記各成分と共にその他の微量成分を含んでいてもよい。微量成分としては、NiO、Cr
2O
3、Mo
2O
3、ZnO、SnO
2、La
2O
3を例示できる。微量成分の合計は、5%以下、さらには2%以下、特に1%以下が好ましい。なお、各微量成分の含有率のより好ましい上限は、NiO、Cr
2O
3及びMo
2O
3については0.01%、ZnOについては0.1%、SnO
2及びLa
2O
3については1%である。本発明によるガラス組成物は、上記各成分及び上記各微量成分以外の成分を実質的に含まないことが好ましく、上記各成分(上記で順次説明したSiO
2から酸化鉄までの成分)以外の成分を実質的に含まないものであってもよい。本発明によるガラス組成物はMnOを含まない。
【0033】
なお、本明細書において、ガラス組成物内において複数の価数を取りうる金属の酸化物の含有率は、鉄の酸化物を除き、本明細書に記載されている価数の酸化物に換算して算出することとする。
【0034】
[光学特性]
本明細書では、Tuv(紫外線透過率)としてISO9050:1990に規定されている紫外線透過率を採用し、YA(可視光透過率)としてCIE標準のA光源を用いることを除いてはJIS R3106:1998に基づいて測定される可視光透過率を採用する。本発明の一形態によれば、3.5mmの厚みに換算して、Tuvが18%以下と低く、T1500が34%以下と低く、YAが72%以上と高いガラス組成物が提供される。言うまでもなく「3.5mm」は厚みの例示であって、本発明によるガラス組成物が常にこの厚みに成形されることを意味するものではない。なお、本発明によるガラス組成物は、通常、フロート法に代表される量産設備により所定の厚みに成形され、徐冷されて製造される。
【0035】
ガラス板へと成形されたガラス組成物の表面には、導電膜、撥水膜、光触媒膜、赤外線遮蔽膜、紫外線遮蔽膜に代表される機能性薄膜が形成されることがある。機能性薄膜は、可視光線をできるだけ吸収しないように設計されている。しかし、機能性薄膜の形成によって生じうるYAの若干の低下を考慮すると、ガラス組成物自体のYAは高いことが望ましい。また、例えば車両の遮音性を考慮して窓ガラスが厚く設計されたり、樹脂中間膜を介して2枚を接合した合わせガラスとして使用されたりすることもある。これらの場合も、厚みの増加に伴う透過率の減少を見込んでガラス組成物のYAは高いことが望ましい。量産の際には、不可避的にYAが設計値から僅かに変動することもある。以上を考慮すると、フロントドアガラスの代表的な厚みである3.5mmに換算したガラス組成物のYAは、法規制最低値の70%以上を基準とするのではなく、71%以上、特に71.5%以上が望ましい。また、後述するように、風冷強化及び紫外線照射によってYAは低下する傾向を示すため、ガラス組成物のYAは、この低下を見込んでも法規制の基準値を満たすことが望ましい。ガラス組成物のYAは、72%以上、さらには72.5%以上、特に73%以上が好ましい。
【0036】
T1500は、近赤外線の透過率を示す指標である。YAと同様、T1500も、風冷強化及び紫外線照射により低下する傾向を示す。ガラス組成物のT1500は、34%以下であってよく、好ましくは33.5%以下であり、より好ましくは33%以下である。窓ガラスを通過する近赤外線による熱暑感を効果的に軽減する観点から特に望ましいT1500の値は、32.5%以下、特に30%程度以下、例えば29.5%以下である。
【0037】
YA及びT1500と同様、Tuvも、風冷強化及び紫外線照射により低下する傾向を示す。ガラス組成物のTuvは、18%以下であってよく、好ましくは17%以下であり、特に好ましくは16%以下である。窓ガラスを通過する紫外線による人の肌への影響を効果的に軽減する観点から特に望ましいTuvの値は、15%以下、特に14%以下である。
【0038】
[風冷強化]
風冷強化(熱強化)は、ガラス板を加熱した後、ガラス板の表面に気体を吹き付けて急冷し、その表面に圧縮応力層を形成することにより、ガラス板の強度を向上させる周知の処理である。ガラス板の加熱温度は、典型的にはそのガラス板を構成するガラス組成物の歪点以上軟化点以下である。本発明は、その別の側面から、本発明によるガラス組成物からなるガラス板を風冷強化して得た、強化ガラス板を提供する。例外は存在するものの、本発明によるガラス組成物からなるガラス板のYA、T1500及びTuvは、基本的に風冷強化処理によって低下する傾向を示す。本発明の一形態によれば、16%以下、好ましくは14%以下のTuv、71.5%以上、好ましくは72%以上、より好ましくは72.5%以上のYA、及び32.5%以下、好ましくは32%以下のT1500を有する強化ガラス板が提供される。
【0039】
風冷強化の前後において、ガラス組成物のFeO比に実質的な変化がないことが確認されている。したがって、風冷強化に伴う光学特性の変化には、FeO比の変化ではなく、高温のガラス組成物における内部構造が風冷強化により固定されたことに伴って生じるFeOの吸収ピークの位置のシフトが影響していると推定される。
【0040】
特に制限されるわけでないが、強化ガラス板の表面に存在する圧縮応力の大きさは、例えば80〜140MPa、特に90〜110MPaである。
【0041】
[紫外線照射]
本発明によるガラス組成物からなるガラス板のYA、T1500及びTuvは、紫外線の照射によって低下する傾向を示す。本発明の一形態によれば、風冷強化の後、紫外線を照射することにより得た、3.5mmの厚みに換算して、15%以下、好ましくは14%以下、より好ましくは13.5%以下のTuv、71%以上、好ましくは71.5%以上、より好ましくは72%以上のYA、及び29.5%以下、好ましくは29%以下、より好ましくは28%以下のT1500を有する、強化ガラス板が提供される。
【0042】
紫外線の照射に伴う光学特性の変化の主な要因は、詳細は不明であるが、FeO比の変化、具体的にはFeO比の上昇にあると考えられる。三価のFeの二価への還元に伴って生じる酸化は、例えば三価のCeの四価への変化であると推定される。なお、紫外線の照射等により後発的に生じた二価のFeは、ガラス原料を溶融成形したときから存在する二価のFeよりも、その吸収ピークが長波長側に位置している。これは、二価のFeの周囲のアニオンの構造の相違、すなわち還元された二価Feイオンの周囲には二価のFeイオンではなく三価のFeイオンに適したアニオンが配位していること、が影響していると考えられる。
【0043】
紫外線の照射は、紫外線ランプに代表される人工光源を用いて実施してもよく、太陽光により実施してもよい。例えば強化ガラス板への紫外線の照射は、工場内の風冷強化処理ラインの後段に設けた紫外線照射処理ラインを用いて実施してもよく、風冷強化後の保管段階において実施してもよい。紫外線の照射による光学特性の変化は、窓ガラスとしての使用状態においても進行することには注意する必要がある。使用状態において紫外線が照射されることを前提としてよい場合は、窓ガラスとして設置する前のガラス板への紫外線の照射は省略することができる。
【0044】
紫外線の照射は、照射前と比較して、T1500が1.0%以上、好ましくは1.5%以上、より好ましくは2%以上低下するように実施することが好ましい。
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例も上記と同様、本発明の好ましい形態の例示に過ぎない。
【0046】
珪砂、苦灰石、石灰石、ソーダ灰、芒硝、炭酸カリウム、カーボン、酸化鉄、酸化チタン、酸化セリウムを、ガラスの組成が表1に示したとおりになるように調合してガラス原料バッチを得た。このバッチを、電気炉を用いて1450℃で溶融し、4時間保持した後、ステンレス板上に流し出した。こうして得たガラス板は、650℃に保持した徐冷炉内に30分間保持した後、電源を切って炉内で室温まで徐冷した。この徐冷における650〜550℃の間の冷却速度は約0.1℃/秒であった。得られた徐冷ガラス板は、3.5mmの厚みに研磨した。
【0047】
次いで、各徐冷ガラス板に風冷強化処理を施した。風冷強化処理は、ガラス板を700℃に設定した電気炉内に180秒間保持した後、電気炉から取り出したガラス板に常温の空気を吹きつけて急冷することによって実施した。この急冷における冷却速度は、650〜550℃の温度範囲で80〜100℃/秒であった。得られた強化ガラス板には、90〜110MPaの範囲内の表面圧縮応力が印加されていた。
【0048】
引き続き、各強化ガラス板に紫外線を照射した。紫外線の照射には、スガ試験機製紫外線照射装置「HLG−1S」を用いた。具体的には、光源にはこの装置に内蔵されている水冷式キセノンランプを用い、また照射用フィルタには石英及び#295フィルタ(295nm以下の紫外線を遮蔽するフィルタ)を用い、放電電力を5.4kWとした。このとき、強化ガラス板の表面における波長域300〜400nmの紫外線の照度は180W/m
2であった。紫外線の照射は100時間実施した。こうして、各強化ガラス板から紫外線を照射したガラス板(紫外線照射ガラス板)を得た。
【0049】
各ガラス板(徐冷ガラス板、強化ガラス板、紫外線照射ガラス板)について測定した物性値を表1に併せて示す。なお、表中の含有率の合計が100%にならない場合があるのは、有効桁の相違と四捨五入の影響による。
【0050】
以上に対し、実施例1〜10では、FeO比を30以下に抑えながら、16%以下のTuvに加え、72%以上のYAと34%以下のT1500とを両立させることができた。実施例1〜6、9〜10では、15%以下のTuvを実現することができた。
【0051】
比較例2(MgO:3.2%、T1500:34.2%)、実施例2(2.1%、33.5%)、実施例4(1.1%、31.1%)を対比すると、2%以下にまでMgOを低下させるとT1500が急激に低下することが理解できる。ROについては、1〜2%のMgO、7〜9.5%のCaO、SrO及びBaOは実質的に含まないように調整することが好ましい。この条件を満たす実施例1、4及び9では、72.6%以上のYAと31.5%以下のT1500とを両立させることができた。
【0052】
また、SiO
2とAl
2O
3の含有率の合計が73.9%以上である実施例4〜10においては、72.7%以上のYAと33%以下のT1500とを両立することができた。また、SiO
2とAl
2O
3の含有率の合計が74.3%以上である実施例4、6〜8、10においては73%以上のYAと33%以下のT1500とを両立することができた。
【0053】
風冷強化処理及び紫外線照射により、Tuv、YA及びT1500は、一部の例外(実施例2、5及び参照例における風冷強化処理によるYAの変化)を除いて低下した。各実施例により得られた強化ガラス板及び紫外線照射ガラス板では、高いYAと低いT1500とが両立していた。例えば、各実施例により得られた紫外線照射ガラス板は、71%以上のYAと29.5%以下のT1500とを兼ね備え、さらに15%以下のTuvを具備している。
【0054】
表1より、FeO比が30%を超える程度に還元性の強い条件をガラス組成物の製造に適用しなくても、組成物を製造した後の処理による透過率の低下を利用することによって、優れた光学特性を有するガラス板を提供できることが理解できる。