(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373886
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】二軸押出機
(51)【国際特許分類】
B29C 47/40 20060101AFI20180806BHJP
B29C 47/62 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
B29C47/40 Z
B29C47/62
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-32445(P2016-32445)
(22)【出願日】2016年2月23日
(65)【公開番号】特開2017-149002(P2017-149002A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2017年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】杉原 佑樹
【審査官】
辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−114414(JP,A)
【文献】
特開平06−008305(JP,A)
【文献】
特開2005−066946(JP,A)
【文献】
特開昭62−001521(JP,A)
【文献】
特開平10−193343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に配された一対のスクリューと、
一端に開口部を有し、前記スクリューを内部に収容可能なバレルと、
前記バレルの前記開口部側に整流板及び濾過網を介して配設された押出成形用の口金と
を備える二軸押出機であって、
前記スクリューは、
第一スクリュー軸、及び、前記第一スクリュー軸に沿って螺旋形状に形成された一条スクリュー羽根部を有する第一スクリュー部と、
前記第一スクリュー部の一端から前記バレルの前記開口部に向かって延設され、前記第一スクリュー軸と接続された第二スクリュー軸、及び、前記第二スクリュー軸に沿って螺旋形状に形成された二条スクリュー羽根部を有する第二スクリュー部と
を備え、
前記第二スクリュー部は、
前記二条スクリュー羽根部の羽根周縁から前記第二スクリュー軸に向かって凹設されたスリットを更に有する二軸押出機。
【請求項2】
前記第二スクリュー部は、
前記開口部から前記バレルの他端に向かって少なくとも一ピッチ分以上の幅で形成されている請求項1に記載の二軸押出機。
【請求項3】
前記スリットは、
前記羽根周縁に等間隔で形成されている請求項1または2に記載の二軸押出機。
【請求項4】
前記スリットの前記羽根周縁からスリット底端までのスリット深さは、
前記第二スクリュー軸の軸表面から前記羽根周縁までの高さに対し、50〜55%の範囲に設定される請求項1〜3のいずれか一項に記載の二軸押出機。
【請求項5】
前記スリットのスリット幅は、
互いに隣接するスリットの間のスリットピッチに対し、30〜35%の範囲に設定される請求項1〜4のいずれか一項に記載の二軸押出機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸押出機に関する。更に詳しくは、ハニカム構造体を製造するためのハニカム成形体の押出成形工程に使用される平行に配された一対のスクリューを備える二軸押出機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックス製ハニカム構造体は、自動車排ガス浄化用触媒担体、ディーゼル微粒子除去フィルタ、或いは燃焼装置用蓄熱体等の広範な用途に使用されている。セラミックス製ハニカム構造体(以下、単に「ハニカム構造体」と称す。)は、セラミックス原料を調整し坏土化した成形材料を二軸押出機を用いて成形する押出成形工程と、押出成形されたハニカム成形体を乾燥した後、所定の焼成条件で焼成する焼成工程とを経て製造されている。
【0003】
ここで、ハニカム成形体を得るための押出成形用の装置として、例えば、
図6に示すような、二軸押出機が広く用いられている(特許文献1参照)。この二軸押出機100は、左右に並設された一対のスクリュー101を内部に収容し、一端側に開口部102を有するバレル103と、バレル103の開口部102側に整流板104及び濾過網105(スクリーン)を介して配された押出成形用の口金106を備えるものである。
【0004】
ここで、バレル103及び口金106の間に設置された整流板104には、バレル103の開口部102から押し出された成形材料の通過する貫通孔107が設けられており、成形材料の挙動を整えるためのものである。一方、濾過網105は、メッシュ状の素材で形成され、成形材料に混入した粗粒やその他夾雑物を除去し、口金106に送られる成形材料を安定させるものである。また、口金106には、成形材料から所望形状のハニカム成形体を押し出すために、当該ハニカム成形体の隔壁の隔壁厚さに対応する口金のスリット(図示しない)が設けられている。
【0005】
上記二軸押出機100を用いることにより、バレル103の上流側に接続された材料投入部108から、バレル103の内部空間に成形材料が導入される。バレル103の成形材料は、モータ及びギアボックス等で構成された駆動装置109とそれぞれ接続された一対のスクリュー101の回転によってせん断力を付与されながら混練され、開口部102側まで搬送される。そして、バレル103の開口部102から整流板104の貫通孔107に連続的に押し出される。
【0006】
押し出された成形材料は、整流板104の貫通孔107を通過し、整流板104と離間して配置された濾過網105の間の第一空間110に到達する。この第一空間110が成形材料で満たされると、当該成形材料は濾過網105を通過し、濾過網105と口金106との間の第二空間111に到達する。上記と同様にこの空間が成形材料で満たされると、当該成形材料は口金106の内部に導入される。これにより、口金のスリットを通じて成形材料が押し出され、所望の形状のハニカム成形体が得られる。
【0007】
このとき、二軸押出機100に使用される一対のスクリュー101は、略棒状のスクリュー軸112と、当該スクリュー軸に沿って螺旋形状に形成されたスクリュー羽根部113とを備えている。なお、
図5において、上記スクリュー101の構成は簡略化して図示している。ここで、スクリュー101のスクリュー羽根部113は、所謂“一条”のスクリューである。すなわち、スクリュー101を一回転させたときに軸方向(
図6における紙面左右方向)に沿って成形材料を開口部102側へ押し出す、当該成形材料の移動距離(リード)と、スクリュー羽根部113の間隔(ピッチ)とが等しいものである。
【0008】
一対のスクリュー101を定速で軸回転させることにより、バレル103内の成形材料の押出量を安定させ、整流板104及び濾過網105を介して口金106に送ることができ、ハニカム成形体を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−114414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記の従来から使用されている二軸押出機の場合、下記に掲げる不具合を生じることがあった。ここで、整流板の貫通孔部は、左右に並設されたスクリューの間の中心に設置されている。そのため、一対のスクリューを回転させた場合、バレルの開口部と密接配置された整流板の貫通孔に導入される成形材料の押出量に偏りを生じることがあった。
【0011】
すなわち、互いに同期して回転する一対のスクリューによって、成形材料の押出方向に直交し、かつ、水平方向または鉛直方向から所定の角度だけ斜めに偏位した方向、換言すれば、ハニカム成形体の成形体端面に相対し、斜め右上位置及び斜め左下位置(或いは、斜め左上位置及び斜め右下位置)の成形材料の押出量が多くなることがあった。
【0012】
上記の二箇所(二方向)からの成形材料の押出量が多くなるため、整流板、濾過網を通り、最終的に口金から押し出されたハニカム成形体の成形体端面の形状が、斜め右上及び斜め右下にそれぞれ伸長した、楕円形状に変形することがあった。そのため、当初設計された真円形状の成形体端面とならず、最終的に製品となるハニカム構造体の寸法精度が著しく低下することがあった。
【0013】
上記不具合を解消するために、例えば、押出量の偏った成形体端面の各部位に対応する口金のそれぞれの領域に対し、成形材料の押出量を調整する作業を行う必要があった。しかしながら、係る調整作業は煩雑であり、かつ調整作業に多くの時間が必要となった。その結果、ハニカム構造体の製造効率を著しく低下させる可能性があった。
【0014】
一方、口金の上流側に配置された整流板の貫通孔の孔径や形状等を調整したり、或いは押出成形時の押出条件を変化させたりすることで、上記成形体端面の形状を安定させる試みも行われている。しかしながら、上記と同様に、これらの調査作業も煩雑、かつ調整作業に多くの時間が必要となることがあった。
【0015】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、二軸押出機によるハニカム成形体の押出成形工程において、成形体端面の形状精度の安定性を保つことが可能な二軸押出機の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、上記課題を解決した二軸押出機が提供される。
【0017】
[1] 平行に配された一対のスクリューと、一端に開口部を有し、前記スクリューを内部に収容可能なバレルと、前記バレルの前記開口部側に整流板及び濾過網を介して配設された押出成形用の口金とを備える二軸押出機であって、前記スクリューは、第一スクリュー軸、及び、前記第一スクリュー軸に沿って螺旋形状に形成された一条スクリュー羽根部を有する第一スクリュー部と、前記第一スクリュー部の一端から前記バレルの前記開口部に向かって延設され、前記第一スクリュー軸と接続された第二スクリュー軸、及び、前記第二スクリュー軸に沿って螺旋形状に形成された二条スクリュー羽根部を有する第二スクリュー部とを備え、前記第二スクリュー部は、前記二条スクリュー羽根部の羽根周縁から前記第二スクリュー軸に向かって凹設されたスリットを更に有する二軸押出機。
【0018】
[2] 前記第二スクリュー部は、前記開口部から前記バレルの他端に向かって少なくとも一ピッチ分以上の幅で形成されている前記[1]に記載の二軸押出機。
【0019】
[3] 前記スリットは、前記羽根周縁に等間隔で形成されている前記[1]または[2]に記載の二軸押出機。
【0020】
[4] 前記スリットの前記羽根周縁からスリット底端までのスリット深さは、前記第二スクリュー軸の軸表面から前記羽根周縁までの高さに対し、50〜55%の範囲に設定される前記[1]〜[3]のいずれかに記載の二軸押出機。
【0021】
[5] 前記スリットのスリット幅は、互いに隣接するスリットの間のスリットピッチに対し、30〜35%の範囲に設定される前記[1]〜[4]のいずれかに記載の二軸押出機。
【発明の効果】
【0022】
本発明の二軸押出機によれば、成形材料を押出成形し、ハニカム成形体を得る際に、成形材料の押出量の偏りを解消し、ハニカム成形体の成形体端面の形状精度を安定させることができる。
【0023】
特に、押出方向後流部のスクリュー羽根部の羽根辺縁から切り込みを入れ、所定のスリット深さ及びスリット幅のスリットを凹設したことにより、開口部及び整流板の近傍の成形材料の一部を押出方向に対して逆流させることができる。その結果、成形材料が分散して押し出され、整流板に供給されることとなる。そのため、押出量に偏りが少なくなり、押出成形されるハニカム成形体の成形体端面の真円形状を改善することができる。
【0024】
更に、押出方向後流部に二条スクリュー羽根部を有する第二スクリュー部を設けることで、バレルの開口部から整流板に流れ込む成形材料の押出位置(押出方向)が、従来の二箇所(二方向)から四箇所(四方向)に増える。その結果、成形材料が更に分散して押し出され、押出量の偏りが更に少なくなり、押出成形されるハニカム成形体の成形体端面の真円形状を保つことができる。
【0025】
これにより、成形材料によって開口部及び整流板に加わる押出圧力を軽減させることができる。その結果、押出圧力が過剰となり、成形材料の押出量が変動することがなく、安定した成形材料の押出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態の二軸押出機の概略構成を示す模式図である。
【
図2】二軸押出機に使用される第二スクリュー部の概略構成を示す軸方向から視た説明図である。
【
図3】第二スクリュー部の概略構成を示す斜視図である。
【
図4】ハニカム成形体の真円度の測定位置を示す説明図である。
【
図5】一対のスクリューによる押出位置と、整流板の貫通孔とを模式的に示す説明図である。
【
図6】従来の二軸押出機の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しつつ本発明の二軸押出機の実施の形態について詳述する。なお、本発明の二軸押出機は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、種々の設計の変更、修正、及び改良等を加え得るものである。
【0028】
本発明の一実施形態の二軸押出機1は、
図1〜
図3、及び
図5に示すように、平行に配された一対のスクリュー2と、一端に開口部3を有し、スクリュー2を内部に収容可能なバレル4と、バレル4の開口部3側に整流板5及び濾過網6を介して配設された押出成形用の口金9とを備えている。
【0029】
更に詳しく説明すると、一対のスクリュー2は、バレル4の内部に平行に並設された同一形状のものであり、第一スクリュー部7と、第二スクリュー部8とをそれぞれ備えている。第一スクリュー部7は、略棒状の第一スクリュー軸7a及び第一スクリュー軸7aに沿って軸表面7bに螺旋形状に形成された一条スクリュー羽根部7cを備えている。
【0030】
一方、第二スクリュー部8は、第一スクリュー部7の一端からバレル4の開口部3側に向かって延設され、第一スクリュー軸7aと軸方向を一致させて接続された略棒状の第二スクリュー軸8a、及び、第二スクリュー軸8aに沿って軸表面8bに螺旋形状に形成された二条スクリュー羽根部8cを備えている。なお、
図1において、第一スクリュー部7及び第二スクリュー部8のそれぞれの構成は、簡略化して図示している。
【0031】
ここで、第二スクリュー部8は、二条スクリュー羽根部8cの羽根周縁8dから第二スクリュー軸8aの軸表面8bに向かって切り込まれ、凹設された複数のスリット10を有している。複数のスリット10は、二条スクリュー羽根部8cの羽根周縁8dに沿って等間隔で配置されている。すなわち、第二スクリュー軸8aの軸方向に相対して視た場合、互いに隣接するそれぞれのスリット10の間の角度(スリット間角度θ)が同一の角度となるように設定されている。
【0032】
スリット10は、羽根周縁8dから略矩形状に略逆台形状に切り込まれたものであり、羽根周縁8dからスリット10のスリット底端10aまでのスリット深さH1は、第二スクリュー軸8aの軸表面8bから羽根周縁8dまでの高さである羽根高さH2と比較し、50〜55%の範囲となるように設定されている(
図2参照)。すなわち、“スリット深さH1/羽根高さ×100”の関係式で算出される値が上記数値限定した範囲となる。
【0033】
更に、第一スクリュー部7は、上述の通り、一条スクリュー羽根部7cを有している。そのため、第一スクリュー部7が軸心に従って一回転した場合、当該第一スクリュー部7の回転に伴って押し出される成形材料(図示しない)の移動距離であるリードL1(lead)は、一条スクリュー羽根部7cの各羽根の間の距離であるピッチP1(pitch)と同一である(
図1参照)。すなわち、第一スクリュー部7が一回転する間に、成形材料は1ピッチ分だけ開口部3に向かって進むことになる。
【0034】
これに対し、第二スクリュー部8は、上述の通り、二条スクリュー羽根部8cを有している。第二スクリュー部8が軸心に従って一回転した場合、当該第二スクリュー部8の回転に伴って押し出される成形材料の移動距離であるリードL2は、二条スクリュー羽根部8cの各羽根の間の距離であるピッチP2の二倍となる(
図2参照)。すなわち、第二スクリュー部8が一回転する間に成形材料は2ピッチ分だけ開口部3に向かって進むことになる。
【0035】
なお、第一スクリュー部7及び第二スクリュー部8は、一回転当たりのリードL1,L2の違いのみであり、その他の形状は同一である。したがって、第一スクリュー部7及び第二スクリュー部8のスクリュー径H3、及び、スクリュー軸7a,8aの対向する軸表面7b,8b間の距離(軸径に相当)はいずれも同一である。
【0036】
ここで、本実施形態の二軸押出機1において、スクリュー2における第二スクリュー部8の占める比率は任意に設定することができる。但し、成形材料の押出方向に対し、スクリュー2のバレル4の開口部3から一定の長さを有する必要がある。
【0037】
具体的には、開口部3からバレル4の後端(
図1における紙面左側に相当)に向かって、少なくとも一ピッチ分以上の幅で第二スクリュー部8が構成されていればよい。ここで、第二スクリュー部8が開口部3から少なくとも一ピッチ以上の幅でないと、本発明の二軸押出機による効果を十分に享受することができない(詳細は後述する。)。
【0038】
一方、スリット10のスリット幅W1は、互いに等間隔で隣接する一対のスリット10の間のスリットピッチW2に対し、30〜35%の範囲に設定されている(
図3参照)。すなわち、“スリット幅W1/スリットピッチW2×100”の式で算出される値が上記範囲となる。
【0039】
本実施形態の二軸押出機1におけるバレル4の開口部3の内周形状は、
図5に示すように、同径の二つの円C1,C2をその一部が重なるように結合させた形状であり、二つの円C1,C2の中心がバレル4におけるそれぞれのスクリュー2(第一スクリュー部7,第二スクリュー部8)のスクリュー軸7a,8aの軸心に一致する。
【0040】
バレル4の開口部3における二つの円C1,C2のそれぞれの内径は、スクリュー部7,8のスクリュー径H3より僅かに大きく形成されている。このとき、回転時にスクリュー羽根部7c,8cが互いに干渉しないように、スクリュー部7,8がそれぞれ取り付けられている。
【0041】
このような二つの円C1,C2を結合した形状のバレル4の開口部3に対し、中央付近に貫通孔11を有する整流板5が密接配置されている。なお、本実施形態の二軸押出機1において、
図1等で示した整流板5はその一例であり、これに限定されるものではない。すなわち、貫通孔11の数、位置、及びその形状等については任意に設定することができる。
【0042】
また、整流板5の下流側で、かつ口金9の上流側に配置される濾過網6は、成形材料中の夾雑物等を除去するものであり、例えば、メッシュ孔径が65〜420μm程度の網製素材(メッシュ素材)を用いることができる。なお、上記整流板5及び濾過網6は、従来から周知の構成であるため、その詳細についての説明省略する。
【0043】
ここで、整流板5及び濾過網6の間には第一空間12が設けられ、更に、濾過網6及び口金9の間には第二空間13が設けられている。これにより、押し出された成形材料は、それぞれの空間12,13に一時的に貯留され、更なる押出によって下流側に移動することになる。
【0044】
更に、本実施形態の二軸押出機1は、その他の構成として、平行に並設された一対のスクリュー2をそれぞれ同期させ、予め規定された押出圧力となるように回転数を制御して回転させるための、モータ及びギアボックス(図示しない)等を含む駆動装置14が、バレル4の後端側に設置されている。また、バレル4の他端側の近傍位置には、成形材料をバレル4内に投入するための材料投入部15が設けられている。なお、その他の構成に関しては、従来の二軸押出機の構造をそのまま採用することができる。
【0045】
上記構成を採用した二軸押出機1は、整流板5の上流側であり、バレル4の開口部3に近接する領域Rの範囲で、二条スクリュー羽根部8cを有する第二スクリュー部8が形成されている。
【0046】
これにより、整流板5に送られる成形材料の押出位置を従来の二方向から四方向に増やすことができる。そのため、整流板5の貫通孔11の周囲の四方向(
図5の矢印(流れ方向A1,A2,A3,A4参照))から成形材料が主に流れ込むことになる。
【0047】
その結果、成形材料が分散して押し出されるため、押出量に偏りが生じることがなく、押出成形されるハニカム成形体の寸法精度を安定させることができる。更に、寸法精度を安定させるための調整作業が微調整で済むため、作業者に過度の作業負担を強いることなく、かつ調整回数の縮小、及び調整時間の短縮化を図ることができる。
【0048】
これにより、ハニカム構造体の製造効率が向上し、かつハニカム構造体の外観不良の発生率を抑えられる。なお、
図4の流れ方向A1等は、仮想的に示したものであり、必ずしもこの方向に押出方向が一致するものではない。
【0049】
特に、第二スクリュー部8の二条スクリュー羽根部8cに設けられたスリット10により、上記領域Rに多くの成形材料が滞留し、当該領域Rにおける圧力が高くなり過ぎるのを避けることができる。スクリュー2によってバレル4の内部の空間を押出方向F(
図1及び
図4参照)に沿って移動する成形材料は、開口部3に対して小径の整流板5の貫通孔11を通過するために、上記のような成形材料の滞留が必然的に発生する。このとき、スクリュー2は連続的に回転しているため、バレル4の他端から成形材料は順次開口部3側に向かって送られる。その結果、領域Rの圧力が高くなりやすい。
【0050】
本実施形態の二軸押出機1の場合、上記の通り、二条スクリュー羽根部8cの羽根周縁8dに沿って複数のスリット10が等間隔で設けられている。そのため、圧力が高くなった領域Rにおいて、成形材料の一部が当該スリット10を介して押出方向と逆方向に逆流することができる。これにより、領域Rにおける圧力の上昇を緩和することができる。そのため、整流板5の貫通孔11に流れ込む成形材料の挙動を安定させることができる。
【0051】
以下、本発明の二軸押出機について、下記の実施例に基づいて説明するが、本発明の二軸押出機は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
(1)押出成形の実施
図1に示す本発明の二軸押出機を使用し、各種セラミックス原料を配合して調製された成形材料を押出成形し、円柱状のハニカム成形体200(
図4参照)を押出成形した。ここで、押出成形には、実施例1及び比較例1の二種類のスクリューを用いた。
【0053】
実施例1のスクリューは、上述した本実施形態の二軸押出機に採用されたものであり、第一スクリュー部及び第二スクリュー部から構成されたものであり、その詳細は、スクリュー径H3:70.5mm、羽根高さH2:12.8mm、スリット幅比:34%、スリット深さ比:53%のものである。
【0054】
また、第二スクリュー部は、バレルの開口部から他端に向かって少なくとも一ピッチ以上の幅で構成されている。一方、比較例1のスクリューは、従来の二軸押出機に採用されるものであり、スクリュー軸に対して螺旋形状に形成された“一条”のスクリュー羽根部のみで構成されたものである。
【0055】
上記実施例1及び比較例1のスクリュー以外の構成、すなわち、整流板、濾過網、及び口金等は全て同一のものとした。また、押出成形される成形材料や押出条件等のその他パラメータも全て同一とした。
【0056】
(2)押出成形時の圧力
押出成形時における二軸押出機の押出圧力T1、口金前位置T2の(第二空間の圧力)、濾過網前位置T3の圧力(第一空間の圧力)の最大値及び最小値をそれぞれ測定した。得られた測定値から平均の値、及び、比較例1と実施例1との差(=比較例1−実施例1)を求めた。更に、平均の値については、比較例1に対する実施例1の減少率を算出した。その結果を下記表1に示す。
【0057】
(3)真円度の測定
押出成形されたハニカム成形体200の成形体前部D1、成形体中央部D2、及び成形体後部D3(
図4参照)の各位置における最大径及び最小径をそれぞれ測定した。ここで、真円度とは、円形形体の幾何学的円からの差(狂い)の大きさを表すものであり、一般に、二つの幾何学円で挟んだときの同心二円の間隔が最小となる二つの円の半径差を示している最大の直径と最小の直径の差で示している。
【0058】
本実施例では、既存の真円度計測機を用い、ノギスでハニカム構造体の端面における最大径と最小径の測定を行い、その差を求めている。得られた測定値から平均の値、及び、比較例1と実施例1との差(=比較例1−実施例1)を求めた。更に、平均の値については、比較例1に対する実施例1の減少率を算出した。その結果を下記表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示す通り、二軸押出機の押出圧力T1、及び各位置T2,T3における圧力の測定において、比較例1に対して実施例1がいずれも圧力の値が減少することが示された。すなわち、先端に二条スクリュー羽根部を有するスクリューの使用によって、押出成形時の圧力を軽減することができることが確認された。これにより、ハニカム成形体の寸法精度の安定性に寄与することができると考えられる。
【0061】
また、真円度に関しても、比較例1に対して実施例1の値が小さくなることが確認された(成形体前部D1の最小値を除く。)。すなわち、実施例1のスクリューの使用によって、得られるハニカム成形体の寸法精度がより安定することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の二軸押出機は、ハニカム成形体を押出成形する押出成形工程において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1,100:二軸押出機、2,101:スクリュー、3,102:開口部、4,103:バレル、5,104:整流板、6,105:濾過網、7:第一スクリュー部(スクリュー)、7a:第一スクリュー軸、7b,8b:軸表面、7c:一条スクリュー羽根部、8:第二スクリュー部、8a:第二スクリュー軸、8c:二条スクリュー羽根部、8d:羽根周縁、9,106:口金、10:スリット、10a:スリット底端、11,107:貫通孔、12,110:第一空間、13,111:第二空間、14,109:駆動装置、15,108:材料投入部、112:スクリュー軸、113:スクリュー羽根部、200:ハニカム成形体、A1,A2,A3,A4:流れの方向、C1,C2:円、D1:成形体前部、D2:成形体中央部、D3:成形体後部、F:押出方向、H1:スリット深さ、H2:羽根高さ、H3:スクリュー径、L1,L2:リード、P1,P2:ピッチ、R:領域、T1:押出圧力、T2:口金前位置、T3:濾過網前位置、W1:スリット幅、W2:スリットピッチ、θ:スリット間角度。