特許第6374047号(P6374047)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6374047浸出可能なフルオリドイオン含量が低い、放射線照射されたフルオロポリマー物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374047
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】浸出可能なフルオリドイオン含量が低い、放射線照射されたフルオロポリマー物品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20180806BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20180806BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20180806BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20180806BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20180806BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   C08J5/00
   C08L27/12
   C08L27/16
   C08K3/22
   C08K3/24
   C08K5/098
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-51717(P2017-51717)
(22)【出願日】2017年3月16日
(62)【分割の表示】特願2014-512955(P2014-512955)の分割
【原出願日】2012年5月23日
(65)【公開番号】特開2017-115161(P2017-115161A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2017年3月22日
(31)【優先権主張番号】61/489,826
(32)【優先日】2011年5月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】サエイド・ゼラファティ
【審査官】 柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−342241(JP,A)
【文献】 特開2004−263038(JP,A)
【文献】 特開2004−043736(JP,A)
【文献】 特開2002−327068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/00−27/24
C08K 3/00−13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体と接触するであろう少なくとも1層のフルオロポリマー組成物層を含む、放射線照射されたフルオロポリマー物品であって、
前記フルオロポリマー組成物が、
a)フッ化ビニリデンモノマー単位を70重量%超の割合で有するポリフッ化ビニリデンポリマーと、ポリエチレントリフルオロエチレンとから成る群から選択される1種以上のフルオロポリマーと、
b)50〜50,000ppmの酸化亜鉛及び随意としての少なくとも1種の他の金属塩または金属酸化物と
のブレンドを含み、
前記フルオロポリマー組成物が、予め40〜50KGrayの放射線に曝露されている、放射線照射されたフルオロポリマー物品。
【請求項2】
前記放射線が、ガンマ線、アルファ線、ベータ線、およびX線からなる群から選択される、請求項1に記載の放射線照射された物品。
【請求項3】
前記物品が、多層の物品である、請求項1に記載の放射線照射された物品。
【請求項4】
前記の他の金属塩または金属酸化物が、リン酸アニオン、硫酸アニオン、塩化物アニオン、酸化物アニオン、酢酸アニオン、およびギ酸アニオンからなる群から選択されるアニオン、ならびにマグネシウム、カルシウム、カリウム、およびナトリウムからなる群から選択されるカチオン、から形成されている、請求項1に記載の放射線照射された物品。
【請求項5】
前記フルオロポリマー組成物が、500ppm〜10,000ppmの前記酸化亜鉛を含む、請求項1に記載の放射線照射された物品。
【請求項6】
滅菌された、請求項1〜5のいずれかに記載の放射線照射された物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも5キログレイの放射線を用いて放射線照射されたフルオロポリマー物品に関するが、そのようにして得られた物品は、浸出可能または抽出可能なフルオリドイオンを低レベルでしか含んでいない。その放射線照射された物品からのフルオリドイオンの浸出が低いということは、そのフルオロポリマー組成物の中に低レベルの金属の塩または酸化物が存在しているということに関係がある。本発明は、そのフルオロポリマー層が生物学的流体または薬物学的流体と接触し、そしてその物品が放射線照射による滅菌にかけられるような、フルオロポリマー物品においては特に有用である。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデンCF2=CH2(VDF)をベースとするポリマー、たとえば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)のホモポリマーおよびコポリマーが、優れた機械的安定性、極めて大きい化学的不活性、および良好な耐老化性を与えることは公知である。これらの特質は、広い応用分野において有用である。
【0003】
フルオロポリマーに対しては、それらの性質を改良する目的で、添加剤が添加されることが多い。例:難燃性(米国特許第7,642,313号明細書)、および加熱加工後の白色度(米国特許第7,045,584号明細書および米国特許第7,012,122号明細書に記載されているような、酢酸ナトリウムの添加)。フルオロポリマーの白色度を改良する目的で、TiO2およびZnOのような白色顔料が添加されてきたが、加熱加工の間に、その白色度が低下する可能性がある。
【0004】
米国特許第7,192,646号明細書には、燃料ホースの中で使用されるフルオロエラストマーの中で、5〜15パーセントの酸受容体を使用することが記載されている。その酸受容体としては、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、リサージ、二塩基性リン酸鉛、酸化カルシウム、および酸化亜鉛が挙げられる。
【0005】
フルオロポリマーの放射線照射は、たとえば官能基をグラフトさせるため(たとえば、米国特許第7,241,817号明細書に記載されているように、フルオロポリマーの上に無水マレイン酸をグラフトさせるため)、分岐を与えて性能を向上させるため(米国特許第7,514,480号明細書)、およびフルオロポリマーを含む物品を滅菌するため(米国特許第5,516,564号明細書)など、いくつかの理由から実施される。
【0006】
多くの高純度操作では、クリーンで、清浄な、加工環境および容器が必要とされる。それらの用途において使用されるポリマーは、耐薬品性が極端に高く、容易に滅菌できるもので無ければならない。高純度ポリマーは、高純度流体、生物学的および生物医学的媒体、さらには高純度の化学薬品および反応剤のための、バッグその他の容器を含めた応用において用途を見出している。フルオロポリマー物品は必ずしも、スチームオートクレーブ中で容易に滅菌できる訳ではないが、その理由は、それらが互いに溶融して、使い物にならなくなるためである。
【0007】
フルオロポリマーは、それらの安定性で知られており、フルオロポリマーからフルオリドイオンが浸出または抽出されるのは極めて困難である。
【0008】
残念ながら、放射線およびその他の高エネルギー放射線照射に曝露されたフルオロポリマーは、いくつかのポリマー結合の切断が起きる可能性があり、炭素−炭素二重結合(これは、変色の原因となりうる)を生成して、少量のフルオリドイオンおよび小さいフルオリド含有分子を放出する可能性がある。フルオロポリマーの重合において使用されるその他のフッ素化化合物、残存するモノマーおよびオリゴマーもまた、フルオリドイオンおよび小さいフルオリド含有分子を放出する可能性がある。フッ素イオンに加えて、その他の浸出可能なフッ素含有小分子としては、HF、フッ素含有モノマーおよびオリゴマー、ならびにフッ素化界面活性剤などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。フルオリドイオンは反応性が極めて高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7,642,313号明細書
【特許文献2】米国特許第7,045,584号明細書
【特許文献3】米国特許第7,012,122号明細書
【特許文献4】米国特許第7,192,646号明細書
【特許文献5】米国特許第7,241,817号明細書
【特許文献6】米国特許第7,514,480号明細書
【特許文献7】米国特許第5,516,564号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
抽出可能なフルオリドイオンの濃度は低いけれども、そのレベルをさらに下げることが望まれている−−特に、そのフルオロポリマーが、人体と接触するか、または生体系に接触させることを目的としている流体と接触するような用途においては、そうである。これらの場合においては、浸出可能または抽出可能なフッ素化合物は、人体が受容可能なレベルまで最小化させる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことには、フルオロポリマーに対して低レベルのいくつかの金属塩または金属酸化物を添加すると、それらの容器の中に収納されている物質の中へのフルオリドイオンの移行が、特にそのフルオロポリマーが放射線照射処理を受けた後でも、実質的に抑制されるということが今や見出された。
【0012】
本発明のさらなる効果は、フルオリドイオン濃度を下げると、そのフルオロポリマーの着色も減少して、より白色度の高い物品が得られる傾向があるということである。
【0013】
本発明は、流体と接触することになるであろう少なくとも1層のフルオロポリマー組成物層を含む、放射線照射されたフルオロポリマー物品に関するが、ここで、前記フルオロポリマー組成物には、少なくとも1種のフルオロポリマーおよび50〜50,000ppmの少なくとも1種の金属塩または金属酸化物が含まれ、そして前記フルオロポリマー組成物が、少なくとも5KGrayの放射線に予め曝露されている。
【0014】
本発明はさらに、滅菌したフルオロポリマー物品にも関し、前記フルオロポリマー組成物が、50〜50,000ppmの少なくとも1種の金属塩または金属酸化物を含み、そしてそのフルオロポリマーが、少なくとも20KGrayの放射線に予め曝露されているが、ここで、前記物品を厚み2ミルのバッグに成形し、25〜50KGrayのガンマ線を照射し、80%滅菌注射用水(strill water for injection)/20%エタノールの溶液を用いて充填し、表面対液体容積の比率を2.2cm2/lとして、40℃で14日間経過したときに、抽出されるフルオリドイオンが10ppm未満である。
【0015】
本発明はさらに、滅菌したフルオロポリマー物品を形成するための方法にも関し、それには、フルオロポリマーに500〜50,000ppmの金属塩または金属酸化物を添加してフルオロポリマー組成物を形成する工程、それに続けて、そのフルオロポリマー組成物を成形して物品とする前か(好ましくは)後かのいずれかに、そのフロウロポリマー組成物に放射線照射する工程、が含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、少なくとも1種のフルオロポリマーおよび低レベルの少なくとも1種の金属塩または金属酸化物を含む、フルオロポリマー組成物に関する。これらの組成物は、放射線照射の後では、浸出可能なフルオリドイオン含量が極めて低いことが見出された。
【0017】
特に断らない限り、パーセントはすべて重量パーセントであり、提示された分子量はすべて重量平均分子量である。本明細書に引用されたすべての参考文献は、参照することにより取り入れたものとする。
【0018】
フルオロポリマー
本発明において有用なフルオロポリマーは、少なくとも50重量パーセントの1種または複数のフルオロモノマー、好ましくは少なくとも75重量パーセントのフルオロモノマー、より好ましくは80〜100重量パーセントのフルオロモノマーを含むものである。本発明において使用するとき、「フルオロモノマー」という用語は、フリーラジカル重合反応をすることが可能な、フッ素化されたオレフィン系不飽和モノマーを意味している。本発明において使用するのに適したフルオロモノマーとしては以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン(TFE)、エチレンテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、およびそれらそれぞれのコポリマー。好ましいフルオロポリマーは、ポリフッ化ビニリデンのホモポリマー(PVDF)またはそのコポリマー、ポリテトラフルオロエチレンのホモポリマーまたはそのコポリマー、ポリエチレントリフルオロエチレン(ETFE)、およびクロロトリフルオロエチレン(CTFE)である。フルオロターポリマーもまた考えられるが、それに含まれるのは、たとえばテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペンおよびフッ化ビニリデンモノマー単位を有するようなターポリマーである。
【0019】
一つの好ましい実施態様においては、そのフルオロポリマーがポリフッ化ビニリデンである。本発明のポリフッ化ビニリデンポリマーには、フッ化ビニリデン(VDF)を重合させることにより作製したホモポリマー、ならびにフッ化ビニリデンのコポリマー、ターポリマーおよびさらに高次のポリマー(本明細書においては群として「コポリマー」と呼ぶ)が含まれるが、ここで、そのフッ化ビニリデン単位は、そのポリマー中の全部のモノマー単位を合計した重量の70パーセントを超えて含まれ、モノマー単位を合計した重量のより好ましくは75を超えて、より好ましくは80重量パーセントを超えて含まれる。フッ化ビニリデンのコポリマー、ターポリマー、およびさらに高次のポリマーは、フッ化ビニリデンを、以下のものからなる群からの1種または複数のモノマーと反応させることによって作成することができる:フッ化ビニル、トリフルオロエテン、テトラフルオロエテン、部分的または全面的にフッ素化されたアルファ−オレフィンたとえば、3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、3,3,3,4,4−ペンタフルオロ−1−ブテン、およびヘキサフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(1234yf)の1種または複数、部分的にフッ素化されたオレフィン、ヘキサフルオロイソブチレン、ペルフルオロ化ビニルエーテルたとえば、ペルフルオロメチルビニルエーテル、ペルフルオロエチルビニルエーテル、ペルフルオロ−n−プロピルビニルエーテル、およびペルフルオロ−2−プロポキシプロピルビニルエーテル、フッ素化ジオキソールたとえば、ペルフルオロ(1,3−ジオキソール)およびペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、アリル型、部分フッ素化アリル型、もしくはフッ素化アリル型モノマーたとえば、2−ヒドロキシエチルアリルエーテルもしくは3−アリルオキシプロパンジオール、ならびにエテンまたはプロペン。
【0020】
好ましいコポリマーとしては、約71〜約99重量パーセントのVDFとそれに見合う約1〜約29パーセントのTFEとを含むもの:約71〜99重量パーセントのVDFとそれに見合う約1〜29パーセントのHFPとを含むもの、ならびに約71〜99重量パーセントのVDFとそれに見合う約1〜29重量パーセントのクロロトリフルオロエチレン(CTFE)とを含むもの、が挙げられる。
【0021】
最も好ましいPVDFコポリマーとしては、2〜30重量パーセントのHFPを有するもの、たとえばKYNAR FLEX 2850、2750、および2500樹脂(Arkema Inc.)が挙げられる。
【0022】
本発明はすべてのフルオロポリマーに適用されるが、本明細書においては、ポリフッ化ビニリデンに関連づけて本発明を説明することとする。当業者であれば、本明細書の教示を使用して、この技術を他のフルオロポリマー組成物にも適用することが可能である。
【0023】
金属塩または金属酸化物
フルオロポリマー組成物の中に低レベルの金属塩または金属酸化物を添加すると、そのフルオロポリマー組成物から形成された物品を放射線に曝露させた後では、フッ素イオンの移行を実質的に抑制することが可能であるということが見出された。極めて低レベルのフルオリドイオンおよびそれに対応する添加されたカチオンが、液状媒体を曝露させた後では、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)から浸出される。PVDF組成物を放射線に曝露させると、浸出可能なフルオリドイオンのレベルが実質的に上昇するが、それに対して、浸出されるカチオンのレベルには顕著な変化はない。たとえば、フルオロポリマー組成物に低レベルの酸化亜鉛(ZnO)を添加すると、このフルオロポリマー組成物から形成し、放射線に曝露させた物品では、浸出可能なフルオリドイオンのレベルが劇的に低下するが、浸出可能なカチオンはわずかしか増加しないということが見出された。浸出されるZnカチオンの量は、そのPVDFへのZnO添加量に比例する。
【0024】
本発明において使用される金属塩および金属酸化物の選択に影響する、いくつかの因子が存在する。それらは、以下の因子である:
1)塩または酸化物の表面対重量の比率。一般的に、粒径がより小さい物質が、浸出可能なフルオリドイオンを抑制するのに、より有効である。しかしながらいくつかの場合においては、たとえば酸化亜鉛の場合のように、浸出可能なフルオリドイオンのレベルを抑制させるのに、マイクロサイズの酸化亜鉛の方が、ナノサイズの酸化亜鉛よりも効果が高い。
2)高い価電子数を有する金属原子の方が、フルオリドイオンまたはフッ素含有分子との反応における効果が高い。
3)押出し加工の際の取扱いおよび加工において、その塩が、自由流動性である必要がある。このことは、それらの粒子が、大気の湿分に曝露されたときに、相互に粘着しないということも意味している。これは重要であるが、その理由は、いくつかの場合においては、一次粒子は極めて微細ではあるが、湿分に曝露させると、それらが相互に粘着して、それらの表面対重量の比率が実質的に低くなってしまうからである。さらに、水溶性の塩は、水系の流体の中に容易に浸出する傾向がある。
4)最も重要なことであるが、それらの塩が生体に対して有毒ではなく、好ましくは生体との適合性が極めて高いものであるべきである。そのフルオロポリマー組成物が、生体系と接触する物品の表面を形成していたり、あるいは生体系と接触するであろう流体を含んでいたりする場合には、カチオンのレベルは、その生体に有毒であるよりも低いレベルでなければならない。浸出されるイオン(アニオン、カチオンの両方)が、細胞の成長を阻害したり、その他の有害な影響を及ぼしたりする可能性があることは、公知である。
【0025】
放射線照射の後で、浸出されるフルオリドイオンのレベルは、10ppm未満、好ましくは5ppm未満、より好ましくは1ppm未満、さらにより好ましくは500ppb未満、最も好ましくは100ppb未満であるべきである。多くの自治体では、供給する飲料水に、フッ化ナトリウムを約1ppm以下のレベルで添加しているということに、注意されたい。浸出可能なイオンのこのレベルは、25〜50KGray、好ましくは40〜50KGrayのガンマ線を用いて照射した厚みが2ミルのPVDFバッグから、表面対容積比が2.2cm2/lで80%の滅菌注射用水(SWFI)および20%のエタノールの混合物を含み、40℃で14日間貯蔵した後で浸出可能なイオンを基準にしたものである。
【0026】
浸出可能なフルオリドイオンのレベルを抑制する一方で、浸出可能なカチオンのレベルもまた最小化して、それらのカチオンの有毒レベルよりも下とする必要がある。いくつかのアニオンおよびカチオンが生体中には存在し、細胞代謝にとって必要であるということは公知である。そのようなものとしては、ヒトの血清中の平均通常濃度として、以下のものが挙げられる:ナトリウム(3200ppm)、カルシウム(100ppm)、カリウム(170ppm)、マグネシウム(20ppm)および亜鉛(1ppm)カチオン、さらには硫酸塩、リン酸塩、塩化物、炭酸塩、および重炭酸塩アニオン。
【0027】
本発明において最も有用な金属塩は、生体との適合性があるカチオンおよびアニオン(ヒトの血清なかに比較的高い濃度を有しているもの)を含むように選択する。好適なカチオンは、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、および亜鉛であり、それに対して好適なアニオンとしては、リン酸塩、硫酸塩、塩化物、酸化物、酢酸塩、およびギ酸塩などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。人体は、高レベルのナトリウムイオンに耐えることができるので、ナトリウム塩が好ましいが、ただし、ナトリウム塩は他の多くの塩よりも水溶性が高い傾向があり、浸出性が上がり、また大量の水を吸収する。カルシウム塩およびカリウム塩はいずれも似た分子量を有しているが、しかしながら、カルシウムは二つの価電子を有しており、このことは、類似量を添加したときに、カルシウムはカリウムの2倍の効果を有しているということを意味している。マグネシウムは、ナトリウムおよびカルシウムよりもほぼ40%軽く、また二つの電子価を有しているという利点を持ってはいるが、しかしながら、このイオンの血液中濃度は、カルシウムの約1/5である。亜鉛もまた、二つの価電子を有していて好ましいカチオンではあるが、カルシウムよりも約60%重い。
【0028】
硫酸塩、リン酸塩、塩化物、炭酸塩、および重炭酸塩アニオンに加えて、硝酸塩アニオンもまた有用である。酸化物も、人体に対して毒性を有さず、軽量であるので、好ましいアニオンである。酢酸塩、ギ酸塩、ステアリン酸塩、オキシレート、およびその他の有機アニオンもまた好ましいが、その理由は、それらが炭素、水素および酸素しか含まず、一般的に生体適合性があるからである。酸化亜鉛は、安定で、非吸湿性で、水溶性が低いので、特に好ましい。本発明の有用な塩および酸化物としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:
ナトリウム塩:
酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム三水和物、アルミン酸ナトリウム、塩化アルミニウムナトリウム、リン酸アンモニウムナトリウム、硫酸アンモニウムナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、ケイ皮酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、エナント酸ナトリウム、エチル硫酸ナトリウム、フルオロアルミン酸ナトリウム、フルオロホウ酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、フルオロ酢酸ナトリウム、フルオロスルホン酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、モノグルタミン酸ナトリウム、グリセロリン酸ナトリウム水和物、水酸化ナトリウム、硫酸マグネシウムナトリウム、酒石酸マグネシウムナトリウム、ナトリウムメトキシド、メチル硫酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、過酸化ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ペントバルビタールナトリウム、ナトリウムフェノキシド、次リン酸ナトリウム、次リン酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、亜セレン酸ナトリウム、スズ酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硫酸リチウムナトリウム、塩化ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酒石酸アンモニウムナトリウム、三ケイ酸アルミン酸ナトリウム。
カルシウム塩:
酢酸カルシウム、酢酸カルシウム二水和物、酢酸カルシウム一水和物、酪酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩素酸カルシウム、塩化カルシウム、アルミン酸塩化カルシウム、次亜塩素酸カルシウム、ケイ皮酸カルシウム、クエン酸カルシウム、フルオロケイ酸カルシウム、ギ酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、水酸化カルシウム、マレイン酸カルシウム、マレイン酸カルシウム、硝酸カルシウム、酸化カルシウム、フェノールスルホン酸カルシウム、カルシウムフェノキシド、リン酸カルシウム、亜リン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、サリチル酸カルシウム、硫化カルシウム、硫酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、タングステン酸カルシウム、ホウ酸カルシウム、亜塩素酸カルシウム、フマル酸カルシウム、イソブテン酸カルシウム、乳酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、リノール酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウムマグネシウム、ケイ酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、コハク酸カルシウム、酒石酸カルシウム。
マグネシウム塩:
酢酸マグネシウム、酢酸マグネシウム二水和物、酢酸マグネシウム一水和物、酪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩素酸マグネシウム、塩化マグネシウム、アルミン酸塩化マグネシウム、次亜塩素酸マグネシウム、ケイ皮酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、フルオロケイ酸マグネシウム、ギ酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、マレイン酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酸化マグネシウム、フェノールスルホン酸マグネシウム、マグネシウムフェノキシド、リン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、プロピオン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、硫化マグネシウム、硫酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タングステン酸マグネシウム、ホウ酸マグネシウム、亜塩素酸マグネシウム、フマル酸マグネシウム、イソブテン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ラウリン酸マグネシウム、リノール酸マグネシウム、オレイン酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、亜硝酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、酒石酸マグネシウム。
カリウム塩:
酢酸カリウム、アルミン酸カリウム、アルミノケイ酸カリウム、酒石酸アンモニウムカリウム、安息香酸カリウム、ホウ酸カリウム、ボロキシル酸カリウムカリウム(potassium boroxylate)、塩素酸カリウム、塩化カリウム、炭酸カリウム、硫酸マグネシウムカリウム、クエン酸カリウム、エチル硫酸カリウム、フルオロホウ酸カリウム、ギ酸カリウム、フッ化カリウム、水酸化カリウム、乳酸カリウム、塩化マグネシウムカリウム、セレン酸マグネシウムカリウム、硫酸マグネシウムカリウム、塩化マグネシウムカリウム、メチル硫酸カリウム、モリブデン酸カリウム、ナフタレンジスルホン酸カリウム、硝酸カリウム、オレイン酸カリウム、シュウ酸カリウム、酸化カリウム、リン酸カリウム、フタル酸カリウム、プロピオン酸カリウム、プロピル硫酸カリウム、サリチル酸カリウム、サントニン酸カリウム、ケイ酸カリウム、タングステン酸カリウム、炭酸ナトリウムカリウム、硫酸ナトリウムカリウム、酒石酸ナトリウムカリウム、ソルビン酸カリウム、スズ酸カリウム、ステアリン酸カリウム、コハク酸カリウム、硫酸カリウム、硫化カリウム、酒石酸カリウム、タングステン酸カリウム、キサントゲン酸カリウム、硫酸アルミニウムアンモニウムカリウム、塩化マグネシウムカリウム、硫酸マグネシウムカリウム、炭酸カリウム、ラウリン酸カリウム、リンゴ酸カリウム、メチオン酸カリウム、亜硝酸カリウム。
亜鉛塩:
酢酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酪酸亜鉛、塩素酸亜鉛、塩化亜鉛、クエン酸亜鉛、フッ化亜鉛、フルオロケイ酸亜鉛、ホルムアルデヒドスルホキシル酸亜鉛、ギ酸亜鉛、乳酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、硝酸塩、オレイン酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、酸化亜鉛、リン酸亜鉛、セレン酸亜鉛、硫酸亜鉛、硫化亜鉛、酒石酸亜鉛、吉草酸亜鉛、亜硫酸亜鉛、ピクリン酸亜鉛、水酸化亜鉛、次亜リン酸亜鉛。
【0029】
PVDFに添加する金属塩のレベルは、50〜50,000ppm、好ましくは100〜10,000ppm、より好ましくは500〜5,000ppmの範囲である。その下限は、放射線照射の後で、浸出可能なフルオリドイオンおよびその他の小さいフッ素含有分子のレベルを顕著に低下させるのに必要な塩の有効レベルを表している。その上限は、浸出可能なフルオリドイオンの抑制を与えるのなら限度はないが、しかしながら過剰のカチオンは、そのフルオロポリマー組成物のその他の性質に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0030】
ブレンド工程
本発明のフルオロポリマー組成物は、フルオロポリマーを1種または複数の金属塩または金属酸化物とブレンドすることによって形成される。そのブレンド工程は、各種の公知の方法で実施することができる。一般的には、フルオロポリマーへの塩または酸化物の添加は、重合の後、(特に水溶性の塩の場合には)各種水洗に続けて実施されるであろう。しかしながら、金属塩または金属酸化物を、各種の時点でポリマーラテックスの中に添加するというのも、本発明の範囲内である。ポリマーラテックスと、塩または酸化物の溶液/懸濁液を共スプレー乾燥して、フルオロポリマー組成物を形成させることも可能である。プロセスの凝結の段階で、金属塩を単一の凝結剤として、あるいは他の凝結剤との混合物として添加することができる。乾燥させたフルオロポリマー粉体を金属塩または金属酸化物とドライブレンドすることもできるし、あるいはさらに、フルオロポリマーと金属塩または金属酸化物を加工ユニット(たとえばエクストルーダー)の中に別々に加えて、ペレット化または最終的な物品への成形の直前にメルトブレンドしてもよい。
【0031】
フルオロポリマーおよび本発明の金属塩または金属酸化物に加えて、ポリマー組成物には、顔料、染料、充填剤、界面活性剤、難燃剤、抗酸化剤、熱安定剤、およびPVDFとの混和性があるその他のポリマー(これらに限定される訳ではない)のような1種または複数の典型的な添加剤を、低いレベル、一般的には合計して5重量パーセント未満、高純度用途では好ましくはもっと低い量で含んでいてもよい。
【0032】
本発明のフルオロポリマー組成物は、公知の方法、たとえば押出し成形法もしくは共押出し成形法、コーティング法、射出成形法、回転成形法、粉体コーティング法、流動床コーティング法、および吹込み成形法などによって、物品に成形される。本発明のフルオロポリマー組成物は、物品の、流体と接触する側(一般的にはチューブ、コンテナー、バッグまたはベッセルのための内側表面)の上にあるが、ただし、たとえば、両側で流体と接触するカテーテルのような物品では、両側に存在させてもよい。インプラントでは、インプラントの外側上にフルオロポリマーを有することになる。その物品は、単層、または多層の物品とすることができる。その物品のフルオロポリマー層は、少なくとも1ミルの厚みを有する。本発明のフルオロポリマー物品としては、以下のものが挙げられる(これらに限定される訳ではない):コンテナー(食料品、ミルク、水、媒体、血液、静脈送達(IV)および医薬品のための溶液用を含む)、取り付け部品(fittings)、フィルター、チューブ、バッグ、毛細管、ピペット、注射器、ベッセル、使い捨ての反応器および反応器ライナー、コネクター、スターラー、パイプ、射出成形物品、および包装材(食品包装材を含む)。一つの実施態様においては、多層フィルムを成形し、次いでそのエッジ部分を、加熱シーリングまたは高周波によって他のフィルムと接着させて、バッグを成形する。また別な実施態様においては、フルオロポリマー組成物をレーザー焼結法によって成形するが、それには、骨や関節の代替えのような物品が含まれる。
【0033】
放射線照射は、一般的には成形した後の物品に実施されるが、ポリマーのグラフト化や、性能改善のための放射線照射のようないくつかの場合においては、最終的な物品に組み上げるより前に、ポリマーの粉体に放射線照射を実施することもできる。一つの実施態様においては、滅菌の目的で物品を放射線エネルギーに曝露させる。本明細書で使用するとき、「滅菌した(sterile)」または「滅菌(sterilization)」という用語は、すべての形態の微生物を死滅させることを意味している。放射線に対する曝露は、フルオロポリマー組成物が流体と接触するより前に実施することができるが、いくつかの場合においては、フルオロポリマー組成物の内側層を有するバッグを成形し、流体(たとえば血清、食塩溶液、医薬品、またはその他の流体)で充填し、そのバッグと内容物の放射線照射を単一の工程で実施するということも可能である。本発明のポリマー組成物の滅菌には、加熱滅菌(オートクレーブ)も含むことができる。滅菌を達成させるために熱エネルギーをある程度の時間と強度でかけると、一般的にはフルオリドイオンの増加がもたらされるが、それでも本発明の組成物では、抽出可能なフルオリドイオンが、10ppm未満、好ましくは1ppm未満、より好ましくは500ppb未満、最も好ましくは100ppb未満のレベルになるであろう。
【0034】
本発明において使用される放射線照射の形態には、以下のものが含まれるが、これらに限定される訳ではない:アルファ線、ベータ線、ガンマ線、レーザーエネルギー、電子ビーム、X線、マイクロ波、高周波(たとえば、フルオロポリマーを融着させるためのもの)。滅菌のためには、電子ビーム(e−ビーム)およびガンマ線が特に好ましい。滅菌のための放射線曝露のレベルは、5KGrayより大、好ましくは10KGrayより大、より好ましくは20〜70KGray、さらにより好ましくは25〜40KGrayである。放射線照射のレベルが低すぎると、滅菌が起きなく、フルオロポリマー結合の切断も少ない。放射線照射のレベルが高すぎると、フルオロポリマーの物理的性質に悪影響がでる。
【0035】
以下の実施例において、本発明を実施するにあたって本願発明者らが考え得るベストモードをさらに説明するが、それらは本発明を説明のためと受け取るべきであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0036】
実施例1
KYNAR RX 801 HPC(Arkema Inc.製のポリフッ化ビニリデンコポリマー)のサンプルを、18mmのLeistritzエクストルーダー中で、FDAグレードのAZO 66USP ZnOを0、500、1,000、2,000、および3,000ppmの担持量で用いてコンパウンディングした。そうして得られたペレットを、次いで、40〜50kGyでガンマ線照射し、20%EtOH/80%SWFIの溶液中40℃で14日間曝露させた。ポリマーを単一層または多層のバッグに成形し、流体を用いて充填して抽出可能物の試験する方法よりも、材料も時間も少なくてすむ代替えの方法として、このペレット試験を使用した。溶液の中に浸出したアニオンおよびイオン類の特性解析には、クロマトグラフィーとイオン結合プラズマを使用した。以下の表で、結果を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
上述の結果からもわかるように、わずか500ppmのZnOを添加するだけで、浸出されるフルオリドイオンの量を、放射線照射の前では0.31ppmから0.09ppmへ、放射線照射の後では18.5ppmから2.1ppmへと低下させていた。500ppmのZnOを添加しても、約0.1ppmの亜鉛カチオンしか浸出されなかった。放射線照射は、浸出される亜鉛イオンの量には大きな影響を与えないように見えるが、しかしながら、ZnOの量をさらに増やすと、浸出される亜鉛カチオンのレベルも高くなる。浸出されるフルオリドイオンの量は、液体の容積に対するPVDFの重量の関数であるように見える。内側に2ミルのPVDFを有するバッグでは、浸出可能物の量は、上で示した値よりは低くなると予想されるが、浸出されるイオンの相対的な増減は同じに留まるはずである。