(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、(A)潤滑油基油全量を基準として、エステル系基油を0.5〜70質量%含み、40℃における動粘度が18〜28mm
2/sである潤滑油基油と、(B)潤滑油組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で100〜1000質量ppmの有機モリブデン化合物と、を含有し、40℃における動粘度が50mm
2/s以下である。
【0014】
[(A)成分:潤滑油基油]
本実施形態の潤滑油組成物は、(A)潤滑油基油全量を基準として、エステル系基油を0.5〜70質量%含み、40℃における動粘度が18〜28mm
2/sである潤滑油基油を含有する。
【0015】
エステル系基油を構成するアルコールとしては1価アルコールでも多価アルコール(ポリオール)でもよく、また、エステル系基油を構成する酸としては一塩基酸でも多塩基酸であってもよい。また、エステル結合を含有する基油であれば、複合エステル化合物であってもよい。
【0016】
1価アルコールとしては、通常炭素数1〜24、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8のものが用いられ、このようなアルコールとしては直鎖のものでも分枝のものでもよく、また飽和のものであっても不飽和のものであってもよい。炭素数1〜24のアルコールとしては、具体的には例えば、メタノール、エタノール、直鎖状又は分枝状のプロパノール、直鎖状又は分枝状のブタノール、直鎖状又は分枝状のペンタノール、直鎖状又は分枝状のヘキサノール、直鎖状又は分枝状のヘプタノール、直鎖状又は分枝状のオクタノール、直鎖状又は分枝状のノナノール、直鎖状又は分枝状のデカノール、直鎖状又は分枝状のウンデカノール、直鎖状又は分枝状のドデカノール、直鎖状又は分枝状のトリデカノール、直鎖状又は分枝状のテトラデカノール、直鎖状又は分枝状のペンタデカノール、直鎖状又は分枝状のヘキサデカノール、直鎖状又は分枝状のヘプタデカノール、直鎖状又は分枝状のオクタデカノール、直鎖状又は分枝状のノナデカノール、直鎖状又は分枝状のイコサノール、直鎖状又は分枝状のヘンイコサノール、直鎖状又は分枝状のトリコサノール、直鎖状又は分枝状のテトラコサノール及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0017】
多価アルコール(ポリオール)としては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。2〜10価の多価アルコールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトール及びこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0018】
一塩基酸としては、通常炭素数2〜24の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸は直鎖のものでも分枝のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、直鎖状又は分枝状のブタン酸、直鎖状又は分枝状のペンタン酸、直鎖状又は分枝状のヘキサン酸、直鎖状又は分枝状のヘプタン酸、直鎖状又は分枝状のオクタン酸、直鎖状又は分枝状のノナン酸、直鎖状又は分枝状のデカン酸、直鎖状又は分枝状のウンデカン酸、直鎖状又は分枝状のドデカン酸、直鎖状又は分枝状のトリデカン酸、直鎖状又は分枝状のテトラデカン酸、直鎖状又は分枝状のペンタデカン酸、直鎖状又は分枝状のヘキサデカン酸、直鎖状又は分枝状のヘプタデカン酸、直鎖状又は分枝状のオクタデカン酸、直鎖状又は分枝状のノナデカン酸、直鎖状又は分枝状のイコサン酸、直鎖状又は分枝状のヘンイコサン酸、直鎖状又は分枝状のドコサン酸、直鎖状又は分枝状のトリコサン酸、直鎖状又は分枝状のテトラコサン酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、直鎖状又は分枝状のブテン酸、直鎖状又は分枝状のペンテン酸、直鎖状又は分枝状のヘキセン酸、直鎖状又は分枝状のヘプテン酸、直鎖状又は分枝状のオクテン酸、直鎖状又は分枝状のノネン酸、直鎖状又は分枝状のデセン酸、直鎖状又は分枝状のウンデセン酸、直鎖状又は分枝状のドデセン酸、直鎖状又は分枝状のトリデセン酸、直鎖状又は分枝状のテトラデセン酸、直鎖状又は分枝状のペンタデセン酸、直鎖状又は分枝状のヘキサデセン酸、直鎖状又は分枝状のヘプタデセン酸、直鎖状又は分枝状のオクタデセン酸、直鎖状又は分枝状のノナデセン酸、直鎖状又は分枝状のイコセン酸、直鎖状又は分枝状のヘンイコセン酸、直鎖状又は分枝状のドコセン酸、直鎖状又は分枝状のトリコセン酸、直鎖状又は分枝状のテトラコセン酸等の不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0019】
多塩基酸としては炭素数2〜16の二塩基酸及びトリメリット酸等が挙げられる。炭素数2〜16の二塩基酸としては、直鎖のものでも分枝のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。具体的には例えば、エタン二酸、プロパン二酸、直鎖状又は分枝状のブタン二酸、直鎖状又は分枝状のペンタン二酸、直鎖状又は分枝状のヘキサン二酸、直鎖状又は分枝状のヘプタン二酸、直鎖状又は分枝状のオクタン二酸、直鎖状又は分枝状のノナン二酸、直鎖状又は分枝状のデカン二酸、直鎖状又は分枝状のウンデカン二酸、直鎖状又は分枝状のドデカン二酸、直鎖状又は分枝状のトリデカン二酸、直鎖状又は分枝状のテトラデカン二酸、直鎖状又は分枝状のヘプタデカン二酸、直鎖状又は分枝状のヘキサデカン二酸、直鎖状又は分枝状のヘキセン二酸、直鎖状又は分枝状のヘプテン二酸、直鎖状又は分枝状のオクテン二酸、直鎖状又は分枝状のノネン二酸、直鎖状又は分枝状のデセン二酸、直鎖状又は分枝状のウンデセン二酸、直鎖状又は分枝状のドデセン二酸、直鎖状又は分枝状のトリデセン二酸、直鎖状又は分枝状のテトラデセン二酸、直鎖状又は分枝状のヘプタデセン二酸、直鎖状又は分枝状のヘキサデセン二酸及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0020】
エステルを形成するアルコールと酸との組み合わせは任意であって特に制限されないが、本発明で使用可能なエステルとしては、例えば下記のエステルを挙げることができ、これらのエステルは単独でもよく、また2種以上を組み合わせてもよい。
(a)1価アルコールと一塩基酸とのエステル
(b)多価アルコールと一塩基酸とのエステル
(c)1価アルコールと多塩基酸とのエステル
(d)多価アルコールと多塩基酸とのエステル
(e)1価アルコール、多価アルコールとの混合物と多塩基酸との混合エステル
(f)多価アルコールと一塩基酸、多塩基酸との混合物との混合エステル
(g)1価アルコール、多価アルコールとの混合物と一塩基酸、多塩基酸との混合エステル
【0021】
これらの中でも、耐摩擦性及び酸化安定性に優れることから、(c)1価アルコールと多塩基酸とのエステルであることが好ましく、1価アルコールと二塩基酸とのエステルである二塩基酸エステルであることがより好ましい。
【0022】
エステル系基油の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、0.5〜70質量%であり、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは2質量%以上であり、さらに好ましくは3質量%以上である。また、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは55質量%以下である。エステル系基油の含有量が0.5質量%以上であると、極圧性、耐摩耗性、耐焼付き性及び耐摩擦性に優れる傾向にある。また、エステル系基油が70質量%以下であると、酸化安定性に優れる傾向にある。
【0023】
エステル系基油の40℃における動粘度は、特に制限はされないが、好ましくは5mm
2/s以上であり、より好ましくは6mm
2/s以上であり、さらに好ましくは7mm
2/s以上である。また、好ましくは50mm
2/s以下であり、より好ましくは30mm
2/s以下であり、さらに好ましくは20mm
2/s以下である。40℃における動粘度が5mm
2/s以上、又は50mm
2/s以下であると、極圧性、耐摩耗性及び耐焼付き性に優れる傾向にある。
【0024】
エステル系基油の粘度指数は、特に制限はされないが、好ましくは125以上であり、より好ましくは130以上であり、さらに好ましくは135以上である。粘度指数が125以上であると、低温流動性に優れる傾向にある。
【0025】
エステル系基油の流動点は、特に制限はされないが、好ましくは−30℃以下であり、より好ましくは−50℃以下であり、さらに好ましくは−60℃以下であり、特に好ましくは−70℃以下である。
【0026】
エステル系基油の引火点は、特に制限はされないが、好ましくは200℃以上であり、より好ましくは250℃以上であり、さらに好ましくは300℃以上である。
【0027】
本実施形態に係る潤滑油基油は、エステル系基油が、潤滑油基油全量を基準として、0.5〜70質量%である限り、エステル系基油以外の基油成分を含むことができる。エステル系基油以外の基油成分は、特に制限されず、通常の潤滑油に使用される基油を使用できる。具体的には、鉱油系基油、合成系基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の基油を任意の割合で混合した混合物等を使用できる。
【0028】
鉱油系基油としては、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を単独又は二つ以上適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の鉱油系基油、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、石油系ワックスを接触脱ろうして製造された基油等が挙げられる。なお、これらの基油は単独でも、2種以上任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0029】
鉱油系基油としては、低粘度化の観点、及び硫黄含有量の観点から、API(American Petroleum Institute)のBase Stock Categoriesに規定されているグループII又はグループIIIに分類される基油であることが好ましく、グループIIIに分類される基油がより好ましい。
【0030】
合成系基油としては、ポリα−オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、フィッシャートロピッシュプロセスから製造されたワックスを接触脱ろうして製造された基油等が挙げられる。
【0031】
合成系基油は、ポリα−オレフィン又はフィッシャートロピッシュプロセスから製造されたワックスを接触脱ろうして製造された基油であることが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、具体的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(例えば、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、1−ドデセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)及びその水素化物が挙げられる。
【0032】
ポリα−オレフィンの製法については特に制限はないが、例えば、三塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素、又は三フッ化ホウ素と水、アルコール(例えば、エタノール、プロパノール又はブタノール)、カルボン酸、又はエステル(例えば、酢酸エチル又はプロピオン酸エチル)との錯体を含むフリーデル・クラフツ触媒のような重合触媒の存在下でのα−オレフィンの重合等が挙げられる。
【0033】
潤滑油基油の40℃における動粘度は、18〜28mm
2/sであり、好ましくは20mm
2/s以上であり、より好ましくは22mm
2/s以上である。また、好ましくは27mm
2/s以下であり、より好ましくは26mm
2/s以下である。40℃動粘度を18mm
2/s以上とすることによって、油膜形成が充分となり、潤滑性により優れ、高温条件下での基油の蒸発損失がより小さい潤滑油組成物を得ることが可能となる。また、40℃動粘度を28mm
2/s以下とすることによって、低温流動性に優れ、流体抵抗が小さくなるため、回転抵抗がより小さい潤滑油組成物を得ることが可能となる。
【0034】
潤滑油基油の100℃における動粘度は、特に制限されないが、好ましくは1mm
2/s以上であり、より好ましくは3mm
2/s以上であり、さらに好ましくは4mm
2/s以上である。また、好ましくは10mm
2/s以下であり、より好ましくは8mm
2/s以下であり、さらに好ましくは6mm
2/s以下である。100℃動粘度を1mm
2/s以上とすることによって、油膜形成が充分となり、潤滑性により優れ、高温条件下での基油の蒸発損失がより小さい潤滑油組成物を得ることが可能となる。また、100℃動粘度を10mm
2/s以下とすることによって、低温流動性に優れた潤滑油組成物を得ることが可能となる。
【0035】
潤滑油基油の粘度指数は、特に制限はされないが、好ましくは120以上であり、より好ましくは125以上であり、さらに好ましくは130以上である。粘度指数を120以上とすることで、低温から高温にわたり良好な粘度特性を示し、酸化安定性に優れる潤滑油組成物を得ることができる。
【0036】
[(B)成分:有機モリブデン化合物]
本実施形態に係る潤滑油組成物は、摩擦調整剤として、潤滑油組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で100〜1000質量ppmの有機モリブデン化合物を含有する。(A)成分と組み合わせることにより、金属摩擦係数を低減させ、省燃費性を高めることができる。
【0037】
本実施形態に係る有機モリブデン化合物としては、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物、モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩又はアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等)又はその他の有機化合物との錯体、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体などを挙げることができる。
【0038】
また、有機モリブデン化合物としては、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物を用いることができる。構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物としては、具体的には、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩等が挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩及びアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0039】
本実施形態に係る潤滑油組成物において、有機モリブデン化合物の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で100〜1000質量ppmであり、好ましくは200質量ppm以上であり、より好ましくは300質量ppm以上である。または、好ましくは900質量ppm以下であり、より好ましくは800質量ppm以下である。その含有量が100質量ppm以上であると、耐摩耗性及び耐摩擦性に優れる傾向にあり、その含有量が1000質量ppm以下であると、耐焼付き性に優れる傾向にある。なお、有機モリブデン化合物のモリブデン元素換算量は、例えば、ICP元素分析法等によって求めることができる。
【0040】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、粘度調整剤として、潤滑油組成物全量を基準で、2質量%以上の、α−オレフィンと重合性不飽和結合を有するエステル単量体との共重合体をさらに含有してもよい。上記共重合体の重量平均分子量は2000〜20000であることが好ましい。このような共重合体をさらに含有することにより、油膜保持性及び極圧性をより向上させることができる。
【0041】
重合性不飽和結合を有するエステル単量体は、重合性不飽和結合とエステル結合を有する化合物であれば、特に制限はされないが、少なくとも一方のカルボキシ基のα炭素とβ炭素とがエチレン性不飽和結合(すなわち、C=C二重結合)を形成している不飽和ジカルボン酸のジエステル体である、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステルであることが好ましい。ここで、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸はマレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸等のような、両方のカルボキシ基についてα炭素とβ炭素とがエチレン性不飽和結合を形成しており、かつα,β−エチレン性不飽和結合が主鎖中に存在する化合物に限定されるものではなく、グルタコン酸等のように一方のカルボキシ基のみについてα炭素とβ炭素とがエチレン性不飽和結合をなしている化合物をも包含する概念であり、また、イタコン酸等のようにα,β−エチレン性不飽和結合が側鎖に見出される化合物をも包含する概念である。
【0042】
α−オレフィンと重合性不飽和結合を有するエステル単量体との共重合体は、重量平均分子量が2000〜20000である限りにおいて、当該共重合体の構造は特に制限されるものではない。また、製造方法についても特に制限されるものではなく、公知の方法によって製造したものを用いることができる。
【0043】
α−オレフィンと重合性不飽和結合を有するエステル単量体との共重合体の重量平均分子量(Mw)は2000〜20000であり、好ましくは4000以上であり、より好ましくは6000以上である。また、好ましくは15000以下であり、より好ましくは12000以下である。その重量平均分子量を2000〜20000とすることによって、油膜保持性及び極圧性を向上させることが可能となる。
なお、ここでいう重量平均分子量とは、ウォーターズ社製150−C ALC/GPC装置において東ソー社製のGMHHR−M(7.8mmID×30cm)のカラムを2本直列に使用し、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、温度23℃、流速1mL/分、試料濃度1質量%、試料注入量75μLの条件下、示差屈折率計(RI)検出器を用いて測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0044】
本実施形態に係る潤滑油組成物において、共重合体の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、2質量%以上であることが好ましく、より好ましくは2.5質量%以上であり、さらに好ましくは3.5質量%以上である。共重合体の含有量を2質量%以上とすることによって、極圧性及び耐摩耗性により優れる傾向にある。一方、その含有量の上限は特に制限されないが、好ましくは25質量%以下であり、より好ましくは24質量%以下であり、さらに好ましくは22質量%以下である。(D)成分の含有量を25質量%以下とすることで、充分な極圧性、耐摩耗性、耐焼付き性、耐摩擦性及び酸化安定性を示す傾向にある。
【0045】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、潤滑油組成物全量を基準として、ホウ素元素換算で100〜500質量ppmのホウ素含有分散剤をさらに含有してもよい。これにより、油膜保持性及び極圧性をより向上させることができる。
【0046】
ホウ素含有分散剤とは、任意の無灰分散剤をホウ素化したものである。例えば、無灰分散剤としては、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、アルケニルコハク酸イミドの変性品等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれる1種類以上を配合することができる。
【0047】
なお、コハク酸イミドには、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した一般式(3)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した一般式(4)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが含まれる。
【化1】
【0048】
一般式(3)において、R
9は炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基、好ましくは炭素数60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、pは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
一般式(4)において、R
10及びR
11は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基、好ましくは炭素数60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、ポリブテニル基であることが好ましい。qは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。
【0049】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、モノタイプ又はビスタイプのコハク酸イミドのいずれか一方を含有してもよく、又は双方を含有してもよい。
【0050】
コハク酸イミドの製法は特に制限されないが、例えば炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得ることができる。ポリアミンとしては、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等が例示できる。
【0051】
本実施形態に係る潤滑油組成物において、ホウ素含有分散剤の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、ホウ素元素換算で100〜500質量ppmであることが好ましく、より好ましくは150質量ppm以上であり、さらに好ましくは200質量ppm以上である。また、より好ましくは450質量ppm以下であり、さらに好ましくは400質量ppm以下である。その含有量が100質量ppm以上であると、極圧性、耐摩耗性、耐焼付き性及び耐摩擦性により優れる傾向にある。また、その含有量が500質量ppm以下であると、耐摩擦性により優れる傾向にある。なお、ホウ素含有分散剤のホウ素元素換算量は、例えば、ICP元素分析法等によって求めることができる。
【0052】
本実施形態に係る潤滑油組成物には、さらにその性能を向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、上記共重合体以外の粘度調整剤、金属系清浄剤、ホウ素含有分散剤以外の無灰分散剤、摩耗防止剤(又は極圧剤)、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、(B)成分以外の摩擦調整剤等の添加剤などを挙げることができる。
【0053】
上記共重合体以外の粘度調整剤は、具体的には非分散型又は分散型エステル基含有粘度調整剤であり、例えば、非分散型又は分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度調整剤、非分散型又は分散型オレフィン−(メタ)アクリレート共重合体系粘度調整剤、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系粘度調整剤及びこれらの混合物等が挙げられ、これらの中でも非分散型又は分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度調整剤であることが好ましい。特に非分散型又は分散型ポリメタクリレート系粘度調整剤であることが好ましい。
【0054】
上記共重合体以外の粘度調整剤としては、その他に、非分散型若しくは分散型エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体、ポリアルキルスチレン等を挙げることができる。
【0055】
金属系清浄剤としては、スルホネート系清浄剤、サリチレート系清浄剤、フェネート系清浄剤等が挙げられ、アルカリ金属又はアルカリ土類金属との正塩、塩基正塩、過塩基性塩のいずれをも配合することができる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類又は2種類以上を配合することができる。
【0056】
ホウ素含有分散剤以外の無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の非ホウ素の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するモノ又はビスコハク酸イミド、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、これらのカルボン酸、リン酸等による変成品などが挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類又は2種類以上を配合することができる。
【0057】
摩耗防止剤(又は極圧剤)としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤・極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、MoDTC、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。これらの中では硫黄系極圧剤の添加が好ましく、特に硫化油脂が好ましい。
【0058】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。具体的には、例えば、フェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)等が、アミン系無灰酸化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン等が挙げられる。
【0059】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0060】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0061】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0062】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、β−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0063】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000〜10万mm
2/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコールとのエステル等が挙げられる。
【0064】
(B)成分以外の摩擦調整剤としては、無灰摩擦調整剤が挙げられ、潤滑油用の無灰摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜30の炭化水素基、好ましくはアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン系、イミド系、脂肪酸エステル系、脂肪酸アミド系、脂肪酸系、脂肪族アルコール系、脂肪族エーテル系等の無灰摩擦調整剤等が挙げられる。
【0065】
これらの添加剤を本実施形態に係る潤滑油組成物に含有させる場合には、それぞれの含有量は潤滑油組成物全量を基準として、0.01〜20質量%であることが好ましい。
【0066】
本実施形態に係る潤滑油組成物の40℃における動粘度は、50mm
2/s以下であり、好ましくは48mm
2/s以下であり、より好ましくは45mm
2/s以下である。40℃における動粘度を50mm
2/s以下とすることによって、必要な低温流動性及び充分な省燃費性が得られる傾向にある。また、本実施形態に係る潤滑油組成物の40℃における動粘度の下限値は、特に制限されないが、好ましくは20mm
2/s以上であり、より好ましくは30mm
2/s以上であり、さらに好ましくは35mm
2/s以上である。40℃における動粘度を20mm
2/s以上とすることによって、潤滑部位の油膜保持性及び蒸発性により優れる傾向にある。
【0067】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、省燃費化が可能な充分な極圧性及び耐摩耗性を有し、さらに金属間摩擦係数を低減させることができるため
、特に自動車及び鉄道車両の駆動系のハイポイドギヤ油として好適に用いることができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0069】
(実施例1〜18及び比較例1〜4)
表1及び表2に示すように、実施例1〜18及び比較例1〜4の潤滑油組成物をそれぞれ調製した。得られた潤滑油組成物について、極圧性、耐摩耗性、耐焼付き性、耐摩擦性及び酸化安定性を測定し、その結果を表1及び表2に併記した。
【0070】
表1及び表2に示した各成分の詳細は以下のとおりである。
基油A−1:ポリα−オレフィン[グループIV、40℃動粘度:19mm
2/s、100℃動粘度:4.1mm
2/s、粘度指数:126、流動点:−66℃、引火点:220℃]
基油A−2:ポリα−オレフィン[グループIV、40℃動粘度:30.3mm
2/s、100℃動粘度:5.9mm
2/s、粘度指数:142、流動点:<−54℃、引火点:246℃]
基油A−3:ポリα−オレフィン[グループIV、40℃動粘度:48mm
2/s、100℃動粘度:8.0mm
2/s、粘度指数:139、流動点:−48℃、引火点:260℃]
基油A−4:ポリα−オレフィン[グループIV、40℃動粘度:396mm
2/s、100℃動粘度:39mm
2/s、粘度指数:147、流動点:−36℃、引火点:281℃]
基油A−5:水素化精製鉱油[グループIII、40℃動粘度:33.97mm
2/s、100℃動粘度:6.208mm
2/s、粘度指数:133、硫黄分:10質量ppm未満、%C
P:80.6、%C
N:19.4、%C
A:0]
基油B−1:二塩基酸エステル[グループV、アゼライン酸+2エチルヘキサノール、40℃動粘度:10.3mm
2/s、100℃動粘度:2.9mm
2/s、粘度指数:138、流動点:−72℃、引火点:220℃]
有機モリブデン化合物F−1:モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)[モリブデン元素換算:10質量%]
ホウ素含有分散剤G−1:ホウ素化コハク酸イミド[ホウ素元素換算:2.0質量%、窒素元素換算:2.3質量%、重量平均分子量:1000]
非ホウ素分散剤H−1:コハク酸イミド[窒素元素換算:2.3質量%、重量平均分子量:1000]
性能添加剤C−1:リン系摩耗防止剤、硫黄系極圧剤、金属不活性化剤、摩擦調整剤、消泡剤等を含む添加剤パッケージ[リン元素換算:1.40質量%、硫黄元素換算:22.9質量%]
粘度調整剤J−1:α−オレフィンとα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステルとの共重合体[重量平均分子量:10000]
粘度調整剤J−2:α−オレフィンとα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステルとの共重合体[重量平均分子量:7000]
粘度調整剤J−3:エチレンとα−オレフィンとのオリゴマー[数平均分子量:3700]
【0071】
有機モリブデン化合物におけるモリブデン元素換算量、ホウ素含有分散剤におけるホウ素元素換算量、性能添加剤におけるリン元素換算量及び硫黄元素換算量は、ICP元素分析法によって求めた。
【0072】
(1)極圧性試験
ASTM D 2596に準拠し、高速四球試験機を用い、各潤滑油組成物の1800回転における最大非焼付き荷重(LNSL)を測定した。本試験においては、最大非焼付き荷重が大きいほど極圧性に優れていることを意味する。
(2)耐摩耗性試験
以下の条件により、四球試験(ASTM D4172)を行い、摩耗痕径(mm)を測定して耐摩耗性を評価した。本試験においては、摩耗痕径が小さいほど耐摩耗性に優れていることを意味する。
荷重:800N
回転数:1800rpm
温度:80℃
試験時間:30分間
(3)耐焼付き性試験
ASTM D3233に記載のファレックス試験機を用いて、焼付荷重を測定し、耐焼付き性の評価を行った。この耐焼付き性は、鋼同士の極圧性を示す。試験条件を以下に示す。本試験においては、焼付荷重が大きいほど耐焼付き性に優れていることを意味する。
温度:110℃
回転数:290rpm
(4)耐摩擦性試験
ASTM D2174に記載のブロックオンリング試験機(LFW−1)を用いて、摩擦係数を、以下の試験条件下において測定した。また、本試験では、潤滑油組成物の新油と後述する酸化安定性試験を135℃、48時間行った劣化油の両者について摩擦係数を求めた。本試験においては、摩擦係数が小さいほど耐摩擦性に優れていることを意味する。
リング:Falex S−10 Test Ring(SAE4620 Steel)
ブロック:Falex H−60 Test Block(SAE01 Steel)
油温:90℃
荷重:222−3113N
滑り速度:0.5m/s
(5)酸化安定性試験
JIS K 2514 4.(内燃機関用潤滑油酸化安定度試験方法)に準拠して以下の条件で実施し、酸価増加を測定した。本試験においては、酸価増加が小さいほど酸化安定性に優れていることを意味する。
温度:135℃
試験時間:96時間
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
表1及び表2から明らかであるように、実施例1〜18の潤滑油組成物は、比較例1〜4の潤滑油組成物と比較して、極圧性、耐摩耗性、耐焼付き性、耐摩擦性及び酸化安定性に優れ、金属間摩擦係数が小さいことが分かった。