(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374142
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】モルタル組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/14 20060101AFI20180806BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20180806BHJP
C04B 14/26 20060101ALI20180806BHJP
C04B 14/04 20060101ALI20180806BHJP
C04B 14/22 20060101ALI20180806BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20180806BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20180806BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20180806BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
C04B28/14
C04B14/28
C04B14/26
C04B14/04 Z
C04B14/22
C04B18/08 Z
C04B24/38 D
C04B24/26 E
C04B20/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-48917(P2013-48917)
(22)【出願日】2013年3月12日
(65)【公開番号】特開2014-172801(P2014-172801A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000160359
【氏名又は名称】吉野石膏株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100175787
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 龍也
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100169812
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛志
(72)【発明者】
【氏名】山口 雅人
(72)【発明者】
【氏名】田中 嘉一
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−528169(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第00323577(EP,A1)
【文献】
特開昭59−137351(JP,A)
【文献】
特開平08−208285(JP,A)
【文献】
特開昭62−138349(JP,A)
【文献】
特開2001−213659(JP,A)
【文献】
特開2006−045025(JP,A)
【文献】
米国特許第08323400(US,B2)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0039984(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
添加材として、セメント、増粘剤、減水剤及び消泡剤からなる群から選択される少なくとも1種を含む床面形成用或いは壁パネル形成用のモルタル組成物であって、
半水石膏及びセメントを含む水硬性粉体材料と、
炭酸カルシウム又は炭酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種の無機微粉末と、を含んでなり、
前記半水石膏の含有量が前記セメントの含有量よりも多く、かつ、
前記無機微粉末の含有量が、質量基準で、10〜60%であり、かつ、該無機微粉末が、篩分けした分級品よりも小さい粒径のものになる分級残渣である40μm以下の粒径のものであることを特徴とするモルタル組成物。
【請求項2】
前記無機微粉末の粒径が30μm以下である請求項1に記載のモルタル組成物。
【請求項3】
前記無機微粉末の含有量が、10〜30%の範囲である請求項1又は2に記載のモルタル組成物。
【請求項4】
前記水硬性粉体材料としてのセメントが、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント及びジェットセメントからなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項1〜3のいずれか1項に記載のモルタル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性粉体材料と添加材を含んでなる床面形成用或いは壁パネル形成用のモルタル組成物に関し、さらに詳しくは、水と混練して、床面形成の際にセルフレベリング材として用いた場合や、壁パネルの形成の際の塗壁材として用いた場合に、表面の皮張りに起因する皺やクラックの発生を有効に防止できるモルタル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルフレベリング材(以下、SL材と記載する場合もある)は、水と混練して流動性の高いスラリーとし、これをただ流すだけで自然に流動して水平な面を形成して硬化するため、床面の形成の際に広く使用されている。現在普及しているSL材としては、石膏やセメントなどの水硬性材料を用いた石膏系やセメント系などのものがある。これらのSL材には、その他の添加材として、流動性や作業性を考慮して、多くの場合、増粘剤、減水剤及び消泡剤等の有機成分が含まれている。また、同様の組成のものを、SL材としてではなく塗壁材に用いることもある。この場合には、例えば、水と混練して得た流動性の低いスラリー状の塗壁材を、水平に配置した型枠内に塗るといった方法で壁パネルが形成される。このように使用する材料は、通常、モルタルと呼ばれている。以下、本発明では、水と混練する前のものをモルタル組成物と呼ぶ。
【0003】
従来より、上記したような成分からなるスラリーが硬化することで形成した床面や壁パネルの表面には、これらの材料中に存在している、セメント由来の溶出成分や、増粘剤、減水剤、消泡剤等の有機成分に起因すると言われている薄皮状の「皮張り」が発生することが知られている。さらに、この「皮張り」に起因して、その表面に皺やクラックが発生することもある。特に、セメント系のモルタル組成物の場合は、セメント由来の溶出成分が「皮張り」の原因となるので、この問題は、避けることができない重要なものになっている。
【0004】
上記した課題に対し、面精度に優れたセメント硬化物表面を与える技術が種々提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。特許文献1では、母粉体を非イオン性有機化合物で被覆した複合粉体を用いることで、SL材表面からの水分の蒸散を抑制し、皮張り防止と、硬化物の面精度を向上させることができるとしている。また、特許文献2には、石灰系及び/又はエトリンガイト系の膨張材や、水溶性セルロースエーテルや、特定の皮張り抑制剤を配合することで、施工物表面の皮張りも見られず、白華や剥離、膨れ等のない滑らかな表面を有する均質な施工物が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−289659号公報
【特許文献2】特開2008−56541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した先行技術は、いずれも、表面の皮張りの発生を防止するために特殊な材料を使用しており簡便で安価なものではなく、より簡便に且つ経済的に「皮張り」の発生を抑制でき、特に、この「皮張り」に起因して表面に生じる、皺やクラックの発生を防止できれば非常に有用である。
したがって、本発明の目的は、モルタル組成物を床面や壁パネル等の形成に用いた場合に、従来のモルタル組成物を使用した場合に生じていた「皮張り」の発生が抑制され、特に、この「皮張り」に起因して表面に生じていた、皺やクラックの発生を有効に防止することができるモルタル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、添加材として、セメント、増粘剤、減水剤及び消泡剤からなる群から選択される少なくとも1種を含む床面形成用或いは壁パネル形成用のモルタル組成物であって、水硬性粉体材料と、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、マイカ(雲母)、シリカ、シラス、パイロフィライト、パーライト、ガラスバルーン、シラスバルーン及びフライアッシュバルーンからなる群から選ばれる少なくとも1種の無機微粉末を含んでなり、該無機微粉末の含有量が、質量基準で、10〜60%であり、かつ、該無機微粉末の粒径が80μm以下であることを特徴とするモルタル組成物を提供する。
【0008】
上記したモルタル組成物の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。前記無機微粉末が、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、ガラスバルーン及びフライアッシュバルーンからなる群から選ばれる少なくとも1種であること;前記無機微粉末の粒径が40μm以下であること;前記無機微粉末の粒径が30μm以下であること;前記無機微粉末の含有量が、10〜30%の範囲であること;水硬性粉体材料が、石膏及び/又はセメントであることである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水硬性粉体材料を含んでなるモルタル組成物を床面や壁パネル等の形成に用いた場合に、従来のモルタル組成物を使用した場合に生じていた「皮張り」の発生が抑制され、特に、この「皮張り」に起因して表面に生じていた、皺やクラックの発生が有効に防止されたモルタル組成物が提供される。さらに、上記効果は、極めて簡便な方法で、しかも使用する材料に安価なものが利用できるので、本発明によれば、上記した優れた効果が得られるモルタル組成物が安価に提供できるという、実用上の大きな効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に本発明をさらに詳細に説明する。
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討を行った結果、水硬性粉体材料に、添加材として、セメント、増粘剤、減水剤及び消泡剤からなる群から選択される少なくとも1種を含む床面形成用或いは壁パネル形成用のモルタル組成物において、特定の群から選ばれる特定の粒径の無機微粉末を、モルタル組成物中に特定量含有させるといった極めて簡便な手段で、下記に述べる本発明の顕著な効果が得られることを見出して本発明に至った。当該モルタル組成物は、「皮張り」の原因物質とされている上記の添加材を含有してなるものでありながら、水と混練してスラリーとして、例えば、床面形成の際にセルフレベリング材として用いた場合や、壁パネルの形成の際の塗壁材として用いた場合に、表面に生じる皮張りに起因する皺やクラックの発生を有効に防止できる。
【0011】
本発明のモルタル組成物を構成する無機微粉末には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、マイカ(雲母)、シリカ、シラス、パイロフィライト、パーライト、ガラスバルーン、シラスバルーンおよびフライアッシュバルーンからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いればよい。本発明においては、これらの中でも、特に安価に入手できる、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、ガラスバルーン、フライアッシュバルーンがより好ましい。下記に述べるように、本願発明の技術的特徴は、含有させる上記した無機微粉末の種類によるというよりも、モルタル組成物中における無機微粉末の含有量とその粒径、特に使用する無機微粉末の粒径にある。すなわち、本発明のモルタル組成物は、該組成物中における無機微粉末の含有量が、質量基準で、10〜60%であり、かつ、該無機微粉末の粒径が80μm以下であることを特徴とする。ここで、本発明で規定する無機微粉末の粒径は、篩分けした分級品よりも小さい粒径のものを指し、80μm以下の微粉末としては、例えば、篩で200メッシュ以下とされた粒子が該当する。
【0012】
本発明者らの検討によれば、本発明のモルタル組成物中に含有させる無機微粉末は、その粒径が80μm以下であればよいが、40μm以下、さらに好ましくは、30μm以下と、より細かな微粉末を用いた場合の方が、本発明の効果がより安定して得られる。このことは、本発明で使用する無機微粉末には、例えば、所望する粒径の材料を使用した際に篩分け等によって分級した場合に生じて不要とされている微細な残渣を利用できることを意味しており、この点からも極めて経済的である。
【0013】
本発明のモルタル組成物中における無機微粉末の含有量は、質量基準で10〜60%である。本発明者らの検討によれば、無機微粉末の含有量が10質量%未満であると、少なすぎて十分な皮張り抑制効果が得られない。一方、無機微粉末の割合が60質量%を超えると、相対的に、組成物中の無機微粉末の量が多くなるので、水に混練してモルタルとして使用できる程度の流動性を有した床面形成用或いは壁パネル形成用とした場合に、硬化させた硬化体の強度が不十分となり、本来的な機能が失われる。また、硬化した硬化体の強度を確保すべく混練する水の量を調整するとモルタルとして使用できる程度の流動性を得ることができないので、60質量%以下で使用することを要す。その用途にもよるが、例えば、SL材として用いる場合であって、硬化体に高い強度が要求される際には、炭酸カルシウムの量を10〜30質量%、さらには10〜25質量%とすることが好ましい。
【0014】
本発明のモルタル組成物を特徴づける無機微粉末の種類は、前記した本発明で規定するものの中から選択すればよく、その粒径が本発明で規定したものであれば特に限定されない。これらのものは、いずれも、比重が極端に大きくなく、共存する他の成分、例えば、水や、セメント由来のアルカリ成分などと反応しにくい不活性な物質であるので、本発明に好適に利用できる。モルタル組成物は水と混練して使用するものであることから、使用する無機微粉末は、吸水性の大きくないものであることが好ましいが、本発明で規定するものは、この点でも好適である。なお、本発明において重要なことは、使用する無機微粉末の粒径が本発明で規定する微細なものであることであるので、例えば、吸水性の大きな無機微粉末であっても、その表面を撥水処理すれば使用し得、本発明の効果が得られる。しかし、この場合には、処理コストがかかるという課題が生じる。
【0015】
本発明のモルタル組成物中に、粒径が80μm以下の無機微粉末を特定量含有することで本発明の顕著な効果が得られた理由について、発明者らは以下のように考えている。前記したように、水硬性粉体材料を含むモルタル組成物を水に混練したモルタルを硬化させることで形成した床面や壁パネルの表面に薄皮状の「皮張り」が発生する原因は、モルタル組成物中に存在している、セメント由来の溶出成分や、増粘剤、減水剤、消泡剤等の有機成分であることが知られている。より具体的には、これらの成分が、形成したモルタル硬化体の表面に浮遊したことによって「皮張り」が発生すると考えられる。これに対し、本発明のモルタル組成物は、粒径が80μm以下の細かくて軽い無機微粉末が特定量含有されたものであるため、水に混練して施工した際に、これらの細かな無機微粉末が選択的に施工した表面付近に浮遊することになる。以下に述べるように、本発明者らは、このことが本発明の顕著な効果が得られた理由であると考えている。
【0016】
水と混練して使用した場合、本発明のモルタル組成物中の無機微粉末が施工した表面付近に浮遊する現象は、施工後、速やかに起こる。この表面付近に浮遊した無機微粉末が、皮張りの原因物質が施工した表面に浮遊するのを物理的に防ぎ、その結果、「皮張り」の発生が抑制され、この「皮張り」に起因して表面に生じる、皺やクラックを有効に防止できたものと考えている。従来のモルタル組成物においては、施工後に材料が分離しないようにすることが技術常識となっており、皮張りの原因物質も、当然に分離しないように設計されているが、乾燥させる時間の経過とともに軽量な成分が浮遊してしまい、このことが「皮張り」の発生原因になったと考えられる。本発明は、上記した従来の技術常識に反し、本発明のモルタル組成物中に速やかに浮遊しやすい無機微粉末を添加しておくことで、皮張りの原因物質が施工した表面に浮遊してくるよりも前に、添加されている無機微粉末を表面に浮遊させ、結果として、その発生が避けがたい従来技術の課題を簡便に解決したものである。
【0017】
したがって、上記した効果を発現させる前提として、本発明のモルタル組成物は、水硬性粉体材料に、添加材として、上記した「皮張り」が発生する原因物質となり得る、セメント、増粘剤、減水剤及び消泡剤からなる群から選択される少なくとも1種を含むものであることを要す。中でもセメントは、本発明のモルタル組成物の成分の1種である水硬性粉体材料に該当するものであるので、添加材としてではなく水硬性粉体材料として含有されている場合もある。ここで、「皮張り」が発生する原因物質となり得るのは、セメント由来の溶出成分である。したがって、セメントを水硬性粉体材料としているモルタル組成物の場合も、セメント以外の水硬性粉体材料を使用し、添加材としてセメントを含有させたモルタル組成物の場合も、セメント由来の溶出成分によって「皮張り」が発生する。本発明で規定する水硬性粉体材料がセメントである場合、すなわち、水硬性粉体材料と添加材を兼ねるセメントに、本発明で規定する粒径の特定の無機微粉末を、本発明で規定する範囲内で含む形態のモルタル組成物の場合も、本発明の構成を満足し、上記した本発明の顕著な効果が得られるので、当然のことながら本発明の範囲に含まれる。
【0018】
上記セメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント及びジェットセメント等の各種のセメントが挙げられる。上記セメントを本発明で規定する添加材として使用する場合の一例としては、石膏系のSL材などが挙げられる。具体的には、本発明のモルタル組成物を、SL材として使用できる石膏系のモルタル組成物とする場合に、形成される床仕上げ下地材等の耐水性向上や表面強度向上のための添加材としてセメントが用いられる。その場合のセメントの使用量は、本発明のモルタル組成物中に、質量基準で、1〜5%の範囲内である。
【0019】
本発明で使用する増粘剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシエチルエチルセルロース等の各種セルロースエーテルが使用できる。その場合の使用量は、本発明のモルタル組成物中に、質量基準で、0.1〜1%の範囲内である。
【0020】
また、セルロースエーテルには、高粘性のものと、低粘性のものがあるが、例えば、高粘性セルロースエーテルと低粘性セルロースエーテルとをともに使用し、その量を適宜なものにすることで、本発明の効果が失われない程度の材料分離抵抗性が得られる。その結果、ブリーディング(水浮き)の発生が抑制され、SL材として使用した場合に、硬化後の水平面の強度が均一になるといった効果が得られる。
【0021】
減水剤(流動化剤又は分散剤ともいう)としては、一般に市販されているものであれば、その使用は特に制限されない。通常、ポリカルボン酸系、メラミン系、ナフタレン系の減水剤などが使用できる。減水剤の使用量は、本発明のモルタル組成物中に、質量基準で、0.01〜0.5%の範囲内である。SL材として使用する場合、なるべく少ない水量で優れた流動性を得る必要があるため減水剤が使用される。しかし、その使用量があまり少ないとその効果が得られず、逆に多すぎるとブリーディングや固液分離を引き起こし、形成される水平面の強度低下に繋がったり、白華が生じる原因となる場合がある。
【0022】
消泡剤としては、ポリエーテル系、シリコーン系、アルコール系、鉱油系、植物油系、及び非イオン性の各種界面活性剤などが使用できる。その使用量は、本発明のモルタル組成物中に、質量基準で、0.01〜0.5%の範囲内である。
【0023】
本発明のモルタル組成物は、水硬性粉体材料として半水石膏を用いることができる。半水石膏としては、α型半水石膏及びβ型半水石膏、またはこれらの混合物が挙げられる。用途にもよるが、モルタル硬化体に強度が要求される際には、α型半水石膏を用いることが好ましい。
【0024】
更に、モルタルの硬化時の寸法安定性を保持する目的で、添加材として上記に挙げた皮張りの原因物質とともに粉末状の石膏を用いることもできる。石膏は、皮張りの原因物質とはならない。本発明のモルタル組成物に添加材として石膏を使用する場合には、例えば、II型無水石膏、α型半水石膏、β型半水石膏及び二水石膏等が使用できる。添加材として半水石膏を用いた場合は、自らが水硬性を示すので、水硬性粉体材料を兼ねることができる。
【0025】
上記のとおり、本発明では、水硬性粉体材料として、セメントや半水石膏を用いることができるが、セメントと半水石膏の両者を併用することも当然に可能である。この際のセメントと半水石膏との比率は任意に設定可能であるが、セメントの比率が少ないほど、モルタル組成物内の皮張りの原因物質が減少することとなるので、より好ましい。
【0026】
また、本発明のモルタル組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、必要に応じて、膨張材、骨材、凝結遅延剤、凝結促進剤、繊維、白華防止剤、防水材、スラグ微粉、潤滑剤及び顔料等などを適宜に含有させることができる。
【0027】
この場合に使用される膨張材としては、上記した石膏よりも水和反応活性が高い水和膨張性物質を使用することができる。例えば、遊離生石灰を内包生成させたクリンカの粉砕物、石灰石の焼成粉砕物等の石灰系の膨張材や、カルシウムサルホアルミネートを有効成分とするエトリンガイト系の膨張材が使用できる。
【0028】
骨材としては、例えば、川砂、海砂、陸砂、砕砂、珪砂、炭酸カルシウム等が使用できる。なお、骨材として機能できる炭酸カルシウムは、本発明で規定するような微粉末ではない。モルタル組成物に骨材として粒状の炭酸カルシウムが用いられることはあっても、本発明で規定するように、粒径が80μm以下の炭酸カルシウムの微粉末を、モルタル組成物中に、10〜60質量%もの多い量で含有させることはない。
【0029】
凝結遅延剤としては、クエン酸ソーダなどのクエン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、ホウ砂などのホウ酸塩、ショ糖、ヘキサメタリン酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、澱粉及び蛋白質分解物などが使用できる。凝結遅延剤の含有量は、必要な凝結遅延機能が果たせる程度に設定すればよい。具体的には、モルタル組成物中に、質量基準で、0.005〜1%の範囲で含有させることが好ましい。
【0030】
凝結促進剤としては、塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム、沃化カルシウムなどの可溶性カルシウム塩、塩化鉄、塩化マグネシウムなどの塩化物の他、硫酸カリウムなどの硫酸塩、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸塩、チオ硫酸塩、ギ酸及びギ酸カルシウムなどのギ酸塩などが挙げられ、これらを本発明の効果を損ねない範囲の適宜な量で使用できる。
【0031】
本発明のモルタル組成物の使用方法は、従来のSL材や、塗壁材と何ら異なることはない。例えば、本発明のモルタル組成物をSL材として使用する場合は、適宜な量の水を添加して混練した後、床下地面に流し込み、展延、放置、硬化、乾燥することにより、床仕上げ下地材を形成する。
【実施例】
【0032】
以下、本発明をさらに具体的に説明するため実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<使用材料>
下記に挙げる材料を適宜に用い、後述するように配合して、実施例及び比較例のモルタル組成物を製造した。
【0033】
[無機微粉末]
炭酸カルシウム:粒径がそれぞれ、5μm以下、10μm以下、30μm以下、40μm以下、80μm以下、100μm以下のもの
[水硬性粉体]
セメント:普通ポルトランドセメント
石膏 :α型半水石膏
【0034】
[添加材]
(セメント)
普通ポルトランドセメント
(減水剤)
ポリカルボン酸系:SD−100(商品名:竹本油脂社製)
(増粘剤)
メチルセルロース
(消泡剤)
ポリエーテル系:NSデフォーマー14HP(商品名:サンノプコ社製)
(凝結遅延剤)
クエン酸ソーダ(試薬)
(凝結促進剤)
硫酸塩類(試薬):硫酸カリウム
【0035】
[実施例1、比較例1、2]
表1に示した各粒径の炭酸カルシウムをそれぞれ用いた以外は同様にして、実施例1及び比較例1のモルタル組成物をそれぞれ作製した。具体的には、石膏39質量部、セメント30質量部に、炭酸カルシウム30質量部を加え、さらに、これに、減水剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、増粘剤及び消泡剤を合計で1質量部を混合し、粉末状のモルタル組成物を得た。また、比較例2では、炭酸カルシウムを使用せずに、代わりに石膏の量を69質量部とした。次に、練り鉢に、得られた各組成物と、日本建築学会品質基準の「JASS 15 M103」(セルフレベリング材の品質規準)に準じて、フロー値が210mmとなる添加量の水を加えて撹拌した。その後、JIS R 5201の8.1に規定する試験用機械器具を使用して、3分間練り混ぜて、モルタルにした。得られたモルタルを下記の試験方法により評価し、それぞれ結果を表1に示した。
【0036】
<評価方法>
上記で得たモルタルを用い、以下のようにして硬化体を得、後述する方法でそれぞれ評価した。縦30cm×横50cm(表面:1,500cm
2)のプラスチック製容器に、作製したモルタルをそれぞれ、厚さ10mmとなるように流し込み、30分経過した後、その上からさらに約250mlのモルタルを容器中心部に流し込みそのまま静置し、硬化させた。上記のようにして得られた各硬化体について、その表面に生じた皺及びクラックを、触感及び視覚で4週間経過後まで確認した。皺とクラックの評価は、全表面の1,500cm
2あたりに、幅0.5mm以上で、且つ、長さ5mm以上の皺の数或いはクラックの数を数えて、下記の基準で評価し、結果を表1に示した。
【0037】
(皺の発生の評価基準)
◎:皺の数が0個
○:皺の数が1個
△:皺の数が2〜5個
×:皺の数が6個以上
【0038】
(クラックの発生の評価基準)
◎:クラックの数が0個
○:クラックの数が1個
△:クラックの数が2〜5個
×:クラックの数が6個以上
【0039】
【0040】
表1に示されているように、配合した炭酸カルシウムの粒径を80μm以下とした実施例1のモルタル組成物とすることで、作製した硬化体の表面に、皺やクラックが発生することを抑制できることを確認した。一方、炭酸カルシウムの粒径が80μmよりも大きい100μmのものを用いた比較例1の組成物の場合は、添加しない場合よりも改善されたものの、作製した硬化体表面に皺及びクラックが発生してしまった。
【0041】
[実施例2、比較例3、4]
粒径が30μm以下の炭酸カルシウムを用い、該炭酸カルシウム及びその他の成分を表2に示す配合とした以外は、実施例1と同様にして、SL材として好適なモルタル組成物を得た。そして、得られたモルタル組成物について実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示した。圧縮強度は、「JASS 15 M103」(セルフレベリング材の品質規準)に準じて測定した。なお、一般的なSL材の硬化体の圧縮強度は25N/mm
2程度であり、特に強度が要求される場合においても、圧縮強度が35N/mm
2以上あれば、その要求は十分に満たされる。
【0042】
【0043】
表2に示したように、モルタル組成物100質量部中に炭酸カルシウムを10〜60質量部(すなわち、10〜60質量%)の範囲で含む実施例2の場合は、皺及びクラックの発生を抑制することができ、強度的にもSL材として使用可能な範囲内であった。また、炭酸カルシウムの量が、10〜30質量%、特には10〜25質量%の場合は、皺及びクラックの発生の抑制に加えて、硬化体として一般的なSL材と同等以上の高い強度を示すことが確認できた。したがって、高い強度が要求される床面では、炭酸カルシウムの量を、10〜30質量%、特には10〜25質量%とすることが好ましいことがわかった。これに対し、炭酸カルシウムの量が80質量%の比較例4のものでは、硬化体の強度が十分でなく、表面状態には問題はないものの、モルタル硬化体としての性能を有していなかった。
【0044】
[実施例3]
無機微粉末として、炭酸カルシウムに代えて表3に示したものにそれぞれ用い、実施例1と同様にモルタル組成物を作製した。そして、得られたモルタル組成物をそれぞれ使用して同様に硬化体を作成し、実施例1で行ったと同様にしてそれぞれ評価した。その結果を表3に示した。なお、各無機微粉末には、いずれも粒径30μm以下のものを用いた。
【0045】
【0046】
表3に示したように、いずれの無機微粉末を用いた場合も、多少の程度の差はあったものの、皺及びクラックを抑制することが確認された。この結果、本発明において重要なことは、無機微粉末の種類によらず、特定の粒径の微細な無機微粉末を使用することであることがわかった。
【0047】
[実施例4]
粒径が30μm以下の炭酸カルシウムを用い、炭酸カルシウム及びその他の成分を表4に示す配合とした以外は、実施例1と同様にして、石膏系のモルタル組成物を得た。そして、実施例1と同様に、水を加えてスラリー状にして硬化体を作成し、硬化体表面の皺及びクラックの発生について実施例1と同様に評価した。
【0048】
【0049】
実施例4では、セメントを用いていないので、皮張りの原因物質は、セメント以外の増粘剤、減水剤又は消泡剤であり、したがって、これらの原因物質に対する本発明の効果の確認が可能になる。表4に示した通り、いずれの場合においても、硬化体表面の皺及びクラックの発生を抑制することができた。この結果、本発明モルタル組成物が、セメント由来の溶出成分のみならず、他の皮張りの原因物質についても十分な効果を示すものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の活用例としては、床面形成用或いは壁パネル形成用に用いられる、セメントや石膏等の水硬性粉体材料を含むモルタル組成物において、安価な炭酸カルシウム等の特定の粒径以下の無機微粉末を特定量配合するという極めて簡便な手段で、特にセメントを用いている場合に避けることが困難であった「皮張り」、これに起因して生じる皺やクラックの発生を抑制でき、その強度等への影響もないので、セメント系、石膏系のモルタル組成物への広範な適用が期待される。特に、これまで不要とされていた無機材料の分級残渣として得られる微粉末を利用することができるので、資源の有効活用の点からも本発明の利用が期待される。