【文献】
松浦一樹,太田喜元,藤井輝也,900MHz帯ラジオダクト干渉キャンセラ,2016年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会通信講演論文集1 B−1−141,2016年 9月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
通信端末と無線通信するための第1アンテナと、前記第1アンテナの位相中心点を通過する仮想鉛直線上の上方向又は下方向に所定距離だけ離れた位置に位相中心点を有する第2アンテナと、請求項1乃至7のいずれかの干渉抑圧装置と、を備える基地局。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、本実施形態では、タクシー等の車両に搭載された通信端末と無線通信を行うMCAシステムの業務用無線に用いられる基地局について説明するが、本実施形態の基地局は、携帯電話機やスマートフォン等の通信端末と無線通信を行うセルラー移動通信システムの基地局等の他の基地局であってもよい。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る基地局の全体構成の一例を示す概略構成図である。
図1において、本実施形態に係る基地局10は、本体の基地局装置20と、干渉抑圧システム30と、通信端末(移動機、移動局)80からの電波(以下「希望波」又は「希望信号」ともいう。)s1
RFを受信するための第1アンテナとしての基地局アンテナ40と、を備える。基地局アンテナ40は、MCAシステムの業務用無線の基地局で用いられている一般的なアンテナである。基地局アンテナ40にダクト干渉波s2
RF(例えば、930MHz〜940MHzの干渉波)が到来しているときは、基地局アンテナ40により希望波s1
RFとダクト干渉波s2
RFとが受信される。
【0011】
干渉抑圧システム30は、第2アンテナとしてのキャンセルアンテナ300と、干渉抑圧装置310とを備える。キャンセルアンテナ300は、基地局アンテナ40の位相中心点40aから上方向又は下方向に所定距離dだけ離れた位相中心点300aを有し、基地局アンテナ40とは垂直面内又は水平面内指向性が同じ、または異なる指向性のアンテナである。また、キャンセルアンテナ300の位相中心点300aは、基地局アンテナ40の位相中心点40aを通過する仮想鉛直線Lv上に位置している。すなわち、仮想鉛直線Lvに沿って上方又は下方から見た場合、水平面内の基地局アンテナ40の位相中心点40aとキャンセルアンテナ300の位相中心点300aは互いに一致している。キャンセルアンテナ300にダクト干渉波s2
RF(例えば、930MHz〜940MHzの干渉波)が到来しているときは、キャンセルアンテナ300により希望波s1
RFとダクト干渉波s2
RFとが受信される。
【0012】
なお、図示の例では、キャンセルアンテナ300として八木アンテナを用いているが、他のタイプのアンテナであってもよい。また、図示の例では、基地局アンテナ40の上方にキャンセルアンテナ300を配置しているが、キャンセルアンテナ300の装着が容易になるように
図2に示すように基地局アンテナ40の下方にキャンセルアンテナ300を配置してもよい。
【0013】
干渉抑圧装置310は、基地局アンテナ40で受信した第1受信信号Xからダクト干渉信号s2を分離して検出する第1干渉信号検出手段としての第1ダクト干渉検出部320と、キャンセルアンテナ300で受信した第2受信信号Yからダクト干渉信号s2’を分離して検出する第2干渉信号検出手段としての第2ダクト干渉検出部330とを備える。
【0014】
更に、干渉抑圧装置310は、第1受信信号Xから検出したダクト干渉信号s2と第2受信信号Yから検出したダクト干渉信号s2’とが互いに同じ振幅及び位相になるようにウェイトwを計算したり所定値のウェイトwを設定したりするウェイト計算・設定手段としてウェイト計算・設定部311を備える。ウェイト計算・設定部311で計算されるウェイトwは、実振幅と位相とで定義される複素振幅であり、第2受信信号Yから検出したダクト干渉信号s2’の振幅及び位相が第1受信信号Xから検出したダクト干渉信号s2と同じ振幅及び位相になるように、すなわちs2=w・s2’を満たすように算出される。このウェイトwは、後述の相関検出を用いた方法や電力差を用いた摂動方法など、各種方法で算出することができる。
【0015】
また、干渉抑圧装置310は、第2受信信号Yにウェイトwを乗算した信号w・Yを第1受信信号Xから減算する信号演算手段としての信号演算部350とを備える。この信号演算部350によりダクト干渉信号s2がキャンセルされた第1受信信号Xである信号Z(=X−w・Y)が基地局装置20に出力される。
【0016】
図3は、本実施形態の基地局10におけるキャンセルアンテナ300及び干渉抑圧装置310によるダクト干渉信号s2のキャンセル効果の一例を示す説明図である。
図3(a)は、本実施形態の基地局10におけるダクト干渉波s2
RFが水平方向(水平面からの角度θ=0°)から到来しているときの垂直面内の合成指向特性101の一例を示している。
図3(b)は、本実施形態の基地局10におけるダクト干渉波s2
RFが若干上方向(水平面からの角度θ=2°)から到来しているときの垂直面内の合成指向特性102の一例を示している。
図3(c)は、本実施形態の基地局10におけるダクト干渉波s2
RFが到来していないとき(ウェイトw=0)の垂直面内の指向特性103の一例を示している。
【0017】
図3(a)に示すように、ダクト干渉波s2
RFが水平方向(水平面からの角度θ=0°)から到来しているときは、基地局10の垂直面内の合成指向特性101のヌル方向が水平方向になり、基地局アンテナ40で受信した受信信号Xに含まれる、水平方向からのダクト干渉波s2
RFに起因したダクト干渉信号s2をキャンセルすることができる。
【0018】
また、
図3(b)に示すように、ダクト干渉波s2
RFが水平方向よりも上方向(図示の例では水平面からの角度θ=2°)から到来しているときは、基地局10の垂直面内の合成指向特性102のヌル方向がダクト干渉波s2
RFの到来方向に変化する。このようにダクト干渉波s2
RFの垂直面内の到来方向が変わっても適応的に垂直面内指向特性のヌル方向を変化させることができる。しかも、そのヌル方向を変化させるためにキャンセルアンテナ及びその給電回路を調整したり交換したりする必要がなく、オペレーションの煩雑さを回避することができる。
【0019】
また、
図3(c)に示すように、ダクト干渉波s2
RFが到来していないときは、ウェイトw=0であるため、元々の基地局10の垂直面内の指向特性103となることから基地局アンテナ40を介した通信端末80との通信に対する影響を小さくすることができる。
【0020】
次に、本実施形態の基地局10における干渉抑圧装置310の構成例について説明する。
〔干渉抑圧装置の構成例1〕
図4は、本実施形態の基地局10における干渉抑圧装置310の一構成例を示すブロック図である。なお、前述の
図1と同様な部分については同じ符号を付し、それらの説明は省略する。
【0021】
本構成例の干渉抑圧装置310において、第1ダクト干渉検出部320は、基地局アンテナ40で受信された第1受信信号X(=s1+s2)に対して、通信端末80が使用しない周波数帯域f
BPを選択的に通過させるデジタル帯域フィルタで帯域制限することにより、ダクト干渉信号s
B2を分離して検出する。また、第2ダクト干渉検出部330は、キャンセルアンテナで受信された第2受信信号Y(=s1’+s2’)に対して、通信端末80が使用しない周波数帯域f
BPを選択的に通過させるデジタル帯域フィルタで帯域制限することにより、干渉信号s
B2’を分離して検出する。
【0022】
また、本構成例の干渉抑圧装置310におけるウェイト計算・設定部311は、第1受信信号Xから検出したダクト干渉信号s2と第2受信信号Yから検出したダクト干渉信号s2’とが互いに同じ振幅及び位相になるようにウェイトwを計算するウェイト計算手段としてウェイト計算部340と、そのウェイト計算部340での計算処理を制御するウェイト計算制御部360とを備える。
【0023】
図5(a)及び(b)はそれぞれデジタル帯域フィルタで選択的に通過させる周波数帯域f
BPの例である。デジタル帯域フィルタで選択的に通過させる周波数帯域f
BPとしては、例えば
図5(a)に示すように通信端末80との通信で予め設定された通信帯域内で通信端末80が実際に使用しない周波数帯域を選択する。また、デジタル帯域フィルタで選択的に通過させる周波数帯域f
BPとしては、
図5(b)に示すように通信帯域外の周波数帯域を決定してもよい。
【0024】
また、本構成例の干渉抑圧装置310において、ウェイト計算部340は、第1受信信号Xから検出された干渉信号s
B2と第2受信信号Yからから検出された干渉信号s
B2’とに対して相関検出を行うことにより、ウェイトwを計算する。より具体的には、ウェイトwは、第1受信信号Xから帯域制限して検出された干渉信号s
B2及び第2受信信号Yから帯域制限して検出された干渉信号s
B2’から、次の式(1)を用いて計算する。なお、式中の「< >」はアンサンブル平均を表し、「*」は複素共役を表している(以下同様)。
【数1】
【0025】
本構成例の干渉抑圧装置310では、通信端末80が使用しない周波数帯域f
BPを選択的に通過させるデジタル帯域フィルタで帯域制限することにより、ダクト干渉信号s
B2,s
B2’を分離して検出しているため、ダクト干渉信号の検出処理が簡易になるとともに、通信端末80からの希望信号s1,s1’の影響を低減できる。
【0026】
本構成例の干渉抑圧装置310におけるウェイト計算制御部360は、第1受信信号X及び第2受信信号Yにダクト干渉信号s
B2,s
B2’が含まれている場合は、前記ウェイトを計算するようにウェイト計算部340での計算処理をONにする。一方、第1受信信号X及び第2受信信号Yの少なくとも一方にダクト干渉信号s
B2,s
B2’が含まれていない場合は、ウェイト計算部340での計算処理をOFFにして消費電力を低減し、ウェイトwについてはゼロに設定する。
【0027】
本構成例において、ウェイト計算制御部360は、受信電力検出部361とダクト干渉有無判定部362と計算ON/OFF制御部363とウェイト設定部364とウェイト切替部365とを備える。
【0028】
受信電力検出部361は、第1受信信号Xから帯域制限して検出された干渉信号s
B2及び第2受信信号Yから帯域制限して検出された干渉信号s
B2’それぞれの受信電力(以下、「ダクト干渉波電力」ともいう。)p
B1,p
B2を、例えば次の式(2)及び(3)を用いて計算する。
【数2】
【数3】
【0029】
ダクト干渉有無判定部362は、干渉信号s
B2及び干渉信号s
B2’それぞれのダクト干渉波電力p
B1,p
B2と、予め設定した受信電力閾値γthとを比較する。ここで、例えば、ダクト干渉波電力p
B1,p
B2がそれぞれ受信電力閾値γth以上であればダクト干渉ありと判定し、ダクト干渉波電力p
B1,p
B2の少なくとも一方が受信電力閾値γthよりも小さければダクト干渉なしと判定する。
【0030】
計算ON/OFF制御部363は、ダクト干渉有無判定部362でダクト干渉ありと判定された場合、ウェイトwを計算するようにウェイト計算部340での計算処理をONにする。ウェイト計算部340で計算されたウェイトwはウェイト切替部365に出力される。ダクト干渉有無判定部362でダクト干渉なしと判定された場合、計算ON/OFF制御部363は、ウェイト計算部340での計算処理をOFFにし、ウェイトwをゼロにするようにウェイト設定部364を制御する。ウェイト設定部364で設定されたウェイトw(=0)はウェイト切替部365に出力される。
【0031】
ウェイト切替部365は、ウェイト計算部340で計算されたウェイトwを受けた場合は、そのウェイトwの計算値を信号演算部350に出力し、ウェイト設定部364で設定されたウェイトw(=0)を受けた場合は、そのウェイトwの設定値(=0)を信号演算部350に出力する。
【0032】
上記構成の干渉抑圧装置310における抑圧対象であるダクト干渉波が発生しているとき、そのダクト干渉波に起因した干渉信号の受信電力(ダクト干渉波電力)は時々刻々と変化する。このようなダクト干渉波電力の変化に対応するために、所定の測定間隔Δtでダクト干渉波電力を測定し、その測定結果に基づいてウェイトwを計算したり設定したりすることが考えられる。
【0033】
図6は、所定の測定間隔Δtでダクト干渉波電力を測定してウェイトwを計算又は設定する比較例に係るウェイト計算・設定アルゴリズムを示すフローチャートである。
図6において、所定の制御時刻t(=i×ΔT,i:自然数,ΔT:測定間隔)になったら、干渉信号s
B2及び干渉信号s
B2’それぞれのダクト干渉波電力p
B1,p
B2を測定し、そのダクト干渉波電力p
B1,p
B2のいずれか一方をダクト干渉波電力の測定値Pow(i)とする(S901)。そして、このダクト干渉波電力の測定値Pow(i)と、予め設定した受信電力閾値γthとを比較する(S902)。ここで、例えば、ダクト干渉波電力の測定値Pow(i)が受信電力閾値γthよりも大きい場合(又は、受信電力閾値γth以上の場合)のときはダクト干渉ありと判定し(S902でYes)、前述の式(1)等を用いてウェイトwを計算する(S903)。一方、ダクト干渉波電力の測定値Pow(i)が受信電力閾値γth以下の場合(又は、受信電力閾値γth未満の場合)のときはダクト干渉なしと判定し(S902でNo)、ウェイトwを計算しないでウェイトwをゼロに設定する(S905)。
【0034】
上記
図6のウェイト計算・設定アルゴリズムによれば、ダクト干渉波電力の変化にある程度対応することができる。しかしながら、ダクト干渉波電力と雑音電力との比であるSNR(Signal to Noise power Ratio)が小さい場合、雑音の影響でウェイトwの計算精度が劣化する。すなわち、理想的なウェイトwは雑音がないときの、又は、ダクト干渉波電力が雑音電力に比べて十分に大きいときの値である。
そこで、上記
図6のウェイト計算・設定アルゴリズムにおいてウェイトwの計算精度を向上させるために、受信電力閾値γthを大きく設定すると、ダクト干渉波電力がPow(i)<γth(又は、Pow(i)≦γth)となる確率が増大し、w=0となる確率が多くなることから、受信電力の小さいダクト干渉をキャンセルできなくなる。
一方、受信電力閾値γthを小さく設定すると、ダクト干渉波電力がγth<Pow(i)(又はγth≦Pow(i))となる確率は小さくなるが、ダクト干渉波電力が小さい領域では雑音の影響でウェイトの計算精度が劣化することから、十分なダクト干渉キャンセルを行えなくなる。
【0035】
また、最適なウェイトwは次の状況(1)及び(2)が発生しない限り一定の期間ほとんど変化しない。
(1)基地局アンテナ40及びキャンセルアンテナ300から干渉抑圧装置310までの2本のフィーダ長の変化に伴なう位相の変化。
(2)塔頂増幅器(アンプ)、干渉抑圧装置310内の増幅器(アンプ)、等の増幅器の振幅と位相の変化。
【0036】
そこで、本実施形態では、上記
図6のウェイト計算・設定アルゴリズムにおける課題と、上記最適なウェイトとフィーダでの位相並びに増幅器での振幅及び位相との関係とに着目し、ダクト干渉波電力が低い場合においても高い干渉抑圧効果が得られるように、以下に示すウェイト計算・設定アルゴリズムに基づいてウェイトwの計算及び設定を行っている。
【0037】
図7は、本実施形態の干渉抑圧装置におけるウェイト計算・設定アルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
図7のウェイト計算・設定アルゴリズムの例では、制御時刻tにおけるウェイトwとして、その制御時刻t以前の最もSNRの高いときに計算したウェイトwを設定する。具体的には、例えば以下に示すようにウェイトwの計算・設定を行う。
【0038】
図7のウェイト計算・設定アルゴリズムでは、ダクト干渉波電力Powと比較する閾値として、第1閾値(γ
th1)と第2閾値γ
th2(γ
th2≧γ
th1)とを予め設定しておく。
【0039】
図7のウェイト計算・設定アルゴリズムを開始したら、ダクト干渉波電力の最大値である最大受信電力(以下「最大受信電力」という。)Pmax及び最適ウェイトw
optそれぞれを所定の初期値Pmax0及びw
opt0に設定する初期値設定を行う(S101)。
【0040】
次に、所定の制御時刻t(=i×ΔT,i:自然数,ΔT:測定間隔)になったら、干渉信号s
B2及び干渉信号s
B2’それぞれのダクト干渉波電力p
B1,p
B2を測定し、そのダクト干渉波電力p
B1,p
B2のいずれか一方をダクト干渉波電力の測定値Pow(i)とし、そのダクト干渉波電力の測定値Pow(i)を直近のダクト干渉波電力Powとする(S102)。
【0041】
次に、直近のダクト干渉波電力Powと第1閾値γ
th1とを比較し、ダクト干渉波電力Powが第1閾値γ
th1よりも大きいか否かを判断する(S103)。この判断が肯定の場合すなわちダクト干渉波電力Powが第1閾値γ
th1よりも大きい場合は、更に、直近のダクト干渉波電力Powと第2閾値γ
th2(γ
th2≧γ
th1)とを比較し、ダクト干渉波電力Powが第2閾値γ
th2よりも大きいか否かを判断する(S104)。この判断が肯定の場合すなわちダクト干渉波電力Powが第2閾値γ
th2よりも大きい場合は、更に、ダクト干渉波電力Powとその制御時刻までの最大受信電力Pmaxとを比較し、ダクト干渉波電力Powが最大受信電力Pmaxよりも大きいか否かを判断する(S105)。以上の判断S103〜S105がすべて肯定の場合、すなわち、ダクト干渉波電力Powが第1閾値γ
th1及び第2閾値γ
th2よりも大きく、且つ、ダクト干渉波電力Powが最大受信電力Pmaxよりも大きい場合は、前述のフィーダでの位相や増幅器での振幅及び位相等のウェイトに影響を及ぼす要因が変化していると推定され、且つ、前述のSNRが高くなっているので、前述の式(1)等を用いてウェイトwを計算する(S106)。この計算したウェイトwの計算値をウェイトの最適値w
optとし、そのときのダクト干渉波電力Powを新たな最大受信電力Pmaxとする(S107)。そして、更新されたウェイトの最適値w
optを、前述の信号演算部350で用いるウェイトの設定値w
set(i)として設定する。
【0042】
一方、上記S104及びS105の判断が否定の場合、すなわち、ダクト干渉波電力Powが第2閾値γ
th2以下の場合又はダクト干渉波電力Powが最大受信電力Pmax以下の場合は、前述のフィーダでの位相や増幅器での振幅及び位相等のウェイトに影響を及ぼす要因の変化が十分に小さく、又は、前述のSNRが低いので、上記制御時刻tにおけるウェイトwの計算及びウェイトの最適値w
optの更新を行わないで、そのときに設定されていたウェイトの最適値w
optを、ダクト干渉抑圧に用いるウェイトの設定値w
set(i)として設定する(S108)。
【0043】
また、上記S103の判断が否定の場合、すなわち、ダクト干渉波電力Powが第1閾値γ
th1以下の場合は、ダクト干渉なしと判断し、上記S104及びS105の判断及びウェイトwの計算を行わないで、信号演算部350で用いるウェイトの設定値w
set(i)としてゼロを設定する(S109)。
【0044】
以上のダクト干渉波電力の測定、その測定値と閾値との比較判断及びウェイトの計算・設定(S102〜S109)を、所定の測定間隔ΔTで繰り返し行う(S110)。
【0045】
以上、
図7のウェイト計算・設定アルゴリズムを実行することにより、常時、高SNRのときの精度が高いウェイトwが設定されることから、ダクト干渉波電力が低い場合においても高い干渉抑圧効果が得られる。
【0046】
なお、
図7のウェイト計算・設定アルゴリズムのS103では、ダクト干渉波電力Powが第1閾値γ
th1よりも大きいか否かを判断しているが、その判断に代えて、ダクト干渉波電力Powが第1閾値γ
th1以上か否かを判断してもよい。また、上記S104では、ダクト干渉波電力Powが第2閾値γ
th2よりも大きいか否かを判断しているが、その判断に代えて、ダクト干渉波電力Powが第2閾値γ
th2以上か否かを判断してもよい。また、上記S105では、ダクト干渉波電力Powが最大受信電力Pmaxよりも大きいか否かを判断しているが、その判断に代えて、ダクト干渉波電力Powが最大受信電力Pmax以上か否かを判断してもよい。
【0047】
また、
図7のウェイト計算・設定アルゴリズムのS104におけるダクト干渉波電力Powと第2閾値γ
th2との比較による判断が肯定の場合、直近のウェイト計算から所定時間経過しているときは、測定したダクト干渉波電力Powと最大受信電力Pmaxとの比較を行わないで、ウェイトwを計算してもよい。そして、その計算したウェイトwを、信号演算部350で用いるウェイトの設定値w
set(i)として設定し、前記計算したウェイトwで最適ウェイトw
optを更新し、測定した干渉信号の受信電力Powで最大受信電力Pmaxを更新してもよい。
【0048】
図8は、本実施形態の干渉抑圧装置におけるウェイト計算・設定アルゴリズムの他の例を示すフローチャートである。なお、
図8のウェイト計算・設定アルゴリズムのS201〜S204、S209〜S211については、
図7のS101〜S104、S108〜S110と同様であるので、それらの詳細な説明は省略する。
【0049】
上記
図7のウェイト計算・設定アルゴリズムにおいて、ある制御時刻のウェイトw
set(i)としては、それ以前の最大受信電力Pmaxのときに推定(計算)したウェイトw
optが設定される。しかし、塔頂増幅器(アンプ)等の増幅器の振幅や位相が経年劣化等の要因で変化した場合、最適なウェイトw
optは変化し(w≠w
opt)、そのときの受信電力Pow(t)がそれ以前の最大受信電力Pmaxよりも低ければ(Pow(t)<Pmax)、それ以前のウェイトw
optがウェイトw
set(i)に設定されることから、干渉低減効果が低下する。
【0050】
そこで、
図8のウェイト計算・設定アルゴリズムでは、γ
th1≦γ
th2<Pow(t)において(S203及びS204でYes)w(t)を計算し(S205)、その後、ダクト干渉波電力Powとその制御時刻までの最大受信電力Pmaxとを比較し、ダクト干渉波電力Powが最大受信電力Pmaxよりも大きいか否かを判断する(S206)。この判断206が肯定の場合、すなわちダクト干渉波電力Powが最大受信電力Pmaxよりも大きい場合は、前述のフィーダでの位相や増幅器での振幅及び位相等のウェイトに影響を及ぼす要因が変化していると推定され、且つ、前述のSNRが高くなっているので、計算したウェイトwの計算値をウェイトの最適値w
optとし、そのときのダクト干渉波電力Powを新たな最大受信電力Pmaxとする(S207)。そして、更新されたウェイトの最適値w
optを、前述の信号演算部350で用いるウェイトの設定値w
set(i)として設定する(S208)。
【0051】
一方、上記S206の判断が否定の場合、すなわちダクト干渉波電力Powが最大受信電力Pmax以下の場合は、更に、前記計算したウェイトwと最適ウェイトw
optとの差分の絶対値|w(t)−w
opt|と所定のウェイト差分閾値Δw
thとを比較し、ウェイトの差分の絶対値|w(t)−w
opt|がウェイト差分閾値Δw
thよりも小さいか否かを判断する(S209)。この判断が肯定の場合、すなわち、ウェイトの差分の絶対値|w(t)−w
opt|がウェイト差分閾値Δw
thよりも小さい場合(|w(t)−w
opt|<Δw
th)(S209でYes)、前述のフィーダでの位相や増幅器での振幅及び位相等のウェイトに影響を及ぼす要因の変化が十分に小さく、又は、前述のSNRが低いので、最大受信電力Pmax及びウェイトの最適値w
optの更新を行わないで、そのときに設定されていたウェイトの最適値w
optを、ダクト干渉抑圧に用いるウェイトの設定値w
set(i)として設定する(S208)。
【0052】
一方、上記S209の判断が否定の場合、すなわち、ウェイトの差分の絶対値|w(t)−w
opt|がウェイト差分閾値Δw
th以上の場合(|w(t)−w
opt|≧Δw
th)(S209でNo)、雑音(低SNR)による誤差ではなく、経年劣化等による電気的特性の変化による変化と予測されることから、その制御時刻よりも前のw
optをダクト干渉抑圧に用いるウェイトの設定値w
set(i)に設定しないで、その制御時刻で計算したウェイトw(t)をウェイトの設定値w
set(i)に設定し、また最適ウェイトw
optをw(t)に更新する。
【0053】
以上、
図8のウェイト計算・設定アルゴリズムを実行することにより、ダクト干渉波電力が低い場合においても最適なウェイトを設定できることから高い干渉抑圧効果が得られる。同時に、経年劣化等の要因でシステムの電気的特性が変化しても最適なウェイトが設定できる。従って、経年劣化等の要因でシステムの電気的特性が変化してもウェイトを柔軟に最適値に更新できることから高い干渉抑圧効果が得られる。
【0054】
なお、
図8のウェイト計算・設定アルゴリズムのS209では、ウェイトの差分の絶対値|w(t)−w
opt|がウェイト差分閾値Δw
thよりも小さいか否かを判断しているが、その判断に代えて、ェイトの差分の絶対値|w(t)−w
opt|がウェイト差分閾値Δw
th以下か否かを判断してもよい。
【0055】
図9は、本実施形態の干渉抑圧装置におけるウェイト計算・設定アルゴリズムの更に他の例を示すフローチャートである。なお、
図9のウェイト計算・設定アルゴリズムのS301〜S304、S305〜S309については、
図7のS101〜S104、S106〜S110と同様であるので、それらの詳細な説明は省略する。
【0056】
上記
図7のウェイト計算・設定アルゴリズムにおいて、ある制御時刻のウェイトw
set(i)としては、それ以前の最大受信電力Pmaxのときに推定(計算)したウェイトw
optが設定される。しかし、塔頂増幅器(アンプ)等の増幅器の振幅や位相が経年劣化等の要因で変化した場合、最適なウェイトw
optは変化し(w≠w
opt)、そのときの受信電力Pow(t)がそれ以前の最大受信電力Pmaxよりも低ければ(Pow(t)<Pmax)、それ以前のウェイトw
optがウェイトw
set(i)に設定されることから、干渉低減効果が低下する。
【0057】
そこで、
図9のウェイト計算・設定アルゴリズムでは、γ
th1≦γ
th2<Pow(t)において(S303及びS304でYes)、SNRは十分あることから、その時刻でのウェイトw(t)を計算し(S305)、最適ウェイトw
optをウェイトw(t)の計算値に更新し(S306)、そのウェイトw(t)の計算値をダクト干渉抑圧に用いるウェイトの設定値w
set(i)に設定する(S307)。
【0058】
以上、
図9のウェイト計算・設定アルゴリズムを実行することにより、ダクト干渉波電力が低い場合においても準最適なウェイトを設定できることから高い干渉抑圧効果が得られる。同時に経年劣化等の要因でシステムの電気的特性が変化しても準最適なウェイトを設定できる。従って、経年劣化等の要因でシステムの電気的特性が変化してもウェイトを柔軟に準最適値に更新できることから高い干渉抑圧効果が得られる。特に、前述の
図8のウェイト計算・設定アルゴリズムと比較して、ウェイトの比較制御がないことから、その分制御が容易である。
【0059】
〔干渉抑圧装置の構成例2〕
図10は、本実施形態の基地局10における干渉抑圧装置310の他の構成例を示すブロック図である。なお、前述の
図1、4と同様な部分については同じ符号を付し、それらの説明は省略する。
【0060】
本構成例の干渉抑圧装置310において、ウェイト計算部340は、以下の(1)〜(3)に示すようにダクト干渉信号s
B2,s
B2’の電力差を用いた摂動方法を用いてウェイトwを計算することにより、ウェイトwの計算負荷を抑えている。
【0061】
(1)まず、ウェイトをwとしたとき、第1受信信号Xから帯域制限して検出された干渉信号s
B2と第2受信信号Yから帯域制限して検出された干渉信号s
B2’とに対して、次の式(4)に示す電力差ΔPを計算する。
【数4】
【0062】
(2)次に、ウェイトw(実振幅:we、位相:φ)の次の式(5)及び式(6)の範囲に対して離散的な幅(Δwe,Δφ)で、電力差ΔPの最小値を検索する。
【数5】
【数6】
【0063】
ここで、電力差ΔPの最小値を検索するときの実振幅weの範囲を規定するwe
min及びwe
maxはそれぞれ、例えば0dB及び100dBに設定し、その検索ステップ幅Δweは例えば0.1dBに設定する。また、電力差ΔPの最小値を検索するときの位相φの範囲を規定するφ
min及びφ
maxはそれぞれ、例えば0°及び360°に設定し、その検索ステップ幅Δφは例えば1°に設定する。
【0064】
(3)次に、電力差ΔPの値が最小値になったときのwを算出し、ウェイトwとして決定する。
【0065】
以上、本実施形態によれば、ダクト現象が発生してダクト干渉波が基地局10に到来したとき、基地局10の垂直面内の合成指向特性におけるヌル方向をダクト干渉波の到来方向に向けることができるため、ダクト干渉信号を抑圧することができる。また、ダクト干渉波の到来方向が変化した場合でも、その変化したダクト干渉波の到来方向の方向に合成指向特性におけるヌル方向を向けることができるため、ダクト干渉信号を抑圧することができる。このように発生時間が不定期で、垂直面内の特定の方向から到来するダクト干渉波に起因したダクト干渉信号を適応的に抑圧することができる。しかも、垂直面内の到来方向が変化してもその到来方向にヌル方向を変化させるためにキャンセルアンテナ及びその給電回路を調整したり交換したりする必要がなく、オペレーションの煩雑さを回避することができる。
また、本実施形態によれば、既存の基地局の構成にキャンセルアンテナ300及び干渉抑圧装置310を追加することでダクト干渉信号を抑圧することができるようになるため、既存の基地局における基地局装置及び基地局アンテナを変更する必要がない。
また、本実施形態によれば、ダクト干渉波が基地局10に到来していないときには、基地局10の指向特性を元の基地局アンテナ40の指向特性にすることができる。
【0066】
特に、本実施形態によれば、発生時間が不定期で垂直面内の特定の方向から到来するダクト干渉波に起因したダクト干渉信号の受信電力(ダクト干渉波電力)が変化する場合でも、ダクト干渉信号の抑圧に用いるウェイトwを柔軟に最適値又は準最適値に更新することができるため、干渉信号を適応的に且つ精度よく抑圧することができる。
【0067】
なお、上記各実施形態では、ダクト干渉信号を抑圧する場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。また、本発明は、基地局10の基地局アンテナ40で受信する受信信号にダクト干渉信号以外の到来方法が変化する可能性がある干渉信号が含まれる場合にも同様に適用することができ、同様な効果が得られるものである。
【0068】
また、本明細書で説明された処理工程並びに基地局における基地局装置及び干渉抑圧装置の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0069】
ハードウェア実装については、実体(例えば、基地局装置、干渉抑圧装置、通信端末、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0070】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、上記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、FLASHメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0071】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【課題】発生時間が不定期で垂直面内の特定の方向から到来する干渉波に起因した干渉信号の受信電力が変化する場合でも、その干渉信号を適応的に且つ精度よく抑圧することができる基地局、干渉抑圧装置及び干渉抑圧方法を提供する。
【解決手段】通信端末と無線通信するための第1アンテナで受信した第1受信信号から干渉信号を分離して検出し、第1アンテナの位相中心点を通過する仮想鉛直線上の上方向又は下方向に所定距離だけ離れた位置に位相中心点を有する第2アンテナで受信した第2受信信号から干渉信号を分離して検出し、第1受信信号又は第2受信信号から分離した干渉信号の受信電力を測定する。干渉信号の受信電力が第1閾値以上か否か又は第1閾値よりも大きいか否かを判断し、判断が肯定の場合にウェイトを計算し、判断が否定の場合にウェイトとしてゼロに設定し、第2受信信号にウェイトを乗算した信号を第1受信信号から減算する。