(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、極高温ないし極低温環境の過酷な温度変動に対しても、優れた接合強度および機械的強度を維持できる接合構造部を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、金属間化合物および金属母相を含み、金属体または合金体を接合している接合構造部であって、前記金属母相に空隙を存在させ、その存在割合を適切に設定することによって前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の通りである。
【0008】
1.金属間化合物および金属母相を含み、金属体または合金体を接合している接合構造部であって、
前記金属間化合物は、SnおよびCuを含み、
前記金属母相は、Sn−Cu合金および空隙を含み、
前記接合構造部に対する前記空隙の体積比率が、5%〜50%である、
ことを特徴とする接合構造部。
2.前記接合構造部が、Al、Ni、Si、Ag、Au、Pt、B、Ti、Bi、In、Sb、Ga、Zn、CrおよびCoから選択された少なくとも1種の金属を含むことを特徴とする前記1に記載の接合構造部。
3.前記接合構造部は、前記金属間化合物を3〜85体積%含むことを特徴とする前記1または2に記載の接合構造部。
4.前記金属間化合物および前記金属母相が、エンドタキシャル接合してなることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の接合構造部。
5.前記金属母相および前記金属体または合金体が、エピタキシャル接合してなることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載の接合構造部。
6.前記1〜3のいずれかに記載の接合構造部を有する、半導体装置。
【発明の効果】
【0009】
一般的に、Snは常温では正方晶のβ−Snとして存在するが、13℃以下の低温になると立方晶のα−Snに変態移行する。また、β−Snは161〜200℃の高温領域で斜方晶のγ−Snに変態移行し、これらの結晶状態の変態時に結晶の体積膨張・収縮が生じる。本発明者の検討によれば、このような現象は、Sn−Cu合金にも見られる現象であることが判明した。
本発明の接合構造部は、SnおよびCuを含む金属間化合物とSn−Cu合金を含む金属母相とを含み、前記金属母相中に空隙が特定範囲で存在しているため、温度変化による上記結晶状態の変態が起きても空隙にて応力吸収が行われ、金属間化合物及び金属母相への応力衝撃が緩和される。また、本発明の接合構造部は、金属間化合物による高温耐熱性を有し、空隙を含む金属母相によって高い柔軟性をも兼ね備える。したがって、極高温ないし極低温環境の過酷な温度変動に対しても、優れた接合強度および機械的強度を維持することができる。
また、本発明の接合構造部は、前記金属間化合物および前記金属母相が、エンドタキシャル接合を形成し得る。エンドタキシャル接合は、Sn−Cu合金を含む金属母相中に金属間化合物が溶融時に反応析出し固化時に金属母相との結合した状態で発現し、両者が格子間レベルで接合している形態である。このようなエンドタキシャル接合によって、両者の接合強度を非常に高く保つことができ、金属間化合物の脆さを克服できる。
さらに、本発明の接合構造部は、前記金属母相および前記金属体または合金体が、エピタキシャル接合を形成し得る。エピタキシャル接合とは、下地の金属または合金体(例えば電極)界面上に結晶成長が行われ、下地の結晶面と、金属母相のSn−Cu合金とが結晶面同士で接合している状態を意味する。エピタキシャル接合によって、電極界面の結晶構造が安定し、その結果、本発明の接合構造部は、極高温ないし極低温環境の過酷な温度変動に対しても、長期にわたって高い耐熱性、接合強度及び機械強度が維持されることになる。
このように本発明によれば、極高温ないし極低温環境の過酷な温度変動に対しても、優れた接合強度および機械的強度を維持できる接合構造部を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
先に、本明細書において使用する用語について、次の通りに定義しておく。
(1)金属というときは、金属元素単体のみならず、複数の金属元素を含む合金、金属間化合物のコンポジット構造、又それらの組み合わせを含むことがある。
(2)ナノとは、1μm(1000nm)以下の大きさをいう。
(3)金属母相とは、その他の成分を用いてバルク化したときに、それらを支持する母材となる金属又は合金のことをいう。
(4)エント゛タキシャル接合構造とは、金属、合金となる物質中に他(金属間化合物)の物質が存在してなおかつ、対象となる物質間との結晶格子レベルでの接合状態にて結晶粒を構成する構造(例えば合金間、金属間、金属間化合物間)である。
【0012】
本発明の接合構造部においては、前記各成分を特にIMCC ( Intermetallic compound composite:金属間化合物複合化)処理することにより、金属間化合物からなる骨格構造(Skeleton)を形成することができる。なお、一般的にCu粒子をはんだ材料と単に反応させた場合は、Cu粒子表面に鱗状(Scallop)の金属管化合物(IMC)層が形成されるのみであり、本発明の特徴的な金属母相の空隙や、前記骨格構造を形成するには至らず、本発明の求める効果を得ることができない。
そこで本発明者は検討を重ねた結果、シランカップリング剤がコーティングされたCu粒子と、下記で説明する特定の金属粒子とを用い、金属母相に空隙を存在させ、また好適には前記金属間化合物および前記金属母相間のエンドタキシャル接合と、前記金属母相および前記金属体または合金体間のエピタキシャル接合とを共に形成させることにより、極高温ないし極低温環境の過酷な温度変動に対しても、優れた接合強度および機械的強度を維持できる接合構造部を提供できることを見出した。
一般的にシランカップリング剤は、水分により加水分解されてシラノールとなり、部分的に縮合してオリゴマー状態となる。この反応に続き、シランカップリング剤は無機質表面(金属表面)に水素結合などにより吸着する。その後、乾燥させることにより脱水縮合反応を起こし強固な化学結合を形成する。
本発明者の検討によれば、Cu粒子表面にシランカップリング剤の層を形成し、加熱過程での蒸散成分をTG-DTA分析すると、140℃付近までの領域では水などの揮発性成分による減量が起こり、250℃を超える領域ではシランカップリング剤の縮合が、そしてさらに高温の領域ではシリカ粒子に結合している有機成分の分解による減量が生じることが分かった。更にEGA分析を行うと、高温域でのシランカップリング剤の熱分解ではベンゼンが生じていることが確認された。これまで、コーティング剤としてのシランカップリング剤の構造が壊れて蒸散が起きるのは180℃〜190℃の温度領域とされてきたが、本発明者の検討では、シランカップリング剤の昇温時の変化は、次のようになることが判明した。
140℃以下:水などの揮発成分蒸散が起きる。
250℃以上400℃未満:脱水縮合が生じる。
400℃以上:シランカップリング剤が分解し、ベンゼンが生成する。
なお、250℃以上での「脱水縮合」はシランカップリング剤の塗布乾燥処理時に形成される基本機能であったはずであるが、それが250℃以上の温度暴露において再度現れるということは、シランカップリング剤の塗布乾燥処理では脱水縮合前の状態(水素結合によるカップリング剤吸着状態)が一定以上存在することを示している。即ち、IMC-TLPS処理温度領域(250-300℃)ではCu粒子表面には水酸基が多く残留している状態であり、それらが介在することにより上記のようなガス生成を可能にしている。なお本発明者の検討によれば、シランカップリング剤の使用量を適切に設定することにより、金属母相中の空隙量を制御することができることが見出された。
また、シランカップリング剤は、乾燥過程において近傍のCu或いはSnと反応し、微小CuO/Cu
2O、 SnOとして接合領域内に分散される。残余の気体成分は空隙(マイクロボイド)として接合領域全体のCTE(線膨張係数)を低減させる。また、Siは4Cu96Sn領域(CuSn10)に取り込まれ、既にある4Cuと共にSn格子間距離を縮小する作用を持ち、IMCコロニーと4Cu96Sn領域(CuSn10)との格子間距離の整合に寄与する(エピタキシャル性)。
【0013】
本発明に使用されるシランカップリング剤がコーティングされたCu粒子において、シランカップリング剤の使用量は、Cu粒子に対し、例えば0.1wt〜1wt%であり、好ましくは0.3wt%である。この範囲でシランカップリング剤を使用することにより、例えばCu粒子表面の酸素量を、500ppm〜2000ppm、好ましくは800ppmに制御でき、本発明の接合構造部における空隙を形成し易くなる。
【0014】
シランカップリング剤としては、とくに制限されないが、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン類;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランやγ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン類;エポキシシラン類;ビニルシラン類等が挙げられる。シランカップリング剤は、使用時には蒸留水を用いて100〜1000倍に希釈した水溶液とすることが好ましく、さらに好ましくは、300倍に希釈した水溶液である。
【0015】
Cu粒子にシランカップリング剤をコーティングする方法としては、例えば前記のように調製したシランカップリング剤の水溶液を用い、Cu粒子:該水溶液の体積比を1:1として混合し、ドライスプレーで乾燥する方法等が挙げられる。
【0016】
シランカップリングのコーティングの厚みは、例えば2〜20nmであり、好ましくは10nmである。
【0017】
なお、本発明に使用されるCu粒子は、Cu単体であることができ、および/または、Cu合金であることもできる。
【0018】
本発明に使用される特定の金属粒子(以下、本発明の金属粒子と呼ぶことがある)は、金属母相および金属間化合物から構成されてなる。
【0019】
金属母相は、Sn−Cu合金を含み、Snを80〜99.5質量%およびCuを0.5〜20質量%含むのが好適である。また、金属母相は、酸素量が500ppm以上であることが好ましい。このような本発明の金属粒子を用いることにより、接合構造部における空隙を形成し易くなり、さらに耐熱性が向上し、高信頼性となる。金属母相における酸素量の調整は、例えば金属粒子を湿度60%〜90%の雰囲気内に1時間〜2時間放置することにより可能である。また、本発明の金属粒子は、Cu粒子をコーティングしたシランカップリング剤の存在によって、微量の酸化物(主にSnO)で覆われ、また表面にはH
2OおよびOH基が存在し、酸素量が1000ppm以上となり得る。
【0020】
また本発明の金属粒子は、金属間化合物を3〜85体積%含むことが好ましく、10〜75体積%含むことがさらに好ましい。このような本発明の金属粒子を用いることにより、接合構造部における空隙を形成し易くなり、さらに耐熱性が向上し、高信頼性となる。
【0021】
また本発明の金属粒子における金属間化合物は、Cu
XSn
Yを含むことが好ましい(ただし、xおよびyは金属間化合物となり得る任意の数を表し、例えばCu
5Sn
6等が挙げられる)。
【0022】
本発明の金属粒子は、CuおよびSnを組み合わせた原材料により製造することができる。例えば、8質量%Cuおよび92質量%Snの組成の原材料(以下8Cu・92Snと称する)を採用することができる。例えば、8Cu・92Snを溶融し溶融金属とし、これを窒素ガス雰囲気中で高速回転する皿形ディスク上に供給し、強制的に作られた遠心場内に遠心力等により該溶融金属を小滴として飛散させる。その際、環境条件を下記で説明するように適切に制御し、該溶融金属を急速冷却固化させ、強制的に自己組織化させることにより、本発明の金属粒子を得ることができる。
【0023】
金属粒子の製造に好適な製造装置の一例を
図5を参照して説明する。粒状化室1は上部が円筒状、下部がコーン状になっており、上部に蓋2を有する。蓋2の中心部には垂直にノズル3が挿入され、ノズル3の直下には皿形回転ディスク4が設けられている。符号5は皿形回転ディスク4を上下に移動可能に支持する機構である。また粒状化室1のコーン部分の下端には生成した粒子の排出管6が接続されている。ノズル3の上部は粒状化する金属を溶融する電気炉(高周波炉)7に接続されている。混合ガスタンク8で所定の成分に調整された雰囲気ガスは配管9及び配管10により粒状化室1内部及び電気炉7上部にそれぞれ供給される。粒状化室1内の圧力は弁11及び排気装置12、電気炉7内の圧力は弁13及び排気装置14によりそれぞれ制御される。ノズル3から皿形回転ディスク4上に供給された溶融金属は皿形回転ディスク4による遠心力と回転軸沿いからの吹き上げ気流17が作り出す平行気流環境遠心場内での作用で微細な液滴状になって飛散し、冷却されて固体粒子になる。生成した固体粒子は排出管6から自動フィルター15に供給され分別される。符号16は微粒子回収装置である。
【0024】
高速回転体が円盤状又は円錐状の場合尚遠心場が無い場合は、溶融金属が回転体のどの位置に供給されるのかによって溶融金属にかかる遠心力が大きく異なるので、粒の揃った球状粉体を得にくい。だが回転シャフト下部から不活性ガスを吹き上げデスク下部に充て遠心力にて均一な気流を造り回転中心から2m範囲内に遠心場を作り出す事にて高速回転する皿形ディスク上に供給した場合は、その皿形の周縁位置における均一な遠心力を受け粒の揃った小滴に分散して飛散する。飛散した小滴は遠心場雰囲気ガス中で急速に冷却し、固化した小粒となって落下し、回収される。
【0025】
溶融金属を急速冷却固化させ、強制的に自己組織化させる際に適用される条件は、本発明の金属粒子を得る際、とくに金属間化合物を形成する際に重要となる。
例えば次のような条件が挙げられる。
皿形回転ディスク4:内径60mm、深さ3mmの皿形ディスクを用い、毎分8万〜10万回転とする。
粒状化室1:供給する雰囲気ガス温度を15〜50℃とする。粒状化室1内の酸素濃度を0ppm以下とする。粒状化室1内の気圧を1×10
−1Pa以下とする。
これら条件により製造された金属粒子の粒径は、例えば直径20μm以下であり、典型期には2μm〜10μmである。
【0026】
このようにして得られた金属粒子を、本発明の接合構造部の形成に用いることにより、接合構造部における前記金属間化合物と前記金属母相とのエンドタキシャル接合を可能にし、かつ、前記金属母相と前記金属体または合金体とのエピタキシャル接合を可能にする。
【0027】
図1は、本発明の金属粒子の表面をArスパッター研磨した金属粒子の電子顕微鏡写真(No.1)と、金属粒子をFIB(集束イオンビーム)で薄くカッティングした金属粒子断面電子顕微鏡写真(No.2)である。No.1で示される金属粒子の粒径は、およそ5μmである。また、No.2の金属粒子を参照すると、該金属粒子は、Sn−Cu合金(例えば4Cu96Sn)を含む金属母相140中に、SnおよびCuからなる金属間化合物120を有する。また、金属間化合物120は偏在してコロニー領域を形成する。
【0028】
本発明の接合構造部は、前記シランカップリング剤がコーティングされたCu粒子および前記本発明の金属粒子を、プリホームシートあるいはペーストに加工し、これを接合すべき2つの部材間で溶融・固化させることにより、形成することができる。
【0029】
前記プリホームシートにおいて、前記シランカップリング剤がコーティングされたCu粒子の割合は、例えば2〜50体積%であり、10〜30体積%が好ましい。また、前記本発明の金属粒子の割合は、例えば98〜50体積%であり、90〜70体積%が好ましい。
【0030】
前記プリホームシートは、各材料を、例えば冷間圧接法を用いた金属間接合によって処理することによって得ることができる。冷間圧接法を用いた金属間接合それ自体は、種々知られている。本発明においては、それらの公知技術を適用することができる。例えば、対向する向きに回転する一対の圧接ローラの間に、前記各材料を供給し、圧接ローラによって圧力を加えて、各材料間に金属間接合を生じさせる。実際の処理に当たっては、圧接ローラから各材料に100℃前後の熱を加えることが望ましい。これにより前記プリホームシートが得られる。
【0031】
前記冷間圧接法を用いた金属間接合処理を施してプリホームシートを得た場合、プリホームシートの内部では、本発明の金属粒子は、外形形状は変化するものの、粒子の内部構造は、ほぼ、原形を保っている。即ち、プリホームシートは、SnおよびCuからなる金属間化合物とSn−Cu合金を含む金属母相とを有し、前記Sn−Cu合金は、前記金属間化合物とエンドタキシャル接合している。従って、成形体は、本発明の金属粒子の機能する作用効果をそのまま保存している。
【0032】
次に、プリホームシートを接合すべき2つの部材間に介在させ、焼成(焼き付け処理)することで接合構造部が形成される。焼き付け処理温度は、例えば250℃であり、焼き付け処理時間は適宜調整される。
あるいは、前記各材料を用いて接合構造部を効率的に形成するため、例えば、前記各材料を有機ビヒクル中に混在させた導電性ペーストを形成する。
そして、接合すべき2つの部材の一方の面にこの導電性ペーストを塗布し、焼成(焼き付け処理)することで接合構造部が形成される。焼き付け処理温度は、例えば250℃であり、焼き付け処理時間は適宜調整される。
【0033】
また、接合構造部形成時のプリホームシートまたはペーストに対する外圧は、例えば0.1MPa〜0.001MPaであるのが好ましく、この圧力範囲であれば、金属母相内に所望の空隙を生じさせることができる。
【0034】
前記接合構造部に対する前記空隙の体積比率は、5%〜50%であり、好ましくは30%〜35%である。このような空隙の割合によれば、接合構造部における物理的および電気的特性に悪影響を及ぼすことなく、極高温ないし極低温環境の過酷な温度変動に対しても、優れた接合強度および機械的強度を維持できる。
【0035】
前記空隙のサイズは、円相当径として、例えば1μm〜20μmである。
【0036】
前記空隙の体積比率は、公知の方法により測定可能である。例えば、金属母相の断面顕微鏡写真から、空隙の相対面積計測を行い、フィッティング係数をもとにして、金属母相における空隙の相対体積比率を求めることにより、前記空隙の体積比率を測定することができる。
【0037】
なお、前記プリホームシートまたは前記導電性ペーストには、本発明の効果を損ねない範囲において、Al、Ni、Si、Ag、Au、Pt、B、Ti、Bi、In、Sb、Ga、Zn、CrおよびCoから選択された少なくとも1種の金属を含むことも可能である。例えばSnより導電性が高い金属と組み合わせると、導電性がよく、かつ、比較的幅広い温度領域で体積変化が抑制された接合構造部が得られる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【0039】
(シランカップリング剤がコーティングされたCu粒子の作成)
直径約5μmのCu粒子に対し、シランカップリング剤として信越化学工業(株)製KBM-1403を用い、0.3質量%水溶液を調製し、Cu粒子:該水溶液の体積比を1:1として混合し、ドライスプレーで乾燥することによりCu粒子にシランカップリング剤をコーティングした。また、Cu粒子表面の酸素量は、800ppmであった。
【0040】
図2は、このように作成されたCu粒子のSTEM像である。
図2から、Cu粒子の表面にシランカップリングのコーティング層が形成されていることが分かる。コーティング層の厚みは、約10nmであった。
【0041】
(本発明の金属粒子の作成)
原材料として8Cu・92Snを用い、
図5に示す製造装置により、直径約3〜10μmの金属粒子を製造した。
その際、溶融金属を急速冷却固化させ、強制的に自己組織化させる際に適用される条件としては、以下の条件を採用した。
皿形回転ディスク4:内径60mm、深さ3mmの皿形ディスクを用い、毎分8万〜10万回転とした。
粒状化室1:供給する雰囲気ガス温度を30〜50℃とし、粒状化室1内の酸素濃度を00ppm以下とし、粒状化室1内の気圧を1×10
−1Paとした。
【0042】
得られた金属粒子70質量部と、シランカップリング剤がコーティングされたCu粒子30質量部とを均一に混合し、冷間圧接法により、プリホームシートを調製した(70μm厚)。
【0043】
上記シートを金属体としてのCu電極間に挟み、Snのもつ融点(231.9℃)でシートを初期融解させ、真空下で、0.01MPaの加圧条件でプレスし、空隙を有する接合構造部を形成した。なお、接合構造部の凝固後の再溶融温度は、Snよりも高融点であるCu
xSn
yのもつ融点(Cu
3Sn:約676℃、Cu
6Sn
5:約435℃)によって支配される。したがって、耐熱性に優れた高信頼性及び高品質の接合構造部を形成し得る。接合構造部におけるこの特性は、発熱量の大きな電力制御用半導体素子のための電気配線及び導電性接合材として有効であった。
【0044】
図3(a)は、実施例で得られた接合構造部の断面の顕微鏡写真であり、
図3(b)は、空隙(濃色の円形部)の拡大写真である。
図3(a)において、接合構造部300は、対向配置された基板(図示せず)に形成された金属/合金体101、501(
図1ではCu電極)を接合している。接合構造部300は、金属間化合物および空隙を含有する金属母相(淡色)を含み、金属間化合物は、SnおよびCuからなり(例えばCu
6Sn
5(その他Cu
3Sn)、濃色)、金属母相はSn−Cu合金を含む。金属母相には、
図3(b)から平均直径18μmの空隙が存在することが判明した。
【0045】
また、接合構造部において、前記接合構造部に対する前記空隙の体積比率は、約30% であった。
また、接合構造部において、前記金属間化合物は61体積%含まれていた。
【0046】
なお、基板は、半導体素子を備え、例えばパワーデバイスなどの電子・電気機器を構成する基板であり、金属/合金体101,501は、電極、バンプ、端子またはリード導体などとして、基板に一体的に設けられている接続部材である。パワーデバイスなどの電子・電気機器では、金属/合金体101,501は、一般にはCuまたはその合金として構成される。もっとも、基板に相当する部分が、金属/合金体で構成されたものを排除するものではない。
【0047】
図4は、実施例で得られた接合構造部断面における、金属間化合物と金属母相との関係を示すTEM像である。
図4から、金属間化合物との界面での接合がエンドタキシャル接合であることが観察された。なお、
図4で示すようなエンドタキシャル接合は、金属間化合物と金属母相との接合面の全体を100%としたとき、30%以上が好ましく、60%以上がさらに好ましい。前記エンドタキシャル接合構造の割合は、例えば次のようにして算出できる。接合構造部の断面を電子顕微鏡写真撮影し、金属間化合物と金属母相との接合面を任意に50か所サンプリングする。続いて、その接合面を画像解析し、
図4で示すようなエンドタキシャル接合構造が、サンプリングした接合面に対してどの程度存在するのかを調べる。
【0048】
図6Aは、実施例で得られた接合構造部断面のTEM像であり、
図6Bは、
図6AにおけるCu電極と接合構造部の界面のTEM像の拡大図である。
図6Aおよび
図6Bから、金属母相のSn−Cu合金(淡色部)が、Cu電極(濃色部)とエピタキシャル接合していることが認められた。
【0049】
なお、本発明における金属体または合金体からなる電極は、Sn、Cu、Al、Ni、Si、Ag、Au、Pt、B、Ti、Bi、In、Sb、Ga、Zn、CrおよびCoから選択された少なくとも1種の金属、合金体または金属間化合物であることができ、これら各種物質と、金属母相であるSn−Cu合金とは、エピタキシャル接合を形成することができる。
【0050】
図7は、上記実施例におけるCu電極をNi電極に置き換えたときの、Ni電極と接合構造部との界面のTEM像である。金属母相のSn−Cu合金が、Ni電極とエピタキシャル接合していることが認められた。なお、
図7において、黒い下地がシリコン上に形成されたNi電極(Ni層(1.5μm))であり、このNi層上に反応層として金属母相内のSn−Cu合金(0.8μm)がエピタキシャル接合を形成している。反応層上には、Sn−Cu合金・金属間化合物の層が形成されている。
【0051】
また、本発明の実施例の上記接合構造部の(-40〜250℃)の冷熱サイクル試験(TCT)では、約200サイクルを超えたあたりから、全サイクル(1000サイクル)に渡って、せん断強度が約50〜60MPaで安定するという試験結果が得られた(
図8参照)。これに対し、SAC305を用いて形成した接合構造部では、せん断強度は、試験開始から低い値を示し、200サイクルではほぼゼロであり、接合状態を保てない(
図8参照)。
【0052】
以上、添付図面を参照して本発明を詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、その基本的技術思想および教示に基づき、種々の変形例を想到できることは自明である。
【課題】IoTの進展や、一層の省エネルギーが求められる中で、その技術の核心を担うパワー半導体の重要性が益々高まっている。パワー半導体は、高電圧、大電流の大きな電力を扱うことから、多くの熱を発して高温となる。したがって当然、チップと基板の接合には高い温度に耐える材料が必要になるが、これまでにこの要求に応える接合材は存在しなかった。
【解決手段】金属間化合物および金属母相を含み、金属体または合金体を接合している接合構造部であって、前記金属間化合物は、SnおよびCuを含み、前記金属母相は、Sn−Cu合金および空隙を含み、前記接合構造部に対する前記空隙の体積比率が、5%〜50%である接合構造部によって上記課題を解決した。