(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
仕込み工程の前に、有機アミド溶媒、硫黄源、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、該混合物を含有する系内から水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する脱水工程を配置する請求項1または2記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
仕込み工程において、硫黄源1モル当り0.95〜1.09モルのアルカリ金属水酸化物を含有する仕込み混合物を調製する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
仕込み工程において、硫黄源1モル当り0.5〜2モルの水を含有する仕込み混合物を調製する請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
仕込み工程において、硫黄源1モル当り0.95〜1.2モルのジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製する請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
後段重合工程において、硫黄源1モル当りのアルカリ金属水酸化物の合計量が1.01〜1.1モルとなるように、アルカリ金属水酸化物を添加する請求項1乃至6のいずれか1項に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.硫黄源
本発明では、硫黄源として、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物の一方または両方を含有するものを使用することが好ましい。硫黄源としては、硫化水素も使用することができる。すなわち、アルカリ金属水酸化物(例えば、NaOH)に硫化水素を吹き込むことにより、アルカリ金属水硫化物(例えば、NaSH)やアルカリ金属硫化物(例えば、Na
2S)を生成させることができる。硫黄源としては、アルカリ金属水硫化物または該アルカリ金属水硫化物を主成分として含有する硫黄源がより好ましい。
【0013】
アルカリ金属水硫化物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム、またはこれらの2種以上の混合物を挙げることができるが、これらに限定されない。アルカリ金属水硫化物は、無水物、水和物、水溶液のいずれを用いてもよい。これらの中でも、工業的に安価に入手できる点で、水硫化ナトリウム及び水硫化リチウムが好ましい。本発明で使用するアルカリ金属水硫化物の中には、少量のアルカリ金属硫化物が含有されていてもよい。
【0014】
アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム、またはこれらの2種以上の混合物を挙げることができるが、これらに限定されない。アルカリ金属硫化物は、無水物、水和物、水溶液のいずれを用いてもよい。これらの中でも、工業的に安価に入手可能であって、かつ取り扱いが容易であることなどの観点から、硫化ナトリウムが好ましい。これらのアルカリ金属硫化物は、アルカリ金属水硫化物中に副生物として含有されているもののほか、一般に、水和物として市販されているものも使用することができる。アルカリ金属硫化物の水和物としては、例えば、硫化ナトリウム9水塩、硫化ナトリウム5水塩などが挙げられる。
【0015】
アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との総モル量が、PASの製造に直接関与する硫黄源(「仕込み硫黄源」または「有効硫黄源」ということがある。)のモル量となる。また、この総モル量は、仕込み工程に先立って脱水工程を配置する場合には、脱水工程後の硫黄源のモル量になる。
【0016】
2.アルカリ金属水酸化物
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、またはこれらの2種以上の混合物が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、工業的に安価に入手可能なことから、水酸化ナトリウム(NaOH)が好ましい。
【0017】
3.ジハロ芳香族化合物
本発明で使用されるジハロ芳香族化合物は、芳香環に直接結合した2個のハロゲン原子を有するジハロゲン化芳香族化合物である。ジハロ芳香族化合物の具体例としては、例えば、o−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、p−ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ−ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、ジハロジフェニルケトン等が挙げられる。
【0018】
ここで、ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の各原子を指し、ジハロ芳香族化合物における2個のハロゲン原子は、同じでも異なっていてもよい。ジハロ芳香族化合物は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましいジハロ芳香族化合物は、ハロゲン原子が塩素原子であるp−ジハロベンゼン、すなわちp−ジクロロベンゼン(pDCB)である。
【0019】
4.分子量調節剤、分岐・架橋剤
生成されるPASに特定構造の末端を形成したり、または重合反応や分子量を調節したりするために、モノハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくてもよい)を併用することができる。また、分岐または架橋重合体を生成させるために、3個以上のハロゲン原子が結合したポリハロ化合物(必ずしも芳香族化合物でなくてもよい)、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物、ハロゲン化芳香族ニトロ化合物等を併用することもできる。分岐・架橋剤としてのポリハロ化合物として、好ましくはトリハロベンゼンが挙げられる。
【0020】
5.有機アミド溶媒
本発明では、脱水反応及び重合反応の溶媒として、非プロトン性極性有機溶媒である有機アミド溶媒を用いる。有機アミド溶媒は、高温でアルカリに対して安定なものが好ましい。有機アミド溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N−メチル−ε−カプロラクタム等のN−アルキルカプロラクタム化合物;N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン等のN−アルキルピロリドン化合物またはN−シクロアルキルピロリドン化合物;1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン等のN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。有機アミド溶媒は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
これらの有機アミド溶媒の中でも、N−アルキルピロリドン化合物、N−シクロアルキルピロリドン化合物、N−アルキルカプロラクタム化合物、及びN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物が好ましく、特に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−メチル−ε−カプロラクタム、及び1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンが好ましく用いられる。
【0022】
6.重合助剤
本発明では、重合反応を促進させ、高重合度のPASを短時間で得るなどの目的のために、必要に応じて各種重合助剤を用いることができる。重合助剤としては、一般にPASの重合助剤として公知の有機スルホン酸金属塩、ハロゲン化リチウム、有機カルボン酸金属塩、リン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。重合助剤の使用量は、用いる化合物の種類により異なるが、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たり、一般に0.01〜10モルとなる範囲である。
【0023】
7.相分離剤
本発明では特に、PASの重合工程において、重合反応を促進させて、高重合度のPASを短時間で得る観点から、反応混合物中に相分離剤を含有させる。すなわち、本発明のPASの製造方法は、相分離剤の存在下で行うPASの製造方法である。相分離剤は、重合反応がある程度進行した反応混合物(液相)をポリマー濃厚相(溶融PAS相)とポリマー希薄相(有機アミド溶媒相)の2相に液−液相分離させるために用いられる。相分離剤としては、一般にPASの相分離剤として公知のものを使用することができ、例えば、有機カルボン酸金属塩、有機スルホン酸金属塩、アルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、芳香族カルボン酸のアルカリ土類金属塩、リン酸アルカリ金属塩、アルコール類、パラフィン系炭化水素類、及び水からなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。相分離剤は、単独で使用するだけでなく、2種以上を組み合わせて使用することもできる。相分離剤の中でも、水、または、酢酸ナトリウム、酢酸リチウム、プロピオン酸リチウム、安息香酸リチウム等の有機カルボン酸金属塩、或いは、これらの組合せが好ましく、コストが低く後処理が容易な水がより好ましい。相分離剤の使用量は、用いる化合物の種類によって異なるが、有機アミド溶媒1kgに対し、通常0.01〜20モル、好ましくは0.1〜15モルの範囲内である。
【0024】
相分離剤は、重合反応の初期から反応混合物中に存在させることができるが、重合反応の途中で添加してもよい。また、一般的には、相分離剤は、重合反応終了後の反応混合物に添加して、液−液相分離状態を形成してから、冷却することも行われており、適切な冷却により粒子状のPASを得ることができる。本発明においては、後段重合工程において、反応系内がポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに相分離した状態で重合反応を継続する。
【0025】
8.脱水工程
本発明のPASの製造方法においては、仕込み工程において、有機アミド溶媒、硫黄源、アルカリ金属水酸化物、水、及びジハロ芳香族化合物を含有し、pHが12.5以上の仕込み混合物を調製する。仕込み工程に先だって、有機アミド溶媒、硫黄源、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、該混合物を含有する系内から水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する脱水工程を配置することが好ましい。
【0026】
すなわち、硫黄源は、水和水(結晶水)などの水分を含んでいることが多い。硫黄源及びアルカリ金属水酸化物を水性混合物として使用する場合には、媒体として水を含有している。硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応は、重合反応系に存在する水分量によって影響を受ける。そこで、一般に、重合工程前に脱水工程を配置して、重合反応系内の水分量を調節することが好ましい。
【0027】
脱水工程では、望ましくは不活性ガス雰囲気下で、有機アミド溶媒、硫黄源(好ましくはアルカリ金属水硫化物を含む硫黄源)、及び全仕込み量の一部のアルカリ金属水酸化物を含む混合物を加熱し、該混合物を含有する系内から水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する。脱水工程は、反応槽内で行われ、留出物の系外への排出は、一般に反応槽外への排出により行われる。脱水工程で脱水されるべき水分とは、脱水工程で仕込んだ各原料が含有する水和水、水性混合物の水媒体、各原料間の反応により副生する水などである。
【0028】
各原料の反応槽内への仕込みは、一般に、約20℃から約300℃、好ましくは約20℃から約200℃の範囲内で行われる。各原料の投入順序は、順不同でよく、また、脱水操作途中で各原料を追加投入してもよい。脱水工程では、媒体として有機アミド溶媒を用いる。脱水工程で使用する有機アミド溶媒は、重合工程で使用する有機アミド溶媒と同一のものであることが好ましく、工業的に入手が容易であることからN−メチル−2−ピロリドン(NMP)がより好ましい。有機アミド溶媒の使用量は、反応槽内に投入する硫黄源1モル当たり、通常0.1〜10kg程度である。
【0029】
脱水操作は、反応槽内へ原料を投入した後、前記各成分を含有する混合物を、通常300℃以下、好ましくは100〜250℃の温度範囲内で、通常15分間から24時間、好ましくは30分間〜10時間、加熱することにより行われる。
【0030】
脱水工程では、加熱により水及び有機アミド溶媒が蒸気となって留出する。したがって、留出物には、水と有機アミド溶媒とが含まれる。留出物の一部は、有機アミド溶媒の系外への排出を抑制するために、系内に環流してもよいが、水分量を調節するために、水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する。
【0031】
脱水工程では、硫黄源に起因する硫化水素が揮散する。すなわち、脱水工程において、前記混合物を加熱するとき、加熱によって硫黄源と水とが反応して、硫化水素とアルカリ金属水酸化物とが生成し、気体の硫化水素が揮散する。例えば、アルカリ金属水硫化物1モルと水1モルとが反応すると、硫化水素1モルとアルカリ金属水酸化物1モルとが生成する。水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出するのに伴い、揮散した硫化水素も系外に排出される。
【0032】
脱水工程で系外に揮散する硫化水素によって、脱水工程後に系内に残存する混合物中の硫黄源の量は、投入した硫黄源の量よりも減少することとなる。アルカリ金属水硫化物を主成分とする硫黄源を使用すると、脱水工程後に系内に残存する混合物中の硫黄源の量は、投入した硫黄源のモル量から系外に揮散した硫化水素のモル量を差し引いた値と実質的に等しくなる。脱水工程後に系内に残存する混合物中の硫黄源を「有効硫黄源」と呼ぶことができる。この有効硫黄源は、仕込み工程とその後の重合工程における「仕込み硫黄源」に該当する。したがって、本発明において、「仕込み硫黄源」とは、脱水工程後に混合物中に存在している有効硫黄源を意味する。
【0033】
脱水工程後の有効硫黄源は、アルカリ金属水硫化物、アルカリ金属硫化物等を含有する混合物であり、その具体的な形態については、特に限定されない。従来、有機アミド溶媒中でアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物とを加熱すると、in situで反応してアルカリ金属硫化物が生成することが知られており、脱水工程においてアルカリ金属水酸化物を添加すると、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応によりアルカリ金属硫化物が生成していると推察される。
【0034】
先に説明したように、脱水工程で最初に投入した硫黄源の量は、硫化水素の系外への揮散によって、脱水工程後に減少するから、系外に揮散した硫化水素の量に基づいて、脱水工程後に系内に残存する混合物中に含まれる硫黄源(有効硫黄源)の量を定量することが必要である。
【0035】
脱水工程では、水和水や水媒体、副生水などの水分を必要量の範囲内になるまで脱水する。脱水工程では、有効硫黄源1モル当たり、好ましくは0〜2モル、より好ましくは0.5〜2モルになるまで脱水することが望ましい。脱水工程で水分量が少なくなり過ぎた場合は、重合工程に先立つ仕込み工程において水を添加して所望の水分量に調節することができる。
【0036】
アルカリ金属硫化物は、水との平衡反応によりアルカリ金属水酸化物を生成する。アルカリ金属水硫化物を主成分とする硫黄源を用いるPASの製造方法では、少量成分であるアルカリ金属硫化物の量を考慮して、有効硫黄源1モルに対するアルカリ金属水酸化物の仕込み量のモル比を算出する。また、アルカリ金属硫化物の場合、脱水工程で硫化水素が系外に揮散すると、揮散した硫化水素の2倍モルのアルカリ金属水酸化物が生成するので、脱水工程で系外に揮散した硫化水素の量も考慮して、有効硫黄源1モルに対するアルカリ金属水酸化物の仕込み量のモル比を算出する。
【0037】
脱水工程においては、有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物を含む硫黄源、及び硫黄源1モル当たり通常0.7〜1.05モル、多くの場合0.75〜1モルのアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、該混合物を含有する系内から水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出することが好ましい。
【0038】
硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比が小さすぎると、脱水工程で揮散する硫化水素の量が多くなり、仕込み硫黄源量の低下による生産性の低下を招いたり、脱水後に残存する仕込み硫黄源に過硫化成分が増加したりすることによる異常反応、生成されるPASの品質低下が起こりやすくなる。硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比が大きすぎると、有機アミド溶媒の変質が増大することがある。
【0039】
脱水工程を行う装置は、後続する重合工程に用いられる反応槽(反応缶)と同じであっても、異なる装置でもよい。また、装置の材質は、チタンのような耐食性材料が好ましい。脱水工程では、通常、有機アミド溶媒の一部が水と同伴して反応槽外に排出される。その際、硫化水素は、ガスとして系外に排出される。
【0040】
9.仕込み工程
仕込み工程では、有機アミド溶媒、硫黄源、アルカリ金属水酸化物、水、及びジハロ芳香族化合物を含有し、pHが12.5以上の仕込み混合物を調製する。一般に、仕込み工程の前に脱水工程を配置することが多いため、仕込み工程での各成分量の調整及びpHの制御は、脱水工程で得られた混合物中の各成分の量を考慮して行う。
【0041】
本発明では、仕込み工程において、有機アミド溶媒、硫黄源、硫黄源1モル当り0.95〜1.09モルのアルカリ金属水酸化物、硫黄源1モル当り0.5〜2モルの水、及び/または硫黄源1モル当り0.95〜1.2モルのジハロ芳香族化合物を含有し、pHが12.5以上の仕込み混合物を調製することが好ましい。
【0042】
仕込み工程において、硫黄源1モル当り、通常0.85〜1.2モル、好ましくは0.9〜1.1モル、より好ましくは0.91〜1モル、更に好ましくは0.95〜1.09モルのアルカリ金属水酸化物を含有する仕込み混合物を調製する。硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比が大きすぎると、有機アミド溶媒の変質を増大させたり、重合時の異常反応や分解反応を引き起こしたりすることがある。また、生成PASの収率の低下や品質の低下を引き起こすことが多くなる。硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比を上記範囲内とすることにより、pHを12.5以上に容易に調整することができ、それによって、重合反応を安定的に実施し、高品質のPASを得ることが容易になる。
【0043】
仕込み混合物のpHは、12.5以上、好ましくは12.5〜13.5、より好ましくは12.6〜13.3となるように、アルカリ金属水酸化物など各成分の割合を調節する。本発明では、前段重合工程において、仕込み混合物を加熱して硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応を開始させるが、この前段重合開始時における仕込み混合物のpHが12.5未満であると、前段重合の途中でアルカリ金属水酸化物を追加しても、高重合度のPASを得ることが困難になる。仕込み混合物のpHが高すぎると、アルカリ金属水酸化物の存在量が多すぎることを示しており、有機アミド溶媒の変質を増大させたり、重合時の異常反応や分解反応を引き起こしたりすることがある。
【0044】
仕込み工程において、硫黄源1モル当り、通常0.2〜2モル、好ましくは0.5〜1.9モル、より好ましくは0.6〜1.8モルの水を含有する仕込み混合物を調製する。
【0045】
仕込み工程において、硫黄源1モル当り、通常0.9〜1.5モル、好ましくは0.95〜1.2モル、より好ましくは0.99〜1.1モル、更に好ましくは1〜1.08モルのジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製する。
【0046】
仕込み工程において、有機アミド溶媒は、硫黄源1モル当り、通常0.1〜10kg、好ましくは0.15〜1kgを含有する仕込み混合物を調製する。有機アミド溶媒の量は、上記範囲内であれば、後に説明する重合工程の途中でその量を変化させてもよい。
【0047】
仕込み混合物の各成分の量比(モル比)の調整やpHの調整は、通常、脱水工程で得られた混合物中に、硫黄源以外の成分を添加することにより行う。例えば、脱水工程で得られた混合物中のアルカリ金属水酸化物や水の量が少ない場合には、仕込み工程でこれらの成分を追加する。ジハロ芳香族化合物は、仕込み工程で添加する。これにより仕込み混合物が調製される。
【0048】
10.重合工程
本発明では、少なくとも前段重合工程と後段重合工程の2つの重合工程により重合反応を行う。より具体的に、本発明の重合工程は、仕込み混合物を170℃以上の温度に加熱して重合反応を開始させ、240
℃超280℃
以下の温度で重合反応を継続して、ジハロ芳香族化合物の転化率が50%以上のプレポリマーを生成させる前段重合工程;及び該プレポリマーを含有する反応系内に、相分離剤の存在下に、硫黄源1モル当り1〜20モル%に相当する量のアルカリ金属水酸化物を一括または分割添加し、245〜290℃の温度で重合反応を継続する後段重合工程を含む。前段重合工程及び後段重合工程のそれぞれの重合反応時間は、一般に10分間〜72時間の範囲であり、望ましくは30分間〜48時間である。前段重合工程及び後段重合工程は、それぞれ温度条件を段階的に変化させたり、水やアルカリ金属水酸化物を分割して添加したりする複数の工程から構成されていてもよい。
【0049】
前段重合工程では、通常、生成するポリマーを含む各成分が均一に溶解した反応系での重合反応が行われる。後段重合工程では、相分離剤の存在下において、ポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに相分離した状態で重合反応が継続される。一般に、攪拌下に重合反応が行われるため、実際には、有機アミド溶媒(ポリマー希薄相)中に、ポリマー濃厚相が液滴として分散した状態で相分離重合反応が行われる。相分離状態は、後段重合反応の進行につれて明瞭に観察されるようになる。
【0050】
重合反応方式は、バッチ式、連続式、または両方式の組み合わせでもよい。バッチ式重合では、重合サイクル時間を短縮する目的のために、2つ以上の反応槽を用いる方式を用いてもかまわない。
【0051】
10−1.前段重合工程
前段重合工程では、仕込み混合物を170℃以上の温度に加熱して重合反応を開始させ、240
℃超280℃
以下の温度で重合反応を継続して、ジハロ芳香族化合物の転化率が50%以上のプレポリマーを生成させる。ジハロ芳香族化合物の転化率は、反応混合物中に残存するジハロ芳香族化合物の量をガスクロマトグラフィにより求め、その残存量とジハロ芳香族化合物の仕込み量と硫黄源の仕込み量に基づいて算出することができる。
【0052】
前段重合工程では、pH12.5以上の仕込み混合物を用いて重合反応を開始する。この条件が守られる限りにおいて、重合反応の途中で、水、アルカリ金属水酸化物、有機アミド溶媒の少なくとも1種の量を変化させてもよい。例えば、重合途中で水やアルカリ金属水酸化物を反応系に加えることができる。通常は、仕込み工程で調製した仕込み混合物を用いて前段重合工程における重合反応を開始し、かつ前段重合反応を終了させることが好ましい。
【0053】
従来、前段重合工程において、仕込み混合物に含有される硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応は、温度170℃を超えると反応が開始し、温度の上昇とともに反応速度が増大することが知られている。また、前段重合工程において温度220℃を超えると、重合反応速度が急速に増大し、同時に、副反応が起こりやすくなることが知られている。
【0054】
したがって、本発明のPASの製造方法は、前段重合工程において、従来、副反応や分解反応の観点等から望ましくないと考えられていた240
℃超280℃
以下という高い温度領域において重合反応を継続させることにより、ジハロ芳香族化合物の転化率が50%以上、好ましくは50〜98%のプレポリマーを生成させることを特徴とするものである。重合反応を継続させる温度は、好ましくは240
℃超275℃
以下、より好ましくは240
℃超270℃
以下、更に好ましくは240
℃超265℃
以下の範囲である。一般的に、高い温度において重合反応を継続する方が、反応速度が大きくなるので、前段重合工程に要する時間(以下、「前段重合時間」ということがある。)の短縮が期待される。仕込み混合物を170℃以上の温度に加熱して重合反応を開始させ、240
℃超280℃
以下の温度で重合反応を継続する前段重合工程(以下、「高温前段重合」ということがある。)においては、240
℃超280℃
以下の範囲の一定の温度まで昇温した後、当該温度を保持しつつ重合反応を継続してもよいし、240
℃超280℃
以下の範囲の所定の温度まで連続的または段階的に昇温を行いながら重合反応を継続してもよい。副反応や分解反応の抑制や、前段重合時間の短縮の観点等から、連続的に昇温しながら重合反応を継続することが好ましい。
【0055】
本発明においては、前段重合工程において、温度220℃から240℃までの昇温速度が、温度240℃からの昇温速度(具体的には、温度240℃から、240
℃超280℃
以下の範囲内にある前記の重合反応を継続する温度までの昇温速度)より小さいものとすることにより、副反応を抑制し、反応発熱を制御しやすくできるので、好ましい。すなわち、温度170℃を超えると開始する、前段重合における硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応は、温度220℃を超えると急速に反応が進行するようになるとともに、副反応が並行して起こりやすくなる。240
℃超280℃
以下の高い温度領域において重合反応を継続させる本発明の前段重合工程において、重合反応が開始する温度170℃から、240
℃超280℃
以下の範囲内にある重合反応を継続する温度までの昇温を、略均一の昇温速度で行うと、副反応により生成する種々の不純物(オリゴマー、異常末端を有する重合体などが含有される。)により、所望される高重合度の重合体を得ることが困難となることがある。そこで、240
℃超280℃
以下の温度で重合反応を継続するのに先だって、昇温過程で経過する温度240℃以下の温度領域であって、重合反応のみならず、副反応が急速に進行する温度220℃以上の温度領域における昇温速度を相対的に小さいものとすることにより、副反応を抑制することができる。
【0056】
すなわち、前段重合工程において、温度220℃から240℃までの昇温速度が、温度240℃からの昇温速度(具体的には、温度240℃から、240
℃超280℃
以下の範囲内にある前記の重合反応を継続する温度までの昇温速度)より小さいものとすることによって、所望される高重合度かつ高純度の重合体を高収率で得ることが容易となる。温度220℃から240℃までの昇温速度の、温度240℃からの昇温速度に対する比率は、通常65%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下、更に好ましくは50%以下である。前記の比率は、下限値が特にないが、該比率が小さすぎると前段重合時間、及び重合時間全体が長時間となってしまうので、通常5%以上、多くの場合8%以上とすることが望ましい。
【0057】
10−2.後段重合工程
続いて、後段重合工程において、先に説明した前段重合工程で生成したプレポリマーを含有する反応系内に、相分離剤の存在下に、硫黄源1モル当り1〜20モル%に相当する量のアルカリ金属水酸化物を一括または分割添加し、245〜290℃の温度で重合反応を継続する。後段重合工程での重合温度は、好ましくは250〜280℃、より好ましくは255〜275℃である。重合温度は、一定の温度に維持することができるが、必要に応じて、段階的に昇温または降温してもよい。本発明においては、前段重合工程を高い温度領域で実施することから、後段重合工程を行う温度への昇温加熱に要するエネルギー及び時間の節約が期待される。
【0058】
相分離剤の存在により、重合反応系(重合反応混合物)は、ポリマー濃厚相とポリマー希薄相(有機アミド溶媒を主とする相)に相分離する。相分離は、相分離剤の添加時期の調整や重合温度の調整等により、後段重合工程の途中で生じさせてもよい。
【0059】
後段重合工程において、相分離剤として水を添加する方法を採用する場合、反応系内の水分量が、有機アミド溶媒1kg当たり、通常4モル超過20モル以下、好ましくは4.1〜14モル、より好ましくは4.2〜10モルとなるように、水の量を調整する。この水分量は、硫黄源1モル当たり、通常2モル超過10モル以下、好ましくは2.3〜7モル、より好ましくは2.5〜5モルとなる量に相当することが多い。
【0060】
本発明の製造方法においては、先に説明した特有の前段重合工程に続いて、後段重合工程において、相分離剤の存在下に、具体的には、相分離剤の添加時または相分離剤の添加時以降の任意の時点で、硫黄源1モル当り1〜20モル%に相当する量のアルカリ金属水酸化物を一括または分割添加する。本発明は、2段階重合工程を含む製造方法において、240
℃超280℃
以下の高い温度領域において重合反応を継続させる前段重合工程(高温前段重合)と、相分離重合反応を行う後段重合工程で所定量のアルカリ金属水酸化物を添加することとの組み合わせにより、高重合度のPASを高収率で得ることができる。
【0061】
後段重合工程において、硫黄源1モル当りのアルカリ金属水酸化物の合計量が好ましくは1.01〜1.1モル、より好ましくは1.02〜1.09モル、特に好ましくは1.02〜1.07モルとなるように、アルカリ金属水酸化物の量を調節して添加することが望ましい。アルカリ金属化合物の合計量は、仕込み混合物中に存在するアルカリ金属水酸化物の量と重合工程で添加したアルカリ金属水酸化物の量との合計である。
【0062】
後段重合工程におけるアルカリ金属水酸化物の添加時期は、例えば、後段重合工程において相分離剤を添加する場合、相分離剤の添加時期とほぼ同じであっても、あるいは後段重合の途中であってもよい。また、アルカリ金属水酸化物を分割して添加することもできる。アルカリ金属水酸化物を水性混合物として分割添加すると、後段重合工程での相分離重合を促進することもできる。
【0063】
これに対して、2段階重合工程を含むPASの製造方法において、240
℃超280℃
以下の高い温度領域において重合反応を継続させる前段重合工程を含む方法を採用しても、後段重合工程でアルカリ金属水酸化物を添加しない場合には、高い収率でPASを得ることができず、また、反応条件によっては、高重合度のPASを安定して得ることが困難となることがある。
【0064】
11.後処理工程
本発明の製造方法において、重合反応後の後処理は、常法によって行うことができる。例えば、重合反応の終了後、反応混合物を冷却すると粒状のポリマー生成物を含むスラリーが得られる。冷却した生成物スラリーをそのまま、あるいは水などで希釈してから、濾別し、洗浄・濾過を繰り返して乾燥することにより、PASを回収することができる。
【0065】
本発明の製造方法によれば、粒状のPASポリマーを生成させることができるため、例えばスクリーンを用いて篩分する方法により、粒状PASポリマーを反応液から分離し、副生物やオリゴマーなどから容易に分離することができる。生成物スラリーは、高温状態のままでポリマーを篩分してもよい。具体的には、100メッシュのスクリーンにより分離される(「100メッシュオン」ということもある。)粒状PASポリマーを製品PASとすることができる。
【0066】
上記濾別(篩分)後、重合溶媒と同じ有機アミド溶媒やケトン類(例えば、アセトン)、アルコール類(例えば、メタノール)等の有機溶媒でPASを洗浄することが好ましい。高温水などでPASを洗浄してもよい。また、生成PASを、酸や塩化アンモニウムのような塩で処理することもできる。
【0067】
12.ポリアリーレンスルフィド
本発明の製造方法によれば、通常85%以上、更には87%以上、所望によっては90%以上の高い収率で粒状PASを得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、高温領域での前段重合工程に続く後段重合工程において所定量のアルカリ金属水酸化物を添加することによって、アルカリ金属水酸化物を添加しない場合と比較して1.8%以上の収率の向上、反応条件によっては2%以上、更には3%以上の収率の向上を実現することができる。
【0068】
本発明の製造方法によれば、温度310℃、せん断速度1216sec
−1で測定した溶融粘度が通常0.1〜8000Pa・s、好ましくは1〜800Pa・s、より好ましくは5〜400Pa・s、更に好ましくは10〜200Pa・sの高重合度のPASを高い収率で得ることができる。本発明の製造方法により得られるPASは、広範な用途に使用することができる。本発明の製造方法によれば、所望により、PASの溶融粘度を50Pa・s以上、更には60Pa・s以上とすることも可能である。
【0069】
本発明の製造方法において、高温領域での前段重合工程(高温前段重合)と、後段重合工程でのアルカリ金属水酸化物添加(以下、「アルカリ後添加」ということがある。)との組み合わせにより、収率向上の効果が奏される理由は必ずしも明確ではないが、高温領域において重合反応を行うことによる反応速度の増加と、反応系内のアルカリ金属水酸化物量若しくはpHの適切な範囲内での制御による副反応の抑制とがバランスすることにより効果が奏されるものと推察される。
【0070】
本発明の製造方法により得られるPASは、そのまままたは酸化架橋させた後、単独で、或いは所望により各種無機充填剤、繊維状充填剤、各種合成樹脂を配合し、種々の形状の射出成形品やシート、フィルム、繊維、パイプ等の押出成形品に成形することができる。本発明の製造方法により得られたPASは、色調が良好である。また、本発明の製造方法により得られたPASのコンパウンドは、揮発分の発生量が少なく、揮発分の抑制が期待される電子機器などの分野にも好適である。PASとしては、PPSが特に好ましい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。各種特性や物性等の測定方法は、次のとおりである。
【0072】
(1)収率
ポリマーの収率は、脱水工程後の反応缶中に存在する有効硫黄源の全てがポリマーに転換したと仮定したときのポリマー重量(理論量)を基準値とし、この基準値に対する実際に回収したポリマー重量の割合(質量%)を算出した。
【0073】
(2)溶融粘度
乾燥ポリマー約20gを用いて、東洋精機製キャピログラフ1−Cにより溶融粘度を測定した。この際、キャピラリーは、1mmφ×10mmLのフラットダイを使用し、設定温度は、310℃とした。ポリマー試料を装置に導入し、5分間保持した後、せん断速度1216sec
−1での溶融粘度(以下、「MV」と表記することがある。)を測定した(単位:Pa・s)。
【0074】
[実施例1](高温前段重合及びアルカリ後添加を実施)
1.脱水工程:
62.4質量%の水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液2001g(NaSH分として22.3モル)、及び73.5質量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液1120g(NaOH分として20.6モル)をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)5999gと共にチタン製20リットルオートクレーブ(反応缶)に投入した。水硫化ナトリウムと硫化ナトリウムとからなる硫黄源を「S」と表記すると、脱水前のNaOH/NaSHは、0.92(モル/モル)である。
【0075】
反応缶内を窒素ガスで置換した後、3時間かけて、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水989gとNMP1264gを留出させた。この際、0.37モルの硫化水素(H
2S)が揮散した。脱水工程後の反応缶内の有効S量(すなわち、「仕込み硫黄源」の量)は、21.9モルとなった。
【0076】
2.仕込み工程:
脱水工程の後、21.9モルの有効S(仕込み硫黄源)を含む反応缶を温度150℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(以下、「pDCB」と略記)3412g〔pDCB/有効S=1.06(モル/モル)〕、NMP3478g、及び水160g〔缶内の合計水量/NMP=4.0(モル/kg)、缶内の合計水量/有効S=1.5(モル/モル)〕を加え、さらに、缶内NaOH/有効S=1.00(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH26gを加えた。反応缶内には、H
2Sが揮散することにより生成したNaOH(0.7モル)が含まれている。この時の仕込み混合物のpHは、12.8であった。pHは、pH測定器を用いて測定した値である。
【0077】
3.重合工程:
(前段重合工程)
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで回転して仕込み混合物を撹拌しながら、温度220℃から240℃まで60分間(昇温速度0.33℃/分)で、次いで240℃から260℃まで30分間(昇温速度0.67℃/分)で連続的に昇温して、重合反応を継続させた(高温前段重合)。前段重合工程終了時におけるpDCBの転化率は、89%であった。
【0078】
(後段重合工程)
その後、撹拌機の回転数を400rpmに上げ、撹拌を続けながら、水434gと73.5質量%のNaOH水溶液82gを圧入し〔缶内の合計水量/NMP=7.1モル/kg、缶内の合計水量/有効S=2.65(モル/モル)、合計NaOH/有効S(以下、「NaOH/S」と表記することがある。)=1.07(モル/モル)〕、265℃に昇温して3時間反応させた。
【0079】
4.後処理工程:
反応終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、反応液を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分した。分離したポリマーについて、アセトンにより2回洗浄し、水洗を3回行った後、0.3%酢酸水洗を行い、さらに水洗を4回行って洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、105℃で13時間乾燥した。このようにして得られた粒状PASポリマーの収率は、90.0%であり、PASポリマーの溶融粘度は、20Pa・sであった。
【0080】
[比較例1](高温前段重合を実施。アルカリ後添加なし)
73.6質量%のNaOH水溶液1220gを反応缶に投入し、水970gとNMP1243gを留出させ、この際、0.35モルの硫化水素(H
2S)が揮散したこと、脱水工程後の反応缶内の有効S量(すなわち、「仕込み硫黄源」の量)は、21.9モルとなったことを除いて、実施例1と同様にして、脱水工程を実施した。次いで、仕込み工程において、缶内NaOH/有効Sが1.07(モル/モル)になるように、純度97%のNaOHを15.0g、水を83g添加したこと、並びに、後段重合工程において、水455gを圧入したが、NaOH水溶液の圧入を行わなかった〔アルカリ後添加は実施しなかった。缶内の合計水量/NMP=7.1(モル/kg)、缶内の合計水量/有効S=2.65(モル/モル)、合計NaOH/有効S=1.07(モル/モル)〕ことを除いて、実施例1と同様にして、重合工程及び後処理工程を実施して、粒状PASポリマーを得た。得られた粒状PASポリマーの収率は、87.9%であり、PASポリマーの溶融粘度は、20Pa・sであった。
【0081】
[比較例2](高温前段重合なし。アルカリ後添加を実施)
前段重合工程を、温度220℃で1時間重合反応させ、次いで30分間で温度230℃に昇温して1.5時間重合反応させた(高温前段重合は実施しなかった。)ことを除いて、実施例1と同様にして、重合工程及び後処理工程を実施して、粒状PASポリマーを得た。得られた粒状PASポリマーの収率は、88.7%であった。PASポリマーの溶融粘度は、25Pa・sであった。
【0082】
[比較例3](高温前段重合なし。アルカリ後添加なし)
前段重合工程を、温度220℃で1時間重合反応させ、次いで30分間で温度230℃に昇温して1.5時間重合反応させた(高温前段重合は実施しなかった。)ことを除いて、比較例1と同様にして、重合工程及び後処理工程を実施して、粒状PASポリマーを得た。得られた粒状PASポリマーの収率は、88.1%であり、PASポリマーの溶融粘度は、23Pa・sであった。
【0083】
[実施例2](高温前段重合及びアルカリ後添加を実施)
1.脱水工程:
62.0質量%の水硫化ナトリウム水溶液2003g(NaSH分として22.2モル)と、73.6質量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液1139g(NaOH分として21.0モル)とをNMP6003gと共にチタン製20リットルオートクレーブ(反応缶)に投入した。水硫化ナトリウムと硫化ナトリウムとからなる硫黄源を「S」と表記すると、脱水前のNaOH/NaSHは、0.94(モル/モル)である。
【0084】
反応缶内を窒素ガスで置換した後、3時間かけて、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水999gとNMP733gを留出させた。この際、0.4モルの硫化水素(H
2S)が揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、21.8モルとなった。
【0085】
2.仕込み工程:
脱水工程の後、21.8モルの有効S(仕込み硫黄源)を含む反応缶を150℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(pDCB)3298g〔pDCB/有効S=1.03(モル/モル)〕、NMP2899g、及び水150g〔缶内の合計水量/NMP=4.0(モル/kg)、缶内の合計水量/有効S=1.50(モル/モル)〕を加え、さらに、缶内NaOH/有効S=1.00(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH2gを加えた。反応缶内には、H
2Sが揮散することにより生成したNaOH(0.8モル)が含まれている。この時の仕込み混合物のpHは、12.9であった。
【0086】
3.重合工程:
(前段重合工程)
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで回転して仕込み混合物を撹拌しながら、実施例1と同様に昇温して、重合反応を継続させた(高温前段重合)。前段重合工程終了時におけるpDCBの転化率は、90%であった。
【0087】
その後、撹拌機の回転数を400rpmに上げ、撹拌を続けながら、水430gと73.6質量%のNaOH水溶液70gを圧入し〔缶内の合計水量/NMP=7.1(モル/kg)、缶内の合計水量/有効S=2.65(モル/モル)、合計NaOH/有効S=1.06(モル/モル)〕、265℃に昇温して、3時間反応させた(後段重合工程)。
【0088】
4.後処理工程:
反応終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、反応液を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分した。分離したポリマーについて、アセトンにより2回洗浄し、水洗を3回行った後、0.3%酢酸水洗を行い、さらに水洗を4回行って洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、105℃で13時間乾燥した。このようにして得られた粒状PASポリマーの収率は、93%であり、PASポリマーの溶融粘度は、63Pa・sであった。
【0089】
[比較例4](高温前段重合を実施。アルカリ後添加なし)
73.6質量%のNaOH水溶液1188gを反応缶に投入し、水975gとNMP710gを留出させ、この際、0.35モルの硫化水素(H
2S)が揮散したこと、脱水工程後の反応缶内の有効S量(すなわち、「仕込み硫黄源」の量)は、21.8モルとなったことを除いて、実施例2と同様にして、脱水工程を実施した。次いで、仕込み工程において、缶内NaOH/有効Sが1.06(モル/モル)になるように、純度97%のNaOHを25.0g、水を95g添加したこと、並びに、後段重合工程において、NaOH水溶液の圧入を行わなかった〔アルカリ後添加は実施しなかった。缶内の合計水量/NMP=7.1(モル/kg)、缶内の合計水量/有効S=2.65(モル/モル)、合計NaOH/有効S=1.06(モル/モル)〕ことを除いて、実施例2と同様にして、重合工程及び後処理工程を実施して、粒状PASポリマーを得た。得られた粒状PASポリマーの収率は、89.7%であり、PASポリマーの溶融粘度は、54Pa・sであった。
【0090】
[比較例5](高温前段重合なし。アルカリ後添加を実施)
前段重合工程を、温度220℃で1時間重合反応させ、次いで30分間で温度230℃に昇温して1.5時間重合反応させた(高温前段重合は実施しなかった。)ことを除いて、実施例2と同様にして、重合工程及び後処理工程を実施して、粒状PASポリマーを得た。得られた粒状PASポリマーの収率は、92.5%であり、PASポリマーの溶融粘度は、85Pa・sであった。
【0091】
[比較例6](高温前段重合なし。アルカリ後添加なし)
前段重合工程を、温度220℃で1時間重合反応させ、次いで30分間で温度230℃に昇温して1.5時間重合反応させた(高温前段重合は実施しなかった。)ことを除いて、比較例4と同様にして、重合工程及び後処理工程を実施して、粒状PASポリマーを得た。得られた粒状PASポリマーの収率は、92.1%であり、PASポリマーの溶融粘度は、88Pa・sであった。
【0092】
実施例1及び2、比較例1〜6について、組成(pDCB/有効S)、前段重合及び後段重合条件、PASポリマー収率、並びに、PASの溶融粘度(MV)を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1から、以下のことが分かる。
(1)高温前段重合と、後段重合工程でのアルカリ後添加、具体的にはNaOH添加(以下、「NaOH後添加」ということがある。)とを行う実施例1及び実施例2によれば、90%以上の高い収率でPASポリマーを得ることができる。実施例1及び実施例2で得られるPASポリマーは、そのMVからみて高重合度のPASポリマーが得られていることが分かる。
(2)後段重合工程におけるNaOH/Sにおいて差がない実施例1と比較例1との対比、並びに、実施例2と比較例4との対比からみて、NaOH後添加により、PASポリマーの収率を向上させることができる。
(3)NaOH後添加を行う実施例1と比較例2との対比、並びに同じく実施例2と比較例5との対比から、高温前段重合を実施することにより、PASポリマーの収率を向上させることができる。
(4)NaOH後添加によるPASポリマーの収率向上の効果は、高温前段重合を実施する実施例1と比較例1との間の収率向上の割合と、高温前段重合を実施しない比較例2と比較例3との間の収率向上の割合との対比、並びに、高温前段重合を実施する実施例2と比較例4との間の収率向上の割合と、高温前段重合を実施しない比較例5と比較例6との間の収率向上の割合との対比からみて、高温前段重合の実施によって、収率向上の効果が顕著なものとなる。
(5)以上のことから、高温前段重合とNaOH後添加とを実施する実施例1及び実施例2によれば、高重合度のPASポリマーを高収率で得られることが分かる。
【0095】
本発明の製造方法における高温前段重合とアルカリ後添加との組み合わせによれば、高温領域において重合反応を行うことによる反応速度の増加と、反応系内のアルカリ金属水酸化物量若しくはpHの適切な範囲内での制御による副反応の抑制とがバランスすることにより、上記の効果を奏することが可能となったものと推察される。さらに、高温前段重合とアルカリ後添加との組み合わせによれば、前段重合工程に要する時間、及び、前段重合工程と後段重合工程とからなる重合工程の合計時間が短縮されることが分かった。