(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成分C及びDのアニオンX−及びX’−は、前記主要な成分Aのアニオンよりも少なくとも3倍低いが10,000倍を超えない低さの、成分Bに対するマイケル付加反応性を有する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の架橋性組成物。
【発明の概要】
【0001】
本発明は真マイケル付加(RMA)反応により架橋可能な架橋性組成物に関し、少なくとも2つの活性不飽和基(以下、RMAアクセプター基という)を有する成分と、活性メチレン又はメチン基(以下、RMAドナー基という)中に少なくとも2つの酸性プロトンC−Hを有する成分とを含み、これらの成分が反応して架橋ネットワークを形成できる。
【0002】
RMA化学は、良好な材料特性を得るため、許容可能な又は良好なポットライフの組成物において低い硬化温度でも速硬性の組成物をもたらすように調整することができ、このことは、この化学を架橋性組成物の基礎として非常に魅力的なものにしている。潜在性塩基性架橋性触媒を使用したRMA架橋性組成物の詳細がWO2011/124663に記載されている。
【0003】
真マイケル付加は強塩基により活性化されるが、これらの塩基性触媒を消費する酸性種の存在によって阻害もされる。望ましい乾燥プロファイルを得ることを考慮した、コーティング系の反応性の調整においては、バランスを取るべき様々な要件がある。乾燥プロファイル(反応プロファイル又は硬化プロファイルともいう)は、時間の関数としての架橋性反応の進行である。一般に、乾燥プロファイルは、生産性を高めるために、穏やかな条件下でできるだけ速く機械的特性の強化を可能にすることが求められる。架橋性組成物は、それが実用的であるために、その配合後に良好な塗布特性をもって使用できる妥当な時間も必要とされる;この時間は一般にポットライフと呼ばれる。さらに、ロバストである乾燥プロファイルを有すること、すなわち、存在している偶発的な低レベルの酸性不純物によって反応性(ひいては、得られる乾燥プロファイル)が強い影響を受けないことも必要とされる。
【0004】
他方、コーティング用途においては、得られるコーティングの良好な外観が必要とされる。これは、塗布の直後、硬化性コーティング組成物が液体として存在してレベリングが可能であるときに、十分なレベリングが必要とされることを意味する。このことは、硬化が非常に速い場合、特に硬化が表面において深い層よりも速い場合に生じうる(これは溶媒蒸発又は触媒の表面活性化の時間スケールで硬化が起きる場合に多くあてはまる)、溶媒の混入又はガスの混入又は他の表面凹凸のような乱れがないことが必要とされることも意味する。溶媒閉じ込めが起きる条件下ではフィルム硬度の強化も影響を受けるであろう。
【0005】
説明した要件はある程度互いに相反する。速硬化プロファイルのためだけでなく、偶発的な酸性不純物に対する高いロバスト性にも、妥当な高レベルの触媒が好ましいが、一方で同時に、そのような高レベルの触媒は急速すぎる硬化をもたらし、上述したような表面の外観及び硬度の増大に負の影響を与えることがある。一般に、より高い触媒レベルはポットライフにも負の影響を与えることがある。
【0006】
過去の刊行物WO2011/124663、WO2011/124664及びWO2011/124665には、組成物を薄膜として塗布した際に二酸化炭素(CO2)の蒸発によって活性になる二酸化炭素ブロック塩基性触媒を使用することによって、速硬性と長期ポットライフとを組み合わせることが可能であることが示されている。この方法は長期ポットライフ/速硬性の組み合わせをもたらすのに有用である一方、表面からのCO2の脱出から生じる不均質な活性化のリスクがある、厚膜塗布の場合に問題をもたらす。さらに、CO2を蒸発させるのに利用できる広い表面がない用途では、そのようなCO2ブロック触媒はかなり制限がある。
【0007】
例えばT.Jungら、Farbe und Lacke Oct 2003によって知られている、光潜在性アミン触媒を含む組成物と対照的に、周囲条件で簡単に硬化させることができる架橋性組成物も望まれている。UV照射時に強塩基を生じるそのような光潜在性アミン触媒は、表面の一部がUV若しくは可視光によって到達可能ではないより複雑な凹凸のある基材のコーティング、又は強く着色された系には適していない。
【0008】
本発明の目的は、これらの相殺する要件においてより良好なバランスをもたらすRMA架橋性組成物を提供することである。
【0009】
本発明によれば、上述した問題のうち少なくとも1つは、真マイケル付加(RMA)反応により架橋可能な架橋性組成物によって克服され、架橋性組成物は以下を含む。
a.活性メチレン又はメチン中に少なくとも2つの酸性C−Hドナー基を有し、10.5〜14のpKa(A)を有する、1または複数の成分Aと、
b.少なくとも2つの活性不飽和アクセプター基を有する1または複数の成分Bであって、アクセプター基対ドナー基のモル比Rが3:1〜1:6であり、1または複数の成分Bは真マイケル付加(RMA)により1または複数の成分Aと反応して架橋ネットワークを形成する、1または複数の成分Bと、
c.酸性X−H基含有化合物(式中、XはN、P、O、S又はCである)に由来の塩基性アニオンX−の塩である1または複数の塩基性成分Cであって、
i.0.001〜1meq/(1グラムの成分A、B、C、D)の量xcであり、
ii.アニオンX−は、成分Bと反応可能なマイケル付加ドナーであり、
iii.アニオンX−が、主要な成分AのpKa(A)よりも2単位を超えて下回り10.5未満である、対応する酸X−HのpKa(C)によって特徴付けられる、
1または複数の塩基性成分Cと、
d.1以上の酸性X’−H基(式中、X’はN、P、O、S又はCである)を含む1または複数の任意の成分Dであって、
i.X’は、成分C中の基Xと同じ又は異なる基であり、
ii.X’−アニオンは、成分Bと反応可能なマイケル付加ドナーであり、
iii.成分D中の前記X’−H基のpKa(D)が、前記主要な成分AのpKa(A)よりも2単位を超えて下回り10.5未満であり、
iv.成分C中の塩基性アニオンX−に対する成分D中の酸性X’−H基の当量比Rd/cが、1〜5000%である、
1または複数の任意の成分Dと
を含み、
e.ネオペンチルグリコール及びヘキサヒドロフタル酸無水物に基づくエチルマロナート変性ポリエステル、ジトリメチロールプロパンテトラアクリラート及びテトラブチルアンモニウムスクシンイミド、並びにエチルアセトアセタートを含む組成物を含まない。
【0010】
発明者らは、カチオンと(脱プロトン化した)酸性X−H基含有化合物(式中、XはN、P、O、S又はCであり、アニオンX−も成分Bと反応可能なマイケル付加ドナーである)に由来の塩基性アニオンX−との塩であり、対応するX−HのpKa(C)に関する特定の要件がある、特定の成分Cを使用して、RMAドナー及びアクセプター成分であるA及びBの間の効果的な架橋反応を開始させることが可能であることを見出した。成分Cの特定のアニオンX−はRMA反応を開始させ、アニオンX−は成分Aと共有結合し、形成される架橋ネットワーク中に一体化することになり、これは得られる架橋生成物の機械的及び化学的特性の観点から有利である。酸性X−H基含有化合物(式中、XはN、P、O、S又はCである)という用語は、酸性プロトンHがその化合物中のN、P、O、S又はC原子上にある、X−H酸性基を含む化合物を意味する。Xはここで化合物中の原子をいうが、明細書又は特許請求の範囲においてX−H基、アニオンX−、基X−などについて言及する場合、これは当然酸性X−H又は脱プロトン化したX−基を含有する化合物のことをいう。これは同様にX’及びX”にもあてはまる。
【0011】
ある成分が成分Bと反応可能なマイケル付加ドナーであるかどうかは、特定したpKa値に依存するが、ある種の分子パラメーターにも依存する。マイケル付加ドナーは文献公知であり、ある成分が成分Bに対してマイケル付加反応性を示すかどうかは、簡単な実験によって当業者により容易に立証できる。そのような実験も以下に記載する。好適なX−H基含有成分もそれらのpKa値とともに以下に記載する。組成物中の各成分A、C、D及びFは、固有の範囲のpKaによって特定される。両方の既存の化合物のpKa値は、文献で報告されている、及び/又は標準的ルーチンによって当業者により容易に定めることができる。これに関連して、ある成分が1つを超える酸性プロトンを含む場合、前記成分の関連するpKaはその成分の第1のプロトンのpKaである;例えばマロナートのpKa(A)は13である。さらに、ある成分のpKaに言及する場合、その成分中のX−H酸性RMAドナー基のpKaに言及していることを意味する。1または複数の成分という用語は1つ以上の成分を意味し、2つ以上の異なる成分も含むことに留意されたい。
【0012】
本発明による組成物は、塗布時間、乾燥時間、溶媒閉じ込め問題を伴わない硬度増大、及び外観のような塗布特性の、よくバランスしたセットを実現する。RMA反応の開始は、別個の塩基触媒を必要としない。特に、本発明の組成物におけるRMA反応は、二酸化炭素ブロック塩基触媒を必要とせず、したがって二酸化炭素の蒸発が困難である又は不可能である複合材、接着剤などのような用途において利点がある。それとは別に、この組成物は、潜在性塩基触媒を有する組成物と比較してかなり安価でありうる。その低価格の1つの側面は、炭酸アニオンと比較して大部分のアニオンX−の塩の良好な溶解性のために、アルカリ金属又はアルカリ土類金属カチオンのようなより安価なカチオンを含め、塩成分Cにおいて使用できるカチオンの選択肢がより広いことである。本発明のさらに別の利点は、成分Cがヒドロキシル基含有ポリマーによるRMA反応の阻害の影響をより受けにくいことである。したがって、塩成分Cは、ヒドロキシ価が61mgrKOH/grを上回り200、180、150、120、100又は80mgrKOH/grまでであるヒドロキシ官能性ポリマーを含有する1つ以上のA、B、D及び/又はFと組み合わせて使用することができ、一方でなお良好な外観及び硬化特性を有する。
【0013】
ネオペンチルグリコール及びヘキサヒドロフタル酸無水物に基づくエチルマロナート変性ポリエステル、ジトリメチロールプロパンテトラアクリラート、テトラブチルアンモニウムスクシンイミド、並びにエチルアセトアセタートを含む組成物は、上記の組成物から除外される。あるいは、上記の組成物は、エチルアセトアセタートとの組み合わせでテトラブチルアンモニウムスクシンイミドを成分Cとして含まない。あるいは、組成物はテトラブチルアンモニウムスクシンイミドを成分Cとして含まない。
【0014】
好ましい実施形態において、架橋性組成物は、1つ以上の酸性X’−H基(式中、X’はN、P、O、S又はCである)を含む1または複数の成分Dを含み、
i.X’は、成分C中の基Xと同じ又は異なる基であり、
ii.X’−アニオンは、成分Bと反応可能なマイケル付加ドナーであり、
iii.成分D中の前記X’−H基のpKa(D)は、主要な成分AのpKa(A)よりも2単位を超えて下回り10.5未満であり、
iv.成分C中の塩基性アニオンX−に対する成分D中の酸性X’−H基の当量比Rd/cは、1〜5000%である。
【0015】
驚くべきことに、本発明の組成物中の成分Dの存在は誘導時間を伴う乾燥プロファイルをもたらすことがわかった。このことは、架橋反応性が低いところから始まるが(ポットライフ、任意の溶媒の流出及び脱出を可能にする)、この誘導時間を超えてもなお開始剤成分Cの全潜在能力から恩恵を受け、そのためその後の段階で反応の加速をもたらして高い割合で架橋を完了させることを意味している。以下により詳細に説明するように、この誘導時間は成分C及びDの量及び特性によって調整できる。
【0016】
成分Dは任意であるので、量の範囲は0%〜5000%である。好ましくは、成分Dが存在し、成分C中の塩基性アニオンX−に対する成分D中の酸性X’−H基の当量比Rd/cが10〜4000%、より好ましくは20〜2000%、最も好ましくは50〜500%、400%若しくは300%、又は75〜200%である。
【0017】
理論によって拘束されることを望まないが、本質的に反応メカニズムは、成分C中のアニオンX−がBと反応して脱プロトン化したX−B−カルバニオン付加体を形成し、これが次に成分D中のX’−H基(次に最も強い利用可能な酸)を脱プロトン化してアニオンX’−を形成し、これが次にBと反応して付加体X’−B−を形成し、これがDの量を使い切るまで続き、それから初めて強塩基X’−B−付加体がAと反応する(Aはより酸性が弱くより高いpKaを有するため、Dよりも後に反応する)と考えられる。反応連鎖の最後の反応は、成分A及びBを架橋させてネットワークを形成させる反応である。しかし、時間のかかる反応は、付加体X−B−及びX’−B−を形成させる、アニオンX−及びX’−とBの間の反応であり、これはBに対するアニオンX−及びX’−の反応性が低いためであり、このことが誘導時間をもたらす。
【0018】
先行技術のCO2ブロック潜在性塩基触媒と比較した本発明のさらに別の利点は、組成物中の成分のpKaの下限がはるかに低くてもよいことである。CO2ブロック触媒の酸分解のリスクがないためである。pKa(C)及びpKa(D)は非常に低くてもよい。pKa(C)及びpKa(D)は−2、−1、0程度に低くてもよいが、十分なマイケル付加反応性を得ることを考慮して、好ましくは少なくとも1、2又は3である。この広いpKa範囲によって、成分C及びDを比較的広い範囲の分子から選択できる。
【0019】
RMA反応の開始は成分Cによって引き起こされる。本発明による組成物は、RMA反応を開始させるためのさらなる塩基性成分を必要としない。したがって、組成物は、RMA架橋反応を開始する又は触媒することができる、C以外の別の塩基性化合物を50モル%未満含む、最も好ましくは実質的に含まない(すなわち0モル%)ことが好ましい。好ましくは、組成物は、AとBの間のRMA反応を(脱ブロック化すなわち活性化の直後)開始させることができる、C以外の塩基性成分を、塩基性成分Cに対して50、40、30、20、15、10、5、3モル%未満含む。特に、組成物が潜在的性塩基触媒を実質的に含まない、さらにとりわけ二酸化炭素ブロック潜在性塩基触媒を実質的に含まないことが本発明の利点である。このことはより厚い層又は物品における用途を可能にする。他の塩基、例えばアミンは、RMA反応を開始させないほど非常に弱い塩基である限り存在していてもよい。
【0020】
1または複数の成分Aにおいて、10.5〜14のpKa(A)を有する活性メチレン又はメチンにおける酸性C−Hドナー基は、好ましくは式1の構造を有する。
【0022】
式中、Rは水素、又はアルキル、アラルキル若しくはアリール置換基であり、Y及びY’は同じ又は異なる置換基であり、好ましくはアルキル、アラルキル若しくはアリール(R
*)若しくはアルコキシ(−OR
*)である、又は式中、−C(=O)−Y及び/若しくは−C(=O)−Y’はCN若しくはフェニルにより置き換えられている。活性メチレン又はメチンは、式1のカルボニル基の間の−(H−)C(−R)−基である。好ましくは、成分AのRMAドナー基はマロナート又はアセトアセタート基に由来し、好ましくは、それらは主にマロナート基に由来する。これらの成分を例えばエステル交換によってポリマーにすることができ、その中でエステル基はポリマーとのエステル結合であってもよい。
【0023】
架橋性組成物において、1または複数の成分A中のC−H酸性RMAドナー基の大部分、好ましくは少なくとも50、60、70又はさらには80モル%が、マロナート又はアセトアセタート基、より好ましくはマロナート基に由来することが好ましい。この場合、マロナート又はアセトアセタート基を主要な成分Aという。主要という用語は、官能性RMA反応性ドナー又はアクセプター基の大部分となる化合物をいう;成分A、C、D及びFの場合、X−H含有ドナー基のタイプがX−H酸性RMAドナー基の大部分となる。架橋性組成物において、1または複数の成分A中のC−H酸性RMAドナー基の大部分、好ましくは少なくとも50、60、70、又はさらには80モル%がマロナート基に由来し、1または複数の成分A中の残りのRMAドナー基は実質的にアセトアセタート基のみに由来する。
【0024】
同じ分子中にマロナート基とアセトアセタート基の両方を含有する成分Aも好適である。加えて、マロナート及びアセトアセタート基含有成分の物理的混合物が好適である。例えば、成分Aは、マロナートを含むポリマー及び単一のアセトアセタート分子の物理的混合物でありうる。本発明での使用に特に好ましいマロナート基含有成分は、1分子あたり1〜50個、より好ましくは2〜10個のマロナート基を含有する、マロナート基含有オリゴマー又はポリマーのエステル、エーテル、ウレタン及びエポキシエステルである。実際にはポリエステル及びポリウレタンが好ましい。そのようなマロナート基含有成分はまた、約100〜約5000、より好ましくは250〜2500の範囲の数平均分子量(Mn)、及び約2又は好ましくは2未満の酸価を有することが好ましい。モノマロナートも、1分子あたり2個の反応性C−Hを有するので使用できる。加えて、モノマーのマロナートが反応性希釈剤として使用できる。
【0025】
成分Bは一般に、炭素−炭素二重結合が電子吸引性基、例えばアルファ位にあるカルボニル基によって活性化されるエチレン性不飽和成分であってもよい。好適な成分Bは当技術分野において公知のものであり、例えば、(メタ)アクリロイルエステル、(メタ)アクリルアミド、あるいは、マレイン酸、フマル酸及び/又はイタコン酸(並びに無水マレイン酸及び無水イタコン酸)に基づくポリエステル、並びにペンダント活性不飽和基を含有するポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル及び/又はアルキド樹脂である。アクリラート、フマラート及びマレアートが好ましい。最も好ましくは、好ましくはRMAアクセプター基の少なくとも50、60、70、80、又はさらには少なくとも90mol%になる、主要な成分Bは、不飽和アクリロイル官能成分である。好ましくは、成分Bの1分子あたりの不飽和RMAアクセプター基の平均数として定義される官能性は2〜20であり、当量重量(EQW:反応性官能基1個あたりの平均分子量)は100〜2000であり、数平均分子量は好ましくはMn200〜5000である。
【0026】
成分A及びBの量は、RMA反応のためのそれらの反応当量に関してバランスしなければならない。組成物中のC−Hアクセプター対ドナー基の当量モル比は一般に、3:1〜1:6、好ましくは2:1〜1:4、より好ましくは3:2〜1:3、最も好ましくは1未満:1、好ましくは1超:2である。成分Aは典型的には組成物中に5〜95重量%(全樹脂固体に対して)の重量分率で存在し、成分Bも典型的には組成物中に5〜95重量%の重量分率で存在する。A及びBが同じポリマー中に存在する状況において、組成物中のこのポリマーの重量分率は少なくとも80、90又は95重量%であってもよく、99重量%まで達してもよい。
【0027】
典型的には、成分A及びBのうち少なくとも1つはポリマーの形態、例えばマロナート基を含有するポリエステルである。(成分A及びBに関連する)両方の官能基が同じポリマー中に存在していてもよい。成分A、B、C、D及びFという用語は、具体的な分子構造にかかわらず、特定のRMA反応性基を有する化合物をいうことに留意されたい。成分は、1つ以上の特定のRMA反応性基が結合している、小さい単分子、ダイマー、トリマー若しくはテトラマーなど、又はオリゴマー若しくはポリマー鎖であってもよい。例えば、成分Aは、マロナート又はエチルアセトアセタートのような、1つの活性メチレン部分を有する単分子であってもよい。これらの分子はRMA反応に利用可能な2つの酸性C−Hドナー基を有する。成分Aはまた、2つ又は3つのマロナートを含むダイマー又はトリマーであってもよい。成分Aはまた、例えば鎖に結合した又は鎖中に組み込まれた1つ以上のマロナートを含むオリゴマー又はポリマー鎖であってもよい。実際には同じことが成分B、C、D及びFにあてはまる。さらに、1つ以上の成分A、B、C、D及びFが、小分子、オリゴマー又はポリマー中に結合していてもよい。成分の形態の特別な選択は、形成すべき架橋ネットワークの予想される特性に依存する。様々なポリマー、例えばポリエステル、ポリエポキシ、ポリウレタン又はポリアクリラートポリマーを、組成物中で組み合わせて使用することもできる。RMA反応によって架橋ネットワーク中に一体化する様々なポリマーの組み合わせを使用することも想定される。成分C、D及びFはまた、成分Bと反応可能なマイケル付加ドナーである2つ以上の酸性ドナー基を含んでいてもよく、したがって架橋ネットワークに一体化させることができることに留意されたい。一般に、成分A〜Fを有するオリゴマー又はポリマーの分子量は広い範囲で変更することができ、その選択は想定される特別な用途に依存する;典型的には(重量平均)分子量Mwは100、200又は500を上回り、200,000、150,000、100,000又は50,000gr/molを下回る。本明細書に記載のように、コーティング用途では数平均分子量(Mn)は好ましくは約100〜約5000の範囲である。
【0028】
好ましくは、組成物は、成分AとBの間のマイケル付加反応を阻害しうる、成分A、C、D及びF以外の実質的な量の酸性成分を含まない。
【0029】
成分Cは式Cat
+X
-(式中、Cat
+は非酸性カチオンである)による塩であり、成分A及びBの架橋反応を阻害する能力はない。このことは、任意のプロトンがカチオンに会合する場合、それらの酸性度が成分Aの主要なC−H官能基の酸性度よりも2単位を超えて、好ましくは1を超えて、より好ましくは0.5pKa単位を超えて上回らないことを意味する。有用なカチオンの例としては、無機カチオン、好ましくはアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属カチオン、より好ましくは、K+、Na+及びLi+、又はテトラアルキルアンモニウム及びテトラアルキルホスホニウム塩のような有機カチオンだけでなく、プロトンを有するが極度に非酸性であるカチオン、例えば強塩基性有機塩基のプロトン化された種、例えばDBU、DBN又はテトラメチルグアニジンも挙げられる。これらの塩基は成分AとBの間の架橋反応を開始させることができるが、それらのプロトン化された形態では(阻害)反応を妨げないであろう。本発明のさらなる利点は、成分Cが公知のRMA潜在性塩基触媒よりもはるかに安価でありうることである。例えば、ほとんどの状況で、二酸化炭素ブロック潜在性塩基触媒に必要とされるカチオンは、テトラアルキルアンモニウム型のカチオンであり、これははるかに高価である。アニオンX−のため、塩成分Cはカリウムのような単純で安価なカチオンでさえ十分な溶解性を有する。
【0030】
1または複数の塩基性成分Cは酸性X−H基含有化合物(式中、XはN、P、O、S又はCである)に由来の塩基性アニオンX−の塩である。成分CのアニオンX−は本発明に必須である。アニオンX−は成分Bと反応可能なマイケル付加ドナーでなければならず、成分Aの主要な反応性C−H種よりもかなり酸性度が高い、対応する酸X−Hのアニオンである。特に、アニオンX−は、対応する酸X−HのpKa(C)が主要な成分AのpKa(A)よりも2単位を超えて下回り10.5未満であることによって特徴付けられる。例えば、その主要な成分A種がマロナート(pKa13)である場合、X−HのpKaは10.5未満であるべきである。好ましくは、これは10未満、より好ましくは9.5未満、より一層好ましくは9未満、最も好ましくは8.5未満である。成分Aの主要なC−H種が別の性質のものである場合(例えばアセトアセタート、pKa10.7)、X−HのpKaは成分Aの主要なC−H種のpKaよりも少なくとも2単位下回るべきである。成分Cは特定した範囲内で1より多い異なる成分を含んでいてもよい。
【0031】
さらに、X−は、酸性プロトンが結合できる部位を介して、マイケル付加反応により成分Bと反応することが重要である。そのような反応の際、元のX−アニオンはそうしてより塩基性度が高いカルバニオンへ転化され、X−H種を再形成する能力を失う。
【0032】
最後に、成分Bに対する種X−の反応性が成分Aの主要なC−H種のアニオンの反応性よりも低いことが重要である。このことは、有効な誘導時間を作り出せることを確実にする。好ましくは、反応性は少なくとも3倍、より好ましくは5倍、より好ましくは少なくとも10倍、より一層好ましくは少なくとも20倍、より一層好ましくは少なくとも40倍、最も好ましくは少なくとも100倍の低さである。しかし反応性はまた低すぎてはならない。そうでなければ反応の完了が非常に遅くなるためである;反応は、成分Aのアニオンのそれよりも、10,000倍を超えて、好ましくは5,000倍を超えて、より好ましくは2,000倍を超えて、より一層好ましくは1,000倍を超えて、最も好ましくは500倍を超えて遅くてはならない。
【0033】
成分Cは、少なくとも1μeq/g(1グラムの有機固体成分あたりのマイクロ当量)、好ましくは5μeq/gを超え、より好ましくは10μeq/gを超え、好ましくは1meq/gを超えない、より好ましくは600μeq/gを超えない、最も好ましくは400μeq/gを超えない量で存在する。有機固体成分という用語は、揮発性成分を除いた、コーティング組成物中のバインダーとも呼ばれる固体樹脂形成成分、顔料、垂れ抑制剤、及び他の典型的な塗料添加剤をいう。特に、量は、反応して架橋ネットワークを形成する成分A、B、C並びに任意のD及びFの合計に対して表される。成分Cは存在する主要な塩基性成分であり、(酸塩基反応ステップのカスケードに続いて)最終的に成分A及びBの反応を開始させることができる。好ましくは、成分Bとのマイケル付加反応で消費されることなく(及び共有結合を形成することなく)、直接又は二酸化炭素を非ブロック化した後に成分AとBの間の反応を開始させることができる他の塩基性種の実質的な量で存在しない。成分Cは、低分子量種でよいが、ポリマー種の一部でもよく、ポリマー中で成分A及び/又はDと組み合わせてもよい。
【0034】
成分Cに加えて、成分Dもより長期のポットライフを可能にするために存在することが好ましい。いくつかの用途では、混合時の急速な活性化は問題を生じない場合があり(又は好ましくさえある)、その他では、混合後により長い作業可能ウィンドウが必要とされる。成分Dは、成分Cのアニオンの対応する酸X−Hと特性において類似した酸性成分X’−Hである。X’はXと同じでもよく、又は異なっていてもよい;成分Dはまた、定義に従った複数の種を含んでいてもよい。したがって、成分DのpKaは10.5未満であること及びpKa(A)を2単位下回ることによって定義される。好ましくは、これは10未満、より好ましくは9.5未満、より一層好ましくは9未満、最も好ましくは8.5未満である。成分Aの主要なC−H種がマロナート(例えばアセトアセタート、pKa10.7)よりかなり低い場合にも、X’−HのpKaは主要な成分AのpKaを少なくとも2単位下回るべきである。一般に、成分DのX’−HのpKaは成分Cに関連するX−H種のpKaを下回らない。そうでなければ、当業者によって認識されるように、酸シフトがX及びX’種の役割を逆転させるためである。X’−は、成分Dが脱プロトン化すると、酸性プロトンが結合する部位X’を介して、マイケル付加反応によって成分Bと反応可能である。そのような反応の際、元のX’−アニオンはそうしてより塩基性度が高いD−B付加体カルバニオンへ転化され、X−H種を再形成する能力を失う。
【0035】
成分Bに対する種X’−の反応性は、成分Aの主要なC−H種のアニオンの反応性よりも低い。このことは、有効な誘導時間を作り出せることを確実にする。好ましくは、これは少なくとも3倍、より好ましくは5倍、より好ましくは少なくとも10倍、より一層好ましくは少なくとも20倍、より一層好ましくは少なくとも40倍、最も好ましくは少なくとも100倍の低さである。しかし反応性はまた低すぎてはならない。そうでなければ反応の完了が非常に遅くなるためである;反応性は成分Aのアニオンのそれよりも10,000倍を超えて、好ましくは5,000倍を超えて、より好ましくは2,000倍を超えて、より一層好ましくは1,000倍を超えて、最も好ましくは500倍を超えて低くてはならない。同じ反応性の優先性は成分CにおけるアニオンX−にあてはまる。
【0036】
成分Cは強塩基及び成分X−Hの酸塩基反応により調製できる。成分D(X’−H)は別個に加えることができ、又は選択されるアニオンX及びX’が同じである場合、成分Dは成分Cとの組み合わせで形成させることもできる。強塩基をモル過剰の成分D(X−H)と反応させて、成分CとしてのX−Hのアニオンの塩と成分Dとしての残存した未反応の過剰なX−Hとの混合物を得ることによる。明らかであるが、X’が元のX−H(それから成分Cが形成される)と同じでない、さらなるX’−H成分Dを加えることもできる。そのような組み合わせでは、ポットライフの改善を考慮して、元のX−H及びX’−H種の全モル量が、使用される元の強塩基の全モル量を上回ることが好ましい。
【0037】
成分Dは組成物中の成分AとBの間の架橋反応を遅らせ、誘導時間を作り出す。このことは架橋性組成物のコーティング層の塗布におけるオープンタイムももたらす;オープンタイムは、流動するのに十分な程度、及び封入された空気を脱出させ溶媒を蒸発させるのに十分な程度に、粘度が低くなっている時間である。多量で活性の低い成分Dはより長い誘導時間/遅延をもたらす。組成物中の成分Dの好ましい当量は、成分C中のアニオンX−の当量の関数として定義できる。成分C中の塩基性アニオンX−に対する成分Dの好ましいモル比Rd/cは、成分Aのアニオンと比較した、成分Bに対する対応するアニオンX−の相対的反応性に依存する。Aと比較した成分Cのこの相対的反応性が低いほど、良好なオープンタイムを実現するための好ましい比はより短くなりうる;この相対的反応性が高いほど、比はより高くなる。一般に、成分Cと比較して、少なくとも1当量%の成分D、好ましくは10%を超える、より好ましくは50%を超える、より一層好ましくは100%を超える成分Dが必要である;好ましくは、これは5000%を超えない、より好ましくは4000、3000、2000、1000又は500%を超えない。
【0038】
上述したように、成分C及びDを1分子中に併せ持つこともできる。そのような代替的実施形態の例は、例えば1,3−ジケトン又はニトロメンタンの場合のように、Bとマイケル付加反応性である、1を超える酸性X−Hを含有する官能基を含む分子である。酸性X−H基のうち1以上がアニオン型である、そのような材料の塩は、成分Cの1以上の当量に寄与すると考えられるが、他の1つ以上の非脱プロトン化X−H基は、マイケル付加によって成分Bと反応できる非脱プロトン化X’−H種(成分D)の1以上の当量(例えばニトロメンタンは2、バルビツール酸は3)を与えるであろう。成分CとDの両方を有するそのような分子の例は、R=Hである式1の化合物の単塩である。この塩は成分Dとしての1つの酸性プロトンC−H及び1つの塩成分Cを有し、X=X’である。(モノ脱プロトン化)X−Hの1当量のそのような塩は成分Bと反応し、続いて第2の残りの酸性基(X’−H)が脱プロトン化するであろう。これは、C及びDが別々であり、1つのX−H基の塩としての成分Cがマイケル付加によりBと反応し、続いて別個の成分DにおけるX’−Hが脱プロトン化する状況と類似している。複数の酸性水素を含有する酸性メチレン又はメチル基の塩は、例えばメチレンの場合は1:1の比で、又はニトロメンタンの場合は1:2の比で、成分CとDの両方に寄与すると考えるべきである。
【0039】
成分Dは低分子量種として存在してもよく、ポリマーとして存在してもよく、前の段落で論じたように、成分Cの官能基と一緒に分子中に存在してもよく、ポリマー物質中で成分Aと組み合わせてもよく、物質中で成分Bと組み合わせてもよく、A、C及びDの官能性を併せ持つ材料の一部であってもよい。組成物は、成分A及びDの定義によってカバーされない、成分Bとのマイケル付加反応を受けることが可能な他の成分を、樹脂に対して30重量%未満で含有することが可能である。
【0040】
言及するpKa値は周囲条件(21℃)における水溶液のpKa値である。それらは文献中で容易に見つけることができ、必要に応じて、当業者に公知の手順によって水溶液中で決定される。関連する成分のpKa値のリストを以下に示す。
【0042】
言及する、Bに対する成分A、C、D及びFのマイケル付加における相対的反応性は、実験的に決定することができる。様々なX−H種のアニオンの反応性は、過剰のモデルRMAアクセプター基B(例えばブチルアクリラート)を用いた室温の配合物における同等な条件下、及び少なくとも1モル%のRMAドナーを脱プロトン化することが可能な塩基の存在下でいずれかを試験する場合に、モデル実験により得ることができる。酸性種の消費は、滴定、NMR、GC、又は当業者に公知の他の好適な分析法により時間を追って追跡することができる。
【0043】
好適な成分X−H(これから成分C塩が誘導されうる)及びX’−H(成分D)は酸性プロトンがC、N、P、O又はS原子に結合するような酸であってもよく、マイケル付加反応はこれらの原子を介して起こる。好ましくは、これはC、N又はP原子、最も好ましくは炭素又は窒素原子に結合する。成分C及びDにおけるX及びX’は、好ましくはそれぞれ独立にC、N又はPであるように選択される。
【0044】
好適な化合物C及びDは、−CO2Rエステル基、C(=O)Rケトン基、シアノ基及びニトロ基から選択される2つ又は3つの置換基により活性化されるメチン若しくはメチレン、又は1つのニトロ基により活性化されるメチル、メチレン若しくはメチン基から生じる、X−又はX’−Hを有する。成分Dとして、又はそれらのアニオン型では成分Cの一部として適している成分の例は、シアノアセタート、アセチルアセトン及び1,3−シクロヘキサンジオンのような1,3−ジケトン、並びにジメドンのようなそれらの置換類似物、並びにニトロメタン、2−ニトロプロパン及びニトロエタンのようなニトロアルカンである。好ましいクラスのX−H及びX’−H成分C及びDは、成分Cに由来のX及び/又は成分DのX’が炭素−酸性化合物(X=C)である化合物;CO2Rエステル、ケトン、シアノ基及びニトロ基のような電子吸引性置換基により活性化された、メチン、メチレン及びメチル基、特に式1による成分である。通常、少なくとも2つのそのような置換基が存在する必要があるが、ニトロ基の場合は1つの置換基で十分である場合がある。
【0045】
別の好ましいクラスのX−H及びX’−H成分は、成分Cに由来のX及び/又は成分DのX’がアザ酸性化合物(X=N)である化合物を含み、好ましくは、これらのN−H酸性化合物は、Ar−NH−(C=O)、−(C=O)−NH−(C=O)−又は−NH−(O=S=O)−基、又はN−H基の窒素がヘテロ環中に含有されるヘテロ環に由来する。好ましい成分は、イミド成分、好ましくは、スクシンイミド及びエトスクシミドのような(任意に置換された)環状イミドのクラスで見出すことができる。置換ヒダントイン、ウラシル及びバルビツラートもこのカテゴリーに含まれる。別の好適なクラスは、ベンゼンスルホンアミド及びp−トルエンスルホンアミドのような芳香族スルホンアミドから形成される。サッカリンはこのカテゴリーにおける低いpKaの例である。
【0046】
別の好ましいクラスのX−H及びX’−H成分は、ヘテロ環の一部としてN−Hを含有するヘテロ環に由来するN−H酸性化合物を含む。トリアゾール、ピラゾール、及びイミダゾール、例えば2−メチル−4−ニトロ−イミダゾールが例である。特に好ましいのは1,2,4−トリアゾール及びベンゾトリアゾールのようなトリアゾール成分である。
【0047】
長期のポットライフ及びオープンタイムと、それらと組み合わせた高い反応性の両方をもたらすことを考慮して、X−H(成分Cに関連する)及びX’−H(成分D)として組成物に関与している2つ以上の異なる基がある場合に有益となり得ることが分かった。発明者らは、pKa<8.9を有する1つ以上のX−H又はX’−H基とpKa>8.9を有する他のX−H又はX’−H基の組み合わせを使用することが好ましいことを見出した;発明者らは、アザ酸性化合物(特にトリアゾール)に由来の成分を、イミド、又は1,3−ジケトンのような活性メチレンと組み合わせることが好ましいことも見出した。好ましくは架橋性組成物においてpKa(C)は8.9未満でありpKa(D)は8.9を超える。
【0048】
好ましくは架橋性組成物において
a.成分A中の50%を超える、好ましくは60、70%を超える、又はより一層好ましくは80%を超えるRMAドナー基がマロナートに由来し、
b.成分B中の50%を超える、好ましくは60、70%を超える、又はより一層好ましくは80%を超えるRMAアクセプター基がアクリロイル基に由来し、
c.成分Cは、ベンゾトリアゾリド塩、1,2,4−トリアゾールの塩、又は1,3−シクロヘキサンジオンの塩であり、
d.成分Dは、ベンゾトリアゾール若しくはトリアゾール、1,3−ジケトン、又はイミドである。
【0049】
組成物は、1または複数の成分Eとして1以上のチキソトロピー誘導添加剤、特にコーティング用途及び特に厚い層で使用するための垂れ抑制剤をさらに含んでいてもよい。
【0050】
架橋性組成物は好ましくは酸性X”−H基(式中、X”はN、P、O、S又はCである)を含む少量の1または複数の成分Fを含んでいてもよく、これはi)成分A及びDとは異なるがやはり成分Bと反応可能なマイケル付加ドナーである。これらの成分は、例えば成分Aと同じpKa範囲を有するが架橋ネットワークを形成するための少なくとも2反応性基を有していない成分、成分C、又は10.5を超えるpKaを有する1または複数のN−H酸性成分、例えばピラゾール及びイミダゾールであってもよい。そのような成分は、成分Aの反応性を抑えてオープンタイムを改善するのに使用してもよい。1または複数の成分Fの量xfは、樹脂形成成分A、B、C、D及びFの全重量に対して最大で30重量%、より好ましくは最大で25、20、15、好ましくは1〜10又は1〜5重量%である。
【0051】
上述したような架橋性組成物は通常市販されていない。ポットライフが一般に短すぎる;組成物をハンドリングできる時間(粘度増加又はゲル化がそれを不可能にする前の)が短すぎるためである。したがって、構成成分A〜Fを塗布の直前に混合することによって架橋性組成物を完成させる必要がある。したがって、本発明はパーツのキットにも関し、パーツは反応しない架橋性組成物の構成成分の組み合わせを含む。
【0052】
特に、本発明による組成物を製造するためのパーツのキットは、1)1または複数の成分Cを含むパーツI.1と1または複数の成分Cを含まないパーツII.1とを含む、あるいは2)パーツのキットは、成分Bを含むパーツI.2と成分Bを含まないパーツII.2とを含む、あるいは3)パーツのキットは、成分Cの代わりに、対応する酸性化合物X−Hを含むパーツI.3と、酸性化合物X−Hをその対応する塩成分Cへ転化させるための、パーツI.3と混合するための強塩基を含むパーツII.3とを含む。
【0053】
架橋性組成物の成分を組み合わせる好ましい方法は、成分Cを好ましくは必要に応じて一部の溶媒中に含み好ましくは少なくとも一部の成分Dも含む1つのパーツI.1と、成分Cを含まず成分A、B並びに任意にD及びFを含む別個のパーツII.1とを準備することであることを、発明者らは見出した。本発明は、記載のようなパーツI.1及びII.1のキットにも関する。本発明は、成分A又はBを含有する組成物へ成分Cを含有するキットのパーツI.1を加えることにより架橋性組成物を形成する方法にも関する。
【0054】
成分を組み合わせて完全な架橋性組成物を形成させる別の方法は、成分A及び成分C(並びに任意に成分D)が組み合わされているが成分Bは組み合わされていないパーツI.2と、成分Bを含むパーツII.2とを準備することによるものであり、これらのパーツII.1及びII.2は使用の直前に混合することができる。本発明は、記載のようなパーツII.1及びII.2のキット、並びにパーツII.1及びII.2を混合することを含む架橋性組成物を調製するための方法にも関する。
【0055】
架橋性組成物を調製する第3の有用な方法は、成分A、B並びに任意にD及びFを含む組成物を準備し、塩として成分Cを加える代わりに、対応する酸成分X−Hを加え、続いて(塗布の直前に)成分Cの塩をin situで形成する強塩基を加えることによる。同じことが、X−Hをモル過剰で強塩基へ加えて残りのX−Hを成分Dとして残す場合に実現できる。この方法は、意図しない(局所的な)成分A及びBのRMA反応が開始する前に塩の形成が起こり得るように、例えば強塩基の希釈及び/又は強い撹拌/混合といった好適な混合手順を必要とする。この成分X−Hは、架橋性組成物を塗布する直前に加えることもできる。任意に、塩成分Cは、成分X−Hを強塩基と反応させ架橋性組成物の残りの成分へ加えることにより、塗布する直前にex−situで形成される。したがって本発明は、成分A、B並びに任意のD及びF、並びに塩としての成分Cの代わりに、対応する酸成分X−Hを含むパーツI.3にも関する。本発明は、本発明による架橋性組成物の調製におけるその使用、パーツI.3と強塩基を含む別個のパーツII.3とを含むパーツのキット、並びにパーツI.3及びII.3を混合することを含む方法にも関する。本発明は、成分A〜C並びに任意にD、E及びFを任意の順序で、好ましくは上記のような順序で混合する方法により得られる組成物にも関する。本発明は、成分A、B、任意のD及びFを含むが成分Cを含まない第1の組成物を準備することと、架橋性組成物の使用直前に、第1の組成物中のin−situで又はex−situのいずれかで強塩基をX−H含有成分と反応させることにより成分Cを形成し、続いてこのように形成された成分Cを第1の組成物と混合することとを含む、架橋性組成物を調製する方法にも関する。
【0056】
組成物pK(D)はpK(C)を上回ることに留意されたい。しかし、成分C及びDがパーツのキットにおいて別々である場合、これは必要ではない。混合時にX’−H(D)とX(−)(C)との間で酸塩基反応が起こり、平衡状態では架橋性組成物中にX−H及びX’(−)が存在するためである。
【0057】
本発明による架橋性組成物は室温で20分を超えるゲル化時間を有していてもよい。多くの用途において、架橋性組成物の調製を完了した時点で、得られる組成物は塗布前に室温で好ましくは20分を超える、より好ましくは30分を超える、より好ましくは60分を超える、最も好ましくは90分を超えるゲル化時間を有する。ゲル化時間を測定する方法は以下に説明する。架橋性組成物は様々な温度で硬化させることができ、低温でそれを行うことも可能かつ有利であり、これは通常最も困難である。組成物は120℃未満、好ましくは、100、80、60、50、40℃未満、さらには30℃未満の温度で硬化させることができる。
【0058】
本発明による架橋性組成物は、ネットワーク形成成分A、B、C、好ましくはさらにD、及び任意にFを含み、任意に溶媒を含み、前記組成物は好ましくは
a.全樹脂に対して5〜95重量%の量xaであり、好ましくはオリゴマー又はポリマーである、1または複数の成分Aと、
b.全樹脂に対して5〜95重量%の量xbであり、xaプラスxbが全樹脂に対して少なくとも40、好ましくは50、60、70、80又は90重量%であり、好ましくはダイマー、トリマー若しくはテトラマー、オリゴマー又はポリマーである、1または複数の成分Bと、
c.0.001〜1meq/(1グラムの全樹脂)の量xcである、1または複数の塩基性成分Cと、
d.好ましくは、成分C中の塩基性アニオン基X−に対する成分D中の酸性X’−H基の当量比Rd/cが1%〜5000%であるような量xdである、1または複数の成分Dと、
e.全樹脂に対して1〜30重量%の量xfである、任意の1または複数の成分Fと、
f.全樹脂プラス溶媒の全重量に対して0.1〜80重量%の量である、任意の溶媒と
を有する。
【0059】
想定される用途に応じて、架橋性組成物は一定量の1つ以上の異なる溶媒、好ましくは有機溶媒も含有していてもよい。コーティング用途において、好ましくは80重量%未満、より好ましくは55、45、35、25重量%未満の有機溶媒を加えることが好ましい場合がある。より良好なポットライフをもたらすことを考慮して、溶媒は少なくとも1重量%の揮発性第1級アルコール、より好ましくは少なくとも3重量%、より一層好ましくは少なくとも5重量%、最も好ましくは少なくとも8重量%の揮発性第1級アルコールを含むことが好ましい(ABCD及びF及び溶媒の全重量に対して)。揮発性第1級アルコールの沸点は140℃未満が好ましく、より好ましくは130、120、110℃未満、最も好ましくは100℃未満である。例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノールが挙げられる。架橋性組成物は水を含んでいてもよい。
【0060】
本発明は、特別な用途のための実質的に溶媒を含まない架橋性組成物を提供することを可能にする。そのような特別な実施形態は、例えば粉末コート樹脂又は複合材料用の樹脂である。成分A、B、C、D、及びFの分子量は非常に低く選択できるので、組成物の粘度は溶媒を含まなくとも、低粘度を必要とする用途において十分に低くなり得る。低分子量成分A〜F(Mw<500、400、300又は200)は反応性希釈剤として使用できる。例えばモノアセトアセタート又はモノマロナートは反応性希釈剤成分Aとして使用できる。利点は組成物が非常に低い含量の揮発性有機成分(VOC)を有することであり、このことは環境面での重要な利点をもたらす。したがって、好ましい実施形態の1つでは添加される有機溶媒の量が少なく、VOCは5重量%未満、より好ましくは3、2、又はさらには1重量%未満である。この実施形態において、樹脂成分A、B、C、D又はFは、50,000、20,000、10,000、5000未満、又はさらには3000gr/mol未満の分子量Mwを有することが好ましい。この組成物は、VOCの蒸発が不可能又は困難又は許容不可能である用途において有利に使用できる。
【0061】
成分A、B、C、D及びFはすべて互いに反応し、架橋ネットワーク中に一体化される。上記のように成分A及びBは、架橋ネットワークを形成するために少なくとも2つの架橋官能基(それぞれRMAドナー及びアクセプター基)を有する。好ましくは成分A又はBのうち少なくとも1つは、より緻密な架橋ネットワークを得るために、平均で2を超える、好ましくは少なくとも2.1の架橋官能基を有する。成分A及びBとは別に、成分C、D及びFの各々も2つ以上のRMAドナー基を含んでいてもよいので、それらは架橋ネットワーク中に完全に一体化される。一般に、2つ以上の架橋基を有しそのため架橋ネットワーク中に完全に一体化され得る成分の全量は、成分A、B、C、D及びFの全重量の少なくとも40、より好ましくは少なくとも50、60及び70、最も好ましくは少なくとも80重量%に相当する。しかし、成分A及びBが架橋ネットワークの大部分、好ましくは樹脂成分A、B、C、D及びFの全重量の少なくとも50、60又は70、最も好ましくは少なくとも80重量%を構成することが好ましい。
【0062】
さらに、架橋性組成物は特定の意図する用途に関連する他の成分を含有していてもよい。これらはコーティングを垂れさせずに垂直に塗布することを可能にするチキソトロピーを誘導するためのレオロジー添加剤であってもよい;コーティング組成物として使用するための架橋性組成物は、顔料、増量剤、ナノ粒子、ファイバー、安定化剤、分散剤、湿潤剤、消泡添加剤、発泡剤などのようなすべての種類のコーティング添加剤を含んでいてもよい。
【0063】
本発明による架橋性組成物は、例えば、金属又は木材コーティング、プラスチックコーティング、自動車塗装、海洋及び保護用途の分野のコーティングにおいて、着色又は透明コートのいずれかとして、コーティング組成物として使用できる。これは、インク、フィルム、接着剤、発泡体、及び複合材(複合材マトリックスとして)の分野の用途にも有用である。したがって本発明は、本発明による架橋性組成物及びさらなる塗装添加剤、好ましくはチキソトロピー制御剤を含むコーティング組成物にも関し、フィラー材料、好ましくはファイバー又は粒子、より好ましくは無機ファイバー又は粒子、及びバインダー材料としての本発明による架橋組成物を含む複合材物品にも関する。
【0064】
先の本発明のより一般的な議論を、以下の具体例によりさらに示すが、これは単に例示的なものである。
【0065】
以下の略称を実験で使用される化学薬品に使用した:DiTMPTAは、ジトリメチロールプロパンテトラアクリラート(Aldrichより入手(MW=466g/mol))であり、又はSartomer SR355(Sartomerより市販されている)として使用される;Disperbyk 163はBykより市販される分散剤である;Byk 310及び315はByKより市販される添加剤である;Kronos 2310はKronosより市販されるTiO2顔料であり、TBAHはテトラブチルアンモニウムヒドロキシドであり、TPAHはテトラプロピルアンモニウムヒドロキシドであり、DBUは1,8,−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−[7]−エンであり、CHDは1,3−シクロヘキサンジオンであり、EtAcAcはエチルアセトアセタートであり;RTは室温であり、BTはベンゾトリアゾールであり、KBZT溶液は以下に記載のようにエタノール中のカリウムベンゾトリアゾリドの溶液である。
【0066】
マロナートポリエステルAの調製
ラシヒリングを充填した蒸留塔を備えた反応器へ、17.31molのネオペンチルグリコール、8.03molのヘキサヒドロフタル酸無水物、及び0.0047molのブチルスタンノン酸を入れた。混合物を240℃にて窒素下で0.2mgKOH/gの酸価まで重合させた。混合物を130℃まで冷却し、10.44molのジエチルマロナートを加えた。反応混合物を170℃まで加熱し、エタノールを減圧下で除去した。ほぼ無色の材料を冷却し、420gの酢酸ブチルで希釈して90%の固体含量とした。最終的な樹脂の酸価は0.3mgKOH/固体1g、OH値は20mgKOH/固体1g、重量平均分子量は3400Daであった。
【0067】
塩基溶液Cの調製
表Aに従って、ある量の酸(X−H)をアルコール溶媒中の強塩基の溶液に溶解させた。(量はグラム;強塩基/酸のすべてのモル比は1に等しい)。溶液を使用前に一晩静置した。
【0069】
先の本発明のより一般的な議論を、以下の具体例によりさらに示すが、これは単に例示的なものである。
【0070】
分子量をGPCによりTHF中で測定し、ポリスチレン等価重量で表した。
【0071】
ゲル化時間の測定:塩基Cを架橋性配合物と混合した後、配合物を一定の間隔で粘度増加及び熱の発生について目視でチェックした。ゲル化時間は、40mlバイアル中の10gの架橋性配合物がバイアルを上下逆にしたときにいかなる動きも示すのを停止するのに必要な時間と定義した。
【0072】
乾燥時間の測定:19×10.5cmのホスファートで前処理した鋼製パネル上にDevilbissスプレーガン、空気圧が3.5barであるノズルFF−1.4を使用して塗料をスプレーし、67〜91μmの乾燥膜の層厚さを得た。スプレーの直後、塗料を、粘着性について調整環境条件(22℃、相対湿度60±2%)下で定期的に(典型的には2〜5分ごと)手でチェックした。手で触ったときに膜がそれ以上粘着性を示さなかった場合、より大きい力及び回転で触ることにより皮膜形成及び完全な乾燥についてフィルムをチェックした。この測定後に跡が見られなかった場合、塗料は乾燥していると定義し、乾燥時間を記録した。
【0073】
ペルソ硬度測定:23℃及び相対湿度55+/−5%の気候に合わせた室内でペルソ振り子硬度を測定した。硬度をASTM D 4366に記載されるPersozによる振り子で測定する。層厚をFischer Permascope MP40E−Sによりパネル上の異なる場所で5重に測定し平均した。
【0074】
Wavescan解析:Byk装置のWavescan IIを使用して上記のパネルを解析した。Byk社のAutochartソフトウェアを使用してデータを蓄積した。厚さ勾配と垂直の方向で解析を行った。この装置において小さいレーザーダイオードの光が試料の表面によって60°の角度で反射され、反射光が光沢角(反対側の60°)で検出される。測定の間、試料表面上でおよそ10cmのスキャン長さにわたって「wave−scan」を動かし、データ点を0.027mmごとに記録する。試料の表面構造はレーザーダイオードの光を変調する。信号を0.1〜30mmの範囲内の5つの波長範囲に分割し、数学的フィルタリングにより処理する。5つの範囲の各々について、特性値(Wa 0.1〜0.3mm、Wb 0.3〜1.0mm、Wc 1.0〜3.0mm、Wd 3.0〜10mm、We 10〜30mm)並びに長波(LW、およそ1〜10mm)及び短波(SW、およそ0.3〜1mm)の典型的なwave−scan値を計算する。低い値は滑らかな表面構造を意味する。加えて、LED光源をwave−scan DOIに取り付け、開口部を通った後に20°で表面を照らす。散乱光を検出し、いわゆるくすみ値(du、<0.1mm)を測定する。短波長範囲Wa、Wb及びduの3つの値を使用することにより、DOI値を計算する(Osterhold e.a.、Progress in Organic Coatings、2009、vol.65、no4、pp.440〜443を参照)。
【0076】
表B(量はグラム)に従って架橋性配合物を調製した。成分A、B及びDを加え、混合した。その後、塩基溶液Cを加え、再び配合物を混合した。ゲル化時間を上記のように記録し、結果は表Bに含まれる。
【0077】
表中のゲル化時間は、モノラートポリエステル及びSartomer SR355を塩基成分C(例1、3)のみと混合した場合に非常に早いゲル化が見られたことを明確に示す。反応は発熱性が高かったことも注目された。また、EtAcAcを加えた場合、官能性がやや低いにもかかわらずゲル化は非常に速かった(例2、4)。興味深いことに、過剰の成分Dを加えた場合(例5、6)、ゲル化の著しい遅れが見られた。遅れは成分Dが1,2,4−トリアゾールであった場合と比較して成分Dがベンゾトリアゾールであった場合により大きく、これはマイケルドナーとしてのベンゾトリアゾリドの反応性がより低いためであることが最も可能性がある。
【0079】
表Cにより架橋性配合物を調製し、表Bにおける配合物と同様に試験した。例7〜9の比較は、RMA反応において中性である他のカチオンとの塩を、これらの配合物のゲル化を実現するための開始剤として使用できることを示す。さらに、過剰の成分D(ベンゾトリアゾール)を加えるとより長いゲル化時間が得られた。
【0080】
窒素塩基DBU及びベンゾトリアゾールの塩では同様の知見が得られ(例10)、すなわち成分Dを含有する他の試料について見られたのと同様の時間でゲル化が起こった。興味深いことに、トリブチルアミンなどのより弱い窒素塩基を使用した場合、ゲル化は見られなかった(比較例1)。このことは、トリブチルアンモニウムカチオンの酸性度がDBU−H+と比較して高いこと、すなわち前者はマロナートの脱プロトン化を著しく阻害したが後者は阻害しなかったことによって説明できた。
【0081】
1,3−シクロヘキサンジオンの使用(例11)は特別な事例である。この化合物は2つの酸性CH結合を有するためである。モノカリウム塩としてのその形態では、1つの酸性かつ潜在的にRMA反応性のCH結合が依然として存在する。したがって、これは成分Cとして及び成分Dとしての両方で作用する。この化合物は、この架橋性組成物のゲル化を開始させるのにも使用できる。しかし、その低いpKa値及びRMA反応における潜在的な低い反応性に起因して、長いゲル化時間が見られた。
【0084】
表X(量はグラム)に一覧にした通りの組成を有する、配合物例である例12〜17を着色塗料として調製した。
【0085】
最初にKronos 2310、Disperbyk 163、及びSartomer SR355をともに粉砕して顔料ペーストとすることにより着色塗料を調製した(最初の3成分は表D)。7gのKOH及び14.86gのベンゾトリアゾール(1:1モル比)を63gのエタノール中に溶解させ、カリウムベンゾトリアゾリドの1.47meq/g溶液を得ることにより、KBZT溶液を得た。顔料ペーストへ、マロナート樹脂、さらなるSartomer SR355、EtAcAc、Byk 310/315混合物、ベンゾトリアゾール、アセチルアセトン、n−プロパノール、及び酢酸ブチルを表Dに従った量で加えた。すべての成分を混合した。その後、KBZT溶液を加え、KBZT溶液の添加後5分以内に、すぐにスプレー可能な塗料を混合し上述したようにスプレーした。
【0086】
これらの配合物について乾燥層厚さ(μm)、乾燥時間(分)、ゲル化時間(分)、室温で24時間後の硬度、短波、及び長波を、上述したように測定した。結果を表Eに含めた。
【0087】
例12、13、14の比較から、配合物中のアセチルアセトンの量を増加させると乾燥時間の増加並びにゲル化時間の増加をもたらし、硬度にはあまり影響を与えなかったことが観察できた。例14及び例15の比較は、ベンゾトリアゾールのレベルを増加させると乾燥及びゲル化時間をさらに遅らせたことを示す。しかし、例15と比較してより少量のKBZT溶液を含有する非常に類似した配合物(例16)をより薄い層厚さで塗布した場合、乾燥時間、乾燥/ゲル化時間のバランス、及び硬度に関して良好な結果が得られた。最後に、例17はスクシンイミドが乾燥時間を延長させるのに非常に有効であることを示すが、これは高い短波値をもたらした。
【0088】
例18.スクシンイミドのマイケル付加反応性の測定
5グラムのスクシンイミド(50.5ミリモル)を、42グラムのブチルアクリラート及び42グラムのメタノールの混合物中に溶解させ、そのまま又は強塩基(9.82グラムのメタノール中テトラブチルアンモニウムヒドロキシドの1.12meq/g溶液、11meq)を添加した後に、室温で維持した。その後、試料を採取し、既知の過剰の水中HClで中和し、KOH溶液で逆滴定することにより、スクシンイミドの濃度を時間の関数として測定する。塩基による開始がない場合、この溶液中のスクシンイミドN−Hの著しい減少は2週間で観察されない。塩基を加えた場合、以下の表Fに示すように、スクシンイミド濃度が時間とともに減少するのが見られる。スクシンイミド濃度は使用した量に基づいて理論レベルに対する%として表す。
【0090】
この触媒レベルでは([スクシンイミド]/[塩基]=5)、23%のスクシンイミド酸性プロトンをおよそ1時間で消費した。
【0091】
同じ方法を使用して、様々な他の成分の反応性も測定した;参照としてジメチルマロナートの反応性についてこれらの条件下で同様の設定を使用した(この場合にのみ、残りのDMMレベルをGCで測定した)。表Gは、これらの条件下で初期の毎分の%転化率の増加を示す数として表される、相対的なマイケル付加反応性の結果を示す。すべての場合で、この固有の反応性はマロナートの反応性よりも大幅に低いがやはり存在することを理解できる。
【0092】
【表G】
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
真マイケル付加(RMA)反応により架橋可能な架橋性組成物であって、
a.活性メチレン又はメチン中に少なくとも2つの酸性C−Hドナー基を有し、10.5〜14のpKa(A)を有する、1または複数の成分Aと、
b.少なくとも2つの活性不飽和アクセプター基を有する1または複数の成分Bであって、アクセプター基対ドナー基のモル比Rが3:1〜1:6であり、1または複数の成分Bは真マイケル付加(RMA)により1または複数の成分Aと反応して架橋ネットワークを形成する、1または複数の成分Bと、
c.酸性X−H基含有化合物(式中、XはN、P、O、S又はCである)に由来の塩基性アニオンX−の塩である1または複数の塩基性成分Cであって、
i.0.001〜1meq/(1グラムの成分A、B、C、D)の量xcであり、
ii.アニオンX−は、成分Bと反応可能なマイケル付加ドナーであり、
iii.アニオンX−が、主要な成分AのpKa(A)よりも2単位を超えて下回り10.5未満である、対応する酸X−HのpKa(C)によって特徴付けられる、1または複数の塩基性成分Cと、
d.1以上の酸性X’−H基(式中、X’はN、P、O、S又はCである)を含む1または複数の任意の成分Dであって、
i.X’は、成分C中の基Xと同じ又は異なる基であり、
ii.X’−アニオンは、成分Bと反応可能なマイケル付加ドナーであり、
iii.成分D中の前記X’−H基のpKa(D)が、前記主要な成分AのpKa(A)よりも2単位を超えて下回り10.5未満であり、
iv.成分C中の塩基性アニオンX−に対する成分D中の酸性X’−H基の当量比Rd/cが、1〜5000%である、
1または複数の任意の成分Dと
を含み、
e.ネオペンチルグリコール及びヘキサヒドロフタル酸無水物に基づくエチルマロナート変性ポリエステル、ジトリメチロールプロパンテトラアクリラート及びテトラブチルアンモニウムスクシンイミド、並びにエチルアセトアセタートを含む組成物を含まない、架橋性組成物。
[2]
a.1以上の酸性X’−H基(式中、X’はN、P、O、S又はCである)を含む1または複数の成分Dであって、
i.X’は、成分C中の基Xと同じ又は異なる基であり、
ii.前記X’−アニオンは、成分Bと反応可能なマイケル付加ドナーであり、
iii.成分D中の前記X’−H基の前記pKa(D)は、前記主要な成分Aの前記pKa(A)よりも2単位を超えて下回り10.5未満であり、
iv.成分C中の塩基性アニオンX−に対する成分D中の酸性X’−H基の前記当量比Rd/cは、1〜5000%である、
1または複数の成分D
を含む、[1]に記載の架橋性組成物。
[3]
pKa(D)が、pKa(C)と等しい又はpKa(C)より高い、[2]に記載の架橋性組成物。
[4]
酸性X”−H基(式中、X’はN、P、O、S又はCである)を含む1または複数の成分Fであって、
i.成分A及びDとは異なり、
ii.成分Bと反応可能なマイケル付加ドナーである、
1または複数の成分Fをさらに含む、[1]〜[3]のいずれか1に記載の架橋性組成物。
[5]
前記組成物は、前記RMA架橋反応を開始する又は触媒することができる、C以外の他の塩基性化合物を、塩基性成分Cに対して50モル%未満、好ましくは実質的に0モル%含む、[1]〜[4]のいずれか1に記載の架橋性組成物。
[6]
a.5〜95重量%の量xaである、1または複数の成分Aと、
b.5〜95重量%の量xbである、1または複数の成分Bと(ここで、xaプラスxbは少なくとも40重量%である)、
c.0.001〜1meq/(1グラムの全樹脂)の量xcである、1または複数の塩基性成分Cと、
d.成分C中の塩基性アニオンX−に対する成分D中の酸性X’−H基の当量比Rd/cが0%〜5000%であるような量xdである、1または複数の成分Dと、
e.0〜30重量%の量xfである、1または複数の成分Fと
を含み、ここで、重量%は全樹脂形成成分A、B、C、D及びFに対するものであり、
f.任意に、全樹脂プラス溶媒の全重量に対して0.1〜80重量%の量である溶媒とを含む、[1]〜[5]のいずれか1に記載の架橋性組成物。
[7]
1または複数の成分Aの前記RMAドナー基の大部分、好ましくは少なくとも50モル%が、マロナート又はアセトアセタート基、より好ましくはマロナート基に由来する、[1]〜[6]のいずれか1に記載の架橋性組成物。
[8]
前記RMAアクセプター成分Bは、アクリロイル若しくはマロナート基又はそれらの混合物、好ましくはアクリロイル基である、[1]〜[7]のいずれか1に記載の架橋性組成物。
[9]
成分C及びDのアニオンX−及びX’−は、前記主要な成分Aのアニオンよりも少なくとも3倍低いが10,000倍を超えない低さの、成分Bに対するマイケル付加反応性を有する、[1]〜[8]のいずれか1に記載の架橋性組成物。
[10]
a.成分A中の50モル%を超えるRMAドナー基が、マロナート基に由来し、
b.成分B中の50モル%を超える前記RMAアクセプター基が、アクリロイル基に由来し、
c.成分Cが、ベンゾトリアゾリド塩、1,2,4−トリアゾールの塩、又は1,3−シクロヘキサンジオンの塩であり、
d.成分Dが、ベンゾトリアゾール若しくはトリアゾール、1,3−ジケトン、又はイミドである、
[1]〜[9]のいずれか1に記載の架橋性組成物。
[11]
溶媒の量が55重量%以下であり、好ましくは前記溶媒が、1重量%(全重量に対して)超の、140℃未満の沸点を有する第1級アルコールを含有する、[1]〜[10]のいずれか1に記載の架橋性組成物。
[12]
成分Cの前記アニオンX−、及び/又は成分Dの前記X’基が、基Ar−NH−(C=O)、−(C=O)−NH−(C=O)−若しくは−NH−(O=S=O)−の一部として又はN−H基の窒素がヘテロ環中に含有されるヘテロ環の一部として、N−Hを含有する分子を好ましくは含むアザ酸性化合物(X=N)であり、好ましくは環状イミド、好ましくは、任意に置換されたスクシンイミド又はトリアゾール成分、好ましくはベンゾトリアゾール又は1,2,4−トリアゾールである、[1]〜[11]のいずれか1に記載の架橋性組成物。
[13]
成分Cの前記アニオンX−、及び/又は成分Dの前記X’基が、−CO2Rエステル基、C(=O)Rケトン基、シアノ基及びニトロ基から選択される2つ若しくは3つの置換基により活性化されるメチン若しくはメチレン、又は1つのニトロ基により活性化されるメチル、メチレン若しくはメチン基を含有する分子を好ましくは含む、炭素−酸性化合物(X=C)であり、好ましくは1,3−ジケトン、好ましくはアセチルアセトン若しくは1,3−シクロヘキサンジオン、又はそれらの置換型である、[1]〜[11]のいずれか1に記載の架橋性組成物。
[14]
成分Cの前記アニオンX−、及び/又は成分Dの前記X’基が、芳香族スルホンアミド、好ましくはベンゼンスルホンアミド又はトルエンスルホンアミドに由来する、[1]〜[11]のいずれか1に記載の架橋性組成物。
[15]
成分Cがトリアゾールであり、成分Dがイミド又は1,3ジケトンである、[1]〜[14]のいずれか1に記載の架橋性組成物。
[16]
[1]〜[15]のいずれか1に記載の組成物を製造するためのパーツのキットであって、1)成分Cと好ましくは成分Dの少なくとも一部も含むパーツI.1と、成分Cを含まず成分A、B並びに任意にD及びFを含むパーツII.1とを含むパーツのキット、あるいは2)成分C、成分A、任意の溶媒、及び任意に成分Dの少なくとも一部を含むが、成分Bを含まないパーツI.2と、成分B並びに任意の他の成分D及びFを含むパーツII.2とを含むパーツのキット、あるいは3)成分A、B、任意にD及びF、並びに成分Cの代わりに、対応する酸性化合物X−Hを含むパーツI.3とパーツI.3と混合するための強塩基を含むパーツII.3とを含むパーツのキット。
[17]
[16]に記載のパーツのキットを準備し、パーツI.1をパーツII.1と混合する、あるいはパーツI.2をパーツII.2と混合する、あるいはパーツI.3をII.3と混合することを含む、[1]〜[15]のいずれか1に記載の架橋性組成物を調製する方法。
[18]
コーティング、インク、フィルム、接着剤、発泡体、又は複合材マトリックス組成物の調製における、[1]〜[15]のいずれか1に記載の架橋性組成物の使用。
[19]
[1]〜[15]に記載の架橋性組成物、及びさらなる塗料添加剤、好ましくはチキソトロピー制御剤を含む、コーティング組成物。
[20]
フィラー材料、好ましくはファイバー又は粒子、より好ましくは無機ファイバー又は粒子、及びバインダー材料としての[1]〜[15]に記載の架橋組成物を含む、複合材物品。