(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374150
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】低揚程小型ドレンポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 1/14 20060101AFI20180806BHJP
【FI】
F04D1/14
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-187492(P2013-187492)
(22)【出願日】2013年9月10日
(65)【公開番号】特開2015-55164(P2015-55164A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2015年3月24日
【審判番号】不服2017-2594(P2017-2594/J1)
【審判請求日】2017年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱田 正吾
(72)【発明者】
【氏名】中野 誠一
【合議体】
【審判長】
久保 竜一
【審判官】
堀川 一郎
【審判官】
矢島 伸一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/035724(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入口および吐出口を有するポンプハウジングと、
前記ポンプハウジングにおけるロータ収容室内に回動可能に配され、回転駆動手段により回動されるとき、前記吸入口を通じて導入された流体に遠心力を付与する複数の突起片が所定の間隔で形成され、貫通孔を有する支持板を有するポンプロータと、を備え、
前記複数の突起片が、前記貫通孔の回りに第1の配列と、前記吸入口に向き合う前記ロータ収容室の中央から離れる周縁の方向に、前記第1の配列に隣接し前記第1の配列の複数の突起片にそれぞれ向き合い均等間隔で配された突起片からなる少なくとも第2の配列とを形成し、
前記突起片の数量が前記貫通孔に向うにつれて減少し、該複数の突起片の最先端が、共通の平面上にあり、
前記ポンプロータの支持板の外周面と前記ポンプハウジングの内周面との間の隙間が1mm以上2mm以下に設定されることにより、前記ポンプロータが回動されるとき、高圧領域が液相に形成され、気液境界面が該ポンプロータの前記貫通孔に向けて移行せしめられることを特徴とする低揚程小型ドレンポンプ。
【請求項2】
吸入口および吐出口を有するポンプハウジングと、
前記ポンプハウジングにおけるロータ収容室内に回動可能に配され、回転駆動手段により回動されるとき、前記吸入口を通じて導入された流体に遠心力を付与する複数の突起片が所定の間隔で形成され、貫通孔を有する支持板を有するポンプロータと、を備え、
前記複数の突起片が、前記貫通孔の回りに第1の配列と、前記吸入口に向き合う前記ロータ収容室の中央から離れる周縁の方向に、前記第1の配列に隣接し前記第1の配列の複数の突起片にそれぞれ向き合い均等間隔で配された突起片からなる少なくとも第2の配列とを形成し、
前記突起片の数量が前記貫通孔に向うにつれて減少し、
前記ポンプロータの支持板の外周面と前記ポンプハウジングの内周面との間の隙間が1mm以上2mm以下に設定されることにより、前記ポンプロータが回動されるとき、高圧領域が液相に形成され、気液境界面が該ポンプロータの貫通孔に向けて移行せしめられ、
前記突起片は、矩形断面を有し、前記隣接する複数の突起片の前記所定の間隔が、零を越え1.5mm以下に設定されることを特徴とする低揚程小型ドレンポンプ。
【請求項3】
前記複数の突起片の最先端と該突起片の最先端に向き合う前記ロータ収容室を形成する壁面との間の隙間は、前記ポンプロータの支持板の外周面と前記ポンプハウジングの内周面との間の隙間に比して小であることを特徴とする請求項1記載の低揚程小型ドレンポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプロータを有する
低揚程小型ドレンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
空調機器においては、ドレンパンに溜まった水等を外部に排出するドレンポンプが設けられている。ドレンポンプは、例えば、特許文献1にも示されるように、吸入口を形成する吸入管を中央部下端に有するロアハウジング(特許文献1においてはケーシングと呼称される)と、ロアハウジングのロータ収容室内に回動可能に配されるロータと、ロアハウジングの内周部とともにロータ収容室(ポンプ室)を形成するアッパハウジング(特許文献1においては、カバーと呼称される)と、アッパハウジングに支持されロータを駆動する駆動用モータとを主な要素として含んで構成されている。
【0003】
ロアハウジングの内周部は、吸入口を中心として漏斗状に広がるように形成されている。その吸入口の一端が、ドレンパン内に配されている。これにより、後述されるロータが作動状態とされる場合、ドレンパン内の水等がロータ収容室に導入される。また、ロアハウジングの側壁には、吸入口の中心軸線に直交する方向に沿って吐出口部が延びている。ロータ収容室内の流体を吐出する吐出口部は、ロアハウジングのロータ収容室に連通する小径部および大径部から構成されている。
【0004】
アッパハウジングの下端に形成される円筒状部は、Oリングを介してロアハウジングにおける上端部の開口端に接続されている。アッパハウジングの底板の外周縁部には、例えば、特許文献1に示されるように、筒状の仕切り壁が、吐出口部における気泡による騒音を低減するためにロアハウジングの底壁に向けて突出するように設けられる場合がある。これにより、ロアハウジングの側壁と仕切り壁との間に隙間が形成されている。また、その環状の隙間を通じて流体が吐出口部に導かれる。その際、ポンプ室の上部周縁に存在する気泡が、上述の仕切り壁により吐出口部に導かれることが抑制されるので吐出口部における気泡による騒音が低減される。
【0005】
アッパハウジングにおける円筒状部の平坦部の中央部には、駆動用モータの出力軸を回動可能に支持する軸受部が平坦部の貫通孔に対向して形成されている。上述の平坦部の貫通孔は、ロータ収容室に連通している。
【0006】
ロータは、吸入口内に挿入される軸部を下端に有する円錐台状部と、円錐台状部に一体に形成される複数のピンとから構成されている。
【0007】
円錐台状部の中央部の孔には、駆動用モータの出力軸が接続されるハブ部材が配されている。複数のピンは、それぞれ、正四角柱状を有している。各ピンは、特許文献1において
図8に示されるように、円錐台状部における環状面に各連通孔に隣接してハブ部材の中心軸線に沿って設けられている。複数のピンは、ハブ部材の回りに縦横に所定の間隔で配列されている。このように複数のピンが配列されることにより、キャビテーションの発生が抑制されるのでキャビテーションに起因した騒音が低減される。
【0008】
斯かる構成において、ロータが回動される場合、例えば、ドレンポンプが高揚程となり、吐出量が減少するとき、吸入口から吸い込まれる流体に対し吐出口部側からの高い背圧が作用するので吸い込まれた流体に含まれる空気層が上述の孔の真上であって最も内側の複数のピンよりも内側となるロータのハブ部材近傍に滞留せしめられる。
【0009】
一方、ロータが回動される場合、例えば、ドレンポンプが低揚程となり、吐出量が増大するとき、吸入口から吸い込まれる流体に対し吐出口部側からの背圧が、高揚程のときに比べて小となるので吸い込まれた流体に含まれる空気層が孔の真上位置から上方に向けて末広がりとなる。即ち、液体と空気との境界面である気液境界面が最も外側に位置する複数のピンに向けて移行することとなる。これにより、空気領域が、拡大される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4680922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したようにドレンポンプにおいて、ドレンポンプが低揚程となるとき、空気領域が拡大するので空気層と流体の液体層とが混じり合い、気泡が複数のピンのうち比較的外側に位置するピン近傍に発生する場合がある。このような場合、比較的外側に位置する複数のピンと気液境界面との相対速度が速くなり、その複数のピンと気液境界面との接触面積が増大するので所謂、水掻き音は、ドレンポンプが高揚程となるときに比べて大きくなるという問題を伴う。ドレンポンプにおける作動において、吐出量を確保するために揚程が低揚程に設定される場合、この問題が商品価値として弊害となるので水掻き音の音圧レベルを低減することが要望される。
【0012】
また、ドレンポンプは、空調機器の小型化に応じて小型化が要望される。しかしながら、上述の特許文献1において示されるような、吐出口部における気泡による騒音を低減するために筒状の仕切り壁が、アッパハウジングの底板の外周縁部に設けられる場合、ドレンポンプの小型化が容易でない。
【0013】
以上の問題点を考慮し、本発明は、ポンプロータを有する
低揚程小型ドレンポンプであって、低揚程の場合であっても、ポンプロータに起因した水掻き音の音圧レベルを低減することができ、しかも、ドレンポンプの小型化を図ることができる
低揚程小型ドレンポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するために、本発明に係る
低揚程小型ドレンポンプは、吸入口および吐出口を有するポンプハウジングと、ポンプハウジングにおけるロータ収容室内に回動可能に配され、回転駆動手段により回動されるとき、吸入口を通じて導入された流体に遠心力を付与する複数の突起片が所定の間隔で形成され、貫通孔を有する支持板を有するポンプロータと、を備え、複数の突起片が、
貫通孔の回りに第1の配列と、吸入口に向き合うロータ収容室の中央から離れる周縁の方向に、第1の配列に隣接し第1の配列の複数の突起片にそれぞれ向き合い均等間隔で配された突起片からなる少なくとも第2の配列とを形成し、突起片の数量が貫通孔に向うにつれて減少し、複数の突起片の最先端が、共通の平面上にあり、ポンプロータの支持板の外周面とポンプハウジングの内周面との間の隙間が1mm以上2mm以下に設定されることにより、ポンプロータが回動されるとき、高圧領域が液相に形成され、気液境界面が該ポンプロータの貫通孔に向けて移行せしめられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る
低揚程小型ドレンポンプによれば、複数の突起片が、吸入口に向き合うロータ収容部の中央から周縁に向かうにつれて単位面積あたりの数量が増大するように支持板に縦横に配列され、ポンプロータの支持板の外周面とポンプハウジングの内周面との間の隙間が1mm以上2mm以下に設定されるので低揚程の場合であっても、ポンプロータに起因した水掻き音の音圧レベルを低減することができ、しかも、ドレンポンプの小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る
低揚程小型ドレンポンプの一例を示す断面図である。
【
図2】
図1におけるII−II線に沿って示される部分断面図である。
【
図5】本発明に係る
低揚程小型ドレンポンプの一例における騒音の音圧レベルの特性を示す特性図である。
【
図6】本発明に係る
低揚程小型ドレンポンプの一例および比較例における騒音の音圧レベルの特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図2は、本発明に係る
低揚程小型ドレンポンプの一例の構成を示す。
【0018】
図2において、ドレンポンプは、吸入口10aを形成する吸入管を中央部下端に有するロアハウジング10と、ロアハウジング10内に回動可能に配されるポンプロータ12と、ロアハウジング10の内周部とともにロータ収容室を形成するアッパハウジング14と、アッパハウジング14に配されポンプロータ12を駆動する駆動用モータ16とを主な要素として含んで構成されている。
【0019】
ロアハウジング10の吸入口10aの一端は、例えば、ドレンパン(不図示)に配される。
【0020】
ロアハウジング10の内周部は、吸入口10aを中心として漏斗状に広がるように形成されている。また、ロアハウジング10の側壁には、吸入口10aの中心軸線に直交する方向に沿って吐出口部が延びている。吐出口部は、ロアハウジング10のロータ収容室に連通する小径部10bおよび大径部10cから構成されている。
【0021】
アッパハウジング14の下端に形成される円筒状部は、Oリング18を介してロアハウジング10における上端部の開口端に接続されている。アッパハウジング14における円筒状部の平坦部14Wの中央部には、駆動用モータ16の出力軸16Sを回動可能に支持する軸受部(不図示)が貫通孔14aに対向して一体に形成されている。その軸受部は、駆動用モータ16の出力軸16Sの中心軸線と共通の軸線上に配されている。ロータ収容室(以下、ポンプ室ともいう)内に連通している貫通孔14aには、出力軸16Sおよび後述するポンプロータ12のハブ部材22が挿入されている。なお、軸受部は、内側に出力軸16Sの外周部を密封するシール部材を備えている。従って、ポンプハウジングが、ロアハウジング10およびアッパハウジング14により形成されることとなる。
【0022】
駆動用モータ16は、例えば、扁平型のDCブラシレスモータとされ、アッパハウジング14の上部に支持されている。また、駆動用モータ16の出力軸16Sの回転数は、吐出流量に応じて図示が省略される制御基板により制御される。また、アッパハウジング14は、図示が省略されるが、大気連通孔を数箇所に有している。なお、駆動用モータ16は、斯かる例に限られることなく、回転数制御可能なACモータ、例えば、エンコーダ付きの隈取モータであってもよい。
【0023】
ポンプロータ12は、
図1および
図2に示されるように、流体に遠心力を付与する撹拌体を構成する複数の串形の突起片20ai(i=1〜72)と、吸入口10a内に挿入される軸部12Bを下端に有し突起片20aiの下端と一体に形成される円錐台状の支持体12Aとを含んで構成されている。
【0024】
支持体12Aは、例えば、樹脂材料で成形され、吸入口10a内に挿入される軸部12Bを下端に有している。約41mmの直径を有する支持体12Aの中央部の貫通孔12aには、
図1に示されるように、駆動用モータ16の出力軸16Sが接続されるハブ部材22が配されている。ハブ部材22は、軸部12Bの中心軸線と共通の中心軸線上に一体に形成され、上述の貫通孔14aを貫通するように突出している。即ち、ハブ部材22は、支持体12Aの支持面に対し略垂直に形成されている。ハブ部材22は、連結片12R1〜12R4により貫通孔12aの周縁に連結されている。連結片12R1〜12R4は、それぞれ、その円周方向に沿って均等間隔で4箇所に分岐し軸部12Bの端部に一体成形されている。
【0025】
72本の突起片20aiは、例えば、樹脂材料で支持体12Aと一体に成形され、約1.8mm角の矩形断面を有している。突起片20aiは、支持体12Aの貫通孔12aの周囲に所定の間隔で縦横に形成されている。突起片20aiの配列は、貫通孔12aの最も近傍の位置に例えば、
図1に拡大されて示されるように、所定の間隔Db、および、Daで一辺に7本を有する基準となる矩形の第1の配列を含んでいる。また、第2の配列が、第1の配列を囲う相似形のように形成されている。第2の配列は、貫通孔12aから離れる方向に所定の間隔Db、および、Daで基準となる第1の配列における各突起片20aiに向かい合い、一辺に7本の突起片20aiからなる。その際、第2の配列は、基準となる第1の配列における各辺の角の突起片20aiに向かい合う2本の突起片20aiが、支持体12Aの最外周の円周上の位置となるように形成されている。さらに、第3の配列が、第2の配列の各辺と支持体12Aの最外周との間に、それぞれ、第2の配列の各辺に対し貫通孔12aから離れる方向に所定の間隔Db、および、Daで平行に形成されている。第3の配列の各辺は、5本の突起片20aiが所定の間隔Db、および、Daで形成されている。隣接する突起片20ai相互間の所定の間隔Daは、
図3に拡大されて示されるように、例えば、零を超えた値から約1.5mmまでの範囲の値に設定される。間隔Daは、好ましくは、約1.5mmに設定される。なお、間隔Db、および、Daは、互いに同一あっても、異なっていてもよい。また、間隔Db、および、Daは、支持体12Aの内縁から外縁に向かうにつれて徐々に小となるように設定されてもよい。
【0026】
各突起片20aiの軸線に沿った長さは、突起片20aiの最上端位置が共通の平面上に位置するように異なり、支持板12の外周縁に向かうにつれて短くなる。各突起片20aiの軸線に沿った平均長さは、例えば、5〜10mmとされる。突起片20aiの最上端とアッパハウジング14の平坦部14Wにおけるポンプ室に対向する面との間には、
図2に示されるように、所定の隙間GAが形成されている。また、ポンプロータ12の支持体12Aの外周面とロアハウジング10の側壁の内周面との間には、所定の隙間CLが形成されている。隙間CLの寸法は、1mm以上2mm以下に、好ましくは、1mm以上1.5mm以下に設定されている。
【0027】
なお、基準となる第1の配列は、矩形に形成されているが、必ずしも、このようになされる必要がなく、例えば、基準となる第1の配列は、円形に形成され、第2の配列、第3の配列がその基準となる第1の配列に倣う相似形となるように所定の均等間隔で形成されてもよい。
【0028】
隙間CLの寸法が1mm未満に設定される場合、作動中、ポンプロータ12の支持体12Aの外周面がロアハウジング10の側壁の内周面に接触する虞があるので隙間CLの寸法は、1mm以上が適切である。また、隙間CLの寸法が2mmを超える場合、後述するように、低揚程において、水掻き音の音圧レベルが急激に上昇するので隙間CLの寸法は、2mm以下が適切である。従って、隙間CLの寸法は、1mm以上2mm以下の範囲で設定される。なお、上述の隙間GAの値は、隙間CLの値以下に設定されている。
【0029】
これにより、駆動用モータ16が作動状態の場合、回動されるポンプロータ12による遠心力により、矢印の示す方向に沿って吸入口10aから吸い込まれた流体は、ロアハウジング10の内周部およびアッパハウジング14の下端の内周部により形成される空間、即ち、ロータ収容室に貫通孔12aを介して導かれ、小径部10bおよび大径部10cを通じて矢印の示す方向に沿って外部に吐出される。なお、駆動用モータ16によるポンプロータ12の回転方向は、時計回り方向または反時計回り方向のいずれの方向であってもよい。
【0030】
斯かる構成において、駆動用モータ16の出力軸の回転数が制御されることより、ポンプロータ12の回転数が制御される場合、例えば、吐出量が約400cc/min程度の低揚程のとき、
図2に示されるように、吸入口10aおよび貫通孔12aを通じて吸い込まれた流体である環状の液体層の内側に、気液境界面BPを境に大気連通孔および貫通孔14aを介して侵入した空気により空気相APHが形成される。気液境界面BPを介して空気相APHの回りに、液相LPHが形成される。気液境界面BPは、作動中のポンプロータ12による遠心力と吐出口部からの水頭圧および遠心力に起因したロアハウジング10の内周部からの反作用力との釣り合いにより形成される。
【0031】
これにより、ロータ収容室内の液体は、遠心力により、ロアハウジング10の内周部およびアッパハウジング14の下端の内周部に導かれ、小径部10bおよび大径部10cを通じて矢印Fの示す方向に沿って外部に吐出される。従って、ポンプロータ12の支持体12Aの外周面とロアハウジング10の側壁の内周面との間の隙間CLの寸法が、1mm以上2mm以下に設定されることにより、ポンプロータ12が、例えば、矢印Rの示す方向に回転されるとき、
図3および
図4に拡大されて示されるように、斜線で示される高圧領域HPが液相に形成されるのでその液相が増し、気液境界面BPが貫通孔12a側に移行せしめられる。その結果、ポンプロータ12の突起片20aiの数量は、貫通孔12aに向かうにつれて減少し、ポンプロータ12の周速度も遅くなるので気泡の量も低下することによって水掻き音の音圧レベルが小さくなる。
【0032】
図5は、本発明に係る
低揚程小型ドレンポンプの一例である
図1および
図2に示される一例(以下、ドレンポンプAともいう)を用いて上述の隙間(クリアランス)CLにおける音圧レベルの低減効果について検証された結果を示す。
【0033】
ドレンポンプAは、直径約41mmの支持板12Aを有するポンプロータ12を含んで構成される。支持板12Aは、1.8mm角の72本の突起片20aiを有するものとされる。隣接する突起片20aiの相互間距離Daは、1.5mmに設定されている。
【0034】
斯かる実験の方法は、水頭圧150mm程度の低揚程となるように約400cc/min程度の吐出量が設定されたドレンポンプAにおいて、上述の隙間(クリアランス)CLを0.5mmから3mmまで変化させるように直径の異なる各ポンプロータを装着することにより、それぞれの隙間において発生した音を測定した。発生した音は、吐出口部から500mm程度離れた無響箱内の騒音計(小野測器(株)社製:LA5120)により、A特性で測定された。
【0035】
図5は、縦軸に音圧レベル(対数値)(dB)がとられ、横軸にクリアランスCL(mm)がとられ、ドレンポンプAにおける音圧レベルの変化を示す曲線Laを示す。
【0036】
図5において、曲線Laから明らかなように、隙間CLが2mmを超えた場合、音圧レベルが急激に大きくなっていることが確認された。これにより、隙間CLが1mmから2mm未満の場合、低揚程において音圧レベルが低減されることが確認された。
【0037】
図6は、上述のドレンポンプAと、比較例として特許文献1に示される従来のドレンポンプ(ドレンポンプBともいう)とが用いられ、音圧レベルの低減効果について比較検証された結果を示す。上述したように、ドレンポンプAは、直径約41mmの支持板12Aを有するポンプロータ12を含んで構成される。支持板12Aは、1.8mm角の72本の突起片20aiを有するものとされる。隣接する突起片20aiの相互間距離Daは、1.5mmに設定されている。また、上述の隙間(クリアランス)CLは、1.5mmに設定されている。ドレンポンプBは、特許文献1において
図3および
図8に示されるような、約41mmの直径を有するロータ23を含んで構成される。ロータ23は、72本のピン43および複数個の連通孔44を有している。ドレンポンプBは、ドレンポンプAとは異なり、ケーシング20の内周部とそのロータ23の外周部との間に筒状の仕切り壁37を備えている。これにより、ケーシング20の内周部とロータ23の外周部との隙間の寸法が、1.5mmを超える大きな寸法に設定されている。
【0038】
斯かる実験の方法は、ドレンポンプAおよびドレンポンプBにそれぞれ所定の吐出量を吐出させ、ドレンポンプAおよびドレンポンプBの吐出口部に接続されるホースの一端の位置を変化させることによって揚程を変化させながら、吐出口部近傍から発生した音が、騒音計により測定されることにより、行われた。発生した音は、吐出口部から500mm程度離れた無響箱内の騒音計(小野測器(株)社製:LA5120 )により、A特性で測定された。その際、ドレンポンプAおよびドレンポンプBの吐出口部に接続されるホースの一端は、吐出口部の位置から上方へ0.1m高さの位置から徐々に1.125mの高さの位置まで上昇せしめられる。
【0039】
図6は、縦軸に音圧レベル(対数値)(dB)がとられ、横軸に揚程(mm)がとられ、ドレンポンプAにおける音圧レベルの変化を示す曲線Lb、ドレンポンプBにおける音圧レベルの変化を示す曲線Lcを示す。なお、揚程1125mmのとき、音圧レベルが0(零)dBとされている。
【0040】
実験の結果、曲線Lbから明らかなように、全揚程において、ドレンポンプAにおける騒音の音圧レベルが、ドレンポンプBにおける騒音の音圧レベルに比して小となり、ドレンポンプAにおける騒音が改善されることが確認された。特に、
図6の曲線Lbから明らかなように、例えば、曲線Lbにおける揚程が100mm〜500mmの範囲、即ち、低揚程の範囲において、ドレンポンプAにおける騒音の音圧レベルがドレンポンプBの音圧レベルに比して2dB以上減少しているので低揚程のとき、ドレンポンプAにおいて隙間(クリアランス)CLが、1.5mmに設定されることによる騒音改善の効果があることが立証された。
【0041】
従って、ドレンポンプAにおいて、ドレンポンプBのような筒状の仕切り壁37を設けることなく、騒音改善が可能なのでドレンポンプAの小型化が図られることとなる。
【符号の説明】
【0042】
10 ロアハウジング
12 ポンプロータ
12A 支持体
14 アッパハウジング
20ai 突起片
CL 隙間