特許第6373983号(P6373983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6373983
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】咬合採得用具
(51)【国際特許分類】
   A61C 19/05 20060101AFI20180806BHJP
【FI】
   A61C19/05 120
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-523548(P2016-523548)
(86)(22)【出願日】2015年5月28日
(86)【国際出願番号】JP2015065340
(87)【国際公開番号】WO2015182684
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2016年7月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-111662(P2014-111662)
(32)【優先日】2014年5月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000181217
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(72)【発明者】
【氏名】蒲原 敬
【審査官】 胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/135927(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0280672(US,A1)
【文献】 特開2006−305125(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/043056(WO,A2)
【文献】 米国特許第02418648(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0055634(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の口唇と顎堤の間に配置されるべき湾曲した板状の後方側曲面板と、
前記後方側曲面板に対して一方の板面を対向するように間隙を有して配置され、口唇に接して前方に配置されるべき板状の前方側曲面板と、を有し、
前記前方側曲面板と前記後方側曲面板との前記間隙は、前記患者に装着された姿勢で、前記前方側曲面板が前記患者の口唇に接する距離であり、
前記前方側曲面板の板面のうち、他方の板面には突出して所定の方向に延びる突条が設けられている、咬合採得用具。
【請求項2】
前記後方側曲面板は、湾曲した方向における両端で板幅が狭くなるように構成されている、請求項1に記載の咬合採得用具。
【請求項3】
前記後方側曲面板は、湾曲した方向における中央で板幅が狭くなるように窪みを有している、請求項1又は2に記載の咬合採得用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科治療の際に咬合位置を正確に且つ簡便に採得する咬合採得用具に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、特に無歯顎患者に対して総義歯等を作製する場合、通常は初めに上下の顎堤についてそれぞれ印象を採得し、この印象から口腔内の石膏模型を作製する。そして石膏模型を用いてベースプレートと蝋堤により咬合床を作製し、これを用いて患者の咬合状態に合わせる調整を行う。このとき咬合採得により採得した、患者の咬合状態を転写した印象を参照しつつ調整が行われる。その後人工歯を排列するなどの通常の手順により総義歯等の歯科補綴物を作製する。これにより患者の噛み合わせも再現し、より快適に装着及び使用することができる歯科補綴物が作製される。
【0003】
ここで行われる咬合採得には、熟練と経験が必要であり、術者による差異が大きく、正確な咬合採得が行えずに結果として患者に合わないものを提供することになったり、再度咬合採得からやり直して新たな総義歯等を作製することになったりするなどの問題があった。
【0004】
特許文献1には、より正確な咬合採得を行うために、前歯の標準的な形状を有する複数のダミー歯が一体化された治具が開示されている。これによれば咬合採得の際に咬合床に当該治具を取り付けることで、正中や咬合平面等を正確に決めることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−8487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、咬合位置を決める際には患者ごとの個別状態に基づく必要があり、特許文献1に記載のような治具を用いても標準的なものをベースとしているため必ずしもその患者に対応しているとは限らなかった。特に、咬合採得の際には器具が意図しない傾斜をしてずれを生じることがあり、患者の鼻、目、耳の位置と対比して個別に調整をする必要がある。これに対して特許文献1をはじめとする従来の器具には患者ごとに傾きを調整するための手段を備えておらず、施術者が他の道具を使うなどして独自の方法で調整をするしかなかった。
【0007】
そこで本発明は、咬合採得の際に器具の傾きを適切に調整し、正確な咬合採得が可能となる咬合採得用具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明について説明する。ここでは分かり易さのため、図面に付した参照符号を括弧書きで併せて記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0009】
本発明は、患者の口唇と顎堤の間に配置されるべき湾曲した板状の後方側曲面板(21)と、後方側曲面板に対して一方の板面を対向するように所定の間隙を有して配置され、口唇に接して前方に配置されるべき板状の前方側曲面板(25)と、を有し、前方側曲面板の板面のうち、他方の板面には突出して所定の方向に延びる突条(26、27)が設けられている、咬合採得用具である。
【0010】
本発明では、突条(26、27)は、互いに直交する方向に少なくとも2つ設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の咬合採得用具によれば、咬合採得の際に突条を用いて、この突条を患者の鼻、目、耳等と対比して位置関係等から水平、垂直等を確認することができる。これにより咬合採得時における意図しない傾きによる不具合を防止し正確な咬合採得をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1(a)は咬合採得用具10の斜視図、図1(b)は他の方向からみた咬合採得用具10の斜視図である。
図2図2(a)は図1(a)と同じ視点からみた咬合採得用具10の分解斜視図、図2(b)は図1(b)と同じ視点からみた咬合採得用具10の分解斜視図である。
図3】咬合採得用具10の平面図である。
図4】咬合採得用具10の分解平面図である。
図5】咬合採得用具10の正面図である。
図6】咬合採得用具10の断面図である。
図7】咬合採得用具10の他の姿勢における平面図である。
図8】咬合採得用具10を用いて咬合採得をする場面を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図面に示す形態に基づき説明する。ただし本発明はこれら形態に限定されるものではない。
【0014】
図1は1つの形態にかかる咬合採得用具10の外観斜視図である。図1(a)は、1つの視点から見た斜視図であり、図1(b)は他の視点から見た斜視図である。図2は咬合採得用具10の分解斜視図であり、図2(a)は図1(a)と同じ視点、図2(b)は図1(b)と同じ視点による図である。図3は咬合採得用具10の平面図、図4図3と同じ視点による分解平面図である。図5図3に矢印Vで示した方向から見た図であり咬合採得用具10の正面図である。そして図6図3に矢印VI−VIで示した矢視断面図である。
これら図からわかるように咬合採得用具10は、本体20及び調整用軸40を有して構成されている。
【0015】
本体20は、咬合採得用具10を口腔の適切な位置に保持するように形成された部材であり、後方側曲面板21、前方側曲面板25、及び連結部30を有して構成されている。また、本体20には、後方側曲面板21、前方側曲面板25及び連結部30を1つの直線状の軸で貫通する貫通孔35が形成されている。
【0016】
後方側曲面板21は口腔内の上下顎堤と頬(口唇)との間に配置される板状の部材であり、この部位の口腔内形状に対応して一方の板面が凹状、他方の板面が凸状となるように弓状に湾曲した形状とされている。後方側曲面板21は口腔内に配置されるため、湾曲方向の端部に向けて板幅が狭くなることが好ましく、これに加えて湾曲方向中央部分で板幅が狭くなるように窪んで形成されていることがさらに好ましい。また、後方側曲面板21は上下顎堤と頬(口唇)との間に配置されるため、薄く形成されていることが好ましく板厚は1mm以上2mm以下であることが好ましい。これらにより後方側曲面板21を口腔内に配置する際に抵抗を減じることができる。
また、後方側曲面板21にはその表裏の板面のそれぞれに、湾曲の方向に沿って延びる突起である突条22(凹状面側)、及び突条23(凸状面側)が設けられている。この突条22、23は湾曲方向に平行に延びることが好ましい。さらに後方側曲面板21の湾曲方向に直交する方向(図5の紙面上下方向)における突条22、23の位置は特に限定されることはないが、平面視(図5の視点)で貫通孔35の軸線と同じ位置であることが好ましい。
突条22、23の長さ、幅、及び突出高さは特に限定されることはないが、長さは後方側曲面板21の湾曲方向両端部にまで達し、幅及び突出高さは1mm程度でよい。
なお、突条22、23は必ずしも設けられている必要はない。
【0017】
前方側曲面板25は後方側曲面板21に対して所定の間隙を有して配置される板状の部材であり、本形態では一方の板面が凹状、他方の板面が凸状となるように弓状に湾曲した形状とされている。ここで前方側曲面板25はその凹状側の面が後方側曲面板21の凸状側の面に対向するように配置される。また、前方側曲面板25と後方側曲面板21との間に、上下の口唇が配置されることになるので、両者間の間隙は一般的な口唇の厚さより大きくなるように形成されている。また特に限定されることはないが、本形態では前方側曲面板25は正面視(図5の視点)で楕円状である。これにより咬合採得用具10を口腔に配置する際に抵抗を減じやすくなる。
また、前方側曲面板25には少なくとも凸状となる側の面(後方側曲面板21に対向する側とは反対側の面)に湾曲の方向に沿って延びる突起である突条26が設けられている。この突条26は湾曲方向に平行に延びることが好ましい。これにより後述するように咬合採得時において咬合採得用具10の傾きを調整する指標とすることができる。また、突条26は前方側曲面板25を補強するリブとしても機能し、前方側曲面板25が撓むことを抑制する。
前方側曲面板25の湾曲方向に直交する方向(図5の紙面上下方向)における突条26の位置は特に限定されることはないが、平面視(図5の視点)で貫通孔35の軸線と同じ位置であることが好ましい。この場合には平面視(図5の視点)で後方側曲面板21の突条23と一直線になる。
【0018】
さらに、前方側曲面板25には少なくとも凸状となる側の面(後方側曲面板21に対向する側とは反対側の面)に湾曲の方向に直交する方向沿って延びる突起である突条27が設けられている。この突条27は湾曲方向に直交し、平面視(図5の視点)で突条26に対して直交する方向に延びることが好ましい。前方側曲面板25の湾曲方向(図5の紙面左右方向)における突条27の位置は特に限定されることはないが、平面視(図5の視点)で貫通孔35の軸線と同じ位置であることが好ましい。突条27を用いて咬合採得時に正中線を合わせることができる。
突条26、27の長さ、幅、及び突出高さは特に限定されることはないが、長さは前方側曲面板25の端部にまで達し、幅及び突出高さは1mm程度でよい。
【0019】
連結部30は前方側曲面板25と後方側曲面板21とを上記した位置関係を保持するように連結する部材であり、前方側曲面板25と後方側曲面板21とを湾曲方向に直交する方向(図5の視点で上下方向)の中央部分で連結している。これにより咬合採得用具10の使用時に前方側曲面板25と後方側曲面板21との間に口唇を配置する間隙が形成される。
【0020】
貫通孔35は、前方側曲面板25、連結部30、及び後方側曲面板21を1つの直線状の軸線に沿って貫通する孔であり、調整用軸40の軸部41が貫通できる大きさ及び形状の断面を有している。また、貫通孔35は前方側曲面板25、後方側曲面板21の湾曲の凹状側の底部(凸状側の頂部)に設けられていることが好ましい。
【0021】
本体20は柔らかい上下口唇で挟持されるので、柔らかさと強さとを兼ね備えた樹脂等の材料により形成されることが好ましい。また口腔内に配置されることから、人体に無害なものであることが必要であり、再利用可能であるようにオートクレーブ処理をしても破損や変形し難いものであることが好ましい。
【0022】
調整用軸40は、ここに含まれる舌保持部42の位置を移動させる部材であり、軸部41及び舌保持部42を有して構成されている。
【0023】
軸部41は舌保持部42を移動可能に本体20に保持する棒状の部材であり、上記した貫通孔35を貫通する断面の大きさ及び形状を有している。具体的な断面形状は特に限定されることはないが、本形態では断面形状がU字状であり、1つの面同士が対向して平行に延びた2つの板が他の板により一端部同士で連結された形状である。
軸部41の長さは貫通孔35を貫通して、その一端が後方側曲面板21から突出するとともに、他端が前方側曲面板25から突出するように形成されている。
【0024】
舌保持部42は軸部41の端部のうち、後方側曲面板21側の端部に配置された容器状(碗状)の部材であり、舌保持部42の突側の頂部が軸部41の端部に配置されている。
【0025】
一方、軸部41の端部のうち舌保持部42が配置された側とは反対側で、前方側曲面板25側から突出した端部には軸部41が貫通孔35から抜けないように不図示の抜け止めが形成されてもよい。抜け止めの具体的態様は特に限定されることはないが、例えば当該端部の一部を太く形成したり、突起を設けたり、環状のゴムを配置したりすることが挙げられる。
また、軸部41の端部のうち舌保持部42が配置された側とは反対側で、前方側曲面板25側から突出した端部には、平面視(図5の視点)において前方側曲面板25の突条26と同じ位置に切り欠き41aが設けられてもよい。これにより突条26により傾きを調整する際に軸部41があっても切り欠き41aを通して突条26が見易くなる。
【0026】
調整用軸40を構成する材料は上記した本体20と同様のものを用いることができる。
【0027】
以上のような咬合採得用具10では、図7に示したように、調整用軸40の軸部41を貫通孔35内で軸線方向に移動させることで、舌保持部42を移動させ、後方側曲面板21との相対的な位置を変化させることができる。
【0028】
咬合採得用具10は例えば次のように使用することができる。咬合採得用具10を使用して無歯顎患者の総義歯を作製する際には、図8に示したように、後方側曲面板21と舌保持部42との間に印象材1を盛り、患者の口腔内に挿入する。その際には後方側曲面板21の突条22や、軸部41の上記した断面(U字状断面)の形状により印象材1の保持がより強固に行われる。
【0029】
そして、本体20の後方側曲面板21と前方側曲面板25との間の連結部30を上下の口唇で挟むように患者に口を閉じてもらい、印象材1を上下の顎堤に間に充填させる。このとき後方側曲面板21は口唇と顎堤との間に挟まれるように配置され、前方側曲面板25は口唇に接して顔の前方に露出して配置される。このように上下の口唇位置を固定した状態で咬合採得することで、上下顎の位置が不自然になることがなくゆっくりと口を閉じるだけで簡便に咬合採得ができる。
【0030】
このとき、咬合採得用具10には、口腔の外に配置される前方側曲面板25の突条26、27を用いて、この突条26、27を患者の鼻、目、耳等と対比して位置関係等から水平、及び垂直を確認し、調整をすることができる。これにより咬合採得時における意図しない傾きによる不具合を防止することが可能である。また、突条27による正中線の合わせ込みを行うこともできる。
【0031】
ここで咬合採得時には患者は舌の先端を舌保持部42の容器状の内側に配置する。このとき舌保持部42は移動することができるので、患者はより自然な位置に舌を置くことができ、咬合状態もより自然な状態となる。従ってより正確な咬合採得ができる。
【0032】
一方、当該咬合採得とは別に予め通常の方法に従って口腔内の印象模型、及びこれに配置された咬合床が作製されており、咬合器に設置されている。そして、上記咬合採得により得られた印象に基づいて、人工歯の大きさや位置を決めて排列し義歯の作製が行われる。
【0033】
なお、印象模型や咬合器を使用しない方法としては、先に得られた口腔内の上下顎堤の印象や咬合採得した印象を3次元形状測定で電子データ化し、計算機上で人工歯の大きさや位置を決定し、その後NC工作機械等により義歯を作製してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 印象材
10 咬合採得用具
20 本体
21 後方側曲面板
22 突条
23 突条
25 前方側曲面板
26 突条
27 突条
30 連結部
35 貫通孔
40 調整用軸
41 軸部
42 舌保持部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8