特許第6374113号(P6374113)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374113
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ複合膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20180806BHJP
   B01D 63/08 20060101ALI20180806BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20180806BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   B01D71/02
   B01D63/08
   B01D69/10
   B01D69/12
【請求項の数】14
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-531317(P2017-531317)
(86)(22)【出願日】2015年12月9日
(65)【公表番号】特表2017-536982(P2017-536982A)
(43)【公表日】2017年12月14日
(86)【国際出願番号】US2015064697
(87)【国際公開番号】WO2016094511
(87)【国際公開日】20160616
【審査請求日】2017年7月19日
(31)【優先権主張番号】14/566,451
(32)【優先日】2014年12月10日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513237308
【氏名又は名称】アイデックス ヘルス アンド サイエンス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シムズ、カール
(72)【発明者】
【氏名】リュー、クワン
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−023092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 71/02
B01D 63/08
B01D 69/10
B01D 69/12
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体−液体混合物を分離するための複合ガス分離膜を調製する方法であって、
混在したカーボンナノチューブの不織アレイを含む不織布を提供する工程であり、
前記不織アレイは、前記混在したカーボンナノチューブの間に隙間を画定する、前記不織布を提供する工程;
ドーパントを提供する工程;
前記織布を前記ドーパント中に少なくとも部分的に浸漬する工程;及び
前記ドーパントから形成されるネットワークが非多孔性であるが透過性の複合構造を前記織布とともに確立する程度まで、前記ドーパントが前記織布の隙間に浸透するように、前記ドーパントを超音波変換器で超音波処理する工程
を含む、上記方法。
【請求項2】
前記非多孔性複合構造が、少なくとも0.1GPUの標的気体透過能を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記織布が、1〜20g/mの間の密度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ドーパントが、1〜50重量パーセントの濃度でドーパント溶液中に溶媒和される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ドーパント溶液を、60〜90℃に加熱する工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記超音波変換器が、10〜50KHzの間の周波数で音波エネルギーを放出する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
気体−液体混合物を分離するための複合ガス分離膜を調製する方法であって、
混在したカーボンナノチューブの不織アレイを含む不織布を提供する工程であり、前記不織アレイは、前記混在したカーボンナノチューブの間に隙間を画定する、前記不織布を提供する工程;
前記織布を接触システム内のドーパントと接触させる工程;
前記ドーパントが前記織布に組み込まれるように、前記接触システムに音波エネルギーを適用する工程;
非多孔性であるが透過性の複合構造を前記織布とともに確立するように、組み込まれたドーパントを調整する工程
を含む、上記方法。
【請求項8】
前記接触システムが、液体超音波処理タンク内の液体媒体と外部接触する浸漬タンクを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ドーパントを前記浸漬タンク内に配置する工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記織布が前記浸漬タンク内で前記ドーパントに接触している間に、音波エネルギーが液体媒体から前記浸漬タンクを通じて前記織布に接触している前記ドーパントに伝達されるように、超音波変換器を用いて液体媒体に音波エネルギーを適用する工程を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ドーパントが前記隙間に浸透する、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記ドーパントがモノマー及びポリマーの少なくとも1つを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記ドーパントが前記織布に接触するときに、前記モノマー及びポリマーの少なくとも1つが溶液中に存在する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記調整工程が、硬化、乾燥及び重合のうちの少なくとも1つを含む、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にガス分離及びイオン輸送膜に関し、より詳細には、ナノチューブのアレイの骨格を有する複合膜構造に関する。
【背景技術】
【0002】
数々のポリマーが、過去に種々の目的のための膜の形成における有用性について研究されてきた。本発明にとって重要なのは、供給材料を改質し且つ/又は1つ又は複数の標的種を供給材料から回収する分離及び選択的輸送のための、このようなポリマー膜の使用である。多くのポリマーが、このような用途のために有用であることが判明しており、各材料は、特定の膜分離及び輸送への適用において特有の利益及び欠点を示す。
【0003】
本出願人にとっての特に重要な用途は、気体透過性で液体不透過性な膜との接触を介した液体の脱気である。このような液体−気体接触器は一般的に、分圧に関するヘンリーの法則及び拡散に関するフィックの法則に依拠して膜を介した気体輸送を駆動しているが、小さな孔径又は「非多孔性(nonporous)」媒体中での貫通孔の不在は、膜を介した液体輸送を制限又は妨げる。フルオロポリマーの開発は、一般に不活性であり且つ気体透過性で液体不透過性な膜構造を形成できる膜ポリマーを提供し、膜による液体脱気分野を大きく促進してきた。特に注目されるフルオロポリマーは、非晶質ペルフルオロポリマー類、例えば、商標「Teflon(登録商標)」の商品名でDu Pontから入手可能なもの、並びにAsahi Glass Corporation及びSolvay Solexisから入手可能なその他の非晶質フルオロポリマーである。このような材料は、それらの不活性な特性及び高い透過特性のため、しばしばガス分離膜に用いられる。膜は一般的に、接触している材料とのそれらの適合性、標的とされる輸送種に対するそれらの透過性及びある種の分子に関する、別の分子を上回るそれらの選択性の組合せについて選択される。膜選択性は、膜厚さの関数として一定であり得るが、処理量(透過能(permeance))は、膜の厚さに対して逆に変化することが示されてきた。結果として、より薄い膜が一般的に所望されるが、膜厚さが低減されるにつれて減少する強度及び耐久性により制限される。したがって、過度に脆弱であることなく最高の可能な透過能(permeance)を有する選択膜を得ることは、現在も検討されている。このような膜はまた、付着(fouling)、劣化(degradation)、又はその他の性能悪化に対して抵抗性にすべきでもある。
【0004】
膜エンジニアは、選択膜を支持構造によって支持することにより、所望の性能特性を有する脆弱な膜を用いることを試みてきた。種々の補強用支持構造がこれまでに実装されてきたが、一般的に取扱いが困難であり、高価であり、且つ/又は主たる選択膜の性能を劣化させる。これらの欠点を回避する薄手フィルムの膜に対して適切な構造的補強は、いまだ明らかにされていない。
【0005】
薄手フィルムの膜用の補強材料は一般的に、格子構造、支持フィルム、及び粒子状ドーパントの形態であった。その強化特性について広範に研究されてきたが薄手フィルムの分離膜においては研究されてこなかった1種の材料がカーボンナノチューブであり、カーボンナノチューブは、それらの強度が本来的に持っているsp結合構造に由来する、高強度材料として認識されている。sp結合構造に伴う電子雲は、直近のカーボンナノチューブ間の相互作用として機能し、その結果、ナノチューブは、取扱いを容易化するのに十分な引張強度を有する、一体性の(coherent)シート、テープ、リボン、ロープ、及びその他のマクロ織布(macro fabric)に形成され得る。
【0006】
ナノチューブ間の力は、ナノチューブが良く会合し、直近のナノチューブの表面が相互作用し得るという限りでは注目されてきた。しかしながら、ナノチューブをこのようなシート、テープなどに形成する特定の方法は、このように形成されたマクロスケールのナノチューブ構造の強度に大きく影響し得る。シート形態のカーボンナノチューブアレイは、一般的に「バッキーペーパー」として知られており、その名称はバックミンスターフラーレン、60炭素フラーレン(Buckminster Fullerに敬意を表して「バッキーボール」と呼ばれることがある同様の結合を有する炭素の同素体)に由来している。一般に、ナノチューブ間の結合相互作用は、単独で商業的使用を有するバッキーペーパーを形成するのに不十分である。しかしながら、カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブ粉末をポリマー中に混合することにより、ポリマーを含む様々な材料へのドーパントとして記述されてきた。一般的に、研究者は、ポリマーにカーボンナノチューブをドーピングするとき、改善された強度及び/又は電導性を希求する。
【0007】
ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、カーボンナノチューブなどを含む強度補強材料は、補強材料として従来通りに添加されるとき、強度増強の度合いに関して、補強材料とマトリックスとの間での表面エネルギーの適合性に依存する。各表面エネルギーの整合は、ファンデルワールス(van der Walls)相互作用を可能にして、補強材料とマトリックスとの間での荷重移動を助ける。いくつかの場合では、表面エネルギーの整合は、補強用材料の化学的改質なしでは可能でなく、化学的改質は高価なことがあり、又は不可能なことすらある。
【0008】
最近、リバースアプローチが試みられており、このアプローチでは、バッキーペーパーがポリマーと一緒に注入されて、ナノチューブ間のファンデルウォールス相互作用に由来するカーボンナノチューブシートの本来的な強度を維持する。このようなアプローチの例は、米国特許第7,993,620号において記述されており参照により本明細書に組み込まれる。米国特許第7,993,620において記述されたカーボンナノチューブ不織布は、不織布をマトリックス前駆体で含浸し、マトリックスの重合又は熱硬化を可能にすることにより、複合構造中に組み込まれ得る。このような複合体は、ヘルメットを含むスポーツ用品型保護器具等、耐衝撃用途における使用について記述されてきた。その他のカーボンナノチューブ織布複合体は、米国特許出願公開第2010/0324565号において記述されており、同様に参照により本明細書に組み込まれる。
【0009】
複合体の形成についての上述したカーボンナノチューブ織布構造の例は、米国特許出願公開第2009/0215344号及び第2011/0316183号において詳細に記述されているが、このようなカーボンナノチューブ織布のナノチューブを合成するのに有用な装置は、米国特許出願公開第2009/0117025号において記述されており、これらのそれぞれは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0010】
カーボンナノチューブ織布と注入されたポリマーとの複合体は実証されているが、本出願人は、一例として分離用の薄フィルム膜として調製されたこのような複合体を知らない。この領域における実施の欠如に関する1つの説明は、カーボンナノチューブ織布が、複合構造の総体的透過性に干渉するその他の補強構造と同様に作用するであろうという予想に起因するかもしれない。従来の薄フィルム支持構造の中実部分は、しばしば、純な薄フィルム分離膜と比較して透過性能(permeance performance)を低減することが周知である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、大幅に低減された有効なポリマーフィルム厚さを有すると共に、所望の引張強度を示す、複合構造を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、分離ポリマーマトリックスの透過性能を顕著に劣化させないナノチューブ補強構造を組み込んだ、複合膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下に存する。
(1) 気体−液体混合物を分離するための複合ガス分離膜を調製する方法であって、
混在したカーボンナノチューブの不織アレイを含む織布を提供する工程であり、
前記不織アレイは、前記混在したカーボンナノチューブの間に隙間を画定する、前記織布を提供する工程;
ドーパントを提供する工程;
前記織布を前記ドーパント中に少なくとも部分的に浸漬する工程;及び
非多孔性であるが透過性の複合構造を前記織布とともに確立するのに十分な程度まで、前記ドーパントが前記織布の隙間に浸透するように、前記ドーパントを超音波変換器で超音波処理する工程
を含む、上記方法。
(2) 前記非多孔性複合構造が、少なくとも0.1GPUの標的気体透過能を示す、(1)に記載の方法。
(3) 前記織布が、約1〜20g/mの間の密度を有する、(1)に記載の方法。
(4) 前記ドーパントが、1〜50重量パーセントの濃度でドーパント溶液中に溶媒和される、(1)に記載の方法。
(5) 前記ドーパント溶液を、60〜90℃に加熱する工程を含む、(4)に記載の方法。
(6) 前記超音波変換器が、10〜50KHzの間の周波数で音波エネルギーを放出する、(1)に記載の方法。
(7) 気体−液体混合物を分離するための複合ガス分離膜を調製する方法であって、
混在したカーボンナノチューブの不織アレイを含む織布を提供する工程であり、前記不織アレイは、前記混在したカーボンナノチューブの間に隙間を画定する、前記織布を提供する工程;
前記織布を接触システム内のドーパントと接触させる工程;
前記ドーパントが前記織布に組み込まれるように、前記接触システムに音波エネルギーを適用する工程;
非多孔性であるが透過性の複合構造を前記織布とともに確立するように、組み込まれたドーパントを調整する工程
を含む、上記方法。
(8) 前記接触システムが、液体超音波処理タンク内の液体媒体と外部接触する浸漬タンクを含む、(7)に記載の方法。
(9) 前記ドーパントを前記浸漬タンク内に配置する工程を含む、(8)に記載の方法。
(10) 前記織布が前記浸漬タンク内で前記ドーパントに接触している間に、音波エネルギーが液体媒体から前記浸漬タンクを通じて前記織布に接触している前記ドーパントに伝達されるように、超音波変換器を用いて液体媒体に音波エネルギーを適用する工程を含む、(9)に記載の方法。
(11) 前記ドーパントが前記隙間に浸透する、(7)に記載の方法。
(12) 前記ドーパントがモノマー及びポリマーの少なくとも1つを含む、(7)に記載の方法。
(13) 前記ドーパントが前記織布に接触するときに、前記モノマー及びポリマーの少なくとも1つが溶液中に存在する、(12)に記載の方法。
(14) 前記調整工程が、硬化、乾燥及び重合のうちの少なくとも1つを含む、(7)に記載の方法。
本発明によれば、分離用の薄膜は、膜の強度特性を維持し又は増強さえしながら、顕著により少ないポリマー材料を用いて調製することができる。ポリマーの利用を低減することにより、分離膜コストは、それに対応して顕著に低減され得る。複合膜の補強構造は、単一又は複数の層になっているカーボンナノチューブ不織布(non−woven carbon nanotube fabric)であるが、カーボンナノチューブは、混在している(intermingled)。
【0014】
一実施形態において、気体−液体混合物を分離するための複合ガス分離膜を調製する方法は、混在したカーボンナノチューブの不織アレイ(non−woven array)を有する織布(fabric)を提供する工程であって、前記不織アレイが、前記混在したカーボンナノチューブの間に隙間を画定する、前記織布を提供する工程を含む。前記方法は、ドーパントを提供する工程と、前記織布を前記ドーパント中に少なくとも部分的に浸漬する工程とをさらに含む。前記ドーパントは、非多孔性であるが透過性の複合構造を前記織布とともに確立するのに十分な程度まで、前記ドーパントが前記織布の隙間(interstices)に浸透するように、超音波変換器で超音波処理される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の複合フィルムの透過性(permeability)、透過能(permeance)、及びガス選択性を試験するための試験装置の概略図である。
図2】本発明の複合フィルムの断面の走査型電子顕微鏡法(SEM)画像である。
図3】本発明の複合フィルムの断面のSEM画像である。
図4】本発明の膜分離システムの概略図である。
図5】本発明の膜イオン交換システムの概略図である。
図6】走査型電子顕微鏡で撮影した試料複合膜の断面写真である。
図7図6の写真で同定されたそれぞれのスペクトル分析位置における炭素、フッ素、及び酸素の存在を示すスペクトル分析チャートである。
図8図6の写真で同定されたそれぞれのスペクトル分析位置における炭素、フッ素、及び酸素の存在を示すスペクトル分析チャートである。
図9】「Pure」と表示されたカーボンナノチューブ不織布と比較して、様々な試料複合膜についてのヤング率値を示す引張強度チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ここで、本発明により表される目的、特徴及び進歩を、詳細な実施形態の観点から提供する。本発明のその他の実施形態及び態様は、当業者の把握の内であるとして認識される。
【0017】
本明細書においては、用語「ナノチューブ」は、約1〜100ナノメートル(nm)の範囲の直径及び約0.001〜10ミリメートル(mm)の範囲の長さを有する、単層又は多層管状構造を意味することが意図されている。本明細書の実験部分において記述されたナノチューブは、約1〜25ナノメートル(nm)の直径及び約0.1〜5ミリメートル(mm)の長さを一般的に有する、多層カーボンナノチューブである。しかしながら、単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブの両方とも、当技術分野において良く理解されており、本発明において有用であると企図されている。
【0018】
本明細書においては、用語「膜(membrane)」は、それを横切る選択的輸送を可能にすることができる、バリア構造を意味することが意図されている。「複合膜(composite membrane)」は、単一膜構造中で相互に協調する2つ以上のボディを有する、膜構造である。ボディは同じ又は異なる材料を含み得、本願の詳細な説明において、カーボンナノチューブ織布に組み込まれたポリマーマトリックスボディとして例証されている。
【0019】
本明細書においては、用語「非多孔質(non−porous)」は、対象複合フィルムが、複合フィルムの片面からもう一方の面まで連続的に延在している開放経路を実質的に含んでいないことを意味することが意図されている。「孔(pore)」は、それにより物質が壁又は膜を通過する、開口部として規定されている。したがって、用語「非多孔質」は、孔の不在又は実質的な不在を意味することが意図されている。カーボンナノチューブに関して、「孔」は、複合膜の中を通る経路を提供するように複合膜の厚さにわたって延在している、カーボンナノチューブの内腔(lumen)として規定され得る。本発明の非多孔質複合膜は、複合膜の中を通るこのような内腔経路を含んでいない。
【0020】
本明細書においては、用語「透過性の(permeable)」は、主に溶液−拡散機構に依拠する複合膜を介した輸送を意味することが意図され、溶液−拡散機構を用いずに複合膜を介した材料輸送を可能にする構造中の多孔度の結果として複合膜を介した輸送を意味しない。
【0021】
上述したように、構造的にナノチューブに類似したカーボンナノ粒子は、数多くの用途において、主に機械的強化剤として用いられてきた。しかしながら、このような用途のいくつかにおいて、グラフェンの形態でのカーボンナノ粒子の添加は、ポリマーフィルム透過性の顕著な低減をもたらしていた。実際、ナノ粒子は、米国特許第7,745,528及び米国特許出願公開第2007/0137477号におけるように、基材中の透過性を限定することが実証され、そのために意図的に使用されてきた。その結果、ポリマーフィルムへのカーボンナノチューブ支持構造が透過性性能(permeability performance)を顕著に阻害しないという本出願人の発見は、本発明の驚くべき結果である。
【0022】
本発明の複合膜に有用であると本出願人により発見された「バッキーペーパー」は、Merrimack、New HampshireのNanocomp Technologies,Inc.から入手可能である。Nanocompバッキーペーパーは、例えば、米国特許出願公開第2011/0316183号及び第2009/0215344号並びに米国特許第7,993,620号において、化学蒸着(CVD)又はその他の気相熱分解手順により生成された、混在したナノチューブの不織布として記述されており、これらの特許及び特許出願の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。混在したナノチューブは、不織布中にランダム配向においてランダムに分散されており、当該不織布はランダム配向不織ナノチューブの多層で構成され、まとまってカーボンナノチューブ織布を形成する。試験された不織布を構成するナノチューブは、約10〜15nmの外径及び約0.1〜5mmの長さを有する多層ナノチューブを含み、1〜20g/mの重量の多層不織布の層の内部にランダムに配列されていた。例示的ナノチューブ織布は、5〜95%間の開口構造(open structure)、より好ましくは30〜70%間の開口構造を有し、1〜50マイクロメートル間の厚さを有する。
【0023】
本明細書においては、用語「不織布(nonwoven fabric)」は、摩擦及び/又は凝集及び/又は接着を含む様々な手段を通じて結合された一方向に又はランダムに配向された繊維のシート、ウェブ又はバットを意味することが意図されている。上述したカーボンナノチューブ織布は、カーボンナノチューブ間のπ−π電子雲相互作用を通じて結合していると考えられる。前記織布は、部分的に又は完全に一方向に配向された繊維を含んでもよく、あるいはその代わりにランダムに配向されたナノチューブであってもよいことが企図されている。
【0024】
幅広い多くのドーパントが、このナノチューブ織布に組み込まれて本発明の複合膜を形成し得る。本明細書においては、用語「ドーパント」は、不織布の隙間に浸透することができ、且つ、非多孔性であるが浸透性のバリアを確立するのに十分なネットワークを形成することができる材料を意味することが意図されている。例示的なドーパントには、純な(neat)形態又は溶液中のモノマー/ポリマーが含まれる。下記の例において記述されているポリマーは、それらの不活性及び比較的高いガス透過性のために選択した。しかしながら、その他のポリマー、ポリマーブレンド、及び非ポリマーを含めたその他の材料が、本発明の複合膜の形成に利用され得ると理解すべきである。選択されるドーパント材料は、好ましくは、少なくとも0.1気体透過単位(gas permeance units)(GPU)の標的気体透過能(target gas permeance)を有する非多孔質であるが透過性の複合構造を形成する程度にまで、ナノチューブ織布の開口する間隙空間内に堆積させることができる。このようにして、複合膜を、気体−気体、気体−液体及び液体−液体分離を含めた、種々の分離用途で有用にすることができる。
【0025】
用語「に組み込まれた(incorporated with)」は、ドーパントと不織布の間の関係を説明することが意図されている。ここで、ドーパントは、単に不織布表面上に又は隣接して堆積されるのではなく、追加的又は代わりに不織布の隙間に浸透する。その浸透は、ドーパントの必要な重合又は硬化の際に、ドーパント及びナノチューブがポリマー化/硬化したドーパント又は不織布のいずれかのそれぞれの絶対強度(ヤング率)よりも著しく大きな絶対強度(ヤング率)を示す複合膜として相互作用する程度にまで浸透するものである。このような本発明の複合膜の相乗的な強化は、驚くべき重要な態様であり、本発明の目的のためにナノチューブ織物「に組み込まれる(incorporated with)」ために必要な、不織布の隙間へのドーパントの浸透の程度を規定する。
【0026】
浸透は、ドーパントが不織布に浸透する距離として定義することができ、フルオロポリマードーパントの場合、乾燥した複合膜の厚さを通してフッ素濃度を測定することにより、以下の例で推定することができる。本発明の複合膜を形成するためには、ドーパントがナノチューブ構造の表面に浸透しなければならないことが判明した。不織布へのドーパントの浸透は、溶液中に溶媒和したものを含むドーパントの粘度、及びドーパント/ドーパント溶液と不織布との間の表面エネルギー差に依存する。浸透は、ドーパントの分子サイズにも依存する。
【0027】
膜の厚さを通してフッ素濃度をモニターするエネルギー分散型X線分析によって測定されるドーパントの浸透は、ドーパントの浸透の相対的な深さと一致する浸透の深さに対する強度を示した。織布全体に実質的に均一なドーパント分散をもたらすドーパント含浸は、最も高い絶対強度を示す。しかしながら、不織布の片側のみがドーパント/ドーパント溶液にさらされている場合には、十分に強く、透過性であるが非多孔性の複合膜が形成され得ることが見出された。浸漬タンクの場合、織布の片面は、ドーパント溶液が永続的に付着しない固体の不浸透性バリアの使用によって、ドーパント溶液への暴露から保護されてもよい。次いで、フレームに取り付けられた不織布を、不織布に十分に浸透するのに必要な時間、ドーパント溶液にさらす。織布の非含浸側がドーパントを含まないままの、このような片面含浸織布の1つの利点は、膜の含浸側から非含浸側に浸透するガスを、真空によって大気に排出し、除去し、あるいは、ガス圧を用いて膜の非含浸側からパージすることができることである。
【0028】
本発明の典型的な複合膜は、少なくとも90%の質量輸送を、溶液−拡散機構のみを介して可能にし、より好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも99%の質量輸送を、複合膜を通して溶液−拡散機構のみを介して可能にする。そのような複合膜は、好ましくは、所与の用途に必要とされる単位面積当たりの膜を通して十分な質量を輸送する。
【0029】
窒素、酸素、及び二酸化炭素等の標的気体の透過性(permeability)、透過能(permeance)、及びガス選択性の測定は、一定体積/可変圧力装置を用いて得ることができる。例示的試験構成が図1に図示されており、ここで、試験装置10は、試験される膜20により上側コンパートメント16及び下側コンパートメント18に分割されているチャンバ14を有する、セル12を備える。試験された膜は、それぞれ0.95cmであり、クランプ22により所定位置に保持された。上側コンパートメント16は1000cmより大きい体積を有していたが、下側コンパートメント18は25cmの体積を有していた。膜20を試験するために、コンパートメント16、18の両方が、最初に約30分間同一のガスによってパージされ、続いて、更なる100kPaのガスが上側コンパートメント16に加えられる。コンパートメント16、18の両方の圧力は、2個のOmegadyne model PX209−015G5V圧力変換器によって、時間の関数として測定される。上側コンパートメント16の圧力は、試験中に変化しない。下側コンパートメント18における圧力増大の速度がその疑似定常状態に到達したとき、透過性を下記のように計算した:
【数1】

式中、δP=上側コンパートメント16と下側コンパートメント18との初期圧力差異(cm Hg)
V=下側コンパートメント18の体積(cm
l=膜20の厚さ(cm)
A=膜20の面積(cm
T=絶対温度(K)
R=一般気体定数
【数2】

=疑似定常状態での下側コンパートメント18における圧力増大の速度(cm Hg/秒)。
【0030】
引張強度試験は、1000ニュートン又は5000ニュートンロードセル、及び、InstronシリーズIX/Sソフトウェアを実行するコンピュータシステムを装備したInstron model#3345を用いて実施した。ポアソン比(Poissons ratio)の補正は行わなかった。
【表1】
【0031】
引張強度が、ナノチューブ織布の厚さが減少するにつれて製造者により報告された引張強度に近似することが観察された。これは、より大きな重量の織布を製造するために使用された材料の多数の層、及び低減された見かけの密度によるのかもしれない。
【0032】
ナノチューブ織布にポリマーを組み込むことにより達成される引張強度の改善を測定するために、個々のポリマーの引張強度を試験して、入手可能な場合には文献値と比較した。押出ポリマーフィルムは、BioGeneral,Inc.of San Diego、Californiaから得た。
【表2】
【0033】
表2にリストされたポリマーのそれぞれを、下記のように含浸可能な溶液として調製した:
【表3】
【0034】
様々な手動の方法が、表3のポリマー溶液を表1のナノチューブ織布中に含浸するために使用された。下記の表は、複合体の初期観察を記載している。
【表4】
【0035】
下記の例は、本発明の複合膜を説明しているが、このような膜の形成の材料及び方法として限定的であることは意図されていない。
【実施例】
【0036】
(例1)
表4からのケース1の複合膜を、アルミニウムフレームで引っ張りながら、カーボンナノチューブ織布をポリマー溶液中に72時間ディップコーティングすることにより調製した。72時間沈めた後、複合材料を溶液から引き出し、複合体の乾燥を予防するためにFC−770溶媒によって飽和した雰囲気中に保持し、過剰な溶液は、濡れた複合体の表面から流れ出るままにしておいた。次いで複合体は、シワを除去するのに十分な張力の下で、周囲条件下で乾燥するようにした。
【0037】
次いで、乾燥された複合膜を、引張強度測定、透過性(permeability)及び透過能(permeance)試験、並びに走査型電子顕微鏡法のために、縦1インチ横2インチの試料にレーザー切断した。下記の表5は、押出、溶液キャスティング、溶融加圧、及び実験室作業台でのキャスティングを用いてTeflon(登録商標)AF−2400から形成された純なポリマーフィルムと比較した、複合膜の試験結果を記載している。
【表5】
【0038】
溶液キャスティングされたデータ及び溶融加圧されたデータは、文献中に見られるが、押出フィルムは、BioGeneral,Inc.に由来した。
【0039】
レーザー切断された複合膜のそれぞれは、ほぼ0.1mgまで秤量し、厚さは、ほぼマイクロメートルまで測定した。
【0040】
「低減されたフィルムデータ」を測定するために、カーボンナノチューブ織布の重量を、合計複合体重量から差し引いて、複合構造内部に残留しているポリマーの量を測定した。ポリマーの重量は、1cm当たり1.67グラムのポリマーのファクターを用いて、体積に対して重量を密度補正することにより、等価なフィルム厚さに変換した。次いで、等価なフィルム厚さを、複合膜の体積を長さ及び幅で除算することにより測定した。
【0041】
複合体は、純なポリマーよりも大きな引張強度を示し、これは「混合則(Rule of Mixtures)」の下で予想されるものより劇的に大きい。出願人は、ポリマーとカーボンナノチューブとの間での未解明の相互作用が、結果の表において実証された予想外の強化特性の原因であると考えている。
【0042】
複合体の断面画像が図2に図示されており、約4マイクロメートルの深さまで空気を包含している、区域「A」の非対照的に形成された膜を示す。区域「B」は、約15マイクロメートルの厚さで、複合体の大部分であり、区域「C」は、断面の焦点が外れた内側縁部である。
【0043】
複合体の大部分にわたってポリマーの分布をさらに検査するために、元素分析を実施してフッ素の濃度を計測した。フッ素は、ポリマー及び溶媒のみから得られるが、溶媒は複合体の後乾燥においてほとんど残留しないことが予想された。元素分析結果は下記の表に記載されており、ここで、「層1」は、イオンミリング用の試料を調製するために使用された、エポキシポッティング化合物である:
【表6】
【0044】
この例1の複合体は、カーボンナノチューブ基布(base carbon nanotube fabric)、又は純な(neat)フィルムフォーマットにおけるポリマーのいずれよりも驚異的に高い引張強度を示す。さらに、複合膜の透過性はまた、Nielsenのモデルの下で予想されることとは著しく異なり、驚異的なことに、カーボンナノチューブ織布により妨害されない。
【0045】
(例2)
表4のケース2において記述された複合膜は、カーボンナノチューブ基布を溶液中に72時間浸漬することにより調製した。浸漬後、複合体は、ポリマー溶液の存在下のままで加圧し、続いて、ガラス表面上に置いた。過剰なポリマー溶液は、ゴム雑巾を用いて複合体から除去し、一方で、複合体表面を圧縮して、ガラスに接した複合体の真下のポリマー溶液が最小化されること、及び、ガラス表面と複合膜との間に回復された気泡を除去することを確実にした。次いで複合膜を周囲温度において乾燥し、続いて、60℃において4時間オーブンで乾燥した。
【0046】
下記の表は、複合膜に関する強度、透過性(permeability)、及び透過能(permeance)の結果を記載する:
【表7】
【0047】
複合膜の透過性は、本例に用いられた物のとき、Teflon(登録商標)AF2400フィルムに関して表5において記述された、溶液キャスティングされたフィルムの透過性に綿密に整合する。この事例において、複合膜中に残留しているポリマーの重量は、9マイクロメートルの純なポリマーフィルム厚さに相当する。
【0048】
複合膜のイオンミリングされた部分は、電子顕微鏡法下でさらに検査した。この例に従った含浸技術は、O/N選択性の点でキャスティングされたフィルムに綿密に整合するが、それでもより強い。この複合膜の電子顕微鏡法の画像は、図3に示されている。図3に図示された層の元素分析は、下記の表に記載されている:
【表8】
【0049】
元素分析は、複合膜の厚さの全体にわたったポリマーの分布を示しているが、この例2におけるポリマー濃度は、例1の複合膜と比較して、複合膜の厚さの全体にわたってより高いように見える。上昇したポリマー濃度は、この例2で記述された製作技術における、複合膜に適用された機械的な力によると考えられる。
【0050】
(例3)
表4のケース3に従った複合膜は、例2の手順を用いて調製した。複合膜の引張強度は、表3の溶液5からキャスティングされた膜と比較した:
【表9】
【0051】
(例4)
表4のケース4に従った複合膜を、例2に記載された手順を用いて調製し、表3、タイプ5の溶液のポリマーキャスティングされたフィルムと比較した。複合膜の透過試験は、利用されたポリマーの極めて低い透過性のため、低い選択性を示した。
【表10】
【0052】
「溶液キャスティングされた」純なポリマーフィルムからのデータは、文献から採られた。
【0053】
(例5)
表4のケース5に従った複合膜を、例2に記載された手順を用いて調製した。複合膜は、乾いた状態と水飽和した状態の両方において強度について試験し、純なポリマーのフィルムと比較した。
【表11】
【0054】
この例において利用されたポリマーは、それを横切ってイオン性種が移動することを可能にするイオン交換膜中に一般的に使用される、スルホン化テトラフルオロエチレンを含む。したがって、実施例の複合膜は、実質的にアニオン及び電子を排除して、それを横切るカチオンの輸送を可能にし得る。さらに、このポリマーはイオン伝導性膜中に一般的に使用されるが、このようなポリマーから形成されたフィルムはまた、一般的に、二酸化炭素(CO)に高度に選択的であり、それにより、炭素隔離用途の良好な候補材料になっている。しかしながら、スルホン化テトラフルオロエチレンポリマーのスルホン酸領域は、二酸化炭素が、溶解したカルボネート塩基、CO−2として輸送され得るように水和されなければならないため、乾いた複合膜では、所望のガス透過性又は選択性を発揮しないと考えられる。次いで、複合膜中のポリマーのスルホン酸部分は、バリアを横切ってイオン性種を運搬し得る。
【0055】
(例6)
例5の複合膜のイオン伝導性をさらに増強するために、表1、ケース4のカーボンナノチューブ織布を、100mL試薬グレードHSOを有する密閉フラスコ中で化学的に改質し、カバーしたままで硫酸の沸点に加熱した。次いで温度を約275℃に低下し、カーボンナノチューブ織布は、硫酸中で4時間反応させた。次いで混合物は、室温まで冷却され、その後、室温に72時間維持した。改質されたカーボンナノチューブ織布を硫酸から除去し、洗浄水がpH>5を示すまで脱イオン水ですすぎ洗いした。
【0056】
改質されたカーボンナノチューブ織布の目視検査により、この織布が水により容易に湿潤されることが示された。改質されたカーボンナノチューブ織布を、60℃において4時間オーブンで乾燥した。次いで、改質されたカーボンナノチューブ織布を、例2の手順に従ったポリマー溶液7によって含浸した。
【0057】
複合膜を、濡れた状態と乾いた状態の両方で強度について試験した:
【表12】
【0058】
複合膜はまた、濡れたペーパータオルを濡れた複合膜の上及び下の空間に置いて、試験中に湿った状態を維持しながら、透過性(permeability)についても試験した。
【表13】

【0059】
(例7)
複合膜を、5g/mのカーボンナノチューブ不織布(ケース4、表1)及びテフロンAF(登録商標)2400ドーパントから調製した。スチールフレームに取り付けるため、カーボンナノチューブシートを6インチ×6インチ角にレーザー切断した。ドーパント溶液を、ミネソタ州セントポールの3M社のNovec(登録商標)7500溶媒中の3重量%のTeflon AF(登録商標)2400ポリマーとして調製した。3kgのドーパント溶液を浸漬タンク内に配置し、次いでこれを水超音波処理装置内に配置した。この構成では、超音波変換器314によって放出された超音波エネルギーが、水超音波処理タンク内の水媒体から浸漬タンクを介してドーパント溶液に伝達されるように、浸漬タンクを水音波処理タンク内に配置した。超音波変換器は、400W及び30kHzの周波数で放出するフィッシャーソニッククリーナであった。
【0060】
水超音波処理タンクを加熱して、ドーパント溶液を所望の含浸温度、典型的には60〜90℃の範囲に温めてもよい。これを適用するため、ドーパント溶液を85℃に温めて、所望の粘度レベルのドーパント溶液を得た。
【0061】
ドーパント溶液が温度設定点に温められたとき、超音波変換器からの超音波処理を開始した。次に、フレーム付きカーボンナノチューブ織布を、浸漬タンク内のドーパント溶液に、60分間浸漬した(典型的な浸漬時間は30〜120分の範囲である)。次いで、超音波処理を停止し、浸漬タンク内に残っているドーパント溶液からフレーム付き膜を取り出し、周囲温度で乾燥した。
【0062】
ドーパント溶液のカーボンナノチューブ不織布への超音波処理含浸によって生成された例示的な複合膜の断面が、図6に示されており、炭素、酸素及びフッ素の相対的な元素組成を決定するためにスペクトル分析が実施された複数の位置を特定している。複合膜断面内のスペクトル分析位置におけるフッ素及び酸素の存在は、フルオロポリマードーパントの存在を示している。スペクトル分析結果を図7及び図8に示し、複合膜の断面全体にわたってフッ素及び酸素が強く存在することを示している。これは、織布の断面を通る実質的に完全なドーパントの浸透が超音波処理技術によって達成されたという事実を証明している。図7に示すチャートは、内部標準化された分散エネルギーX線による分析を示し、複合膜の厚さにわたる炭素、フッ素及び酸素の分散を示す。酸素、フッ素、及び炭素の各濃度について濃度を数値1に正規化することにより、それら個々の応答のバイアスが、炭素のそれに対して個別に除去される。図8のチャートは、各スペクトル分析位置での炭素、フッ素、及び酸素のそれぞれの相対的な重量パーセントの寄与を示す。
【0063】
ASTM D882−12によって試験された複合膜のヤング率を、カーボンナノチューブ不織布のみと比較した。データは図9に示され、複合膜のヤング率値が少なくとも約4GPaであることを証明している。これは、0.5GPaで「純粋」と同定されたむき出しの(bare)Nanocompの5g/m密度のカーボンナノチューブ不織布のヤング率、あるいは、1.7GPaで複合膜試料の低減された膜厚と実質的に等しい厚さを有する純なTeflon AF(登録商標)2400のヤング率値よりも実質的に大きい。したがって、本発明の複合膜は、混合則(Rule of Mixtures)」の下で、それぞれの成分の予測ヤング率をはるかに超えている。
【0064】
用途
本発明の複合膜の例示的用途は、気体/気体、気体/液体、及び/又は液体/液体分離におけるものである。一実施形態において、標的気体を液体から分離するためのシステム110は、チャンバ114を画定しているハウジング112、並びにチャンバ114を透過物側118及び保持物側120に隔てている複合膜116を備える。ハウジング112は、チャンバ114の保持物側120へ開口する入口122及び出口124を備える。ハウジング112は、チャンバ114の透過物側118へ開口するガスポート126をさらに備えることができる。システム110は、ガスポート126を介してチャンバ114の透過物側118を空にするためのポンプ128を備えることができ、ポンプ128は、例えばパイプ130を介してガスポート126に流体接続されている。
【0065】
標的気体を含有する液状流体は、入口122を介してパイプ132を経由して、チャンバ114の保持物側120に送達することができる。本明細書において使用される用語「パイプ」は、限定的であることは意図されておらず、所期の目的地への流体の運送を可能にする適切なサイズ、構成、及び材料の任意の運送部材を含み得ることが理解されるべきである。
【0066】
複合膜116は、標的気体を液体から保持物側120において分離することができるように適切に構成することができ、好ましくは、標的気体に対して少なくとも0.1気体透過単位(gas permeance units)(GPU)を示す、非多孔質透過性バリアを形成することができる。当技術分野において周知なように、保持物側120における液体からの標的気体の分離は、チャンバ114の透過物側118における条件により駆動することができる。したがって、チャンバ114の透過物側118は、チャンバ114の保持物側120における液状流体中の標的気体の第2の分圧より小さい標的気体の第1の分圧を発揮するように調整され得る。分圧に関するヘンリーの法則及び拡散に関するフィックの法則に従って、標的気体が、非多孔質複合フィルム116により画定されているバリアを横切って駆動され得る。ポンプ128は、標的気体の第1の分圧が保持物側120における液状流体中の標的気体の対応分圧より小さくなる程度まで、透過物側118を空にすること等により、チャンバ114の透過物側118を調整するように運転され得る。このようにして、透過物側118中に透過して分離された標的気体は、チャンバ114からガスポート126を介して除去することができる。
【0067】
チャンバ114の透過物側118は、その上又は代わりに、スイープ流体に透過物側118を通過させることにより適切に調整することができ、ここで、スイープ流体内部の標的気体分圧は、複合膜116を介した透過物側118への標的気体の透過のための駆動力を発生させるように、保持物側120における液状流体中の対応標的気体分圧より小さい。このようなスイープ流体は、ハウジング112中のポートを介して透過物側118に導入することができる。
【0068】
上記の例示的システムは、本発明で検討されている分離の構造及び方法について限定的であることは意図されていない。気体/気体、気体/液体、及び液体/液体膜分離システムは、当技術分野において周知であり、複合膜を用いる独特の本発明のシステム及び方法に適用可能であると考えられる。
【0069】
ある実施形態では、複合膜216は、複合膜216により画定されているバリアの反対側の面上において、イオン性種を第1の流体から第2の流体に輸送することができる、アイオノマーを含む。第1の流体と第2の流体との間のバリアを横切ってイオン性種を輸送するためのシステム210は、チャンバ214を画定しているハウジング212と、バリアを画定しており且つチャンバ214を第1の側218及び第2の側220に隔てている複合膜216とを備える。複合膜216は、好ましくは、混在したカーボンナノチューブの不織アレイを含む織布と、該織布に組み込まれたドーパントを含み、非多孔質透過性複合体を形成する。ある実施形態では、ドーパントは、実質的にアニオン及び電子を排除してバリアを横切ってカチオンを輸送可能にするアイオノマーである。このようなイオン交換装置は、駆動力をチャンバ214に適用することにより運転することができ、この駆動力は、複合膜216により画定されているバリアを横切ってイオン性種を動かすのに有効なものである。ある実施形態では、このような駆動力は、チャンバ214中で、反対の極性の第1の電極230と第2の電極232との間に発生した電流の形態であってもよい。図5に示すように、第1の電極230及び第2の電極232は、複合膜216の反対側に位置しており、第1の電極230は、チャンバ214の第1の側218中に配置されており、第2の電極232は、チャンバ214の第2の側220中に位置する。第1の電極230及び第2の電極232は、電圧ポテンシャルを発生させて、第1の電極230と第2の電極232との間に電流を通過させるための電気エネルギー源240に連結されている。イオン性種の輸送を刺激するために複合膜216を横切って適用された電流は、膜ベース型イオン交換システムに関して、当技術分野において良く理解されている。
【0070】
その他の駆動力は、入口222を介してチャンバ214の第1の側220に送達された第1の流体と、入口224のチャンバ214の第2の側218に送達された第2の流体との間での、複合膜216を横切るイオン性種の輸送を刺激するのに有用であると企図されている。一事例において、このような駆動力は、複合フィルム216の反対側の面上における第1の流体及び第2の流体の特性に基づいて、発生し得る。しかしながら、最も一般的には、膜ベース型イオン交換システムは、膜を横切るイオン種の輸送を駆動する力として、印加した電流を用いる。
【0071】
本発明は、特許法に適合させるため、並びに当業者に新規な原理を応用し、要求に応じて本発明の実施形態を構築及び使用することに必要とされる情報を提供するために、非常に詳細に本明細書に記述された。しかしながら、本発明に対する様々な変更が、本発明自体の範囲から逸脱することなく達成され得ることが理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9